20011222

――――国連極東方面第11軍横浜基地・PX

 

 

 俺こと白銀武は今、絶体絶命の窮地に立たされていた。

 午後の市街地戦演習の後、PXで取る夕食は軍隊生活の中で何にも代え難い憩いの時間なのだ。しかし、今日ばかりは様子が違っていた……

 

「あの、冥夜……さん?」

「うむ。曹長殿の腕前には敬服する」

 

 頷く冥夜は鯖の味噌煮を箸で器用にほぐしている。その様は日本人の鑑とも言えるほど綺麗だ(ほぐし方が綺麗であって冥夜が綺麗とかそういう……ゲホゲホッ)。

 

「たま」

「は〜い」

 

 たまは鮭の塩焼きを咥えて完全に猫化していた。無い筈のネコミミと尻尾まで見えるのは、きっと錯覚だろう。

 

「委員長、彩峰」

「何よ」

「おちつけ、先任少尉」

 

 二人は山盛りのヤキソバを挟んで、まさに竜虎のごとく対峙。彩峰がヤキソバを二人前頼んだことが、委員長にはよほど腹に据えかねるらしい。

 

「美琴よ……」

「なぁに? タケルも食べる? おいしいよ〜」

 

 美琴の手にはモザイク処理が施された謎の肉が……おそらく基地の敷地外でハントしたものなのだろうが、人肉でないことを祈るばかりだ。

 いや、ここまではいい。ここまでは百歩譲ってもまだオッケーとしよう。例え全員が俺を囲むように陣取って、さも自分が健在であることをアピールしていてもオッケーなのだ。むしろオッケーということにしてくれ。

 

「大尉?」

「どうした白銀、食事が冷めるぞ」

 

 俺の向かいに座る伊隅大尉(隊長権限でポジション確保)は、親子丼を事も無げに食べている。

 

「速瀬中尉!? 宗像中尉!? 涼宮中尉!?」

「何よ、アタシの肉は渡さないからねッ!」

「違いますよ、速瀬中尉。白銀は中尉に食べさせてほしいんですよ」

「え? 少尉は自分でご飯を食べられないの?」

 

 『ガルルルル』と猛獣の如く唸る速瀬中尉を、まったく違う方向性でなだめる宗像中尉。まあ、涼宮少尉の疑問には『アイ・キャン・ドゥ・イット』とだけ答えておこう。

 

「柏木、涼宮(茜)ェェェッ!!!」

「うるさいなぁ……食事の時ぐらい静かにしようよ」

「まあまあ、白銀も甘えたい年頃なんだよ」

 

 ………おい。

 

「誰が甘えたくてこんな状況を作るかァァッ!!!」

「白銀少尉。両手に花なんて幸せね」

 

 風間少尉。それは大きな間違いッス、この地獄絵図に幸福など微塵もあるはずがないッッ!

 

 ちなみにその地獄絵図とは、右隣から霞がご飯を『あ〜ん』とやってきて、

 

「白銀さん、あ〜ん」

 

 それに触発された柏木が左からラーメンを『ア〜ン』(イヤに色っぽい)とやってきて、

 

「白銀少尉、ア〜ン」

 

 さらにそれに触発された冥夜たち207小隊B分隊の五人がBETAさえ射殺せるほどの殺気を俺に向けて放ち、

 

『…………』

 

 さらにさらに、それを肴に食事をする大尉ら先任メンバー。

 

「これは白銀に対する評価を下げなければならないわね」

「まったくですよ、こんなヘタレ男だったなんてガッカリだわ〜」

「誰が白銀をものにするか賭けませんか?」

「宗像中尉? それは少尉に失礼よ。彼にだって純粋に恋愛をする権利はあるのだから」

「でも案外白銀みたいなのって、もう他に恋人とかいるんじゃないんですか〜」

 

 涼宮茜の致命的発言で、場の空気が凍りつく。

 沈黙すること三秒、質問攻めが開始される前に俺は残りの合成牛丼を胃に掻き入れて戦略的撤退を試みた。PXを速やかに脱出するべく、京塚のおばちゃんに食器を返そうと立ち上がった俺を……

 

 ガシッ!!!

 

「あの―――――アルフィ特尉?」

「敵前逃亡は銃殺刑であ〜る」(基地司令風)

 

 はい、死刑宣告☆

 質問という名のBETAが津波となって俺の心を押し流していくんだぜ……

 

「はっ……!?」

 

 そしてその光景を遠目に観察している影の存在に気付いた時、その目が実に懐疑的に自分を見ていると知った時、俺は思わず叫んでしまった。

 

「これは違うんです、月詠中尉! 誤解なんだッッッ!」

 

 場が再び凍りつく。

 わずかコンマ数秒の沈黙を破ったのは冥夜の一喝だった。

 

「タケル! そなた、よもや月詠まで毒牙にかけたのかッッ!?」

 

 そして炸裂する皆琉神威の一撃。

 俺が一体、何をしたって言うんだよ?

 

 

MUVLUV Refulgence

~Another Episode of MUVLUV ALTERNATIVE~

 

X.佐渡を駆ける

 

 

 お父さん、お母さん。武は元気です。

 合流したヴァルキリーズの人たちとは仲良くやっています。シミュレーター訓練や実機演習の結果も上々で、部隊の中での評価もうなぎ上りです。色々辛いこともあったけど、皆の助けもあってなんとか立ち直ることが出来ました。

 もうすぐ佐渡島で行なわれる大規模作戦に参加する予定です。必ず生きて帰ります。

 

「………はっ!?」

 

 こ、ここはどこだ? 物凄く死亡フラグ的なナレーションをしていたような気がするけど……どうやらここは医務室のベッドのようだ。うむ、なんか最近ここに来る確率上がってないか?

 

「目が覚めたか、白銀」

「伊隅大尉―――――」

「貴様は御剣の真剣を受け止めた際にバランスを崩して、床で頭を打ったんだ。あの一撃を受けて生きている貴様を見ると、なるほど特別なのだと実感するよ」

 

 大尉が言うには、冥夜の太刀を受け止めた俺はリノリウムの床へ思い切りめり込んだらしい。その補修作業は連帯責任として隊のメンバーが総出で行なっているそうな。

 

「それから、今更だが……神宮司軍曹のことはすまなかった」

「大尉……」

 

 特別任務終了後、部隊と合流した俺を待っていたのは空元気で出迎えた207小隊のメンバーと、どことなく距離をとるヴァルキリーズの先任たちだった(柏木や伊隅大尉は例外だが)。

 

「真相は他のメンバーには言っていない。無論、機密保持という名目もあるが―――――」

「分かってますよ。これでも当事者ですからね」

 

 言えば皆に要らない心配や負担を強いてしまう。ただでさえ『大陸帰りの天才衛士』の通り名と夕呼先生のコメントで距離を置かれがちだというのに、これ以上コミュニケーションが取り難くなるのは正直困る。

 部隊の連携や信頼関係を培う上で、それはまずいのだ。

 

「さて、私はもう行くが……」

「俺も行きます。部屋に戻らないと」

 

 並んで医務室を出ると、ばったり冥夜と出くわした。まあさっきの事で謝りに来たんだろうけど。

 

「御剣か。見ての通りだ、もう少し深く踏み込むべきだったな」

「ちょっ……大尉、俺が死にますって!」

「ふふっ。二人とも早く休めよ」

 

 冗談っぽく笑って大尉が去って行く。きっと大尉なりに気を使ってくれたんだろう。

 

「怪我は大事無かったようだな」

「うん、まあな。そっちも修理は終わったのか?」

「何とか元通りにはなった」

 

 その言葉に一抹の不安を覚えるが、きっと大丈夫だろう。むしろそう考えないといけない気がした。それでも確かなのは、明日の朝食は恐らくやや傾いたテーブルで食べることになるということだ。

 

「しかしタケルには驚かされるばかりだ。階級のこともある。本来なら敬語を使わねばならんのだろうが……」

「気にすんなって。お前らしくもない」

 

 それでも冥夜の顔は暗いままだ。

 神宮司軍曹の一件で色々と考えることがあったんだろう。真面目一直線で責任感の強い冥夜がこんな思いつめた顔をするぐらいだ。夕呼先生辺りがえげつないぐらい毒を吐いたかもしれないな。

 

「すまぬ。私はそなたに……その、劣等感のようなものを感じているのだ」

「冥夜」

「そなたに、自分よりもずっと大きな仲間に背中を預けられる安心感はある。だがそれと同時に自分が護られているような気がしてならぬ」

「ったく……馬鹿だな。バ〜カ」

 

 そんなことで悩んでたのか。以前も俺だって同じようなことで色々考えたりもしたから、あんまり大きなことは言えないんだけどな。

 

「ば、ば、馬鹿だと!?」

「そうだよ。冥夜は馬鹿だ」

「人を愚弄するにもほどがあるぞ!」

「だいたいな。俺があれだけ無茶できるのは誰のおかげだか分かってんのか?」

「だ、誰なのだ?」

 

 一度言葉を切って、冥夜を見つめる。

 

「お前だよ、お前。冥夜が後ろにいるから俺は戦えるんだ」

 

 その額を人差し指で突っつき、冥夜が思わず背を反らせた。

 

「し、しかし……」

「この間の演習の時だって、BETAに囲まれてた俺に冥夜が突撃砲を投げてくれなきゃ危なかったんだぜ? ヴァルキリーズのポジションでもお前がバックスにいるから俺はフォワードで敵へ斬り込んで行ける」

「私はそなたを、何も――――」

 

 しょうがねえな。冥夜も筋金入りだから中々言うこと聞いちゃくれない。

 

「自分のことが信じられねえか?」

「そなたが言うほど、私は強くはない」

「だったら俺の言うことを信じろ。お前らが言う『天才衛士』白銀武を信じろ。そして俺の信じたお前の強さを信じればいい。これなら安心だろ?」

「……そなたには、敵わぬな」

 

 ようやく笑った冥夜の頭を撫でる。かなり恥ずかしいのか、冥夜は俯いたまま唇をへの字に曲げている。

 

「もう――――大丈夫だ」

「お、そうか? 明日からもよろしく頼むぜ。なんか大尉が言うには訓練をハードにするらしいからな」

「そうか……私はもう行く」

 

 素早く踵を返し、脱兎の如く走り出す冥夜の背中を見送ると、

 

「タ〜ケ〜ル〜ちゃ〜ん?」

「す、純夏か。霞も一緒なんだな」

「はい」

 

 背後からにじり寄ってきた純夏と霞に両腕を拘束された。なんと言うか、四つの生温かい感触が『むにゅっ』と押し付けられているが気にしないことにする。

 

「見てたよ〜。タケルちゃんも酷いよね、あれじゃ生殺しだよね」

「生殺しってお前なぁ」

 

 前回の世界で、冥夜が俺に特別な感情を抱いていたのは知っている。だけど今回も同じようになるとは限らない……はずだ。

 

「御剣少尉の気持ち、分かりませんか?」

「柏木さんも忘れないでよね」

「俺は―――――って、何で柏木のことをッ!?」

「さっきPXで皆と話してたよ」

 

 全身から不思議な汗が噴き出してきた。背筋に製氷機から直接氷をぶち込まれたような気分だ。

 

「ってことは、冥夜も……」

「知ってるんじゃないの〜? だいたいタケルちゃん、私っていう恋人が居ながら堂々と浮気なんて信じらんないよね。まあ、いつだってタケルちゃんの一番が私だって知ってるからいいけどさ―――――って聞いてるの、タケルちゃん!?」

 

 マズい! これは非常にマズい!

