『真一郎、御神の剣士となる』

第二十一話 「真一郎、殺意を懐く」

 

夜。

夕食が終え、深夜の鍛錬の時間までゆっくりとくつろいでいた真一郎は、瞳から切羽詰まった電話を受けた。

「部員の何人かが、家に帰ってない?」

「そうなのよ……あと、さざなみ寮の方にも神咲さんに連絡があって、剣道部の子も何人か戻っていないそうよ…」

「皆で夜遊びをしているんじゃないの?」

「今までそんなことをしたことがない子たちばかりなのよ……それに……その子たちは皆、氷村さんに熱を上げていた子たちなの……」

「……!!」

氷村遊。

その名前を聞いて、真一郎も嫌な予感がしてきた。

「私の方でも、あの人には近付かないようそれとなく警告したんだけど……帰ってこない子たちは皆、私の警告を無視していたの……。まさか、相手は吸血鬼だから近づくな……とは、言えないから……私も強くは出らなかったし……」

「とりあえず、探してみよう。唯子や御剣にも連絡して、手分けして探して……」

そのとき、自宅の電話の呼び出し音が鳴り響いた。

「瞳ちゃん。後で掛け直すから……」

携帯を切り、掛かってきた電話を取る。

「はい……もしもし、相川です……」

「もしもし、先輩…さくらです。今、学校近くの公衆電話から掛けているんですけど……」

電話を掛けてきたのはさくらだった。

さくらは、以前の真一郎同様、携帯電話を持っていなかったので、公衆電話から掛けてきたのだ。

「……さくら…丁度良かった……もしかしたら、あの氷村が何か事を起こしたのかもしれないんだ」

「……先輩。そのことなんです。どうも、遊が女の子を三十人くらい集めて学校の体育館で何かやっているようなんです」

「……!!わかった。俺も学校に向かう。さくらは……」

「私は先に、遊の所に行きます。同族として、血縁として、あれの行いを止める責任がありますので……」

そう言うと、さくらは電話を切ってしまった。

真一郎は、とりあえず瞳と薫、いづみに連絡した。

相手は、純血の『夜の一族』。

退魔師の薫の協力は必要だと感じたからだ。

それに、おそらく集められた女子は、氷村の『血の洗礼』によって操られているはずである。

真一郎一人で、その操られた女子たちを抑えるのはかなり難しい。

二、三人くらいならともかく、約三十人相手に怪我させることなく取り押さえるには、御神流は危険すぎる。

相手が凶悪な犯罪者なら、遠慮なく叩き伏せるのだが、ただ操られているだけの女の子を怪我させるのは流石に忍びなかった。

瞳といづみには、そちらに対応してもらうつもりである。

あと、もう一人くらい欲しいところだが、唯子とななかでは無理だろう。

唯子は、実力的には申し分ないが、性格に問題がある。

実戦ではまったく役に立たないからだ。

唯子が強いのは、道場の中や競技試合に対してだけであり、それ以外では普通の女の子と大差ないのだ。

ななかは、まだまだ技量不足である。

多勢を相手にするには、荷が重過ぎる。

美沙斗は、仕事で海鳴を離れているので、無理。

香港警防隊から要請を受け、弓華の件に関して協力する予定の火影もまだ海鳴に来ていなかった。

前の仕事の後処理を終わらせてからとのこと。

その弓華なら、実力的には問題ないのだが、『高町恭也』の知る弓華ならともかく、この時代の弓華に頼むわけにはいかない。

この時代の恭也もななか同様、実力不足なので頼れない。

多少きついが、この五人でなんとかしなければならないのだ。

 

 ★☆★

 

