『時空を越えた黄金の闘士』

第十四話 「小宇宙の目覚め」

 

本局に護送されたフェイトとアルフの公判が行われていた。

リンディやクロノの根回しと、フェイトとアルフの公判中の素行の良さなどで、無罪が確定する可能性が非常に高くなっていた。

カノンも最初、フェイトに協力し執務官であるクロノに暴行を加えたことが問題視されたが、元々、未発見の管理外世界の住人で次元漂流者である為、管理局法を適用出来ないし、当の暴行を受けた本人であるクロノが、訴えを出さなかったので、比較的自由の身であった。

「……ビデオメール?」

「うん。アタシ達の素行がいいのと、リンディとクロノが頑張ってくれたお陰で、リアルタイム通信……は無理だけど、ビデオメールでなら、なのはとやり取りしても良いって事になったんだ……」

「成る程……文通みたいなモノか……良かったなフェイト……」

「うん。有難うカノン……それで、これからそのビデオを撮るんだけど……カノンも出て欲しいんだけど……駄目……かな?」

フェイトが、指をもじもじさせながら伺ってきた。

「………俺よりもリニスに頼んだ方が?」

「そう言うわけにはいかないでしょう……」

山猫モードでカノンの肩に乗っていたリニスが反論した。

「私は彼女達とはそれほど付き合いがありませんし、なのはさんの方にしてもカノンの近況などを知りたいと思うでしょう?私ももちろん出させてもらいますが、だからといって貴方が出なくても良い……と、いう訳にはいかないでしょう……」

「………わかったわかった……そうクドクド言うな…」

しぶしぶ、了承するカノンであった。

 

 ★☆★

 

「応援……ですか?」

クロノは、15歳くらい年長の自分と同じ執務官を務めるバモス・ローレルに応援要請を受けていた。

「そうだ。今から第54無人世界に行って、広域次元犯罪者、ゼブラ・ベリーサ逮捕の応援に行ってもらいたいんだ……」

そう頼んでくるバモスに不審に思うクロノであった。

このバモス・ローレルという男とクロノはそれほど親しい間柄ではない。

むしろ、バモスはクロノに対し、含むところがかなりあると言われていた。

実際、彼が執務官になったのは20代半ばであり、弱冠11歳で執務官になったクロノに対して嫉妬に近い感情を抱いている……という噂である。

クロノ自身、彼から幾度となく嫌がらせの類を受けていた。

無論、彼がやったという証拠はないが………。

「これは、本局からの命令でもある」

そういうと、クロノの端末に命令文書が提示された。

「……確かに……了解しました。では、クロノ・ハラオウン執務官。ゼブラ・ベリーサ逮捕の任に就きます」

バモスは敬礼し、踵を返すクロノに下卑た笑みを向ける。

「……フン!精々痛い目を見て戻ってくるがいい……」

この男がクロノの事が気に入らないのは本当のことである。

しかし、『死んでしまえ』と言ってしまえる程の悪党でもなかった。

現在の管理局の人手不足は深刻であり、その事はバモスも十分承知している。

如何に気に食わない餓鬼とはいえ、死んでもらっては困るのだ。

だから、精々酷い目にあってくればよい……というのが、彼の考えであった。

 

 

 

 

 

ゼブラ・ベリーサは。あのジェイル・スカリエッティに並ぶ程の次元犯罪者である。

彼の罪状は、破壊活動……テロリズムである。

しかし、テロと言っても思想も何も関係なく、ただただ魔法による破壊を楽しんでいるだけの男である。

管理局は、何度も彼の逮捕を試みたが、その都度彼の非道な手段によって取り逃がしている。

既に管理、管理外世界問わず、三桁を超える世界が、彼のテロリズムによって何らかの被害を被っているのだ。

本来は、アースラもこの件に参加させる案も出たのだが、『P・T事件』で受けた損傷の修理がまだ終わっていないので、クロノのみが他の艦に一時出向して、参加するという事になった。

