注)この話はHeroes of Heartに登場するオリキャラ……闇舞北斗のストーリーであり、本編開始前の外伝的内容となっております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――1972年8月11日

 

 

 

 

 

「またひとり……か」

 

自分以外誰もいない食卓を見回して、闇舞留美はぽつりと、溜め息と同時に呟いた。何気ない呟きには、彼女の秘められた寂しさが、少しだけ含まれている。

彼女の兄……闇舞北斗が、『非常招集がかかった。だから今夜は帰れそうにない……いや、すまんのだが、しばらく帰れそうにない』と連絡してきて、もう1週間が経つ。

それまで、北斗から聞かされてきた任務の内容――彼の判断で、内容厳選されたものばかりだったが――を聞く限り、特別長い留守というわけではなかったが、それでも、寂しいものは寂しい。

闇舞北斗が裏社会という闇に身を投じて、もう20年近くが経過していた。

北斗が仕事で出かけるその都度、彼女はこうしてひとり寂しく食卓を囲んでいた。

それは成長し、大人になった今も、変わらない。

留美が5歳の頃に他界した両親は、すでに彼女にとって、過去の存在だった。

これが10歳やそこいらならばともかく、わずか5歳の頃に両親と死別するというのは案外あっさりとしたもので、留美は両親の死を素直に受け入れた。

留美は、両親がいないことには関してはあまり気にしなかった。小・中学校と、父兄参観の日に誰も来なくても、寂しくはなかった。

だが、北斗のいない空間はひどく空虚で、寂しい。

留美にとって、北斗は兄である以上に、父であり、母であり、教師であり……かけがえのない、自分の半身だった。

留美はまたひとつ溜め息をついた。

誰の言葉だったろう?

溜め息をひとつつくと、幸せがひとつ逃げていく……と、言ったのは。

もしそうだとすれば留美はこの1週間ほどの時間で数百の幸せを逃したことになる。

 

「ダメダメ!どんどんネガティブな考えになってる」

 

頬をぱんぱんと叩いて檄を入れる。

こんな様子を兄が見たらきっと怒るに違いない。

留美にではなく、留美にこんな思いをさせてしまった自分のことを強く責めたてるだろう。自分のことを大切に思ってくれるのは嬉しいが、兄に負担をかけてばかりいるようで、それは嫌だ。

北斗が本格的に裏社会入りした頃、11歳だった留美はまだ小学生だったが、聡明であった。自分は不義の子だという負い目からか、彼女はどこか北斗に遠慮しているところがあった。

しかし北斗は、そんなもの関係ないとばかりにい手を引いてくれた。留美が不義の子であると知っていながら、多大な愛情を注いでくれた。

そんな北斗に、留美はこれ以上の負担をかけたくはないと思っている。

 

「兄さんは優しすぎだよ」

 

『兄さん』というフレーズを呟くたびに、留美の胸はひどく締め付けられる。

闇舞北斗という人物はいつもそうだった。

口では自己中心的に振舞っていながら、いざ行動する時は常に周囲のことを考えている。そのくせ妙なところで頑固で…………

きっと今もそうに違いないと、留美は思った。否、それは思考というより、確信に近い。

きっと『俺は自分のためだけに戦っている』なんて言いながら、自分独りだけ傷付いているに違いない。きっと本人も知らぬところで、誰かを救っているに違いないのだ。

……留美は、昔からそんな兄が好きだった。

兄妹に……家族に対する信頼の感情ではない。闇舞北斗という男性に対して、1人の少女は、幼い恋心を抱いていた。

何故、自分と彼は血が繋がっているのだろうと何度思ったことか。

スタートラインにも立てぬまま、闇舞留美の初恋は終わった。

だから留美はせめて北斗の幸せを願った。

お世辞にも、彼の人生は決して幸福とはいえず、常に戦いの孤独を背負い続けながら生きていく、茨の道だった。

何度も自分の胸の痛みを感じながら、彼女は北斗を幸せにしてくれる人物を探した。生半可な女性では、北斗の運命を知ってまず間違いなく彼を拒絶してしまうだろう。

留美は探した。そして、見つけたのだ。一目で、「この人なら大丈夫」とさえ思った。

自分が探した、兄を幸せにしてくれる女性を、留美はついに見つけたのだ。

 

「うん、きっと大丈夫……」

 

留美はその女性の顔を思い出して微笑むと、止まっていた箸を動かした。

ちょうどそのときだった。

 

“ピンポーンッ”

 

来客を告げるチャイムが鳴って、留美は慌てて箸を置いた。

洗面台の鏡で先ほどの手跡がないのを確認すると、笑みを浮かべて玄関に向う。誰もが好印象を抱ける、気持ちのよい笑みだ。

しかし、覗き窓で来訪者の姿を確認した瞬間、留美の表情は強張った。

慌ててドアロックとチェーンを外して、扉を開く。

 

「バネッサちゃん!?」

 

そう、来訪者はバネッサ・キースリングだった。

バネッサだけではない。彼女の背後にはシュウ・タウゼントが立っており、彼の両隣には紅・春麗と、ミスリム・シュレッガーが、それぞれ控えている。

留美は知らなかったが、北斗の所属秘密結社〈ショッカー〉最強の特殊部隊SIDE〈イレイザー〉の生き残りメンバーが全員、留美の前に立っているのだ。

北斗から受けたダメージは、すでにナノマシンによって治療されていた。

 

「留美さん……」

 

バネッサは、やや訛りのある口調で留美の名を呼んだ。その表情は真剣である。

留美は、何か大変なことが起きていることを、直感した。

 

「今から2時間以内に荷物をまとめてください」

「え?」

「急いで!」

 

バネッサの言葉に、留美は怪訝な顔をするも、頷き、行動を開始した。バネッサが北斗と同じく裏社会の人間であることは、北斗から聞かされている。なにより、この人の言葉は信用できると、彼女自身確信している。

だから、留美はバネッサの言葉に素直に従った。

あまり無駄を好まない北斗と留美の住む部屋である。荷物は、1時間ほどで纏まった。

 

「バネッサちゃん、そろそろ事情を教えてほしいんだけど……」

「その前に、今から24時間内にホクトから何か連絡はありましたか?」

「え……?何もなかったけど……」

「これで確実だね」

 

北斗の自室の押入れで、何やら探し物をしていたシュウが、英語で言った。

両手に、北斗の物と思わしきアタッシュケースを3つ、抱えている。

 

「あ……」

 

ケースを見て、思わず留美が声を上げた。

 

「どうしました?」

「そのケース……兄さんが絶対に触る……」

 

留美が、その言葉を言い終えることはなかった。

 

“パリンッ”

 

窓ガラスの割れる音がして、反射的に全員がそちらを向く。

留美の顔が、硬化した。

 

「エケエケエケケケッ」

 

その異形は、甲高い声を上げた。

深緑の、植物を思わせる体色をしたソレは、ゆっくりと立ち上がると、留美に向って牙を剥いた。

留美の体が、ブルリと震える。

シュウと春麗が、彼女の前に立ちはだかった。

 

「サラセニアン……」

 

バネッサが、明らかな嫌悪を孕んだ口調で、その名を呟いた。

――サラセニアン。

北米大陸に生息する食虫植物……キングサラセニアの改造人間で、植物のしなやかな動きをする体躯と、人間の四肢を持つ。

北斗から、改造人間の存在を教えられていない留美は、初めて遭遇する怪人のグロテスクなその姿に、声も出せないでいた。

その様子を見て、シュウが悲しげな視線をやった。

 

「初めて見る改造人間がこれじゃ……ね。トラウマにならなきゃいいけど」

「あら、私達だって改造人間なのよ?」

「これは別ですよ。……それに、彼女はホントから改造人間の存在は聞かされていませんでしたから」

 

幸いだったのは、留美は大学を出ているとはいえ、英語の理解力が著しく不足していたことだろう。

シュウ、春麗、バネッサの英語は訛りがなく、とても聞き取りやすいものだったが、留美はその会話の1割も理解できなかった。

 

「あら、なんでそんなこと知ってるのかしら、バネッサ?」

「昔、ホクトが教えてくれました」

「それはどんなシュチュエーションで?」

「……どうでもいいでしょっ、そんなことは!」

 

春麗の質問に、顔を真っ赤にして答えるバネッサ。

第三者の視点で見て、留美が首を傾げた。

 

「どうでもいいけど……来るよッ!」

 

シュウが声を張り上げた刹那、サラセニアンの体から一条の鞭が伸び、留美を襲った。

そのスピードは、留美がこれまで見たことのないような速度でありながら、しなやかで、彼女は、身動きひとつとれずに立ちすくんだ。

……が、その攻撃が届くことはなかった。

件のサラセニアンは、かつて植物園に訪れる人々を拉致し、改造人間にするという使命を持っていたサラセニアンとは違い、もはや知性をなくした、ただの怪物だった。

もしサラセニアンに、少しでも知性が残っていれば、その後の結果は分かり切っていただろう。

知性のないサラセニアンには、目の前にいる3人が、誰なのかを知らなかった。

 

“パシッ”

 

そんな音がして、宙を舞っていた鞭の動きが、静止した。

 

「……させないよ」

 

サラセニアンの目の前にいるのは、〈ショッカー〉最強の、SIDE〈イレイザー〉なのだ!

