アクセル。レジスト・ダウン。エアー・グリース……。

 ワルドを吹き飛ばしたその直後、才人が加速のために唱えた三つの神剣魔法の効果が、解けた。

 その瞬間、才人はかつて経験したことのない、途方もない疲労感を覚えた。身体の節々が痛みを訴え、筋肉の異様な発熱を自覚する。思わずよろめき、膝をつきそうになった。才人は慌ててデルフリンガーを杖代わりに身体を支えた。

 ――あ、れ……? なんで、俺、こんなに……。

「魔法の反動だよ、相棒」

 杖代わりに床に突き立てられたデルフリンガーが言った。

「風の加速魔法は、相棒の動きを加速させるが、所詮はそれだけだ。肉体の強度自体は変わらねぇ。……加速するってことは、反作用で荷重もきつくなるってことだ。身体強度が変わっていないのにGばっか増えれば、身体が痛くなるのも当然だろうよ。

 ……ちなみに言っとくが、相棒だから疲れる程度で済んでるんだぜ? 音速域に達するほどの加速だ。普通の人間だったら、とっくに内臓破裂起こしてるぞ?」

 神剣の基本的な身体強化に加えて、ガンダールヴの特殊能力が効いていた。伝説にも謡われたガンダールヴの能力は、あらゆる武器を使いこなせるようになること。武器の扱いに必要な知識は勿論、武器を振り回すのに必要な筋力さえ、左手のルーンは与えてくれる。今回、左手のルーンは、才人がデルフリンガーの能力を十全に引き出せるようにと、彼の身体強度さえも強化していた。

「アクセルもレジスト・ダウンも、本来はコンマ数秒間限定の加速魔法だ。相棒みたいに十秒、二十秒と加速状態を持続させるようなモンじゃねえ。ガンダールヴでないノーマルな人間が、そんな何十秒も高G下に身を置けば、真っ先にやわらかい内臓が潰れちまう」

「……ガンダールヴのルーンさまさまだな」

 デルフの示唆した最悪の結果を想像して青い顔をしながら、才人は自身の左手を見つめた。

 先ほどまで目が潰れんばかりに輝いていた伝説の使い魔のルーンは、いまは発光現象も多少落ち着き、静謐な輝きを纏っていた。

「……光が、」

「ルーンの輝きは、相棒の感情の昂ぶりを示している。いまは、あいつに一撃叩き込んで、少しは気の昂ぶりが落ち着いているってことさね」

 「いまになって疲れを感じるのはそのせいだ」と、デルフは付け加えた。

 なるほど、ワルドとの戦いの中で、デルフは、ガンダールヴの強さは心の震えで決まる、と言っていた。気が昂ぶっていた先ほどまでは、それに呼応して身体強度も上がっていた。だから、加速魔法の反動をまったく感じなかった。

 翻って、いまはデルフの言った通り、多少なりとも気持ちが落ち着いている。身体強化の程度も低下し、その結果、戦闘中には感じなかった疲れを自覚した、というのは納得出来る理屈だった。 

 背後から、そっと両肩を支えられた。ヤスデの葉を思わせる大きな手が、力強く、才人の疲れ切った身体を支えた。

 振り向くと、傷だらけの師匠が、莞爾と微笑んでいた。

「……やったな、ウルトラマン」

「そっちこそ、ウルトラマン」

 才人もまた、塵埃に汚れた顔に笑みを浮かべて言った。勝利の喜びと興奮、そして達成感に満ちた微笑だった。

 柳也は才人の右肩から手を離した。

 軽く拳を握って、才人の顔の前に出す。

 師匠の意図するところを、弟子は正確に察した。

 才人はデルフの柄尻から左手を離すと、こちらも拳を作り、柳也の拳に軽くぶつけた。

 そんな師弟のやりとりが合図だったか。

 戦いの趨勢を見守っていた女たちの口から、等しく安堵と歓喜の入り混じった溜め息がこぼれた。

 女たちの声を聴きながら、柳也と才人は、また微笑み合った。 

 守ることが出来た。大切な人たちの、この笑みを、守ることが出来た。

 達成感に満ち溢れた、涼しげな笑みだった。

「……急所ははずしました。前みたいに舌でも噛み切らない限り、死なない程度のダメージのはずです」

 才人が真顔になって、ブリミル像の足下で倒れるワルドを見て言った。

 柳也は頷くと、弟子の両肩から手を離し、油断のない足運びでワルドのもとへ歩み寄った。

 かつて友人と呼んだ男のかたわらに立った柳也は、その場にしゃがむと、そっと上体を持ち上げた。

 背中の傷を診る。

 才人の言った通り、背中の傷は急所をはずれていた。よほど正確かつ素早く突いたのか、傷自体小さく、出血量も少ない。意識を失った原因は、出血性のショックというよりも、蓄積された疲労と、刺突を受けた際の痛みによるものと思われた。

