※本作は永遠のアセリアAnotherの番外編短編小説です。

 アセリアAnother本編ではありえない話を、オリ主桜坂柳也とヒロインのカップリングで進行させていきます。

 なので、そういった話がお嫌いな方……原作キャラがほとんど活躍しねぇぞ。どういうことだゴラァ!? な、人は、今すぐバック・プリーズ。

 そうじゃない方は、稚拙な文章ではありますが、しばし目線をお留めいただければ幸いです。

 

 

 

 

 あ、あと本作はあくまで番外編なので、時系列は基本とんでもないことになっています。

 なので、その辺りもよろしくお願いします。

 

 

 

 

 

 甘いお菓子と綺麗なお花。星にまつわる御伽噺と、楽しい占いの話。お洒落に、コイバナ。

 どれも世の女の子が大好きなものだ。

 自他共に認める女好き、桜坂柳也は、まだ現代世界で暮らしていた頃、女性との楽しい会話のため、これらの話題について日頃から情報収集に余念がなかった。特に占いに関しては柳也自身興味を惹かれたこともあり、古典的な花占いからポピュラーなタロット占い、コアなホロスコープ作成まで一通りこなした。占いを通じて人類科学の文化史を学んだ時間はたいへん有意義なものであり、彼の人生の確かな肥やしとなっていた。

 所変わって有限世界ファンタズマゴリア。

 その日、柳也は夕食時の話題に、女の子のスピリット達が喜びそうな話として、地球の占いを選んだ。

 上官の口から語られる異世界の占いに少女達は興奮し、あるいは感動し、自分も見てほしい、と彼にねだった。

 柳也は快く彼女らの願いを聞き入れ、ファンタズマゴリアでも出来そうな占いとして手相を見ることにした。

 このときの結果が当たったか否かはさておき、柳也が占いを出来る、という話は、やがて第一詰め所の悠人達の耳にも伝わった。この話を聞いて、ハイペリアについて興味を持つアセリアと、お祭り大好き騒ぐの大好きななオルファが、柳也のいる第二詰め所に足を運ばぬわけがなかった。二人の手相を見た柳也は、次いで雪崩式で連れてこられたエスペリアと悠人の手相も見た。

 まずはエスペリアの手相。

「……近いうちに、想い人との関係を進展させられるチャンスが訪れるな」

 この結果を聞かされたエスペリアは、恥ずかしそうに、それでいて嬉しそうに微笑んで、柳也に礼を述べた。

 続いて悠人の手相を見た柳也は、瞬間、絶句した。

「…………」

「どうしたんだ、柳也?」

 自分の掌を見るなり硬直した友人の様子を怪訝に思った悠人が訊ねた。

 柳也は難しい表情を浮かべながら、どうしてか汗ばんだ手で自分の掌を握り、剣呑な眼差しをしげしげと注いできた。

「こ、これは……い、いや、しかし……」

 頬を引き攣らせながら呟く柳也。

 戦友の尋常ならざる態度に不安を覚えた悠人は、少し怯えた声で再度言の葉を紡いだ。

「ど、どうしたんだよ、柳也? ……何か、良くない相が見えたのか?」

「良くない、といえば、良くない。……まぁ、ごく一部の人間からすれば、喜ばしい相かもしれないが……」

 要領を得ない回答。

 自分の掌に浮かぶ相から得た解釈を、正直に口にするのを躊躇っているのは明らかだった。

 しかし、下手な嘘や、曖昧な言葉は、かえって友人を傷つけるだけと判じたか。

 やがて柳也は、決然とした表情で、悠人に言った。

「……悠人、落ち着いて、よく聞いてくれ。実はな、お前の手相なんだが……」

「……」

 緊張の一瞬。

 思わず、ごくり、と喉が鳴る。

 この瞬間、悠人の視線は柳也の唇だけに向けられ、悠人の耳は、友人の声だけを拾うよう集中した。

 柳也の唇が、動いた。

 柳也の舌が、音を発した。

 その、単語の並びの意味するところを悟ったとき、今度は悠人が絶句する番となった。

「実はな、悠人……お前の掌に、女難の相ならぬ……男難の相が出ているんだ」

 

   

 

 

 

永遠のアセリア

-The Spirit of Eternity Sword Another Story “Twin Edge of Protection”-

番外編 Episode04「朝鮮半島の難相 ――ウホッ、イイ野郎達ルート――」

 

 

 

 

 

 それは、とある日の訓練途中に起こった。

 スピリット・タスク・フォース隊隊長、高嶺悠人。

 訓練途中に尿意を催した彼が、トイレのために訓練を中座したときのことだった。

 

 

「う〜、トイレトイレ!」

 いま、トイレを求めて全力疾走しているこの俺は、ラキオス王国軍に所属するごくごく普通の男の子。強いて違うところを挙げるとするなら、異世界からやって来たエトランジェってことかなぁ。名前は高嶺悠人。

 そんなわけで、俺は近くの野外訓練場のトイレにやって来たのだ。

「ん?」

 ふと見ると、トイレの側に置かれたベンチに、一人の若い男が座っていた。自動車修理工風のツナギを着た、精悍な顔立ちのちょっと悪っぽい男だ。

 ウホッ! いい男……。

「ハッ」

 そう思っていると、突然その男は俺の見ている前でツナギのホックをはずし始めた。

 そして男は、俺に向かって一言。

「やらないか?」

 

 

 エトランジェ・ユートが失踪した。

 この事実をSTF 隊のメンバーが知ったのは、その日の夜のことだった。

 悠人が中座してから十分後、一向にトイレから戻ってくる気配がないことから不審に思った柳也がトイレに向かうと、そこに友人の姿はなく、置き去りにされた〈求め〉だけが転がっていた。

 ますます不審を募らせた柳也は周辺を探したが、悠人は一向に見つからなかった。

 入れ違いになったのかと思い、みなのところへ戻るも、そこにも友人の姿はなかった。

 結局、その日の午後の訓練中、悠人は一度として顔を見せなかった。

 そればかりか、訓練が終わった後も、彼は現われなかった。

 いよいよ焦り始めた柳也は、悠人のいそうな場所すべてに顔を出した。しかし、第一詰め所にも、王城にも、以前柳也が紹介してやった行き付けのキャバレーにも、悠人の姿は見当たらなかった。

 ここに来て、柳也達は悠人が行方不明になった事実を認めた。

 一瞬、戦うことが嫌になって逃げ出したのか、との考えが柳也の頭の中をよぎった。

 しかし、すぐにかぶりを振ってその考えを打ち消す。佳織を人質に取られている以上、悠人が自分の意思で姿をくらませたとは考えにくい。となれば、失踪の原因は、何らかの事件に巻き込まれた可能性が高かった。

 事態を重く見た柳也は、副隊長としてSTF 隊の訓練の無期限停止を発令、ラキオス王とリリアナ、リリィ、ダグラス通産大臣らを集めて、第一詰め所の食堂で捜査会議を開いた。

「……これが、いまから数時間前、件のトイレの前を撮影した映像だ」

 柳也はそう言ってテーブルの上に、ゴン、とバッテリー式の携帯テレビを置いた。

 すかさず、リリィから鋭いツッコミが入る。

「って、ちょっと待ってください! なんでナチュラルに携帯テレビが出てくるんですか!? それに撮影って!」

「それに関しては、ちゃんと理由がある」

 柳也は真顔で、最初から順序立ててリリィに言った。

「実は、トイレに悠人を探しに行った時にな、現場の側に、ハンディカメラ片手に鼻血を噴いて倒れていた謎の巫女さんがいてな。この携帯テレビはその巫女さんが持っていたんだ。……どうやらその巫女さんは、悠人のことをストーキングしていたらしく、ハンディカメラには現場の様子が鮮明に録画されていた。巫女さんは鼻血を噴きながら気絶していた。そこで、これ幸いにと彼女の手からぶん盗ってきたんだ。

 ……ちなみに、件の巫女さんだが、うわ言で『悠人さんが……わたしの悠人さんのお尻がピンチ……』と、呟いていた。おそらく、悠人がかまを掘られる瞬間を想像して、思わず鼻血を噴いてしまい、貧血で倒れてしまったんだろう」

「安心しろ、リリィ」

 通産大臣という身分でありながら、なぜか捜査会議に参加しているダグラスが、実の娘の肩を優しく叩いた。

 親指を立て、シニカルに笑って言う。

「件の巫女服の女性には、たらふくホウレンソウを与えておいた」

 さすがはアメリカ出身のエトランジェ、ダグラス・スカイホーク。ホウレンソウを与えたのは、ポパイの影響だろう。

「それで、ハンディカメラに映っていた映像というのは……」

 ダグラスの発言を無視してラキオス王が訊ねた。これまでの生涯において、機械文明と触れた経験のない彼だが、早くも柳也が持ち出した携帯テレビに順応している様子だった。

 柳也はラキオス王の言葉に頷くと、謎の巫女さんからぶん捕ったハンディカメラと携帯テレビを繋げた。

 記録した映像を、再生する。

 液晶画面に、犯行当時の様子が鮮明に浮かび上がった。

 ベンチに座った男がツナギのホックをはずし始めた瞬間、女性陣から黄色い悲鳴が上がる。

 他方、男性陣からは野太い絶叫が上がった。

「む、むぅ……!」

「なんと……!」

「こ、これは……」

「す、すげぇ……」

 上から、ダグラス通産大臣、ラキオス王、リリアナ、柳也の順番だ。

 男達の眼差しは、ホックをはずしたツナギから露出する、豊穣のシンボルに注がれていた。

『やらないか?』

 謎の自動車修理工風のツナギの男が口を開く。

 彼は嫌がる悠人を、ホイホイ縛り上げ、攫っていった。まごうことなき、誘拐の一部始終。

 ガタガタ、と画面がぶれる。どうやら、あまりにショッキングな光景を前に、巫女さんが気絶してしまったようだ。モニターはそこから、変化のない地面を映すばかりとなった。柳也が停止ボタンを押す。

