第十話 気づかなかった再会の日





「んー、んー」
「ん?」
 
服を引っ張られ、縁側に座ってお茶を飲んでいた恭吾は下を向く。
すると何が嬉しいのか、膝の上にいたなのはが、にぱーと笑った。
その笑みにつられるように恭吾も薄い笑みを見せ、湯飲みを右手に持ち替えて、左手でなのはの頭を撫でた。
それに、にゃーっという声を出して、やはり嬉しそうに笑うなのは。

「平和だ」

恭吾はなのはの頭を撫でながら再び茶を飲み、そんなことを呟いた。




恭吾と恭也が高町家に戻ったのは三月の終わり。恭吾たちとしては、始業式ギリギリまで旅を続けたかったのだが、その前に終わることとなった。
高町家の家長、桃子からの命令であった。一年ぶりに学業に復帰にするのだから、その準備もあるだろうということだ。しかも二人はこれから一学年遅れてしまうのだからなおさらだ。旅の疲れを癒す時間も必要だとも言われた。
今となっては、恭吾もこれが正しかったと思う。
恭吾は二度目であったりしたので、それほど疲れなどはなかったし、一度目の時は自分の疲れのことなど気にしてもいなかった。
しかし端から見て、恭也の肉体的な疲労も、精神的な疲労も良く見て取れた。まだ小学生の身で、一年もの間全国を回っていたのだから当然と言えば当然のことだ。しかも鍛錬は休まず、色々な人たちと試合をしていたのだから尚更のことだろう。
やはりこのへんはさすがは桃子と言ったところなのかもしれない。

(美由希もちゃんとやっていたしな)

正直に言えば、恭吾は美由希のことが心配だった。
確かに手紙や電話で鍛錬の指示を出していたが、それをちゃんとこなせるかどうか。確かに未来の美由希はそれをこなした。
だが今回、恭吾は武者修行の決行を早めた。それはつまり残された美由希は、未来の美由希よりも早くそれを経験した。精神的な面で心配だったのだ。
だが、美由希はちゃんとこなした。それは少し剣筋を見てやっただけでわかる。
もしかしたら美由希は、精神的な面で言えば未来の美由希よりも成長が早いかもしれない。

高町家に帰ってきて十日ほど経ち、とりあえず始業式まではあと三日ある。すでに恭也の疲れも取れ、今はその美由希と二人で鍛錬をしていた。
いや、正確に言うならば、恭也が美由希に手ほどきをしている。
やはり教える立場から見えてくるものもあるし、観察眼も養える。美由希の成長を促せ、恭也に対しての鍛錬にもなるので一石二鳥と言える。

「うー」
「ああ。すまない、なのは」

考え事をしていて、なのはの頭の上から手を離してしまった。
唸るなのはに謝罪して、恭吾は再びなのはの頭を撫で始めた。
どうにも帰ってきてからなのはは甘えてばかりだ。それに付き合ってしまう恭吾も、やはりこの時代でもなのはに甘いということだ。

「まあ、かーさんよりかはマシか」

まさか帰って来た日に、家族五人全員で一緒の部屋に寝かされるとは思わなかった。
一年前、見送る際に言ってきた言葉を、桃子はきっちり覚えていたのだ。そして帰ってきた次の日、本当に恭吾と恭也に色々な意味で甘えてきた四児の母である。
そしてそれが終わってからは、なのはの甘えである。恭也も相当に甘えられているようだったし、美由希も桃子やなのは程ではないにしろ、きっちり甘えてくる。

(やはり、少し接し方を間違っていたのかもしれないな)

それは美由希に対して思うこと。
恭吾は、未来でも美由希の師であった。だが未来の美由希は、今の美由希ほど甘えてくることはなかった。それは半ば恭吾が師として甘えさせてはいけないというような接し方をしていたためでもあった。

(子供が甘えていけないわけではないだろうに)

剣の修行があるから甘えさせてはいけない。それは当たり前のことではあるが、それを兄妹としての関係……普段の生活にまで持ってくるのはどうかと、この頃思い始めている。まあ、このへんは美由希との歳の差がかなり開いたために出てきた考えでもあるが。
そのため恭吾は、美由希が甘えてきても応えていた。かつてできなかった、してやれなかったことを返すかのように。
もちろんそれは日常生活の中でのこと。剣の道ではきっちりと厳しいままで、甘えは許していない。
その分恭也には一切甘えを許さない。自分に甘くした所で意味はない。というか、過去の自分が甘えるなど気持ち悪いだけだし、恭也もまず甘えてくることなどない。恭也の場合はそのへんがすでに大人になってしまっている。