 柳也は手の甲でワルドの頬を叩いた。

 六尺豊かな身体を、小さく揺さぶる。

「起きろ、ワルド。お前にはまだ、聞きたいことがある」

 ワルド自身が口にしていた、彼に神剣と、ティラノサウルスを与えた男のこと。なぜ、トリステインを裏切り、貴族派に寝返ったのか。トリステインには、他に何人の内通者がいるのか。ワルドがこだわる、聖地とはいったい何なのか。

 聞きたいこと、と口にしたが、実際には聞かなければならないことだ。特に、ワルドに永遠神剣を与えたという謎の男については。

 ワルドの言によれば、件の男は、ティラノサウルスのことを『かつて自分の故郷の世界で繁栄した生き物』と、説明したという。その言葉を信じるならば、件の男は自分や才人と同様地球人である可能性が高い。『自分の故郷の世界で』などという言い回しを、このハルケギニアの人間が使うとは考えにくい。

 仮に、件の男が地球人だとすれば、彼はどうやってこの世界にやって来たのか。自分達のように何者かに召喚されて、この世界に連れてこられたのか。それとも、自らの意志で訪れたのか。もし後者だとすれば、それはいったいどのような手段を用いたのか。

 もしかすると、元の世界に帰るための手がかりが得られるかもしれないだけに、最低、件の男についてだけは確認する必要があった。

 柳也は頬を叩く手の甲に、淡くオーラフォトンを纏わせた。

 気付け薬の代わりに、攻撃的なマナを注ぎ込む。

 はたして、ワルドはすぐに目を覚ました。

 くぐもった呻き声が柳也の耳朶を打ち、何度かの瞬きの後、猛禽のような眼差しが、彼の頬を刺した。

「リュウヤ、か……僕は……」

 柳也の腕の中で、ワルドは視線を方々に飛ばした。状況把握のために礼拝堂内をぐるりと見回し、やがて才人達の健在ぶりを見て、得心した表情を浮かべる。乾いた口調で、呟いた。

「そうか……僕は、負けたのか」

「ああ。お前さんの負けだ」

「悔しいな……負け戦なんて、久しぶりだ」

 ワルドは瞑目すると、溜め息混じりに呟いた。

 負け戦とは悔しいもの。同じく軍人の柳也には、ワルドの気持ちがよく分かった。

 共感したいその気持ちを懸命に堪えながら、柳也は硬い声音で言う。

「いまの自分の立場は分かるな?」

「ああ。……トドメを刺さなかったんだ。捕虜、ということだろう?」

「捕虜の扱いは、ハルケギニアも異世界も同じだ」

「なるほど。目的は情報か」

「話が早くて助かるよ」

 ワルドの言葉に、柳也は諧謔めいた口調で頷いた。

「やっぱり好きだぜ。お前さんの、そういう頭のいいところ。素直に質問に答えてくれると嬉しいんだが?」

「質問の内容にもよるな」

 ワルドは、土気色のマスクに冷笑を浮かべて言った。

「死んだ母が得意にしていたシチューのレシピなら、いくらでも教えるよ」

「お前さんが言っていた、お前に永遠神剣を渡した男について」

「残念だが」

 ワルドは、小さくかぶりを振ってみせた。首を動かす際に、僅かに顔をしかめる。横転の際にか、それとも壁にぶつかった際にか、どうやら首の骨をやられたらしい。

 かつて友と呼んだ男のそんな様子に、柳也は一瞬顔をしかめるも、すぐに真顔になって「理由を聞いても?」と、訊ねた。

 ワルドは脂汗の滲む顔に微笑を浮かべて、回答拒否の理由を口にした。

「友達でね。友人を裏切るような真似は、したくない」

「婚約者は、裏切っても、か?」

 意図せず、硬い声が唇から飛び出した。

 口に出してから、しまった、と思った。この場にはまだ、裏切られた張本人たるルイズがいるというのに……自らの浅慮を、柳也は呪った。背後で、ケティを膝に抱くルイズが、ビクリ、と肩を震わせるのが分かった。

「ああ」

 柳也の問いに、ワルドは一瞬の躊躇いもなく、頷いた。

 背後から、誰かの息を呑む音。

 いま、ルイズがどんな顔をしているか、柳也は見たくなかった。

 ワルドはかつての婚約者には一瞥もくれず、柳也を見上げたまま続けた。

「奇妙に思うかもしれないが、僕にとって、家族や、恋人との絆は、友情に勝るものではないんだ。

 ……あの男だけだった。あの男だけが、僕の孤独に、気づいてくれた。僕の痛みに、気づいてくれた」

「……だから、友人を売るような真似は出来ない、と?」

「そうだ」

 ワルドは頷いて、静かに瞑目した。それ以上、友人のことについては一切に語りたくないという、明確な拒絶の意思表示だった。

 ワルドの言を受けて、柳也は小さく溜め息をついた。

 眉間に深い縦皺を刻みながら、困り顔で唸り声を発する。

 「まいったなぁ」と、意図せず、唇が動いてしまった。

 すると、今度は柳也のその呟きを拾って、ワルドが怪訝な表情を浮かべた。

「どうした?」

「……捕虜を尋問する際の原則は、相手の立場に決して共感しないこと、だ。捕虜の心情にいちいち共感していちゃあ、尋問など出来やしない。頭では分かっているんだが……」

 柳也はほろ苦く笑って、ワルドを見た。

「あかんなぁ。俺、いま、お前の気持ちがよく分かってしまう。友達を裏切りたくないって気持ちが、よく分かる」

 ワルドと、件の男との間に、何があったのかは分からない。ワルドの口から語られた断片的な情報だけでは、具体的に何があったのか、推理さえままならない。

 ただ、ワルドの口から飛び出した、「孤独」という単語と、それに対する「気づき」という言葉から、なんとなく、理解出来た。ワルドが、件の男のことをどう想っているのか。理解出来てしまった。

