『時空を越えた黄金の闘士』

第五十七話 「烈火の衝撃」

 

新暦0073年。

とある研究施設において…一人の少女は囚われていた。

生まれた時の事を覚えておらず、自分の親が誰かという事も知らない。

ただ静かに、随分と永い間…眠っていた。

気が付けば、白い部屋で実験動物扱いであった。

自分が何の為に生まれてきたかが分っていただけに……今の境遇が辛かった。

生まれた意味を何一つ果たせないまま、死ぬ自由すら無く……苦しいまま、いつか心と体が壊れて終わると…少女は思っていた。

彼女はも『ヒト』の姿をしているが人ではなく、融合デバイスであった。

……古代ベルカ式の純正の名もなき融合騎。

しかし、そんな地獄も終わりを告げた。

名無しの槍型アームドデバイスを持った古代ベルカ式の『騎士』と、幼き少女……そして、黄金の鎧を身に纏った青年の手によって……。

 

 

 

スカリエッティの情報網から、犯罪組織の研究施設に『レリック』がある事を知った騎士ゼストと、彼の部下の娘である召喚士ルーテシア・アルピーノと『蠍座』の黄金聖闘士ミロは、冥闘士を差し向けてきた敵に奪われる前に『レリック』を確保する為に、施設に侵入した。

その研究施設では、管理外世界に稀に存在する高い魔力資質持った者達を、魔力に目覚める前に誘拐し、実験動物として扱っていた。

その研究とは、魔力を持った人間と魔法生物とを組み合わせた『合成獣《キメラ》』を製造し、生体兵器として売買するのが目的であった。

彼女は、そんな組織に偶然発見されてしまった。

古代ベルカの融合騎…騎士と融合する事の出来る融合デバイスは、『合成獣』を造る組織から見れば、格好のサンプルであった。

彼女を研究し、彼女のレプリカを量産して、『レリック』と共に『合成獣』に組み込む事を考えたのだ。

そんな組織の、余りにも非人道的な研究に不快感を示した三人は、その組織を潰す事にした。

研究施設を潰し、アギトを解放し、その場を離れようとするゼストとミロを、ルーテシアが止めた。

「…なんだ?」

「どうしたルーテシア?」

「……置いてっちゃうの?」

「あれは、古代ベルカ式…レプリカではない純正の融合騎だ。火災に気付いてやってくる局員が見つければ、丁重な保護を受けるはずだ」

「そこでもまた……実験動物!?」

ルーテシアは不安であった。

次元世界の治安を護ると謳う時空管理局だが、その上位組織である『最高評議会』の存在が不安にさせていた。

今は改心したとはいえ、広域次元犯罪者として違法な研究を行っていたスカリエッティのスポンサーであったのが評議会だ。

ルーテシアの母であるメガーヌとゼストが『人造魔導師』の素養がある事を知り、躊躇いも無くルーテシアを拉致し、実験動物としてスカリエッティの下に送った評議会が創設した組織に一抹の不安を覚えるのだ。

例え、ルーテシアの拉致が、娘を案じるメガーヌの下に来させる為に評議会を利用したスカリエッティの策謀だとしても……。

「ここの連中ほど酷いモノでもない……そう、思いたいがな…」

「…ゼスト。ルーテシアの危惧も最もだ。管理局の人間すべてを疑うわけではないが、巡りあわせが悪く、ここの連中とたいして変わらん研究者に当たっては、この娘が余りにも救われん……連れて行くべきではないか?」

「しかし、我々は恐るべき敵を相手にしなければなりません…。ミロ殿やシャカ殿はともかく、私やスカリエッティは奴等との戦いで死ぬ事を覚悟しているが……。彼女を巻き込むべきではないのではありませんか…」

7年前の冥闘士と共にスカリエッティ達の前に現れた男の小宇宙は、ミロやシャカから見ればそれほど脅威ではなかった。

しかし、ゼストやスカリエッティからすれば恐ろしい敵である。

こちらにミロやシャカがいるとはいえ、敵対する以上自分たちの命の保障が無いことは理解していた。

そんな危険に巻き込む訳にはいかない…と。

しかし、彼女は同行したい旨を伝えた。

「いいのか…融合騎…?」

「…もう…どんな相手であっても、自由を奪われるのは嫌だ!それなら…アタシを助けてくれたアンタ達について行きたい……」

彼女は融合騎……。

その存在理由は………。

 

 ★☆★

 

