『真一郎、御神の剣士となる』

第十六話 「真一郎、鍛錬する」

 

早朝、真一郎が近くの神社で朝の鍛錬を行っていると、来客が来た。

「おっはよ〜。しんいちろ〜!」

「……なんだ唯子か…おはよう。……で、何しに来たんだ?」

「しんいちろが、早朝鍛錬してるって聞いたから、ちょっと朝のジョギングのついでに見学に来たんだよ」

唯子は、真一郎の問いに答えると、あたりをきょろきょろと見渡した。

「……あれ、いづみちゃんは?」

「何で、御剣をここで探すんだ?」

「だって、しんいちろといづみちゃん。一緒に鍛錬しているんでしょ?」

「……御剣との鍛錬は、午後からだよ」

「……ほぇ!?」

どうやら、唯子は勘違いをしていたようであった。

「あのな……御剣が新聞配達のバイトをしていることを忘れたのか?」

「……あっ!」

「御剣は、家賃と学費以外の生活費は自分で稼いでいるんだから、朝と夕方以降はバイトで忙しいんだよ」

「……そうだったね…」

唯子はホッとしていた。

唯子にとって、いづみは大切な親友である。

と、同時に恋のライバルでもあることを最近知った。

いづみとの友情を壊すつもりもさらさらないが、だからといって真一郎を譲るつもりもない。

真一郎の気持ちが、完全にいづみの方に向かない限りは……。

そうなったら、素直に祝福するつもりだが、それまでは……諦めるつもりはない。

いつも、2人っきりで鍛錬していることによって、真一郎の心がいづみに向きやすくなるかもしれない。

そう思ったから、様子を見に来た唯子であった。

「大体、夏休みの間は午後の鍛錬だって御剣と2人だけでやるわけじゃないぞ……神咲先輩と一緒だからな…」

午後の三時くらいから、八束神社で鍛錬しているのだ。

ゆえに、唯子が心配しているような雰囲気になることはなかった。

「…あははははは……」

自分の邪推を笑って誤魔化す唯子であった。

「ところで、今日は登校日だよ……しんいちろ、忘れてない?」

「お前じゃあるまいし……忘れるか!」

「むう、酷いなぁ…」

「さて、それじゃあ俺は鍛錬を再開するけど、唯子はどうする?」

「見てていい?」

「別に構わないよ」

そう言うと、真一郎は鍛錬に戻った。

(ほんと〜に、しんいちろって……凄く強くなってるな……)

暫く、真一郎の鍛錬を見学して、改めて唯子は思った。

普段はのほほ〜んとしている唯子であるが、実際はかなりの実力者である。

あくまで、一般高校生のレベルで……ではあるが……。

しかし、真一郎の強さはその程度のレベルではない。

唯子にも、それはよく理解出来た。

しかし、何故真一郎は、今までその強さを自分と小鳥にも隠していたのだろうか。

疑問と共に、少し面白くなかった。

「……ねえ、真一郎…」

鍛錬を終え、後片付けをしている真一郎に、珍しく真剣な顔になり、唯子は訊ねた。

「どうして、剣術をやっていたことを唯子たちに秘密にしていたの?」

せめて、自分と小鳥くらいには教えてくれても良かったのに……。

どうしても、唯子はそう考えてしまう。

「………」

真一郎は、適当な答えを探していたが、久しぶりに見る唯子の真剣な表情を見て、自分も真剣になり答えることにした。

『高町恭也』の魂に関しては言えないが、それ以外のことに関しては説明することにした。

「御神流はな……武道とか武術じゃないんだ…」

「……じゃあ、何なの?」

「ただの人殺しの技術だよ」

唯子は、真一郎の返答に息を呑む。

「いかに効率よく、そして確実に相手を殺す……そのことを追求した殺人術…それが、御神流なんだ。最近では護衛が主な仕事だけど……昔は暗殺なんかも請け負っていたんだ。誇りなど持たない、『道』なんて求めちゃいけないんだ。どれだけ極めても、前にも後ろにも『道』なんか存在しないんだ」

「………」

「……そんな黒い剣を、いくら親しい人間にとはいえ、おいそれと話すわけにはいかないんだよ…」

「何で、そんな剣を学んだの?」

唯子には理解できなかった。

それなら、何故そんな剣を学んだのかを……。

「……そうだな…それは自分自身でもわからないよ…」

真一郎には、そう答えるしかなかった。

真一郎が自発的に学んだわけではないのだ。

超越者のミスにより、逆行してきた『高町恭也』の魂が宿って、彼の記憶と能力を受け継いだに過ぎないのだから……。

「……でも、『御神の剣士』になったことを後悔はしていないよ…。御神流がもっとも力を発揮するのは、誰かを護るときなんだ。自分が護りたいと思った人を護る……それだけが『御神の剣士』が唯一、誇りを持てることなんだ……俺は、それだけで充分だよ…」

