. 本作は真・恋姫無双のネタバレを多量に含みます。

    2.真・恋姫無双、魏エンド後のストーリーです。

    3.原作プレイ後にお読み頂く事を激しく推奨します。

    4.華琳様の涙を拭い去るため頑張ります。

    5.一部、登場人物の名前が違う漢字に変更されている場合があります。

 

 

(チェンジ!)

恋姫無双

―孟徳秘龍伝―

抱翼旅記ノ四

 

 

『抱翼、薬草を求めて遭難する事』

 

 轟く雷鳴と降りしきる豪雨が聴覚を覆いつくしている。洞窟の入り口から覗き見る景色は黒雲立ちこめる空と眼下に広がる森林。此処は切り立った崖に偶然出来た洞穴で、居るのは自分達の他はせいぜい虫か蝙蝠ぐらいだろう。

「雨、止まないね」

「止まないな」

 自分達―――――天一刀と孫尚香が何故こんな場所に居るのか。

 それはおよそ半日前まで遡る……

 

 

「天一刀……潔く此処で死ねいっ!」

 先日の『甘寧返り討ち事件』以来、甘寧の報復攻撃は激化の一途を辿っていた。孫権に諭されたはずなのだが、黄蓋曰く「やるなら正々堂々やれ、と言われただけらしいのう。かっかっか」とのこと。

 つまり、状況はむしろ悪化しており、

「その武功に敬意を表し、黄泉路の道案内仕る!」

「つかまつらなくて結構だひゃあああああああっ!!!」

(どこかで陶器の割れる音)

 肝心の天一刀自身が乗り気でないため、結果として命を賭けた追いかけっこが連日昼夜問わず繰り返されている。ちなみに今日は起床と同時に閨に仕掛けられた罠が作動するというハチャメチャっぷり。天一刀は朝食もろくに食べる暇も無く逃げ続けていた。この分では昼食を食べる時間も確保できそうに無い。

「貰ったぞ!」

「ク、クソォッ!」

(どこかで壁の砕ける音)

 甘寧の剣が天一刀を間合いに捉え、繰り出された一撃は彼の双戦斧によって弾かれた。その勢いのまま体ごと二人はぶつかり、刃同士が火花を散らす。刹那、天一刀の頭の片隅で廻ってはいけない歯車が廻り始めた。湧き上がる衝動を抑えながら甘寧の剣を押し返す。

「ようやく抜いたな……勝負!」

「このっ、こっちの気も知らないで――――――」

(どこかで柱が折れる音)

 このまま応戦しては相手の思う壺だ。天一刀が武将として成長著しいからといって、甘寧との実力差は如何ともし難い。ネコダマシの一手はもう通用しないので、このまま続ければジリ貧で彼の敗北は目に見えている。

「こうなったら……助けて! MERINNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNNN!」

 天一刀は腹の底から大声で叫びながら右腕を全力で振り上げ、そのままの勢いで振り下ろした。タイミングで言うなら「メイ」で振り上げ、「リン」で下ろす。一部の異世界のごく一部の地域でのみ通用するSOSらしい(現代世界の寮仲間が言っていた)が、果たしてこの三国志世界で通用するのか。

「どうした、天一刀? 蛇にでも噛まれたか」

 あら不思議、通路の影から姿を現した周瑜が怪訝そうに尋ねてきた。だが甘寧は知っていた。彼女とて呉の将であり、武将同士の力比べなど日常茶飯事と認めていることを。

(つまり、冥琳様ならばこの勝負を止めはしない!)

 そしてこのまま押し切れば自分の勝利は確実であり、ひいては彼女の崇拝する孫権の安泰も約束されるのだ。完全無欠、絶対無敵のロードをひた走る甘興覇は喜悦の笑みさえ浮かべてさらに踏み込んでいく。

「待ちなさい、思春」

 意外なことに、そんな甘寧の肩を掴んだのは周瑜だった。振り返ると周瑜は辺りを一瞥して言った。決闘場と化した城内は木製の柱が中ほどから砕けて倒れ、壁のあちこちに大穴が開き、高価な調度品が無残に破壊されている。

 可愛い猫ちゃんが一匹紛れ込んで悪戯したぐらいならどうということはない、というほど周瑜は寛大な心を持っている。だが今回ばかりはどうにもならないようである。粉々に砕け散った壷は彼女のお気に入りの一品だった、というのは後日黄蓋から聞かされた話だ。

「お・ま・え・た・ち・ぃ……」

 周瑜の俯き加減が変わり、光の反射で眼鏡が彼女の表情を覆い隠した。

 びしびしと伝わる怒気にションベンちびりそうな二人だったが……

「善々! しっかりして、善々!」

 廊下の向こうから聞こえてきた声に周瑜の注意が逸れた。首の皮一枚で窮地を脱した天一刀は安堵の表情を見せつつも、ちゃっかり周瑜の後ろについて声の主の方へ。

 其処は城内の敷地に用意された竹林だった。進んでいくと少し開けた場所で孫尚香と華佗が真っ白な毛のパンダを介抱している。

「華佗?」

「ああ、周瑜か。ちょっとまずいことになった」

 治療用の鍼を仕舞い、華佗は立ち上がった。いつに無く険しい表情で言葉を続ける。

「孫尚香の善々が病気なんだ。今朝彼女がここに来てみたらすでにこの様子でね、高熱に分かりづらいが湿疹も出ている。どこかで悪いものを貰ってきたのかもしれない」

 掻い摘んで説明する華佗の後ろで、善々(恐らくパンダの名前だろう)に寄り添う孫尚香は今にも泣き出しそうなほど動揺している。そういえば病気のペットに付き添うからといって学校を休んだクラスメートが居たな、と天一刀は昔を思い出した。当人にとっては兄弟も同然の感覚なのだから当たり前のことなのかもしれない。

 周瑜もその辺りの感情は理解しているらしく、眉根を寄せながら尋ねた。

「ふむ……その様子だと治療は出来ないのか?」

「鍼だけじゃ無理だ。病魔に対して体の抵抗力を強める薬が必要でね、それを作るにはある薬草が必要なんだけど」

「入手が困難、なのだな?」

「ああ。険しい渓谷でしか採れない奴なんだ。さっき調べてもらったんだが城の倉庫にも無かった。市場でも滅多に出回らない稀少品で、売っているとは到底思えない」

 つまり薬草を渓谷地帯まで取りに行かなければならない。善々の体力も考えれば時間も多くは残されていないだろう。間に合うどころか見つかる保証も無い。

「シャオが取ってくる! どんなやつ!?」

「えー、こいつだな」

 今まで黙っていた孫尚香の顔に決意の色が浮かび上がる。

 華佗が懐から取り出した秘伝書を開き、薬草の特徴を確認するや否や彼女は飛ぶように走り去ってしまった。あまりの自由奔放ぶりに忘れそうになるが、孫尚香もまた孫呉の王の妹である。護衛も無しに野外を散策して万一のことがあってはならない。

「小蓮様! お待ちください!」

 周瑜の制止も届くはずは無く、すでに馬を出したのだろう……高らかな蹄の音が遠ざかっていく。

「俺が追いかける! それに二人で探した方が早いだろ!」

「天一刀!?……すまん!」

 

 

 

 かくして天一刀は孫尚香と共に薬草の捜索に出発した。しかし艱難辛苦の旅路(片道四時間半)の末に見つけた薬草は険しい崖の中腹に在り、それを無理に取ろうとした孫尚香は案の定足を滑らせて落ちてしまい―――――