「……というわけだ」

「陛下!」

 再生が終わると同時に、ダグラスがラキオス王の顔を見た。

「この男の顔、そして先の発言! 何より常人離れした巨大なるバベルの塔! この男はもしや……!」

「うむ。間違いない!」

 ダグラスの発言にラキオス王が重々しく頷いた。

 柳也の、そしてSTF 隊のみなの顔が硬化する。

 二人の様子から察するに、彼らは映像に映っていた自動車修理工風のツナギを着た人物について、心当たりがあるようだった。

「教えてください、陛下! この男はいったい……!」

 悠人の身を案ずるがあまり、普段の冷静な態度を忘れたエスペリアが、ラキオス王に顔を近づける。妖精差別が全盛を極めるこの時世、スピリットが人間に顔を近づけるのは、それだけで不敬罪となりかねない。いまの彼女は、明らかに冷静さを欠いていた。

 いきなり顔を近づけてきたエスペリアに対し、しかしラキオス王は、そのことについては何も言わなかった。

 国王は沈痛な面持ちを浮かべてエスペリアを見た後、居並ぶ面々を見回して、重い唇を開いた。

「エスペリアが知らぬのも無理はない。いまから三十年ほど前のことになる。王都ラキオスを中心に活動する、一つの組織が存在した。非合法な暗黒結社だ。彼らは当時、王都に暮らしていた何人もの美少年及び美青年及び美中年及び美壮年を誘拐・拉致するという、凶悪な犯罪に手を染めていた」

 ラキオス王はそこで一旦言葉を区切ると、忌々しげな表情を浮かべて続けた。

 忌まわしき組織の名を、その唇で呼ぶ。

「その組織の名は“ウホッ、イイ野郎達!” そしていまの映像に映っていた男こそ、“ウホッ、イイ野郎達!”の首魁、トベだ!」

「「「「「な、なんだって−−−−−−!!!?」」」」」

 ラキオス王のその言葉に、ダグラスとリリアナを除く全員が絶叫した。

 ラキオス王はみなが落ち着くのを待たずして、説明を続ける。禍々しい、どこまでも暗い憎悪を声音に載せて。

「奴らは……端的に言えば、男が好きな男達だ。つまり、同性愛者の集団なのだ。それも、ただの同性愛者ではない。男女の愛を邪道と見なし、この世界は唯一男同士の愛によって救われる、とする偏った思想を持ったイデオロギー集団なのだ。彼らは男女の恋愛を認めない。女同士の恋愛も認めない。ただ唯一、男同士の恋愛のみを認める。そしてそれを世にあまねく広めるべく、男達を攫っていったのだ」

「さ、攫われた男の人達はどうなったんですか……?」

 ヘリオンが、おずおず、と震える声で訊ねた。

 するとラキオス王は、不意に目線を逸らした。

「そ、それは……リリアナ・ヨゴウ剣術指南役に聞いた方がよかろう」

 全員の視線が、それまで黙然と会議の成り行きを見守っていたリリアナに注がれる。

 指名を受けた彼は直後、この世のものとは思えぬ凄絶な表情を浮かべた。唇が、ぶるぶる、と震え、眦が釣り上がる。

「奴らに……掘られるのだ……尻を……延々とな……」

 リリアナの発言が食堂に響いた瞬間、その意味を理解した年長組のスピリット達とリリィは揃って顔を赤くした。他方、リリアナの口にした「掘る」という言葉の意味が分かりかねるアセリアと年少組のスピリットは、これまた揃って首を傾げた。そして柳也は、顔面蒼白で自らの尻を押さえた。リリアナの言葉に、思わず映像の中のトベが自分の尻を掘るところを想像してしまったらしい。

 柳也は尻を押さえながらリリアナに言う。

「し、しかし、やけに連中の手口に詳しいな、ヨゴウ殿……」

 何気なく柳也が呟いたその途端、リリアナは、ふいっ、と目線を逸らした。

 よく見ると、真っ青で赤い、という矛盾した顔色になている。

「それは……実は、三〇年前……当時、一四歳だった私は、実際に連中に捕まって……」

「……なに?」

 柳也は唖然とした。まさか目の前にいるリリアナもまた件の“ウホッ、イイ野郎達!”の被害者だったとは。

 そのときの恐怖を思い出したのか、リリアナは震える声で当時の様子を語った。

「それはもう、恐ろしい……この世のものとは思えない光景だった。私は連中に無理矢理裸にされ、連中が怒張したバベルの塔を私の中に……アッ――――――!!!」

「よ、ヨゴウ殿! しっかりしろ!」

 よほどトラウマになっているのか、突如として髪を振り乱し、絶叫を上げたリリアナの様子に柳也は慌てた。

「恐ろしかった。ああ、恐ろしかった。何が恐ろしかったかと言えば……………………だんだん感じてしまう自分がいたことだ………………」

「いやああああああ――――――――!!!」

 頬を紅色に染めながら呟いたリリアナに、柳也はもはや泣き叫ぶしかなかった。

 かつて剣を交わして近くに感じたリリアナの存在が、急に遠くに感じてしまった。

 錯乱状態に陥ったリリアナと柳也に同情的な眼差しを注ぎつつ、ダグラスが口を開く。

「三〇年前の事件のときは王国軍が連中のアジトを強襲し、主要メンバーを一斉に逮捕したことでなんとか解決させることに成功した。しかし、主犯のトベを取り逃がしてしまったのだ。おそらく、今回エトランジェ・ユートを攫ったのも、トベだろう」

「映像の男は、当時のトベと何ら変わりのない姿をしていた」

 ダグラス通産大臣の言葉を、ラキオス王が継いだ。

「おそらく、この男は、三〇年前の事件のトベの血縁者だろう。言うなれば、トベ二世!

 トベ二世がエトランジェ・ユートを攫った目的は明らかだ。ユートは美少年。彼を拉致・監禁し、調教を施すことで同性愛者に洗脳し、再び“ウホッ、イイ野郎達!”を結成するつもりだろう」

「大変だ!」

 正気を取り戻した柳也が叫んだ。

 いま、彼の頭の中では、トベ二世に尻を掘られ、男の良さを徹底的に教え込まれ、洗脳された悠人が、大陸中のイイ野郎達を拉致し、調教を施す地獄絵図がまざまざと展開していた。危険だ。あまりにも危険すぎる。

 悠人は、ファンタズマゴリアでも数少ない粘液触手の使い手だ(ヲイ)。ひとたび彼の粘液触手が唸りを上げれば、まともな男は再起不能になってしまう(コラ)! よしんば耐えられたとしても、二度と女性では満足出来ない体に作り替えられてしまうだろう(だからマテって)。

「一刻も早く悠人を助け出し、トベ二世の野望を潰さなければ!」

「陛下、おそらくトベ二世は、旧“ウホッ、イイ野郎達!”のアジト……コードネーム・発展城に潜伏しているものと思われます」

 同じく正気を取り戻したリリアナが言った。

「あの忌まわしい事件から三〇年、発展城は王国政府の管理下に置かれていますが、かつて犯罪者が暗躍していた場所として忌み嫌われ、ほとんど人の立ち寄らぬ場所となっております。隠れ家としては絶好の場所かと」

「スピリット・タスク・フォース!」

 リリアナの言葉にひとつ頷いて、柳也は居並ぶ仲間達を見回した。

「STF 隊副隊長として今後の行動方針を告げる。俺達はこれより発展城へ向かう。目的はSTF 隊隊長の救出と、トベ二世の野望を挫くことだ。なんとしても……なんっっっっんんんんとしても! 悠人のノンケのまま救い出すぞ!」

 柳也はいつになく荒々しい語調でみなに言い放った。なんとしても悠人をノーマルな性癖のまま連れて帰らねば。彼に想いを寄せる小鳥のためにも。彼の義妹の佳織のためにも。つい先日手相を見てやったエスペリアのためにも。

 胸に抱いた決意は、強く、固く。

 柳也はラキオス王を見て、挙手敬礼した。

「事態は一刻を争います。これよりSTF隊は、ただちに発展城へと向かいます」

 柳也の力強い宣言に、異を唱える者は誰一人いなかった。

 

 

 王都ラキオスの南部に広がる、広大なリュケイレムの森。

 なだらかな丘陵地帯に茂る樹海の中に、その城はあった。

 コードネーム発展城。

 かつて、暗黒結社“ウホッ、イイ野郎達!”が、活動の拠点として使っていたアジトだ。

 ラキオス王城と同じモット・アンド・ベリー形式の城は、その周囲を焼成煉瓦の城壁で囲み、内側には六メートルほどの高さの盛り土の丘を築いていた。

 丘の上には小ぶりな塔が聳え立っていた。円柱の形をした天守だ。小ぶり、とはいうものの、四階建ての立派な建物で、城砦の中枢としての機能は十分に果たせる造りになっていた。

 三〇年前に“ウホッ、イイ野郎達!”が壊滅して以来、放棄されたはずの天守には、煌々と明かりが灯っていた。

 円柱状の天守三階、居住用空間の階層。

 中央に置かれた大きなベッドの上で、高嶺悠人は目を覚ました。

 最初に視界に映じたのはエーテル灯の優しい明かりだった。次いで視界が捉えたのは見知らぬ天井だった。高い、石造りの天井だ。いま自分が横になっている場所が第一詰め所や練兵場の休憩室でないことはすぐに分かった。まだ起きたばかりで、自分が置かれた状況を把握しきれない悠人は、とりあえず寝台から起き上がろうとして、身動きが取れないことに気が付いた。見れば、四肢を金属の鎖で拘束されている。鉄で出来ているらしく、重く、硬い。鎖は寝台の脚に繋がれていた。自分はいま拘束されているのだ、という事実を認めた次の瞬間、酔いから醒めたように、悠人ははっきりと意識を覚醒させた。