「来たか……綺堂…」

「遊!!」

さくらは、操っている女の子を侍らせた氷村と対峙した。

「何をするつもりなの、遊!」

「知れたこと……俺の邪魔をするお前を『説得』するためだ」

氷村は、何かと目障りな異母妹を、大人しくさせようと『説得』する為に……ここにおびき寄せる為に、今回、ことを起こしたのだ。

「……説得?脅迫の間違いじゃないの…!」

氷村に操られた女子の中には、さくらのクラスメートも何人か混じっていた。

「俺の邪魔をするな!……俺が望むのはそれだけだ。あと三人……俺の家畜に加えたい女がいる。協力しろとも、消えうせろとも言わない。共存しようじゃないか。どうせ、俺達は異性しか食わない。俺とお前、ひとりずつならこの街で当分生きていける」

氷村は、この街の女全てを自分の糧にしようとしているようであった。

「大食らいにも程があるわ。一人や二人くらいなら、同族のよしみで目をつぶるけど……二週間で三十人以上はいくらなんでもやりすぎよ……」

「これでも遠慮して殺してないんだがな……」

「遊!貴方の行動は既に神咲先輩も知っているわ。『夜の一族』としての能力も、神咲先輩には余り通用しないわよ!」

『夜の一族』の眼が紅に輝いているときにその眼を見てしまうと催眠状態に陥ってしまう。

しかし、退魔師……特に神咲の退魔師は霊的防御力が高いので効果がないのである。

「フン!確かにやっかいではあるが、所詮は下等な人間だ。なんとでもなる…どうやら、『説得』できないようだな…。ならば仕方がない。邪魔者は排除するしかないようだ」

氷村の眼が紅に輝いた。

「さくら!!」

丁度そのとき、真一郎たちが現れた。

「先輩!それに、神咲先輩、千堂先輩、御剣先輩!!」

「ほう、さくらの家畜か……それに神咲。千堂と御剣……邪魔者と厄介な奴と獲物二人が同時に現れたようだな」

氷村が真一郎を家畜呼ばわりしたことで、さくらが怒りを顕わにした。

「先輩は家畜なんかじゃない!」

「ああ、そういえば綺堂の家では『使徒』と呼ぶんだったな……食い物に感情移入するなど……愚かだな」

氷村は侮蔑の混じった声でそう言い捨てた。

「遊!先輩を……私の大好きな先輩を家畜呼ばわりしたことは……絶対に許せない!!」

「氷村。これ以上好き勝手にはさせない!」

さくらは己の爪を、薫は『十六夜』をそれぞれ構え、氷村と対峙しようとしたとき、氷村の傀儡と化した女子たちが立ちはだかった。

「飯島、笹瀬川、宮本!?」

薫は見知った剣道部員達に取り囲まれた。

同時に瞳には護身道部員が、さくらといづみにはそれ以外の格闘技系の部員が、それぞれ取り囲んでいた。

特に、さくらを取り囲む人数は十人を数えていた。

そして、それぞれ一斉に襲い掛かってきた。

「くっ……。この子たち……いつもと動きが違う!?」

瞳が、部員達の動きに翻弄されていた。

『血の洗礼』によって操られた者は、身体能力が向上するのである。

もともと実力差が違うので一対一なら、まだ瞳に分があっただろう。

しかし、流石に多勢に一斉に来られては、瞳といえども防戦一方であった。

それは、薫、いづみも同様である。

それに、彼女達は操られているだけである。

むやみに傷つけるわけにもいかなかったので、さらに苦戦を強いられるようになった。

さくらにしても、流石に『血の洗礼』によって能力が向上した相手十人を相手にするには、骨が折れるようだ。

「…さくら!瞳ちゃん!御剣!薫さん!」

「うるさい!家畜は大人しくしていろ!!」

皆を気遣っているときに、いきなり氷村に怒鳴られ、真一郎は氷村の方に目を向けてしまい、紅の眼をまともに見てしまった。

「フッ……これで動けまい……綺堂。俺の邪魔をした報いだ。お前の大好きな家畜を、お前の目の前で始末してやる」

氷村は薄笑いを浮かべながら、そう宣告する……だが……。

 

小太刀二刀御神流、奥義之参 『射抜』

 

動けない筈の真一郎が小太刀を抜刀し、『射抜』を放った。

超射程の刺突が、氷村の腹部を貫いた。

「ば……馬鹿な!!???」

血反吐を吐きながら、氷村は驚愕した。

確かに、真一郎は氷村の眼をまともに見たはず……なのに何故、催眠が罹らなかったのか?