なんと、シュウは空中でランダムに動く鞭の軌跡を視認すると、その鋼腕で鞭を掴んだのである。

鞭は、サラセニアンにとっては体の一部である。体に繋がっている間は、当然神経も通っている。SIDE〈イレイザー〉一の怪力を誇るシュウの握力を受け、サラセニアンが悲鳴を上げた。

本能のままに鞭を切断し、痛みから逃れようとする。

 

「フンッ」

 

渾身の力を腕に篭め、シュウがサラセニアンの体を引き寄せる。

まるで朽ち木のように空を舞ったサラセニアンの腹部に、春麗の蹴りが極まった。

鞭が、ブチブチと千切れ、サラセニアンの体がドスンと床に叩き付けられる。

あまりに鮮やかなその一連の動作、そして圧倒的な2人の強さに、留美が息を呑んだ。

 

「これが答えです……」

 

バネッサが、留美に向って呟く。その手には、320式自動小銃が握られていた。

見た目には中学生の少女が、人を殺すための凶器を持っているというアンモラルな光景を前にして、留美は冷静であった。否、すでに狂っているのかもしれない。狂っているからこそ、こんなに冷静にしていられるのかもしれない。

 

「これが……今までホクトが戦っていたものの正体です」

 

サラセニアンの鞭が、春麗を襲う。

だが春麗はそれを巧みに躱し、一撃、一撃を確実にサラセニアンの体に叩き込む。

シュウが横から蹴りを入れて、サラセニアンの体が吹っ飛んだ。

バネッサが、その頭に8mmショッカー弾を容赦なく命中させた。サラセニアンの頭が、ザクロのように四散する。

シュウが前に素早く立ちはだかってくれたおかげで、留美はその光景を見ずに済んだ。

 

「……ここに留まっていては、いずれ第2、第3の敵が来るでしょう」

「我らと、来てくれぬか?」

 

外で〈ショッカー〉の戦闘員達を押え込んでいてくれたのだろう。

血でその身を濡らしたミスリムが、穏かな口調で告げた。片言の、日本語だった。

留美は何が起こっているのか分からなかったが、とにかく、とんでもない事態が起きているのだけは間違いないと、確信した。そして、彼らに着いていけば、その実体を掴めるとも……

留美は、ゆっくりと頷いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Heroes of Heart外伝

〜漆黒の破壊王〜

―――奪われた誇り―――

第六話「絶望の淵に」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――1972年11月11日。

 

 

 

 

 

首都東京からいくらか離れたそこは、一見すると砂漠のようであった。

しかし、砂漠と言うには規模が小さく、金網で周囲を囲まれており、自衛隊の演習場を思わせる。しかし、金網には、『私有地につき立入禁止』と張り紙が貼られており、ここが国有の土地ではないことを証明していた。

砂地の中央に、9つの影があった。1人を中心に、8人が囲んでいる。

そのうちの8人は、奇妙な姿をした、人型だった。

グレーのタイツで全身を覆い、頭全体を赤いフルフェイスのヘルメットで覆っている。ヘルメットには鳥の翼のように広がった角が取り付けられており、角は、腰のベルトの両脇にも小さく取り付けられていた。

一方の、囲まれている1人は、人型でありながら、人型ではなかった。二足歩行のシルエットに、動物的なフォルムが映える。巨大なボディは2メートルはあろうか。頭部から伸びる、赤い巨大な角が勇ましい。

あえて言うならば、それは人型のプロポーションをした、人間大の、犀……

知る人が見れば、それは〈ショッカー〉の改造人間……『サイギャング』にも、見えたかもしれない。

しかし、〈ショッカー〉の改造人間にしてはメカニカルな印象が強く、巨大であった。

右肩に『G.R.K.Mk.V』の刻印がある。

8人の人型が、バッと動いた。

両手に持ったな薙刀状の武器が、『G.R.K.MkV』に襲いかかる。

しかし、『G.R.K.Mk.V』はその巨体に似合わぬ軽やかなフットワークを見せ、その攻撃を躱し、丸太のような腕で1人の薙刀をへし折った。そしてそのまま、タックルを浴びせる。

百数十キロのもの重量と、時速数百キロという速度から生み出されたエネルギーが、人型の体に注がれた。

 

“バーンッ!”

 

なにかが炸裂したような、乾いた音が響いた。

“バチバチバチッ”と、火花を散らせて、人型が爆炎に呑み込まれる。

炎の熱に身じろぎひとつせず、『G.R.K.Mk.V』が次なる標的を狙って、動いた。妙に機械的な、動作である。

近くにいた人型の鎌首をむんずと掴み、へし折る。紅に染められた巨大な角で、その身を貫く。

直径十数センチという大穴を穿たれ、人型が爆発する。

残った6人の人型が、ペアに分かれて波状攻撃を仕掛けてきた。

斬撃を食らうたびに、『G.R.K.Mk.V』のボディが、火花を散らす。

しかし、巧みな連携プレーも、『G.R.K.Mk.V』の分厚い装甲には微々たるダメージしか与えられない。

『G.R.K.Mk.V』は、搭載された電子頭脳を駆使して、人型達の絶え間ない波状攻撃の合間に存在する、わずかな隙を弾き出した。

 

“メシャァッ”

 

その隙、わずか0.07秒。

コンピューターで計算された正確な攻撃は、人型の胸を貫き、その身を爆発させた。

波状攻撃の一角崩された人型達に、動揺が走った。『G.R.K.Mk.V』に布陣を崩されたことに対する動揺ではない。『G.R.K.Mk.V』の、予想外の戦闘能力に対しての動揺であった。

しかし、優れた彼らの頭脳は、即座に次なる攻撃への展開を考える。その間、0.1秒にすぎない。人間では、到底不可能な数字である。

だが、『G.R.K.Mk.V』は0.07秒の隙を突くことのできるスピードを持っている。0.1秒の思考は、かえって命取りの結果となった。

『G.R.K.Mk.V』はバッと両腕を広げると、そのまま2体の頭部に対してラリアットを極める。

“バチバチバチッ”と火花を散らし、2体の首が胴体から離れる。

ガクリと、2体の体は膝を着いて沈黙した。

1体が、敵わぬと分かっていながらも果敢に薙刀を振るう。

いつの間に持ち出したのか、あとの2体は手にした全自動ライフルで援護射撃をする。

『G.R.K.Mk.V』のボディに、無数の火花が走る。数多の斬撃と弾丸は、『G.R.K.Mk.V』の厚い装甲板を確実に削ぎ落としていたが、しかし、やはり致命傷にはならない。

 

“グシャァッ”

 

『G.R.K.Mk.V』が、咆える。

 

“メシャァッ”

 

その角が、腕が、咆える。

そのたびに人型の両腕は裂かれ、両足は砕かれる。

その身からは何本ものコードと鉄骨がだらしなくぶら下がり、火花を迸る。

薙刀を振るっていた最後の1体は、ついに沈黙した。

“カチッ”と、人型の持つ全自動ライフルが、大きな音とともに弾丸の放出を止めた。弾切れである。2体は素早く予備弾倉の入ったボックスに手を伸ばした。

『G.R.K.Mk.V』が、その隙を狙って轟然と走る。砂塵が舞い上がり、大地が鳴動する。

 

“バーンッ!”

 

再び、何かが炸裂したような、乾いた音が鳴った。

一瞬の静寂の後、轟音とともに、2体の人型は爆発した。

『G.R.K.Mk.V』のボディが、爆炎に包まれる。

巻き上げられた砂と、立ち昇る黒煙は数分の間続いた。

やがて砂塵は四散し、黒煙が晴れると、そこには『G.R.K.Mk.V』が、ただただ沈黙していた。

 

 

 

 

 

「素晴らしい!」

 

暗闇の中、ひとりの男が立ち上がって、食い入るように320インチという巨大スクリーンを見つめた。それが合図のように、闇の中に潜む何十人もの人間達が、騒然とし出す。

スクリーンには、『G.R.K.Mk.V』と、8体の人型の戦いが、鮮明な画像で何度も繰り返されていた。

やがて、黒い外衣で身を包んだ、ひとりの男が巨大スクリーンの前に立った。

40代半ばと思われる男は、片手に不気味な装飾の施された横笛を持ち、暗闇で姿の見えない彼らを、鋭い視線で見回した。ドイツ人を思わせる表情は峭刻である。

男は、ゆっくりとした口調で話し始めた。

 

「『G.R.K.Mk.V』は、従来の『G.R.K.』と違い、機動力を重視した改良を施してあります。また、『Mk.T』の欠点であったカメラの不出来……人間で言う、視力の悪さですが、これも、光学式処理を施したことにより、改善されております」

「機動力向上によるパワーダウンはないのですか?」

 

暗闇の中で、誰かが言った。

男は、大仰な仕草で首を横に振ると、

 

「ありません。それに、『Mk.U』の段階で『G.R.K.』シリーズはひとつの完成形を満たしておりますゆえ、多少のパワーダウンは問題ないかと……」

「たしかに、『Mk.U』は『Mk.T』の3倍のパワーを持っているが……」

「しかし、パワーがウリの『G.R.K.』だぞ?」

「なにも用途を戦闘に限定せずとも、『G.R.K.』のパワーは幅広い応用が可能だと思うが……」

 

暗闇の中からは、口々にそんな声が聞こえてきた。

賛否両論なのは、それだけ注目されている証拠だ。男は、その様子を一瞥すると、内心で細く笑みを浮かべた。

 

「では、気になる値段の方ですが、今回の『G.R.K.Mk.V』は、前回の『G.R.K.Mk.U』よりも安く済みました。これは、ボディを多少大型化することにより余裕を作り、複雑なコンピューターを搭載しなくても、それより一世代劣る物で代用が利くようになったためです」

「能書きはいい。プロフェッサー・ギル、それでいくらなんだ?」

 

“プロフェッサー・ギル”と呼ばれた男の瞳が、ギラリと光った。

それは、商談の成立を確信した営業マンの目だった。

 

「前回の『Mk.U』が1体1億7700万だったのに対して、『Mk.V』は1億5800万という、2千万円近いコストダウンを実現しました」

 

その言葉に、闇がどよめきたった。みな一様にして顔を見合わせ、巨大スクリーンで再生される『G.R.K.Mk.V』の勇姿を再び見る。

 

「信じられない」

 