 場の流れと一時の感情に流されたとはいえ、柏木を抱いたのは事実だ。んでもってアメリカほどそういうことにフラットじゃない連中だからな、ヴァルキリーズ。もしここで純夏を連れて「こいつ、俺の恋人だから」なんて言った日にゃ「酷いっ! 私とのことは遊びだったのね!?」的な流れで俺の命はネエッ!

 

「ハッ!?」

 

 待てよ?

 確か、甲21号作戦の後に純夏が合流したんだよな。もしその通りになるとしたら……結局俺は破滅するのかッッッッッ!?

 

「白銀さん。顔が紫色です」

「ホント、馬鹿なんだからさぁ……ちなみに霞ちゃんは愛人一号でいいのかな?」

「え、あ………たぶん、六号です」

「あぁ―――――そっか。冥夜の他に四人もいるもんね。じゃあ柏木さんは七号だね!」

 

 納得して頷く(されても困るが)純夏の頭を思い切りブッ叩いて、

 

「勝手に愛人認定するなッ! んでもって増やすんじゃねぇッ!」

 

 虚しく叫ぶが、もちろんどうにかなるわけじゃねえ……チクショウ。

 だが純夏も黙っちゃ居ない。すぐさま立ち直り、鼻の頭を突きつける勢いで迫ってきた。

 

「じゃあ、タケルちゃんが一番好きなのは誰なのさ?」

「はぁ? 分かってて聞いてんじゃねえよ」

「ちゃんと言ってくれないと不安だよねぇ、霞ちゃん?」

「そこで霞に同意を求めるな! ったく……前にも言っただろうが、俺の恋人はお前だ。何があろうが最期まで一緒に居てやるから覚えとけ!」

 

 アホ毛を引っこ抜かんばかりの勢いで髪をかき回してやる。恥ずかしいからじゃねえぞ? これぐらいボサボサの方が純夏らしいからだ。

 もちろん、その後純夏は不気味なぐらい笑いっぱなしだったがな。

 

 

 

 

その頃、PXでは―――――

 

「そうそう。で、そのまま白銀と朝まで寝ちゃったんだけど……あ、御剣お帰り」

 

 かなり生々しい会話をフラットな雰囲気で喋る晴子の隣に冥夜が腰を下ろす。そこはかとなく明るい様子だが、もちろんその理由は先述の通り。

 ちなみに今居るのは晴子と冥夜、鎧衣、そして水月の四人だ。他のメンバーは話のヤマ場が終わった辺りで頬を赤らめながら退散したそうな。ちなみに水月の名前が出た時点で不安を覚えた読者の皆さん。ネタはバッチリし込んであります(笑)

 

「どうだった? ちゃんと謝れたんでしょうね」

「ええ。むしろ元気すぎるぐらいでした」

 

 水月の問いにそれだけ答えると、『ほう』と息を漏らす冥夜。

 

「その様子だと、色々サービスしてもらっちゃったのかしら〜ん?」

「い、いえ! 弱気な自分に説教と、その……頭を」

『頭を!?』

 

 一斉に食いつく三人。

 

「撫でてもらったというか……そんなところです」

『はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ』

 

 がっくりと項垂れる三人。よほど何かを期待していたのだろうが、白銀武がいとも容易くバラ色なイベントを起こしてくれるはずも無い。それでも一番切り替えの早い水月が立ち上がり、

 

「ともかく、明日の実機演習で白銀はフルマークよ!」

『イエス・マムッッッ!』

 

 よく分からない結論だが、それはさておき、話題は春子へ戻る。半ば水月が強引に聞き出していたのだが、晴子にも胸の内を話したいと言う衝動があったのだろう。白銀の特殊な事情などは省いてもかなり事細かな内容を喋るに至っていた(それが後に、マズイ方向へ転がることになる)。

 

「それで晴子さん。タケルの寝言がどうしたの?」

「待ちなさい鎧衣。私にはだいたい見当がついたわ」

「ホントですか、速瀬中尉! ボクには全然分からないですよ」

 

 鎧衣が真面目に首を捻って考える隣で、水月がグッと握り拳を作って叫んだ。

 

「ズバリ、女の名前ね!?」

「……正解です、中尉」

 

 悲しげな表情で肯定する春子の肩を冥夜が優しく叩く。さも、『それが惚れた弱みだ』と言わんばかりに。

 

「で、白銀は誰の名前を!?」

「スミカ、です」

「……スミカ? 聞いたことないわね。うちの部隊にそんな名前の奴は入ったことないし。まあ、白銀が前に居た部隊の子でしょ」

 

 そして水月が三人にトドメを刺す。

 

「そしてこれは推測だけど、その子はもう他界していると見たッッッ!」

『!!!』

 

 雷に打たれたように仰け反り、わなわなと肩を震わせる四人。というか水月君、自分の台詞にショックを受けてどうするよ?

 

「ま、これが悲恋って奴なのよ……とにかくっ!!!」

『とにかく?』

 

 再び立ち上がり、拳を突き上げ水月は高らかに宣言した。

 

「明日の実機演習は、白銀対ヴァルキリーズよッッッ!!!」

 

 それはさすがに無理だろう。その場の全員が呆れ顔で首を横に振る中で、しかし水月ただ一人が不気味なオーラを漂わせながら「クックッ」と笑うのだった。

 

 

 

 

「―――――で? しばらく基地を離れるって言うの?」

 

 これから発動される大規模作戦の合同会議に出席した後の香月夕呼は、えらく不機嫌な様子で基地の備蓄庫からちょろまかしてきた合成日本酒を呷った。彼女の向かいに座るのはアルフィ・ハーネットであり、その表情はこれまた申し訳なさそうな様子だった。

 

JFK本部からの緊急招集、だっけ? どんな内容なのよ」

「こちらの機密……という言い訳は通用しなかったわね、香月博士。

 うちの情報員が掴んだ情報だと、米国海軍が余っている戦術機を国中から回収しているらしいわ。さらに他国からも余剰機を買い集めるほど、向こうは機体が欲しがっている」

「それで、アンタらが動くとなると……なるほど、そういうこと」

 

 得心の夕呼はにやり、と口元を歪ませた。無論、喜びからではない。

 

「非公式の情報だけどロス・アラモス研究所は昨年、グレイ(・・・)ナイン(・・・)を使った人工知能の開発に成功したそうよ。例えそれが空母の原子炉並みのサイズであっても、機能はさして00ユニットと変わらないらしい……そして先月、アラスカの国連太平洋方面第3軍・ユーコン基地に所属するロシア人衛士二名が失踪したわ」

「ロシア人?」

「こっちの調べだと、例のアカデミーの出身らしいわよ?」

 

 まさか、と夕呼の表情が強張った。

 その『まさか』なのだ。

 件のアカデミーとは社霞を生み出したオルタネイティヴ3の土台となった旧ソ連のESP研究アカデミーのことだろう。そこで生み出されたESP発現体が―――――どの程度の能力かはともかく―――――衛士となり、それが今失踪した。さらにほぼ同時に完成された巨大人工頭脳……

 

「ついに、やりやがったわね」

 

 自分の罪業を棚に上げ、毒つく夕呼をアルフィは眉一つ動かさず見つめ、言葉を続けた。

 

「二人のロシア人衛士は失踪なのか拉致なのか、こちらでも真偽の沙汰は掴んでいない。現状で言えるのは、奴らの戦術機の無人制御システムの完成に目処が立ったということよ。

 そんなわけで一度本部に戻りますが、よろしくて?」

 

 ここまで言われては認めざるを得まい。もとより戦術機については門外漢の夕呼である。いくら新型OSの開発に携わったといえど、その道のスペシャリストと対等に論じ合えるかどうかは時と話題によりけり。まして操縦になれば出る幕など無いのだ。

 

「この問題については特尉に任せるしかないわね。それで『極』の方は順調?」

「機体の組み上げは問題なく進んでいるがね。年末にはテストは可能とは思うが……今は鼠の駆除で忙しくて中々作業に立ち会えないのが現状、といったところか」

「鼠?」

「機体の設計図面を米国に流した奴が居る、ってこと。ついでに量子電導脳の論文データとかも一緒に……見つけ次第、三枚に下ろしてやる予定ですけど?」

「そ。じゃあせいぜい惨たらしくやってあげなさい」

 

 今度は互いに口元を吊り上げて頷きあう。その喜悦の入り混じった表情は獲物を見定めた女豹の様でもあり、並の男ならばその場で失禁しかねないほどの恐ろしさが滲み出ていた。

 

 

 

 

「演習のミーティングの前に、基地司令より作戦の説明がある」

 

 伊隅大尉の説明にどよめきが起こるが、それも一瞬。ラダビノット基地司令は静まるのを見計らい、口を開いた。

 

