注)この話はHeroes of Heartに登場するオリキャラ……闇舞北斗のストーリーであり、本編開始前の外伝的内容となっております。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――1970年12月21日――

 

 

 

 

 

 

(先が思いやられる。)

 

流れる山道の景色を眺めながら、〈弐番〉はそう思った。

英国のとある政治家が“組織”との接触を望み、その警護役に自分が抜擢されたのはまったくの不幸でしかなかった。

否、護衛の任務そのものに不満はない。問題は同情する運転手だ。

自分と同じく日本から連れてこられたエージェントなのだが、心底日本文化に陶酔しているせいか、事前のレクチャーにも関わらず外国製の左ハンドルに戸惑いを見せ、次の瞬間には明らかな嫌悪を見せた。

自分達は仮にも政治家を乗せているのだ。

こんなことで、本当に大丈夫なのだろうか?

 

「ミスター・ヤミマイ」

「〈弐番〉とお呼び下さい。ミスター・ラーケン」

「OK。あと、どれぐらいで着くのかね?」

 

王侯貴族の血を引くラーケンは、どことなくプライドの高い美男子を思わせる風貌をしていた。

〈弐番〉はバックミラーで彼の姿を確認すると、地図を取り出して現在地を確かめる。

 

「……あと、7・8分です」

 

答えて、これから向う“組織”のヨーロッパ支部の所在を思い出して思わず苦笑してしまう。

自身から謁見したいと申し出たのだから仕方ないとはいえ、基地の場所は、並みの人間では歩行も困難な場所だった。

とても貴族と政治家の肩書きを持った人間に登れるとは思わない。

 

(まぁ、運動不足気味の政治家にはいい運動だろう)

 

〈弐番〉は再び視線を窓の外へと移すと、ただぼんやりと空を眺めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

Heroes of Heart外伝

〜漆黒の破壊王〜

――奪われた誇り――

第一話「イレイザー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――1970年12月――

 

 

 

 

 

俺、闇舞北斗の人生は、他人が見れば嘔吐するぐらいには不幸なものらしい。

もっとも、俺自身そうは思っていないから構わない。

言わせる奴には言わせておけ。それで自身に火の粉が降りかかるような事態になったら振り払え。それが俺の方針だった。

ただ、この方針は度々俺の中で正当化され、時によっては変革化することもある。

さすがに俺も、教え子に自分の考えを強制するような真似はしたくない。

あくまで一般論を教え、その中で自分の理論を確立したものだけに、俺の方針は話している。責任逃れなのはもっともだが、そういった連中は大抵、俺の話を聞き流すだけで参考にはしない。

まぁ、それでなくとも時代が時代だ。社会科ヒラ教員の言うことなど、誰も聞いてくれないだろう。それよりはみな、政治に関して熱い答弁を交わしている。

日米安保論争は集結したとは言え、いまだ学生の政治意識は高いままだ。活動そのものこそ沈静化しているとはいえ、ただ話すだけならばどこででも行なわれている。

――話が脱線してしまったが、俺、闇舞北斗はとある私立高校で社会科の教員をやっている……と同時に、裏社会では暗殺者という、到底日の当たる場所には生きていけないような仕事をしている。それこそバレたら、教員免許剥奪どころの騒ぎではない。

……初めて人を殺したのは9歳の時だった。

戦後間もない日本において、都市部は例外なく治安に問題を抱えていた。

その象徴的なものとして、非合法マーケット……いわゆる闇市の利権を巡る抗争が挙げられる。

戦後の新体制を築こうとしていた政府とGHQにとって、闇市に巣くう非合法組織は目の上のタンコブだった。しかし、政治的に複雑かつ様々な問題があったこともあり、彼らは直接行動に出ることが出来なかった。