「うおおおおおおおっ!?」

「きゃあああああああああっ!!!」

 運良く見つけた洞穴に飛び込んだのが三時間ほど前。

 雨が降り始めたのが二時間前。

 二人は悪天候の為に洞穴で足止めされてしまっていた。

「ごめんなさい……シャオのせいで」

「いいさ、肝心の薬草は手に入ったんだから」

 悔しさからか、震える彼女の手には不思議な色の葉を持つ一束の草。これさえあれば善々を助けることが出来る……もっとも、この崖から脱出する手段を考えなければならないが。

 天一刀は顎に指を当て思案する。

 李典の螺旋槍なら天井に穴を掘ってそのまま上へ抜けることは出来ただろう。しかし今回はあまりに急な話だったため三羽烏に同行を求める暇は無かった。その意味で天一刀が恐ろしいのは、帰った後に我が身を襲うであろう非難の視線である。

 あと考えられる手段は崖を登るぐらいだが、先述の悪天候のため難しい。吹きつける豪雨に手足を滑らせれば、恐らく助かるまい。

 何より気掛かりなのは善々の容態と、焦燥に駆られて今にも飛び出しそうな孫尚香である。放っておけばこの雨の中で崖登りを始めかねない。

 だから天一刀は先手を打った。

「よし、進むか」

「え? もしかして、この洞窟の中を?」

 驚きの声を上げる孫尚香だったが、崖を登れない以上進む道はこれしか残されていない。しかし松明などの灯りも無く暗闇の洞窟を歩くことはかなりの危険が伴い、なにより進んだ先が地上に繋がっている保証はどこにもない。視界がまったく遮られてしまっているので、文字通り手探りで二人は奥へ進む。

 洞窟の内部はやはり、静寂の世界であった。吸い込まれるような闇が奥へ奥へと広がり二人の感覚を狂わせる。どれほどの時間が経過し、どれほどの距離を移動したのか……進めば進むほどその齟齬は致命的になっていく。

(嫌な―――――嫌な、感じがする)

 現実と幻の境目がほころんだ瞬間、天一刀の両目は在り得ないものを映し出した。

 息を呑む。

 ガチガチと噛み合わない歯が音を鳴らす。

「あ、あ――――――」

「……天一刀?」

 何故、孫尚香はこんなにも平然としているのだ? まさかこの暗闇で見えていないのか? あれを……

 鮮血を滴らせ、

 かち割られた頭蓋から脳漿を飛び出させ、

 怨念の形相に歪む子供の姿を!

 

 

 

 その子供に見覚えは在った。

 蜀での五胡殲滅戦で、敵軍に特攻した自分が刃を振り下ろした少年兵だ。卑怯にも背後から、こちらへ槍の穂先を向ける暇も与えず……一撃のもとに両断したのである。

『人殺し! 人殺し! 人殺し!』

 激痛にのた打ち回りながら悲鳴に近い絶叫を上げる少年。

 あの時、呂布を救うためには彼女に襲い掛かる敵兵を悉く蹴散らすしかなかった。この判断は間違っていない。殺さなければ殺されるのは自分達だったのだから。

 

―――――――――では、彼は?

 

 少年は徴兵の対象にもならぬほど幼かった。これから様々なことを経験し、成長し、生きて死んでいくはずだった。彼にしてみれば未来を奪われた被害者である。誰もが持つ、生きようとする意志を無理矢理に剥奪されたのだ。

 天一刀の双戦斧は確かに、仲間の命を奪おうとする敵を打ち倒した。

 そして倒された敵は――――――少年は無残に死に絶えた。

「あ、あああ、あ……」

 生来より魂の根底に刻み込まれた戒律が泣き叫ぶ。

 血に染まった両手が罪の重さに震えだす。

 人殺し! 人殺し! 人殺し! 人殺し! 人殺し!

 ひとごろし! ひとごろし! ひとごろし! ひとごろし! ひとごろし!

 ヒトゴロシ! ヒトゴロシ! ヒトゴロシ! ヒトゴロシ! ヒトゴロシ!

『ヒトゴロシィィィィィィィィィィッ!!!』

 少年の死骸が人外の叫びを上げる。聞く者を圧倒する奪われた生への渇望、報復の宣誓。

 逃れようもない。この身はすでに殺人者である。今の今まで忘れていたわけでもなく、純粋にその事実から目を背けていただけに過ぎない。認めれば罪の重さに押し潰されて、天一刀は人として再起不能になる。

「う、あ、あああああああああああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァァァァァァッッッ」

 

 

「しっかりしなさい、天一刀!」

 激しく肩を揺さぶられ、その衝撃で視界の色が反転する。立っていたはずの体はいつの間にやら地面に寝転がっており、何故か背中がやたら痛んだ。視線を巡らせれば其処は渓谷を抜ける山道の途中らしく、傍らに膝立ちしている孫尚香の背後にはぽっかりと洞穴が口を開けている。横には汚らしい看板が一枚。

「罪、現……祠?」

「罪現祠(ザイゲンジ)。進む者に背負った罪を見せるっていう言い伝えがあるんだよー? 昔は咎人を悔い改めさせるために使ってたみたいだけど、今は全然」

 地元では割と有名らしい。普段は遊びまわってばかりの印象のある孫尚香だが、その実天賦の知性と機先を持っていることは周知の事実。孫策とも共通する部分だが、己の役割を果たすために何が必要なのかを生まれついて知っているのだ。

 政の意は民草に在り、

 戦の意は戦場に在り、

 命の意は終焉に在らん。

 故に彼女達は街に出て住民達と生活を共にし、戦場に出て兵士たちと勝敗を共にし、あらゆる場において命の終わりを見届ける。その意味を知っているからこそ、孫家の三女として誰からも認められているのだ、孫尚香は。

「俺は……?」

「やっと出口が見えたと思ったらいきなり倒れたの! ここまで引っ張ってくるの大変だったんだからね!」

「う、ごめん」

 見捨てられなかっただけでも礼を言わなければなるまい。善々の命が掛かっている時にこの醜態、三羽烏からの叱責は免れられないものとなったが。

 ともかくこれ以上無為に時間を過ごすことはできない。震えて力の入らない足腰に鞭打って天一刀は立ち上がった。脳裏に去来する怨念の叫びを拭いきれぬまま、それでも「帰らなければ」と足を踏み出す。

「歩けるの? 無理、してない?」

「いいから行こう。じっとしてる余裕、ないだろ」

 だが一歩、二歩と進まぬうちに彼は前のめりに倒れてしまった。まだ立って歩けるほどに回復していないのだ。

「やっぱりじっとしてなきゃ!」

 孫尚香は倒れた天一刀の体を無理矢理起こし、石の壁にもたれさせた。まったく動かせないのか、腕も脚もまるで投げ出したような格好で天一刀は深く息をつく。

 横を見やれば、同じように壁にもたれかかった孫尚香と視線がぶつかった。その表情は怒っているような、申し訳無さそうな……

「付き合わせて、ゴメン」

「え?」

「無理してるもん」

 確かに先刻垣間見た夢幻のおかげで気分は最悪だ。洞窟の寒さで体力を消耗していたこともあるだろう。しかし……

「思春と一騎討ちしてたでしょ」

「あ――――――」

 呉の猛将・甘寧と問答無用の激闘を繰り広げていた。仮に向こうが加減していてくれたとしても、こちらの消耗は中々に無視できないものである。成り行きで顧みる暇など微塵もなかったが。