「三日後から……学校か」

恭吾は、猫のように自分の膝で丸くなっているなのはの頭を撫でながら、ぽつりと呟く。
すでに復学の手続きは終わっているものの、恭吾にしてみれば学校生活というのはそれほど大事なものでもなかった。
本来ならすでに卒業しているし、過去……未来と違って、赤星勇吾、月村忍のような友人らしい友人はいない。なので特に意義を感じていなかったのだ。

「……今まで通り寝て過ごすか」

桃子あたりがその言葉を聞けば、それでは恋人ができないとか言われそうではあるが、聞いているのはなのはのみ。まだ片言しか喋れない幼い彼女が、説教する訳もなかった。


恭吾は大切なことを忘れていた。
ここが似たような過去であること。
自分が前の時よりも早く風芽丘に通っていること。
一年学年が遅れてしまったこと。
そして……未来で関係していた人たちが、今何歳であるかを。



◇◇◇



春休みが終わり、久しぶりの学校。在学生たちにとっては今年度初の登校になる始業式。
恭吾にとっては一年ぶりの学校。
その恭吾は、張り出されていたクラス分けを見て頭を抱えていた。
恭吾のクラスは2年A組。
別にそれはいいのだ。学校に通う意義をそれほど感じていなかった恭吾である。別にクラスなどどんな組でも構いはしなかった。
しなかったのだが……

ちょうど出席番号順で並んでいる女子の名前。恭吾の隣にあった名前は、

『千堂瞳』

見覚えがあり、聞き覚えがある名前だった。
名字が『は』行である恭吾の隣が、『さ』行の名字というのも凄いものだが、それ以上に……未来の……知り合いと同姓同名なのはさらに凄いな、とか少し現実逃避をしてみる。
何度か目を擦って再度確認したが、その名前は変わらず。そしてさらに視線を上へと持っていってみれば、

『神咲薫』

聞き覚えがありすぎる名前がもう一人分書かれていた。
どちらも未来でそれなりに親しかった人物である。
ここまできて、恭吾は現実逃避を止めた。

(忘れていた)

この時期はまだ二人は学生である。というか、そのへんを考えると……

(相川さんや鷹城先生たちもいるな)

確かそれらの人たちは薫や瞳の一つ下であったはずだから、今年風芽丘に入学したはずである。
一年以上前に知佳と会ってはいたが、そんなこと考えてもいなかった。
一学年遅れてしまったことで、彼女たちと同じ学年になってしまい、恭吾は早めに武者修行の旅に出たことを少し後悔した。
旅に出なければ、少なくとも一学年離れているため、接触することなどほとんどなかっただろう。
別に彼女たちを避けたいわけではない。ただどう接すればいいのかわからないのだ。
恭吾はすでに今いる時代が過去であると同時に違う世界だと割り切っている。積極的に未来を変えたいとは思わないが、変えてしまってもいいと思っていた。というよりも、意識せずだが、すでに幾つも変えているため今更な話なのだ。
だが、それはあくまで高町家周辺。同時に高町家以外の者たちにまで接触していいのかを迷ってもいる。学校で知り合いを作らないのも、これが僅かでも理由のうちに入っている。
下手に高町家以外の者……それも未来で関わった人たちにまで接触していいものか。
そう考えるが、

「結局同じクラスになってしまったんだ。ここで考えても仕方がないか」

個人的な理由でクラスを変えられる訳もない。すでにクラスが一緒になってしまった以上、今更どうしようもないのだ。

「行くか」

恭吾はため息を吐き、クラス分けを見て喜んだり落胆したりと一喜一憂している他の生徒たちを掻き分けて、指定されたクラスへと向かった。




恭吾がそこを離れた少しあと、ちょうど少し前まで彼が立っていた場所に、二人の少女が現れた。
二人ともどこか凛とした雰囲気を持ちながらも、どちらもまた違う雰囲気を纏っていて、周りにいた生徒たちもそんな二人をどこか遠巻きに覗いている。

「一緒のクラスみたいね、薫」
「うん、そうみたいだ」

そう、千堂瞳と神咲薫である。
校門で出会った二人は、こうして一緒にクラスの確認に来たのだが、二人は同じクラスであった。
それを確認したあと、瞳は一応となりの男の名前を確認してみた。最初の席替えが行われる前までは、とりあえずその人物が隣の席になる。昔あることがあって男性恐怖症となっている瞳にとって、それは重要なことでもあったのだ。

