『真一郎、御神の剣士となる』

第十一話 「真一郎、バスケをする」

 

真一郎は、美由希を連れてさざなみ寮に向かっていた。

美由希はさざなみ寮で、美緒とそのマブダチの『藤田望』やその他の美緒の友達たちと遊ぶことになっていた。

しかし、美由希は方向音痴である。

1人でさざなみ寮に来ることが出来ないので、真一郎が送り届けることになったのだ。

 

さざなみ寮が見えてきた。

既に表に美緒たちが集まっていた。

「おっ、みゆきち!いらっしゃい。もうみんな揃っているのだ。それじゃあ、れっつらごーなのだ」

到着早々、美緒たちは美由希を連れて遊びにいってしまった。

「美由希ちゃん!俺はここで待っているからね!!」

「真兄さん!行って来ます!!」

美緒に引っ張られ、美由希の姿が見えなくなっていった。

「……美緒ちゃんは元気だな……」

真一郎は、そう呟いてインターホンを押した。

「は〜い!」

玄関から、背の高い男性が出てきた。

「どちらさまですか?」

「あっ、俺は相川真一郎といいます。神咲先輩と岡本さんの友達です……お2人はご在宅でしょうか?」

「ああ、君がよくみなみちゃんが話す相川君か……初めまして、ここの管理人を務める『槙原耕介』です。2人ともいるよ。それとお友達も何人か来てるから……」

耕介はそう言うと真一郎を招きいれた。

「あれ、しんいちろ!?なんでここにいるの?」

リビングに入っていくと、寮生の他に唯子、小鳥、ななか、瞳と知らない女性ががいた。

「何だ、唯子達も来ていたのか……」

「わわっ!相川君……どうしてここに?」

憧れている真一郎が突然来たため、みなみは混乱しているようだった。

真一郎は、美緒の友達である美由希を送り届けに来て、彼女たちの遊びが終わるまで待たせてもらおうとしていることを説明した。

「あら、相川君は美緒ちゃんのお友達と知り合いなの?」

「翠屋の店長の娘さんですよ……美緒ちゃんのお父さんの友人が、その娘の亡くなったお義父さんなんですよ」

瞳の質問に真一郎が答え、みんな納得したようだ。

真一郎が翠屋の店長一家と付き合いがあることは周知であった。

そこに、オーナーの『槙原愛』がリビングに姿を現した。

「ああ、愛さん。洗車、終わりましたか?」

「はい、全部終わりました……新しいミニちゃんはビッカヒカです!」

 

愛のかつての愛車は、祖父から譲り受けた古いミニであったが、今年の春ごろにブレーキが壊れていたトラックと追突事故を起こし、廃車を余儀なくされた。

それだけの事故を起こしながら、乗っていた愛と耕介は無傷であった。

愛にとっては長年付き合ってきた親友も同然であり、ミニが護ってくれたと思っていた。

だから、今のミニは新車である。

 

「あら、瞳さん……こちらの方は妹さん?」

愛は真一郎を見ながら、瞳に訊ねた。

「「はぁっ!?」」

真一郎も瞳もきょとんとしていた。

女の子に間違えられるのは、日常茶飯事だが……何故、瞳の妹に間違えられるのだろう……。

そんな、疑問も湧いたがとりあえず、真一郎は……、

「姉がいつもお世話になっています」

と、応えた。

「あー、いえいえ、こちらこそ」

愛はにこにことおじぎした。

まったく悪気の無い態度に、真一郎はトホホな気分になった。

「相川君!……あの、愛さん。こちら、私の後輩で、相川君と言いまして……その、…………男の子です……」

「あら!」

瞳から真実を聞き、少し考え込んで……。

「ご…ごめんなさい!あの、可愛らしいから間違えちゃいました……」

「あはは、ま、間違えますよね……」

「フォローになってないです……」

真一郎が後ろを振り返ると、全員、うんうんと頷いていた。

「しかし、何で俺を千堂さんの妹と間違えるんですか……」

「えっ、だって顔……よく似てますよ…」

「「えっ!?」」

真一郎と瞳は再びきょとんとした。

「しんいちろ……気付いていなかったの?唯子はずっと前からそう思っていたよ……自分じゃ判らないものなのかな?」

唯子が追い討ちを掛けた。

「「…………!」」

真一郎と瞳は絶句した。

本当に気付いていなかったのだ。

他のみんなにも訊くと全員、似ていると思っていたらしい……。

 