 つまり、累積した疲労と幻が相まって現状に至ったと考えるべきか。なるほど、と合点のいった風に頷く天一刀。

「そろそろ、かな」

 だが彼も魏の智謀を陰から支えてきた男。万が一自分が行動不能になった場合も想定して策は講じている。

 遠くから聞こえる蹄の音は複数。天一刀よりも格段に聴覚の優れる孫尚香は、それが四頭の馬によるものだと即座に識別した。

「もしかして……」

 雨はすでに上がりつつある。

 そして、出かけに部下へ声をかける暇はなかった天一刀だが……

「いい頃合だぜ、みんな」

 安堵に身を委ねて瞼を閉じる。

 そう、声をかけることは叶わなかったが言伝を頼むぐらいは出来た。楽進たちに自分達の後を追わせるよう、周瑜に頼むことは出来たのだ。

 

 

 其処から先は特に語るべくもない。駆けつけた楽進らに助けられ、建業の城へ戻った孫尚香は華佗と共に善々の治療に成功した。天一刀も疲労困憊であったが一晩眠れば全快する程度のこと。

 差し込む朝日と小鳥の囀りに心地よさを感じ、寝台から体を起こす。

「隊長、お加減はいかがですか」

 目の前から、ちょこんと正座した楽進が凄まじく不機嫌な表情で尋ねられた。両隣には李典と于禁。そして、布団の中でもぞもぞと蠢く何かに気付いた。

 気付いてしまった。

 気付かなければよかったと、後悔した。このままスルーして彼女達と共に朝食へ繰り出せば世は万事上手くいったのだ。

「うみゅ、カズトー?」

 北都ヴォイス(妹系)が炸裂し、

「た、い、ちょ、おぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ!!!!!」

 激昂する楽進が両手に氣を練り始める。

 

 その日、建業の城から天へ向かって閃光が奔ったことは後に『思慕の逆鱗光』と呼ばれ、民草へ色恋における禁忌を今一度見せしめることとなった。

 

 

 

『抱翼、己が武を問う事』

 

 建業の城、その外壁の上で天一刀は遥か地平を睨んでいる。

 孫尚香の一件から数日、彼は悩み続けていた。于禁たちと食事をする時も、子供たちの遊び相手をする時も、眠る前の一勝負の最中でさえその思考はついて離れない。

 すなわち、自身の行動は正しかったのか……

 呂布を助けるために少年を斬った。相手は呂布を殺すつもりで武器を振り回し、彼女の命を奪うまであと数秒も無かっただろう。

(あの時は、ああするしかなかった)

 部隊を指揮して「敵を倒せ」と命令することはホンゴウカズトの頃から幾度もあった。しかしこの手で直接命を奪ったことは一度もない。戦場で直接矢面に立つだけの実力がなかった、と言えばそれまでだが……

(そういや、こっちに戻ってくる時にも五胡の刺客を斬ったっけ)

 また一つ罪を思い出して逃れられないことを思い知る。

 恐らく誰もが「正しいことをしたのだから、胸を張って堂々としろ」と言ってくれるだろうが、自身の苦悩が解決するとは天一刀は考えない。何故なら欲しいのは免罪符でなく、断罪である。

「お悩みのようね、天抱翼」

「ん?……まあ、それなりにね。孫伯符」

 城壁の上、弱いとはいえない風に吹かれながら二人は対峙した。孫呉の王である孫策だが、今の時間は公務のはずである。しかし彼女は王だけが持ち得る宝剣「南海覇王」をいつも通り携え、片手には……ちょっとした荷物を持っていた。

「ちょっと付き合わない? 賊退治だけど」

 なるほど、荷物も出撃のためのものか。しかしデートならば二つ返事で受けたところだが今の天一刀にそれは辛すぎる。

(けど……もしかしたら)

 ここで悩んでいるよりは、答えに近づけるかもしれない。

 そう思ったとき、天一刀は頷き返していた。

 

 

 三羽烏を連れて孫策の隊列に加わる。手持ちの兵など居ないので出来ることなど多寡が知れているが、孫策隊の人数は本人を入れて百人の部隊だった。動員する兵力から考えるに、賊と言ってもそこまで大規模なものではないらしい。

 今回の殲滅対象である賊は、どうやら特定の村に居座って定期的に住民から食料や金品を徴収しているらしい。大人しく差し出せば良し、出さなければ見せしめに殺されて村の門に吊るされるのだとか。放置すれば廃村と化すまで一月も掛かるまい。

「どうするんだ?」

「賊の首領を倒す。こういう連中は頭さえ潰せば何も出来ないからね。後は全員捕縛して処刑」

 相手はおよそ人としての矜持など欠片もない手合いである。再発を防ぐには首を刎ねるしかない。倫理的にはさておいても、効果的な手段ということは間違いなかった。どんな悪党も死ねば骸にしか成り得ないのだから。

 分かっている……これがこの時代のやり方なのだと、天一刀は喉まで出掛かった言葉を飲み込んだ。魏でも蜀でも、自分は同じことをしてきたではないか。悪行を為す者を倒し、捕らえ、場合によっては処刑する。敵として弓引く者ならば容赦なく殲滅する。

 では、年端も往かぬ子供を斬殺することは?

(くっ……)

 苦虫を噛み潰したような天一刀の顔をあえて見ず、孫策は言葉を続けた。

「村は山の中腹、四方を森に囲まれ、行くも戻るも道が一本あるだけ。あとは森の中を突っ切るしかない」

「やけに詳しいな」

 怪訝に思って尋ねる天一刀に、孫策は別段隠すこともなく答えた。

「ええ。何度か立ち寄ったことがあるから。ここの村長が作る老酒が絶品なのよ」

「なるほど、ね」

 彼女が並々ならぬ酒豪であることは天一刀も知っている。だが、孫伯符自らが討伐に乗り出したのは酒が目的だからではない。酒ではなく、酒が結んだ縁を守るために……愛すべき自国の民の為である。討伐ならば他の将に任せても別段問題はない。しかし為政者の責務とはまったく別の感情が、今の彼女を突き動かしているのだ。

 すでに一行は村のある森の入り口に差し掛かっている。森の奥を見据える孫策の双眸に宿る明確な殺意を、天一刀は確かに感じ取った。

「……楽進、李典は騎兵を五十ずつ率いて森林地帯から進入。村を包囲してもらえるかしら」

「御意」

「あいよ」

 あくまで魏の一行は客将である。いかに同盟国の王であろうとも一方的に命令は出来ない。だが協力を請われては断れぬ何かがこの孫策にはあった。かつて袁術に乗っ取られた国を、圧倒的な戦力差を覆して奪還できたのはやはり彼女の持つ『英雄の才能』が最大の要因であろう。

 それはさておき、今回の孫策の采配には理由がある。三羽烏の持つそれぞれの武器だ。楽進は拳、李典は槍、于禁は剣である。戦場が村という閉所を主とするため、槍のような間合いの極端に長い武器は行動範囲を限定される可能性が高い。特に屋内では刺突以外の攻撃が困難であろう。

 拳……徒手空拳は実戦において決定打に欠けるが楽進には氣というもう一つの武器がある。しかし、これは強力過ぎる。先述の通りこの村は交通の便があまり良いとは言えないので復興支援が滞り易く、敵兵ごと家屋を倒壊させるような戦闘は御免被りたい。

 つまり破壊力に突出せず、屋内などの閉所でも柔軟な対処能力を持つ于禁が突入要員に選ばれたのは至極当然のことであった。言い換えれば一番于禁が平凡だと言わんばかりだが、それは禁句である。

「俺が先頭で行こう。沙和は後衛を頼む」

「うん」

 天一刀が先行し、その少し後ろを孫策が于禁を後ろにつけて進んでいく。道はやや急な上り坂で見上げれば伸びる木の背は非常に高い。葉はそこまで覆い茂ってはいないおかげで充分に明るかった。

 坂の終わりが見えてくる。未だ気配は感じられないが、立てた丸太の柱に梁を渡しただけの簡素な造りの門の下に……それはあった。

「―――――――――ッ!!!」

 ガリ、と食いしばった歯が鳴る。この討伐に全く乗り気ではなかった体に熱が宿り、停滞していた思考の回転が狂わんばかりに加速していく。

 とどのつまり、誰が覇権を握ろうと自分が戦いを恐れようとも、この世に悪が蔓延り罪無き命が摘み取られていく現実は全く変わらない。今も昔も、例え時を経て天の国に至ろうとそれは変わらないのだ。自身が直面しなかっただけで、現代世界でも。

 それを証明するように、無造作に並べられた人間の首が、手が、脚が物語る。

 命は命を搾取して生きる。人もまた然り。だがこれは違う、と天一刀の中で何かが叫んだ。

 古来より人々には命を貴び、糧とすることに感謝する文化がある。衣食住全てにおいて生命を消費する人間が、

 如何なる為でもなく、

 如何なる意味もなく、

 如何なる価値もなく、浪費することは許されるのか……?