「残念だったな……俺には精神操作の類は一切通用しないんだ」

 

何故、真一郎が催眠に罹らなかったのか……それは、真一郎が超越者から与えられた特殊能力による。

超越者が真一郎に与えた能力とは、【実力を感じさせない】と【『高町恭也』の記憶と能力と経験を受け継いでいることを他人に知られない】である。

この【他人に知られない】能力の副作用が原因である。

超越者は、『例えHGS患者でも真一郎が『高町恭也』の記憶と能力と経験を持っていることを読心することはできない』と、夢の中で真一郎に告げた。

しかし、それは真一郎に分かりやすく説明するために、具体例を挙げただけに過ぎなかったのだ。

読心以外にも、自白剤を投与されたり催眠術や機械などによって洗脳されてしまえば、知られてしまう可能性があるのだ。

ゆえに、超越者は真一郎に一切の精神操作を受け付けない能力を与えたのだ。

あの『龍香湯』さえ、真一郎には効果がないのである。

真一郎は超越者との邂逅の夢から覚めたときに、自分に与えられた能力の詳細をきちんと理解していた。

超越者によって、直接、脳に詳細を記憶させられたのだ。

理解できていない能力など意味かないので、そこらへんはいかにいい加減で適当な超越者も、きっちりしていたようであった。

 

普通の人間ならば致命傷になる一撃だったが、流石は『夜の一族』……と、言うべきか、常人とは比べものにならない生命力であった。

氷村は、女子の一人の首筋に口を寄せ、吸血を始めた。

吸血された女子の顔色が、だんだんと青白くなっていく。

「止めなさい遊!それ以上は吸い過ぎよ!!」

さくらが、静止するも氷村はそれを無視し吸い続けた。

真一郎が止めようと駆け出すが残った取り巻きたちが、真一郎の行く手を阻む。

ようやく氷村が吸血を止めたと同時に、血を吸われた女子はその場に倒れこんだ。

かろうじて生きてはいるが、失血による貧血を起こしている。

早く処置をしないと命に関わる。

「遊!」

「フン。これが我らの有り様だ。食い物の一人や二人……いちいち気にしてどうする」

氷村の腹部の傷が癒えていく。

吸血により、人間以上の再生力が活発になった為である。

「それに、あの程度の家畜などいくらでも手に入る。そこに二人、候補もいることだしな」

その言葉に、真一郎がハッとなった。

「まさか、瞳ちゃんや御剣を……?」

「そうだ。この二人と、二年の鷹城、野々村。この四人を加えれば、俺の風芽丘の家畜コレクションは完成する。……貴様を始末した後でな…。どうやら、眼力は貴様に効かない様だが、それでも、下等生物に負ける『夜の一族』ではない。栄養が行き渡っていない綺堂ならともかく、この俺が貴様などに負ける道理など……「黙れ!!」……!?」

真一郎は氷村の言葉を遮った。

「お前みたいな奴がいるから……お前みたいな奴がいるからぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

轟!!

 