「諸君も知っての通り、本日未明、国連軍第11軍司令部および帝国軍参謀本部より、『甲21号作戦』が発令された。佐渡島にあるBETAハイヴ『甲21号目標』制圧を目的とする、大規模合同作戦だ。なお本作戦は、気象条件に関係なく決行される」

 

 ついに佐渡島のハイヴを攻略する。日本人であるならば、甲21号目標の制圧は誰もが抱く悲願だ。

 

A01部隊の任務に先立ち、まず本作戦の概要を説明する」

 

 作戦の第一目的は『甲21号目標』の無力化。第二目的は敵施設の占領および、可能な限りの情報収集だ。『甲21号目標』は朝鮮半島の『甲20号目標』と並んで、BETAの日本侵攻の前進基地になっている。この作戦の成功によって樺太、日本、台湾、フィリピンで構成される極東防衛ラインを強固なものにすることが最大の狙いである。

 

 作戦はまず衛星軌道と洋上からの艦隊爆撃および長距離飽和砲撃によって地上の第一波を撃破し、陸戦隊を揚陸。この時点で敵のレーザーによる迎撃が予想されるが、事前に対レーザー弾による砲撃で重金属雲が発生しているはずなので幾分か被害が軽減されるだろう。

 余談だが、対レーザー弾とは重金属粒子を弾頭に使用した砲弾のことである。これはBETAのレーザーによって迎撃・溶解することで大気中に金属粒子を蒸散させ、敵のレーザー攻撃を減衰させる効果がある。ハイヴ攻略など光線属種との交戦が予想される場合は、本体の進軍に先立って必ず投入され友軍の安全を確保するのがセオリーだ。

 南側の真野湾に突入した帝国連合艦隊第2戦隊の砲撃支援を受け、戦術機を中心としたウィスキー主力部隊は雪の高浜から西進。ハイブから出現するであろう敵増援を引き付ける。

 さらに島の北側から帝国連合艦隊第3戦隊および国連軍連合艦隊が長距離砲撃を開始。続けて戦術機によって編成されるエコー部隊が上陸。北の突端へBETAを陽動する。

 

「この段階で陽動が成功していれば、ハイヴ内のBETAの殆どを地上へ引きずり出せているはずだ。これを確認次第、作戦は次の段階に移行する」

 

 つまり、衛星軌道からリエントリーシェルを使った戦術機甲部隊のハイヴ突入だ。さらにウィスキー部隊も順次ハイヴ内へ進攻し、彼らがハイヴの中枢である反応炉を制圧できれば作戦はおおよそ成功になる。

 

 次いで伊隅大尉からヴァルキリーズが請け負う任務の内容について、さらに夕呼先生から純夏の乗る凄乃皇弐型の説明があり、甲21号作戦のブリーフィングは終了となった。

 

(後は俺が、どこまでやれるかだよな……)

 

 正確にはどこまでやっていいのか、だけど。

 夕呼先生の話だと、俺の『因果律操作能力』はあまり大々的に使うことは非常に不都合が多いらしい。まあ、目の前でBETAのレーザーを捻じ曲げるのを目撃されたらどうやって説明したらいいか分からねえしな。

 不知火・弐式は前回の戦闘で殆ど損傷は無かった。整備班長も仕事が楽で助かる、と言っていたけど、おかげで今度の作戦には何の支障も無く参加できそうだ。

 

「久しぶりだな、白銀少尉」

 

 機体のコックピットから出ると月詠中尉が立っていた。俺が素早く姿勢を正して敬礼すると中尉は苦笑して言った。

 

「硬くならなくていい」

「は、はい」

 

 そういえば前のときも、こうやって話したっけ。

 

「話がある。少し時間をもらえるか?」

「いいですよ」

 

 場所を屋上に移して中尉と向き合う。たぶん冥夜のことだと思うけど……

 

「先日の戦い、見事だった」

「ええと……渓谷のBETA迎撃のことですか」

「うむ。友軍が全滅し、孤立無援の状況で奴らの包囲を打ち破ることは例え斯衛の中の特に優れた衛士であっても容易ではない――――いや、不可能だろう。それを成し遂げた貴様は最早人間の域を超えている」

 

 俺の力のことがバレた……っていうのは在り得ねえ。それでも月詠中尉がこういうことを言ってくるっていうのは、それだけ俺のやったことが桁外れだったってことか。

 

「貴様はクーデターの一件もあるが、今回の戦果で帝国から注目されている。殿下が信頼をお寄せになる天才衛士……国連、帝国問わず日本中の衛士が貴様の存在に希望を見出していると言っても過言ではあるまい」

「中尉、俺は……」

「同行し、全滅した彼らの分も貴様は背負って戦っていく、と私は考えているが相違あるまいな?」

「いえ、仰るとおりです」

 

 志半ばで倒れていった奴らの分も俺が戦う。そしてこの手の届く限り命を護る。それが俺の出した答えだ。

 

「今日は貴様に頼みがあって来た」

「冥夜のことですね? アイツの事情はおおよそ把握していますけど……」

 

 先のクーデター事件で殿下の身代わりとなった冥夜は、殿下との関係性を公の場に晒してしまった。そんなアイツをどこぞの諜報機関が利用しようと企むかも知れない。だから新政府は冥夜をただの一兵士として扱うことで政治的価値を否定した。

あいつはもう将軍家の血縁であってはならない。冥夜は殿下の為、国の為に自分の生まれを否定されたんだ。

 

「ふっ……流石だな」

「アイツの本当の戦いはこれから始まります。そうそう死に急ぐことはしないですよ。俺と違って馬鹿じゃないし」

「ならば良し。だがあくまで余力の範囲での話だ。冥夜様のこと、くれぐれも頼む」

 

 元の世界では冥夜に仕えるメイドさんで、この世界では護衛の衛士。宇宙の壁を越えても月詠さんの心が変わらないなら、俺もそれに応えよう。

 ふと気付くと、中尉は何か言いたげな様子で俺を見ていた。何度か逡巡した後に、

 

「ところで少尉。一つ、聞きたいことがある」

「何でしょうか」

「これに……見覚えは無いか?」

 

 差し出されたのは古びた御守りだった。どこかで見たことのあるような……柊町の神社で売っていた奴に似てなくもない。

 

「うーん……」

「何か、分かるか?」

「ちょっと分からないですね」

 

 「そうか」と呟く中尉はどこか悲しげな瞳を、その御守りに向けていた。

 

「聞いてもいいですか?」

「何をだ」

「そのお守りについてです」

「まあいいだろう………これは私が斯衛の一員となって間もない頃の話だ」

 

 夜空を見上げ、髪を梳く。

 中尉は一呼吸置いて話し始めた。

 

「私が斯衛の衛士としてそれなりの実力を得、専用の機体を賜った頃……ある難民キャンプを将軍家縁の要人が慰労訪問を行う際に護衛として同行したことがある。四年ほど前のことだ」

 

 この世界の月詠さんが、昔の話をしてくれるなんて……何があったのだろうか。それに四年前ってことは、この世界の俺がちょうど中学の三年ぐらいだな。

 

「私は戦術機でキャンプ周辺の警護を行なっていた。交代の時間になり、機を降りた私を待っていたのは、キャンプで生活している二人の少年と少女だった」

「………」

「二人とも年は十五に行くか行かないかぐらいだろう。私を見るなり少年は私が衛士だと気付き、目を輝かせて尋ねてきた。『どうすれば衛士になれるのか』と、な。私は陸軍の訓練校に行けばいいと答えたが、それは彼の欲していた答えではなかった」

 

 きっと、その子供は進路の話をしていたんじゃないだな。もっとこう、志とか信念みたいなものについて聞きたかったんだろう。

 

「気恥ずかしかったのだろう、少女を遠ざけてから彼は真剣な顔で私にこう言った。その言葉は今でも一字一句はっきりと憶えている。『俺はスミカをあいつらから守りたい。』」

「す、純……っ!?」

 

 純夏だって!?

 じゃあ、月詠中尉が話した少年っていうのは……この世界の、俺なのか?

 

「『だから衛士になりたいんだ。でも周りの奴は国のためとか、世界の平和とかばっかりでさ。俺みたいな理由じゃ駄目なのかなって思った。俺も衛士になる資格があるのか、不安なんだよ』」

 

 だから、中尉は俺にこだわっていたのか。本物の『白銀武』を知っていたから、俺が偽者だと思って……

 

「私は彼に言った。『何かを守りたいという強い志があれば、人は戦うことが出来る。私も大切な御方がいる。その御方を護りたいから、衛士になった。その想いが本物なら、必ず衛士の道へ進めるだろう』と。そして私は彼に先ほどのものと同じ御守りを渡したのだ。だが……」

「どうしたんですか?」

「それから小一時間ほどして訪問が終わり、要人を乗せた車両を見送って後は帝都へ帰るばかりとなった時……奴らが現れた」

BETA……ですね」

「それも旅団規模の、だ。キャンプには最低限の戦力しか無く、斯衛はしんがりを務める私一人。陽動の意味を兼ねて私は前に出て戦った。しかし瞬く間に守備隊は壊滅し、キャンプは奴らに蹂躙された」

「!」

「私も弾薬が底を尽き、後退せざるを得なかった。安全圏まで退避した私は何度も二人に――――シロガネタケルとカガミスミカに謝った。偉そうに口上を並べ立てておきながら、お前たちを護れなかった私を赦せと」

 

 だから、俺の存在が許せないのか。

 自分が無力だった為に死なせてしまった少年と、同じ顔と名前を持つ俺が。BETAに襲撃された以上、キャンプの人間は誰一人として生き延びることはできなかったはずだ。

 

「だからお前にカマをかけてみたのだ。お前が私の知るシロガネタケルなのかどうか……おかげで、答えはさらに深い霧の中に迷い込んでしまったが」

 

 純夏という名前に、バカ正直なまでに反応した俺を見たからか。

 

「この事を、冥夜は?」

「いや……伝えてはいない。伝えたくない、というのが本音か」

 

 不意に中尉が踵を返す。気付けばもう、日付が変わろうとしていた。

 

