『時空を越えた黄金の闘士』

第四十八話 「聖闘士候補生」

 

バシャァ!!

「冷た!」

気絶していたBペガサスは、頭から水をぶっ掛けられ目を覚ました。

「気が付いたか…」

声のする方に視線を向けると、黄金の聖衣を身に纏った3人の男が視えた。

「…ゴ…黄金聖闘士!?」

「あの時、貴方を放置したのは失敗だったかも知れません…」

ムウが、冷たい表情でBペガサスを睨んでいた。

星矢と『蜥蜴星座』のミスティの戦いを見届けた後、ムウは貴鬼と共にジャミールに帰っていった。

白銀聖闘士たちは、未だに自分が仕掛けた幻惑に気付かず、身代わりになった暗黒聖闘士を紫龍達だと思い込んでいた。

その時、唯一身代わりに使わなかったBペガサスにとどめを刺しておくべきだったのかもしれない。

あの時、あんな所で死なせるには惜しい……そんな思いを抱かなかったら……。

そうすれば、今回の事件はここまでの被害が出なかったかも知れないのだ。

Bドラゴンの様に、友情に目覚めた男がいたが為に、情けをかけてしまった。

生き残らせるのなら、Bドラゴンにすべきだったと思う。

Bドラゴンには、伏龍という名の兄が居て、その男は既に絶命していたので、富士の地底にそのままだった。

その伏龍を紫龍の身代わりに立てて、Bドラゴンは助けるべきだった。

まあ、状況的に無理だったのだが……。

「まあ待てムウ…。貴様に聞きたいことがある…。お前達はどうやって、こちら側に来た?」

アイオリアの問いに、Bペガサスは答えない。

「黙秘か……。ならば仕方がないな…。お前の口を割らせるなど造作もないし…」

カノンがBペガサスの前に立った。

「……拷問でもするのか……。だが無駄だ。確かに貴様ら黄金聖闘士に比べれば、俺など雑魚に過ぎないだろう。だが、それでも俺は『暗黒聖闘士』最強の『暗黒四天王』の一人……。拷問などに屈指はしない…」

カノンは感心した。

聖闘士のおちこぼれである暗黒聖闘士のこの男にも、それなりの矜持が存在するようだ。

かつて首領と仰いだジャンゴ…そして、一輝以外に頭を垂れるつもりはない。

『ダークホース』の首領にも、自分の力を奴に貸していたに過ぎず、その軍門に下っていたわけではないのだ。

「お前達、暗黒聖闘士は確か、かつて一輝の配下だったとの事だな…。ならば一輝の『鳳凰幻魔拳』の事は当然知っているな…」

『鳳凰幻魔拳』。

心に潜む恐怖を増幅し、恐ろしい幻影を見せて精神を破壊する『伝説の魔拳』である。

「その幻魔拳と同じく、『伝説の魔拳』と呼ばれる拳を俺も持っている…としても……まだ黙秘をするつもりか?」

幻魔拳の恐ろしさを知っているBペガサスの顔が蒼褪めた。

かつて、その魔拳を受けたことのあるアイオリアも嫌そうな顔になる。

「……『幻朧魔皇拳』…。相手の脳を支配する『伝説の魔拳』だ…。目の前で人が一人死なぬ限り、その洗脳が解けることはない。お前が素直に吐かないなら、この魔拳で洗脳すれば済む事だ。自害しようとしても無駄だ。お前が自分の命を絶つ前に、お前に魔拳を打ち込むことができるからな…」

音速《マッハ》1のスピードしか持たないBペガサスよりも、光速の動きを持つカノンの方が速い。

「洗脳され、強制的に喋らせられるより、自らの意思で口にした方がいいんじゃないか?」

Bペガサスも、流石に観念した。

洗脳されるよりはマシ……と、判断したようである。

 

 ★☆★

 