その代わり、様々な手段で利権を争う者達を煽り、彼らの決定的対立化、その果ての共倒れを狙っていた。

結果を言えば、その企みは見事成功し、各地では争いが起きた。

しかし、何の関係もない、巻き込まれた民間人からすればそれは迷惑なことこの上ない。

終戦後7年の後、やっとフィリピンから帰ってきたばかりの親父を迎えた闇舞一家が遭遇したのも、そういった事件のひとつだった。

GHQの統治も穴だらけだった。現在では考えられないほど巷には武器が溢れ、時には航空機搭載の機関砲が市街地の中心部に持ち込まれるケースすらあったのである。

俺達はその日、闇市とはまったく関係ない、表の市場で買い物をし、帰宅途中にそれと遭遇した。

まず、流れ弾に当たって親父が倒れた。次に兆弾が当たって母さんが倒れた。

当時9歳だった俺は、5歳の妹を連れて、その場から逃げ出した。

ライフルやマシンガンの音が鳴り響く中、1挺の拳銃を拾った。誰かが落としたのだろう。俺はそれをベルトに引っかけて駆けた。

しかし、争いは争いを呼ぶらしい。ジョン・M・ブローニングが掲げた理想もなんのその、俺が拾った銃を狙って、4人ほど体格のよい(当時としては)男達が目の前に現れた。

俺は咄嗟に銃を構え、トリガーを引いた。

初めて撃ったにしては上出来で、弾丸は男達の脳髄をぶちまけ、臓物を潰し、辺り一面を血の海と変えた。

どうやら45口径の銃だったらしい。

初めて人を殺してみて、人間というものは案外簡単に死んでしまうのだと思った。

そして同時に、どうしようもないぐらいの頭痛と吐き気をもよおした。

遠くの方で、妹の泣き声を聞いたような、そんな気がした。

それ以来だった。

生憎、両親以外の身寄りは戦争で全員亡くしていた俺達幼い兄妹が生き延びるためにとった手段は、裏の世界で働くことだった。

子供が裏社会で働くことは、当時すでに珍しいことではなかった。

金になることなら何でもやった。

ヤクの密売。闇市の利権。傭兵。借金取り。暴力団。金貸し。ゲリラ活動。

そんな中で、いちばん性に合っていたのが暗殺者という仕事だった。

否、暗殺者だけではない。傭兵や用心棒といった、戦うこと全般が、俺の得意分野だったらしく、俺は中学を卒業するまでに100人以上の人間を殺した。

そうやって確実に力を蓄え、貯金もしていたので高校に入るのは難しいことではなかった。

高校2年の時、なにやら妙な“組織”にスカウトされた。

快適な住居。妹の学費。武器の供給。やりすぎの感すらある優良待遇に、当初は怪しんだものの、結局、俺はその組織……〈ショッカー〉に所属することとなった。

〈弐番〉……というコードネームも、その時に授かったものだ。

〈ショッカー〉という組織は、はっきり言って異質だった。

利益を貪る営利団体でもなければ、世間の支持を集め、国家転覆を狙うようなテロリストでもなかった。

彼らの目的はただ1つ……『世界征服』である。

他人が聞けば一笑に伏すようなものだが、〈ショッカー〉には、それを可能にするだけの力があった。

政治、経済の両面で社会の深くに根を張り、裏から世界を操っている。また、真偽は定かではないが、〈ショッカー〉の介入がなければキューバ危機で核戦争が起きていた可能性すらあるというのだ。

さらには圧倒的な軍事力。

細菌兵器、毒ガス、核兵器の技術は勿論、戦車、戦闘機、戦艦と、ありとあらゆる兵器を有し、それを活用している。

そして、なにより、〈ショッカー〉が持つ最強の戦力……『改造人間』。

旧ナチスドイツで行なわれていたという生体改造技術を基盤に完成された、人間と動植物とのキメラ……『怪人』。

人間に機械的、あるいは呪術的な処置を施し、基本身体能力を増幅させた『戦闘員』。

この、『改造人間』と呼ばれる存在こそが、〈ショッカー〉最大の戦力であり、象徴とも言える存在であった。

普通に聞けば荒唐無稽とも言えるだろう。

しかし、意外にも『改造人間』の歴史は古い。

それこそ、日本にも“脳に特殊な針を打ち込み、刀の鍔に与えた振動に反応させることによって、体細胞を変化させる秘術”の存在を確認されている。

〈ショッカー〉の『改造人間』の多くは、『脳改造』と呼ばれる外科手術が施され、〈ショッカー〉に絶対の忠誠を誓わせるという方法を取られている。

もっとも、この『脳改造』は、『改造人間』の性能を著しく低下させるというデメリットがあり、指揮能力や咄嗟の判断力、精密な動作などが損われてしまうのだ。

ゆえに『脳改造』を施されるのは『戦闘員』が大半であり、彼らを統括する『怪人』や、指揮官クラスの『戦闘員』にはほとんどない。

また、『戦闘員』でも、オートバイを多用したアクロバティック攻撃が得意な『オートバイ部隊』や、水中での戦闘を得意とする『アクアラング部隊』などの、特殊部隊的戦闘員には、『脳改造』は施されていない。

俺もまた、そういった特殊部隊のひとつに所属していた。

ゆえに、〈ショッカー〉に入った時に肉体的改造は施されたものの、『脳改造』は施されていなかったのだ。

―――SIDE〈イレイザー〉。

〈ショッカー〉に仇なすあらゆる存在の消去を目的とした、文字通り掃除屋だ。

部隊のメンバーは全部で13人。メンバーは〈壱番〉、〈弐番〉……といった具合に呼ばれ、俺のコードである〈弐番〉は、〈イレイザー〉で2番目の実力者、という意味を持っている。

そしてそのことは、同時に〈ショッカー〉の戦闘員の中でも、トップクラスの実力者であることを示している……らしい。

俺個人としてはそんな事はどうでも良かった。

〈ショッカー〉の理念や理想など関係ない。

ただ、10歳にもなる前から、眼前の、『生きる』という目的のためだけに生きてきた俺にとって、〈ショッカー〉という組織は、絶好の就職先だった。ただ、それだけのことなのだ。

 

 

 

 

 

 

「中々に体力がありますね」

 

巧妙に隠された基地の入り口を探しながら、車を降りて歩いている最中、運転手が、日本語で言った。

当然、ラーケン氏に会話が聞えないようにするための所為だろう。

日本語の文法は世界でもトップクラスに入るほど分かり難いとは言われるが、それを実際に感じたのはここ最近のことだ。

 

「立場が薄れたとはいえ貴族だからな。半ば強制的にフェイシングでもさせられるんだろう」

「フェイシングですか……ルールを知りません」

「俺とてそうさ」

 

空手道や柔道、剣道や日本拳法ならば分かるのだが、海外のスポーツになるとメジャーなものしか知らない。

それに、知っていたとしても出来なければ意味もないだろう。

ふと、背後で息を切らしながら着いてくるラーケン氏を見てやる。

 