 おそらく、ワルドにとってその男は、自分にとっての佳織や、瞬と同じくらいに大切な存在なのだろう。

 自分にも、身に覚えがある。

 幼い頃、両親を事故で一度に失い、失意のどん底にあった自分。両親の遺産を狙ってハイエナのように近付いてきた親戚達の姿を見て、強烈な人間不信に陥ってしまった。他人を寄せつけず、また自らも寄ろうとせず……気づけば自分は、独りぼっちになっていた。孤独に震え、けれど他人を信用出来ず、毎日を、苦しみながら生きていた。そんな時に、瞬と、佳織と出会った。あの二人との出会いが、己を、孤独から救ってくれた。

 以来、自分の中で瞬と佳織は、他の何にもまして大切な友人となった。この二人の幸せのためならば、自分の命さえ賭してもよいと、真実、思えるほどに。大切な……。

 ワルドの感じた孤独とやらが、どんな類のものかは分からない。しかし、この男もまた、かつての自分と同じように、件の男との出会いによって孤独から救われたのだとしたら……そんな大切な友人を、売れるはずがない。裏切れるわけが、なかった。

「……分かったよ、ワルド。もう、これ以上、その男については訊かない。……だが、これだけは教えてくれ。さっきお前は、その男が自分に永遠神剣と、あのティラノサウルスを渡した、と言ったな? あのティラノサウルスは、元々、俺や才人君が暮らしていた世界の動物なんだ。それを連れていた、その男は、もしかして……」

「ああ」

 肯定の呟きが、柳也の耳朶を打った。

 柳也は、才人は、アンリエッタから密命を託された全員は、反射的にそちらを振り返った。

 背後を。

 背後にある、礼拝堂の出入り口の方を――――――。

 耳膜を打った声は、ワルドのものではなかった。

 ワルドの声とは似ても似つかぬ、男の、テノール・ボイスが、背後から、柳也達の聴覚を刺激した。

 足音が聞こえた。

 カツ、カツ、と不自然に甲高い足音が、近づいてくる。

 やがて、ワルドの放ったウィンド・ブレイクの衝撃で滅茶苦茶になった出入口から、一人の男が、礼拝堂に入ってきた。

 若い、男だった。

 黄金色に輝く双眸。燃え盛る炎のように赤い髪。鋭利な刃物を思わせる美貌は端整な造りをしており、甘いマスクには、不敵な微笑が浮かんでいた。シックな色合いの茶の上下に白いマントという装いで、一見したところ、メイジにように思える。

 しかし、柳也の抱いた推測は、続く男の発言によって否定された。

「お察しの通り、異世界人……それも、お前達と同じ、地球人だ」

 地球人。

 異世界ハルケギニアには存在しない名詞。存在しないはずの響き。

 赤毛の男は実になめらかな舌使いで、発音してみせた。

「……ウィリアム」

 柳也の腕の中で、ワルドが、ぽつり、とつぶやいた。

 英語圏に多いその名前が、男の正体を、物語っていた。

 

 

 

永遠のアセリアAnother × ゼロの使い魔クロスオーバー

ゼロの魔法使いとその使い魔と、ついでに現われた守護の双刃

EPISODE:44「金剛」

 

 

 

 赤毛の男が、礼拝堂内に入室した、その瞬間――――――、

 柳也と才人、二人の神剣士は、反射的に身構えた。

 マナが……、

 巨大な、マナの塊が……、

 この部屋に、入って来た。

 二人の神剣士は、赤毛の男の入室を、そう捉えた。

 二人の神剣士は、男の身体から、自分達をも上回る巨大なマナを知覚した。神剣士の、自分達をも圧倒する、巨大すぎるマナを。

 脂汗が、全身から噴き出すのを自覚した。

 不味い、と戦士としての本能が、警鐘を鳴らす。

 この男は危険だ、と生物としての本能が、警鐘を鳴らす。

 この男をこれ以上、この部屋の中に招き入れてはならない。この男を、これ以上生かしてはならない。この男を殺せ。いますぐ殺せ。いますぐ、襲いかかれ。本能からの指令。

 すぐにでも跳びかかりたい欲求にかられた二人は、しかし、その衝動に懸命に抗った。

 現在、ニューカッスル城内は、敵軍の総攻撃に備えて、誰もが己のなすべきことをなさんと忙しなく動いている。場内の警戒はかつてなく高まり、特に外からの侵入者に対しては、鼠一匹見逃すまい、という態勢で構えているはずだ。そんな中で、この男は城内に潜入し、城の廊下を歩き、ここまでやって来た。 明らかに、異常な事態だった。