『デスクィーン島』。

第97管理外世界、『地球《テラ》』には存在せず、『地球《エデン》』にのみ存在する島。

赤道直下、南太平洋に浮かぶこの島は、大地は熱く焼け爛れ、一年中火の雨が降り注ぐ灼熱の地獄。

この世で最も地獄に近い島……それが、デスクィーン島である。

その過酷な環境ゆえか、デスクィーン島とその周辺の島の住人は心が荒んでいる。

一輝が愛した、瞬と瓜二つの容姿の少女――デスクィーン島に咲いた一輪の花……エスメラルダが唯一の例外だった。

この島は、『暗黒聖衣』が発見された島でもあり、そして、アテナが暗黒聖闘士を封じ込めた場所でもあった。

一輝の師、ギルティはその暗黒聖闘士の封印を護る戦士であり、封印を破ろうとする暗黒聖闘士と戦い続ける役目を担っていたが、そのギルティは一輝に殺され、その一輝が暗黒聖闘士を掌握した事で、その封印は解かれた。

 

 

 

海皇が起こした『世界規模の水害』の猛威は、当然、このデスクィーン島にも襲い掛かっていた。

この島の環境を思えば、この島の住人達がとても貧しいのは想像がつくであろう。

現に、デスクィーン島とその周辺の島々の娘は、七歳になると、数少ない農家に奴隷として売られるのである。

そうしなければ、親兄弟が食べていけないくらい貧しいのである。

エスメラルダもその一人であり、たった小麦粉三袋で売られたのだ。

それ程貧しい島が、水害に耐えられる筈もなく、海皇の猛威はこの島に多大な被害を齎した。

数少ない農家の畑や家畜は全滅し、ただでさえ少ない食料が失われてしまったのである。

元々、あまり収穫がない島なので、暗黒聖闘士たちの主食は魚なのだが、やはり魚だけというのも……。

遂に、彼らは強攻策に出たのである。

彼らの首領となった一輝は、当初は、自分達兄弟を不幸にした、実父である城戸光政に対する憎悪ゆえに、己の中の正義を無理矢理心の奥底に仕舞い込もうとしていたが、星矢との戦いを経て過ちを悟り、配下となった暗黒聖闘士たちにも、悪事を禁じた。

彼らは、一輝の強さに惹かれ、彼を首領と仰ぎ、その命を預けている。

例え一輝の心境が変化したからといって、反旗を翻したわけではないので、黙って指示に従っていたのだが、流石にこの状況ではそうも言っていられなかった。

幸いというか、一輝は海皇との聖戦……いや、十二宮の戦い以降、島には戻ってきていないので、彼らは独自の判断で、他の所から物資を略奪してくることにした。

一輝にバレたら、タダではすまないだろうが……。

しかし、『世界規模な水害』は各地に多大な被害を齎している。

デスクィーン島に近い、オーストラリア、ニュージーランド、ハワイ島、グァム島なども、似たようなモノである。

そこで、BペガサスはBユニコーンら五人を連れて、ユーラシア大陸を目指した。

日本を狙わなかったのは、日本だと流石に一輝にバレる可能性が、高いからである。

ユーラシア大陸に上陸した六人は、比較的バレそうにない所で、略奪をしようと考えていた。

略奪に成功した後、ほとぼりが冷めるまで身を隠す場所を探していた彼らは、巨塔が建っているだけで、人があまり近づかない場所を見付け、その場所を散策していた時である。

突如、地震が起こり、巨塔から108つの流星が飛び出したのである。

その影響で空間が裂け、その歪みに呑み込まれ、気が付いたら見知らぬ場所いたのである。

色々、調査していく内に、そこが自分達がいた世界とは違う、別世界であることを知った。

戻る方法が解らないまま、『ダークホース』と知り合い、成り行きで彼らと行動を共にする様になったのである。

 

 ★☆★

 