「それに、プライドがそうさせてるんだろうさ」

「……そんなプライドの高い方が、よく〈ショッカー〉と接触する気になりましたね?〈ショッカー〉と接触するということは、死か、従属かの選択肢しかないじゃないですか」

「……滅多なことは言うな。それに、ラーケン氏とて馬鹿ではない。今、海外を旅行中の妻と子供が乗っているチャーター機に、爆弾が仕掛けられていると聞いて、着いてこないわけがないさ」

「そういうもんですかね」

「きみ、御家族は?」

「20年ほど前に亡くなりました」

「そうか」

 

だからだろう。

俺とそう変わらない歳だ。

彼もまた、生きていくために仕方なく〈ショッカー〉に入ったに違いない。

『脳改造』が施されていないのは、裏切りの可能性がまったくないからだ。

裏切った時点で、彼は生きるべき手段を失ってしまうのだから。

そんな会話をしているうちに、俺達は目的の場所までやって来た。

延々と続く林の中、不自然であるが、自然に見えるよう開拓された、小さな広場。

目の前にそびえる1本の巨木が、その存在感を圧倒的に醸し出している。

 

「…着きました」

 

言うと、ラーケン氏は神妙な顔で頷いた。

俺は少しだけ歩いて、大木の前で立ち止まる。

絶縁体のゴム手袋を嵌めて、木のザラついた表面を触ってやる。

 

“カチャリ…”

 

そんな音と同時に、木の表面が不自然に凹み、中から小さな金属片と、スイッチが出現した。

トラップがないか確認して、俺はスイッチを押す。

 

“ウオオオオオオオオン”

 

機械の駆動音がして、地面の一角からエレベーターと思わしき機械が出現した。

俺はラーケン氏を招き入れると、エレベーターのスイッチを押した。

 

“ウィィィィィン”

 

いたって静かな音だ。

〈ショッカー〉の科学技術は、こんな些細なところにも進出している。

日本の優れた精密機械でも、こうはいかない。

やがて20階ほど下っただろうか?

エレベーターの扉が開き、どこか人間の暗黒面を思わせる装飾のなされたホールに出た。

意匠の凝った“鷲のレリーフが”、一層その雰囲気を漂わせている。

 

『リファウンド・ラーケン伯爵殿ですな』

 

不意に、しわがれた老人の声がした。

ラーケン氏が、挙動不審気味にキョロキョロと辺りを見回す。

対照的に俺達は、背筋を伸ばし、額から汗を流していた。

緊張しているのが、自分でもはっきりと理解できる。

 

『〈ショッカー〉にようこそ。リファウンド・ラーケン伯爵』

 

機械で編集された、男の声が聞えた。

背筋からどっと汗が噴き出す。

鷲のレリーフが点滅し、声を出したのだ。

 

「“我らが偉大なる支配者、ショッカー”よ、ラーケン伯爵は我らの理念に賛同し、ここまで来られた。彼に対し、何の持て成しもないというのは失礼かと」

『うむ。ラーケン伯爵、〈ショッカー〉は貴方を歓迎する。こちらに来たまえ』

 

声と同時に、ホールにいくつも設置された自動扉の1つが開く。

俺と運転手は直立不動の姿勢のまま、その場に留まった。

扉の中に、吸い込まれるように歩いていくラーケン伯爵の背に、死神を見たような気がした。

 

「ご苦労であったな。〈弐番〉…」

 

白衣の老人が俺に賛辞を述べる。

嬉しくはないが、不快でもない。

一言、『仕事ですから』と答え、俺はその場から退出しようとした。

刹那、男の悲鳴が聞えた。

紛れもない、先刻まで話していたラーケン伯爵の声である。

 

『〈イレイザー〉の〈弐番〉よ』

 

また、鷲のレリーフからの声。

俺はその場で跪き、指示を待つ。

 

『この度の任務、ご苦労であった。ついては、このまま日本の……北海道夕張に向ってほしい』

「夕張…でありますか?」

『うむ。そうだ。そこで〈イレイザー〉のメンバー〈壱番〉、〈四番〉、〈六番〉、〈七番〉、〈十番〉と合流せよ』

 

俺は内心で驚きを隠せないでいた。

SIDE〈イレイザー〉のメンバーは〈ショッカー〉が誇る戦闘員の中でもトップクラスのメンバーで構成されている。そのうちの6人……それも、〈イレイザー〉最強の〈壱番〉と〈弐番〉が共に参加する任務。

一体、いかなる内容だというのか?

 

『〈ショッカー〉の技術者水瀬博士が逃亡し、中国マフィアに接触を試みたようだ。SIDE〈イレイザー〉はただちに水瀬博士が潜伏していると思われる夕張に向い、即刻、水瀬博士が持ち出した資料の奪還、または処分。そして、水瀬博士の粛清を行なうのだ』

「はっ」

 

 

 

 

 

 

――1970年12月22日――

 

 

 

 

 

 

ヨーロッパから1日で夕張まで戻った俺は、札幌から千歳を経由して夕張へと向った。

さすがに北海道の大地は広かったが、現代文明が生み出した自動車に勝てず、3時間もすると夕張市に着いた。

まずは他のメンバーと合流せねばならない。

〈ショッカー〉から与えられた宿舎は夕張市の中央から50キロほど離れた所にあった。

車を降り、見るからにみすぼらしい宿を眺める。

――と、背後から気配を感じて、俺は思わず振り向いた。

 