「お前が私の出会ったシロガネタケルかどうか、私には分からない。だがその名を名乗るのならば、あの少年の志を胸に刻め。本物の、志をな」

 

 背を向けたまま告げ、中尉は下へ降りていった。

 月はいつもと変わらない、青白い光を夜空に放つだけだ。

 

 

 

 

――――2001年12月24日 00:21

帝都城・深度300m

地下鉄道第三ターミナル

 

 一般には公開されるどころか、存在すら明かされていない超機密の輸送ルート。それがこの帝都城から各地へ伸びる地下路線なのだ。

 帝都を走る主要鉄道から引き入れられ、十二機の不知火を載せた輸送車両がこの第三ターミナルに入ってくる。それを見届け、男はようやく安堵の息を漏らした。

 事前に通達されたスケジュールによれば本日01:20に第三ターミナルより不知火十二機と共に出発。同日05:30、新潟県の帝国陸軍第3駐屯基地に到着。その後全機起動しNOEで所定の合流ポイントへ移動。11:20、合流ポイントにて事前に待機する戦術機母艦にて佐渡へ移動する。

 かなりタイトなプランだが今回の甲21号作戦には帝国軍は総戦力の50%を投入するという以上、ここまでしてもらえるだけでも有難いというものだ。

 

「気分は如何かな、狭霧尚哉大尉」

 

 背後の影より現れたのは、この段取りを仕切っている鎧衣左近と名乗る男だ。獄中の彼に政威大将軍よりの文を届け、数日の後には一時保釈の手続きを完了させ、今や戦術機甲一個中隊の戦力さえ取りまとめている。

 

「私は最早、軍の所属ではない」

「おお、伝え忘れていて申し訳ない。貴殿は本日零時より二十五日未明まで原隊復帰が認められているのだよ……まあ、元の部隊に戻るわけではないのだがね」

 

 では、と鎧衣が一歩下がると、

 

「久しぶりですね、沙霧大尉……」

 

 歩み出でるは日本帝国国務全権代行、即ち政威大将軍。

 

「煌武院悠陽殿下!?」

 

 驚きと畏れ多さに思わず声が上がる。だがそれも刹那の事、直ちに沙霧は姿勢を正し跪いた。

 だが彼が驚愕することも致し方ない。将軍と政府との関係が是正されたとはいえ、彼女の立場は依然として国の頂点である。にも拘らずこうして非公式の作戦の現場に姿を現すことなど在り得ないのだ。無論、表の任務であっても非常に珍しいことではあるのだが……

 

「驚くことはありません。此度のそなたの出撃は私個人が願い出たこと。ならばその詳細を伝えに来てもおかしくはないでしょう。ましてここが帝都城の真下ならば、決して難しいことなどではありません」

「殿下……」

「そして如何様な手段であれ、そなたの決意と行動が日本を在るべき形へと導いたことは紛れも無い真実。改めて礼を言います」

 

 深々と頭を下げる悠陽に、沙霧は溢れる涙を堪えるように俯きながらも言った。

 

「礼を申し上げるのは私めにございます。もはや獄中にて極刑の沙汰を待つばかりであった私に斯様な挽回の機会を与えて頂き、この喜びは如何なる言葉に表すことも適わず……して、我が使命は如何に?」

「沙霧……そなたに頼みたいのは此度の作戦に、国連より試験的に出撃する新兵器の護衛です。これは横浜基地にて遂行されています、第四計画が開発したBETAへの切り札となるもの。その力が真なれば、人類の未来のためにも失うわけには参りません」

「委細承知致しました。我が身命を以って守り通して見せましょう」

 

 応える沙霧に微笑み、去る悠陽の背を見つめて沙霧は己に課せられた任務の重さを遂に実感するに至った。正直に言えば、これまで将軍の名を借りた政府の隠密作戦だと考えていた。それは悠陽の言葉を聞いた今でも同じだ。

 だが、その裏に秘められた彼女の願い――――如何なるものかは理解の及ぶところではないが――――それが本物なのだと悟った。斯衛を動かし、表沙汰にはできぬ何かがあるのだと……

 その願いのためならばこの命、賭ける事も惜しくは無い。

 

 

 

 

20011224

佐渡島洋上―――――戦術機空母・甲板

 

 作戦開始が間近に迫り、俺たちヴァルキリーズは戦術機輸送用の空母に機体と共に乗艦した。今は佐渡島の沖合い、BETAに捕捉されるかされないかギリギリの地点にいる。

 日も暮れ、時刻は十時を回ったところだ。前の時と同じように寝付けない頭を冷やそうと甲板に上がったところで、

 

「あ」

「げ」

 

 速瀬中尉とばったり出くわした。ヴァルキリーズの中でも絶対に見つかってはならない狂犬。それがこの人だ。獲物と見定められたが最後、骨の髄まで食われちまう。

 つまり、36mm砲で蜂の巣になるってことだ。

 

「アンタ、今何か凄く失礼なこと考えたでしょ? 性的な意味で」

「考えてませんッッッ!」

 

 ヤバい。何か俺、最近ずっとこんな調子で叫んでばっかだ。

 

「冗談よ、ジョーダン。ま、いい機会だし聞きたいこともあるし」

「……何でしょう?」

「スミカ―――――って誰かしら」

「ボフゥッ!?」

 

 ちょっと待て! 俺は今回こっちに来てから誰にも純夏のことは喋っちゃいないぞ!? 月詠中尉との話がこんなところへ飛び火するはずが無いし……

 

「何で、って顔してるわね」

「当然ですよ。どこでそれを?」

「柏木が、寝言で聞いたんですって。白銀の寝言」

「ね、ねご……」

 

 ってことは、あの夜の時か……神宮司軍曹のことで参っていたとはいえ、そこまで俺は追い詰められていたのか? いや、そもそも中尉が知っているってことは柏木から聞き出したんだろう。

 

「昔の恋人の名前が出るぐらいだもの、さぞ寝心地は良かったでしょうね」

「―――――何が、言いたいんですか?」

「死んだ女にいつまでしがみついてるつもりか、って言ってんのよ」

 

 なるほどな。要は柏木とのことで責任を取れ、どちらかを選べ、ってことか。

 

「天才衛士って言っても、蓋を開けてみれば所詮はただの軟派男。惚れた柏木もスミカって子も可愛そうったら―――――」

「舐めんじゃねえっ! 他人風情が知ったような口利きやがって……」

 

 気付けば、中尉の胸倉を掴み挙げていた。

中尉だって、部下の柏木を泣かせるような俺を許せないっていう感情はあるんだろう。けど、そんなことより言わなきゃならないことがある。

 

「確かに柏木と寝たのは事実だ、否定するつもりはねえ。第一、これはあの夜限りでお互い割り切った話だ。もしそれで柏木の気持ちが変わったんなら、俺はアイツに断りにいかなきゃならねえけどな」

「ちょ、それって……」

「純夏は生きてるんだ。体の殆どが作り物になっちまっても、まだ人間として生きてる。一週間ぐらい前に久しぶりに会って、柏木との話もしたさ」

 

 もちろん、機密保持云々のことは付け加えておくけどな。

 

「じゃあ白銀はその子を選ぶってこと?」

「ああ。最期まで、一緒に居るって約束した」

「最期まで……ってどういうことよ」

「あいつは、長くは生きられないんだ。擬似生体の問題でな、もって一ヶ月」

 

 そう、最期までだ。

今のまま行けば純夏は明けた11日までしか生きられない。00ユニットである純夏の中枢である量子電導脳は、定期的に内部に充填されているODLと呼ばれる液体を浄化しなければ機能を停止してしまう。そして浄化処置を行えるのはBETAのハイヴにある反応炉だけ……今は横浜基地の地下に残っている反応炉を使っているから大丈夫だ。けどそれも、年末になれば基地はBETAの奇襲を受けて反応炉を破棄しなければならなくなる。

何とかしてハイヴの反応炉を手に入れられれば話は別だが、それは現実的に不可能だ。時間的にも戦力的にもそんな余裕はない。そして反応炉以外に完全な浄化処置を可能にする手段は、今のところ存在しない。

 

「そんな――――だから、柏木とは付き合えないって言うの?」

「そうですよ。まあ純夏は愛人として囲っちゃえ、とか言ってましたけど俺にはそんな器量も度胸も無い。出来るのはせいぜい体張って護ることだけだ」

 

 だから、今度こそ終わりにする。奴らをこの地球から一匹残らず叩き出して終わらせてやるんだ。この、悲しい戦争の時代を……誰かを犠牲にしなければ生き残ることさえ覚束ない世界を。

 知らず知らずに中尉の胸倉から離していた手を握って拳を作る。

 

「柏木も、ヴァルキリーズの仲間も……俺が護る。それが俺の責任の取り方だ」

「白銀……」

「馬鹿と言われようと、お節介だと言われようと……それが俺の生き方だ。俺の存在意義なんだ」

 

 

 

 

 甲板へ出るための階段で、晴子と冥夜はばったり出くわしていた。

 

「き、奇遇だね御剣」

「そ、そうだな柏木」

 

 ぎこちない口調で挨拶を交わし、いざ甲板に続くドアのノブを掴む二人。

 

「そなたも甲板へ行くのか」

「ちょっと、頭を冷やしにね。御剣も眠れない口?」

「まあ、そんなところだ」

 

 下手に取り繕うよりも無難に話を合わせておくほうが変に勘繰られずに済む。そう思い、冥夜たちは揃ってドアを開き甲板へ出ようとした。

 

『天才衛士って言っても、蓋を開けてみれば所詮はただの軟派男。惚れた柏木もスミカって子も可愛そうったら―――――』

『舐めんじゃねえっ! 他人風情が知ったような口利きやがって……』

 

 言い争う白銀と速瀬の声が聞こえた瞬間、開きかけたドアを慌てて閉じた。金属製の分厚いハッチとも言うべきものだが、幸い大きな音は出ずに白銀たちには気付かれることはなかった。

 問答はすぐに決着が着いた。速瀬の想い、白銀の決意。双方が半ばすれ違う形でぶつかり合ったが、結果としては納まるべき鞘に納まったようだ。もっとも、理解は出来ても納得できない部分は残ったようだが……