闇の中で、誰かが言った。そしてそれは、その場にいる全員の思いでもあった。

――あれほどの性能を持ったロボットが、1億と少しなど……。

1億5800万といえば、現在(1972年)、陸上自衛隊の主力戦車……61式戦車2両分の値段である。しかし、彼らの膝の上に置かれた、スクリーンに映るロボットの詳細データを記した小冊子には、その61式戦車の、『526倍以上のパワーを実現』と書かれていた。

61式戦車の空冷4サイクルのディーゼルエンジンが、最大570馬力というから、その出力はゆうに30万馬力近くにもなる。

暗闇が一瞬騒然とし、次の瞬間、どよめきたつ。

男は、それを眺めて会心の笑みを浮かべた。

そのとき、暗闇の中に、新たな影が出現した。

スクリーン上で、『G.R.K.Mk.V』に挑み、返り討ちにあっていた、あの人型だ。

 

「プロフェッサー・ギル……」

 

ギルと呼ばれた男が、ようやく人型の存在に気付いて、振り向く。

 

「闇舞北斗が目覚めました」

 

人型は、どこか機械的な音声で彼に言った。

男は、うむと大仰に頷いて、闇の中から姿を消した。

 

 

 

 

 

「ここは……?」

 

目が覚めて、最初に視界に入ってきたのは見知らぬ天井だった。

どうにもはっきりとしない頭で記憶の糸を手繰り寄せるも、天井と記憶とが結びつかない。

 

「確か俺は、ヤツと一緒に海に……」

 

あえて声に出して言ってみる。

正常に発音できていることから、それほど長い時間、眠っていたわけではないらしいが……とはいえ、改造人間の感覚で眠っている間の時間経過が分かるはずもない。

普通の人間よりも強化された肉体は、やはり普通の人間よりも時間の経過に強く、たとえ一年の間、ずっと寝たきりでも肉体が衰えることはない。

 

「…………」

 

無言で五指に力を入れてみる。五本の指は正常に動き、神経の接続はナノマシンが上手くやってくれているらしい。

今度は、腰を中心に力を入れてみた。ぐっと全身の筋肉が伸縮して、上体が起こされる。

――そこまできて、ようやく、俺が横たわっているのが手術台だと分かった。同時に、ここが手術室であることも……

一瞬、〈ショッカー〉の救護班が助けてくれたのかと、希望的観測をして、俺は自嘲気味に笑った。〈ショッカー〉は失敗にそれほど寛容ではないし、俺が行ったあの私闘は、それこそ反逆罪に相当する。

“我らが偉大なる首領〈ショッカー〉”は、そんな甘い人間ではない。否、人間ですらない。

『失敗には死を、反逆には制裁を』

それが、〈ショッカー〉の掟なのだ。

手術台から降りて、俺は手近なところにあった機材を手にとって観察する。

素人目にも、現代の技術水準をはるかに上回っているソレは、繊細でありながら頑丈という、恐るべき技術で作られた一品であった。

 

「クッシングアドソン頭蓋穿孔器……いや、電気ドリルにも見えるが……?」

「それはメスだ」

 

振り向くと、そこには1人の男がいた。日本人ばなれした、スラリとした体つきに、アーリア人特有の目鼻立ちをしている。

思わず、自虐的な笑みが浮かんだ。

ここまでの接近に気付かないとは…………どうやら、自分でも気付かぬほどに、身体は不調は深刻的らしい。

 

「おはよう、闇舞北斗君。JFK暗殺事件以来だな」

「お久しぶりです。プロフェッサー・ギル」

 

男の顔には、見覚えがあった。

もうずいぶん長い間会っていなかったが、彼の風貌はほとんど変わっていない。

――ギル・ヘルバート……またの名をプロフェッサー・ギル。

ロボット工学の権威であり、大変な資産家でもある彼は、人には見せられない、もうひとつ顔を持っている。

兵器としてのロボットを製造し、世界中に販売する死の商人……秘密結社『ダーク』の支配者。それが彼の、もうひとつの顔だ。俺の所属していた(・・・・)、〈ショッカー〉とも深い関わりのある組織だ。

俺は光子メスを元あった場所に置くと、プロフェッサーへと向き直った。

光子メスとは、文字通り光子を利用したメスのことである。電気メスの、かなり強力なやつ……と言った方が、分かりやすいかもしれない。

現代物理学における力の定義は、素粒子の交換とされており、たとえば、自然界の4つの力は、強い力であれば『パイ中間子』が、弱い力であれば『ニュートリノ』が、重力であれば『重力子』が、そして、電磁気力であれば『光子』が、力の働く物体の間を行き来していると考えられている。

このうち、『重力子』は未だ発見されておらず、存在すらはっきりとしていない。少なくとも、表向きには……。

一般相対性理論では、空間を歪まされると説明されているが、案の定、〈ショッカー〉ではもう2年も前に確認している。

 

「まぁ、座りたまえ」

 

俺は軽く会釈すると、プロフェッサーの言葉に従って、手術台のシートに腰を降ろした。改めて、じっくりと彼の容姿を観察してみる。

もう50代も半ばというのに、彼の外見は、まだ40代そのもので、情熱に溢れた壮年期の男にしか見えない。それは、ある意味で彼が子供のように純粋だからということだろうか。

 

「君のことだから大体の察しはついているだろう。8月11日、仮面ライダーと激闘を繰り広げた君は、君を抹殺するために送り込まれた死神カメレオンと海に没し、仮死状態にあったところを我々が回収したのだ」

 

――そういうことか……。

〈ショッカー〉の改造人間……特に、SIDE〈イレイザー〉や、幹部クラス怪人ともなれば、使用されるナノマシンは高度なものとなり、より多機能になっていく。

死亡後の液状化……『証拠隠滅プログラム』といった、一般の戦闘員にも搭載されている機能以外にも、様々なプログラムをナノサイズのボディにインプットされている。

『仮死状態プログラム』もまた、そういったプログラムのひとつだ。

俺たちSIDE〈イレイザー〉のみならず、実戦で改造人間が戦闘に参加する場合、敵地後方での活動が主となる。その場合、もっとも恐れるべきは敵に捕獲され、改造人間のデータが流出してしまうことだ。

怪人が、敵に捕まることはまずありえない。彼らが捕まる時……それは、完膚なきまで叩きのめされ、証拠隠滅プログラムが作動を開始したときのみだ。そうでなければ、たとえすべての能力を封じられても、怪人は戦い続ける。1人でも多くの人間を殺そうと、動き続ける。

憂慮すべきはむしろ、戦闘員が捕まったときである。それも、SIDE〈イレイザー〉のような、脳改造を施されていない者達が、もっとも危険だ。尋問に対する訓練を受けているとはいえ、それでも完全ではない。自白剤を使うというケースも、考えねばならない。

そういったときに発動するのが、『仮死状態プログラム』である。

自らを仮死状態におくことで、機密の流出を防ぐのだ。しかも、このプログラムは『証拠隠滅プログラム』と連動しており、死体解剖などしようものならば瞬時に液状化が始まる。

 

「水中では体力を著しく消耗する。君も海でのサバイバル訓練は受けているだろうが、いかに改造人間とはいえ、これは避けられない。さらにあの時点で、君は過剰なほどに体力を消耗し、あまつさえ海中で死神カメレオンとの戦闘を行っていた。そしてついには力尽きて、意識を失ってしまった」

「……それだけの要素が揃っていたがため、ナノマシンが俺を仮死状態にした」

 

プロフェッサーは、ゆっくりと頷いた。

そこから先の展開は聞かずとも容易に想像ができた。

おそらく、試験段階で実用テストでもしていたが俺とライダー達の戦闘を目撃し、結果、海中へと没し、仮死状態に陥った俺を回収していったのだろう。手術室に寝かせられているのは、いつ、万が一の事態が起きても対処できるように……との、配慮かと思われる。

 

「ここまでで何か質問は?」

「……2つ質問があります。ひとつは、今日が昭和何年の、何月何日かということ。もうひとつは、あれから〈ショッカー〉がどうなったか?ということです」

「ふむ……」

 

プロフェッサーは、長い沈黙を挟んだ。

人と会話することにあまり慣れていないのだろうか。唇で、言葉を選ぶようにしている。

しばしの逡巡のあと、プロフェッサーは淡々とした口調で告げた。

 

「ひとつ目の質問だが……今日は昭和47年11月11日。君が死んで、まだ1年も経っていない」

「とすると、3ヶ月ばかり俺は死んでいたということですか」

 

妙な会話だと内心で考えながら、俺はプロフェッサーの次の言葉を待った。

 

「次の質問だが……事を簡潔に述べさせてもらえば、〈ショッカー〉はすでに存在しない組織だ」

「……そうですか」

 

思ったより、衝撃は少なかった。

それは、どこかで予感していたのかもしれないし、仮死状態に陥っている間、なんらかの拍子で一時的にレム睡眠状態に移行して、予知夢を見て、すでに知っていたのかもしれない。

 

「思ったより、驚かないのだね?」

「驚いていますよ。ただ、〈ショッカー〉ほどの巨大組織になると敵は増えてくるし、過去の歴史を見てもそういった巨大な国家は、自ら敵を作って滅ぼされている。ありえない話では、ありませんから」

 

もっともらしい理由を述べてみたが、案外、これは理にかなった解答なのかもしれない。

俺がまだ生きていたあの時点で、〈ショッカー〉は自ら仮面ライダーという強敵を生み出し、存続の危機にまでおいやられていたのだ。過去の歴史を見ても、そういった事例は多く、むしろ確率的にはそれが自然の流れだったのかもしれない。