「お久しぶりですね、北斗」

「バネッサか…。しばらく見ないうちにずいぶんと美人になったな」

 

白人にしてはやや身長の低い、一見すれば少女とも捉えられる女性……バネッサ・キースリングは俺と同じSIDE〈イレイザー〉の戦闘要員だ。

主な任務は超遠距離からの射撃。一応、常人よりも体術に長け、〈六番〉のコードを与えられている。

ちなみに歳は俺よりも5つ下の、22だ。

 

「今来たところなのか?」

「はい。春麗達はもう着ているようですけど」

「ランバート少佐は?」

「来てるみたいですよ。相変わらず時間に厳しい人です」

「……出遅れたのは俺達だけか…」

「シュウが来てないみたいですけど」

「……慰めにもならんな」

 

外観とは反して、内部は比較的小綺麗に片付けられていた。

どこぞの姑の如くツツッと指を這わせるも、かえって指の油で汚してしまった。

溜め息をついて、框を踏む。

少し進むと、20坪ほどの広さのホールに辿り着いた。

隅の方に荷物が散乱しており、中央部に大きな机が置かれている。

証明はほとんどなかったが、気配からもう3人居る事が分かった。

 

「遅かったわね〈六番〉…」

 

一見すれば高級そうなソファに腰掛けている中国人の女性……紅・春麗。

SIDE〈イレイザー〉では破壊工作担当で、〈七番〉の称号を持っている。

ここからは2人とも、闇舞北斗でも、バネッサ・キースリングでもない。

居るのは、〈ショッカー〉最強の特殊戦闘部隊SIDE〈イレイザー〉の〈弐番〉と〈六番〉だ。

 

「〈七番〉、こっちはアメリカから直通で来たんですよ?」

「言い訳はなし。どちらにしろ、時間厳守は人としての基本よ」

 

バネッサ……〈六番〉は、〈七番〉を敵視していた。

自身も認める幼児体型な彼女は、抜群のスタイルの〈七番〉を目の仇にしているのだ。

俺は視線を漂わせ、別のソファに座っている男の元へと足を運ぶ。

 

「お久しぶりですね、〈壱番〉」

「〈弐番〉か……第三次中東戦争以来だな」

 

目の前に居る男……ランバート・クラーク少佐。またの名を、SIDE〈イレイザー〉最強の男……〈壱番〉。

その経歴は謎に包まれており、現在、米軍の指揮官職に就いている。

噂ではこれまでの人生45年間の間に、1万人以上の人間を殺めてきたという。俺ですら、1000人を越えたばかりだというのに、だ。

〈壱番〉、〈弐番〉、〈参番〉と続く〈イレイザー〉の中でも、〈壱番〉と〈弐番〉の間は遠い。

もし、俺を含めた〈イレイザー〉12人で〈壱番〉に奇襲を掛けたとしても、勝つことは難しいだろう。

そして、もう1人――

 

「変わらねぇな、〈弐番〉は……」

「お前もな、〈十番〉」

 

 

 

一見すれば、何処にでも居る若者だ。

しかし、この飄々とした仕草の裏に、惨忍な殺人鬼の気配を何人が感じ取れるだろうか?

こと戦闘面に限れば、〈イレイザー〉最年少17歳の〈十番〉は〈五番〉をも上回る実力者だ。

ただ、やはり若いということもあり、経験の少なさ、判断力の低さなどから〈十番〉の地位にいる。

 

「あとは〈四番〉だけね」

「何分遅れると思う?」

「……30分ぐらい?」

「じゃ、俺は2時間でいくぜ」

「残念。はずれだよ」

 

放たれた言葉に、〈十番〉と〈七番〉がビクンと仰け反る。

振り向くと、そこには長身の青年がいた。

〈四番〉ことシュウ・タウザントは、見た目は優男だが、実際は違う、豪快なパワーファイターだ。おそらく、SIDE〈イレイザー〉13人の中でもいちばんの腕力の持ち主であろう。

 

「どうしたんだい?みんな」

「お前が時間内に来たことに驚いているんだろう」

 

シュウは時間にはわりとルーズな奴で、待ち合わせに3時間前後遅れるのもザラにある人間だ。顔は良いのでモテるのだが、この要素から、未だ特定の恋人はいない。

今日のように、ギリギリとはいえ時間内に着いたことの方が稀なのである。

 

「…ひどいな、それは」

「まぁ、なんにしろ……」

 

俺達は〈壱番〉のいるソファの前に集い、跪く。ソファに座っていた〈十番〉も同様に、俺の後ろについた。

みなを代表して、俺は言った。

 

「SIDE〈イレイザー〉、全員集結したしました」

 

 

 

 

 

 

テーブルの上に置かれた一枚の図面。そして、何枚かの資料を渡される。

一同に介した〈イレイザー〉メンバーは、あらかじめ詳しい説明を受けていたと思われる〈壱番〉の言葉を待った。

 

「水瀬博士が潜伏していると思われる廃工場周辺10キロの地形図と、諜報部より貸与された敵戦力データだ。そしてこれが――」

 

〈壱番〉の言葉に全員がテーブルの図面に注目する。

図面には、水瀬博士が国外逃亡をする際に利用しようとしているルートが、克明に書かれていた。

万が一の用心なのだろう。

俺達は次に敵戦力のデータと地形図を見比べる。

 