 脳裏に、意識を失う直前の光景が蘇る。訓練中に尿意を感じた自分はトイレへと向かい、そこで……。

「どうやら、目を覚ましたみたいだな」

 頭上より、男の声が投げかけられた。

 聞き慣れない、しかし不思議と耳によく馴染む声だった。

 声のした方に首を傾けると、視界に男の姿が映じた。ちょっと悪っぽい自動車修理工を思わせるツナギを着た、長身の男性だ。ツナギ越しにもそうと分かる筋骨隆々とした、美丈夫だった。思わず、「ウホッ、いい男……」と、呟きそうになった悠人は、慌てて口をつぐんだ。

 ――ハッ……お、俺はいま、いったい何を言おうと……。

 なぜ、自分がそんな思考に至ったのか。

 内心激しく動揺する悠人に、目の前の男はとうとうと語り出した。

 自分がいったい何者なのか。自分が何を思って悠人を攫ったのか。三〇年前の犯罪のこと。朝鮮人参のこと。いま再び、“ウホッ、イイ野郎達!”を結成するために、同志を集めていること。ある日街中で悠人を見かけた際に、こいつは百年に一人の逸材だ、と今回の誘拐計画を思い至ったこと。朝鮮人参のこと。悠人の粘液触手の有用性について。朝鮮人参のこと。この世界から女ども駆逐し、いい男達だけの楽園を作る理想について。朝鮮人参のこと。熱く、赤裸々に、力強く、男……トベ二世は語った。

「というわけでユート君、俺とやろうじゃないか!」

 トベ二世は最後にそう締めくくると、真っ白い歯を輝かせ、シニカルに笑った。

 その燦然と輝く太陽のように眩しい笑顔に、反射的に頷きかけてしまう悠人だったが、寸前のところでかぶりを振った。

「何が、というわけで、だよ!? お、俺は嫌だぞ! 俺は普通に女の子の方が好きなんだ!」

 声高に自分はノーマルな人間だと宣言する悠人。普段の彼らしからぬ言動だと思うなかれ。なんといっても、自分の貞操の危機なのだ。そりゃあ、素面で言おうものなら赤面物の台詞でも、必死に叫べるというものだ。

 しかし、当然のことながら、男女間の恋愛を邪道と見なしているトベ二世は、悠人の発言を戯言と聞き流した。

 そればかりか、彼の発言の一切を無視して、彼は言い放った。

「男は度胸! 何でも試してみるみるもんさ!」

「人の話を聞けよ!」

 トベ二世は親指を立て、快活に笑った。

 他方、悠人は顔を真っ赤にして怒鳴り声を上げた。

 トベ二世は「まぁまぁ、落ち着けよ」と、悠人を宥めながら、いそいそとツナギを脱いでいく。逞しい裸身が露わになった。分厚い胸板。割れた腹筋。すらり、と手足は長く、太い。トベ二世は立てた親指をそのままに、自らの股間を示した。そこでは長大なバベルの塔と、生命のゆりかごが自らの存在を誇示していた。

「ところで、俺のこいつを見てどう思う?」

「……すごく……大きいです……」

 否定のしようがなかった。

 トベ二世のモノは、かつて悠人が見たことのあるどんな男のモノよりも長大で、巨大だった。以前、光陰から強引に勧められたアダルトビデオに出演していた黒人男優のモノよりも凄まじい。ビデオの男優は自らの得物を指して二八センチ砲と呼んでいたが、それよりもはるかに大きかった。

「嬉しいこと言ってくれるじゃないの」

 悠人の発言に気を良くしたか、トベ二世はニヤリと邪悪な冷笑を浮かべた。

 背筋をひた走る悪寒に、悠人が身震いする。

 トベ二世の魔の手から逃れるべく必死にもがくが、いかに身体壮健なエトランジェといえど、相棒の永遠神剣と引き離された状態では、鉄の鎖を引きちぎることは叶わない。

 高嶺悠人、人生最大の危機が、目前まで迫っていた。

 

 

 悠人が深刻な事態に陥っているその頃、柳也率いるSTF 隊は、発展城に目視可能な距離まで迫っていた。

 みなを先導するのは、三〇年前の事件で自らも被害に遭ったリリアナだ。

 深い栗色の瞳に復讐の炎を滾らせ、ラキオスの剣術指南役は聳え立つ発展城の天守を指差し、柳也達を鼓舞した。

「あれに見えるが発展城だ。STF 隊のみな、敵陣はもう少しだぞ。気合を入れよ!」

「現段階でトベ二世がどの程度、かつての組織を再建させたかは分からない」

 リリアナの鼓舞を継ぐようにして、柳也が言い放つ。

「陛下から頂いた資料によれば、三〇年前の“ウホッ、イイ野郎達!”には、定数三〇人程の“戦闘部隊”と呼ばれるセクションが存在したらしい。この“戦闘部隊”が現在稼動しているかどうかは定かじゃないが、決して油断をするな。……こんなつまんねぇ戦いで、欠員を出すなよ? 隊長以下全員、ノーマルな性癖のまま、生きてラキオスに帰ろうや」

 柳也の力強い言葉に、スピリットのみなは奮い立った。

 必ず悠人をノンケのまま連れて帰る。必ず、全員で勝利の美酒を味わってみせる。

 その想いを胸に、STF は森の中を進軍した。

 リュケイレムの森には背の高い樹木はあまり見当たらない。しかし、木々の密集率は非常に高く、見通しは最悪だった。目的の発展城も、天守の姿を捉えることは出来るが、城壁などはまったく見えない。そんな森の中を歩くこと四半刻、彼らの視界に、ようやく発展城の城壁の一部が映じ始めた。距離はあと、五、六〇メートルといったところか。

 ようやく、目的地に辿り着いた。

 一同が、さぁ、いよいよ本番だ、と意気込んだ直後、城壁の上から何本もの矢が射かけられた。見れば、城壁の上に何人もの屈強な男達が立っている。彼はみな腰から矢筒をぶら下げ、手にはショート・ボウを携えていた。噂をすれば影。件の戦闘部隊か。

 矢は高所から低所に向かって降ってくる。

 柳也は即座に頭上の防御を固めるようみなに指示を飛ばした。

 ウォーター・シールドが、マインド・シールドが、アキュレイド・ブロックが次々と展開し、降り注ぐ矢を弾き飛ばす。隊のスピリットで唯一バリアを展開出来ないヘリオンはエスペリアが、人間のリリアナは柳也が守った。

 弓は次弾の矢をつがえ、狙いを定めるのにどうしても時間がかかる。熟練の弓兵でも五秒、弓の扱いに慣れぬ者ならば十秒は最低かかってしまう。

 次弾装填の隙を衝き、柳也は、みなに戦闘速度での前進を命令した。

 城壁の上にいる敵が次の矢をつがえるまでの僅か数秒で、九人の神剣士は一気に間合いを詰めた。

 アセリアが、渾身の力を篭めて〈存在〉を振るう。

 〈存在〉の刀身が煉瓦の城壁を抉り、震動で城壁上の敵兵は身動きが取れなくなってしまう。

 すかさず、アセリアは二の太刀を振るった。煉瓦造りの分厚い城壁に、穴が穿たれた。STF 隊は、文字通りその穴を突破口と定めた。

 STF 隊が城内に侵入した。

 半鐘の音が、城壁の内側へと踏み入った柳也達の耳朶を打つ。

 武装した幾人もの男達が、人工の丘の上から駆け下りてくる光景が視界に映じた。その数、二〇は下るまい。どうやら組織は、すでにかなりの規模が回復しているらしかった。

 柳也は苦い表情で舌打ちした。

 トベ二世の趣味なのか、迫り来る敵はみなイイ男だった。屈強な体つきをしている。まるで、ロダン彫刻の群れが進軍しているかのようだ。しかも彼らは、そのことごとくが大なり小なりの武装をしている。負けることこそないだろうが、苦戦は必至だった。

 ――時間をかけてやるわけにはいかない。速攻で、叩き潰す!

 戦いを、長引かせるわけにはいかない。いまこうしている間にも、悠人の貞操の危機が近付いているかもしれないのだ。友人をノンケのまま連れ戻すためには、何よりスピードが肝要だった。

 柳也は決意を固めると、閂に差した鞘から同田貫を抜き放った。

 背後のスピリット達に、裂帛の気合を篭めて言い放つ。

「邪魔する奴ぁ、片っ端からぶっ潰すぞ!」

 咆哮。

 柳也の獅子吼に応える形で、女達の喚声が轟いた。

 ラキオスのスピリットは、人間を傷つけることが出来ない。人間を傷つけてはならないと、幼少の頃から教育され、それが骨の髄まで染み込んでいるためだ。しかし、傷を負わせずとも、相手を無力化する手段はいくらでもある。たとえば捕縛。

 スピリット達は、みな捕り物用の太い縄を手にしていた。

 柳也とリリアナが先行して敵を無力化し、それを後続のスピリット達が一気呵成に捕縛していく作戦だった。

 柳也は同田貫に〈決意〉を寄生させるや、八双に構えた。

 寄生させた〈決意〉に対しては、切れ味よりも、刀身強度の強化にマナを集中するよう命令する。今回の戦いでは、敵の数が多い上に乱戦が予想された。戦いの最中に武器が使えなくなるような事態は避けたかった。

 柳也の隣では、リリアナがファルシオンを脇に取っていた。左手には、グリップを握って保持するタイプのラウンド・シールドを装備している。鎧は着込んでいない。これは、リリアナなりに乱戦を想定しての選択だった。