真一郎から凄まじい殺気が噴き出した。

質量すら感じる黒い殺意の塊。

この殺気を氷村の周りにいた女子たちは、恐怖の余りその場で失神した。

失禁している者もいる。

瞳たちの足止めをしていた氷村に操られた者たちも皆、この殺気に怯え、動きを鈍らせた。

その隙を見逃す瞳達ではなく、彼女達に当身を食らわせ、眠らせた。

「……ば……馬鹿な……こ…こんなことが…ある筈が…!?」

氷村は、真一郎の殺気に怯えながら、目の前で起きたことに驚愕した。

『高町恭也』譲りの真一郎の殺気に、彼女達の本能が恐怖したのだ。

『血の洗礼』とは、表面的な洗脳に過ぎず、人間の本能まで支配することはできない。

一般人が、『御神の剣士』の殺気をまともに受けて、耐えられるはずがなかったのだ。

『夜の一族』の先達たちは、『血の洗礼』が絶対とは思っていない。

ゆえに、真なる戦闘者に対抗させるのに、一般人を使わず、同じ戦闘者を使うだろう。

しかし、氷村はそんなことを考えもしなかったのだ。

この男。

自分を至高の存在と思い込んでいるが、実際はたいしたことは無いのである。

名家である『氷村』の家に生まれ、純血の『夜の一族』。

ただ、それだけの存在。

一族の長老たちは、氷村の家は重んじていても、氷村自身はまったく評価していなかった。

基本的に、氷村遊という男は、自分を一流と思い込んでいる三流以下なのだ。

 

真一郎は、殺意に満ちていた。

今まで、美沙斗。安次郎に協力した『夜の一族』。アルバートを襲った刺客。麻薬組織の首領。曹光淋等と、戦闘を行ったが、怒りを持った事はあったが、殺意を持った事は一度もなかった。

だが、今回は違う。

真一郎は、本気で殺意を抱き、氷村を殺す気になっていた。

今、この男を野放しにすれば、後で唯子たちを襲うかもしれない。

真一郎、さくら、薫以外は、氷村の紅の眼に対抗できない。

自分たちがいない時に襲われでもしたら……そう考えると、真一郎はぞっとしたのだ。

四六時中、皆の傍にいることなど不可能。

護るためにはどうすればいいか。

そう、コイツを殺せばいい。

何を遠慮する必要がある。

相手は、唯子たちを食い物にしようとしているのだ。

それと、もう一つ……。

 

小太刀二刀御神流、奥義の歩法 『神速』

 

真一郎は、『神速』で氷村との間合いを詰め、『徹』を込めた斬撃を放った。

何度も、何度も、何度も………。

「ぐわぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!!」

真一郎の雨のような斬撃を浴び、氷村は血まみれになりながら、立ち尽くしていた。

否。

倒れられなかったのだ。

真一郎は、一撃を放つと、倒れる方向に周り、また一撃を放つ。

故に、氷村は倒れられない。

『夜の一族』として、人間以上の生命力があるから、まだ生きてはいる。

しかし、時間の問題であった。

実際、『夜の一族』としての能力が効かない相手には、氷村は普通の人間と大して変わらない。

多少、普通の人々より身体能力が高い……という程度なのだ。

氷村は知らないことだか、彼が見下しているさくらも圧倒的に彼より強い。

力に溺れている者は、自分以外の者を自分より下と錯覚してしまう。

『高町恭也』の能力を持つ真一郎は、身体能力では『夜の一族』と互角だが、総合的な戦闘力は氷村を遥かに凌駕していた。

氷村は、能力に溺れ、それを磨かなかった。

そして、思いも寄らなかったのだ。

人間の可能性を……『夜の一族』を凌駕する潜在能力を……。

「……とどめだ……死ね!」

もはや虫の息の氷村の心臓に『夢景』を突き立てようと構えたそのとき……。

「駄目です。先輩!」

「やめろ。相川!」

「真一郎君!」

さくら、いづみ、薫の三人が真一郎にしがみつき、制止した。

「先輩。遊の事は一族内で必ず厳罰にします。だから……先輩の手を汚すことはありません!」

「相川……もういい。こいつはもう何も出来ない…そこまでする必要はない…」

「真一郎君。この前も言ったとおり、君が人を殺してもウチだけは、君を肯定する。でも、こんな奴の命を…君が背負うことはなか!こいつにそんな価値なんか……こんな奴を、君の重荷になんかさせたくない…」

真一郎の殺気を間接的に感じていたので、さくらはともかく、いづみと薫は蒼褪めた顔をしていたが、氷村にとどめを刺そうとする真一郎を見て、恐怖を振り払い真一郎を止めに入ったのだ。