 この男は得体が知れない。

 迂闊に手を出して、火中の栗を拾うような真似は避けなければ。

 この異常時にあって、冷静さを保つ理性からの指示を受けた二人は、本能からの要求を突っぱねた。

 いつでも動き出せる構えで、慎重に相手を観察する。

 先にも述べたが、この男は得体が知れない。まずは、少しでも多く情報を集めることに努めるべきだ。

 二人の神剣士は、そう判断した。

 他方、そんな二人の胸中を知る由もない赤毛の男は、甘いマスクに冷笑を浮かべたまま、平然とした態度で、一歩、また一歩と、ステップを踏みつつ、柳也達のいる方へと近づいていった。

 黄金色の眼差しは、柳也の腕の中にいるワルドに注がれている。

 男の狙いは、明らかだった。

 柳也達と違ってマナを感じ取ることの出来ないルイズ達は、事ここに至ってようやく身構えた。

 マチルダは油断のない視線を相手に据え置くと同時に、タクト状の杖を構えた。

 ルイズは、膝の上のケティを庇うように、後輩メイジの細い身体を抱く力を強める。

 そしてケティは、ルイズに抱きしめられながらも、魔法をまともに扱えない先輩メイジを守るために、蒼白ながらも杖を手にした。灰色の瞳には、気丈な覚悟があった。

 柳也はワルドを床に横たえさせると、自らは脇差を正眼に構えた。

 〈戦友〉に命じて、眼球の機能を赤外線暗視モードへと切り替える。

 思わず、苦笑がこぼれた。男の身体からは、デタラメな熱量の生外線が発せられていた。

 敵に弱味は見せられない。

 柳也は苦笑を誤魔化すべく、そのまま言の葉を発した。

「お前……」

「ん?」

 柳也の言葉に反応して、男が足を止めた。

 ブリミル像の足下で倒れるワルドとの距離は、およそ十メートル。

 柳也は、遠くに立つ相手にも聞こえるよう、凛、とした声音を紡いだ。

「いったい、何者だ?」

「こりゃまた、えらく抽象的な質問だなぁ……そうさな。やっぱり、いちばん相応しい表現は」

 赤毛の男は軽薄な口調で呟くと、ワルドを示して言った。

「そいつの友達、かな?」

「友達、なぁ……さしずめ、ここに来た目的は、ワルドを助けに来た、ってところか?」

「ああ」

 即答。

 一片の迷いもない、断言。

 小さく頷いた後、赤毛の男はそのままの立ち位置で、ワルドに言う。

「すまんな、ジャン・ジャック。来るのが、少しばかり遅れてしまった」

「……いいや」

 床に横たわるワルドは、かぶりを振って呟いた。

 首の骨をやられているはずだが、その顔には柔和な笑みが浮かんでいた。

「来てくれて嬉しいよ、ウィリアム」

「そこで待っていろ。いま、こいつら蹴散らして、助ける」

「手間をかけるな」

「悪いと思っているのなら、今度、飲みに行くときの代金はお前持ちな?」

 ウィリアムと呼ばれた赤毛の男は、人懐っこい笑みを浮かべて言った。

 軽口。

 ともに疲弊しているとはいえ、神剣士二人を含む五人の敵に睨まれて、どうしてそんな余裕があるのか。

 ウィリアムは「さて」と、呟いて、ようやく、初めて柳也達の顔を見回した。

 視線が合った瞬間、みなは自身を取り巻く外気が一気に五度ほど下がったかのような錯覚を覚えた。

 神剣士でない、マチルダ達までもが、得体の知れない恐怖に震えた。

「まぁ、よくも俺のダチをぶちのめしやがって、と文句の言葉を言ってやりたいところが、まずは素直に称賛しよう。よくぞ、ジャン・ジャックを倒した。〈隷属〉の力で強化されたあいつの力は、この世界のメイジ数十人、数百人分にも匹敵していたはずだが……よくぞ力戦した、と褒めたたえよう」