「不破恭吾?」

瞳が呟いたのを聞いて、薫もその名前を確認する。

「聞いたことがない名前じゃ」

二人とて別段同じ学年全ての生徒の名前を覚えているわけがない。しかし、それはそれなりに珍しい名字だった。
まあそれはいいかと、二人は新たなクラスへと目指す。
とりあえずその間、お互いの部活についてなどを話していると、存外早く割り当てられたクラスに辿り着き、二人はこれから一年通う事になる部屋の中へと入った。
やはり多少注目を浴びるが、二人は気にせず自分たちの座るべき席を探していた。そんなとき二人はその人物を同時に見つけ、瞬時に眉を寄せた。

「薫……」
「うん、強い」

それは頬杖をついて目を瞑っている少年。
だがその少年はすぐに目を開き、その視線を二人に向け、少しだけ間を空けたあと、僅かに頭を下げた。
それに慌てて頭を下げ返すと、瞳は黒板に名前の順で書かれている席順を確認する。そしてその少年が不破恭吾であることに気付いた。

「あんな人、いた?」
「いや、うちは知らない。じゃけど、あれに今まで気付かんかったのはおかしかね」

瞳と薫はお互いがわかるだけの小声でそんなことを言い合う。
その少年は見ただけで『強い』とわかるものを持っていた。
座っていても、どこか寝ているような体勢を取っていても、決して重心を狂わせず、いつでも動けるようにしていた。実際に二人が視線を向けただけで、彼はそれに気付き、瞑っていた目をすぐに開けたのだ。
それだけでなく、容姿は美形と言って良いものだった。
その容姿だけでそれなりに噂が流れてもおかしくない。瞳と薫はあまりそう言った色恋の話には深い興味はないものの、そういう話はどうやっても耳には入ってくるものだ。
今も実際、何人もの女生徒がチラチラと彼を眺めている。
だが、やはり不破恭吾という名前に聞き覚えはなかったし、ある程度見ただけで強いとわかるのに、今まで気付かなかったのもおかしいことだ。
新学年に合わせての転校生だろうか。
そんな疑問を二人は持つものの、このまま部屋の入り口にいては迷惑だろうと、二人は歩き出す。
瞳の席……つまり不破恭吾の隣の席は、窓側から二列目で一番後ろだった。そして薫は窓際の一番後ろ……つまり席の場所自体は近い所になった。
瞳は近視なのでこの席は少々辛い。もっとも暫くして落ち着いた頃には席替えが行われるだろうし、あまりかけたくはないが眼鏡をかければ問題ないと言えば問題ないのだが。
瞳は席に着くと、隣の恭吾へと顔を向けた。

「不破……恭吾君、ですよね?」

瞳は男性恐怖症であるとはいえ、その性格から男性でも無視などしない。何より触れさえしなければ何とか耐えられる。

「ええ。千堂さん」

瞳がにこやかな笑みで声をかけたのに対して、恭吾は無愛想というのを絵に描いたような無表情で返した。

「あら、私のことを知っているんですか?」
「席が隣ですから、一応確認させてもらいました」

やはりその返答も感情の籠もらない無愛想ではあるものの、瞳はとくに気にしなかった。
表情はなく、どこか冷たく聞こえる声ではあるが、決して人と話すのが嫌だとか思っているわけではないというのがわかるのだ。
元々感情を表に出すのが下手なのだろうと瞳は結論づけた。
さて、そろそろ一番聞きたいことを尋ねようとしたときだった。
今日から新しくクラスメイトになる周りの人物たちが、いきなりざわめいた。そしてその全員が部屋の入り口に視線を向けている。

「なにかしら?」
「……?」

それを見て、瞳と恭吾も何事かと同じくそこへと視線を向ける。
クラスメイトたち視線の先、教室の入り口には五名ほどの女子生徒がいた。風芽丘の特色から制服はバラバラであるが、その一部にある学年色から上級生であることがわかる。
上級生というのがざわめきの答えだろう。
なぜここに上級生が、ということだ。もちろん部活の後輩に会いに来たというのならありえるが、わざわざ五人も固まって来ることはないだろうし、さすがに五人揃って部屋を間違えたということもあるまい。その証拠に彼女たちは誰かを探すようにこのクラスを見渡している。
今日は始業式。これから新たなクラスになるというのに、その新たなクラスで親睦を深めるより、このクラスに来ることを選択したということは、何かあるのではないか。
その上級生たちはしばらく部屋を見渡した後、その視線を瞳の方へと向けた。
いや違う、あれはその隣の恭吾を見たのだ。
上級生たちは、恭吾に視線を向けたあと暫く話し込む。それから教室の隅を通って恭吾の目の前に立った。
先輩の少女たちに別段威圧的な雰囲気はなく、それどころかどこかオドオドとしている。