「その…巨塔があるという場所は何処ですか?」

ムウは、地球の世界地図を広げ、Bペガサスに場所を問いただした。

Bペガサスが指した場所、中国の廬山から西に千キロの地点であった。

「……ここは、老師が監視していた二百数十年前にアテナが『108の魔星』を封じた場所……」

「成る程…時期から見て、こいつらは『108の魔星』が復活した時に、その場所に居合わせていたのか……」

「そして、『108の魔星』の復活の際に、恐らく『次元震』とやらが発生し、それに巻き込まれた……という所か…」

「俺達のように『時の神』の気紛れで、次元を越えたわけではないようだな……」

暗黒聖闘士たちが、次元を越えたのは……いうなればまったくの偶然であった。

悪い事は出来ないモノである。

「……それで、このBペガサスをどう処理しますか?」

「……確か他の五人は、既に死んでいるんだよな…?」

「ああ。俺の光速拳でくたばった」
アースラで、カノンがあの五人に光速拳を放った時に葬っていた。

元々、カノンは管理局の掲げる『不殺』に付き合うつもりもさらさらなかったので、確実に仕留めていたのである。

殺すには惜しい……そんな思いすらも、あの五人には抱かなかったからでもあるが……。

「フン。殺すならさっさと殺せ!」

Bペガサスも、潔いというか、自暴自棄なのか?

「しかし、コイツは一輝の配下だからな……。戦いの場でならともかく、それ以外で勝手に処刑する…というのも…な」

一輝の名前が出たことで、Bペガサスに動揺が走った。

先程の威勢は何処へやら……完全に萎縮していた。

「……お前、もしかして……俺達に葬られるよりも、一輝の怒りに触れることを恐れて、黙秘していたのか?」

「…うっ!」

Bペガサスの態度を見て、カノンは確信した。

一輝の幻魔拳はカノンも喰らったことがあるので、あの拳の恐ろしさは十分知っている。

先程の同じ様に伝説の魔拳と恐れられる『幻朧魔皇拳』に対するBペガサスの恐れようから見て、こいつは一輝の幻魔拳を喰らうことを恐れているようであった。

確かに普通に殺されるよりも恐ろしいかも知れない。

暗黒聖闘士は、『鳳凰星座』の聖衣に秘められた力をある程度、知っているのだろう。

自己修復と次元移動。

Bペガサスもそれを知っているので、一輝がこちらに来て、自分達が一輝の命令に背いた事を知れば……。

一輝の性格を考えれば、管理局と付き合う様な奴ではないが……黄金聖闘士とは接触するかも知れない。

その時、自分の事を知らされれば……待っているのは一輝の制裁。

一輝の怒りに触れるくらいなら、黄金聖闘士に殺される方がマシ。

Bペガサスは、そう考えていたのだ。

「……如何に強かろうが、『黄金』の俺達よりも、『青銅』の一輝の方が畏怖されているとは……」

「…妙に納得出来るのも、嫌ですね」

アイオリアとムウも苦笑しながらも、微妙にプライドが傷ついた。

 

 ★☆★

 

しばらくして、寛ぎながら茶を飲んでいたカノンとアイオリアにロッサが姿を見せた。

「どうしたロッサ。今日の修行は休みだと言ったはずだが?」

昨日の修行で死に掛けたので、流石に今日は休ませていたのである。

普段は優しいアイオリアだが、修行に関しては一切手抜きしないので、ロッサは何度も死線を彷徨っていた。

「……僕も流石に今日はゆっくりと休みたかったんですけど……お客さんが来てますよ」

「客?」

「ええ。レティ・ロウラン提督です……。何やら団体さんを引き連れてますけど……」

レティが何のようなのか…。

しかも団体を連れて…?

 

 

 