 ウィリアムは莞爾と微笑んでみせた。

 どんな気難しがり屋も思わず微笑み返してしまいたくなるような、魅力的な微笑だった。

「ジャン・ジャックからの中間報告によれば、神剣士は一人だけとのことだったが……いつの間にか三人に増えてやがるし。まぁ、ジャン・ジャックが負けるのも、仕方ないか」

「……三人?」

 その言葉に、柳也は怪訝な表情を浮かべた。

 いったい、この男は何を言っているのか。

 訝しげな柳也の顔を見て、今度はウィリアムの方も、不可解そうに小首を傾げる。

「三人、だろ? お前と、お前、それから……」

 ウィリアムは柳也と才人を交互に指さすと、最後に、ルイズ達の方を見た。

「お前」

「……私?」

 驚くルイズに、ウィリアムは「いいや、ちゃうちゃう」とかぶりを振って、

「お前だよ。そこで青い顔をしてぶっ倒れているお嬢さん?」

と、ケティを指さした。

 なに? と、ワルドを含む、みなが驚愕した表情を浮かべた。

 勿論、ケティ自身も。当たり前だ。自分が神剣士だなんて、何の冗談か。

 当惑したみなのその様子に、ウィリアムはますます訝しげに表情を歪めた。しかし、やがて得心したように手を叩いた。

「ああ、なるほど……まだ、思い出していないのか」

「思い出していない?」

 柳也の口から、疑問の声が漏れた。

 ウィリアムは律儀にも頷くと、

「オリハルコンネームだよ。お前も神剣士なんだから、それぐらい知っているだろう?」

と、当たり前のことを訊くな、と言わんばかりの刺々しい口調で答えた。

 オリハルコンネーム。知らない単語だった。いったい何を意味するものなのか。

 さらに問いただそうとする柳也だったが、彼の質問は、形にならなかった。

 柳也が口を開くよりも先に、ウィリアムがまた得心した様子で手を叩いたためだ。

「ああ、そうか。お前ら、正規の神剣士じゃないのか。だから、オリハルコンネームのことを知らないんだ」

 一人勝手に得心した様子で呟くウィリアム。黄金の眼差しは最初に才人を見、次いで柳也を見た。

「そこのお前はガンダールヴの力で無理矢理神剣の力を引き出しているだけ。前世云々のしがらみは関係ないわけだ。そしてお前は……ははあ、なるほど。どっかで感じたことのあるマナだとは思ったが、これは、あの方のマナだ」

 ウィリアムはにっこり笑って何度も頷いた。

「秩序の永遠存在にして法皇の名を冠するあのお方……なるほどなるほど。お前は、あの方が作り出した、人工の神剣士か。……いわゆる、〈宿命〉の奴隷だな。それなら、オリハルコンネームを知らなくてもおかしくはない」

 〈宿命〉の奴隷。

 その言葉を聞いた瞬間、柳也の心臓が跳ね上がった。

 聞き覚えのある言葉だった。有限世界、ファンタズマゴリア。かの地にて、悠人の身体を乗っ取った〈求め〉の意志が、自分を示して使った言葉。それとまったく同じものを、この男も使った。

「お前は……いったい、何を知って……」

「オリハルコンネームに目覚めていないということは、まだ、神剣は持っていないということだな。いや、助かった。さすがに、三対一はキツイからなぁ……本気を出さなくて、済みそうだ」

 ウィリアムは、柳也の言葉を無視して、言い放った。

 翩翻とマントを翻し、腰元に手をやる。

 腰の後ろ側に、閂に差した鞘から、短剣を抜き放った。

 刃渡り二十センチほどの、柳也の脇差をそのままスケール・ダウンしたかのような、短刀だった。

 反射的に、柳也と才人は身を硬くした。

 ウィリアムと呼ばれたあの男が神剣士なのは十中八九間違いない。とすれば、あの短刀こそが奴の永遠神剣だろう。

 たかが刃長二十センチ足らずの短刀と侮れば、痛い目を見るのは必至だ。

 二人の神剣士は、ともに攻防自在の正眼の構えにて、集中力を高めた。

 他方、ウィリアムは肩の高さまで右腕を上げ、短刀の切っ先をこちらに向けるという、奇妙な構えを取った。左腕は、だらり、と体側に沿って下したままだ。膝は曲げずに、両足は肩幅に開いている。刺突に特化した構えと解釈出来なくもないが、およそ尋常の剣法には存在しない構えだった。

「ほいじゃまぁ、行くか、〈金剛〉」

 〈金剛〉。

 それが、あの神剣の名前か。

 ウィリアムの呼びかけに反応して、短刀の刀身が、淡く輝く。

 きつね色の、オーラフォトンの輝きだった。

「精霊光刃形成。刀身形状はブロード・ソード。刀身長は十二メートル。身幅は最大四センチ。厚みは最大十三ミリ」

 ウィリアムが、口の中で何か呟いた。

 次の瞬間、ウィリアムの手元から、黄金色の光線が飛び出した。

 精霊光のレーザービーム。

 短刀の切っ先から、真っ直ぐ、標的目がけて襲いかかる。

 柳也は咄嗟の判断で身を屈めた。

 斬、と頭上を、黄金の光線が通過する。

 光線は背後のブリミル像に炸裂し、そのまま突き刺さった。

 ……突き刺さった?

 肩ごしに背後を振り返った柳也は、愕然とした。

 ウィリアムの短刀から伸びるレーザー光線は、ブリミル像のどてっ腹にたしかに突き刺さっていた。まるで剣か、槍のように、石像に食い込み、そこで、侵徹を止めていた。それ以上、突き進むのをやめていた。

 レーザービームとは、すなわち一定方向への指向性を持たせた光だ。光とは、エネルギーを失わない限り、直進し続けるもの。何かにぶつかって反射したり、屈折したりすることはあっても、それが石像に突き刺さり、それ以上進まないなんてことは、通常、ありえない。

 ――レーザービームじゃない! この光線は、まさか!?