 ★☆★

 

「じゃあ、岡本……そろそろ一勝負しないか?」

知らない女性がみなみに声を掛けた。

「はい、そうですね裕子さん」

『景浦裕子』。

さざなみ寮に新聞配達に来るボーイッシュな女性で、私立城西高校バスケ部の主将であり、みなみのライバルである。

「勝負は1on1でするか?」

「う〜ん………」

みなみが考え込んでいると、唯子が自分も参加する行ってきた。

「じゃあ、3on3で勝負するか」

裕子がそう言い、みなみにも異存はなかった。

 

みなみ、唯子、ななかチームVS裕子、真一郎、瞳チームで勝負することになった。

「神咲先輩はやらないんですか?」

「ああ、神咲さんは剣道以外のスポーツは苦手なのよ」

「千堂!いらんこと言わんでもよか!!」

薫が瞳に怒鳴った。

薫は実は体が丈夫ではなく、剣道以外のスポーツはさっぱりであった。

走ることは大丈夫だが……。

「小鳥は…訊くまでも無いか……」

「つ〜ん!」

小鳥はふてくされていた。

小鳥も運動神経はぷっつんと切れていて、体育の授業でよく転んでいる有様であった。

耕介が審判となり、ゲームが始まった。

唯子も瞳もななかも畑違いとはいえ、薫と違い球技は得意分野であるため、よくみなみや裕子の動きについていった。

しかし、何より周りを驚かせたのは真一郎であった。

『高町恭也』の身体能力を持っている真一郎はバスケのテクニックではみなみや裕子に劣るが、反射神経やジャンプ力、瞬発力は2人を遥かに凌駕していた。

スポーツは戦闘と違い【相手に実力を把握させない】能力を解除しなくても行えるので、剣士としての実力がばれる心配はなかった。

ディフェンスに回っていた唯子の身長を軽々と超えてジャンプし、ダンクシュートを決めたときは皆、呆然とした。

人間越えのダンクは、シドニーオリンピック男子バスケットボールにおいて、アメリカ代表の選手が、218pのフランス代表のセンターを飛び越えたのが最も有名だそうだ。

裕子は真一郎の動きに驚いていたが、使えると判断したのでよく真一郎にパスを回した。

テクニックで劣るため、みなみにはたまにボールを取られることはあるが、唯子とななかには絶対ボールを渡さなかった。

ゆえに裕子チームの戦術は、裕子がみなみをマンツーマンで押さえ、真一郎がゴールを決めるというものになっていた。

真一郎を抑えようと唯子とななかが2人がかりで対応しようとすると、フリーになった瞳にボールを渡し、瞳がゴールを決める。

ゲームは裕子チームが有利である。

何しろ、裕子と真一郎を抑えることができるのはみなみだけであり、そのみなみにずっと裕子がマークにつけば、かなり厳しくなる。

それでも時々みなみは裕子のマークを抜き、真一郎からボールを奪ってゴールを決めることもあった。

 

結局、裕子チームの勝利で終わった。

 

 ★☆★

 

「すごいよ相川君……バスケ部に入ればいいのに……」

みなみは興奮していた。

「……相川先輩凄いです!」

みなみも感歎していた。

「……しんいちろってこんなにバスケ上手かったっけ?」

「真くん、いつの間に……」

幼いころから知っている筈の真一郎の意外な一面を見て首を傾げる唯子と小鳥であった。

「じゃあ、そろそろおやつにするかい?そろそろ知佳がチーズケーキを焼き終わるだろうから……」

「「「「「「「「はーい!」」」」」」」」

 