「……少し狭いね」

「ああ。これでは、ずいぶんと戦術が限られてしまうな」

「排気ダクト以外窓という窓もないわね……。狙撃しやすい地形だけど、外からの射撃は無理よ」

「〈六番〉には通常のライフルで戦ってもらう。出来るか?」

「はい。やってみます」

「でもよ、それだと1人戦力を割かないといけねぇだろ?〈六番〉は俺達の要なんだぜ?」

「敵の数は30人強。僕らなら倒せないことはないと思うよ」

「問題は敵の質だ。元SP上がりの奴も大勢いる」

「っていうより、過半数がそうじゃない」

「……〈弐番〉、〈六番〉の護衛に回れ。〈四番〉、〈七番〉、は正面から、〈十番〉は俺と一緒に裏口からいくぞ」

 

静かな〈壱番〉の声に、全員が頷く。

〈壱番〉が考えた作戦ははずれがない。それはこの場にいる全員が周知の事実だ。

実際、今まで〈イレイザー〉のメンバーが死ぬことは多々あったが、そのいずれもが〈壱番〉の参加していない任務だったのだ。

俺と〈六番〉は、〈四番〉と〈七番〉の後から工場内に入って、入り口付近からの射撃を試みることとなった。

 

 

 

 

 

 

――1970年12月23日――

 

 

 

 

 

 

クリスマスイブを明日に控えたその日。

街の方から聞える喧燥は、辺鄙な廃工場の付近まで聞こえてきた。

車を停車し、一緒に乗ったシュウ、バネッサ、春麗と顔を見合わせる。

時計を見ると、あと10分で作戦開始という時刻だった。

 

「武装点検は済んだ?」

 

シュウの言葉に、その場にいる全員が頷く。

実際は点検などほとんど必要ない。

俺達が使っている武器は、すべて〈ショッカー〉が独自に開発した高性能なもので、整備の必要性すらほとんどない物ばかりだった。

軽く見積もって50年は現在よりも進んだ技術力を持つ〈ショッカー〉だから出来ることである。

 

「北斗はこの後どうするんですか?」

「家に帰るよ。妹が待ってるだろうからな」

「大変ねぇ…留美ちゃんだっけ?」

「ああ。あいつには苦労をかける。クリスマスぐらい帰らないとな」

「いいお兄ちゃんしてるじゃないか」

「そんなことはないさ」

 

ただ、この世界にたった1人しかいない肉親だ。

少しでも一緒にいる時間を大切にしたいと思うのは、至極当然のことであろう。

 

「……時間です」

 

バネッサの声に、全員が時計を見た。

瞬間、この世界から闇舞北斗、シュウ・タウザント、バネッサ・キースリング、紅・春麗の4人が消えた。そして代わりに、〈弐番〉、〈四番〉、〈六番〉、〈七番〉の4人が生まれる。

コートを脱ぎ、闇色の戦闘服が露わになった。

 

「……いくぞっ…!」

 

俺の号令に、全員が駆け出した。

 

 

 

 

 

正面玄関の警備はさすがに厳重で、10人ほどの戦力が集中していた。

全員ボディアーマーを着て、ライフルを構えている。

防御クラスはUといったところだろう。

連中との距離は200メートルほど。

〈ショッカー〉自慢の改造手術によって強化された俺達の目には、敵の様子がありありと映っているが、敵はまだ俺達の存在に気付いていない。

 

「……〈四番〉!」

「オッケーッ!」

 

“ガガガガガガガガッ!!”

 

敵との距離が50メートルほどに縮まって、俺は〈四番〉に射撃命令を下した。

〈ショッカー〉御用達のサブマシンガンは既存の製品よりもはるかに射程が長い。やろうと思えば200メートルクラスの射撃も可能だ。

ついでに言えば、装填してある弾丸はすべて9mm口径の特殊徹甲弾だ。

これを止めるのならば、ボディアーマーの防御レベルはVはないと防げまい。

連中からしてみれば突然の発砲だったのだろう。

まず、4人が死んだ。残った6人のうち4人ばかりはうろたえたが、やはりそこはプロのSPが紛れているだけあって、すぐに平静を取り戻し、迎撃に移る。

だが、俺達からすればもう遅い。

何度も言うが〈ショッカー〉の改造手術によって強化された肉体には、50メートルなど2・3秒程度にしかならない。

連中の対応は早かった。

次々に撃ち出されるライフル弾。

だが、俺達とてその中に真っ直ぐ突っ込むほど馬鹿ではない。

〈四番〉と〈六番〉がやや後ろに下がり、俺と〈七番〉が先行する。

懐からナイフを取り出すと、俺達は襲い掛かる弾丸を弾き返した。

 

「なっ!?」

 

秒速数百メートルの速さで飛んでくるライフル弾を、人間の反射速度で弾き返すのは不可能に近い。

遠くの方から、悲鳴にも似た声が聞こえる。

明らかに驚愕と恐怖が同時に襲っているといった感じだ。

 

「……そんな暇があるのなら、撃ち続けている方が得策だぞ」

 

最後の10メートルほどをコンマ1秒で詰め、ナイフを一閃する。

理論上は不可能とされてきたチタンとステンレスの融着ブレードは、すでに〈ショッカー〉によって実用化されている。

使用している俺ですら目を疑うような切れ味に、ライフルを撃っていた2人が喉を掻っ切られ、死んだ。

残った4人がライフルを構える。

しかし――

 