「あの、不破君」
「はい」

上級生に突然話しかけられたにも関わらず、やはり恭吾は気負いなく応えた。
瞳を含めて、そのクラスの者たちは全員それに注目してしまっている。だが、三年生も恭吾も気にした様子はない。

「どうして二年生になっちゃったんですか!?」
「はい?」

あ、初めて表情を変えた、と瞳は内心で思った。
恭吾の顔には困惑の表情が張り付いている。態度は落ち着いているものの、彼も事態についていけてないというのが伝わってくる。

「だって、去年休学しちゃって」
「えと、すみません、あなた方は?」
「覚えてないの? 一年のとき同じクラスだったんだけど」

五人の女生徒に詰め寄られながらも、恭吾は何やら思い出そうとしている。

「……ああ。そういえば」
「思い出してもらえたかしら?」
「すみません、名前までは」
「それはいいんです。これから覚えてもらえれば!」
「は、はあ」
「それでどうして二年生なんですか!?」

五人にさらに詰め寄られ、それを押し止めるように恭吾は両手を上げて突きだした。そして深々とため息を吐く。

「家庭の事情ですよ。去年はまあ色々ありまして、ほとんど家にはいませんでしたから。そのため休学したんです。今回復学しましたけど、二年の授業を丸々受けてませんから三年には上がれません」

恭吾の声はクラスメイト全員に届き、それについて話す囁き声が聞こえてきた。クラスの中に実は年上がいるというのだから、それも当然だろう。
学生のうちは部活にでも入らなければ、大抵の場合年上……つまり、先輩というものには接点があまりない。もちろんそれでも知り合うきっかけは他にもあるだろうが。学校という閉鎖的な空間では、どうしても教師以外の年上というのは近寄りがたいものだ。その教師とて担任か、部活の顧問でもなければ話しかけづらい。
ある意味、この場において彼は異端だということだ。今、彼に詰め寄っている上級生を含めて。
それについて『ラッキー』だとかいう少女の声もあれば、舌打ちする少年もいる。周り……このクラスの反応は様々だ。
だが、瞳や薫にしてみれば、疑問が氷解した。つまり二人が一年であったとき、彼はいなかったのだ。ある程度強さがわかっても、その人物を見なければ存在に気づけるはずがない。
そんなことを瞳が考えていると、いつのまにか恭吾は三年生たちを宥め終えていた。三年生たちは、またお話してくださいと告げ、教室から出ていった。
まさに台風一過。上級生たちが出ていった教室は、静けさに包まれている。だが、やはり小声でヒソヒソと何か話しているというのもわかった。
さて、そんな場面を見ていた瞳は、どうしようかと悩む。
どうやら年齢的には彼は一つ上のようだ。先ほどのように気軽に話しかけてもいいものか。

「災難ですね」

とは言っても、先ほどまでも敬語で話していたので、さほど気にすることなく瞳は話かけた。
元より瞳は護身道部に所属しているため、年上の先輩たちと話す機会は一年の頃から他の人たちよりも多かったため、それほど気にせずにいられた。

「はあ」

そんな瞳の言葉に、恭吾はため息とも返事とも取れる声を漏らしたのであった。





あれからすぐにこのクラスの担任となった教師が現れたため、すぐにクラスメイトたちは静かになり、瞳も教壇に視線を向けている。
その教師が自己紹介をしていたが、恭吾はそれを聞き流していた。

(本当に俺もまだまだだな)

