『時空を越えた黄金の闘士』

第二十六話 「獅子の牙」

 

その頃、本局では、無限書庫で収穫を得ていたカノンが本局の廊下を歩いていると、クロノと見たことが無い少年が真面目な顔で話していた。

「クロノ…。その小僧は何者だ?」

「あっ……カノンさん!」

「へぇ〜〜〜、この人がクロノ君の言っていたカノンさんかい?」

身長はクロノよりも高いが、どうやら同い年のようである。

「初めましてカノンさん。僕は査察官補佐を務めているヴェロッサ・アコースです…。クロノ君とは親友と言っていい間柄でしてね……」

「ほう、お前の様な小僧が補佐とはいえ『査察官』とは……よほど管理局は人材不足なのだな。そのような大切な役職を小僧に任せるとは……」

「……相変わらずきついですね……。まあ、人手不足なのは確かですが……でも、ミッドチルダでは、能力がある者は年齢に関係なく評価されるんですよ」

カノンの痛烈な皮肉に苦笑するクロノとヴェロッサ…。

「魔導師限定だろうが……。魔法を使えるか使えないか……と、いうか魔法以外の力を認めていないだろうに……」

痛い所を突かれ、更に苦笑する。

実際、魔導師以上の戦闘力を誇る聖闘士の存在を、本局は地上にも航空にも秘匿しており、本局の人間でもその存在を知っているのは執務官級の局員だけであり、一般局員達には知らされていない(アースラのクルーは勿論、全員知っているが、守秘義務を課せられている)。

聖闘士の力は、『レアスキル』として分類できるレベルを超越しているので、魔導師以上の存在を公にすることを躊躇っているのだ。

「それで……こんなところで何を話していたんだ?」

「はい……。実はグレアム提督の件の調査をロッサに頼んでいたんです……。僕よりもロッサの方がこういう調査に向いているので……」

「それで結果は…?」

カノンの問いにロッサの表情が曇った。

「……残念ながら……クロノ君の予想は……当たっていました…」

ロッサの答えに、クロノは俯いてしまった。

「……どうやら、グレアム提督は今回の事件が起こる前に既に『闇の書』に選ばれた新たな主を突き止めていたようなんです」

「ほう……では、何故捕らえなかったんだ?」

「………恐らく提督は、完成直前に『主』諸共、『闇の書』を永久封印しようと考えたのでしょう……。『闇の書』の主を監視して、覚醒が始まるまでの間に封印に使うための『ストレージデバイス』を開発させています」

ストレージデバイス『デュランダル』。

広域凍結魔法『エターナルコフィン』がセットされており、おそらくこれを使って『闇の書』の主を永久に凍結させてしまおうという計画なのだろう……。

カノンは、水瓶座のカミュの『フリージングコフィン』のようなモノだと想像した。

この技は、絶対零度に限りなく近いカミュの凍気で造り出した『氷の棺』であり、黄金聖闘士数人の力を持ってしても砕くことが不可能と言われている。

星をも砕く天秤座の武器か、カミュ以上の凍気……すなわち絶対零度を身につけた氷の闘技を使う聖闘士にしか砕くことは出来ない(冥界三巨頭の1人、天貴星グリフォンのミーノスは氷河の『フリージングコフィン』をあっさり砕いたが……)。

「それで……『闇の書』の主とはどういう人物なのだ?」

ただの興味本位で聞いただけだったが、その人物の名を聞いて驚愕した。

「……八神……はやて……だと……」

カノンが、フェイトとアルフの次に出会った少女で、今ではなのはとフェイトとも友情を育んでいる……そして、アイオリアの『妹』…。

「八神はやては確かに『闇の書』の主ですが……彼女はまだ何もしていない……。『魔導師襲撃事件』も守護騎士たちが勝手にやっていることだし、彼女自身は、永久凍結されるような犯罪者じゃない……。違法だ!……何よりも……僕も母さんも……こんなことは望んでいない!」