スカリエッティと通信し、新しい情報を得ていた。

その情報では、この犯罪組織の研究施設はもう一つあり、そちらの方では本格的な『合成獣』の製造が行われていた。

「……かつてのお前以上の外道だということか?」

「そうだね。確かに私も人の事は言えないが、当時の私でも彼らの所業は不快だった……」

スカリエッティも生命操作や生体改造等を行っており、生命を弄んだ事に変わりないが、それでも完全に『ヒト』というカテゴリーとは違う異形に改造したことはなかった。

それは、彼の美意識に反する行為であった。

「そう言っても、やはり私に彼らを弾劾する権利はない……。私に出来るのは…彼らに憤りを覚える君達に情報を伝えることくらいだ…。頼むよ騎士ゼストにルーテシア、そしてミロ…」

 

 

 

ルーテシアに『アギト』と名付けてもらった融合騎を加えたミロ達は、数日後にもう一つの研究施設を襲撃した。

アギトが捕らえられていた研究施設よりも大きく、管理外世界から拉致された魔力保持者も数多く囚われていた。

ちなみに、高町なのはと八神はやての出身世界である『第97管理外世界』の人間は一人もいない。

地球《テラ》には、ギル・グレアムやなのは、はやての様に高ランクの魔力保持者が発見されるが、それは極稀な例であり、地球に住む人間のほとんどはリンカーコアを持っていないのが実状である。

突然の襲撃者に対し、組織の者達は取り乱すことなく応戦してきた。

しかし、元・首都防衛隊の古代ベルカ式、S+ランクのストライカー級の騎士であったゼスト、まだ幼いとはい近代ベルカ式、AAランクの召喚士であるルーテシアが最も信頼する『召喚虫』のガリュー、そして、そもそも戦闘レベルにおいて魔導師如きでは相手にすらならない黄金聖闘士のミロにBランク以下の魔導師達では歯が立たない。

魔導師ランクは単なる目安に過ぎず、高ランクなら必ず勝てるというわけではないが、ゼスト達は百戦錬磨である為、組織の魔導師達にとっては相手が悪すぎた。

劣勢を悟ったこの施設の責任者は、切り札を出してきた。

「……なんだこの部屋は…?」

「周りの棚にあるビーカーに入っているのは薬品?」

【その通りだよ…侵入者諸君!】

ミロたちが入った周囲に薬品が入った棚のある広い部屋のスピーカーから声が響いた。

【私がこの研究所の所長だ……。ああ、気を付けたまえ。そこにある薬品は、火気を近づけたり、衝撃によって爆発を起こす薬品だよ。一つでも爆発させれば連鎖反応で次々と爆発するだろうね……。魔導師である君たちは結界を張れば無事だろうが、この施設程度ならば確実に全壊させられるだけの威力を保障するよ…。この施設にいる所員や実験体につれてきた者達は確実に爆死するだろうね〜】

余裕ある台詞から、どうやら彼は既にこの場にいないようである。

組織の末端構成員や実験体達はどうやら切り捨てられたようだ。

【さて、君たちにはこれから我々の組織が造り上げた生体兵器『合成獣』の能力テストに付き合ってもらおう…】

その言葉と同時に二足歩行の人型の『合成獣』が姿を現した。

しかし、その姿は決して『ヒト』ではなかった。

全身に鱗に覆われ、目は三つ目。

口は耳まで裂けており、背には蝙蝠のような翼が生え、指は鉤爪が付いている。

尻尾が生えており、尻尾の先は三つ又の頭を持つ蛇。

しかし、その顔は間違いなく元は人間だった頃の面影が残っていた。

「…こ……殺して…くれ……コロシテ…クレ…」

『合成獣』は涙を流しながら、ミロ達に懇願していた。

【ちなみに…その化け物は人間だった頃の記憶をしっかりと持ち、人としての感情も残っている。しかし、体は彼の意思とは関係なく君たちを殺しかかるように調整されている……せいぜい頑張りたまえ…ハーハッハッハッ!!】

スピーカーから所長の声が途絶えた後、『合成獣』はゼストに襲い掛かった。

「……クッ…!」

ゼストは、『合成獣』の攻撃をかろうじて躱し、蹴りを放った。

しかし、『合成獣』はビクともしなかった。

ルーテシアはスカリエッティへ通信を繋げ、現在の状況を説明した。

「ドクター…。なんとか…なんとかあの人を助けてあげられないの?」

【……すまないが不可能だ…。酒とジュースを混ぜてカクテルを作ることは出来ても、それを再び酒とジュースに分けることは難しい。あそこまで遺伝子を合成されては……『ヒト』ではない部分だけ除くことは……】