どちらにしろ、俺にとって〈ショッカー〉は、すでに過去の遺物となっている。

今、重要なことは、身の回りの状況を把握し、目の前の問題をひとつひとつ解決していくことだ。過去のことは、それから考えればいい。

俺はプロフェッサーから、表裏に関わらず、現在の世界情勢をひとつずつ聞いていった。

その結果、俺は〈ショッカー〉が壊滅したことを知ったことよりも、大きな衝撃を受けることとなった。

表の世界では、俺が死ぬ1ヶ月ほど前に成立した田中内閣が日中国交における正常化に貢献したことぐらいだったが、裏の世界では、〈ショッカー〉壊滅など足下にも及ばないような自体が続々と展開されていたのだ。

まず目についたのは〈ショッカー〉の再編である。

〈ショッカー〉は壊滅後、南米のカルト教団を母体に結成された非合法組織……『ゲルダム団』と結託し、新組織『ゲルショッカー』を新たに生み出した。また、『ゲルショッカー』はその際にごく一部の人間を除いて、〈ショッカー〉のメンバーを大量に粛清し、旧組識とは比べ物にならないほどの征服計画を行なっている。

次に耳に留まったのは、まるで〈ショッカー〉の壊滅と呼応するかのように、続発する異常事態の数々だった。

プロフェッサーから聞いた話だけでも、先月には宇宙の魔王『デカンダ』が侵略を開始し、その数日後には各地で怪獣が続々と出現、さらに日本人皆殺しを企む『死ね死ね団』、地球を第2のフラッシャー星にしようとする『フラッシャー軍団』、日本転覆を狙う『不知火族』、名前だけ挙げても、キリがない。

だがそれ以上に俺を驚かせたのは、それらの組織や怪獣に対処しているのが、地球防衛軍ではなく、まったく別の存在であることだった。

例えば、魔王デカンダの対処を任されたのは、たしかに地球防衛軍の特殊部隊『科学パトロール隊』なのだが、実際にデカンダの送り込む魔獣を倒しているのは『サンダーマスク』と呼ばれる巨人なのだ。

他にも、続出する怪獣と戦っているのは『ゴッドマン』と呼ばれる超人で、死ね死ね団と戦っているのは『レインボー仮面』という戦士である。

 

「……にわかには信じられない話だがな」

「ですが、事実なんでしょう?」

 

正直言えば、俺もそれなりに非常識には慣れたつもりだったが、これらの事態には脱帽だった。とてもではないが、信じられない。

しかし、プロフェッサーは仮にも秘密結社『ダーク』の総帥である。巨大な組織の長が、嘘を言うはずがない。

なにより、俺自身、存在自体が非常識な改造人間である。信じないわけにはいかなかった。

自虐的な笑みを浮かべているであろう俺を、プロフェッサーは苦虫を噛み殺したような表情で見ている。

 

「他に質問はあるかね?」

「ないと言えば……嘘になります」

「……SIDE〈イレイザー〉のことと、妹さんのことか」

「ええ……」

 

プロフェッサーの話から、『ゲルショッカー』が粛清した者の中には、SIDE〈イレイザー〉候補生や、選抜訓練を受けていた者も大勢いると聞いた。

当然、その牙はSIDE〈イレイザー〉本隊の方にも剥けられるだろう。現に、プロフェッサーは剥けられたと言っており、その後の彼らの行方は、『ゲルショッカー』の情報網を使っても掴めなかったとか……。

バネッサも、シュウも、春麗も、一筋縄で死ぬような連中ではない。しかし、万が一という可能性もある。

心配でないはずが、ない。

しかし、俺はまた嘘をつくことにした。そうすることで、自分を誤魔化そうとした。

 

「あいつらのことは心配したってしょうがないです」

 

本音半分、嘘半分の、曖昧な解答。

俺はそのことに気付かれないよう、次の言葉を繋げた。

 

「……むしろ、心配なのは留美ですよ」

「ほう……留美さん、というのか」

「はい」

 

〈ショッカー〉が闇舞留美に見出した価値は、俺を組織に縛り付けておくための、言わば人質である。しかし、当の俺が裏切りに走ったとなれば、話は別だ。あまつさえ〈ショッカー〉という組織そのものが、組織形態を維持できなくなったのである。最初に切り捨て、消される可能性は、十二分にある。

さらに留美は、俺達と違って改造人間でもなければ、何の訓練も受けていないただの一般人だ。拳銃の扱い方くらいはレクチャーしてあるが、実際に生きるか死ぬかのサバイバルに陥った場合、生きていられる可能性は限りなく零に近い。

 

「心配かね?」

 

プロフェッサーが、俺の表情を読み取ったかのように言った。

俺は、ゆっくりと首を横に振って否定した。嘘吐きだなと、情状酌量の余地がないほどに自覚する。

 

「SIDE〈イレイザー〉の行方は知らないが、君の妹さんは……」

「それ以上は言わないでください」

 

俺はその先を言わせなかった。

片手を挙げて、プロフェッサーを制す。

 

「その先は……自分で確認します」

 

無様だな、と自分でも思った。

問題を先送りにしたところで、何の意味もないというのに、俺は答えていた。

あの日、あの時、夏目先生と最後に交わした会話の中で気付いた、生への執着……

そんなものよりも、はるかに浅ましい、今の感情……

そう、俺は、やはり恐れているのだ。留美の生存に関する安否を今、この場で知ることで、自分がどう変わってしまうかを、恐れている。

そんな事をしたところで、何の意味もないと知っていながら、また、我が身の可愛さのために、本当は知りたいのに、真実を知ろうとしない。

なんとあさましく、むなしい努力であろうか……

 

「そうか」

 

プロフェッサーのその一言が、俺の胸をグサリと貫いた。

……ふと、そんな気がした。

 

 

 

 

 

「しばらくお待ちください」

 

手術室から起きた俺は、格納庫に来ていた。

ここには『ダーク』の商品となるアンドロイドや、『ダーク』が自らの世界征服という野望のために用いる、他とは一線を隔てたアンドロイドなどが整備されている。

案内役のアンドロイドマンに軽く頷くと、彼――と言って差し支えはないのだろうか――は「仕事ですから」と、極めて人間臭い台詞を吐いた。

アンドロイドマンは、〈ショッカー〉で言うところの戦闘員であり、『ダーク』で言うところの人気商品である。

安価な製造コストで人間数人分の戦闘能力を発揮し、高性能の記憶コンピューターを有している。データさえ入力すれば、高度な作戦や武器を扱うことも出来る優れ物だ。

アンドロイドマンの姿が見えなくなると、俺は隅の方で軽く屈伸運動を行なった。

手術室から出て3時間、念のためにとメディカルチェックを受け、異常無しと診断されたのはそれから2時間後。その後、感覚を取り戻すために12時間ほどリハビリをしたが、未だ完全とは言い難い状態だ。

何もないところに向って軽くジャブをするも、本調子とまではいかない。

ただ、感覚機能だけは随分と取り戻せてきたので、先刻のような失敗はもうしないだろう。

 

「仮面ライダー、か……」

 

死ぬ直前まで戦っていた、偉大なる戦士達の名前を呟く。

今になってようやく、背筋が震えた。

彼らは、やってしまったのだ。ある日、突然に運命を変えられた、少なくとも、〈ショッカー〉にとっては蹂躪される弱者でしかなかった彼らは、その強大な〈ショッカー〉を、ついに倒してしまったのだ。

 

「まったく、恐れ入る」

 

そんな連中を相手に戦って、こうして地を歩いていられるのだから、俺自身、かなり驚いていた。

――と、先ほどのアンドロイドマンの気配が近付いてきた。どうやら、準備は出来たらしい。

 

「お待たせしました」

 

アンドロイドマンは、木製の大きな箱を3つ乗せた荷台を引いていた。

箱の中身は、聞かずとも分かっている。

俺のため……という言い方は変だが、プロフェッサーが厚意で用意してくれた武器である。

個人的には、使い慣れた Assassin の方がよかったのだが、もはや45ショッカー弾の入手は不可能なため、断念したのである。

 

「まずは拳銃ですが……ハイパワーとガバメントのどちらにいたしますか?」

「ハイパワーで頼む」

 

『ハイパワーとガバメント……』というのは、米国製コルト・ガバメントと、ベルギー製ブローニング・ハイパワーのどちらにしますか? という意味で、どちらも世界的に有名な自動拳銃である。

ガバメントが45口径7連発、ハイパワーが38口径13連発だ。

ガバメントの方が弾薬は強力だが、総弾数はハイパワーと比べれば少なく、また、ハイパワーの方がコンパクトで、携行に適しているため、俺はあえてハイパワーを選んだ。

手渡されたハイパワーにはすでに弾倉が装填されており、ズシリとのしかかる重量に、俺はかすかな違和感を覚えた。それは改造人間でなくとも、プロのスナイパーやガンスリンガーならば一発で看破してしまうようなものである。

 

「使われている弾薬は……通常の9mmルガーではないのか?」

「はい。このハイパワーに装填されているのは、マグナム弾並に火薬の装填量を増やし、弾頭部をチタニウムで被覆した、9mm特種徹甲弾です」

 

ハイパワーは9mmルガー弾を13発装填でき、9mmルガー弾の重量は1発8グラム。ハイパワー本体の重量が910グラムなので、1014グラムの重量となる。

しかし、俺の手に乗っているハイパワーは、少なくとも2000グラムはあるが、それも、特殊な弾薬を使っているとなれば、納得できる。

俺はその後も何丁かの銃を提示されたが、結局、俺はハイパワーの他に2丁の拳銃、1丁の機関銃、1丁の短機関銃を受け取った。

次にアンドロイドマンが持ってきたのは、1台のバイクだった。

ただのバイクではない。

あの日、俺が乗っていたCB450のように、『ダーク』の科学技術によって様々な改良が施された、カワサキのオートバイだった。350ccの物と思われるが、型式や、名称のプレートは取り外されている。