クロノとて『闇の書』には恨みがないとは言えない。

しかし、何の罪も無い『八神はやて』に、その責を負わす気など毛頭ないのだ。

何よりも……グレアムにこれ以上間違った手段を取らせたくなかった。

「おそらく『仮面の男』……つまりリーゼ達ですが……今日、事を起こすと思われます。僕はこれから彼女達を捕らえに行きます。ロッサは提督の方を頼めるかい?」

「わかった。こちらは任せてくれ」

「カノンさんは…「行くぞクロノ!!」…どうす……って…うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

クロノの首根っこを引っ掴み、カノンは転送ポートに駆け出した。

「……あれっ!?」

その場に残されたロッサはポカ〜ンと走り去る2人を見つめていた。

 

 

「ど……どうしたんですか……カノンさん?」

カノンが何故か焦っている事に、クロノは不思議に思った。

「昨日、フェイトから学校の友達たちと一緒にはやての入院している病室でクリスマスパーティーをすると聞いた……その日ははやての家族も来る……とのことだ…」

フェイトがはやてと友人になった事を先程聞いたクロノも、焦りが生まれた。

「じゃあ、フェイト達と守護騎士達が鉢合わせに……」

「問題はそれだけじゃない!」

「どういうことですか?」

「お前が先程言っただろう。あの猫共は、今日、事を起こす……と…」

確かにリーゼ達は、目的を果たす為にフェイトたちをどうにかするかもしれないが、せいぜい足止めをするだけだろうとクロノは思っていた。

いくらなんでも、流石に殺しはしない筈……。

「俺が心配しているのは、フェイト達じゃない!あの猫共だ!」

ますます、分からなくなる。

カノンは、フェイトを傷つけた『仮面の男』に報いをくれてやると言っていたのに、何故、今になって心配するのか?そして、何故心配する必要があるのか?

「はやての家族の中には、俺と同格の男がいる……」

「……ゴ…黄金聖闘士!?」

「そうだ……はやてを妹のように思っている『あの男』がはやてに危害を加えようとするあの猫共を生かして帰す筈がない!……自業自得とはいえ、あの猫共には使い道がある…。まだ死なれては困る…」

 

 ★☆★

 