“パスッパスッ”

 

サイレンサーによって消された音が2発。

それで2人が死んだ。残った2人も、いつの間にか接近した〈七番〉と俺のナイフで延髄を貫かれ、しばらくして事切れた。

10人の死体を眺めながら、俺は周囲の気配を探る。

工場の中ではすでに動きがあった。

均等に散開していた20人ほどの半分が、扉の方に集まっている。

 

「〈六番〉、準備はしておけ……」

 

コクリと頷く〈六番〉。

俺達はフォーメーションを変え、“その時”を待った。

 

 

 

 

 

 

 

 

〈弐番〉達が正面で派手に戦闘を始めた時、裏口を警備していた4人の男は、一瞬だけそちらに気を取られ、“彼”の接近に気が付かなかった。

気が付いた時には、もう遅い。

4人の首は、胴体を離れ、完全に切断されていた。

 

「呆気なかったっすね」

「〈弐番〉達が派手にやってくれているおかげだ。屋内の気配を探ってみろ」

 

言われて、感覚を研ぎ澄まし、建物の中にいる気配を探る〈十番〉。

20人ほどの警護は、半分ほど正面玄関の方へ移動したらしい。

ほどなくして、件の正面玄関の方が静かになる。

1発の銃声も悲鳴も聞えなくなると、〈壱番〉は静かに裏口の扉に手をかけた。

 

「……いくぞっ!」

 

〈壱番〉の声に、〈十番〉が頷く。

2人は、ゆっくりと、しかし最後には盛大な音を立てて、裏口の大きな扉を開いた。

 

 

 

 

 

 

“バァァァァァアアアンンッ!!!”

 

鉄の扉が開け放たれた音。

刹那、工場内から銃声が聞こえ始めてくる。

俺達は視線で互いに合図を送りあう。

〈四番〉と〈七番〉が、扉に手をかけて、こちらでも開け放った。

 

“バァァァァァアアアンンッ!!!”

 

開け放たれた音によって、〈四番〉のマシンガンと〈六番〉のライフルの銃声が掻き消される。

扉を開けた瞬間、敵の数は数えるばかりに減った。

 

「〈六番〉っ……!」

「了解」

 

〈六番〉の狙撃により、次々と遠くにいる敵は沈黙していく。

また、近くにいる敵も、〈四番〉と〈七番〉の手によってことごとく命を失っていった。

そして、廃工場にはいつものような沈黙が訪れる。

あるのは、〈イレイザー〉6人の息遣いと、ひとり孤独に残された水瀬博士の荒い息遣いのみ。

廃工場に設けられた小さな居住スペースに、〈イレイザー〉は近付いていく。

――と、その時、突如として、その居住スペースから雄叫びが上がった!

 

“ブルルルルルルルッ!”

 

蝿が羽根を振動させ、飛翔するかのような声。

紛れもなく、『怪人』のものだった。

刹那、コンクリートブロックで固められた居住スペースの壁が、見る見るうちに穴を空け始めた。

そして、中から出てきたのは――

 

“ブルルルルルルルッ!”

 

「うわっ! 気持ち悪ぅ」

「〈蝿男〉か…」

「私は諦めんぞ。2度と〈ショッカー〉なんぞに戻ってたまるか!」

「それは貴様の都合だ。我々にも、我々なりの都合というものがある」

 

だからそれを理解してくれとは思わない。

個人の主義主張は自由だ。

しかし、社会には社会のルールがあるように、〈ショッカー〉にも鉄の掟というものがある。

――“裏切り者には死を”。

それが、俺達〈ショッカー〉の方針なのだ。

 

「〈弐番〉……」

「はっ」

 

先刻まで使っていたナイフを納め、腰のホルスターから、別のナイフを取り出す。

刃渡り1尺にもおよぶそれは、ナイフというより刃そのものの感が強かった。

俺と〈壱番〉はそれを構えると、〈蝿男〉に向き直る。

 

「フンッ!まさか『戦闘員』が『怪人』に勝てると思っているのか?」

「ああ、思っているとも」

「貴様こそ、俺達を誰だと思っているんだ?」

 

〈壱番〉と俺は、声を揃えて言った。

 

『俺達は、SIDE〈イレイザー〉だぞ?』

 

次の瞬間、〈蝿男〉は恐慌した。

 

 

 

 

 

 

『俺達は、SIDE〈イレイザー〉だぞ?』

 

言い放った瞬間、すでに彼らは駆け出していた。

 

「……は?」

 

そして、気が付いた時には斬られていた。

まさに不可視の速度からの斬撃。

水瀬博士が変貌した〈蝿男〉は勿論のこと、他の〈イレイザー〉メンバーですら、その動きを捉えることは出来なかったのだ。

しかし、それでも『戦闘員』と『怪人』の戦いである。

たとえ相手が何の戦闘経験もない男の『改造人間』だったとしても、スペックからして雲泥の差がある。

しかし、〈四番〉、〈六番〉、〈七番〉は、余裕の表情でそれを見守っている。

ただ、〈十番〉だけがうろたえていた。

 

「お、おい!相手は『怪人』だぞ!!2人だけで戦わせていいのかよっ!?」

「大丈夫です」

「そういえば〈十番〉は見たことがなかったんだっけ?」

「な、なにをだよっ?」

「…僕達〈イレイザー〉の任務成功率は平均して93.4%。任務の内容って面もあるけど、それでもやっぱり失敗はある。それは去年、きみの前任であった〈十番〉の死んだことからも明らかだよね?」