 しかし、二人とも心中は穏やかではなかった。

 白銀の寝言、そしてスミカなる女性の存在を話したのは紛れも無く柏木晴子だ。自分のことが原因で部隊の上官が同僚と言い争う姿に、大きな罪悪感を覚えずにはいられなかった。

 冥夜もまた、この話題に首を突っ込んでいた一人で無関係ではない。何がしかのフォローをしていれば、二人がこんな険悪な空気になることはなかったはずだ。

 そして何より、二人の心を打ちのめした言葉がある。

 

「最期まで、一緒に居る……かぁ」

 

 階段に腰を下ろし、晴子は宙を仰ぐ。幻想的な星空は無く、ただ無機質な天井がすべてを覆い尽くしていた。

 

「お互い大失恋だね、御剣」

「何を言う……私など、始まってすらいなかったのだ。失恋も何も無い」

 

 そう呟き俯く冥夜の頬を、一筋の雫が流れ落ちる。

 

「タケルは大きい男だ。立ち振る舞いは軽く見られることもあるやも知れぬが、その内に不屈の闘志と覚悟を持って現実に立ち向かう……とても、私にはできぬことだ」

「だから、憧れた?」

「憧れたというより、悔しかった。お互い歳もさして変わらぬはずにも関わらず、タケルは私や皆を見ていなかった。競い合う仲間でもなければ、共に戦う戦友でもない。私達はただの訓練兵で、今でも衛士でしかない。

 だから認めてほしかった。私という、御剣冥夜という存在を認めてほしかったのだ」

 

 下を向いて顔を隠したまま、訥々と語る冥夜に晴子が頷く。

 

「私も同じだよ。初めて会ったとき、アイツは私を見てなかった。私の後ろに居る昔の仲間の影を見てたよ。きっとここには白銀の本当の意味で信じられる仲間は居ないんだ」

 

 実際そうなのだろう。

 12.5事件の時、白銀は一人で独断専行した米軍の戦術機と戦った。

 演習中のBETA奇襲の時、白銀は一人で無数のBETAと戦った。

 

「白銀が神宮司軍曹のことを一人で抱え込んでいるのを知った時……私は我慢できなかった。私って結構さっぱりしてるって言われるけどさ、御剣」

「うむ」

「人の痛みが分からないわけじゃないんだ。ううん、むしろよく分かっちゃうのかもしれない。だから一人で何とかしようとする白銀を見ると、私だって居るんだぞ……って、無理しなくてもいいんだぞ……って言いたくなる」

 

 諦めを否定できる強さを持つ白銀武。

 孤独なまま走り続ける白銀武。

 結局のところ、どちらも真実であるわけで。

 

「「あの、馬鹿……」」

 

 そして共通するのは、人の苦悩など知る由もない馬鹿なのだ。

 

「さ、思いの丈もぶつけたことだしね。もう寝ますか!」

「そうだな。一人で懊悩するよりかはいくらか楽にもなった」

 

 階段を降り、それぞれ宛がわれた部屋へ戻る。明日は対BETAの大規模作戦だというのに二人の心はとても平静である。いままで張り詰めていたつかえが取れたことが大きな要因だが、同時にとても大切なことも一緒に抜け落ちてしまっていた……

 どこか満たされない虚無感。

 軽い目眩のような、モヤの様に頭に掛かる絶望。

 だが戦いの火蓋は間もなく切って落とされる。生きることへの執着を半ば失った二人は、果たして戦場に何を見出すのか―――――

 

 

 

 

20011225

佐渡島

 

 上陸を開始したエコー部隊と共に、12機の不知火が佐渡の大地を踏みしめる。

 戦況は予定通りに推移している。ハイヴ内からのBETAの増援は尻すぼみになり、艦隊の支援砲撃を受けてウィスキー・エコー両部隊は平均的な損耗率で敵を撃破し続けていた。

 オービット・ダイバーズ(軌道降下兵団)もハイヴ内部へ突入し、中枢制圧を目指して進行中だ。

 

(ただ、それもいつまで続くかどうか……)

 

 この後の状況を知る俺からすれば、心中は穏やかじゃない。いつ突入部隊と交信が途切れ、地下から敵の本命が現れるか……そしてそれに自分がどう対処するかでこれからの展開が変わる。

 

『タケル、交代だ』

「ああ……しばらく頼む」

 

 冥夜とポジションを代わって補給コンテナから推進剤を機体に送るためのパイプを接続する。

 ヴァルキリーズは上陸から幾度か散発的な戦闘に遭遇したが、日頃の訓練とXM3の威力で難なく敵を退けた。俺としては安心できる材料だけど、気がかりは柏木と伊隅大尉だ。

 エンジントラブルを起こした凄乃皇弐型の内部に残り、手動で自爆させることで佐渡島ごとハイヴを破壊した伊隅大尉。

 その大尉を援護するため機体の損傷を理由に脱出路を引き返し、最期まで戦って戦死した柏木。

 

(どうすればいいんだ? どうすれば……)

 

 凄乃皇のエンジントラブル、伊隅大尉の判断、柏木の機体損傷……そこに至るまでの経過を思い出してみても俺の力でどうにかできる部分はどこにも無い。かといってこのまま何もせずに終わるわけにはいかない。

 

「ん?」

 

 ふと我に返り、音感センサーのグラフに視線をやる。そこには僅かだが大深度地下からの震動が計測されていた。

 不知火・弐式のセンサー類は標準型の不知火よりも段違いに優れているらしい。ソナーなどの探知システムもより精密に、かつ広範囲をカバーできる。他のメンバーよりもいち早くこの異常を察知できたのは大きなプラスだ。

 

『ヴァルキリー・マムより全ユニットへ。突入部隊との交信が途絶、現在司令部は対策を審議中。ヴァルキリーズは砲撃地点の確保を継続せよ』

 

 来たか……

 

『大尉! ソナーに感、震源数は計測不能です!』

 

 風間少尉も気付いたか。

 地中の震源数はおよそ四万以上。これは戦術機のソナーが計測できる限界を超える数値だ。

 

「敵の増援だ! 地下から来るぞッ!」

 

 言いながら長刀を抜き放ち、岩盤を割って眼前に現れた要撃級BETAを一太刀に斬り捨てる。そのまま続けて二撃、三撃……地中から這い出る突撃級や小型種をまとめて薙ぎ払う。

 

『大尉、大変です!』

『どうした鎧衣!』

『敵増援は佐渡島全域に出現していますけど、その全てがこっちに向かっています!』

 

 馬鹿な!?

 いくらなんでも無茶苦茶すぎる!……いや、先週の防衛線内のBETA出現も俺の予測を遥かに上回る速度で奴らが本土侵攻用のトンネルを掘っていることの裏付けだ。

 

(――――――読まれている!?)

 

 こっちの動きを完全に把握し、その上での布陣だと言うならすべて納得できる。凄乃皇弐型の砲撃態勢が整う前に出せるだけの物量で押し切るつもりだろう。

 

『ヴァルキリー・マムより全ユニットへ、最新の状況を伝える。新たに出現中のBETAはウィスキー・エコー両部隊と交戦中の戦力と合流し、砲撃予定地点へ侵攻中』

「なっ………!?」

 

 連中は佐渡島の全戦力で凄乃皇弐型を潰しにかかる気だ。そしてそのすべてを俺たちヴァルキリーズが相手にしなければならない。

 

『各部隊は敵の足止めを受けて追撃は不可能。この状況に対し第16斯衛大隊は緊急展開して追撃中。交戦中のユニットからの情報によりレーザー種の存在を多数確認したため、艦隊は砲撃ラインの切り替え作業中。完了まであと二十分掛かります』

 

 いくらヴァルキリーズでもこれだけの戦力を相手に立ち回ることは不可能だ。このままじゃ歴史を変える前に全滅しちまうぞ!

 ん? 秘匿回線……?

 

『白銀!』

「ゆ、夕呼先生!?」

『状況は聞いたわね? 艦隊の支援砲撃が始まったとしてもアンタ達だけで戦線を維持することは無理よ』

「凄乃皇の到着を繰り上げることは出来ないんですか!?」

 

 そう、純夏が早く来てくれればそれだけこっちの負担は減る。全滅の可能性も多少はマシになるかもしれない。

 

A02はすでに横浜基地を発進したわ。鑑には最大戦速を指示したからあと一時間以内に佐渡島に上陸するはずよ』

「一時間ですね」

『ええ。持ち堪えられる?』

「これぐらいで根を上げていたらオリジナルハイヴは落とせないッスよ」

 

 音声だけの通信の向こう側で先生のくぐもった笑い声が聞こえてきた。

 

『いいわ。白銀、好きなようにやりたい放題やりなさい。後の始末はこっちで何とかするわ……負けんじゃないわよ!?』

 

 それはつまり、

 

「了解!」

 

 あの力を使え、ということだ。

 逆に言えばそれだけのっぴきならない状況だって意味にもなるんだけどな。

 

『白銀、何をやっている! ダム跡地まで後退するぞ!』

「了解!」

 

 伊隅大尉の声。やっぱり防衛拠点としてはそこしかないか……左右を断崖に挟まれた地形なら敵の侵入をある程度限定できるからな。

 今はそれに合わせるべきだ。全員で生き残るためにはそれしか方法は無い。

 

 

 

 

「この状況、どう見ますかな? 香月博士」

 

 作戦旗艦・最上のブリッジでスクリーンを見つめたまま、老獪な司令官が問いかける。

 各部隊の消耗はそれ程のものではない。こちらの足止めとして残留する少数戦力を各個撃破して南下を続けるBETA本隊を追撃中だ。しかし敵は迎撃の戦力を分散して配置しており、最終的な侵攻の阻止はほぼ不可能と言っていい。

 敵の最前衛である突撃級BETAの第一波が砲撃予定地点に到達するのはおよそ三十分後。佐渡島の各方面から合流した突撃級の第二波はそれからさらに十五分後、といったところだ。BETAという巨大なうねりの中に潜む波状攻撃とも言えるこの現象は、夕呼にある可能性を示唆していた。

 