 柳也は慄然とした眼差しをウィリアムに注いだ。

 肩の高さまで掲げた右手の短刀から、レーザー光はいまだ伸びていた。

「おっ、もう気がついたのか。……レスポンス・タイムは、俺の予想よりもだいぶ早かったな」

 「ジャン・ジャックが苦戦するわけだ」と、付け加えて、ウィリアムは愉快そうに笑った。

 それから彼は、「じゃあ、種明かしの時間です」と、続けた。

「精霊光刃再形成。刀身形状、身幅、厚みは現状維持。刀身長のみ変更。十二メートルから、八十センチへ変更」

 言の葉が、爆ぜた。

 その瞬間、ブリミル像に突き刺さった怪光線が、消滅した。

 より正確に表現するならば、消滅したように見えた。

 短刀から伸びる光線は一瞬のうちに縮小し、切っ先から六十センチほどの長さで、固定された。これまた、直進し続けるというレーザーの性質からは、考えられない現象だった。その長さで固定されたレーザー光は、一見したところ、光の刃のようにも見えた。

「時にお前さん、SFは好きか?」

 ウィリアムは刀身長八十センチの精霊光の剣を脇に取ると、にこやかに訊ねた。

 突然の質問に男の意図を理解出来ない柳也は、怪訝な表情を浮かべながら小さく頷いた。

 ミリタリー・オタクの柳也は、同時にSF好きでもある。ミリタリーとSFは、切っても切れない関係にある。SF古典の名作『宇宙大戦争』などは、タイトルが示す通り、宇宙人と地球人類の戦いを描いた戦争モノだ。

 柳也の答えを受けて、にんまり、と喜色を深めたウィリアムは、続けて言った。

「そうか。俺も、大好きだ。って言っても、いわゆるマニアじゃないんでね。『フランケンシュタイン』から『ガンダム』まで、手広く楽しませてもらっているよ。……こんな事言うと、生粋のSF好きから怒られそうだが」

 ウィリアムは苦笑いを浮かべた。

「まぁ、それはともかく。SFの中にはしばしば――とりわけ宇宙を題材にした作品の中には――光線剣っていう代物が登場することがあるよな? ライトセイバーとか、ビームサーベルとか呼ばれるモンだが」

 ライトセイバーに、ビームサーベル。SF好きの柳也には、どちらも聞き慣れた名詞だった。前者はジョージ・ルーカスの名作『スターウォーズ』シリーズに、後者は『機動戦士ガンダム』シリーズに登場する光線剣の名称だ。

 光線剣とは、大雑把に言えばビームのエネルギーで形成された刀身を持つ刀剣のこという。光の持つ、直進し続けるという性質をあえて殺し、刀身長を定めることで白兵戦に特化させた兵装だ。ブレード部分の形成方式によって、放出系と力場系に大別されるが、どちらも光線の熱で対象を“焼き切る”という用法は変わらない。ビームエネルギーによって構成された刀身は質量がほぼゼロに等しく、フィクションの世界では大抵、片手半剣として登場することが多かった。

「俺の〈金剛〉は、その光線剣を再現する能力を持った神剣だ」

 自らをSF好きと称するウィリアムは、『スターウォーズ』に登場する銀河の騎士さながらに、光線剣を振るった。

「〈金剛〉は特別な力は何一つ持たない神剣だ。……ただ、オーラフォトンを操るのがすこぶる上手い。俺がイメージした通りの形に、精霊光を練り、ブレードを形成してくれる。

 ……ブレード、という言葉を使っているが、あくまで比喩だ。いま言った通り、〈金剛〉はイメージしたまったくその通りにオーラフォトンを形成してくれる。長短自在、形状もまた自在だ。……言っている意味は、分かるよな?」

 にやにや、と笑いながらの問い。

 一方、ウィリアムの言わんとするところを悟って、柳也は慄然と表情を硬化させた。

 刀身の長短ばかりか、形状さえ思うがままに変化させることが出来る。それはつまり、刃渡り二十センチ程度に過ぎないあの短刀が、間合い十間の長大な槍にも、あらゆる敵を一撃で粉砕する斧にもなるということ。ウィリアムのイメージ一つで、強大な武器になりえるということだ。