アイオリアから放たれた無数の閃光が『仮面の男』に襲いかかった。

アイオリアを聖闘士と知って咄嗟に防御魔法を展開していたのだが、その様なモノは大して役にも立たない。

いや、多少は役に立った。

何とか直撃は避けれたのだ。

しかし、かなりのダメージは受けた。

「……クソッ!」

「これが『聖闘士』……アースラの報告通り……我々の常識を超えている……」

「あの男がこの技を放ったとき、あの時、クロスケから感じた宇宙を感じた……」

「つまり、クロノが『聖闘士』の力を持っているってこと?」

前に、『仮面の男』―――リーゼロッテ―――が弟子であるクロノにまったく歯が立たなかった。

魔導師としては、まだまだロッテの方が実力は上だった筈の相手に、完膚なきまでに叩きのめされたのだ。

実は、クロノが聖闘士の修行をしていることは、アースラのクルー以外誰も知らなかったのだ。

特に今、『仮面の男』の前にいる男は、黄金聖闘士の中でも1,2を争う屈強さ誇る……と謳われた獅子座のアイオリアである。

アイオリアは、拳や蹴りによる聖闘士の基本的な闘法を主体とする聖闘士である。

ムウの様に念動力に長けているわけでもなければ、カノンの様に空間を操る力も無い。

しかし、だからと言って彼が2人よりも弱いという訳ではない。

正面からぶつかり合えば、カノンもムウもアイオリアに勝つのは五分以下の確率であろう。

むしろ基本を極めているからこそ、彼の力は絶大なのだ。

だからこそ、かつて『逆賊』の弟と見下されては居ても、誰しもが彼に対し一目置き、屈強の勇者と称えられる程の聖闘士だったのだ。

「とにかく分が悪い……此処は退くしか……」

「馬鹿な……此処で退いたら『父様』からの命令が果たせなくなる。今、この時のみ…『闇の書』を封じることの出来るチャンス…。何としてでもあの男を排除して……」

「……そうだな…。幸いあの男は高い魔力を持っていてもまだ目覚めていない…。飛行は出来ない筈だから、上空から砲撃魔法で攻撃しよう…」

そう言うと、『仮面の男』達は、飛行魔法で遥か上空に昇っていった……。

「いくぞ……『ブレイズキャノン』!!」

『仮面の男』―――リーゼアリア―――の放ったクロノ使ったモノ以上の威力のブレイズキャノンがアイオリアに直撃した。

「これなら奴も……って……嘘!?」

煙が晴れ、仮面の男達が見たものは……無傷で立っているアイオリアの姿である。

彼女達は、アースラからの報告を思い出した。

黄金聖闘士の纏う黄金聖衣は、いかなる攻撃にも耐えうる究極の防具である。

ましてや、修復仕立てで生命の息吹に溢れる獅子座の聖衣を、ブレイズキャノン程度の砲撃魔法では傷一つ付けることも不可能である。

たとえ、なのはの『スターライトブレイカー』であっても………。

「……ここは、もう撤退しか無い」

「……でも!?」

逃げることを考慮に入れ始めたアリアにロッテが反論しようとする。

「まだまだ暴走には時間がある……。このままここに留まっていても、あの男にやられるだけ……。それでは『父様』の命令を果たすことも出来なくなる……」

「………」

ロッテも納得したのか、再び飛行魔法で上空に昇り距離を取ろうとした。

「……逃がすと思うか!!」

「……何ッ!?」

「身体が……引き摺られる…!?」

上空に昇っていった筈の2人は、強力な力に地に引き摺り落とされた。

アイオリアが念動力で引き摺ったのだ。

飛行魔法が使える魔導師にも、黄金聖闘士が負けない理由はこれなのだ。

アイオリアは、牡牛座のアルデバランと並んで念動力に関しては、黄金聖闘士の中で最弱である。

にも関わらず、『仮面の男』達を引きずり降ろすことが出来るのだ。

つまり、空を飛んで逃げても、自分の前に引き摺りこむことが出来るので、例え空が飛べなくても手も足も出なくなるということにはならないのだ。

「くそっ!こうなったら……」

ロッテは、身体強化の魔法を使い、自身の身体能力を極限まで高めた。

速さは音速の領域達し、筋力も鋼鉄すら打ち抜けるほどに高めたのだ。

「これでもくらえぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

渾身の力を込めた蹴りをアイオリアに放つ……。

並の魔導師は勿論、Aランク以上の魔導師でも防ぐことが不可能な一撃だ……ロッテは勝利を確信した……が…。

「『ライトニングボルト』!」

その蹴りが届く前に、アイオリアの光速拳がロッテをぶっ飛ばした。

「……ロ…ロッテ!」

「そいつの事に構っている暇など、お前には無い!「『ライトニングプラズマ』!!」

「「きゃああああああああああああ!!」」

再び放たれたライトニングプラズマにロッテ諸共、アリアもズタズタにされた。

彼女達が被っていた仮面が砕け散り、変身魔法が解け、彼女達は本来の姿に戻った。