恭也のことをどうこう言えないと内心でため息を吐く。
恭吾から見ると二人との再会。薫と瞳に視線を向けられ、恭吾は顔を上げたわけだが、二人はどうも入ってほとんど間もなく恭吾を見つめた。
それはつまりある程度の強さがあるとばれたからに他ならない。
強さを少しでも悟られる、もしくは普通とは違うと感じ取られるのは、護衛の御神としては抑止にも繋がるのでまあ……決して肯定はできないが……いいが、不破としてはあまりよろしくない。
暗殺や殲滅を行う不破は、強者の見られてはならない。警戒心を与えてはならないのだ。相手に警戒させず、本気を出させず、まるで日常的な行為のようにその首を飛ばす。それが不破としての在り方。
御神流も、そしてその裏である不破流も、決して本当の暗殺剣ではない。あくまで暗殺『も』行える実戦剣術だし、恭吾も別に誰かを暗殺しようなどと思っているわけではないが、不破としては強さが伝わるというのは避けたい。
恭也にしろ恭吾にしろ、あまり戦う人に見せないように行動しているのは、周りの人たちに気を使っていただけでなく、そういう考えが根底にあるからだった。
恭吾とて、瞳が護身道の達人、薫は神咲一刀流の使い手であり、一灯流の当代であるというのは知ってる。だからその二人にばれないようにするのが、どれだけ至難な技なのかは理解していた。だが、それでもだ。
そうした人物たちからでも、強さを隠せるぐらいにならなければ、やはりそれは未熟だということだ。

(やはり父さんのようにはいかないか)

恭吾……いや、『高町恭也』の中で最強の存在である高町士郎。彼は不破として、それらの力を確かに感じさせない人であった。戦闘になれば、確かにその強さを感じ取ることができるが、普段の生活の中ではまるでその能力は測れない男。そう言う意味で彼は正しく不破だった。
言動が適当であり、行動が突拍子もないというのは、強さを隠すためには最適なものであったのだ。どうしても人は目立つものに目がいってしまう。士郎の場合は、その強者としての立ち居振る舞いよりも言動や行動に目がいってしまうというわけだ。

(まあ、父さんが強さを隠すために演技していたわけではないだろうが)

間違いなくそのほとんどは地であったであろうが、それでも士郎はそれを意識していないわけではなかっただろう。自分の性格に合わせて、そういう隠し方をしていた。
恭吾……そして恭吾と同じ存在であるこの世界の恭也は、寡黙に徹することで強さを隠すという選択をした。それはある意味、士郎とは真逆だ。何かを目立たせて、一番目立つはずのものを隠すのではなく全てを隠すという、ある意味では士郎がしていたことよりも難しいことをしている。
士郎のような生き方……自由に、奔放に生きることなどできないからこそ……何よりいくら強くなるためとはいえ、この性格を変えることなどできないというのがわかっているからこそ、恭吾と恭也はこういう隠し方を選んだのだが。
それでも……

「まだまだだ」

恭吾は隣に座る瞳に届かないよう気を使い、本当に小さな声で呟いた。
まあ、それも今はいい。
それよりも今は、これからどうなるかだ。
別に瞳たちと同じクラスになったからと言って、何がどうなるわけでもない。ただの席が隣の人で終わる可能性とてあるのだ。
いや……

(それも無理か……)

またも内心でため息を吐きながら、恭吾は呟く。
恭吾は先ほどから瞳と薫が、担任の話を聞きながらもチラチラと自分を盗み見てきているのを感じていた。
ある程度の戦闘能力があるとばれてしまったため、興味を持たれているのだろう。いつか何かしら声をかけられるような気がしてならない。
まあ、それでも、

(なるようになるさ)

どうも相手を知っているため、高町家に介入したことと同様に楽観的な答えに至ってしまっているが、それは恭吾の本心だった。
なるようになる。
恭吾とて、この時代の二人の強さには興味があるのだ。
だからこそ、恭也の鍛えようと決めた時と同じ答えに至る。

(ハメをはずさせてもらおう)

そう考えて、恭吾はうっすらと口元に微笑を浮かべたのであった。






あとがき

はてさて難産だった第二(三?)部的の最初。
エリス「本当に一年以上ぶりの更新だって言うのに、恭也の出番がなし」
あー、そのへん申し訳ないとしか。とりあえず1と2が入ってくるので、まず出会いを書かないと。次回はちゃんと恭也が出てきます。
エリス「それにしても本当に時間かかったね」
薫の喋り方がまったくうまくいかなかった。というか方言がまったくわからない。それでなかなか納得いくものが書けなかった。
エリス「これも納得いってないの?」
薫の言葉遣いが変な気がする。瞳もまだ知り合ったばかりの恭吾に地を出すわけないしあんな感じに。
エリス「遅くなってしまった上に今回は短い」
とりえず今回は二話分送っておきましたので。
エリス「今回はこのぐらいで、次回に」
では。



修行から戻ってきた恭也に恭吾。
美姫 「そして、新たな顔ぶれの登場ね」
早速、小さいながらも接点ができそうだけれど。
美姫 「さてさて、どうなるかしらね」
気になる次回は……。
美姫 「この後すぐ!」



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