これも、プロフェッサーが俺によこした物だ。

ここまでくると、逆にプロフェッサーが何を企んでいるか疑ってしまうが、すでに大体の見当はついていた。どうやらプロフェッサーは、俺を『ダーク』の戦力に組み込む気らしい。

 

「これは『ダーク』の技術陣が“あるロボット”のために開発した試作品です。ゆくゆくは量産型を開発する予定でしたが、あまりの高性能のため、開発はこの1台のみとなってしまいました。両サイドに武器を積み込むボックスがあり、武装には50口径機関砲が2門、短距離用の、マイクロミサイルを8発搭載してあります。エンジン排気量はベース車のままですが、性能的には10倍の排気量に相当し……」

 

アンドロイドマンの説明を制して、俺はそのマシンに跨った。

こういう物は、やはり自分で試乗してみなければ、マシンの特徴などは分からない。

一応、50口径機関砲と、マイクロミサイルの作動を確認し、サイドボックスへと武器を積み込む。

 

「こいつの名前は?」

「ありません。所詮、試作機ですから……計画当初は、Qというコードネームがありましたが」

「Q…… Quick か……素早い、急速な、頭の鋭い……なるほど」

「お気にめさなければ、お好きにお名前をお付けください」

「そうだな……」

 

もしかしたらしばらく命を預けることになるかもしれないバイクである。

下手な名前は、付けられない。

俺はしばし逡巡して、車体をそっと撫でた。

 

「イスカリオテ……」

「イスカリオテ……ですか?」

「そうだ。イスカリオテのユダ……裏切り者の俺には、相応しい名だ」

 

……かつて、ユダヤの救世主を奴隷と同じ値段で売った男がいた。男の名はイスカリオテのユダ。彼はルシフェルに憑依されるまでもなく、自らの自由意志でイエスを裏切り、堕落した。

自らの自由意志で隊を離れ、仲間達まで危険な目に遭わせた、そんな愚かな俺の愛馬には、相応しい名である。

 

「さ、行こうか」

 

ハンドルグリップは、まるで最初から俺のためにあしらったように、手に馴染んだ。シートも、妙にしっくりとくる。

“ガンッ”と、エンジンをキックしてやると、イスカリオテのマフラーは轟然と火を吹き、車体が震えた。イスカリオテの体に、オイルが流れ出す。

ハンドルを切ると、イスカリオテは初速から時速40キロはあろうかというスピードが出た。ほぼ、6・7秒ほどでエンジンは全開になり、速度計が時速400キロの数字を叩き出す。

なるほど、恐るべきマシンである。

これでは、並の改造人間やアンドロイドマンでは乗りこなすことすら難しい。量産化したところで、採算が合わないだろう。なにせ、扱える者が少ないのだから。

ハンドリングが軽いのが、唯一の救いといったところか。

イスカリオテと俺は、1キロもない格納庫を駆け巡ると、ゲートから外へと出ていった。

 

 

 

 

 

――1972年11月12日

 

 

 

 

 

気がつけば、すでに日付は変わっていた。

夜のハイウェイをイスカリオテで走っていた北斗は、意を決してイスカリオテの進路を変更した。

行き先は無論、彼の住んでいた街である。

3ヶ月ぶりに帰省した街は、北斗が最後に見た風景となんら変わっておらず、ただ、早朝のためか人だけがいなかった。

 

「好都合ではあるがな……」

 

人がいないということは、それだけ知り会いと遭遇する確率も低くなる。彼らからしてみれば、自分は3ヶ月も行方知らずとなっている身なので、それは望ましいことだった。

しかし同時に、誰かと会いたいとも思っている。空虚な今の自分を、外的要因で繋ぎ止めたいとも思っている。

なんという、矛盾であろうか。しかし、北斗はその矛盾すらも、人間の特性のひとつとして認識し、愛していた。

 

「……俺もまだ、人の子というわけか」

 

呟くと、北斗はイスカリオテの速度を落とした。

イスカリオテはブレーキの性能も素晴らしかった。時速400キロ以上のスピードで走っていたのにも関わらず、10メートルと走らぬうちに速度は40キロまで落ちている。

北斗は、イスカリオテの速度を時速20キロまで絞ると、その状態をキープしながら、かつて自分達の住んでいたアパートへと向った。

通い慣れた道を何本か外して、慎重に、知り会いに会わぬようにアパートへと向う。

アパートの建物が見えてきたところで、ふと、北斗は違和感を覚えた。

頭にずんと圧し掛かる、何か……

刹那、北斗の脳裏に、鮮明なビジョンがよぎった。

北斗の双眸が、カッと見開かれたと思うと、100mを2.5秒で駆け抜ける強靭な脚力が唸り、一条の弾丸となってアパートへと駆け抜ける。

迷わず4階の自分の部屋まで行って……彼は愕然とした。

 

「馬鹿な……」

 

そう言うしか他にない、無残な光景であった。

金具の引き千切られた扉……

黒い煤と、銃痕だらけの壁……

すでに警察の手によって調べ尽された後なのだろう。かつて闇舞北斗と留美が暮らしていた生活感の名残は、何一つ残されていない。

北斗はその場に、立ち尽した。

 

「俺は、俺は……また守れなかったっというのかッ」

 

北斗の声は、震えていた。

フローリングの床に、ぽつり、ぽつりと雫が滴る。

涙ではない。鉄をも噛み砕く牙が口腔粘膜を噛み裂いたがために、唇の端から流れた、鮮血だった。

 

「何故だ……?」

 

数多の人間を殺してきた。

数多の同胞を殺してきた。

裏切り、欺き、己が自由意志に従って人殺しをしてきた。

 

「何故、俺に罰を与えない……」

 

覚悟はあった。

自分が人殺しをしている以上、こういった状況は十年以上前から想定していた。

遺された家族の怨み、憎しみ、哀しみ……。

そんなものは、とうの昔に知っていたはずだった。

 

「罰を受けるべきは、俺なんだよ……」

 

もし、裁きのときがきて、天空より神が罪人を差し出せと言えば、この身を差し出す覚悟はとうに出来ていた。死ぬのは恐ろしいが、それぐらいの覚悟はとうに出来ていたのだ。

 

「なんでお前が受けなければならないんだ……」

 

罰を受けるべきは自分だった。

にも拘わらず、罰を受けたのは……

 

「留美ぃぃぃッ!!!」

 

ただ生き延びるために戦ってきた。自分が生きる上で、最適な環境を作るために戦ってきた。だが、その最適な環境……自分の心を癒やし、生きる目的でもあった彼女は、もういない。

北斗は、絶叫した。

目の前の現実を直視して、咆哮を上げた。

悲しい、咆哮であった。

 

 

 

 

 

何時の間にか、雨が降っていた。

冬の雨は冷たく、肌に触れると針が刺さったように痛みが走る。

しかし北斗は、そんな雨にも構わず、市民公園のブランコに腰掛け、ただ、呆然と虚空を見つめていた。その表情には、生気がない。

 

「留美……すまない」

 

北斗は、ポツリと呟いて、ブランコをゆらゆらと揺らした。

ある意味で、留美は戦争の犠牲者であった。それも一方的に仕掛けられた、不意打ちの戦争である。

それだけに、巻き込んでしまったと後悔する北斗の絶望は、誰も覗い知れぬほどであった。

不意に、彼の視界の隅で、影がよぎった。

と同時に、彼の頬に当たる水滴が、激減する。

北斗は、何気なく顔を上げた。

 

「…………」

 

そこには、赤い背広を着た長身の男がいた。黄色のかかったベレー帽を被った彼の顔は仮面で覆われており、その瞳は、黄色い。顔面を覆うマスクは、どこか機械的だ。

否、北斗の……改造人間の聴覚には、たしかに聞こえていた。

男の体の中から聞こえる、機械の駆動音……

北斗は虚ろな眼差しで彼を見上げながら、しかし、いつでも戦闘体性に入れるよう気を配っていた。

 

「あなたは何を悲しんでいるのですか?」

 

彼は、まるで北斗の心の中を読んでいるかのように言った。

北斗は、生気のない表情から一転して自虐的に笑うと、

 

「機械に人間の心が分かるのか?」

 

と、まるで独り言のように言った。

思わず、彼はアッと驚いて傘の柄を手放しそうになるが、掌から滑り落ちる寸前のところでキャッチする。

北斗は、まるで人間のようなその行動パターンを見て、苦笑を浮かべた。

 

「ロボット刑事“K”……」

 

“K”……それは、続発する謎の怪事件に対し、警視庁が新たに創設する予定の、『特別科学捜査室』に配備される予定の、警視庁の切り札の名であった。まだ〈ショッカー〉に在籍していた頃、北斗はその話を耳にして、やりにくくなるな、と思ったことがある。

〈ショッカー〉の諜報部が極秘裏に入手した情報によれば、Kは人間以上に人間らしい感情を持った、自立二足歩行型のロボットで、その身に様々な犯罪捜査に役立つ装備と、いざという時のために用意された兵器が組み込まれている。

北斗がその話を聞いたのは3年前のことで、彼はすでにKが完成し、今は実験段階に入ったことを知っていた。

 

「僕のことを知っているなんて……あなたは警視庁の方なんですか?」

「いや、たまたまそちらの事情に詳しいだけさ。警視庁の切り札に会えるとは……光栄だ」

 

北斗が、フラリと立ち上がった。

不信に思ったのか、Kが一歩身を退く。

だが北斗は、構わず歩みを進めた。

 

「ちょうど退屈していたところだ。お前も、訓練相手がいなくて困っているだろう? 普通の人間やロボットでは、お前の相手は務まらないからな」

 

……今は、今だけは、ただ戦っていたかった。戦っている間だけは、何も考えなくても済む。

それは八つ当たりという名の、現実逃避であった。そのことに、気付かぬ北斗ではなかったが、そうでもしなければ、自分が壊れてしまいそうで……彼は、そうなることを恐れた。