「何だと?聖闘士の修行を受けたいだと……こいつらが…か!?」

レティがつれてきた者たちは、聖闘士志望の少年達だった。

総勢、248名。

「ええ。彼らは魔力ランクがE以下なの…。士官学校はおろか、空隊、陸士部隊の養成学校にも入れなかったのよ」

「別に管理局は、魔力がなくても入れるだろう。後方勤務ならば……。それに聞いた話では管理局の首都防衛隊のトップは魔法が使えないというではないか?」

地上本部を掌握しているレジアス・ゲイズ中将は、魔導師ではなく、一般人である。

しかし、彼は地上のトップになっている。

魔法至上主義であるミッド、そして管理局でも珍しい部類の人間である。

最も、並大抵の苦労ではなかったであろうが……。

「私もそう言ったんだけど……。自分達は強くなりたい…と言って諦めてくれないのよ…」

男というモノは、どのような世界においても強くなる事を望むモノなのかも知れなかった。

「そもそも、俺達『聖闘士』のことは、管理局でもあまり知られていなかったのでは?」

「人の口に鍵を掛けることは出来ない……。貴方達の存在は、既に噂になっているわ…」

いわく、聖闘士と呼ばれる者は魔力が無くても、魔導師を上回る強さを持つ……と。

実際は、カノンもアイオリアもかなり高ランクの魔力を持っているが、確かに魔力など無くても、戦闘では魔導師に負ける要素はほとんどない。

魔力を持たないムウも、『念動力』という『レアスキル』を持っている。

レティとしては、彼らを聖闘士のするのは反対であった。

親友のリンディの息子であるクロノが聖闘士の修行していたのは知っている。

そのクロノから、聖闘士の修行の内容を聞かされているからである。

管理局の士官学校および空士、陸士の訓練校においても、学生達の安全は配慮している。

しかし、聖闘士の修行は聞く限りにおいても、死んでも止む無しと言えるほどである。

実はクロノも何度も死に掛けているし、ユーノもロッサも同様である。

先も言ったが、昨日、ロッサは死に掛けた。

レティも、戦いに死は付き物である事くらいは理解している。

しかし……それでも、死ぬ確立が高い聖闘士の修行を紹介するのは気が引けるのである。

いくら説得しても、彼らの意思は変わらなかったので、止む無く紹介する事にしたのである。

カノンは、レティが連れてきた少年達を見渡し、全員に拳を放った。

光速とは程遠いスピードで放った拳であったが、皆、避けられず吹っ飛ばされた。

「……お前達が聖闘士になりたいというのなら、修行を受けさせる。しかし、レティからも聞かされたであろうが、俺達はお前達が死んでも気にせん。死ぬなら所詮、その程度に過ぎなかったとしか思わん。建前だと思っていた奴は辞めておけ。三日の猶予を与える。それでも聖闘士になりたいと思う奴は残れ……。自信がない者は帰れ…。」

最初に問答無用で殴ったのは、死ぬ可能性のことを悟らせるためである。

手加減はしたが、それでもかなりの威力で拳を放ったのだ。

彼らには、相当な激痛を与えた。

修行では、この程度では済まんという意思を表したのである。

 

 

 

三日後、248名いた候補者達は、その数を154名に減らしていた。

やはり、甘く考えていた者がかなり居たようである。

しかし、カノン達が思ったよりも多くの人間が残った。

「……よくもまあ、これだけの人間が残ったものだな」

「レティ。彼らの家族に伝えておけ。お前らの息子達は確かに預かった…が、命の保障はしない…。死んだからと言って、後から文句を言ってきても叩き出す…とな。それが嫌なら、一週間以内に連れ帰れ……とな」

そして、更に数が減る。

この一週間のうちに、家族が首に縄を付けてでも連れ帰った人数は22名。

それでも132名が残った。

今、聖域に存在する聖衣は、白銀聖衣2体、青銅聖衣2体。

そして、この聖域で作られていた、星座をモチーフにしないクロスが40体である。

つまり、ユーノとロッサを含め、この中から聖闘士になれるのは44人である。

いや、それ以前に何人生き残れるのか……。

それは、カノン達にも分からなかった。

 

〈第四十八話 了〉


 

真一郎「聖闘士候補生達が集まったな」

まあ、星座をモチーフにしない聖衣を登場させたんだから、前から決めていたけどな。

真一郎「でも、ユーノとロッサは正規の聖闘士にするつもりなんだろ?」

まあね。ちなみに後2人、リリなのキャラで聖闘士にする予定の者がいるよ。

真一郎「それは誰?」

それは、まだ秘密。

では、これからも私の作品にお付き合い下さい。

真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じた事があるかぬ!?」




落ち込む黄金聖闘士というのがちょっとツボに。
美姫 「まさか、自分たちよりも一輝の制裁の方が怖いとわね」
結局の所、Bペガサスはどうなったんだろうか。
美姫 「そこも気になるけれど、ここに来て一気に聖闘士希望者が出てきたわね」
ああ。最終的に無事に修行を終えれるのかどうか。
美姫 「一体どうなるのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね」
ではでは。



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