そう言って微笑む真一郎を見て、唯子の心臓は跳ね上がった。

そして、再認識した。

やっぱり自分は真一郎のことが、好きで好きでたまらないことを……。

強くて、綺麗で、ちょっといじめっ子だけど、とても優しい真一郎。

子供の頃から大好きだった。

将来、真一郎と結婚することを夢見ていた。

今も、その気持ちは変わらない。

一度は小鳥に譲ろうと考えたこともあったが……胸が張り裂けそうだった。

真一郎が、自分以外の誰を選んでも、祝福することができる自信はある。

でも、きっと……1人っきりになると泣き続けるんだろうなと思う唯子であった。

「じゃあ、俺は帰るよ…また、学校でな!」

「うん、しんいちろ…バイバ〜イ!また、今日ね〜……」

真一郎の姿が見えなくなると、唯子も家に戻った。

 

 ★☆★

 

「よぉ〜真一郎。久しぶり」

「大輔。久しぶり……大輔が真面目に登校日に出てくるとは思わなかったけど……」

「ああ、俺もそう思う」

「自分で言うなよ……」

登校日なので、学校に登校した真一郎は、珍しく来ていた大輔と話していた。

「ところで、真一郎」

「何?」

「午後から空いているか?空いてるならゲーセン行こうぜ…」

「悪いな。午後からは、御剣と神咲先輩と一緒に八束神社に行くから……パス!」

午後からは2人と鍛錬をする予定であるので、あっさりと断る真一郎。

「付き合い悪いな……って、御剣はわかるとして、神咲先輩も……!?」

真一郎といづみは、お互いこの学校での初めての友人なので理解できるが、何故に薫も……というのが大輔の感想であった。

「……俺たちが一緒に旅行に行っていたことを忘れたのか?」

真一郎は、何を今更……という表情になった。

 

 

 

学校から帰宅し、昼食を摂ってから時間まで盆栽の手入れをしていた真一郎は、時間が差し迫ってきたので、八束神社に向かうと、その途中で唯子と自転車に乗った小鳥に遭遇した。

「しんいちろ……唯子たちも行っても良い?」

どうやら、唯子と小鳥は真一郎についていきたいようであった。

真一郎はどうしたものかと考えていたが、唯子と小鳥の持っているものを見て、了承した。

流石は小鳥というべきか、運動した後に最適な飲食物を持参していたのだ。

当然、食欲魔人の幼馴染みも同行するので、たくさん準備してきたようだ。

真一郎と唯子は走り、小鳥がその後を自転車でついていく。

しかし、途中から唯子と小鳥は真一郎と距離が離れだした。

荷物があるとはいえ、それ以上に重い装備一式を持っている真一郎のスピードに唯子と小鳥はついていくのがやっとであった。

さざなみ寮でバスケをしたときにも感じたが、真一郎の身体能力の高さに驚きを隠せない2人であった。

自転車に乗っていてなお、ついていくのがやっとな小鳥は特にである。

 

 