しかし、相手が女と解っても、今のアイオリアには容赦という文字は存在しなかった。

基本的にアイオリアは、星矢達同様フェミニストである。

しかし、大切な家族を非道な手段で奪った者に対する怒りが、アイオリアに容赦という文字を消し去っていたのだ。

倒れているロッテの足を容赦なく踏み砕いた。

「ギャーーーーーー!」

足を砕かれたロッテは、その場でゴロゴロと転がり悶絶した。

「ロッ……ロッテ……」

痛がる妹に這いながら駆け寄ろうとするアリアの鼻面に容赦なく蹴りを放つ。

アリアの鼻の骨がへし折れ、鼻血が飛び散った。

「痛いか…苦しいか!……だがその程度…はやてが受けた苦しみの何万分の一にも値せん!!」

転移魔法で逃げようにも、アイオリアの攻撃により、魔法を使う暇すらなく、リーゼ達はもはや虫の息寸前であった。

肋骨が数本折れ、鼻の骨は砕け、全身は血塗れになっていた。

「とどめだ…あの世でヴィータたちに詫びろ!「『ライトニングボルト』!!」 

獅子の牙が、リーゼ達を打ち抜こうとする瞬間、転移してきたカノンがアイオリアの手首を掴み、遮った。

「そこまでだ!アイオリア…」

「邪魔をするな、カノン!!」

「そうはいかん!その猫共には使い道がある」

「何だと!」

「その猫たちには、はやてと守護騎士たちの代わりに責任を取ってもらわねばならんのでな……」

今度の事件が解決した後、管理局ははやてに管理責任を問うて来るかもしれなかった。

地球の日本の常識では、9歳の子供に責任能力などないのだが、ミッドチルダにおいては9歳でも能力があれば第一線で活躍している魔導師がいる。

管理局の連中は自分達の尺度で他の世界の人間達を測る傾向がある。

それは、リンディのような人物にも見られるのだ。

勿論、カノンははやてを庇うつもりだが、それでも今回の事に責任を取る者が居なければならない。そこで、カノンはグレアムとリーゼ姉妹に白羽の矢を立てたのだ。

つまり、今回の事件の黒幕をグレアムとリーゼ姉妹に仕立てるつもりなのだ。

そしてそれはあながち冤罪とは言えない。

目的はどうであれ、グレアムとリーゼ姉妹は、アースラの捜査を妨害し、クロノ執務官に攻撃を仕掛け、嘱託魔導師であるフェイトに危害を加え、守護騎士たちの蒐集に協力したのだ。

更にカノンには、冒頭で言った様に無限書庫において収穫を得ていたのだ。

それは偶然見つけたモノで、今回の事件を丸く治めるのに役立つモノであった。

これを使えば、グレアム達の言い分を完全に封じ込めることに成功するであろう。

それが何かは後日、明らかになるだろう。

「だから、殺しては駄目だ。生きたこいつらの身柄が必要なのだ……」

「しかし……!」

なおも怒りが治まらないアイオリアに、カノンが宥めに入った。

「と、言うかこれ以上、フェイトを怖がらせないで欲しいな……」

アイオリアが、カノンの示す方に視線を向けると、アイオリアの怒気と殺気に震えているなのはとフェイトの姿があった。

幼子の怯えた姿を見て、漸く冷静さを取り戻したアイオリアは、拳を下ろした。

「……解った…お前に任せよう…」

「……すまん…感謝する……ッ何!?」

この時、この場にいる全員が息を呑んだ。

そして、全員同じモノに視線を向けた。

先程まではやてが包まれていた黒い光……。

それが晴れて……その場に居たのは……はやてではなく、銀髪の闇の書の意思とも呼べる存在だった。

 

〈第二十六話 了〉


 

真一郎「ここでロッサが登場?」

いや、やはりこういうのはクロノより本職が調べるほうがいいかなっと思って……。

真一郎「それにしても……死にはしなかったけど……リーゼ達がかなり悲惨な事に……」

普段優しい男を怒らせたら、怖いんだよ!

真一郎「でも、ちょっとアイオリアの行為はえぐいんじゃ……」

ちょっとやり過ぎたかも……。

 

真一郎「それではここで業務連絡です」

実は、今回の話と共に第二十三話「クロノの実力」の修正版を投稿しました。

真一郎「クロノの必殺技の名称が『ボーン・クラッシュ・スクリュー』から『メガトン・メテオ・クラッシュ』に変わっています」

これは、設定変更に伴いクロノの守護星座も変更になったからです。

真一郎「真に申し訳ありませんが、その旨を伝えておきます」

では、これからも私の作品にお付き合いください

真一郎「お願いします」




いやー、怒った黄金聖闘士は怖いね。
美姫 「実感したわね」
一方的にやられるとはな。まあ、仕方ないが。
美姫 「闇の書の意思が覚醒したみたいだし、どうなるかしらね」
カノンが見つけたというモノも気になるし。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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