「やはり……」

「やはり?」

「ええ。小沢提督、BETAには繊細かつ大胆な作戦を展開する戦術的、戦略的知能があると見るべきですわ。少なくとも、今この場においては」

 

 それは過去三十年にわたる対BETA戦略の常識を覆す仮説。

 先週のBETA出現は恐らく人類側への威嚇行為。そしてこちらの戦力展開を見てより具体的な侵攻ルートを特定するための偵察行動だったと考えられる。

 そうなると今回の波状攻撃は凄乃皇弐型を警戒し、その足場を崩すためのものだという説が濃厚だ。しかし疑問なのは、まだ凄乃皇が上陸していない現段階でここまで大規模な攻撃に移る必要性である。

 こちらの情報が向こうに漏れている可能性はある。それならば凄乃皇が上陸する前に大攻勢に出たことにある程度説明がつくのだ。しかし、それならば発進前に横浜基地へ同等の戦力を送り込む方が効率的のはず。実際先週の襲撃でこちらの目と鼻の先まで侵攻ルートを構築していることは間違いない。そもそもこの仮説はBETAが人間の思考を解読できるならばの話だ。

 ともすれば、奴らの狙いが他にあると言うことだろうか。

 思考を打ち切り、夕呼は目の前の状況に集中することにした。いくら仮説を立てたところで、今はそれを立証する術は無いのだから。

 

「むう……だが、我々は勝たなければならない。如何なる犠牲を払おうとも、此度の戦に勝ち、人類に新たな希望の光を見せなければ」

「もちろんです。だからこそ、手は打ってあります」

 

 副官のピアティフからインカムを受け取り、マイクに向かって呼びかける。

 

「鑑、現在位置は?」

『え、と……今、日本海に出ました』

 

 答えたのは凄乃皇弐型を操縦する00ユニット―――――純夏だ。

 

「状況が切迫しているわ。急いで頂戴」

『分かりました。ところで香月先生?』

「何かしら」

『進路上に帝国陸軍の戦術機母艦がいるんですけど、どうしたらいいですか?』

 

 その言葉に夕呼は思わず聞き返していた。

 

「帝国軍!?」

 

 

 

 

 新潟の空に現れた巨大な機動兵器と思しき何か。

 これが件の新兵器であると確信し、沙霧直哉は己の身震いを止めることが出来なかった。すなわち、人類の勝利の確信とそれに微力ながら貢献できることへの喜びだ。

 この任務を煌武院夕陽から直々に聞かされた時、尚哉は感無量のあまり不覚にも涙してしまった。

 

『大尉、作戦旗艦・最上から通信が来ています』

「よし、廻せ」

 

 副官を務める鳴海中尉に命じて回線を開く。今回臨時に編成されたゴルフ中隊は、すべて帝国城内省の辞令によって召集された非正規所属の衛士たちによって構成されている。非正規といっても表沙汰にできない任務を遂行するための『裏のトップエリート』であり、軍規違反の常習者などは対象外だ。

 彼……鳴海も聞けば二年前の明星作戦に従事していた衛士なのだそうだ。米軍の投下した二発のG弾の爆発に巻き込まれ、片腕片足を失いながらも友軍に救助されたという。その後のリハビリと猛訓練によって衛士に復帰した彼の腕前は、実際に手合わせした沙霧に並ぶほどだ。

 

『―――――恩赦で今回限りの出撃ねえ?』

「私は政威大将軍殿の、ひいては帝国城内省の勅命でここにおります故」

『ま、いいけどね。それでそっちはどうするのよ?』

「戦術機母艦にて佐渡へ渡り、新兵器の防衛を」

 

 すでに彼らが乗り込んだ輸送艦は佐渡島に向かって航行中だ。現在の速度ならば凄乃皇弐型に十分から十五分ほど遅れる形で上陸できるだろう。

 

『勝手になさい。いくらアタシでも日本のトップの命令を覆す権限は無いわよ。それでこっちが取り潰されちゃかなわないからね』

「はっ! 感謝致します!」

 

 

 

 

『敵前衛、防衛ライン到達まであと十五分! 第二波はその二十分後です!』

 

 風間少尉の声に全員の顔がさらに強張る。地平は見渡す限りBETAで埋め尽くされ、それが自分達に向かって一斉に押し寄せてくる。地響きは大きくなる一方で、敵の強大さを伝えてくるだけだ。 

 敵の数は小型種も含めて述べ十万。ここから視認できる突撃級だけでも一万近い。日本侵攻の前線基地が保有するほぼ全ての戦力が俺たちの前に立ちはだかっている。

 

『ど、どうしましょう!? このままじゃ……』

『艦隊の支援砲撃も奴らを止められないし、万事休すだわ!』

『各部隊も追撃しているけど追いつくのは無理だね』

『撤退は無理、戦うしかない』

『だがこの数を相手にするのは厳しいぞ』

 

 まったくどいつもこいつも……

 

「ちっ……テメエらうろたえんじゃねえッ!!!」

 

 うろたえるB分隊組を一喝する。アイツらだけじゃない、ヴァルキリーズ全員が俺に視線を向けられるのを感じて、俺は叫んだ。

 

「無理だの厳しいだの、やりもしねえ内から諦めてんじゃねえよ。元々俺たち人類に後はねえ。だったらやることは一つだろうが!」

 

 不知火・弐式に立ち上がらせながらサブディスプレイで情報を確認する。敵フロントラインとの距離はおよそ30km弱、構成は今のところ突撃級のみだ。恐らく後方にレーザー種がたんまり控えているだろうが……

 

『待て白銀! 今奴らを迎撃する算段を練っている、お前が一人出てもどうにもならん!』

「大尉……」

 

 伊隅大尉の言葉はもっともだ。

 けど今は――――押し込まれてどうにもならないこの状況を打ち破るにはこれしかない!

 

「夕呼先生!」

『許可するわ。行きなさい、白銀!』

『副司令!?』

 

 先生の言葉に驚きの色を隠せない大尉。普通に考えれば許可を出すはずが無いのだ、こんな無茶なことに。

 

『白銀、アンタ――――死ぬ気?』

「これが俺なりの責任の取り方、って奴です」

 

 それだけ告げて速瀬中尉に笑ってみせる。

 もう話している余裕は無い。敵との接触まであと十分を切った。跳躍ユニットに火を入れ、武装を再チェック。突撃砲二門、近接長刀と短刀が二本ずつ……できれば電磁投射砲が欲しかったけどそれは贅沢な注文だ。

 

「行くぜぇッ! 仲間にゃ指一本触れさせやしねえぞッ!」

 

 機体を跳ね上げ、地面すれすれの超低空飛行でBETAの群れへ一直線に突進する。一気に最高速まで到達、眼前に広がる敵の壁を見据えて操縦間を握りなおした。

 

「!?」

 

 一斉に突撃級が横に逸れ、BETAの群れの中に一本道が現れた。

 その道の遥か奥――――――数体の光線級が発射態勢に入っているのが見えた。回避しなければレーザーに焼かれ、左右に避ければ突撃級になぎ倒される。上へ跳べば他の光線級からの第二射の餌食だ。

 だけどな、こんなもんで俺を追い詰めたと思うなよ!?

 

(俺の後ろには仲間の……柏木の、冥夜の、純夏の未来がある)

 

 護らなければ。

 この身を挺し、

 この命を燃やし、

 この魂を砕いてでも護り抜く。

 

「うおおおおおおおおおおォォォォォォォッッッ!」

 

 体が燃えるように熱い! 体が溶けてしまって、何もかもが一つになったみたいな熱さが俺の中から溢れ出てくるのが分かる!

 

「!!!」

 

 眼前で爆ぜる閃光を掌で掴み捻じ曲げるイメージ。それだけで直撃するはずだった無数のレーザーは悉く軌跡を変えて虚空を貫き、大地を焼いた。

 

(これが……因果操作なのか!)

 

 今なら分かるぞ。周りの全てが一体化して自分の意のままとなる感覚。

 これなら負ける気がしない……勝てる!

 

 

 

 その光景を目の当たりにして、ヴァルキリーズの全員はもとよりモニターしていた最上のオペレーターたちや提督までもが驚愕に目を見開いた。その雄々しき姿に感嘆の吐息さえ出ない。

 

「し、信じられん……」

 

 そう呟くのは小沢提督だ。

 極めて至近距離から発射されたレーザーを紙一重に凌ぐと、次の瞬間には両手の突撃砲が火を噴いて敵は瞬く間に骸を曝す。今までに見た衛士の誰にも叶わなかった技を以って戦う彼の者は一体……

 

「これが……白銀、なのか」

 

 呻くように声を絞り出し、伊隅みちるはかろうじて苦笑を浮かべることが出来た。これは人間の為せる業ではない。もはや特別という言葉では生ぬるい。あの不知火・弐式に乗る男は人を超えた存在なのだと認識する。

 突入から五分。すでに白銀が切り開いた地点を中心に要塞級、要撃級、突撃級BETAの撃破数は合わせて百を超え、なおもその数は増え続けている。弐式も弾切れの突撃砲を投棄して長刀による近接戦闘に切り替えた。

 たった一人の男が、本当に劣勢を覆そうとしているのだ。

 

「タケル……」

 

 胸に熱いたぎりが込み上げ、冥夜は思わず顔を伏せた。

 武は戦っている。武が護りたいと思う者のために。だがその中に自分が居るのだと今の今まで忘れていたことが恥ずかしい。昨夜も言っていたではないか、体を張って仲間を護るのだと。

 ならば自分はどうだ? 仲間がただ一人で逆境に立ち向かおうという今、物陰に隠れて呆けたように眺めているだけなど……他ならぬ御剣冥夜自身が許さない。

 

「ホント、どうかしてたよね……」

 

 我に返り、全身に溢れる衝動を心地よく受け入れた晴子は苦々しげに笑った。だってそうだろう? 惚れた男が命がけで戦っているのに、おとなしく後ろで護られているだけの自分の姿は惨め過ぎる。あの夜、武に言った言葉が全て嘘になってしまうではないか。

 いくらドライで軽い性格だとしても、有言実行ぐらいしなきゃ女が廃るというもの。

 