「き、さ」

「貴様等ぁぁぁぁぁあああああっ!!!」

 天一刀より早く吼えたのは孫策であった。村を囲む大樹たちを震わせるほどの気迫に、家屋の陰に潜んでいた男たちが姿を現す。誰も彼も手に武器―――――剣、槍、鉈など―――――を持ち、貌には下卑た笑みを貼り付けている。

 男の一人が、いやに仰々しい態度で孫策に向かって口を開いた。

「これはこれは国王様、こんな寂れた村に如何な御用で」

「寂れさせたのはお前たちだろう」

「滅相もない。私らは、この村を守る為に神より遣わされた神兵であります故、村を滅ぼすような真似は致しません」

 男の台詞に、周りの者たちが一斉に大笑いを始めた。やれ「神様の兵隊か! こりゃいいや!」だの、やれ「どうせなら国の守りも任せて下さいよぉ!」だの。

 だが孫策は冷静に、努めて冷静に(・・・・・・)言葉を紡いだ。

「では、その足元に転がっているものは何だ?」

 喋りかけてきた男の足元にあるもの……年端もいかぬ少女の頭を指差されても、彼らの態度は変わらない。

「さぁ? なんでしょうねぇ」

「知らぬなら教えてやろう。それは人の首だ……ここの村長の、な」

 これには流石に男達も表情を固まらせた。

 知っているのだ、この王は。もはや自分たちが完全に出遅れてしまい、村が滅んだ後だという事を。

「右隣の首はその息子、左は下働きの娘。王として問う、刎ねたのは―――――誰だ?」

 男達……否、賊どもの顔に消えた笑いが戻る。先ほどと違うのは容赦なく殺気を放ち、孫策へ飛び掛ってきていることだけだ。

「「「「「誰が刎ねたか教えてやるよ! 俺たちさぁ―――――――!」」」」」

 襲い来る敵は六人。だがいずれの刃も孫伯符を捉えることはなかった。

 一人目は垂直の斬り上げによって断割され、二人目は返す刃に袈裟斬りに。同時に迫る三人目と四人目は横一文字に喉元を断ち、五人目は心の臓を穿たれて絶死。助けを呼ぼうと踵を返した六人目は後頭部を掴まれ、

「逃がすか、屑が……」

 ごきり、と頚椎を砕かれて息絶えた。

 これが英雄・孫策の戦いである。己が敵と見定めしものは一切の容赦もなく冷徹な意志のもとに打ち倒す。無残に、凄惨に、相手は悉く牙を突きたてたことを悔いて地獄に堕ちるのみ。

 だが敵はまだ残っているようだ。騒ぎを聞きつけたのか、仲間が次々に村の奥から姿を現す。

「孫策」

「分かってるわよ」

 ……現す。

「こいつは、ちょっと多過ぎないか?」

「でも、やることは変わんないから」

 その数、延べ五十余名。鎧を身に着けた完全武装の兵もいる。どこかの諸侯の軍から装備ごと脱走してきたのだろう。

 しかし、これは困ったことになった。予定では孫策たちが賊を奇襲して追い散らし、村から離れたところを包囲していた楽進たちで捕縛ないし殲滅する手筈だったのだ。いや、この小規模な集落の何処にこれだけの人数が隠れていたというのだ? 完全に戦況を読み違えてしまっている。

 如何に孫策といえど戦力差が開きすぎてはどうにもなるまい。此処は一度于禁と共に山道を下らせ、味方と合流させるべきだ。

「沙和、信号『紅』!」

「了解!」

 後方を警戒していた于禁が発煙機能を備えた矢を上空へ射る。戦中、李典に開発させたものだ。

「一度下がれ、孫策。殿は引き受ける」

「天一刀、しかし」

「俺にもやらせろ」

 その一言で、孫策は全てを察した。彼の瞳に映る炎を知っている。これは憎悪の炎。この男は怒っている。眼前に現れた外道の群れに怒り狂っているのだ。

「頼んだわよ……すぐ戻る。于禁!」

「こっちへなの!」

 先導する于禁にしたがって孫策が後退していく。充分に距離が空いたことを確かめた頃には、天一刀の周囲は敵の主力で埋め尽くされていた。

 

 

「――――――――――」

 無言のまま双戦斧を抜く。

 

 天一刀は思う。悪党は悪党なりに生きることに必死なのだろう。道を踏み外しても死にたくないのだろう。その気持ちは、死んだことのある自分だからこそ良く分かる。

 だが。

 

 

「すぅ――――――――――――」

 深い呼気。氣を練り上げる。

 

 人は命を糧に生き、時には同族相食むこともある。それは人の種としての業なのかもしれない。自分もまた曹操の元、人の命を弄んだ事実がある。

 だが。

 

 

「―――――――――――」

 息を止め、練り上げた氣を全身に行き渡らせる。

 

 許せないことが一つだけ。子供を……まだ生きる術を持たない子供を殺すことは、天一刀が認める唯一の絶対悪。自分もそれを行い、揺るがしようのない悪だと認めたからである。

 

 

 吐気。気迫烈轟。

「ふっ―――――――――おおあああああああああああああああああああっっっ!!!」

 唸りを上げて碧の雷光が双戦斧から生まれ、それさえも体内に取り込んで天一刀は跳んだ。思考が火花を上げて際限なく加速していく。より確実に目標を撃破(否、惨たらしく殺す)ことだけを計算し、かつ効率的に捕捉(否、一人たりとも逃さない)するべく肉体を稼動させる。

 

 

 

 

 そして、咎人たちが断末魔の悲鳴を上げた。

 

 

 

 

 于禁が楽進、李典の隊と合流できたのは山道の中腹辺りだった。

「孫策様、無事で何よりです。沙和、状況を」

 楽進に促され、于禁は息も絶え絶えに掻い摘んで説明する。

「隊長が一人で残ったかー。相変わらずやな」

「行くぞ、二人とも。隊長を援護する」

「沙和、い、息が……」

 全速力で駆け下りてきたのだ、于禁の息が上がってしまうのも無理もない。そんな彼女を楽進がおぶって、一行は再び山道を登り始めた。

 村に近づくに連れて聞こえる悲鳴の数は増えていく。

 

『許してくれ』

『罪なら償う』

『投降する、だから』

『命だけは』

『殺さないで』

『イヤだ、イヤだ』

『死にたくない』

『しにたくない』

『シニタクナイ』

 

 一行の誰もが聞いたことのある、ある意味慣れ親しんだものだ。戦場に行けば幾らでも、其処彼処から聞こえてくるだろう。

 だから、この光景に直面しても驚きはしなかった。

「隊長……」

 その中心で天一刀は高らかに笑いながら、心底楽しそうに果敢に向かってくる敵の頭蓋を双戦斧で叩き潰す。腰を抜かした敵は花を摘むかのように首を刎ねられ、逃げようと走り出した敵は投擲された双戦斧で幾人もまとめて胴を断ち切られた。