スカリエッティの返答にルーテシアは泣きそうになる。

「…ならば…、彼を救う方法はただ一つ…。彼の望み通り……殺してやることだけか」

ゼストは、そう言うと一瞬だけ哀しい表情を浮かばせたが、すぐに引き締め、無銘の槍型デバイスを構え、必殺の一撃を放った。

チンクの右目を奪った技でもある一撃だったが、槍は『合成獣』の鱗を貫くことも適わなかった。

「…なっ…なんという硬さだ」

「下がれゼスト!」

ゼストを下がらせたミロは、光速の動きで『合成獣』の間合いの中に入る。

「…受けろ、真紅の衝撃!『スカーレットニードル』!!」

ゼストの槍とは違い、『スカーレット・ニードル』は間違いなく『合成獣』の鱗を貫いた……だが。

「何?傷が塞がっていく!?」

【言い忘れたが、その【合成獣】は再生能力を持っている。だが熱に弱い生物の遺伝子を使っているから炎の魔法で焼けば再生できない。だが、その弱点を補う為にその鱗で覆わせたのだ。その鱗は並みの攻撃力では貫けない……。オーバーSランクの砲撃か広域殲滅魔法で一片の肉片も残らず焼き尽くすか、再生が追いつかないほどの攻撃を加えない限り、再生を繰り返すのだよ】

再び、所長の声がスピーカーから聞こえてきた。

ご丁寧に『合成獣』の弱点まで教えてくれたが、それを実行するこのは不可能だと分かりきっている故、性質が悪い。

この部屋には火気や衝撃で引火、もしくは爆発を起こす薬品が大量にある。

下手をすればこの研究所そのものを吹っ飛ばせる程の……。

そんな環境で、炎の魔法や砲撃魔法、ましてや広域殲滅魔法など使える筈もなかった。

ルーテシアの召喚虫の『地雷王』…究極召喚である『白天王』も相性が悪い。

そして、再生が追いつかない攻撃は、ゼストとルーテシア(ガリュー)には無理だが、ミロならば可能である。

何も、『スカーレット・ニードル』だけがミロの戦う手段ではない。

黄金聖闘士である以上、『光速拳』は当然使える。

再生が追いつかなく位、『光速拳』を放てば倒せるだろう……だが、秒間に一億発もの拳を放てば、例えミロが黄金聖闘士一の命中精度を誇るとはいえ、間違いなく余波が発生し周りの薬品に影響を与えてしまうだろう…。

「くそ、こんな時にカミュが生きてこの場にいてくれれば…カミュでなくても氷河がいてくれれば何とかなったのだが……」

カミュもしくは氷河ならばこの部屋にある薬品をすべて凍結させることが可能である。

如何に危険な薬品でも、凍結してしまえば引火、爆発の心配はいらなくなるし、『合成獣』もカミュ級の凍気を受ければ生命活動を停止できるだろう。

「どうする……たとえ薬品が引火爆発を起こしても我々だけなら何とかなる…。だが…奴に見捨てられた者たちや拉致された人々は……」

組織の人間は、ある意味自業自得だが、拉致された人々を見捨てられる程、ミロも非情にはなれない。

これが『蟹座』のデスマスクならば、平気で見捨てられただろう。

彼は、己の『正義』の為ならば罪もない人間を何人巻き込もうが、良心の呵責も無く実行できるだろう。

最も彼の必殺技である、相手を死の国の入口『黄泉比良坂』に強制的に送る『積尸気冥界波』ならば、簡単に『合成獣』を倒せるが……。

「…方法はある!」

悩むゼスト達に声を掛けたのはアギトだった。

「…ゼストの旦那はあの鱗を貫けないけど、ミロの旦那は貫けるんだろう…」

「ああ。いかにあの鱗の防御力が高かろうが、黄金聖闘士にとっては取るに足らん。しかし、貫いても再生されては……」

「ミロの旦那。アンタ…自分が高い魔力資質を持っていることに気付いているか?」

「何!?」

【その融合騎の言っていることは本当だよミロ。最も、君は魔導師になる気はないだろうから、私も伝えなかったが……君にはSSランク以上の魔力が眠っている…】

アギトとスカリエッティの思いもよらない指摘に、ミロは唖然とした。

「しかもミロの旦那は、ゼストの旦那よりもアタシとの適合率が高い……旦那とアタシが『融合』すれば、鱗を貫き、あいつが再生できない炎の攻撃を打ち込むことが出来る…」

ミロは、黄金聖闘士の中で最も気性が熱い。

それゆえか、炎熱の魔力変換資質を持つアギトとの相性が良い様である。

【……魔力資質を持つ者は、きっかけさえあれば簡単に魔力に目覚めることが出来る。アギトという『融合デバイス』がミロにとってのきっかけ…となるか…】

「……よかろう…迷っている時間も惜しい…彼を早く苦しみから解き放ってやりたい……いくぞアギト!」

ユニゾン・イン!!」

アギトと融合したミロの姿が変化した。

金髪は赤毛となり、瞳は火色…そして身に纏う『蠍座』の黄金聖衣は赤の混じった赤金色となった。

【どうだい。融合事故は起きていないかい?】

『融合デバイス』を使用する際に最も気をつけなくてはならないのが、融合騎の方が体の主導権を握る『融合事故』である。

「いや、大丈夫だ…」

【アタシがそんなヘマをやらかす訳がないだろ!変態医師!!】

【へ…変態…言い得て妙だね】

【自分で認めんなよ!】

「コントはそれくらいにしておけ…アギト!炎の調整は任せるぞ」

【ああ。任せてくれミロの旦那!!】

ミロの指先に小宇宙が集まり、さらにアギトが炎を宿らせ…放つその一撃は…!?