「行こう、御剣!」

「柏木……おうとも!」

 

 白銀武はどんな形であれ、どんな考えであれ、この柏木晴子を、御剣冥夜を守るために戦っているのだ。喜びこそすれ失恋だなんだと嘆くことはお門違いでしかない。

 ならば立ち上がれ。

武器を手に取れ。

 愛しいあの馬鹿のもとへ馳せ参じようではないか。

 

 

 

 

 艦隊の支援砲撃も再開され、CPからのデータリンクでは敵の最後尾とウィスキー部隊がようやく交戦状態に突入したという。

 そして白銀の戦う姿はデータリンクで月詠たち第16斯衛大隊の元にも届けられていた。

 

(さすがだ、白銀……少年の志を継いだな)

 

 内心賞賛の言葉を送る月詠の隣で大隊の指揮官――――姫宮東介が堪えきれない様子で呟いた。

 

『彼の者の勇姿……まさに千万の英霊の無念を負って立つ闘神のようだ』

 

 手が震える。

 体が震える。

 己の内に宿る闘志の炎が『戦え!』と押さえきれないほどに燃え上がるのだ。

 

『月詠、各機に通達せよ! 全機着剣!』

「はっ! クレスト2より全ユニット! 全機着剣!」

 

 月詠の号に従い、すべての武御雷が長刀を抜き放つ。その光景はさながら、合戦にて敵陣へ突入する侍たちを髣髴とさせた。否……彼らこそ身命を賭して故郷の為、信念の為、友の為に戦うサムライなのだ。

 

『全機吶喊! 私に続けぇっ!』

 

 

 

 

「オラオラオラオラ、邪魔すんじゃねぇッ!」

 

 両手に持たせた二本の長刀で要塞級の首を刎ね飛ばす。これで周りの奴らはあらかた片付いたはずだが、見回せばもう次のBETAがにじり寄って来ていた。

 

「しつこいんだよ―――――!?」

 

 接近しようと踏み出した瞬間、背後から別の要撃級が大地を割って這い出てきた! マズイ、この角度だと回避が間に合わな……

 

『ほらほら甘いよ!』

 

 背後からの掃射が要撃級の半身に風穴を開け、堅牢な衝角もろとも粉砕した。さらに別方向から出現する突撃級や小型種をざっくばらんに長刀が切り払う。BETAの死骸を踏み越えて現れたのは……国連カラーの不知火だ。

 

『まったく油断大敵も甚だしいぞ? やはりそなたの後ろは――――』

『私達がカバーしないとねぇ』

 

 にやにやと笑う冥夜と柏木。こいつら、危険を承知でここまで出てきたっていうのかよ……

 

「お、お前ら――――無茶するぜ」

『ホントにね。ま、白銀に無茶なんて言われる筋合いはないけど、こっちにも惚れた女の意地があるしね』

『その通りだ。私も柏木もそなたのような大馬鹿者に惚れ込んだ以上は、多少の無茶も無謀も当然だな』

 

 ぐっ……誰が大馬鹿者だよっ!?

 

「って、冥夜さん? 柏木さん? 何か今凄いこと言いませんでした!?」

『今は細かいことを気にする時ではない――――――新手が来るぞっ!』

『まずはこいつらを何とかしなきゃね! 弁解は後で聞いてあげるから!』

 

 すでに突撃級の第二波がこちらに迫ってきている。支援砲撃もさっきからずっと続いているが数は半分にも減っていない。その後ろから悠々と歩いてくる光線級の姿さえ見えるって言うのに……

 

「ちっ……しょうがねえ、先に光線級を潰すぞ! 凄乃皇を撃たせるわけにはいかねえ!」

『心得た!』

『うわぁ、弾足りるかな?』

 

 要塞級を真っ二つに切り伏せ、さらに前進。だがその後ろから現れる次の要塞級が行く手を阻む。見れば四方八方を要塞級と要撃級に囲まれ、後退すらままならない状況だ。

 こんなところで足止めを食うわけには行かないっていうのに……!

 

「くっ……まだまだぁっ!」

 

 俺一人ならともかく冥夜と柏木にこの包囲網はかなりきつい筈だ。こっちの武装は長刀と短刀だけだから、遠距離からなかなかカバーに廻ってやることもできない。

 こうなりゃ……

 

「二人とも伏せてろォッ!」

『え?』

『タケル!?』

 

 さっき叩き切った要塞級の脚を掴み、脚部を接地させる。さらに跳躍ユニットを斜め横方向に固定しブースト準備。脚の長さはざっと四十メートル強で、さらに先端には要塞級の半分に切られた胴体がおまけ程度にくっついている。

 

「ウオオオオオオオオラァァァァァァァァッ!!!!」

 

 弐式を踏ん張らせ、跳躍ユニットの推進力をそのまま回転力に変えてジャイアントスイングの要領で振り回した! 吹き荒れる暴風が小型種、続いて大型種を地面から引き剥がしていく。

 視界の片隅で諸々のBETAが物凄い勢いで空へ吹き飛んでいくのを確認し、天に向かって掴んでいた要塞級の脚を放す。綺麗な放物線を描いて澄み切った……もとい重金属雲のたちこめる空へ吸い込まれていった。

 

「たーまやー……ってな。二人とも無事か?」

『聞くぐらいなら最初から止めて欲しいんですけど』

『そう言うな、柏木。我らの活路が開けたのは事実だ』

 

 他に手は無かったんだ。多少の無茶ぐらい仕方ないだろ。

 

『白銀ェェェェッッ!!!』

「うおっ!?」

『妙なことすんじゃないわよ! あたしらまで巻き込む気!?』

 

 モニターにでかでかと映し出される速瀬中尉の真っ赤な顔は怒り心頭、怒髪天を突く勢いだ。よくよく確認してみるとヴァルキリーズの面々もすぐ近くまで来ていたようで……

 

『そう怒るな速瀬。勝手に飛び出した御剣たちも無事だったわけだし、今は他にやる事があるだろう?』

『うぃーす……(覚えてなさいよ、後でとっちめてやるんだから)』

「中尉、聞こえてるッス」

 

 半径数百メートル以内のBETAを根こそぎブッ飛ばしたからな。そりゃかなり派手なことになっていたんだろうけどさ。

 改めて、敵陣のど真ん中までついてきた仲間の顔に視線を向ける。

 

「みんな……」

『感傷に浸るのは後だ、白銀』

「分かってますよ大尉」

『そうだ。まずはあのクソッタレどもを片付けるぞ! 全機、白銀を中心にアローヘッド6!』

 

 大尉の合図で12機の不知火が一斉に動き出した。

 

『白銀の左は宗像、右を私で詰める! 御剣と彩峰は前方、速瀬は後方で遊撃! 敵を近づけるな!』

『『『了解!』』』

 

 俺の左右に伊隅大尉と宗像中尉がぴたりと張り付いた。同時に冥夜たちが前に出て、速瀬中尉が後ろへ下がる。これで通常の戦闘だけじゃなく、突発的な増援にも対処するのか。

 

『風間、珠瀬は両サイドにつけ! 光線級への対処は前衛に任せ、敵後続を牽制!』

『『了解!』』

 

 光線級にロングレンジで対抗するのは難しいからな。むしろ横槍が入らなくなればその分前衛はやり易くなる。

 

『鎧衣と榊は風間を、柏木と涼宮は珠瀬をバックアップだ。絶対にやらせるな!』

『『『『了解っ!』』』』

 

 四人ともかなり視野が広くて援護も行き届く。そのガードをつけることで両翼からほぼ全周囲をカバーできるはずだ。

 

『白銀は光線級と十分に接近したら単機突入、跡形も無く平らげろ!』

「分かりました……後ろは頼みます!」

『ああ。気にせず行ってこい!』

 

 陣形を崩さず、最大速度の匍匐飛行で敵の防衛ラインの突破を試みる。前には立ち塞がるように配置された要塞級が三体と、その足元には戦車級がうず高い丘のように群れていた。

 

『邪魔は、させない……!』

『でぇやぁぁぁぁっ!』

 

 冥夜と彩峰が切り込み、相手の頭を崩しにかかる。三体のうち中央の要塞級をバラバラに切り刻みながら36mm砲で小型種を押さえ込むと、

 

『このっ、このっ!』

『簡単にはやらせないわ!』

 

 風間少尉とたまの狙撃が両サイドの要塞級の頭部だけを射抜き、攻撃を中断させた。さらにガードの四人が左右から雪崩れ込んで来る増援にオーバーラップをかけて足止めする。

 だが向こうもこっちの戦術が理解できているのか、後方からけしかけて撹乱しようとしてくる。岩を割って飛び出してきた要撃級の三体が風間少尉へ殺到し――――

 

『舐めんじゃねえわよっ!』

 

 ギャギャギャギャギャギャァァァァッ!

 俊敏な切り返しで左右に飛び跳ねながら速瀬中尉の長刀が、まるでギロチンのように奴らの首を刎ね飛ばす。その戦闘機動の激しさに一瞬、一機のはずの不知火が無数にあるように錯覚するほどだ。

 

『見え見えなのさ、お前たちの動きは』

 

 前衛の間を抜けて来た突撃級をステップを踏んで回避し、宗像中尉の突撃砲が唸った。背後から急所へ向けての一斉射には突撃級もたまらず悶え絶命する。

さらに続けざまに放った120mm榴弾が、前方で彩峰の虚を突こうとしていた要撃級を横殴りに吹き飛ばせば、中尉がどれだけ周囲の状況を把握しているかなんて聞くまでも無い。

 

『白銀! 準備しろ、突入だ!』

「了解!」

 

 すでに三つ目の防衛網を突き破った俺たちの前には無防備な光線級が居るだけだ。大尉の援護を受けつつ、その只中へ飛び込んで二本の長刀を振り回せばほんの数秒で片が付く。

 そうして中隊規模の光線級を全滅させること五回。これまで執拗に追撃してきたBETAたちが一斉に退いていく。

 言うまでも無い。タイムリミットなのだ。

 

「やっと来たか……」

 

 俺たちの遥か後方、渓谷の中央辺りに巨大なシルエットが浮かぶ。

 

『あれが凄乃皇弐型……』

『お、おっきいね〜』

 

 砲撃開始地点まであと1kmってところか? もう少し粘れるな。一体でも多くのレーザー種を倒せば、それだけ純夏の危険も減るから―――――

 

『地中より移動震源多数!』

「何ッ!?」

 

 ちょうど俺たちと純夏との間に重光線級の群れが一斉に這い出てきやがった! 奴らが凄乃皇を警戒していたことは分かっていたのに、こんな陽動に引っかかっちまうとは……迂闊だった。

 

『まずい……いくらなんでもアレだけの数は危険だ! 全機反転!』

 

 伊隅大尉を先頭に来た道を一気に戻る。けど距離がありすぎる! もう奴らはレーザーの照射態勢に入っているんだ、ものの数秒で照射が始まるぞ!