「だ、だったら尚の事!」

「……でも、その成功率は特定の条件の下では確実に100%になるんです」

「ひゃ、100パーって…………」

「その特定の条件が、何だか分かるかしら?」

「……知るかよ!そんなこと!!」

 

3人は昂ぶる少年を宥めるように、

 

『SIDE〈イレイザー〉の〈壱番〉と〈弐番〉が揃った時、その任務は確実に成功する』

 

3人の言葉に、〈十番〉が戦いを繰り広げる2人と1体の方を向く。

――そこには、獣がいた。

そう言っても過言でないほど、〈壱番〉と〈弐番〉は〈蝿男〉相手に、互角の戦闘を繰り広げていた。

否、それどころか2人の方が押しているようにさえ見える。

〈蝿男〉最大の武器である溶解液はことごとく躱され、2人の放つ斬撃は的確に〈蝿男〉の急所を貫き、切り裂いている。

それも完璧なユニゾンだった。

片方が斬ればもう片方は突く。

片方が逃げれば片方は追撃を阻止し、もう片方の援護を待つ。

左右対称に蹴り上げるポイントは同一。

切り裂くポイントも、叩き込むポイントも同様だ。

まるで、お互いの考えが読めるかのようなその動き。

否、正確には考えが読めるわけではない。動きが読めるのだ。

『戦闘員』クラスの強化改造とはいえ、彼らに施された『改造手術』は、2人の五感を極限まで高め、細胞1つ1つの脈動。血液の流動。筋肉の収縮といった、あらゆる肉体の動きを把握させていた。

そして、その現象は第六感までにも及ぶ。

予知能力や勘の働きなど、それこそ超能力者と呼ばれる者達の領域まで底上げされ、2人は、互いがどう動くか、意識レベルで“予知”することが出来るのだ。

意志疎通ではなく、予知だ。

〈ショッカー〉の科学技術をして超能力という分野はまだ不明な点が多い。無論、失敗の可能性とてある。

しかし、2人は実力者だった。

実力者であるという無意識のうちの認識が、2人に確固たる自信を持たせ、あいつならこう動く、彼ならばこう動くという、確信にも似たものを抱かせているのである。

そして、彼らはその中で信頼関係を得た。

おそらく、この地球上で最も強い絆を得たのだ。

そしてそれは、今まさに、最強の肉体を得たはずの水瀬博士を震撼させるに充分な威力を示していた。

 

「ぎゃぁっ!!」

 

情けない悲鳴を上げて、〈蝿男〉が2人から距離をとる。

ナイフの一閃は確実に〈蝿男〉にダメージを蓄積させ、出血を増やしていた。

決定打さえあれば、〈蝿男〉は夥しい量の出血をして、絶命するであろう。

〈壱番〉と〈弐番〉は、目配せもせず、寸分の違いもなく散開した。

 

「!?」

 

『怪人』の能力を得たとはいえ、水瀬博士は戦闘に関して素人であった。

その時点で、すでにこの戦いの勝敗は決まっていたのかもしれない。

〈弐番〉がナイフを振るい、〈蝿男〉の急所を貫く。

彼の持っているナイフは、刺突用のナイフではない。

加えて相手は『怪人』である。そのボディは堅牢で、たとえ水瀬博士が戦闘の素人であっても、かなりの強度を誇っている。

ゆえにその威力は激減するが、何度も述べるように素人が変身した〈蝿男〉の意識を呼び込むには充分な威力を発揮していた。

掌底を叩き込み、体を反転させて蹴り上げる。

〈蝿男〉の間合いから逃れた〈弐番〉は、ニヤリと笑った。

仰け反る〈蝿男〉の視界に、異様な形をした拳銃を持った〈壱番〉の姿が映った。

 

“バババババババババババババババババババババババスススッッ!!!”

 

怒涛の23連射。

――Shocker M Assassin

ショッカーが独自の技術で開発した、“暗殺者”の名をもつ拳銃だった。

世界最強の拳銃であるS&W M29の44マグナムを超える破壊力を有した45口径ショッカー弾を装填し、総弾数23発という驚異的数字を持つ、間違いなく、現時点で地上最強の拳銃である。

その、23発の弾丸が、〈蝿男〉の全身に叩き込まれたのだ。

 

「―――――――!!!」

 

〈蝿男〉は悲鳴も上げられず、大量の出血と共にその命を散らせた。

そして爆発!

〈ショッカー〉に逆らってなお、証拠隠滅のために用意された、死体消滅装置がはたらいたのだ。

 

「……ほらね。あれが僕達SIDE〈イレイザー〉のリーダー……ランバート・クラークと――」

「――闇舞北斗ですよ」

 

シュウとバネッサの言葉に、〈十番〉……桐原浩平は、『最強』の二文字を持つ男達の背中を見ながら頷いた。

 

 

 

 

 

 

――1970年12月24日――

 

 

 

 

 

 

水瀬博士に関する任務を終えて、俺は報告書を半ば強制的にバネッサに回して、東京へと帰った。

街はクリスマス一色で、キラキラとイルミネーションが輝いている。

デパートの売り場でクリスマスケーキを買い、俺は我が家への帰路に就いた。

途中、何人かの教え子達を見つけたが、声はかけなかった。

わざわざ皆で楽しんでいるところを邪魔する必要もないと思ったからだ。

それよりは、俺にもやることがある。

街の方の喧騒を遠くに聞きながら、俺はとあるアパートの前で立ち止まった。

2人で住むには少々広い、3LDKの一室。

部屋の前まで来ると、俺はインターホンを押した。

部屋の中から、ドタドタと騒がしい音がする。

 

“ガチャリッ”

 

そんな音がして、部屋の中から暖かい空気が洩れてきた。

目の前では、良く見知った女性が嬉しそうな表情を浮かべている。

 

「――ただいま、留美」

「おかえりなさい。兄さん」

 

暖かい部屋に、暖かい家族。

俺はふと、あの時殺した水瀬博士のことを思い出した。

彼にも家族がいたのだろうか?