「くらえ、烈火の衝撃!『スカーレットニードル・カタケオ』!!」

真紅の熱針が、『合成獣』の体を貫いた。

「どうだ!?」

「……よし!再生しないぞ!!」

「ならば!!」

再生しない事を確認し、ミロは次々と『スカーレットニードル・カタケオ』を打ち込んだ。

もともと針の穴のような一撃である為、周囲の薬品には何の影響も与える心配もなく、一気に14発打ち込む事に成功した。

「……今、その地獄から解放してやる……安らかに眠れ……!『スカーレットニードル・カタケオ・アンタレス』!!」

蠍の心臓部に位置するスカーレットニードル最大の致命点『アンタレス』を貫く。

「……ア…アリ…ガ…ト…ウ……」

『合成獣』は、最後にそう言い残し絶命した。

遺体に向かって数秒黙祷した後、ミロ達は組織の者たちを拘束し、拉致された管理外世界の人々を解放した。

「……近くの管理局の部隊に匿名で連絡しておいた。もう直ぐ此処に駆けつけてくるだろう…」

「ならば、長居は無用…。さっさとここを離れるぞ…」

 

 

 

「あの人達…これからどうなるのかな?」

到着した管理局の部隊が、組織の人間の拘束と拉致された人々を保護しているのを遠い場所から見ていたルーテシアがゼストに聞いた。

「……おそらく元の世界に戻されるだろうが……分からんな。管理局は慢性的な人手不足だからな…魔力資質を持つ人材を素直に手放すか……」

「だったら、管理局に伝えずに私達であの人たちを助けた方が…」

「数が多すぎる。如何にスカリエッティでもあの人数を保護することはできん。奴も管理局から追われる身だし……派手な行動は最高評議会に不信を抱かれる可能性が高い」

まだ、評議会に叛意を悟られる訳にはいかない。

「…まあ、流石に強制はしないだろう…。我々にも出来ることと出来ないことがある。管理局の良心に期待しよう…」

ゼストはルーテシアの頭を撫でながらそう諭した。

 

 ★☆★

 

「くそ!まさか『合成獣』があんなにもあっさりと…」

モニターでミロと『合成獣』の戦いを観ていた所長は舌打ちしていた。

「とりあえず、管理局に見つけられる前にここを離れなければ…「逃げられるとでも思っていたのかね?」……!?」

逃げ出そうとしていた所長の前に、目を閉じた青年がいきなり姿を見せた。

「だ…誰だ貴様は!?」

「君如きに名乗る名など持たぬ……ましてこれから死ぬ君に私の名など知っても意味はあるまい…」

青年が一歩前に出ると、所長はいきなりデバイスを構え砲撃魔法を放つ。

しかし、砲撃は青年に当たる前に霧散してしまった。

「…なっ!?」

「君の様な外道にふさわしい場所に送ってやろう……『六道輪廻』!!」

青年―――『乙女座』のシャカの精神攻撃技…『六道輪廻』が所長を六道へと誘う。

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

『六道輪廻』とは地獄界、餓鬼界、畜生界、修羅界、人界、天界の何れかの世界に魂を飛ばす技である。

「……生命を弄び、人を獣に変える研究を行っていた君が堕ちるにふさわしい世界は『畜生界』だろう……君自身が畜生となり、報いを受けるがいい!」

シャカは倒れ付した所長にそう言い捨て、その場を後にした。

 

〈第五十七話 了〉

 


真一郎「スカーレットニードル・カタケオ!?」

LC冥王神話の『蠍座』のカルディアの技です

真一郎「あれって、カルディアが心臓に病を抱えていたから出来る技だよな」

そう、ミロの心臓は異常がないので、アギトと融合することで使用できる技にしました

真一郎「また滅茶苦茶な……」

では、これからも私の作品にお付き合いください。

真一郎「お願いします。君は小宇宙を感じたことがあるか!?」




スカリエッティの協力があってか、情報の上ではかなり役に。
美姫 「アギトも無事に登場したしね」
だな。しかし、ミロと融合するとまでは思わなかったけれど。
美姫 「確かにね。でも、こうやってミロとシャカは影で動いているのね」
これが今後にどう関わってくるのか楽しみです。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待ってます。



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