 ノーマルな人間のリリアナは、エトランジェやスピリットと比べて体力面で大きく劣る。重い鎧を着込めば、その分足運びが鈍ることになる。乱戦の最中に足が止まれば、待っているのは死だ。リリアナは鎧の防御力を捨てて、軽装の機動力を選んだ。

 守護の双刃、桜坂柳也。

 ラキオスの剣術指南役、リリアナ・ヨゴウ。

 並び立った両雄は、どちらからとなく、隣の剣友に呼吸を合わせた。向かってくる敵の群れへと、一歩踏み出す。

 敵の一人が、走りながら矢を射ってきた。続いて、投げ槍が、投石弾が、宙を舞う。

 白兵戦に先駆けての射撃戦は、どの世界でも共通した戦術なのか。

 猛烈な勢いで迫り来る曲射射撃の雨を掻いくぐり、柳也とリリアナは敵へと肉迫した。

 絶対に負けられない戦いが、始まった。

 

 

 一方その頃、天守の一室でも絶対に負けられない戦いが繰り広げられていた。

「や、やめろーっ! やめろー!」

「ぐっ、おおぅっ、……くそッ、ちょっとは大人しくしないか!」

 悠人との淫行に及ぼうとするトベ二世だったが、彼はいまだに行為に及べずにいた。

 目前まで迫る貞操の危機を、なんとか回避せねばとド根性を出した悠人が、激しく抵抗したためだ。それは、トベ二世が自ら招いた事態でもあった。

 いざ行為に及ぼうとしたトベ二世は、悠人が服を着たままなのに気が付いた。このままではまともな行為に及べないと、服を脱がすべく下肢の拘束を解いたのが不味かった。

 両脚が自由になった途端、悠人は思いっきり両の足を振り回して抵抗した。

 相棒の永遠神剣と引き離されているとはいえ、エトランジェの悠人の身体能力は常人の数倍に及ぶ。その脚力は、肉体を極限まで鍛え上げたプロのキックボクサーをさらに上回るほどだ。そんな威力を持った足が二本、暴れ出しては、もはや手のつけようがなかった。

 トベ二世自身、屈強な男には違いないが、その腕力はエトランジェのキックを御せるほどではない。

 迂闊に近付けば、キックの餌食になって大怪我を負うのは必至だった。

 さてどうしたものか、とトベ二世は寝台から間合を取りつつ思案する。

 一方の悠人も、両脚を絶え間なく動かしながら、どうすればこの窮地を脱せられるか必死に考えていた。

 両脚が自由になったとはいえ、貞操の危機が迫っていることに変わりはない。〈求め〉と引き離されたこの状況下、二本の足を武器に抵抗を続けるには限界がある。

 もっと抜本的な解決策を見出さねば。悠人は普段使わぬ脳をフル回転させ、窮地からの脱出に努めた。

 いかにして目の前の青年と行為に及ぶかを考えるトベ二世。

 いかにしてこの窮地を脱するかを考える悠人。

 外の戦いとはまた違った意味で、絶対に負けられない戦いが続いていた。

 二人の耳膜を、凄絶な戦いの音が叩いたのは、そんな時のことだった。

 突如として窓の外から、男の咆哮が聞こえてきた。

 剣気に漲った獅子吼を耳にして、二人の顔色が変わる。

 トベ二世の表情に浮かんだのは、驚愕からくる顔面硬直。

 対して、悠人の表情に浮かんだのは、歓喜の笑み。

 聞こえてきたのは、柳也の声だった。

 

 

「いつもの二倍の高さからぁ、いつもの三倍の回転を加えてぇ……スパイラル大回転斬りぃぃぃぃぃぃ――――――ッッ!!!」

「ぐぎゃあああああ!!!!」

 トベ二世の下で再編された“ウホッ、イイ野郎達!”戦闘部隊。

 その最後の一人が、柳也の必殺剣を浴びて吹き飛んだ。勿論、放った斬撃はすべて峰打ちだ。相手の意識喪失を認めて、すかさず随伴していたエスぺリアが動き出す。捕縛用の荒縄を手に駆け寄ると、戦闘部隊最後の一人を拘束した。なぜか、亀甲縛りだった。

「マニアックだなぁ」

「他意はありませんよ? べ、べつにユートさまとの本番のときに備えて練習したとか、そういうわけじゃないですからね!」

「エスぺリア、キャラ違うから。声優さん的にはアリだけど、キャラ的には、その発言ダメだから」

 『DUEL SAVIOR』が懐かしい。

 さておき、ようやく敵の妨害をすべて退けた柳也達は、四階建ての天守を睨んだ。

「いま助けにいくからな、悠人!」

 無事でいてくれ。ノンケのままでいてくれ。

 リリアナ達に捕縛した戦闘部隊の監視を任せ、友の無事を祈る柳也は、天守へと向かって駆け出した。

 それに並走するのはエスぺリア。その手には、〈献身〉の槍と、武骨な〈求め〉の剣が握られている。必ず救い出してみせる。この剣を、届けてみせる。だからそれまで無事でいて。エスぺリアもまた、上司であり、大切な人である彼の身を案じながら、天守を目指した。

 一階部分に突入した。

 大ホール。

 階段を見つけ、駆け上がる。

 二階、武器庫。

 ラキオス軍が管理しているはずのそこには、まったく同じデザインの剣や槍が、所狭しと保管されていた。中には面を含む総身を覆うタイプの甲冑まである。それも複数人分。

「装備の充実ぶりはちょっとした軍隊並だな……」

「早く、上の階へ進みましょう……っ!」

 階段を見つけ、移動しようとした、そのときだった。

 両翼より殺到する剣気。

 ロングソードを握る甲冑騎士が二人、柳也とエスぺリアを挟撃する。

 二人はすかさずバリアを展開した。

 高密度のマナの壁が斬撃を弾き、飛散した火花が襲撃者の胴鎧を叩いた。

 柳也とエスぺリアの表情に、苦いものが宿る。

「エスぺリア!」

「はい!」

 語気鋭く名を呼ばれ、エスぺリアは下段からすくいあげるように〈献身〉を振り上げた。

 左翼側より襲ってきた甲冑騎士の胴を両断せんと、翡翠色の閃光が地から天へと鋭く伸びる。

 襲撃者は咄嗟に床を蹴り、身を引いた。

 必殺を期した切り上げ一閃が、むなしく空を裂いた。

「気をつけろ、エスぺリア!」

 右翼側からの襲撃者の胴めがけて同田貫を振り抜いた柳也が叫んだ。

 彼の斬撃もまた、強襲が不発と終わるやすぐ手元へ引き寄せられたロングソードの剣身に阻まれ、敵の身を削ぐことはなかった。

 柳也は〈決意〉を寄生させた父の形見の豪剣を正眼に、左右を囲む甲冑騎士を交互に睨んで言う。

「俺達の攻撃を凌ぎやがった。尋常な相手じゃねぇぞ!」

 ともに超常の膂力を誇るエトランジェ、スピリットの放った斬撃だ。その攻撃を避け、あるいは防いだ時点で、甲冑騎士らがただの人間でないことは明らかだった。

 ――重い甲冑を着込んでなお神剣士並みの運動能力を発揮するとは……!

 尋常でないのは、使い手ばかりではない。自分とエスぺリアのバリアに思いっきり叩きつけたにも拘らず破断していない獲物もまた、尋常な業物ではありえなかった。

 ――甲冑で面と体格を隠しているが、おそらくは……!

「正体を、見せてみろ!」

 獅子吼とともに、後ろに置いた左足で床を蹴った。

 石畳の床に、蜘蛛の巣のような亀裂が走る。

 闘牛の突進を思わせる勢いの摺り足。

 淡い夕焼け色の精霊光を纏った豪剣が、右側の甲冑騎士に向けて袈裟がけに振り抜かれた。

 しかし、渾身の一太刀はまたしても甲冑騎士を傷つけずに終わった。

 猛然と迫る柳也の目の前の空間に、突如として大量の水の塊が出現したためだ。水の塊はまるで意思を持っているかのようにうねうねと変形し、円形の盾の形を作ると、柳也と甲冑騎士の間に割り込んだ。ウォーターシールド。青スピリットが得意とする、防御の魔法だ。闘気のオーラフォトンを纏う打ち込みが水の盾に炸裂し、室内に濛々と蒸気が立ち込めた。

 斬割の手応えが、手の内を揺さぶった。水の盾は、襲いくる斬撃を完璧にブロックするほどの強度を持っていなかった。しかし、その刀勢を削ぐことには成功した。太刀行きの一瞬の遅速を見逃すことなく、甲冑騎士は床を蹴って退き、柳也の間合いの外へと逃れた。

「やはりスピリットか……!」

 歯噛みしつつ、さらに一歩踏み込むと同時に切っ先を翻した大刀を擦り上げる。

 その剣尖は、地から天への切り上げにも拘らず初太刀より速い。あらかじめ連続攻撃を念頭に置いていた証左だった。

 またしても後ろに退こうとする甲冑騎士だったが、さしもの敵も、計算された連続斬からは逃れられなかった。

 かます切っ先が顎先をかすめ、鉄製のグレイト・ヘルムを飴細工のように切り裂く。面覆いの装甲が真っ二つに割け、中から目の覚めるような美人が顔を出した。青いショートボブに、青い瞳。やはり、ブルースピリットだった。

 柳也はなおも斬撃を叩き込みながら叫んだ。

「なぜ、スピリットが奴らの味方をする……ッ!?」

 “ウホッ、イイ野郎達!”が戦力としてスピリットを有していることにも驚いたが、何より驚いたのは、女である彼女らが男同士の恋愛のみを正道とする彼らに協力していることだった。男女間、あるいは女同士の恋愛さえも邪道と見なす“ウホッ、イイ野郎達!”と、女のスピリット達。どだい手を取り合えるはずのない両者が、なぜ――――――、