ようやく北斗の気配にただならぬものを感じたのか、Kは、傘を捨てて半歩退いた。

 

「やめてください。僕のことを少しでも知っているのなら、あなたでは絶対に僕には勝てないことを知っているはずです。それに僕は人間とは戦いたくない」

「……勘違いするな」

「え?」

 

北斗が、ニヤリと含みのある笑みを浮かべた。

そして言葉を紡ぐと同時に、地を蹴り、跳躍する。

 

「俺は人間ではない」

 

1度の跳躍であっという間に距離を詰めた北斗は、そのまま拳を振りかざして―――

 

「『改造人間』だ」

 

―――Kのボディに、叩き込んだ。

 

 

 

 

 

北斗のパンチをまともに叩き込まれたKは、そのまま何メートルも吹っ飛んで、茂みの仲にある大木に背中を激突させた。

信じられないといった様子で、凹んでしまった自身の装甲と北斗を、交互に見比べる。

北斗が普通の人間でないことは明らかだったが、その正体が『改造人間』だと知ったとき、Kの電子頭脳は動揺していた。

Kは『特別科学捜査室』に配属されるにあたって、その電子頭脳に様々な情報をインプットされている。そのデータバンクの中には、当然、『改造人間』に関する膨大な量のデータも含まれている。

そのデータの中には改造人間と遭遇した場合の対処法や、改造人間がどういった存在に弱いかなどを、克明に記されていた。しかも、膨大な量……といっても、Kの高速計算力を使えばコンマ数秒とかからずに解読できる。

しかし、実際にKが改造人間と遭遇したのは今日が始めてであり、その初めての相手として、闇舞北斗はあまりにも強すぎた。

 

「どうしたロボット刑事。警視庁の切り札はその程度なのか?」

「くっ、ゴーッ!」

 

掛け声とともに身を翻し、Kは着ていた服を脱ぎ捨てた。

直後、改造人間の北斗の視力でさえ追うのがやっとという高速で、Kの体に走る無数の赤いライン……スリッドがスライドし、そのボディが巨大化する。その姿は、背広を着ていたときよりも、はるかに戦闘的だった。

瞳の色が、黄色から赤へと変わる。

変わり果てたKの姿を見て、北斗は唸った。

 

「そうだ。それでいい……」

 

北斗が、懐の鞘からブレードを抜く。

刃渡り30センチほどの刃は、北斗が愛用したショッカーブレードにも、勝るとも劣らぬ輝きを放っている。『ダーク』の技術陣が開発した、『電磁ブレード』だ。

これは集中型電磁パルスをその刃を通じて敵の内部に照射し、破壊するという物で、ブレードとは名ばかりの、切るというよりも、電気放電に覆われた刃を叩き付ける兵器である。

一応、電磁パルスの放電をストップすれば通常ブレードとしての機能も果たすことが可能だが、その場合はショッカーブレードよりも切れ味は劣る。

しかし、それも使い手が闇舞北斗とあっては、話は別だった。

 

「しゃぁッ」

「くッ」

 

北斗が電磁ブレードを一閃するたびに、Kの特殊装甲に新たな裂傷が生まれる。ときにはズブズブと刃は突き刺さり、Kの内部のメカニックこと切り裂いていく。

尋常ではない北斗の強さに、Kは押され気味である。反撃すらできずにいる。

これは何も、Kが弱いわけではなかった。

Kは、迷っているのだ。

彼のボディに内蔵された高性能コンピューターは、たしかに、目の前の男が改造人間であると、あらゆる状況証拠から分析し、証明している。しかしそれでも、見た目には人間そのものの北斗を攻撃することは、Kにとって憚られた。

なにより、いくら改造人間のレッテルを貼られているとはいえ、Kにとって目の前の男は生物学上、ホモ・サピエンス・サピエンスなのだ。人間である。人間を攻撃することは、迷い云々以前の問題として、Kには絶対に出来ないことだった。

なぜなら、Kの電子頭脳には 『アジモフの三原則』が組み込まれているのである。

『アジモフの三原則』とは、

 

一、ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない

二、ロボットは人間に与えられた命令に服従しなければならない。ただし、当てられた命令が第一条に反する場合は、この限りではない

三、ロボットは、前掲第一条及び第二条に反するおそれのない限り、自己を守らなければならない

 

の、三条件から構成されたもので、この場合、Kの相手は人間であるため、第一条に反してしまうのだ。

しかし、たしかに北斗は人間ではあるが、改造人間であるのもまた事実なのである。Kにインプットされた情報によれば、改造人間は人間と見なされない。

……果たして、人間と改造人間の間には、どれほどの違いがあるというのだろうか?

だがKは、すべての迷いを断ち切らねばならぬことを知っていた。これが通常の戦闘員程度ならばよかったが、Kの戦っている相手は、あまりにも強すぎる。

 

「ロボット破壊銃……!」

 

胸部装甲の一部が開き、銃身が伸びる。

続発する怪事件……それらの主な首謀者は、非合法組織に操られるロボットだった。Kの腹部に搭載されたロボット破壊銃は、そういったロボットの装甲を突き破るために特殊な弾丸と、重機関銃並の連射速度を備えた武器である。

 

“バリバリバリバリッ!!!”

 

雷を連装させる銃声が響き、先ほどまで北斗が座っていたブランコを穴だらけにする。

ついに、ロボット破壊銃が、人間に向って放たれた一瞬だった。

 

 

 

 

 

改造人間と人造人間の、戦闘面における決定的な違い……それは、前者がより高い運動性を確保しているのに対して、後者はパワーを重視した設計になっていることだろう。

無論、何事にも例外はある。

〈ショッカー〉の改造人間『耐熱怪人ゴースター』などは典型的なパワーファイターだし、『ダーク』の人造人間『ブラックホース』などは、機動性を重視されて作られている。

どんなジャンルにおいても、兵器というのは使用目的によって仕様を変え、使われるのだ。

しかし、今、戦っている2人には、そういった例外は関係なかった。

圧倒的に攻撃力では北斗に勝るK。

圧倒的に機動力ではKに勝る北斗。

それが分かっているからこそ、2人は互いの距離を詰め、離れを繰り返しながら戦っていた。

接近戦で北斗がKのパワーに勝てるはずもなく、また、Kが北斗のスピードについてこられるはずもない。

遠距離戦で北斗がKのロボット破壊銃に勝てるはずもなく、また、Kが北斗の正確なブローニング・ハイパワーの精密射撃を躱せるはずもない。

 

「そんな粗い射撃では猫の子一匹殺せないぞ?」

 

稲妻のように降り注ぐロボット破壊銃の弾丸を躱しながら、北斗が吼える。

圧倒的な攻撃力を追及したロボット破壊銃は口径も大きく、連射性能もダントツだったが、反面、速度や命中精度に欠け、それが対改造人間戦では仇となっていた。もっとも、それだけに1発でも当たれば、北斗ですら必然的に蜂の巣になってしまうだろう。

しかしKの電子頭脳は、迷いはするが冷静だった。

彼に焦燥はなく、命中精度がそれ以上、下がることはない。

むしろ、少しずつではあったが、その命中精度は上昇している。これは、Kの頭脳に組み込まれた学習プログラムの賜物であった。

 

「ほう……」

 

当然ながら、北斗はそのことに気付いていた。

気付いていたからこそ、無意味と理解していながら、彼を煽った。

 

「警視庁の切り札はその程度なのか?」

 

北斗のハイパワーが、轟然と火を吹く。

通常の9mmルガー弾でKの装甲を破ろうものならば、何千発必要だろうか?

しかし、ハイパワーの銃口から放たれる9mm特殊徹甲弾はたしかにKのボディを傷付け、その内部メカニックを破壊していた。

 

「このままでは……」

 

Kが呻いた。

そう、このままでは敗北は必至である。

スペックの差はともかくとして、自分と北斗とでは、実力差は歴然であった。破壊銃の残弾も、もはや心許ない。

 

(教えてくれ、マザー……!)

 

Kは、心の中で彼の母……巨大コンピューター『マザー』の名を呼んだ。

純白の聖母は、Kに天啓を下した。

秒とかからぬ通信が行なわれ、彼の電子頭脳は、その天啓の内容を読み取った。

 

「……一気に、押し切る!」

 

相手の動きを止め、接近戦に持ち込めば勝機はある。

たしかに、こちらの機動性は相手より劣っているが、その分、パワーならば負けないし、足を狙えばその機動性も激減するはずだ。

Kはそう判断すると、破壊銃の残弾のすべてを叩き込むべく、その銃口を向けた。

そのときである。

北斗のハイパワーがタイミングよく、“カチッ”と音を鳴らした。弾切れである。

 

「チャンスだッ」

 

北斗が予備弾倉を取り出すのを待たずして、Kの破壊銃が唸る、唸る、唸る。

 

“バリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリバリ…………!!!”

 

雷が、絶え間なく北斗の身に降り注ぐ。

ランダムにジグザグ移動を繰り返すことで躱していた北斗だったが、そのとき、突如として銃弾の雷鳴が消え去った。

破壊銃もまた、弾切れしたのである。

しかもKの場合、北斗と違って予備の弾丸はない。

だがしかし、北斗は慎重だった。弾が切れたからといって何も考えなしに突っ込むようなことはしない。

そして案の定、Kは次なる攻撃手段を用意していた。

いつの間に取り出したのか、Kはアタッチメントを取り付けるように、その右腕にマシンガンを装着していた。

しかも今度のは外部からのベルト給弾が可能なようで、ある意味、ロボット破壊銃よりも性質が悪い。

 

「喰らえッ」

 

“バババババッ!”