 何という事は無い。天一刀は初撃に右肩に武器を背負う、あの上段の構えから必殺の一撃を放ったのだ。これで五十の内の半分が―――――門ごと――――吹き飛んだ。本来は平野の敵陣に大穴を開けるほどの威力である。狭い場所の為に威力を絞ったが、この人数には充分すぎた。

「くはっ……は、はははっ! あはははははははははははははははははあぁぁぁぁぁぁっっっ!!!」

 味方の半数を一瞬で失い、相手は完全に恐慌状態に陥ったのである。そこからはもう戦闘ではなく、一方的な虐殺と化した。だがこの場において狂気の歓声を上げるのは天一刀ただ一人。

 

 

待ちに待った、『正しい』戦闘。

悪を、敵を倒すならば、手にした力を思う存分発揮できる。

本気で殺しにいって、本当に殺してしまっても罪ではないのだから。

昂ぶらずには居られない――――――!

 

「ははは、ははっ……はぁ、はぁ――――――――――」

 最後の一人を頭から両断し、天一刀はようやく動きを止めた。全身は血塗れ、喉はカラカラに渇き、全身の至る所が痛みを訴えている。彼とて決して無傷ではなく、浴びた傷は十を超えた。

(ああ……)

 だが、胸を衝く衝動は歓喜。

(俺はこれが、欲しかったんだ)

 自分という存在の何もかもが、ひたすらに熱かった……

 

 

 

『抱翼、異邦人に出会う事(ジョニー編)』

 

 ある晴れた日、天一刀が遅い昼食の為に建業の大通りを歩いていた時のことである。数日前に参加した賊討伐の疲労が抜けきらないからか、気だるい様子の彼の前方で派手な物音共に怒声や悲鳴が聞こえてきた。

(なんだよ……疲れてんのに)

 厄介ごとであれば勘弁だが魏の警備隊長という肩書き上、見て見ぬ振りもできない。人ごみを掻き分けて現場に向かおうと改めて踏み出そうとすると、逆に人ごみが割れて二人分の人影が飛び出してきた。

「「みぃつけたぁっ!!!」」

 野太い男の声とややハスキーな少女の声が、自分に向けられたものだと理解するまで天一刀は丸々一分掛かった。

 現れたのは長身筋骨隆々の男と、対照的に小柄で細身の女の子。どちらもエキセントリックな笑みを浮かべ、天一刀へにじり寄ってくる。そんな二人に対する天一刀の第一印象は『餓えている』だった。

 男は先述の通り180センチを超える長身で、全身は鍛えられた筋肉でがっちりと固められている。何故分かるかと言えば、男が上半身裸だからだ。ちなみに下は袴と草履である。あと、顔が途方も無く変態チックなので恐らく根は悪人だろう。

 少女はやはり述べたように背が低く、細い。長く伸ばした金糸の髪に学生帽(に似ている?)をかぶり、片手で羽扇をくるくると器用に回している。どことなく某国の策士に似ていなくも無いが、恐らく気のせいだろう。きっと気のせいだ。いや、木の精か。その策士はここまで腹黒いオーラを醸し出していない。

「ご主人様。優男の人相、腰の双刃の斧……間違いありません!」

「ああ。天の御遣い、種馬、視線で女性を妊娠させる能力者、無責任変態男、乙女心の破壊者――――――――貴様! 魏の武将が一人、ヘタレの天一刀に相違無いな!」

 熱烈なファン……では無さそうである。魏ならばまだしもここは呉で、何より男は腰に携えた二刀を白昼堂々と抜き放った。

 敵意全開にも程があるだろうが、とりあえずこの場は自分が応対するしかあるまい。天一刀は腹を括って口を開いた。ちなみに彼が口走った二つ名については改めて荀ケと話し合わなければなるまい、と固く心に誓ったことは言うまでも無い。

「確かに俺が魏随一の美青年・天一刀だ。だが腹が減ってるんで、これで失礼する。勝負なら飯の後にしてくれ」

「そうはいかん! 三国一の美男子こと、そう三国一の美男子こと! 大事なことだから二回言ったぞ? この俺、ジョニー・サクラザカと愉快な仲間たちの食費を賄う為、貴様をとっ捕まえる!」

 どうやら何処かの馬鹿が天一刀の首に賞金をかけたらしい。だがこれだけいい体をした成人男性が、職に困るとは思えないのだが……

「あんた、仕事は?」

「この間まで自分達で育てた野菜を売っていたが、前の鬼の襲撃で畑が滅茶苦茶になっちまってな。なんで凶悪な性犯罪者である貴様を捕まえて、その賞金で当面の生活を凌がせてもらう」

 男……恐らく彼がジョニー・サクラザカ(ん? ジョニー?)だろうか。彼とその仲間の困窮振りには同情するが、身柄を差し出すかどうかはまた別の問題である。ただあわよくば二人諸共、自分に賞金を出したという首謀者を押さえたい。

 とりあえず闘うにしてもまずは食事を済ませなければならないだろう。起きてからまだ水を少し飲んだだけで胃の中はスッカラカンのままだ。

「分かった。けど先に飯だけ――――――」

「いくぜぇ、シュリリン!」

「はい!」

 シュリリンと呼ばれた少女が羽扇を勢い良く振るうと、舞い散った無数の羽が瞬時に硬質の針と化して天一刀目掛けて襲い掛かった。およそ妖術の類だが、天一刀の双戦斧で防げぬ業ではない。

「なんだこいつら!?」

 双戦斧を指先で器用に旋回させて降り注ぐ羽を弾き落とす。しかし同時にジョニーが二刀を振りかざしてこちらへ猛突進してきた。シュリリンの攻撃に気を取られていた天一刀は強引に重心を振って突進を双戦斧で受け止め、吹っ飛ばされながらも辛うじて防御に成功。逆に間合いを開いて二人の威力圏内から離脱し、

「すたこらさっさ〜」

 逃げ出した。一目散に、迷うことなく、全速力で直線に走って適当な小路に飛び込んでしまった。およそ勇猛果敢で鳴る武将らしからぬ行動である。

(いったい何だってんだ?)

 混乱する思考を整理する。

 敵は男と少女の二人、少なくとも相当の使い手である。名前はジョニー・サクラザカとシュリリン。以前、鬼の襲撃で収入源である畑を荒らされ金銭に窮し、天一刀に掛かった賞金を狙っている。

(逃げ切るか、倒すか、捕まえるか)

 対処法は三つ。ただ逃げ切ったところで向こうが再度付け狙う可能性は否めない。したがって自分を捕まえることが利に合わないと認識させる必要がある。そうなると後は倒すか、逆にこちらが二人を捕縛するか。

 捕縛するにせよ倒すにせよ、相手の実力は天一刀と同等かそれ以上であることは明白である。数的不利も考慮すれば単独での生け捕りは不可能だ。倒す場合も同じく、自身の不利が大きく響いてくる。町民を巻き込む覚悟で「アレ」を使えば二人を倒すことは出来るが、無関係な死傷者が多数出ることは確実だ。

「―――――――!」

「逃がさん!」

 シュリリンをおんぶした格好でジョニー・サクラザカが天一刀の行く手に立ちはだかった。どうやら別の小路を使って先回りしたらしい。

 単独での打倒も捕縛も逃走も困難。

 だが、これで方針は決まった。

(助けを呼ぼう)