 はたして、対峙する青スピリットは威勢よく答えた。

「次の新刊のネタ作りのためよ!」

「……………………What's?」

 柳也は思わず英語で聞き返した。

 新刊? はて、いったい何のことなのか。

 緊迫した剣戟の音色とともに、青スピリットの鈴のような声が響く。

「トベ様は約束してくれたわッ。もし、エトランジェ・ユートを調教した暁には、二人の絡みをいくらでもスケッチさせてくれるって! 次のエルスサーオでのイベントまで時間がないの。たくさんの人たちがわたし達の新刊を待ってるの! 多くの同志が、イイ男同士の絡みを待ってるの!! だからエトランジェ・リュウヤ、あなたにはここで死んで――――――ッ」

「……エレメンタルブラスト」

「「「ぎゃーっ!!!」」」

 どがーん、と、エスぺリアの放った神剣魔法が炸裂し、二人の青スピリットが吹っ飛んだ。ついでに柳也も吹き飛んだ。壁に叩きつけられ、苦悶の呻きをこぼす柳也。二〇〇〇ポンド爆弾に匹敵するエネルギーの爆発に巻き込まれ、オリーブドラブの軍服はズタボロだ。立ち上がり、「何をするかぁッ!?」と、怒鳴ろうとして、思いとどまった。エスぺリアの身から、手にした〈献身〉から、ものごっつどす黒いマナが放出されていた。

「え、エスぺリアさん……?」

「ふ、ふ、ふ……認めませんよ。ええ! 認めませんとも! そんな男同士の絡みなんて……ユートさまは私と結ばれるんです。そんなトベなんて男に渡すものですか! ……リュウヤさま!」

「は、はい!」

 怒声一喝。エスぺリアに名を呼ばれ、柳也は怯えた表情でしゃっちょこばった。鬼軍曹に怒鳴られた新兵のように背筋を伸ばし、気をつけ、の姿勢を取る。

 そんな柳也に向けて、エスぺリアが何か放り投げた。永遠神剣第四位〈求め〉だ。慌ててキャッチした柳也に、エスぺリアは続けて言い放った。

「ここは私に任せて、先へ行ってください。必ず、ユートさまを助け出してください」

「え? あ、で、でも、二対一じゃ……」

「返事はイエスかイエス!」

「その強引さに俺が泣いた! イエス・マム!」

 柳也は挙手敬礼すると一目散に階段を目指した。目指しながら、「俺、上官なのになんで部下に敬礼してるんだろう?」と、素朴な疑問を抱いた。

「そうはさせるかッ!」

「させません!」

 背後から響く剣と槍とが奏でる行進曲。背中を押されながら、柳也は三階へと急いだ。

 

 

 三階の居住空間に辿り着いた柳也は、一歩足を踏み入れるなり思わず息を呑んだ。

 部屋の中央に堂々と置かれたキングサイズの寝台。天蓋付きのベッドの上に、柳也の親友はいた。しかし、エーテル灯の明かりに照らされたその姿は無残なものだった。両の腕を鉄の鎖で拘束され、下半身は何もかもが剥き出しの状態。シーツの乱れ具合から察するに、どうやら必死に抵抗したようだが、結局は強引にひん剥かれてしまったらしい。同じくシーツの具合から判ずるに、まだ行為には至っていない様子だが、安堵の表情を浮かべるのは憚られた。

「うぅ……柳也ぁ……」

 自分の姿を認めるなり、悠人は端整な顔をくしゃくしゃにして情けない声を発した。憔悴しきった面持ち。目尻に涙さえ浮かべた表情から見て取れるのは、恐怖や不安、失意といった感情だ。

 ――間に合わなかった、のか……ッ!

 ふつふつと、怒りが込み上げてきた。

 自分自身に対する憤りに、柳也は拳を握り、歯を食いしばった。

 たしかに、行為には至っていない。最悪の事態は、なんとか避けられた。しかし、間に合わなかった。間に合わなかったのだ。同性に貞操を狙われて誘拐され、手足を拘束され衣服を剥かれ……すでに悠人の男としての尊厳はズタズタに踏みにじられてしまった。

 自分は、間に合わなかったのだ。

「……すまん、悠人」

 怒り。悲しみ。悔しさ。様々な感情とともに、胸から言の葉を吐き出した。

「いや、いいさ……来てくれて、嬉しいよ」

 いまにも泣き出しそうな顔で言われて、胸が苦しくなった。柳也自身、悔しさから泣き出したい衝動にかられた。

 しかし、いまここで、涙を流すわけにはいかなかった。

 涙なんてものは、後でいくらでも流すことが出来る。

 いま己がするべきは悲しむことではない。

 いま己がするべきは、胸の内で燃え滾る、熱いマグマのような怒りを、奴にぶつけることだ。

 柳也は沈痛そうな面持ちから一転、凶悪な面魂に鍾馗を思わせる憤怒の表情を浮かべると、改めて室内を見回した。

 三〇年前に一度放棄されたとは思えぬほど、発展城の居住空間の設備は充実していた。生活に必要なありとあらゆる物が揃っているばかりか、インテリアの類はすべて一級品が取り揃えられている。二階の武器庫にしてもそうだが、トベ二世はいったいいかなる手段をもって、これほど組織を再建させたのか。世が世なら一国一城の主、あるいは大企業の長になっていたかもしれない才能の持ち主だろう。

 居住空間の窓は、有事の際には銃眼としても使えるよう小さなものがいくつも設けられていた。

 そのうちの一つが取り入れる月明かりに照らされて、ひとりの男の姿が柳也の視界に映じた。

 自動車修理工風のツナギを着込んだ、ちょっと悪っぽい、しかし精悍な面魂の男だ。壁際で腕を組み、余裕の表情で立っている。謎の巫女さんの盗撮画像に映っていた、トベ二世その人だった。柳也は男を睨みつけながら、

「テメェが、トベ二世か?」

と、ドスを孕んだ声で訊ねた。

 精悍な顔立ちが、特に躊躇う素振りもなく頷く。

「その通り。そう言うお前は、ラキオスのもう一人のエトランジェだな?」

「桜坂柳也だ。ダチを返してもらいにきたぜ!」

 相手の素性確認は終わった。これ以上の問答は不要。

 言い放つと同時に、柳也はエスぺリアから預かった〈求め〉を放り投げ、床を蹴った。

 阿吽の呼吸で気力を五体に漲らせ、拳を軽く握って接近を図る。腰の大小は抜かない。怒りから、手加減を忘れてしまう恐れがあるからだ。拳の一打で意識を刈り取り、拘束する腹積もりだった。

 急激な圧迫に、室内の空気が悲鳴を上げた。

 体内寄生型の神剣士の運動能力を十全に活かした肉迫。

 腰を沈め、いまだ余裕の表情を浮かべるトベ二世の顎先に向けてライト・アッパーカットを放つ――――――、

「遅いな」

 しかし、稲妻の速さで放たれた初撃は掌で受け止められてしまった。

 会心の一打を放った柳也の表情に、驚愕の表情が浮かぶ。

「なっ……!」

「それに軽い」

 鉄拳を受け止めた右手を押し出した。

 釣られて身を引く柳也のどてっ腹に、トベ二世はライト・ストレートを放った。

 神剣士の柳也の動体視力をして捉えらぬ速さ、反応出来ぬ速さの打撃。腹筋の盾に、凄まじい衝撃が走った。

 柳也の表情が驚愕から苦悶へと瞬時に変化し、二歩三歩と後ずさる。

 よろめきながらも踏みとどまり、青い顔の柳也はトベ二世を睨んだ。

「テメェ……ノーマルな人間じゃねぇな」

 音速からの鉄拳を見切り、あまつさえその攻撃を掌で受け止めた。神剣士と互角の身体能力を発揮し、自分にカウンターを叩き込んだ。それも、肉体の頑健さに定評のある己を怯ませるほど強烈な一撃をお見舞いしてくれた。ただの人間でないのは明らかだった。

「……エトランジェか?」

 率直に言って油断していた。相手は仮にも、ラキオス最強の悠人を拘引した男なのだ。問答は不要、なんてとんでもない。少しでもこの男の情報を集めなければ。

 はたしてトベ二世はかぶりを振った。

「いいや。俺も、俺の父だったトベ二世も、正真正銘この世界の人間だ」

「本当かよ……ってか、親父さん同性愛者じゃねぇのか?」

「父も俺も両刀だ。でなきゃ俺が生まれない。まぁ、もっとも、俺も父も、ノンケだってかまわないで食っちまう人間なんだが」

「聞いてねぇよ。ってか知ってるよ。ついでに言うけど、そこは構えや。いやまじで」

「さて、俺の強さの秘密についてだが……」

「答えてくれるんかい! いやその方がスゲェーありがたいけど」

 殴打のダメージは回復したか。柳也は声を荒げて言った。怒鳴りながら、さっきまでのシリアスな空気はどこにいったんだろうなぁ? と、思った。あと、自分の役割ってツッコミキャラだっけ? とも。

「まず率直に言って、きみでは俺には敵わない」

「あん?」

「強さ、速さの問題じゃない。何事にも、相性というものがある」

「お前とじゃ相性が悪いから、俺は勝てないって? ……ハッ」

 トベ二世の言葉を、柳也は鼻で嗤った。

「ゲームじゃねえんだ。そんなことがあってたまるか」

「ところが、あるんだよ。そんなことが。……きみだけじゃない。この世界に生きるありとあらゆる男は、俺には敵わない」

「男、だと……?」

「その通り。年齢問わず、戦闘力問わず、男というだけで、俺には勝てない。

 俺は特殊な体質持ちなのさ。腕力に秀でた男と対峙したとき、俺はそれを上回る力を得る。俊足を自慢とする男と対峙したとき、俺はそれさえも上回る脚力を得る。相手が強い男であればあるほど、俺もまた、強くなる。そして最終的に、俺に食われる運命にある」

