『時空を越えた黄金の闘士』

第四十二話 「いにしえの闘士」

 

新暦0067年。

この年、悲劇が起こった。

「なのは……なのはぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

『鉄槌の騎士』ヴィータの絶叫が辺りに響いていた。

彼女の腕の中には、血まみれになった白き少女の姿があった。

簡単な任務の筈だった。

普段の彼女なら、犯さない失敗だった。

しかし、彼女の体はそれまでの魔力の酷使が原因で、疲労が溜まっており、本来なら躱せたはずの砲撃が躱せなかったのである。

 

 ★☆★

 

「……『海龍《シードラゴン》』様…。スカリエッテイから接収した機械兵器の起動実験は成功です…」

「そのようだな…」

『海龍』と『海女王《セドナ》』は、モニターに映るなのはとヴィータの姿を見て、ほくそ笑んでいた。

「……ここ最近、管理世界で名を上げ始めた『無敵のエース』または『白い悪魔』等と分を弁えない異名を持つ小娘と、古代ベルカの…『鉄槌の騎士』か…」

「魔導師や騎士など、我ら『海闘士』にとっては雑魚も同様でございますが…」

「確かに、私やお前ならば問題にもならん相手……。しかし…それでも『青銅聖闘士』レベルなら魔導師共でも対抗が可能…油断は禁物だ。特に砲撃タイプの空戦魔導師は…な」

流石に空を自在に飛びまわる空戦魔導師は、青銅聖闘士レベルでは苦戦は免れない。

白銀聖闘士レベルにもなれば、空を飛べないハンデなどモノともしなくなるが……。

「………」

「以前にも言ったが、慢心は禁物よ……。先の『エデン』での聖闘士との戦い…。敵が黄金聖闘士ではなく青銅聖闘士如きなら取るに足らん…という慢心が、地中海の『海底神殿』を失わせた原因である事を忘れるな…」

「…はっ!申し訳ありません…」

『海龍』は、再びモニターに視線を向けた。

「……管理局も我らにとっては邪魔な存在……。『エース級』の空戦魔導師を一人でも減らしておくに越したことはない。兵を差し向け…確実にあの2人の小娘を始末せよ……」

「御意!」

 

 ★☆★

 

なのはを撃った機械兵器が退がり、ヴィータはホッと息を吐いた。

しかし、なのはが危険な事には変わりない。

「おい…おいっ!バカヤロー…しっかりしろよ!!」

 

……から……だい……じょうぶ……だから…

 

出血は止まらず、息も絶え絶えながらも、『大丈夫』と口にするなのはを見て、ヴィータは焦りを覚えていた。

出会った時は、敵同士……。

今でもライバル心を抱いていた相手……。

でも……大好きなはやての大切な親友で……自分にとっても掛け替えのない仲間……。

「医療班っ!何やってんだよッ!早くしてくれよ…コイツ死んじまうよっ!」

今にも消えそうな命の灯火を繋ぎとめようとするかの様に、ヴィータはなのはの体を抱き締めていた。

「…ッ!?」

その時、ヴィータの前にたくさんの影が迫ってきていた。

「な…何だよてめえら…?」

現れたのは魚の鱗の様な鎧を身に纏った軍団―――海闘士の雑兵達であった。

「……『管理局の白い悪魔』と『鉄槌の騎士』……。我らが主の命により、お前達の命…貰い受ける!」

海闘士たちの一人が、ヴィータに襲い掛かってきた。

「させるか!『シュワルベ・フリーゲン』!!」

魔力の鉄球をハンマーヘッドで打ち出し、海闘士を打ち抜いた。

しかし、海闘士たちは次から次へとヴィータに襲い掛かる。

その一人一人が、ヴィータと同レベルの戦闘力を持った者たちである。

しかも、ヴィータはなのはを庇いながら戦わなくてはならない。

空を飛んで逃げようにも、先程なのはを撃った(後にガジェットドローンW型と命名)のとは違うタイプの機械兵器(ガジェットドローンU型)に乗った海闘士たちが、上空を固めていた。

まさしく四面楚歌。

逃げることは不可能であった。

「護らなきゃ……なのはだけは…アタシが絶対護ってやる!」

海闘士は雑兵でも、青銅聖闘士レベルの実力を持っている。

そんな者達が軍勢を率いて襲い掛かってきているが、ヴィータは奮戦していた。

護るべき者を護る為に戦うのが『騎士』。

なのはを護りたいと強く願ったヴィータは、今、実力以上の力を発揮していた。

『守護騎士システム』により生み出されたプログラムに過ぎないはずのヴィータが……そのプログラムの限界を超え始めたのだ。

しかし、それでも多勢に無勢……だんだんとヴィータは追い詰められていた。

「ち…畜生…。アタシはどうなろうと…なのはだけは護ってやる…絶対に…!」

思い浮かぶは大好きな主と兄の顔。

【ゴメン…はやて、リア…】

心の中で、大好きな2人に謝り、ヴィータは死を覚悟した。

「フッ…小娘が……。往生際の悪い…」

満身創痍でなのはを庇うヴィータをあざ笑う海闘士たちが、その手に持つ武器をヴィータに向けたその時……!