「はい、チーズケーキだよ……翠屋の程美味しくないけど……」

「いや、知佳のチーズケーキも中々だよ!」

「ありがとうお兄ちゃん!」

仲のいい義理の兄妹を見て、瞳が真一郎に話しかけた。

「私たちも他人が間違うくらいなんだから、姉弟の契りを交わす?」

「……それも、悪くないね……じゃあ、これからは『瞳ちゃん』って呼んでもいい?」

「……いいわよ……『真一郎』♪」

瞳と真一郎は、義姉弟の契りを交わす。

瞳が真一郎にとってもう1人の姉のような存在である美沙斗のことを知り、少し焼きもちを焼くことになるのはまた少し後の話である。

なんだかいい雰囲気になっている真一郎と瞳を見て、真一郎に想いを寄せている、乙女たちの心境は……。

(瞳さんか……ううっ、護身道ではまだ勝てないけど、しんいちろに関しては負けたくないな)

(美人同士お似合いだけど……私だって真くんと……)

(千堂先輩……ううっちょっと敵わないかも……)

(千堂の奴……でもうちは、他のみんなが知らない相川君のことを知っとるんじゃからな……って何考えとるんじゃうちは…)

(相川君……千堂先輩が相手じゃ……勝ち目ないよ……どうしよ〜……)

相変わらず罪作りな真一郎であった。

 

 ★☆★

 

美緒と美由希が戻ってきたので、真一郎は美由希を連れて帰宅していった。

美緒は、取って置いてもらった知佳のチーズケーキを食べていた。

唯子と小鳥とななかも帰宅したが、瞳はまだ残っていて美緒にジュースを持ってきた耕介が話しかけた。

「瞳……みんなの前であんなやり取りして……お前も成長したな」

「あら、私だって何時までも耕ちゃんが知っている私じゃないわよ」

耕介のからかい半分の言葉に平然と答えた瞳であった。

「ケケケ、神咲と岡本君が瞳ちゃんのこと恨めしそうに見ていたぞ」

さざなみ寮のセクハラ魔人。、真雪が面白そうに話に加わってきた。

「あれ、みなみちゃんだけじゃなく、薫も相川君のことを?」

「まあな……」

さすがに真一郎が薫と自分を超える達人だとは言えず、真雪は言葉を濁した。

「……そう、神咲さんも……負けないわよ!」

そう言って闘志を燃やす瞳であった。

 

〈第十一話 了〉

 


後書き

 

う〜みゅ……

恭也「どうした?」

いや今回の話、みなみがメインの話のつもりだったのに、瞳がメインっぽくなってしまった……

恭也「そうだな、どちらかというと千堂さんがいい思いをしているな」

さて、次回は予告通り夏休みの話になります

恭也「具体的には?」

夏と言えば?

恭也「山篭り!」

いや、確かに君はそうかも知れないけど、普通の人は夏と言えば海だろう!

恭也「じゃあ、海水浴の話か?」

いや、ただの海水浴じゃないよ……では、これからも私の駄文にお付き合いください

恭也「お願いします……っていきなり終わらせるなよ!」




今回はさざなみでバスケ。
美姫 「真一郎の身体能力が上がっている分、運動全般に関してはかなり有利になってたわね」
確かに。まあ、流石に幼馴染たちは突然の事に驚くだろうけれど。
美姫 「みなみメインかとも思ったけれど、瞳が良い目にあってたみたいね」
うん。おまけに新たなライバル登場か、とか思ったんだが。
美姫 「流石にそこまではいかなかったみたいね」
次回はいよいよ夏休みになるみたいだけれど。
美姫 「無難に過ごす事ができるかしらね」
それでは、この辺で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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