 

『これは日本の―――――否、人類の希望! やらせはせんっ!』

 

 

 

 

 延べ二十数体の重光線級から放射されたレーザーが凄乃皇弐型へ迫り、しかしそれが直撃することは無かった。

 

『ヌオオォォォオォォォォォォォッ!!!』

 

 悪鬼の凶光に立ち塞がったのは一機の蒼き武御雷。手に持つはあろう事か突撃級BETAから剥ぎ取った甲殻である。それを盾にBETAのレーザーを防ごうというのだ。

 その試みは成功し、瞬く間にレーザーの照準は外され……照射自体が一時とは思われるが中断された。同時に武御雷も各部から放電を起こしながら墜落する。

 武御雷は斯衛の証。すなわち甲21号作戦に参加している第16斯衛大隊の者である。指揮官である姫宮東介は如何なる方法を使ったのか、この絶体絶命の窮地をいち早く察知し、身を挺してこれを阻止したのだ。

 彼は震える声で副官を呼び、尋ねた。

 

「月詠……」

『はっ、ここに』

「わ……我等の希望は、健在か? 目は死に……もはや、動くことも叶わん」

『無事健在でございます。傷一つ無く』

 

 彼の機体はもはや限界であった。

 今のレーザーの強烈な閃光にメインカメラごと衛士の視神経は焼き切られ、発生したプラズマ爆風は内部にくまなく伝播し、駆動系など諸々含めて彼の筋肉を傷つけた。

 機体も操縦者も満身創痍。戦うことはおろかこの場から逃げることも叶わぬのだ。ただ彼は残された喉で叫ぶ。

 

「往け、同胞よ! この大地に、空に、惑星(ホシ)に今一度、命の賛歌を掻き鳴らすのだっ!」

 

 それが最後の瞬間だった。

 通信の終わりと共に爆散する武御雷。己が信念に生きたサムライの凄絶なる死に様は、その末代まで語り継がれるべき勇猛果敢なものであった。

 

 

 

「くっ……うぅぅぅうおおおおおおおああぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」

 

 自分の身を挺して庇ってくれたのか……凄乃皇を、純夏を、人類の希望を!

 勝利の為に、また一つの命が散っていった。誰かが死ぬ姿を見るたびに、その訃報を聞くたびに自分のやっていることが正しいのか不安になる。

 けど、今一つだけ信じられることがある。俺の後ろには、俺の背中には、俺のこの手には護るべきものがあるってことだ。

 

「アンタの魂、確かに受け取った―――――!」

 

 機体を走らせ、跳躍させる。

 重光線級の頭上を一瞬で飛び越え、降り立つ先は凄乃皇弐型!

 

(純夏……見てたか? 俺たちの為に散った命を)

 

 答えはない。代わりに凄乃皇弐型の周りの空気が大きくざわめいた。

 

(今度は俺たちが応える番だ。行くぜ!)

 

 握り締めた二振りの長刀の柄同士を繋ぎ、諸刃の剣にする。

背負った想いを、

語り継ぐ無念を、

雄々しき願いを、

儚く尊い祈りを、

胸に輝く希望を刃に込めて―――――

 

「掴んでみせる! 俺たちが望んだ平和な世界を!」

 

 諸刃を頭上に掲げて旋回させる。巻き起こる烈風の嵐がBETAのレーザーを巻き込み、閉じ込めて刀身に輝きを与えていく。

 

「生物兵器風情が邪魔すんじゃねえ! 道開けろォォォォォォッ!」

 

因果轟断!

ダブルブレード

ブーメラン!

 

 レーザーのエネルギーを纏って投げつけた回転刃のブーメランが展開していた重光線級の群れを薙ぎ払い塵芥へ変えていった。現れた増援を撃破したブーメランは急旋回してさらに敵の大群へ突入し、ヴァルキリーズを取り囲むBETAを片っ端から打ち倒してあいつらの脱出口を作る。

 大地を跳ね、空を裂き、弧月の軌道を描いた諸刃の剣はまさしくブーメランのように俺の手元へ戻ってきた。素早く掴み取り、着いた返り血を拭うように振り払うとBETAの群れが次々に大地へ崩れ落ちていく。

 それを合図に、ついに凄乃皇弐型の胸部装甲が展開し、膨大な量のイオン流が渦巻き始めた。

 

『全機、退避ィィィィィィッッ!』

 

 大尉の号令と共にヴァルキリーズが安全圏へ飛び込んだ。俺も斜め後ろへブーストジャンプして巻き込まれないようにしなければ。

 

 

 収束する光、拡散する雷が佐渡の荒野を駆け抜けていく……その光は即ち希望。光は粉塵を巻き上げて立ち並ぶ外道共を押し退け、押し潰し、ついに奴らの居城の頂を砕いた。

 炸裂する凄乃皇弐型の荷電粒子砲。その威力は神の吐息の如くBETAを一掃して、ハイヴの地上構造物を粉微塵に吹き飛ばしたのである。

 続く第二射の衝撃に揺れる焦土を踏み締め、戦士たちは見た。

 誰もが願った、平和な世界への道を……

 

 


筆者の必死な説明コーナー(ウッーウッーウマウマ編)

 

アルフィ「マブラヴ・リフレジェンスX〜佐渡を駆ける〜をお読みいただきありがとうございます。またしてもページ数が40ページオーバー……もとい、あわや50ページ寸前という、無駄に長い話でしたがいかがでしたでしょうか?」

 

アヴァン「ウマウマだな」

 

アルフィ「意味不明すぎるコメントね」

 

アヴァン「だってウマウマじゃないか! 圧倒的な物量、予期せぬ事態……そういった劣勢を同志たちの命を礎に、炸裂する新たな必殺技で覆す。燃える展開じゃねえか!」

 

アルフィ「戦術機はリアルロボットなのよ!? ああもゲ○ターロボみたいにモノをブン投げたら読んでる人がスーパーロボットと誤解するでしょうが!」

 

アヴァン「じゃあどうしろっていうんだ! 分かりやすく、大雑把な説明で格好良く勝利するにはスーパーロボット路線が一番適切なのに……他にどんな方法がある!?」

 

アルフィ「っざけんじゃねえわよ! こっちの苦労も知らないでやりたい放題やればいいと勘違いも甚だしいわ! それとも今度は『シラヌイ・ビィィム』とか言って胸のビーコンからビーム出すわけ!? これだからスーパーロボットは野蛮で安直で―――――」

 

アヴァン「なにおう!? そういうリアルロボットだって何だかんだと無茶苦茶やるじゃねえか! ライフル一丁で戦艦の主砲並みの威力とか在り得ねえんだよ! それで困れば設定に逃げれば良いと、思い上がりもいい加減に―――――」

 

 

悠陽「向こうの討論はしばらく終わりそうにありませんので、代わって私、御剣……えほん、煌武院悠陽がこの場を取り仕切らせていただきます。ところで真那さん?」

 

真那「な、なんでございましょうか」

 

悠陽「物語の始まる四年も前に、武様と面識があったというのはどういうことですか? 説明なさい」

 

真那「は。何でもゆきっぷうが申すには―――――『原作であれだけしつこく嗅ぎ回っていたんだから、もっと個人的な意図があってもいいんじゃないか?』という思いつきのもとに捏造したシナリオ、とのことです」

 

悠陽「なるほど。それでは沙霧大尉の処遇については何と?」

 

真那「それが―――――『大尉には牢獄よりも戦場が似合う!』という信念のもとに此度の出撃を取り計らった、と」

 

悠陽「………そして武様はまだそのことをご存知ではないのですね。ところで斯衛の第16大隊の指揮官であった、姫宮東介については?」

 

真那「現在、本編とは別に鋭意企画進行中の甲21号作戦『番外編』にて詳しく……」

 

悠陽「番外編……あの者の得意とする誤魔化しですか」

 

真那「だと良いのですが……殿下、お時間でございます」

 

悠陽「そうですか。では皆様、失礼致します。いつかまた皆様とお会いできる日を楽しみにしております」

 

 

 

次回予告

 

これは、絶対運命に立ち向かう男の物語。

散ると知りつつも多くの同胞達を犠牲とし、

凄乃皇弐型の一撃がついにハイヴを砕いた。

未だ予断許さぬ戦況の中、武は男達の決意を聞く……

 

MUVLUV Refulgence

~Another Episode of MUVLUV ALTERNATIVE~

 

Y.明日への咆哮

 

 

ゆきっぷう「お、お前らぁぁぁぁぁっ!? 書いてる俺を差し置いて何してやがる!?」

 

アヴァン「手前はどっちだ、ゆきっぷう!」

 

アルフィ「リアルかスーパーか!? さあ、この場で選びなさい!」

 

ゆきっぷう「はぁ? 決まってんだろ! ドリルだ、ドリル! リアルだろうがスーパーだろうがドリル無くして未来は語れん!」

 

アヴァン・アルフィ「「だ、駄目だこりゃ……」」





いやー、本当に熱い戦い。
美姫 「ピンチな状況を覆すべく単機で突っ込むなんてね」
もう正に手に汗握る展開で息つく間もなく一気に読破してしまった。
美姫 「そして歴史はいよいよあの場面なのね」
果たして、武は未来を変えられるのか。
美姫 「とっても楽しみね」
ああ。次回も首を長くして待ってます!
美姫 「楽しみにしてますね〜」
ではでは。



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