 

≪傷だらけの少女一人を相手に多勢で襲い掛かるとは……海闘士も地に堕ちたのぅ…≫

 

海闘士たちは戦慄した。

この場に近づいてくる『小宇宙』が、余りにも強大さに……恐怖を感じているのだ。

「だ……誰だ!」

「姿を現せ!」

 

≪フッ…わしはここだ!≫

 

一筋の閃光が走り、その軌道にいた海闘士たちが吹き飛ばされた。

「「「「ウギャアァ―――――ッ!!」」」」

一人の男がヴィータを庇うように、海闘士たちの前に立ちふさがった。

その男は、笠を被り、中国風の服を着ており、大きな荷物を背負っていた。

「な……何者だ貴様は?」

「フッ……お主ら…余りにも情けないと思わぬか…。傷だらけの少女を庇い、奮闘する一人の女子相手に徒党を組み殺そうとするとは……それでも海皇ポセイドンの戦士『海闘士』か…。恥を知るが良い!」

「邪魔立てするなら、貴様から殺してやる…!かかれ―――――ッ!!」

この男から立ち込める強大な『小宇宙』に恐れを抱いた海闘士たちは、自暴自棄になり一斉に襲い掛かって来た。

「クッ…!」

ヴィータは最後の力を振り絞り、迎撃しようと構えるが…それを男が制した。

「その傷では無理じゃ…わしに任せておくが良い…」

そう言いながら、ヴィータの頭を優しく撫でた。

普段なら、「子ども扱いするな!」と怒るところであるが、その手の暖かな温もりを感じ、ヴィータは力が一気に抜け、その場に座り込んだ。

男は、襲いかかってくる海闘士たちに視線を向けると『小宇宙』を高め迎撃態勢を取った。

「受けよ百龍の牙を…!『廬山百龍覇』!!」

男は、両手を前面に繰り出すと数多の龍が現れ、海闘士たちに襲い掛かる。

「「「「ギャアァ―――――――――――ッ!!」」」」

たった一撃の技で、この場にいた全ての海闘士たちは全滅した。

 

 ★☆★

 

「…な…何だと!」

差し向けた海闘士たちが全滅する様をモニターで見ていた『海龍』は驚愕した。

「…『海女王』…あの男は何者だ!?」

「わ……解りません…。あのような男は見た事がありません…」

『海女王』も目を疑っていた。

「あの『小宇宙』…間違いなく黄金聖闘士級……しかし…あのような黄金聖闘士など知りません…ただ…」

「…ただ…何だ…?」

「あの男の放った技…『廬山百龍覇』とやらと似た名前の技を使う者が青銅聖闘士に居ました。…『龍星座』の青銅聖闘士が…確か『廬山昇龍覇』とかいう技を……」

「では…その『龍星座』ゆかりの者か?」

「…『龍星座』の師は、確か『天秤座』の黄金聖闘士ですが、この男は前聖戦の生き残り…。既に二百数十歳の老いぼれの筈です…」

しかし、モニターに映るその男は、若々しく二十歳前後にしか見えない。

「…では…何者なのだ…あの男は?あの男の『小宇宙』……下手をすれば『双子座』のカノンすらも凌駕するかも知れん…」

確認している黄金聖闘士は、『双子座』『牡羊座』『獅子座』『蠍座』『乙女座』の5人。

それだけでも十分脅威なのに…黄金聖闘士級の謎の人物の登場に戦慄を禁じえない『海龍』と『海女王』であった。

 

 ★☆★

 

高町なのは撃墜……。

その報は、すぐさま『アースラ』や無限書庫にも伝わった。

なのはは直ぐに本局の病院に収容され、緊急手術を受けていた。

リンディやクロノ、フェイト、はやてと守護騎士たち…そして、高町家の面々とアリサ、すずかが駆けつけた時、手術室の前で傷の手当を受けたヴィータが泣きながら座り込んでいた。

「…ヴィータ…」

「…ごめんなさい…ごめんなさい…なのはを護れなかった…。ごめんなさい…」

ヴィータに駆け寄ったはやてに抱きつき、泣き崩れる。

「ヴィータ!…しっかりして…。なのはちゃんは無事なん!?」

「……血が止まらなくって…どんどん流れ出てきたけど…アタシたちを助けてくれた人が……『シンオウテン』ていうのを突いて、なのはの血止めをしてくれたんだ……」

そのお陰で、なのはは失血死を免れた。

「……血止めの急所…『真央点』ですか?」

その時、カノン、ムウ、アイオリア、ユーノの4人も到着した。

「ヴィータ…。そのお前達を助けたという人は何処に行った?」

「……アタシたちと一緒にこの病院に来たけど…さっき…どっかに行っちゃった…」

ヴィータがアイオリアの問いに答えたその直後、廊下にこちらに向かってくる足音が響いた。

「なんじゃ……その娘を落ち着かせようと飲み物をもらってきたのじゃが…随分と人数が増えたのぅ…」

その声を聴き、驚愕したカノン達は、声の主に視線を向けた。

「ムッ…お前達は!」

その人物の姿を見た瞬間、カノン達はその場に跪き、礼を取った。

「「「お久しぶりです…老師!!!」」」

「…お前達も、無事で何よりじゃ!」

そう、なのはとヴィータを救ったのは『天秤座』の黄金聖闘士、童虎であった。

 

〈第四十二話 了〉


 

真一郎「ついに老師が登場したな」

ああ。これで登場予定の黄金聖闘士全員が登場しました

真一郎「何気に今回はヴィータがメインだったな…」

一応、守護騎士たちにも見せ場を作ってやりたかったからね…

真一郎「さて、次回はどうなるか…」

次回はムウの怒りが……。

真一郎「ムウの怒り!?」

では、これからも私の作品にお付き合いください

真一郎「お願いします。君は、小宇宙を感じた事があるか!?……って中途半端に説明終わるなよ!!」




なのは撃墜。
美姫 「スカリエッティが改心したからどう変るかと思ったけれど」
この事件は怒ってしまったようだな。首謀者が違うだけで。
美姫 「しかも、そこにとどめとばかりに海闘士まで出撃させてね」
でも、まさかの救援だな。まさか童虎もこちらに来ていたとは。
美姫 「状況を理解しているのかどうかはちょっと分からないけれどね」
だな。次回はその辺りも出てくるのかな。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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