余計な詮索はしない。それがこの業界の鉄則とはいえ、考えずにはいられなかった。

俺はまだ、帰るべき場所がある分、幸せなのだろう。

その身に染みついた硝煙と血の臭いを拭うかのように、俺は不器用に笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

設定説明

 

“SIDE〈イレイザー〉”

 

〈ショッカー〉が誇る最強の特殊部隊。

〈ショッカー〉に仇なすあらゆる存在を抹消し、殲滅する事を主な任務としている。

また、〈ショッカー〉の裏切り者の抹殺も請け負っている。

本編の会話にもあるように第三次中東戦争にも関わっているようで、噂によるとケネディ大統領暗殺にも関わっているらしい。

構成員は13人で、〈ショッカー〉の戦闘員の中でも、エリート中のエリートが抜擢される。

実力制で、メンバーは番号で呼称される。

 

 

〈イレイザー〉の装備

 

〈イレイザー〉の装備は、〈ショッカー〉でも最高水準の技術によって製造され、その威力は改造人間すらも撃破するほどの性能を持っている。

 

 

Shocker M Assassin”

 

ドイツの名銃……ワルサーP38や、後のベレッタM92をも凌ぐ高性能拳銃。

44マグナム弾を超える45ショッカー弾を使用し、サブマシンガン並みの連射力を誇る。

また、高性能の消音機構が備えられており、45口径にしてその効果は絶大。

〈イレイザー〉にのみ支給されている。

 

口径:45ショッカー弾 全長:254mm 銃身長:155mm

重量:1530g 総弾数:22+1発

ライフリング:6条右回り 初速720m/秒 連射速度:1050発/分。

 

 

“320式型自動小銃”

 

これも〈イレイザー〉にのみ支給されているライフル。

仮面ライダー本編中で190式型自動小銃、250式型自動小銃の2丁の説明がされていたが、これはそれをさらに凌ぐ性能を持つ。

アサシン同様特殊な8mmショッカー弾を使用する。

有功射程距離1500メートル。最大射程距離2500メートル。35連発式。

ちなみに、現在米軍が制式としているM16A2の有功射程距離は200メートル。最大射程距離は460メートルで、30連発式。

 

 

“バトルナイフ”

 

性質の違うステンレスとチタニウムの融着を可能とした強力ナイフ。

この技術は2004年現在になって初めて実用化されたが、この時点で、すでに〈ショッカー〉は実用化に成功している。

 

全長:260mm 刃長:140mm

 

 

“ショッカーブレード”

 

バトルナイフと同じ合金でできているが、こちらにはミステルカーテンなる特殊処置が施されており、その切れ味は改造人間すらも切り裂く。

表面はモース硬度で9.4度(普通、ナイフなどは5.5前後とされている)。

〈イレイザー〉の中でも、〈壱番〉と〈弐番〉にしか支給されていない。

 

全長:450mm 刃長:300mm

 

 

ちなみに、チタンとステンレスの融着ブレードは、「フリーダムナイブズ」社が『クラッドチタンナイフ』というナイフで、初めて実用化した。価格は65940円。ハンドル無しタイプは44940円。スペックは以下のとおり。

 

全長:239mm 刃長:110mm 素材:チタニウム、V−G鋼(HRCで硬度61もの数値が確認されている)

 

世界限定250本生産品。

 

 

“戦闘服”

 

〈イレイザー〉に支給されている特殊戦闘服。

特殊金属繊維で編まれており、動きやすく、丈夫。

防刃、耐熱性に優れ、素のままでも防御クラスVのボディアーマー並みの効果を有する。

また、小型の発電装置をプリントされており、微弱ながらも電流を流すことで装着者の筋力強化を促している。

例の全身タイツ型ではないのがミソ。

 

 

 

 

 

 

〜あとがき〜

 

今回の話は、『Heroes of Heart』本編に登場するオリキャラ……闇舞北斗がハカイダー02となる以前、そしてなった後、本編開始までの外伝的ストーリーです。

本編単独でも分かるように努力しますが、こちらを読んでいただければ、より一層本編が楽しくなると思います。

さて、この時点で明言されているように、闇舞北斗は元々〈ショッカー〉最強の特殊部隊の戦闘員……という設定です。ですから、まだ現時点ではハカイダー02でもなんでもないわけです(改造人間ではありますが)。また、まだ仮面ライダーも登場しておらず、仮面ライダー本編が始まる前のストーリーと考えてください。

そしてこの時点では、不破志郎もまだ生まれていないので、完全にとらハとは独立したシナリオとなっております。

おそらく、この外伝だけで10数話いくと思うので、最後までお付き合いねがえれば幸いです。






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