真一郎の動きは止まっていた。

怒り狂っていたとはいえ、それでもさくら達を無視するほど己を失ってはいなかったのだ。

「こいつを生かしておけば、唯子や小鳥、そして御剣……お前と瞳ちゃんに危害を加えるかもしれない…」

「させません!先ほども言った様に、遊がこれ以上、先輩達に迷惑をかけないよう、『夜の一族』内で、遊を厳しく罰します。あのフレーゲルのように……先輩……。私を……信じてください。神咲先輩が言ったように、このクズの命なんか、先輩が背負う必要なんかないんです。」

さくらも、いづみも、薫も、真一郎が氷村をその手にかければ、真一郎はその命を背負うことはわかっていた。

たとえ、どれほど救いようの無い、外道の命でも……真一郎は、殺したという事実を背負っていくだろう。

「……分かった……。ありがとう…」

ようやく、真一郎から発せられていた殺気が治まっていった。

さくらは、真一郎から携帯を借りて、自分の家と忍の家に連絡し、綺堂家に仕える者とノエルが到着するまでの間に、氷村に操られていた女子たちに催眠術を掛け、今日のことを忘れさせて帰宅させた。

ノエルたちが到着し、後始末を始めた。

まず、真一郎によってむざんにもぼろぼろにされた氷村を束縛し、さらに氷村の血で汚れた体育館の床を綺麗に掃除し始めた。そして、氷村が必要以上に吸血した少女の応急処置をした。

血を流しすぎ、流石に直ぐには回復しなかった氷村がようやく目を覚ました。

「………」

自分が拘束されていることを知り、不快そうであったが、抵抗する力すら残っていなかった。

「遊……貴方はおそらくフレーゲルと同じように能力を封印されることになるわ。一応、『氷村』の家の者であることと、フレーゲルと違ってかろうじて殺人は行っていないから、処刑や一族追放は免れるでしょうけど……。でも、これだけは言わせて……二度と先輩達の前に姿を現さないで!!」

そう言い捨てると、さくらは氷村に背を向けた。

「綺堂……お前はそいつらを信じているようだが……忘れるな。そいつらのような人間ばかりではないことを……そういう奴らが我らを迫害してきたのだ」

氷村は、さくらの背に向かって叫んだ。

「忘れるな。火に炙られた同族の痛みを。好奇心のままに切り刻まれた同族の恨みを……」

さくらは、何も答えなかった。

「忘れるな。我らの苦しみを。忘れてはならぬ」

貴様が言うな!!

いつの間にか、氷村の傍にきていた真一郎が『徹』を込めたアッパーカットを放った。

「ぐぼあぁぁぁぁぁ!!」

氷村の顎の骨は無残にも砕けてしまった。

「先輩!?」

さくらは、真一郎の突然の怒りの意味がわからなかった。

「お前に恨み言を言う権利なんかない!『夜の一族』を虐げた人間とお前のやったこと……大して変わらないだろう。お前も人間を下等動物呼ばわりし、虐げていたんだから!!それに……お前の行動が…どれだけ同族の人たちに迷惑をかけることになるか、理解していたのか?」

「………」

顎を砕かれたため、口を利くことができない氷村だが、その目は理解していないと言っているようであった。

「……お前が今回行ってきたことをこれからも行っていけば……やがてそれは公にさらされる。それがお前達『夜の一族』を追い込むことになるかもしれないんだぞ!!」

いかに『夜の一族』が人間よりも優れた能力を持つとはいえ、今の人間の軍事力には歯が立たない。更に、人間の中には真一郎たち『御神の剣士』のように、『夜の一族』に対抗できる達人は数多く存在するのだ。

かつては『夜の一族』にも、超技術を持ち『自動人形』などを造る事ができたが、今はその技術は失われている。現在、稼動している自動人形はノエルのみである。

どこかに、最終機体『イレイン』が眠っているが、これを起動させてしまえば、『夜の一族』にとっては敵を増やすだけに過ぎない。

人間との最終戦争でも始まれば、間違いなく滅ぶのは『夜の一族』の方なのだ。

そのことを理解しているからこそ、『夜の一族』の総意は、人間との共存なのである。

「お前のように、力に溺れ、後先考えずに好き勝手やっていれば、お前達の存在を知り、お前達に協力、擁護している人たちも、お前達を庇えなくなるだろう。いかに『夜の一族』が様々な手を打っているとはいえ、お前の行動がそれを台無しにしてしまうんだ」