 

マシンガンの銃口が轟然と火を吹き、弾丸の嵐が北斗を襲う。

口径は破壊銃より小さく、また、連射速度も破壊銃ほどではないため、マシンガンの攻撃力はロボット破壊銃と比べると、さすがに劣る。

しかし、その分マシンガンは破壊銃よりも命中精度に長け、しかも今までの過程で急速に成長していったKの電子頭脳と連動して、優れた命中率を叩き出していた。

右肩、左脇腹、左大腿部から鮮血が吹き出し、北斗が転倒する。

ロボット破壊銃の猛攻を全弾躱していた、あの北斗が、である。

北斗は転倒した体勢のまま、ハイパワーで反撃した。人外の連射速度でハイパワーが轟然と火を噴き、北斗の左腕が、連続的に跳ね上がる。

9mm特殊徹甲弾がKのボディを抉った。

北斗が、苦痛に顔を歪ませながら立ちあがり、イスカリオテの元へと駆ける。

Kが北斗を追ってマシンガンを連射しながら、接近する。

イスカリオテの影に隠れた北斗は、サイドボックスから一挺の全自動ライフルを取り出し、構えた。

米国製アーマライトAR−18アサルト・ライフル。

日本の豊和工業でもライセンス生産されているこの全自動ライフルは、5.56mm×45口径のライフル弾を20連発装填し、セミ・オート、フル・オートの両方の射撃で撃つことが出来る。

北斗が、AR−18のトリガーを引き絞る。

 

“ガガガガンッ!”

 

AR−18が、フル・オートで火を噴いた。

 

「ぐぅっ」

 

AR−18の猛襲に、Kのマシンガンが悲鳴を上げる。

最後に一際甲高い咆哮を上げて、マシンガンは沈黙した。

弾丸は、北斗の頭を深々と抉った。衝撃で、思わずAR−18が掌から放り出される。額が割れて、北斗の顔面が血塗れとなった。

 

「うおおおおッ」

 

思惑通り、接近戦に持ち込むことに成功したKが、北斗を殴る。

自分の放つパンチとは比べ物にならないほど重い一撃が北斗の鳩尾にめり込んだ。しかし、北斗は倒れない。

北斗が、秒とかからぬ速度で3発、左ジャブを繰り出す。

牽制と間合いをとるために放たれたジャブは、Kの鈍重なボディをふっ飛ばした。

そのまま、北斗は現時点における自身の、最強の打撃を繰り出す。

 

「吼破・水月!」

 

より速く、より遠く……

放たれた一撃は間合いギリギリの位置で踏み止まったKの胸部装甲を突き破った。

 

「なにッ!?」

 

Kが、驚愕の声を上げた。

いかに改造人間とて、通常ならば、Kの装甲が破られることはない。

しかし、目の前の男はそれをやってのけたのだ。しかも素手で、である。

 

「ムンッ」

 

北斗の追撃は止まない。

ホルスターから電磁ブレードを抜き、鍔のところに取り付けられたスイッチを押す。

刹那、ブレードに稲妻が走った!

Kがその光景を見て、ウッとたじろぐ。

電磁パルスの流れ出した電磁ブレードの威力は、Kもよく知っている。

 

「しゃあッ!」

 

異様な気合が、北斗の唇から漏れる。

電磁ブレードが、X字に唸り、Kのボディに袈裟斬りを放った。地から天へと矢のような一撃がズブズブとKの胸部を切り裂き、かえす刃がついに彼の左腕を切断する。

 

“バチバチバチッ!!!”

 

それは、電磁ブレードに流れる電流の音か、それとも、切断されたKの左腕が放っている音なのか……

 

「おおおお…!」

 

右腕だけのKが北斗に拳を振り下ろす。

片腕だけになっても、Kのパワーは絶大で、北斗は公園のベンチに激突した。

木製のベンチが、衝撃でバラバラになる。

――と、そのとき、北斗とKの耳に、パトカーのサイレンが聞こえてきた。

あれほどの銃声を上げて激突していたのだ。誰かが通報しても、おかしくはない。

 

「チッ」

 

北斗が舌打ちする。

こうなると、これ以上この場に長居することは出来ない。

北斗は、早めに勝負を仕掛けた。

 

「決着を……着けるッ」

 

北斗が、絶叫した。

雨に濡れてなお血塗られた北斗が、駆け抜ける。

 

「うう……」

 

Kは、向ってくる北斗に、生まれて始めて感じる“恐怖”という感情を知った。

ロボットであるはずの自分が恐怖を感じていることが、まず信じられないことなのに、あれだけのダメージを受けてなお、向ってくる北斗の精神力が、信じられなかった。

そしてその不信は恐怖へと変わり……Kは、絶叫した。

 

「うああああッ!」

 

Kは、無様にも北斗に背を向け、逃げた。

北斗が追う。全速力で、追う。

やがて2人の距離は近付き……

 

「ガァッ!!!」

 

怪獣の咆哮を上げた北斗の一撃が、Kのボディを貫いた…………

 

 

 

 

 

公園からイスカリオテを駆って逃げ出した北斗は、彼の母校であり、職場であった如月学園の校舎の屋上にいた。

すでに雨は上がり、血で濡れた彼の顔は、洗い流されている。

何故、ここに来てしまったのかは、分からなかった。

ただ、戦っている間だけは忘れられた『あの感情』が、Kを破壊した瞬間に、再び湧き上がってきたのだ。

 

「戦いは虚しいな、留美……」

 

そんなことはとうの昔から分かり切ったことだった。

しかし、分かっていながら北斗は戦いに逃げた。

その結果、さらなる罪悪に彼は苛まれる……

何と愚かな生き物だろうかと、彼は自嘲した。

 

「疲れちまった……な」

 

ごろんと、北斗はコンクリートブロックの上に寝転がった。

屋上が立入禁止区域となっているのは、今も昔も変わらない。鍵は開いているが……誰が好き好んで、雨上がりの屋上などに来るだろうか?

なにより、生徒達の下校時刻はとっくに過ぎている。

 

「本当に、疲れた……」

 

生まれ出でたその日、その瞬間から、彼は戦いの運命に翻弄され続けた。

その結果が、このザマである……

北斗は、自虐的に笑った。

唇を歪めるたびに、赤い血が、細い糸のように垂れる。

 

「……このまま瞼を瞑れば、そっちに逝けますか、少佐?」

 

乳白色の雲に、今は亡きランバート・クラークの顔が浮かび上がった。

ランバートは、とても悲しそうな表情で、北斗を見詰めていた。

 

「そんな顔をしないでください、少佐」

 

北斗が、苦笑を浮かべた。

ゴホッゴホッと咳き込むたびに、鮮血が迸る。

だがその出血量は、徐々にだが少なくなっていた。血を流しすぎて、血液そのものが足りなくなっている……のではない。

彼の体を駆け巡る無数のナノマシンが、肉体の修復をしているのだ。

 

「……目を瞑っただけでは、死にそうにないな」

 

北斗は、ホルスターの電磁ブレードを抜いた。

鍔のスイッチを押し、電磁パルスをブレードに流す。

いかに北斗でも、電磁ブレードを心臓に喰らえば、たちまちに生命活動は停止するだろう。

だが、北斗はそれをしなかった。

 

「未練がましいな……」

 

闇舞北斗は、人間として、戦闘者として、成熟した大人だった。

しかし、彼の持つもうひとつの側面……哲学者としては、まだまだ若輩であり、幼すぎた。

生への執着……それが人間にとって、当り前のことだと、彼は気付いていない。

そのことが、未練でもなんでもなく、当然のことだと、何故、気付かないのか。

 

「留……美……」

 

ゆっくりと瞼を閉じると、北斗の脳裏に、ドレスを着た留美の姿が映った。

 

(そう言えば、お前と踊ってやったことはなかったな)

 

北斗は、ゆっくりと留美に手を差し伸べ、留美は、その手をとった。

北斗の耳に、聞えるはずのないタンゴのリズムが流れる。タンゴの中でも、最も女性の心を打つといわれている、美しい『ブルー・タンゴ』だった。

誰もいないダンシングホールの中央で、2人は手を取り合った。

北斗のリードで、留美が氷の上を滑るような、華麗なステップを見せる。

2人の心を酔わせる曲が、ホールに充ち、留美が、花のように、蝶のように舞った。

北斗がステップを捻り、留美が大きく回転する。

曲がうねり、潮騒となって、2人の心を捉えた。そのうねりに乗って、2人は舞った。

やがて曲が終焉に近付いたとき、留美の体が光り出した。

 

「美しい……」

 

思わず、そう呟いてしまうほどに、光に包まれた留美は幻想的だった。

しかしその体は霧にように掻き消えようとしていた。

北斗は、留美の手をとった。

優しい微笑みを浮かべた彼女は、北斗の言葉を待っているようである。

 

I love you with my body, my spirit and my life.