 一縷の望みを託して天一刀は大きく息を吸い込み、

「ミンッッッ―――――メェェェェェェェェェェイィッッ!!!」

 天高く右手を突き上げて指を鳴らす。こう、「パキィィィッ」と。

「へっ、仲間を呼んだか。けどよ、駆けつける前にお前を……」

「呼びましたか、カズト様?」

「「駆けつけた――――――――!?」」

 ジョニーとシュリリンが驚きの声を上げる。世の中そうそう都合よく出来ていないはずなのだ。例え天一刀に主人公補正が多分に掛かっていたとしても限度はある。

 対してホクホクの肉まんを両手で抱えて現れた周泰は明らかに非番であった。こんな姿の彼女も珍しいが、逆にそれが天一刀にとっての幸運となったのである。

「一個、もらっていい?」

「どうぞ」

 天一刀はもらった肉まんを頬張り、ゆっくり咀嚼してから飲み込む。五臓六腑に広がる蒸し立てだからこその熱さと旨さが、彼の体に活力を与えていく。

 だが腑に落ちない、と言わんばかりなのはジョニーである。現れた「ミンメイ」なる少女が天一刀の仲間という事は、武将という事になる。だが彼の知識にある限りではこんな【可愛らしい幼女】……もとい武将はみたことが無い。

「……いかん。思わず恋をしてしまった。彼女は一体何者なのだ!」

「私は呉の将、姓は周、名は泰、字は幼平」

「しゅ……周泰だとぉっ!?」

 愕然と震え、両膝を地に着いてジョニー・サクラザカは懊悩を始める。【主よ、こんな素晴らしいシチュエイションが許されるのか!?】「いや、引っ込めよ〈決意〉」【だが幼女、幼女の武将であるぞ!?】「いや、幼女は幼女でも胸のサイズがBはあるし……」【胸なんて飾りなのだ。偉い人はそれが分からんのだ! 主よ、これはもう捕縛して調きょぐあっ!? 何をする小娘!】「頼むからお前ら黙っててくれ!」という一人問答の後、ようやく男は立ち上がった。

「そうか、周泰……」

 ジョニー・サクラザカは改めて自身の記憶に埋没し、己の戦いの歴史を振り返る。歩んだ己の道を……

 そして、結論は出た。

 それは実に至ってシンプルだった。

「真の追加キャラなら知ってるわけねえじゃねえかぁぁぁぁぁっ!!!」

 その言葉の意味、その深さを理解し得る人間がこの世にどれほど居るだろうか。少なくとも天一刀と周泰には何のことかさっぱり分からなかった。

「くそぅ……天一刀、今日のところはこれで勘弁してやるが、次は容赦しない。必ずその首を貰い受けるぜ! さらばだッ!」

 戦力差が覆ったからか、周泰がロリっ子だったからか……ジョニー・サクラザカはシュリリンを抱えて駆け出した。あまりの脚力に巻き起こる突風に思わず天一刀が腕で顔を庇い、風が収まる頃にはもう二人の姿は忽然と消え失せていた。

 襲撃者の撤退を改めて確認すると、天一刀はその場にへたり込んでしまった。見れば双戦斧を操っていた右腕が激しく震えている。

「カズト様?」

「だ、大丈夫だ……」

 とてもではないがそうは見えない。

 ジョニー・サクラザカの突撃は、天一刀の想像をはるかに超える重さだったのだ。不完全な姿勢から右腕一本のみで受け止めたこともあるが、指先から肩まで痺れきっているのは相手の一撃が至高のものであった証である。

 恐るべき男だと、心底天一刀は驚愕し恐怖する。

(まずは体を休めなければ……)

 早ければ明日にでも再度闘うことになるだろう。それまでにせめて右腕を元通りにしなければ。

 

 

 

「ご主人様……?」

 ジョニーの逞しい両腕の中でシュリリンが声を上げた。二人は街の外、広大な田畑の中に作られたあぜ道を抜ける途中だ。

 不意にジョニーが足を止めた。彼はそのまま片膝をつくと、シュリリンを降ろして腹に巻いているサラシを解く。全身を極限まで鍛え上げ、その筋肉は鋼の鎧と評しても不足無いほどの強靭さを誇る。その左陰腹が焼けたように赤く腫れ上がっていた。

「こ、これは!?」

「俺の突撃を受けた時に、きっちり返してやがったのさ」

 激突し、互いの体が離れる瞬間に天一刀は斧の柄でジョニーの腹を抉ったのだ。ほんの一瞬の出来事で、天一刀の虚を衝いたこともあって深刻な負傷には至っていない。だが彼の胸中に渦巻く感情を、賞金稼ぎ以上のものへ変えるには十分過ぎた。かつては一国の領主として戦乱の世を生き抜き、己が欲求ゆえに国を追われた男の闘争心に再び火が着いたのだ。

 シュリリンと二人掛りでもこれほどの力を持つ相手である。一対一ならどれほど良い勝負になるか想像に難くない。

(まずは傷を治療しなければ……)

 再びシュリリンを抱き上げて家路を急ぐ。早ければ明日にでも再戦することになるはずだから――――――――

 

 

 

 

 翌日。昇る陽は頂点に至り、取り決めたわけも無いが二人の戦士は互いの本能に惹かれあうように対峙した。場所は建業郊外にある演習場の一つで、もちろん無断使用である。

 西に立つは天一刀。得物の双戦斧を腰に携え、その双眸は鋭く相手を射抜く。

 東に立つはジョニー・サクラザカ。愛用の二刀はすでに抜いており、臨戦態勢のまま対峙する。

 両者の後方にそれぞれ控えるのは周泰とシュリリンである。周泰はシュリリンの援護を阻止する為、そしてシュリリンは周泰の加勢を妨害する為に同行したのだ。

「明命……頼む」

「はい!」

 天一刀の声を受けて周泰が走り出す。それに合わせてシュリリンも動き出した。

「ご主人様!」

「ああ、一対一だからな! 横槍を入れさせるなよ!」

 二人の少女が牽制し合いながら離れていく。

 こうして、戦いの舞台は整った。

「へっ、不思議なもんだな」

「……何がさ」

 漂う緊迫感の中、響くジョニーの声に天一刀が怪訝そうに問い返した。

「会って二日目だが、こんなに面白い勝負になるとは思わなかった」

「そうかよ」

 ジョニーの二刀がゆっくりと宙を流れる。対する天一刀の双戦斧は、やはり右肩に背負う上段の構え。腰を落として力を溜める体勢に入ると瞬く間に碧の雷光が彼の体が迸り、周囲を激しく照らし上げた。

 これにはジョニーも驚きを隠しきれなかった。目測で五メートルは離れているが、放射される熱と光は尋常ではない。ただ目を見開き、突如始まった超常現象を余すことなく観察する。

(マナの流れ……違う、もっと別の、異質なエネルギーだ)

 異質、よりもおぞましいと言うべきか。脈動しながら膨れ上がる雷は天一刀の全身を取り込み、今や巨大な刃となって振り下ろされる瞬間を待っている。

 そしてジョニーは悟った。これぞ天一刀が戦場において無類最強と噂される理由、すなわち『天覇招雷』。他の将と一線を画すという彼の武勇が人伝に千里を渡って付いた秘奥の名である。

【戦場に立てば無双の武将と成りて、敵陣を穿つ……なるほど手強いぞ、主よ】

 ジョニーの脳裏だけに囁く男の声が、敵の実力を過不足無く評価する。

【ですがそれは、普通の人間が天一刀の相手だったからに過ぎません。ご主人様ならば勝機を掴めます】

 今度は女の声がジョニーを激励する。だがそれは無責任な声援ではなく、確固たる確証の上に成立する後押しだ。

 全身から一切の余分な力を抜き、ジョニーは今一度相手を見据えた。

(一か八か、だけどな……いいな!? 〈決意〉! 〈戦友〉!)