 相手が強ければ強いほど、それを上回る戦力を得る。恐ろしい能力だ、と戦慄した。彼の言が本当だとすれば、トベ二世にはどんな男も敵わないということになる。男というだけで、敗北は決まっている、ということになる。

「……よく見たら、きみもなかなかイイ男だな」

 トベ二世が、ニヤリと笑った。

 それだけで、柳也の背筋を悪寒が駆け上った。

「ようし。悠人くんと一緒にきみもこちら側の世界へ連れて行ってあげよう!」

「御免こうむる!」

「男は度胸! 何でも試してみるもんさっ」

「人の話を聞きやがれッ」

 再度、摺り足で接近を試みた。

 日本拳法の縦拳のラッシュをボディめがけて叩き込む。

 一発目から、防がれた。手首を叩かれ、軌道を逸らされる。二発目も同様に捌かれ、カウンターの一打を鎖骨に叩き込まれた。咄嗟にシールドを展開するも、トベの鉄拳はそれすらも貫通した。再びよろける七四キロの巨体。

「ぐぅ……ッ!!」

【主よ!】

「大事ない! ……しかし、こいつぁ、認めるしかねぇな」

 一度だけなら、偶然やラッキー・パンチと片付けることも出来るだろう。しかし、二度も攻撃をもらっては、認めざるをえない。トベ二世の言う通りだ。相性が悪い。男の自分では、奴に勝てない。神剣士級の運動能力の前には、悠人を連れて逃げることもままならないだろう。

 ――下の階をエスぺリアに任せたのは失敗だったか……ッ。

 男では相性が悪い、ということは、裏返せば女ならトベ二世に勝てる可能性がある、ということだ。

 もっとも、この場にエスぺリアがいたところで大した役には立たなかったろう。エスぺリアは女だが、スピリットだ。ラキオスのスピリットはみな例外なく、人間を傷つけられないよう教育されている。

 スピリット以外の女性で戦闘力が高い人材となると、ぱっと思いつくのは密偵のリリィとネネ・アグライアの二人だ。しかし、二人は今回の作戦には参加していないし、いまから呼んだとして、到着するまでに時間がかかりすぎる。二人が駆けつけるまでに悠人諸共、敵の欲望の餌食になっている公算は高い。

 いやそもそも、この状況でいったいどうやって彼女達と連絡を取れというのか。携帯電話や無線機なんて便利な通信器具は、有限世界には存在しない。狼煙などを打ち上げて窮地を知らせるにしても、トベ二世を前にしたこの状況が、そうした行動を許してくれない。

 まともにぶつかっても勝ち目はなく、かといってこの場を立ち去ることも難しい。有力な援軍は期待出来ず、そもそも来援を仰ぐ手段がない。まさしく八方塞な現状に、柳也は不敵に微笑みながら頭を抱えたくなった。

【ご主人様!】

 そのとき、頭の中に〈戦友〉の声が響いた。声と同時に、頭の中に伝わってきた相棒神剣の想いが、柳也の胸を熱くさせる。実体を持たない彼女が本気で自分を心配してくれていることを感じ、苦境にも拘らず嬉しくなった。

 しかし続く〈戦友〉の言葉は、もう一人の相棒と同様、自分の身を案じてくれる旨かと思いきや違っていた。

【提案があります、ご主人様】

 ――提案?

 〈戦友〉の言葉に、柳也は怪訝な表情を浮かべた。

 目の前のトベ二世に対し気を置きつつ、意識を、細胞レベルで一体化している相棒へと傾ける。

 ――このタイミングで具申をするってことは……。

【はい。成功するかどうかは賭けですけど……。なんとか、この状況を打破しましょう】

 目の前の男に対し、有効打となるかもしれない手立ての創案。柳也はその先の言葉を促した。

 ――言ってくれ。何を思いついた?

【はい。それは……】

 脳内で、〈戦友〉が自らの腹案を開陳するまでに要した時間は僅かに数秒間。その数秒を経て、柳也が改めて浮かべたのは、残忍な冷笑だった。

 ――面白い! その作戦でいこうやッ!!

 右足を後ろに引き、肩幅に開いた。正中線を狙われぬよう胴を横にして身構える。両の拳は左を前に出し、右を臍下丹田に寄せてパワーを溜めた。

「まったく、無駄だと言っているだろう?」

 いまだ敢闘精神旺盛な柳也の姿を見て、トベ二世の口から呆れた声がこぼれた。

 対する柳也は、

「無駄かどうかは試してみろ」

と言い放ち、床を滑るように前へと踏み込んだ。

 大きな口で息を吸い込み、臍下丹田へと落とし込んで気力と変え、五体に充溢させる。阿吽の呼吸は、徒手格闘においても男の動きに精彩さを与えた。轟、という大気の嘶きとともに、柳也は渾身の右ストレートをぶっ放した。骨を砕く手応え。先ほどと同様、攻撃を受け止めようとしたガードをすり抜け、巌のような拳がトベ二世の鎖骨を砕いた。苦悶の声が耳朶を打つ。

 たたらを踏むようによろめきながら、トベ二世は後退した。

 苦悶に歪む表情が、柳也の顔を睨んだ。その眼差しには、初めての事態に遭遇したことへの戸惑いと不信が見受けられた。

「……きみ、いったい何をした?」

 相手が強い男であればあるほど、こちらはそれを上回る強さを得る。それが、“ウホッ! イイ野郎達”の首魁たる自分の特異体質だ。対峙しているのが男である限り、相手は自分に触れることさえ出来ないはず。にも拘わらず、敵は防御をすり抜け、己に強烈なストレートを一発お見舞いしてくれた。これはいったい、どういうことなのか? 

 目の前の人物が男性なのは間違いない。相手が男でなければ自分の特殊体質は機能しないし、特殊体質が機能しなければ、エトランジェで神剣士の男に対し、己は文字通り手も足も出ない。彼に対してはすでに二度、カウンターに成功している。特殊体質は、間違いなく機能している。それなのに、なぜ……?

 困惑するトベ二世に対し、柳也は不敵な微笑をたたえて答えた。

「……どうやら、賭けには成功したみたいですね」

 トベ二世は、そしていまだベッドに両腕を拘束されたままの悠人は、その言葉に、おや? と眉をひそめた。

 柳也の口調が変わっている。いつもの無頼な言葉遣いはなりを潜め、丁寧な言い回しを操っている。これはいったい、いかなる心境の変化なのか。

 そのとき、ベッドの上の悠人の表情が、はっ、と硬化した。第四位の神剣士としての超感覚が、口調とは別な変化を捉えたためだ。

 柳也の肉体から感じられるマナの波動。普段から感じ慣れているはずのそれが、いつの間にかまったく覚えのない気配へと変化していた。

 通常、マナの気配というものは個体ごとに決まっており、そのときの体調や精神状態によって多少の変化はあれど、その波形パターンは生涯変わらない。その波形が、まったく別なパターンに変貌を遂げていた。まるで、顔や体格といった外見はそのままに、柳也の中身だけが別人にすり替わってしまったかのようだ。と、そこまで思い至って、悠人は思わず息を呑んだ。

 器は変わらず、中身だけが別人へとすり替わる。自分はそれとよく似た現象を知っている。悠人自身、これまでに何度もその危機に陥りかけた。すなわち、永遠神剣による肉体の乗っ取り、だ。

「……柳也だけど、柳也じゃ、ない。もしかして……〈決意〉か、〈戦友〉のどっちかか……?」

 親友にして頼れる副隊長が契約を結んでいる永遠神剣の名を口にした。

 はたして、柳也の唇ははにかむような微笑を作った。妙に艶っぽい笑み。見慣れているはずの笑顔なのに、強烈な違和感を覚えた。

「あは、やっぱり悠人さんにはばれてしまいますか、流石はご主人様のご友人です」

 柳也は、悠人とトベ二世を交互に見ると、芝居のかかった所作でお辞儀をした。

「こうして会うのは初めてですね、悠人さん。お初にお目にかかります。わたしはご主人様……桜坂柳也様の唯一無二の相棒……そう! 唯一無二の相棒! 第七位の〈戦友〉と申します!」

 肉体の主導権を掌握した〈戦友〉が声高に名乗った。相棒云々のくだりは、大事なことだから二回口にした。

 同じく柳也の肉体に寄生する〈決意〉が、

【おいコラ、小娘ぇッ! 誰が主の唯一無二の相棒だボケぇ!】

と叫んだが、当然、契約者でない悠人やトベ二世には、その声は届かなかった。

「〈戦友〉だって……!」

 ベッドに両腕を拘束されたままの悠人が、驚きの声を発した。

 第七位の永遠神剣〈戦友〉。その名は、柳也の口から何度も聞かされていた。曰く、自分の頼りになる相棒の一人で、己の右腕のような存在。若干、腐なかほりが気にはなるものの、自分のことを公私ともに支えてくれる大切なパートナーだという。

 いま、柳也の体を動かし、柳也の声で喋っているのは、その〈戦友〉なのか。しかし、いったいなぜそんなことを?