 

留美は、満面の笑みを浮かべて、消えた。

 

 

 

 

 

どれほどの時が経ったのだろうか。

不意に、北斗は人の気配を感じて、ゆっくりと上体を起した。

改造人間の能力はすべてナノマシンが治療に持っていってしまい、ほとんど機能していない。

しかし、北斗の常人ばなれした耳は、たしかにはっきりと捉えていた。

教師用のスリッパを履いた、女性の足音を……

足音はこちらに近付いてくるようだった。

まさかと思いながらも、体を動かし、死角に移動しようとする。

しかし、北斗は立ちあがった瞬間、不覚にもよろめき、全身を走る鈍痛に、顔をしかめてしまった。

その一連の動作が、彼の反応を遅らせてしまった。

 

“ガチャッ……”

 

どこか懐かしい音がした。

“ドクンッ”と、心臓が跳ね上がる。

扉が開いて、件の人物が、驚きの表情を浮かべていた。

 

「や、闇舞先生!?」

 

北斗は、久々に会った同僚に愛想笑いも浮かべることも出来ずに、ただ呆然と彼女……夏目光の顔を眺めていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

“プロフェッサー・ギル”

 

本名、アレクサンドル・ポマネンコ。しかし、彼がその名前で呼ばれることはない。人は彼を、プロフェッサー・ギルと呼ぶ。

彼は幼少の頃、落盤事故に遭い、炭坑に生き埋めになった経験がある。巻き上がる炭塵は爆発を起こし、現場はまさに地獄絵図と化した。その事故で彼は、父親を失っている。父は息子を庇って岩石に押し潰されて、死んだのだ。生き残ったのは彼独りであり、幼い少年は、暗い闇の中での生活を余儀なくされた。

救助作業は困難を極め、彼が奇跡的に救助されたのは何と2週間も後の事であった。

彼は父の死肉を喰い、その血液を啜ることで生き永らえたのだ。だが、助け出された後の世間は、彼に厳しかった。彼の形相が2週間の間に悪鬼の如く変貌していたことも、悪い印象を与えたことは否定できない。しかしなにより、父親を食べた男として、人々から嫌悪の視線を浴びたのだ。

国を追われた彼は、後に『ギル・ヘルバート』と改名し、日本のロボット工学の権威『光明寺博士』に近付くこととなる。彼は、兵器としてのロボットを製造し、世界に販売する死の商人、秘密結社『ダーク』の支配者に収まっていたのだ。

彼は人間を……そして世界すらも憎悪していたのであった。

 

“『ダーク』と〈ショッカー〉”

 

秘密結社ダークと、秘密結社ショッカー。互いに世界征服を企む、悪の秘密結社である。

片やショッカーは、世界最大の秘密結社……『フリーメーソン』に勝るとも劣らぬ規模の巨大組織。

片やダークは、世界中に顧客を抱える巨大な兵器開発メーカー。

この二大組織の関係は、ズバリ、親分と子分の関係……もっと言うならば、親会社と子会社の関係である。無論、ショッカーが親なのは言うまでもない。ダークが世界征服のための活動を日本でしか行っていないのに対し、ショッカーは世界中に支部を抱え、現に仮面ライダー登場以前までは全世界の90%手中に収めていた。そんな超巨大組織に、ダークが敵うはずもない。

では、具体的に両者はどのような関係を築いていたのだろうか?

無論、組織ぐるみの付き合いなのだから、その方法は様々だっただろう。しかし、その中でも、最もウェイトを占めていたのは、やはり営利団体特有の商品給与だった。つまり、ショッカーが改造人間を作る際に使用するメカニックパーツを、ダークが通常よりもはるかに安い値段……タダ同然の値で売っていたのである。では、ショッカーがダークに対して施していた見返りは……?

おそらく、何もなかったのだろう。ダークに改造人間製造のノウハウを与えるわけでもなく、また、ナノマシンの技術や、生体パーツの給与もなかったと思われる。

この関係は、ショッカーが出るショッカー、デストロンになっても続き、結局、キカイダーによってダークが壊滅されるまでメカニックパーツの給与は続いた。ゲルショッカーが壊滅寸前にまで追いこまれた頃、もしかしたらダークは赤字続きだったのかもしれない。

 

 “G.R.K.Mk.V”

 

身長:205cm(オリジナルよりも4cm大きい)

重量:152kg(オリジナルよりも14kg重い)

Gray Rhinoceros King ……つまり、灰色の犀の王……はい、皆まで言わずとも判った人もいるでしょう。ダーク破壊部隊戦闘アンドロイド第1号、グレイサイキングの量産型で、Mk.Vタイプ。

自慢の怪力は機動性にまわされ、一号型よりも小回りが利く。

ダークは、最終目標を世界征服としているが、結局のところ営利団体であるため、商品の改良は随時行っている。グレイサイキングはストレートなパワーがウリの人気商品で、何度となくマイナーチェンジを繰り返されている。

10万馬力の怪力と時速900kmのスピードは健在。現行生産品はダーク新生破壊部隊の時に復活した、3倍のパワーを持っているタイプ。

商品フレーズは『自慢の怪力30万馬力! 土木、建築、ダム開発。ダークが誇る新商品、力仕事はお任せのグレイサイキング!』(嘘八百飛んで八万)。

 

 

“アンドロイドマン”

 

ダークの主力商品で主戦力。ダーク内の戦力としては低級アンドロイドにすぎないが、世界水準のレベルで見ると、かなりの高性能アンドロイド。主に番号で呼称される。

戦闘の他、人間への変身能力、壁などの垂直移動、水中活動など、その用途は幅広く、あらかじめインプットされたデータによっては、物凄い能力を発揮する。

ショッカーの戦闘員よりも性能はいいが、最初から最後まで全部機械のため、製造コストと製造時間の両方がかかる。

 

 

“1943年2月20日”

 

スターリングラード戦線の崩壊により、ドイツ帝国は枢軸軍33万人がソビエト軍に包囲されてしまっていた。救出作戦も頓挫し、最終的に9万人のドイツ軍が降伏、捕虜となった。ソ連軍は余勢を駆って西進し、一時はドイツ軍に占領されていたハリコフの解放にも成功した。

しかし、これはドイツ軍・マンシュタイン将軍の巧みな罠だった。42年末からの攻勢に次ぐ攻勢で、補給戦線の伸び切ったソ連軍を急襲する計画が、実行されようとしていた。

時に1943年2月20日、ソ連軍がドニエプル川に突進しようとしていたそのとき、ドイツ第一、第四装甲軍、SS第一装甲軍が、ソ連軍の側面から襲い掛かった!

……丁度同じ頃、同盟国日本の、とある家庭で1人の赤子が産声を上げた。赤子の名は、『闇舞北斗』。後の秘密結社〈ショッカー〉特殊部隊SIDE〈イレイザー〉の〈壱番〉である。

闇舞北斗は、生まれたその日から戦いに運命付けられていた。ある意味で、彼が戦いから逃れることは出来ない。北斗が戦いの運命から逃れる時……それは、彼が死ぬ時以外にない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

〜あとがき〜

 

タハ乱暴「ひっさしぶりに書いた〜〜〜!!!」

真一郎「ほんとに久しぶりだな」

タハ乱暴「フォフォフォフォフォフォフォフォッ。原因は分かっている。ズバリ、書く時間がなかなかとれなかった!」

真一郎「自慢になるかッ! ……っていうか、本編→外伝→本編の順番でいくんじゃなかったのかよ?」

タハ乱暴「それがさぁ、そろそろ本編の設定をアップしなきゃ不味いと思って、8割方完成させたところで、ようやく北斗の設定書こうとしたんだけど……」

真一郎「けど?」

タハ乱暴「HAHAHAHAHA!ここからは笑い話にしかなんないんだけどさ、外伝終わらないと書けないということが発覚してしまったんだな、これが」

真一郎「…………(唖然としてタハ乱暴を見ている)」

タハ乱暴「HAHAHAHAHA! 真一郎クン、ここは笑っておくところだよ?」

真一郎「笑っておくところって……そういう問題じゃねぇでしょうが〜〜〜!!!」

北斗「まったくだ」

タハ乱暴「おおっ、北斗C!」

真一郎「C?」

北斗C「便宜上の呼称さ。普通の人間・闇舞北斗を北斗A。改造人間・闇舞北斗を北斗B。ハカイダー02・闇舞北斗を北斗Cにしたらしい」

タハ乱暴「まぁ、俺としてはヤンミ、ホクト、ハッちゃんでもよかったんだけどさ」

真一郎「ハッちゃん……」

北斗C「……殺すか」

タハ乱暴「HAHAHAHAHA! いい加減スプラッタは勘弁してほしいなぁ」

北斗C「……まぁ、いい。では、今回からしばらく外伝のみの投稿が続くと思いますが」

真一郎「今後ともこのへたれSS作家に付き合ってやってください」

タハ乱暴「ではでは〜」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バネッサ「……って、ちょっと待ってください!」

タハ乱暴「うした?」

留美「『うした?』じゃないっ! も、もしかしてわたし達の出番って……」

タハ乱暴「はい、これでしばらくありませんね」

シュウ「……それはSIDE〈イレイザー〉のメンバー全員にも言えることだよね?」

タハ乱暴「ですねぇ」

ミスリム「…………殺すかの(ニヤソ)」

春麗「そうね。……バネッサと違って、私にいたってはフラグすら立ってないことだし」

シュウ「フラグ?」

春麗「いえ、気にしないで。こっちの話だから」

タハ乱暴「あああああっ! お、怒らないでくださいッ」

バネッサ「じゃあ、出番をください」

タハ乱暴「さ、3秒待って! 外伝の外伝で出番作るから!」

留美「……外伝の外伝って、なに?」

 

 

 

シュウ「はい、3秒経ちました」

タハ乱暴「出来ましたぁっ(必死)!」

春麗「早ッ!」

留美「3秒だからね」

シュウ「えっと、なになに……企画『さざなみ女子寮管理人闇舞北斗』?」

春麗「あら、私達をメインにした『とらいあんぐるハート2』みたいね。配役は……」

 

槙原耕介……………………闇舞北斗

槙原愛………………………夏目光

椎名ゆうひ…………………シュウ・タウゼント

神咲薫………………………ミハイル・セレネス

仁村知佳……………………闇舞留美

岡本みなみ…………………小島獅狼

陣内美緒……………………バネッサ・キースリング

仁村真雪……………………ランバート・クラーク

十六夜………………………ミスリム・シュレッガー

リスティ・C・C…………スレイブ・ガーランド

千堂瞳………………………夕凪春香

井上ななか…………………桐原浩平

 

バネッサ「配役に異論があります!」

留美「そう? バネッサちゃんなんか特にぴったりだと思うけど……」

春麗「よかったじゃない。最後にはナイスバディの未来が待っているのよ」

バネッサ「この配役には何か陰謀を感じます!」

タハ乱暴「HAHAHAHAHA! 話もまとまったところだし、今度こそお開きです」

バネッサ「納得いきません!」






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