【応!】

【もちろんです!】

 愛用の二刀――――――九州肥後同田貫上野介と脇差を頭上へ振りかぶる。差異は有れど、同じ上段からの構えに至った両者は呼吸を乱すことなく機を窺い続ける。

 

 

 

 一方の周泰とシュリリンの戦いは激烈なものと化していた。シュリリンの扇から放たれる無数の針が嵐となって襲いかかり、対する周泰も愛用の長剣を振るえば刃風はカマイタチとなって迎え撃つ。

 一進一退の攻防が続くが、この勝負はシュリリンに軍配が挙がるだろう。遠距離から絶えず攻撃できる彼女に対して、周幼平は剣という極めて狭い間合いで闘わねばならない。もちろんシュリリンが剣の間合いに自ら入ろうとするはずも無く、故に消耗戦の末に周泰が力尽きることは明白だった。

 だが、一度大きく距離を取った周泰は意外な行動に出た。

「はぁっ!」

「……え?」

 突然、彼女は懐からネコミミ―――――――蜀の劉備から授かった―――――を取り出し、自身の頭へ装着したのだ。敗北を前にして気が狂ったか? 否、生粋の武人である周泰が自ら勝負を捨てるはずが無い。

 では今の行動にどんな意味があると……

「変――――――――身!」

Visoride… NekoMimi!】

 両手で構えた長剣の鍔を額に当てて、「キィンッ」と鳴らすと桃色の闘氣が周泰の全身を包み込んだ。もはや理解の追いつかないシュリリンの前ではっきりとした声音が告げるのだ。

 変身、と。

「は、はわ、はわわわわわわわわぁっ!?」

「猫耳仮面、周泰……お猫様に代わって成敗します!」

 一際大きくなった猫耳、両手の手袋は肉球付きの猫の手にはどうやって保持しているのか愛用の太刀。さらにお尻からぴょこん、と生えた長い尻尾は三本。

 南蛮に古来より伝わる秘儀によって造り上げられた装飾品には、時として神獣の力が宿るという。それに猫への厚い信仰心を持つ周泰の魂が感応する事によって、彼女は正義の仮面剣士に生まれ変わるのだ。仮面を着けるのはお猫様がシャイだから。

 しかも貌を隠す仮面はクリア素材で出来たバイザーである。仮面ですらない気がするが気にしてはいけない。

「悪党の腹心、シュリリン……覚悟!」

「えええええっ!?」

 もはや弁解も土下座も間に合わない。

 周泰が下段に構えた太刀の鍔を再び鳴らすと、

Final Atack Visoride…Ne, Ne, Ne, NekoMimi!】

「ちぃぇぇぇぇぇぇいぃっ!」

 放たれる閃光の斬撃を前に、シュリリンはもう泣き崩れるしかなかった。

 

 

 

 遥か遠方で爆音。

 それを合図に、二人の猛者は動き出した。

「ダブルッ……トマホォゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!!」

 突進しつつ天一刀の振り下ろした双戦斧は、圧倒的な破壊力を以ってジョニー・サクラザカへ襲い掛かる。そして巨大な雷の刃を鋼にて防ぐことは不可能。実体を持たない高圧電流の奔流を、どうして日本刀で凌げよう。

 つまりジョニーは回避以外の手段しか取り様が無く、避けたところで彼の命は助からない。例え間合いを外しても、双戦斧が大地に激突する瞬間に起こる大爆発は彼に確実に甚大な傷を負わせる。無作為に飛散する岩盤の破片、爆発の熱と衝撃波……純粋な実力評価の元、ジョニーは前後左右の何処へ逃れようと確実に自分が行動不能に陥ると結論した。

 雷が地面を撃ち、爆発する。使い手までも巻き込む大爆発は建業の街まで揺らすほどで、天一刀を中心に半径百メートルは完全に陥没。しかし砕けて吹き飛ばされた岩盤が周囲に降り注ぐ中、頭上で(・・・)彼の反撃は始まった。

「おお―――――――――――」

 空中、天一刀の頭上およそ30メートルでジョニーは背筋を駆け上る恐怖に恍惚としていた。何故無事なのかと言えば、彼は双戦斧が放たれる直前に自身の全能力を投入して跳躍したからだ。かつて妖精の世界で神の剣を振るっていた異邦人――――――桜坂柳也だからこそ実現可能な荒業である。

(紙一重、か……)

 ジョニーの靴底から黒い煙が上がっている。薄皮一枚の差で相手の威力圏外へ逃れることができたが、あと一呼吸の半分でも遅れていれば舞い散る破片と共に墜落していただろう。

 天一刀のこの技はあくまで地上戦を主眼に置いたものである。上段から振り下ろされた一撃は眼前に立つあらゆる敵を粉砕出来る。そして広範囲に渡る衝撃波を避けようにも、人間の跳躍力ではあまりに不足で左右に跳んだぐらいでは到底助からないだろう。

 かつて馬超が技の放たれる前に阻止しようと試みたが、これは非常に有効な手段であった。だが槍で雷は止められない。ジョニーは目の前で膨れ上がる雷を見て後の先を取ることは不可能と判断し、空中へと逃れたのだ。

 振り下ろす型の技ならば、上へはどう足掻いても行き届くものではない。

「おああああああああああああああああああアアアアアッッッ!」

 そしてあれ程の大技、仕手に返ってくる反動も凄まじい。その最大の隙を突いて空中よりサムライが奇襲する。

 ここにジョニー・サクラザカ、必勝の計が完成した。

 頭上へ振り上げた二刀を、体ごと超高速で振り下ろす。まだ滞空している段階で、彼はあろうことか刀を振るい前回転を始めたのだ。まさに滝水を受けた水車の如く、大気を切り裂いて廻る。

【これぞ我らと!】

【ご主人様の合体技!】

「スパイラル、大回転斬りッ! チェン恋ヴァァァァジョォォォォォンッッッ!!!」

 渾身の一撃が天一刀の左肩に喰らいつく。肉を裂き、刃金が骨に至る感触に勝利を感じ……

「――――――っ」

 しかし双戦斧もまたジョニーの左肩を捉えていた。頭上から肉薄する敵に気付いた天一刀が僅かに残った膂力で双戦斧を再び振り上げたのだ。

 鮮血を撒き散らして両者とも大地に転がる。天一刀は自身の技の反動に加えて受けた肩の傷が深く、ジョニーは天一刀の返し技で姿勢を崩し、着地に失敗して地面に激突した。互いに必殺の一手を破られ、満身創痍。

「やってくれるよ……」

「テメエこそ、よくも……」

 一投足の間合いから睨み合い、

「「グ……ハッ」」

 臓腑から込み上げてきた血を吐き出す。

 完璧なまでの相討ちであった。

 

 

 

 離れて控えていた楽進たちと周泰が合流し、天一刀を収容して下がっていく。なんのかんので解放されたシュリリンに肩を貸してもらい、遠ざかる(正確には連行されていく)強敵の姿をジョニーは遠い目で見つめていた。

 全身で感じる心地よい疲労感は、体のあちこちが悲鳴を上げることで一層確かに感じられる。まさに戦士の性だった。

 じゃり、と砂塵の擦れる音にジョニーが振り返ると、今回の首謀者が沈む夕陽を背に立っていた。

「悪いな、依頼は失敗だ」

「…………」

 赤い太陽のために顔は影に覆われ、その表情をうかがい知ることは出来ない。分かることは長身の女性で、ジョニー・サクラザカ好みのグラマーな美人だという事。後は、金色の髪を長く伸ばし、左右で螺旋を描く形に結わえていることぐらいか。