真一郎が、氷村に殺意を抱いたのは、唯子たちだけではなく、さくらや忍にも災難が降りかかる可能性を考えていたからである。

これが、先ほど記述したもう一つの問題だった。

氷村はそのまま連行されていった。

さくらは、真一郎の怒りが自分と忍のことを思ってのことであることを知り、改めて真一郎に好意を深めた。

 

 ★☆★

 

真一郎は、ノエルの車で月村邸に向かうことになった。

真一郎の体は、氷村の返り血で紅く染まっていたからである。

流石にそんな姿で道を歩いていると、警察にいらぬ嫌疑を抱かれてしまうだろうから、人目につかないように忍の家で入浴と着替えを済ませることになった。

 

薫と瞳といづみも帰路についていた。

「……それにしても……あれが、殺気全開になった『御神の剣士』…か。あれほど洗練された殺気は、ウチの兄様たちでも……」

いづみは真一郎の殺気を感じ、改めて『御神の剣士』の恐ろしさを痛感した。

それは、薫も同様である。

しかし、それでも真一郎に対する想いが変わる事は無かった。

彼女達は分かっていたからだ。

真一郎が人に殺意を向けるときは、自分達を護るために相手を殺さなければならないからであるから……。

しかし、瞳だけは違うことを考えていた。

真一郎の義姉でありながら、先程は動くことが出来なかった。

さくら、いづみ、薫が真一郎を制止したとき、瞳だけが動けなかったのだ。

真一郎が氷村を殺そうとしたとき、瞳は飛び散る血と、真一郎の気迫に金縛りのようになっていたからである。

しかし、さくらはともかく、いづみや薫まで動いて真一郎を止めたのだ。

瞳は動くことが出来なかったのに、いづみと薫は動けたのだ。

悔しかった。

自分は薫達に負けた。

真一郎の義姉なのに、あのときの真一郎に恐怖し、足がすくんでしまったことを……。

「……私……もっと…強くならなくちゃならないわね…」

「いきなりどうしたんじゃ、千堂?」

「神咲さん。御剣さん。私は……負けないから!」

もっと、強くなって……真一郎を止めることの出来る人間になってみせる。

瞳の言っていることの意味が分からず呆然としている二人を見ながら、瞳は決意した。

 

〈第二十一話 了〉

 


後書き。

 

今回の話は難産だった

恭也「どうしたんだ?」

いや、イメージは湧いていたんだが、それを文章にするのに難儀した

恭也「それが執筆が遅れた理由か?」

うん。書き上げた今でも、上手く表現できていないと思っている。

恭也「それはおいといて、ようやく氷村の件はケリがついたな」

うん。そうだね

恭也「次は弓華さんの件か・」

まだまだ。弓華の件はまだまだ後になる。

恭也「じゃあ、次の話は……」

次の話は……思いもよらないキャラが登場します

恭也「思いもよらないキャラ?」

そう……ヒントは……恭也…お前に関係するキャラだ

恭也「誰だ?」

それは、秘密。では、これからも私の作品にお付き合いください

恭也「お願いします。……って一体誰が登場するんだ?」




氷村の件は何とか解決したみたいだな。
美姫 「みたいね。にしても、思ったよりも派手にやったわね」
どっちが?
美姫 「氷村と真一郎の両方」
確かに氷村は派手に動いたな。真一郎に関しては、まあ仕方ないかな。
美姫 「まあ、これで氷村は退場した訳だし、次回は……」
うーん、誰が出てくるのやら。恭也絡みという事は3のキャラかな。
美姫 「その上で真一郎と接点を持てそうなのは……」
咄嗟に浮かんだのは二人だな。この二人のどちらかなのか。
美姫 「それとも全く違う人物なのか」
次回を楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね〜」



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