「種明かしは終了だ。せいぜい、足掻け」

 酷薄な微笑が、ウィリアムの口元に浮かんだ。

 腰を落とし、右腕を前に突き出し、光線剣を、フェイシングのように構える。

「精霊光刃再形成。刀身形状をエストックに変更。身幅は最大二センチ。厚みは最大一・五センチ。刀身長は……」

 エストック。レイピアの登場以前にヨーロッパで使われた、刺突に特化した刀剣だ。剣というよりは、頑丈な造り込みをした針か、釘のような形状の刀身を持っている。

 ミリタリー・オタクの柳也は、ウィリアムが口にしたその単語から、次の攻撃は刺突と予想した。

「……刀身長は、十メートル!」

 瞬間、また、あの黄金色の光線が、ウィリアムの手元から飛び出した。

 赤毛の男は、その場から一歩たりとも動いていない。

 精霊光で構成された刀身だけが伸長し、柳也に襲いかかった。

 狙いは心臓。

 戦いに使えるマナの残量心もとない柳也は、なんとか回避を試みる。

 しかし、予備動作を限りなく殺した刺突の打点を予期することは難しく、動作が僅かに遅れてしまう。

「グ……ウゥ……ッ!」

 苦悶の絶叫。

 灼熱した痛みが左肩を貫通し、柳也は思わず片膝を着く。

「精霊光刃再形成。刀身長はそのまま。刀身形状を、モーニングスターに変更」

 膝を着く男の耳朶を、冷酷なるテノールが打った。

 その言葉を聞いて、苦痛に歪む柳也の表情が、ぎょっ、と硬化した。

 モーニングスターといえば、何本もの棘が放射状に付いた鉄球を先端に持つ棍棒の一種ではないか。いま、刀身が肩を貫通している状態で、そんな物に変えられたら――――――、

 次の瞬間、柳也の肩の中で、精霊光の刀身が、爆発した。

 肥大した球形の刀身が血管と神経を圧迫し、突き出した棘の数々が、肉と骨をずたずたに引き裂いた。

 飛び散る肉片。

 夥しい出血。

 たまらず、柳也は絶叫した。

「ぐ……がああああああ―――――――ッ!!?」

「柳也さん!」

 左肩を押さえ、絶叫する柳也を見て、才人が悲痛そうに叫んだ。

 デルフリンガーを正眼に、ウィリアムを目指して前へと踏み込む。

「デルフ! アクセル、レジスト・ダウン、エアー・グリス、まとめてかけろ!」

「まかせろ、相棒!」

 デルフの威勢のよい声が響くと同時に、才人の足下に魔法陣が三つ、正三角形を描いた。

 追い風の加速魔法と、空気抵抗の軽減。そして、関節駆動の効率化。亜音速の世界へと突入した才人は、神剣士の知覚をして視認困難なフットワークを活かし、ウィリアムへと接近する。男の背後へと回り込むや、デルフリンガーを地擦りに取り、肉迫した。

 擦り上げからの一閃。

 超音速を突破し、極音速の領域にまで達した斬撃が、地から天へと昇る。

 取った、と、才人は思った。

「舐めるなよ、新米神剣士」

 しかし、振り抜いた斬撃はむなしく虚空を薙ぐに留まった。

 斬撃が放たれるより一瞬早く、ウィリアムは地面を蹴って左斜め後方へと跳び、才人の一撃を避けるばかりか、彼の背後へと回り込んだ。

 いきなりモーニングスターを引き抜かれた柳也の口から、また、絶叫が迸った。

「たしかに、お前のスピードは脅威だ。だが、神剣を手にしてまだ日が浅いジャン・ジャックと違ってな。音速程度のスピードなら、俺は感じ取れるし、対処出来る」

 背後から、冷たい声。

 後ろを振り返りたい気持ちを必死に堪え、才人は、そのまま前へと突き進む。後ろを振り向けば最後、回転運動の僅かな間に、攻撃を受けるのなんとしても避けたかった。

 才人の離脱を援護しようと、マチルダがエア・ハンマーを連射した。手負いのケティも、必死にファイヤボールの呪文を唱えた。

 ともに有効打を期待しての魔法ではない。ウィリアムの才人への追撃を少しでも遅らせるための、弾幕だった。

 才人の背後を取り、これから悠々攻撃しようと目論んでいた赤毛の男は、殺到する魔法弾を見て小さく舌打ちする。

「精霊光刃再形成。刀身形状はラウンド・シールド。盾の直径は一・八メートル」

 ウィリアムは短刀の位置をへその辺りまで下げると、静かにブレード再形成の命令を発した。

 柳也の肩を貫くモーニングスターが消滅し、今度は鍔を中心に、オーラフォトンが円形に広がっていった。

 黄金色に輝く精霊光の、ラウンド・シールドだ。円形の盾の直径は約一・八メートル。長身のウィリアムを、すっぽり覆う大きさだった。オーラフォトンの形成センスに長ける〈金剛〉は、ウィリアムの命令一つで、ブレードを防御のために形成することも可能だった。

 マチルダとケティの放った魔法は、そのことごとくが円形の盾に炸裂し、消滅した。

 火球も、圧縮空気の鎚も、一発としてその防御を突破することは出来なかった。それでも、マチルダとケティは絶え間なく魔法を撃ち続けた。撃ち続けなければ……弾幕に一瞬でも間隙を作れば、敵の反撃を許すことになると心得ていた。

 二人の援護射撃に助けられ、なんとか敵の間合いの外へと逃れた才人は、再度の接近を試みる。

 と、その視界に、自分と同じように、ウィリアムへの接近を図る柳也の姿が映じた。

 エストックの一撃で左肩を貫かれ、モーニングスターによって身の内を破壊され。それでもなお、堅忍不抜、痛みを堪えて師匠の神剣士は脇差を右腕一本で地擦りに取るや、左からウィリアムに迫った。