 悠人の抱いた疑問は、同時にトベ二世の疑問でもあった。いまだ怪訝な面持ちで、柳也の体を借りた〈戦友〉を睨む。

 対する〈戦友〉は、たおやかな微笑みを口元にたたえたまま、嘲るような眼差しをもって応じた。

「あなたの特異な体質は、相手が男の人であるときにのみ機能する。それなら、男のボディを持ち、女のソウルを持つ人間が相手のときは、どうでしょうか? たとえば、いまのわたしのような」

「……そういう、ことか!」

 トベ二世の表情が、苦汁に歪んだ。

「イイ男の体に、唾棄すべき女の魂! まさかそんな切り返しをしてくるとは……!」

 生体としての肉体を持たない永遠神剣に、生物学的なセックスの概念はない。しかし、いわゆる男らしさや女らしさといった、ジェンダーとしての性の概念はある。平素から女らしい言動、女性的な人格が目立つ〈戦友〉だ。ジェンダーの観点から性別を分類すれば、間違いなく、女となるだろう。

 男性・桜坂柳也は、男である限りトベ二世には敵わない。だが、その肉体を操るのが女性人格ならばどうか。トベ二世が柳也に対して誇る絶対の優位性……特殊体質は、発動するだろうか。〈戦友〉は主人にそう提案した。

「勿論、成功するかどうかは賭けでしたけど……女は度胸! なんでもやってみるものです」

 〈戦友〉は朗らかに笑うと、再びファイティングポーズを取った。先ほどと同様、正中線を相手に曝さぬよう、半身に構える。

 床を蹴った。

 特殊体質が機能しないトベ二世は、神剣士の疾風のような接近を垣間見ることさえ叶わない。

 腰を、肩を、存分に回転させたライト・フックが、火を噴いた。

 インパクトの瞬間に手首の回転を加えたコークスクリュー・ブローが、トベ二世の顔面にクリーンヒットした。

 フックは特にKO率の高いパンチだ。神剣士の運動能力をもって放たれた一撃は、屈強なトベ二世の意識を、いとも容易く刈り取った。柳也に負けず劣らずの巨躯が、巨木が斬り倒されるかのごとく斃れる。

 悠人の歓声が、〈戦友〉の耳朶を叩いた。

 柳也達STF 隊が勝利を収めた瞬間だった。

 

 

 トベ二世を倒した〈戦友〉は、早速意識を失った彼を捕縛縄で縛った。縛り方は二重菱縄。江戸時代、武士の犯罪者を拘束するために用いられた捕縛法だ。〈戦友〉曰く、ついこの間覚えたばかりとのこと。

【なんでそんなモン知ってるんだ?】

「読書家なんですよ、わたし」

 いまは奥に引っ込んでいる柳也の問いかけに、〈戦友〉は微笑みながら答えた。【なぜ、そのような本を?】、という〈決意〉の問いかけに対しては、「次のイベントが近かったので」と、応じてくれた。

【イベントとは……主よ、もしかして……?】

【あ、ああ。たぶん、下の階のスピリット達が言っていたやつだろうなぁ。……っていうか、俺、知らないうちに意外と身体乗っ取られてる!?】

 イベントへのサークル参加が決まっているということは、おそらく、そういうことなのだろう。

 こんなところで明らかとなった驚愕の事実に柳也がわなないていると、いまだベッドに拘束されたままの悠人が声をかけてきた。

「ええと、柳也? それとも、いまは〈戦友〉か?」

「あ、はい。まだ〈戦友〉ですよ」

「まぁ、どっちでもいいけどさ。早く、この鎖を切ってくれよ」

「はい。ちょっと待っていてくださいね」

 〈戦友〉はにこやかに応じると、悠人が拘束されているベッドの上に乗った。六尺豊かな大男の体重に、天蓋付きの寝台が、ギシ、と軋む。

【【……ん? 乗った?】】

 〈決意〉と柳也の声が重なった。鎖を切るだけならわざわざベッドに乗る必要はない。はて、〈戦友〉はいったい何のためにベッドに乗ったのか? そして、何のために、カチャカチャ、とトラウザーズのベルトをはずそうとしているのか? そしてそして、何のために、悠人に対して馬乗りの姿勢を取っているのか?

「あ、あの……〈戦友〉?」

 悠人が、唇の端を引き攣らせながら、頭上の〈戦友〉に向けて当惑の声を紡いだ。

 ベッドの上で、ベルトの金具をはずし、トラウザーズと下着の褌を脱いだ〈戦友〉は、にっこり、と笑った。それはそれは、イイ笑顔だった。股の間にぶら下がったグロテスクな物体は、すでに臨戦態勢だ。

「はい。ですから、ちょっとだけ、我慢してくださいね♪」

「【【待ていッ!!】】」

 悠人、柳也、〈決意〉の声が、奇しくも重なった。柳也と〈決意〉の声は悠人に聞こえていないも拘らず、完璧なタイミングで、唱和された。

【こ、ここここ小娘ぇッ、貴様っ、主の体で何をするつもりだ!!?】

「何って……ナニ?」

【ベタな切り返しありがとうサンキュースパシーバ! 〈戦友〉、お前、何で!?】

「いやぁ〜、実は夢だったんですよぉ。ご主人様の体で、悠人様を組み伏せて××××を×××に×××××するのって。まさかこんな風に叶えられる機会が来るなんて……」

「頼むから、夢だけにしておいてくれ!」

 うっとり、と頬をほの赤く染める〈戦友〉に、〈決意〉、柳也、悠人が、口々に叫んだ。特に悠人は、一度は去ったはずの貞操の危機が思わぬ方向から再び来襲し、軽いパニックに陥ってしまう。

「な、なぁ? 冗談だよな? 嘘だと言ってよバーニィ!」

【悠人ぉ! 動揺のあまり言動がたいへんなことになってるぞ!】

「っていうか柳也! お前、さっさと体の主導権、取り戻せよ!」

【いやそれが、さっきから頑張っているんだが、〈戦友〉のやつ、どこにこんな力を隠し持っていたのか、俺の意志力がまったく通用しないんだ!】

 悠人の言葉に柳也は悲鳴を上げた。先ほどから肉体の主導権を取り戻そうと干渉を続けているが、まったく手応えを感じられない。〈戦友〉は第七位の永遠神剣。契約者の精神にはたらきかける力は、〈求め〉などに比べれば格段に弱いはずなのに……。

 なおこの二人、互いの声は聞こえていないのに、掛け合いのようになっている事実が、〈戦友〉の腐った魂を刺激していることにまったく気づいていない。そのせいで、さらにハイ・テンションとなった彼女のパワーが増大していることにも、気づいていなかった。

「う腐腐腐腐……嫌よ嫌よも好きのうち〜っ。……それに悠人様だって、本当は期待しているんでしょう? だからそんな下半身剥き出しの臨戦態勢なんですよね?」

「これは違うって! さっき、トベの奴に脱がされたからだって!」

「大丈夫、大丈夫。安心してください。なるべく、優しくしますから」

「聞けよ、人の話!」

【主頑張れ! 超頑張れ!】

【ふぬぉぉぉぉ〜〜〜!!! ぬぅぅぅぅぅ〜〜〜!! 〈戦友〉ぅぅぅぅ、俺の体を返せぇぇぇぇ〜〜〜〜!!!】

「あと二四時間だけ待っていてくださいね、ご主人様!」

「【【どんだけヤルつもりだぁ!!?】】」

 柳也、〈決意〉、悠人の声がまた重なった。丸一日中、柳也の体でニャンニャンするつもりなのか!?

 〈戦友〉の支配する柳也の指先が、悠人の下半身へと伸びた。

 悠人の表情が、恐怖に歪む。

 〈戦友〉は、淫蕩な笑みを浮かべて、少年を見下ろした。

「次の新刊のネタげっと〜!」

「【【新刊のネタ言いやがったっ!!】】」

 三人の慟哭混じりの雄叫びが、また重なった。どうでもいいが、仲の良い三人である。

 そのとき、居住空間の出入口の方から、パタパタ、と足音が聞こえてきた。

 「ユートさまっ!」と、甲高い叫び声とともに、エスぺリアが駆け込んできた。どうやら二階の青スピリット達をくだし、その足ですぐ駆けつけてきたらしい。

「ユートさま、ご無事で……す……か……」

 居住空間に入室した直後、エスぺリアの視界に飛び込んできたのは、それはそれはおぞましい光景だった。下半身が剥き出しの状態でベッドに両腕を拘束された悠人を、同じく下半身が剥き出し状態で馬乗りなった柳也が襲おうとしている。トベ二世の特殊体質とか、それを破るために柳也が取った作戦といった事情を知らないエスぺリアには、目の前の光景が、そう見えた。

 最悪のタイミングだった。

 エスぺリア、〈戦友〉、悠人、そしていまは肉体を持たない柳也と〈決意〉が、揃って青褪めた。

 やがて、エスぺリアの顔から、一切の表情が消えた。

 悠人の誘拐に端を発する、今回の事件。エトランジェの青年に淡い恋心を抱いている彼女は、度重なる異常な事態に、とうとう感情を表に出すことを放棄した。

 華奢な彼女の体から立ち昇る、黒々としたマナの波動。

 形の良い唇からぶつぶつと紡がれる、神剣魔法の呪文。

 油の切れた機械のようなぎこちない動きで悠人へと向き直った〈戦友〉は、にっこり笑った。

「せ、せめて死ぬ前にわが本懐をとげんっ!」

「【【やめろ―――――――ッ!!!】】」

「エレメンタルブラスト!」

「「【【【アッ――――――!!!】】】」」

 エスぺリアの呪文詠唱が完結し、翡翠色の閃光が、居住空間を満たした。

 

 

 

 

 

 ……ん? 悲鳴が一人分多くないかって? いえいえあれで合っています。増えた一人分は、忘れ去れた〈求め〉の悲鳴なんで。

 

 

 

 

 