八束神社はさざなみ寮から近いので、薫は一足先に来て真一郎といづみを待っていた。

2時30分。

約束の時間の30分前に真一郎が、唯子と小鳥を連れて到着した。

ケロッとしている真一郎と、息を切らせている幼馴染みコンビ。

「鷹城と野々村も来たのか…」

「神咲先輩……ご迷惑でしたか?」

「いや、構わんよ」

申し訳なさそうな顔になった小鳥に、薫は優しく答えた。

そうこうしている間にいづみが到着し、3人は鍛錬を始めた。

最初に薫と、次にいづみと手合わせする真一郎。

「はやや…何やってるのかよく見えないよ……唯子は見えるの?」

「うん……何とかね……」

運動神経と共に動体視力もそれほどではない小鳥には、真一郎たちの動きを目で追う事も出来なかった。

そのとき、八束神社に真一郎たちを訪ねてきた者が現れた。

「よう、鷹城、野々村ちゃん!」

「あっ……端島君!」

「やっほ〜!」

大輔であった。

唯子たちと軽い挨拶を交わした大輔は、真一郎たちの方に目を向けると……。

「………う……嘘だろ…!」

真一郎の強さを見て、目を疑っていた。

薫の実力は、風芽丘学園において知らない者はいない。

『秒殺の女王』の異名を誇る風芽丘一の実力者、護身道部主将、千堂瞳に次ぐ実力者ある。

大輔の目には、その実力者である薫を圧倒する強さを見せ付ける真一郎の姿が映っていた。

「……真一郎って……あんなに強かったのか!?あの神咲先輩より強いなんて…」

「……しんいちろ…神咲先輩だけじゃなく、瞳さんよりも強いよ…」

「…マ…マジかよ…!?」

唯子の答えに絶句する大輔であった。

 

 ★☆★

 

「大輔……ゲーセンはどうしたんだ?」

薫といづみとの手合わせを終えた真一郎は大輔に話しかけた。

真一郎は、大輔が来ていることに当然、気付いていた。

手合わせの最中……いや、大輔が到着するちょっと前から、大輔の気配を感じていたからだ。

「1人で行ってもつまんねぇよ……てっ言うか真一郎。おまっ……!」

何でそんなに強いんだよ?

大輔はそう聞きたそうであった。

唯子たちにも既に知られているので、今更、大輔に隠しても仕方がないので、大輔にも唯子たちと同じ説明をした。

親友の隠された一面を知って、大輔は絶句していた。

「どうでもいいけど大輔……他の奴らにばらしたら…」

「ばらしたら……」

大輔は、ごくりっと唾を飲む。

真一郎は、ドッジボールくらいの大きさの石を放り投げ、『徹』を込めた一撃を放ち、石を粉砕する。

「わかっているだろうな…」

大輔は、無言でコクコクっと頷いた。

 

 

日が沈みかけてきたので、小鳥は夕食の準備のため、家に戻った。

いづみと大輔も、それぞれ、バイト先に向かった。

薫は、寮に依頼人が来ていると連絡があり、一足先に戻っていたので、その場には真一郎と唯子の2人だけになっていた。

「どうする唯子。うちで飯でも食ってくか?」

「うん!」

真一郎は、嬉しそうな顔で返事をする唯子を連れ、帰宅する。

その途中……。

「…ねぇしんいちろ……」

「ん……何?」

「…手…繋いでいい?」

顔を真っ赤にしながら唯子が手を差し出してきた。

「………」

真一郎は何も言わず、唯子の手をとった。

2人は、一言も喋らず歩いていった。

 

真一郎の家に到着し、部屋の扉を開けようとしたとき、真一郎の表情が変わった。

「……どうしたの……しんいちろ!?」

「部屋に…誰か居る……」

「…えっ!」

部屋の中から人の気配を感じ、真一郎は警戒していた。

ドアノブを捻ると、鍵が掛かっていなかった。

間違いなく、出かけるときには鍵を掛けた筈なのに…。

真一郎は警戒しながら、部屋に入る。

「よぉ、馬鹿息子!おっ…唯子ちゃんも一緒か」

「おかえり、真。それに唯子ちゃんも久しぶり…」

「「へっ!?」」

中に居たのは、真一郎と唯子のよく知る2人であった。

「オヤジに母さん!?」

神奈川の実家に居る筈の、真一郎の両親であった。

 

〈第十六話 了〉

 


後書き

 

第十六話いかがだったでしょうか?

恭也「今回は、鷹城先生がメインか……初めてじゃないか…」

そうだな。自分でも意外だが、唯子がメインの話は初めてだな

恭也「幼馴染みなのに、結構ないがしろにしているな…」

しかし、今回の話で唯子のヒロイン候補ランクが上位に確定したわけよ

恭也「つまり、現在上位なのは、さくらさん、御剣さん、薫さん、そして鷹城先生か……」

そういうこと……あと、ハーレムエンドの可能性も……。

恭也「実は、その確率が一番高いとか…」

ま…まさか(目を逸らしながら)……では、これからも私の作品にお付き合いください。

恭也「お願いします……て、また逃げたな…」




いつもと変わらない夏休み。とは流石にいかないみたいだな。
美姫 「真一郎自身も変わっているのもあるけれど、やっぱり旅行での件があるものね」
何気に真一郎へと接近しようとする唯子が可愛いな。
美姫 「今回のメインヒロインだったものね」
にしても、急な両親の来訪。一体何が。
美姫 「気になる所で次回」
続きを待っています!
美姫 「待ってますね〜」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る