 依頼主の女は特に何も言わずシュリリンに金塊の入った皮袋を手渡すと、そのまま踵を返した。

「これ、報酬なんてもらえません」

「確かに『天一刀を捕らえて私の前に連れてくる』依頼は失敗ね」

「それなら―――――」

 食い下がる少女に女は背を向けたまま首を巡らせ、視線を二人に戻した。

 その貌には笑みがある。

「私のカズトが生きている。それを確かめさせてくれたお礼よ」

 きょとんと首を傾げるシュリリンだったが、ジョニーは苦さを噛み締めた表情で口を開いた。

「取り戻すのか?」

「ええ。私から、私のカズトを必ず取り戻す……フフッ、アハハハハハハハハハハハハッ!!!」

 湧き上がる歓喜の声には、どこか狂気さえ感じられる。だがその狂った世界に生きていたジョニーには、彼女の望みに共感してしまう部分があった。だからこそ天一刀に願うのだ、この恋焦がれた果てに居る哀れな女を救ってくれと。

 

 

 笑い続ける女の向こうでは、雄々しき巨竜が主の帰還を待っている―――――――

 

 


あとがき

 

ゆきっぷう「体力が、限、か、い……だ」

 

天一刀「なら引っ込んでろ。真(チェンジ!)恋姫†無双 ―孟徳秘龍伝― 抱旅記ノ四をお読みいただきありがとうございます!」

 

タハ乱暴「いやん、ばかん、うっふん! どうも、今回、このあとがきに引っ張り出される羽目になった、タハ乱暴ことタハ乱暴です」

 

ゆきっぷう「うむ。訪問に感謝の意を表し、今回何故出てくることになったのかを説明する権利を贈呈しよう」

 

タハ乱暴「俺が説明するんかい……。まぁ、するけどさ。えっと……何から話そうか。そうだなぁ、あれは、俺がまだ一五歳の少年だった頃……」

 

じょにー「そんな昔に戻る必要はない! どうも、みなさんおはんこばんちはっす。今回、チェン恋にゲスト出演させていただきました、タハ乱暴著、永遠のアセリアAnother……の、おまけの主人公、じょにーです」

 

ゆきっぷう「彼が天一刀討伐戦線に参戦するに至った経緯はまさに悲劇としか言いようがない!」

 

タハ乱暴「悲劇、かぁ? 最初に、柳也……じゃなかった、じょにーをこの話に登場させていいか、って持ちかけてきたのはお前じゃないか」

 

じょにー「んだんだ。たしか、俺と朱里がかいぐりかいぐりやっているシーンを読んでツボにはまったから、出演を依頼したんだったか」

 

ゆきっぷう「如何にも。そしてシュリリン×ジョニーのカップリングを成立させた俺は、数回に渡るプレゼンの末にタハ乱暴から許可をもらったのだぁっ!!!」

 

じょにー「蛸にも。補足説明すると、タハ乱暴の著作、永遠のアセリアAnotherには、各話本編後に、アセリア主人公の俺、桜坂柳也ことじょにーが、無印恋姫の世界で熟女を狙って三千里を歩くおまけストーリーが掲載されているんだが、同じ恋姫繋がりということで、ゆきっぷうから出演のオファーが来たんだ」

 

ゆきっぷう「というわけで、チェン恋に登場するジョニーはおまけストーリー後、外史を渡ってきたという壮大な設定が――――――――」

 

シュリリン「…………おかげさまで、八百一本と縁遠い生活を強いられていますが」

 

タハ乱暴「それもこれもタキオスが、柳也の召喚ポイントを間違えやがったから……かくして、今回の話でじょにーが登場するに至ったわけだが、ゆきっぷう、今回の話は、結局、何だったんだ? 天一刀の受難変?」

 

ゆきっぷう「違う! 授産編!」

 

じょにー「あの種馬野郎……とうとう行き着くところまで行っちまったみたいだなぁ」

 

タハ乱暴「授産ね。まぁ、あいつのガキが何人生まれようが知ったこっちゃないけど(酷いっ)。でも、今回の話で一刀の新しい一面が出てきたな」

 

ゆきっぷう「ああ。まあ、普通に考えれば原作でもああいう狂人じみた感じになってもおかしくないよねー、と思ってシナリオ書きました。あとシャオとの絡みを作るついでに」

 

じょにー「なるほどなぁ。最後に出ていたあの女性、俺の依頼人つうか、嫁候補については?」

 

ゆきっぷう「ん? 『魔王』のことか?」

 

じょにー「そう。真桜のこと」

 

タハ乱暴「これこれ、字が違う。……どうも、本作のキーパーソンのようだが、やはり、いまはまだ語れない?」

 

ゆきっぷう「『魔王』の二字で全てを察してくれい、としか」

 

シュリリン「で、確認なんですけど?」

 

全員『ん?』

 

シュリリン「ご主人様と私の夫婦関係は正式なものと判断していいんですか!?」

 

タハ乱暴「んう? なに? そんなに夫婦になりたいんか? じゃあ、原作者公認でオッケー牧場」

 

じょにー「返事軽ッ?!」

 

タハ乱暴「いやぁ、だってじょにーだし。これが本編の桜坂柳也だったらアレだけど、所詮、じょにーだし」

 

天一刀「そもそも、なんでジョニーなんだよ?」

 

じょにー「姓は桜坂! 名は柳也! 字はジョニーで、真名はトニー!」

 

天一刀「いや、質問の答えになってない……」

 

タハ乱暴「答えてるじゃないか? 要するに、その場のノリさ。何だったら、アレでもよかったんだぜ? 姓は孫、名は悟、字は空、真名はカカロッ――――――」

 

ゆきっぷう「タハ乱暴キィック! 執筆者としてそれだけは看過できんわ!」

 

じょにー「説明しよう。ライダーキックは十五メートル三十センチの高さから跳び蹴りをかますのに対し、タハ乱暴キックは、一メートル五十センチの高さから跳び蹴りをかますのである!」

 

タハ乱暴「うわー。やられたー」

 

ゆきっぷう「ぐあー、脚を挫いたー」

 

シュリリン「宴もたけなわですね。皆さん、またお会いしましょう!……まあ、私とご主人様はもうでないと思いますが」

 

じょにー「FuFuFu、シュリリン、はたしてそれはどうかな? 読者さんの反応次第では、次回もきっと出番が……!」

 

ゆきっぷう「あるよ、最終話」

 

じょにー「百ほぅぅぅぅぅぅぅう宇宇ううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううううう言いいい言いいい言いいい言いいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!」

 

ゆきっぷう「自動変換をあえて直さないことで喜びの感情を表現している!」

 

天一刀「次回のチェン恋は普通です。では今度こそ、さよーならー!」

 

ゆきっぷう「さよーならー!」

 

タハ乱暴「永遠のアセリアAnotherもよろしくねぇ〜」

 

じょにー「こらそこ! 人ン家のあとがきにまで出しゃばって番宣をするなぁ! あ、永遠のアセリアAnother、よろしくぅ!」

 

全員「ではでは〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

北斗「で、出遅れたぁ」

 

瓜大王「I’m late, too!」




今回、一刀がちょっと暴走というか、本性というか、そんな感じのを出しちゃったけれど。
美姫 「うーん、ちょっと危ないわよね」
これが何かに影響しなければ良いけれど。
美姫 「所で、今回の最後のお話は外伝的な扱いなのかしら」
うーん、最後の登場人物が結構キーになりそうな事を言ってたから違うかも。
美姫 「本当にどうなるのか、気になるわね」
うんうん。次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね〜」



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