 こうして、第二次“ウホッ、イイ野郎達!”事件は幕を下ろした。

 再び活動を始めた巨悪に対し、迅速果敢に行動したラキオス軍側の損害はゼロ。

 対して“ウホッ、イイ野郎達!”側は首魁のトベ二世を含む全員が逮捕された。

 恐れを知らぬ勇士達の活躍によって、悪は滅び去ったのである。まる。

 

 

 

 

 

 先に、ラキオス軍側の損害はゼロと書いた。しかし、これはあくまで死傷者がゼロというだけであって、実際には二名ほど、心に深い傷を負った男達がいた。

 そのうちの一人……今回の事件のいちばんの被害者たる高嶺悠人は、事件が終わって二日後の晩、自室のベッドにまたも鎖で四肢を拘束されていた。今度の相手の名はエスぺリア・緑スピリット。ラキオス王国軍守りの要たる彼女は、四肢を縛られトラウマが再燃し、怯えた表情を浮かべる悠人にうっとりとした笑みを向けた。

「そんなに怖がらなくても大丈夫ですよ。べつに痛いことをするわけではありませんし」

「あ、あの、エスぺリア、さん……? そうは言いますけど、目が、怖いです……」

 悠人はちょっと気を抜くとすぐ震え出す舌先に喝を入れ、懸命に言の葉を紡いだ。

 馬乗りになって自分を見下ろすエスぺリアは、下着の他は何も身に付けていなかった。華奢な体つきのわりに豊かな乳房、腰から尻にかけての扇情的なラインを、惜しげもなくエーテル灯の明かりに晒している。しかし、きめ細かな肌が瑞々しい裸身は、悠人の視線を奪う対象とはなりえなかった。彼は自分を見下ろすエスぺリアの眼差しに釘付けとなっていた。狂気を孕んだエメラルドが二つ、己を見つめていた。普通に、怖かった。

 下着姿のエスぺリアに対して、鎖で拘束された悠人は全裸という状態だった。二日前、発展城の居住空間で拘束されていたときよりも、なお酷い格好だ。股の間の逸物は、トラウマのせいですっかり縮こまってしまっている。

 エスぺリアの繊手が、肉棹に触れた。

 優しい手つきで上下にしごき、摩擦する。

 男の肉茎は、なおも萎縮したままだ。

 いたましげな眼差しが、悠人を見つめた。

「こんなに縮こまって……お可哀想に。よっぽど、あのときの出来事が、怖かったんですね」

「いや、それは認めるけどさ。それ以上に、いまのエスぺリアが恐いです」

「ですが、ご安心ください」

「いや、だから話聞けって」

 淫蕩な微笑みが、悠人を見下ろした。

「ご安心ください、ユートさま……。あの城での嫌な思い出は、私が忘れさせてあげますから」

「いやあの、現在進行形で恐ろしい思い出が作られてるんだけど! ちょ、ま……アッ――――――!」

 ほどなくして、凄まじい快感電流が悠人の脳髄を蹂躙した。

 幾度となく訪れる絶頂感の中、悠人は、数日前にエスぺリアの手相を見た柳也の言を思い出していた。

『……近いうちに、想い人との関係を進展させられるチャンスが訪れるな』

 こうして、エスぺリアは想い人との関係を進展させたのだった。

 どの方向への進展かは、さておいて。

 他方その頃、今回の事件でもう一人、精神的なダメージを負った男は――――――、

 

 

「……なぁ、セッカ殿? なんで、そんな俺から距離を取るんだ?」

「いや、その、なぁ、サムライ……」

「それにヨゴウ殿も……」

「サムライ、おぬしとはこれからもよき好敵手であり続けようぞ! そう、友達でいよう!」

「あの、なんでそんな念押しするかな? あと、なんで二人とも尻を隠してるのかなぁ? ……俺、そろそろ泣いてもいいかなぁ?」

 凶悪な面魂をくしゃくしゃに歪め、いまにも泣き出しそうな我らが主人公。

 おそらく今回の事件で二番目に酷い被害を被ったのが彼だろう。スピリット部隊は女所帯。噂が広がるのも速い速い。エトランジェ・リュウヤがエトランジェ・ユートを性的な意味で襲ったとの誤解は、事件翌日には王国軍全部隊へと広がり、柳也の精神を極限まで追いつめた。親しいセラスやリリアナにまで物理的、心理的な距離を取られ、彼の涙腺堤防は決壊寸前だった。

 そんな彼の肩を、密偵のリリィが優しく叩いた。

 潤む眼差しで振り向く柳也。

 リリィは、可憐な顔立ちにたおやかな笑みを浮かべて、

「大丈夫です、リュウヤさま。わたしは、どんなリュウヤさまでも受け入れます!」

 ぐっ、と親指を突き立てて、柳也に言った。

「…………うわぁぁぁぁぁん!!!」

 柳也は泣いた。

 澎湃と泣いた。

 肩に置かれたリリィの手を振り払い、彼はゆく当てもなく駆け出した。

 体を重ねた間柄にあるリリィにさえ誤解されているという事実に耐えかねて、彼は絶叫した。

「うわぁぁぁぁぁん!!!」

 

 


<あとがき>

 

タハ乱暴「番外編のあとがきの相方はヒロインに務めてもらおう! ということで、今回の相方はトベ……」

悠人「チョット待て」

柳也「その一口が豚のもと……じゃない! よりによってあいつか!? あいつをヒロインというのか!?」

タハ乱暴「なんだ二人とも、不満なのか?」

悠人「当たり前だ! 今回は俺達二人の、タハ乱暴の三人であとがきを進めるぞ」

柳也「というわけで読者の皆様、永遠のアセリアAnother番外編をお読み頂き、ありがとうございました!」

悠人「今回の話はいかがだったで……っていうか、おい、タハ乱暴! 今回の話、本当になんだったんだよ!? いくら何でもありの番外編だからって、これはないだろ。誰得だよ。読者をふるいにかけるような話を番外編でやるなよ!」

柳也「そうだ、そうだ。それに、今回の話だが、俺も悠人も、誰一人救いがないじゃないか!」

タハ乱暴「救い? あったじゃん。エスぺリアに」

柳也「あれを救いというのか……」

悠人「そもそも、なんでこんな話を書こうと……」

タハ乱暴「いや、好きなんだよ。阿部さん。……前々からね、『くそみそテクニック』を題材に何か一本書こうとは思ってたんだよ」

柳也「そうだったのか? でも、何でこの時期に?」

タハ乱暴「この手の同性愛をテーマにした話って、扱いが難しいじゃない? 真面目に書くと重すぎるし、軽いノリで書くとふざけんな! ってバッシングの対象になってしまう。だったらいっそギャグにしてしまった方がすっきりする。でも、ギャグにするにしても、独特のテンションになってしまうだろうことは必至。笑えないジョークになっても困るしな。だから、いままでネタを温めてたんだよ。んで、これぐらいなら読者も生暖かい視線で笑ってくれるだろうというぐらいにネタが溜まってきたので、今回、書いてみた」

悠人「その結果が、アレか?」

タハ乱暴「うん。アレ。でも、これでもずいぶん性描写とか緩和されてるんだぜ? 当初はもっとガチ色の強い作風だったし、エスぺリアの出番ももっと少なかった。あと、性同一性障害の話題とかも盛り込む予定だった。ただま、さすがにそこまですると重すぎるだろうと思ってやめたけど」

柳也「そうかよ。……ところで、今回の話は『くそみそテクニック』以外にも、色んな作品のネタが入ってたけど」

タハ乱暴「ギャグ回だから出来る暴挙(笑)」

悠人「有名なところだと、『キン肉マン』と『ポケットの中の戦争』か……」

柳也「『電王』と『DUEL SAVIOR』もな」

タハ乱暴「あと、エルスサーオで行われる予定のイベントもね。あれもギャグ回だから出来る暴挙で、あの世界の製紙技術と印刷技術が明らかになっていないから出来た描写」

悠人「小説版じゃ羊皮紙が出てたけど、それだけじゃ植物性の紙がないってことにはならないもんな。……ところで、今回は原稿用紙何枚分になったんだ?」

タハ乱暴「文字数でいうとぎりぎり六七枚に収まるぐらい。……おっかしいなぁ。本当は多くて四〇枚ぐらいに収めるつもりだったんだけどなぁ。まぁ、原因は分かってるんだけど」

柳也「うん?」

タハ乱暴「トベさんが思った以上に動いてくれた!」

悠人「あと、お前の文章構成能力のなさ」

タハ乱暴「それを言ってくれるな!」

柳也「んで、次の番外編は誰を書くつもりなんだよ? たしか前回のテムさまルートのときは、エスぺリアとかほざいてたよな?」

悠人「それがどうしてこうなった……」

タハ乱暴「まぁ、予定は未定だしね。ただ、次、番外編書くとしたら、誰かのルートっていうよりは、地球メンバーで日常回を書くかな。久しぶりにあの面子で、ほのぼのした話を書きたい」

悠人「地球メンバーなら俺も出番があるな。まぁ、頑張れ」

タハ乱暴「応よ。……ではでは、読者の皆様、今回も永遠のアセリアAnother、番外編をお読み頂き、ありがとうございました!」

悠人「今後ともアセリアAnotherシリーズをよろしくお願いします!」

柳也「ではでは〜」




今回は……。
美姫 「柳也と悠人が被害者よね」
だよな。悠人は特に危なかったな。
美姫 「ギリギリで助かったけれど、最後はエスペリアに」
まあ、これはそんなに問題ないだろう。寧ろ、最後で言うなら。
美姫 「柳也よね」
完全にあらぬ疑いというか、もう広まってしまった上にリリィにまで。
美姫 「フォローのつもりだったのかしら」
どうだろうな。どちらにしても、二人にとっては災難な番外編だったな。
美姫 「見ている方はいつものシリアスとは違って楽しかったけれどね」
次の番外編も楽しみにしてます。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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