 ならば自分は右からと、才人は亜音速の領域に身を置いたまま、床をひた走った。

 左右からの、挟撃を狙う作戦だ。正面からマチルダとケティが攻めているいまならば、シールドの範囲外からの攻撃が届くはず。才人は、そして柳也はそう考えた。

 才人は八双からの袈裟斬り。

 柳也は、地擦りからの斬り上げを狙う。

「いい作戦だな。だが……」

 正面からの弾幕をすべて受け止めながら響く、余裕の声。

 続く詠唱は、精霊光刃の再形成を命令するもの。

「精霊光刃再形成。シールドを球形に展開。周囲二メートルの範囲を完全防御。……これで死角なしだ」

 命令が発せられ、黄金色のオーラフォトンがまた姿を変える。球形に展開したオーラフォトンの盾はウィリアムをすっぽりと包みこみ、前後左右上下のあらゆる方向からの攻撃を弾き返した。

 マチルダ達の放つ射撃魔法は勿論、柳也のオーラを篭めた渾身の一太刀、才人の極音速に達した斬撃さえも寄せつけない。

 必殺を期した斬撃を阻まれた師弟は、カウンターを警戒し、床を蹴って大きく退く。隔てた間合いは、およそ七間。

「攻撃が失敗に終わるや即離脱、か。賢明だな。だが……」

 金色のドームの中、ウィリアムを名乗る地球人は嗤った。

「二人とも……いや全員、その距離はまだ、俺の間合いの内だ」

 球形に展開したシールドの中で、ウィリアムは短刀を握る右腕を突き出した。天井へと。左手を肘の辺りに添え、彼は五人の顔を見回した。

 世界一の気難しがり屋をして、思わず微笑み返したくなるような微笑が、口元に浮かぶ。

「榴散弾という砲弾を、知っているか?」

「……まさか……」

 その問いかけに、表情を硬化させたのは、やはりミリタリー・オタクのこの男。

 ウィリアムの企図するところを察して、桜坂柳也は慄然と彼を見る。

「〈金剛〉の力のおかげで、俺のオーラフォトンは変幻自在だ。オーラフォトンに榴散弾としての性能を与えて射出することは、難しいことじゃない」

「柳也さん、榴散弾って!?」

 才人の絶叫。

 柳也は震える声で、応じる。

「時限式信管を備えた砲弾だ。あらかじめ設定しておいた高度に到達すると、砲弾内の炸薬が爆発して、数百個の弾子を地表にばら撒く……」

「お前、詳しいなぁ。まぁ、そういうことだ。……精霊光刃形成。刀身形状は砲弾。弾種は榴散弾。弾子の数は全部で六百個。高度八メートルで炸裂し、半径十五メートル圏内に拡散する」

 ドームの中で、ウィリアムが短刀を振るった。

 直後、床に倒れ伏すワルドを、ドーム状のオーラフォトン・シールドが覆った。

「……これで遠慮なくぶっ放せる」

 ウィリアムの口元に、ニヤリ、と冷笑が浮かぶ。

 と同時に、赤毛の神剣士をその場に拘束する魔法の弾幕が、やんだ。とうとう、二人の精神力が尽きてしまった。

「くそッ!」

 柳也は舌打ちすると、ルイズとケティのもとへと走った。彼の意図するところを察して、マチルダと才人も一箇所に集まる。

 五人の中心に立った柳也は、天井目がけて右腕を掲げると、オーラフォトン・バリアをドーム状に展開した。これから襲ってくる無数の弾子に、対抗出来る術は、それしかなかった。

 球形に展開していたオーラフォトンが、天井に向けられた短刀の切っ先へと集束していった。

 圧縮された精霊光は、やがて巨大な松ぼっくりのような形の光弾となって天へと放たれ、そして、炸裂した。

 六百個の、殺戮の光弾が、ばら撒かれた。

 


<あとがき>
 

 お気づきですか? 今回の戦い、実はウィリアム、一歩しか動いていません。

 さて、読者の皆様、おはこんばんちはっす! タハ乱暴でございます! 今回もゼロ魔刃をお読みいただきありがとうございました!

 今回の話をもって、ついに赤毛の男、ウィリアムが本格的に話に絡んでまいりました。

 彼と〈金剛〉の能力に関しては、タハ乱暴の中でも設定が二転三転。最終的に、あのような形になりました。〈金剛〉の能力、結構、自信作です。読者の皆様の目にはいかがでしたでしょうか?

 さて、一応次回EPISODE:45をもって、風のアルビオン編は完結の予定です。

 あまりにも強大なウィリアムを前に、柳也達は生き延びることが出来るのか!?

 次回もお付き合いいただければ幸いです。

 ではでは〜




またしても一転してピンチに。
美姫 「しかも、オリハルコンネームまで飛び出してきたわね」
それにケティが神剣士、それも前世からのというおまけ付きで。
美姫 「かなり重要な事なんだけれど、あっさりと口にしてくれたわよね」
まあ、ウィリアムにとってはそれ程問題もないって事なんだろうな。
美姫 「でも、今のところ一番気になるのは」
やっぱり、サイトたちがどうなったかだよな。
うー、気になるな〜。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待ってます。



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