 

 ★☆★

 

ビデオメールも撮り終わり、なのは達の世界のDVDに編集も終わった。

早速、郵便物として包もうとした時、カノンが質問した。

「……これが、ビデオなのか?」

「DVDだけど……カノンは知らないの?」

フェイトにしても、まさか『第97管理外世界、地球』とほぼ同じ歴史を持つ並行世界出身のカノンが知らないとは思わなかった。

「……俺の世界において、映像記録はフィルムやビデオテープが主流だから……な」

実際、カノンの地球となのはの地球では、14年の差がある。

まだ西暦1990年のカノンの地球では、漸くコンパクトディスク(CD)がレコードに代わり主流となった頃であり、まだまだ映像に関しては、アナログのビデオテープが主流の頃である。

ちなみに、DVDが世に出たのは、1996年である。

更に、カノン自体はそう言う機械文明には触れない生活を送ってきたので、その方面の知識はあるが、詳しくはないのであった。

「カノンさん!」

と、そこにエイミィが切羽詰まった表情で入ってきた。

「……どうした?」

「クロノ君を……クロノ君を助けて!!」

涙目でカノンに縋りつくエイミィに皆が唖然とした。

 

 

 

 

 

「……くそっ!まさか……こんなことになるとは……」

クロノは辺りを見回した。

「まさか……これほど広範囲にAMFを張られるとは……」

ゼブラ・ベリーサを追い詰めたクロノと武装隊員たちだったが、またしても彼の策略にはまってしまった。

なんと目の前のゼブラは、クローン体を元に作られたダミーであり、その手には強制転移魔法の術式が組み込まれたデバイスが握られ、クロノは彼に組み付かれて、諸共、其処に転移させられてしまった。

転移した後、そのクローン体はその場にあったリモコンのようなモノを操作した。すると、辺り一面にAMF(アンチマギリングフィールド)と呼ばれるAAAランクの魔法防御が張られてしまったのだ。

魔力結合・魔力効果発生を向こうにする働きがある。

それに対抗する手段もあるが、AMFの濃度が高く、今の状態ではそれはかなり難しかった。

何故なら、クロノが転移させられた場所は断崖絶壁に囲まれた空間であり、飛行魔法でも使わない限り、脱出は困難である。しかし、AMFの影響下である為、飛行魔法は使えない。

「ククク…。どうする小僧……」

ゼブラのコピーが嘲る様に、話し始めた。

「ここは、あと一時間で瓦礫に埋もれてしまうぞ…」

「何だと!?」

「この絶壁は、あと一時間で崩れるように爆弾が仕掛けられている。貴様ら管理局が禁止する質量兵器だ…。それまでにAMFの発生装置を破壊しなければ、ここからの脱出は不可能……しかし、何処に隠されているかも解らず、しかも魔法が使えない状況で、どう見つけ出して、どう破壊する?……緊急停止の機能は付いていないから破壊するしか止める手段はない……新暦に入ってから、貴様ら管理局は『質量兵器』の使用を禁じてしまった……この状況下では、最も有効な手段をな……困ったなぁ…はっーはっはっはっはっはっ!」

「バカな……そんな事をすれば、お前も只では……」

「生憎、これは私のクローン体を元に作った分身……ダミーだ。元々この体は自我を持っておらず、私が遠隔操作で操っているに過ぎない……つまり、これがどうなろうが私には何の問題もないのだよ……」

「……クッ!」

「せめてもの情けだ……。貴様の今の状況を管理局の連中に教えてやろう。助かる可能性は多少は上がるだろう……感謝するんだな…はぁっーはっはっはっはっ!」

笑い終えるとゼブラの体がまるで糸の切れた操り人形のように、ガクン…と倒れた。

どうやら、操作が切れたようだ。

「……クッ…魔法が使えない今の状況では……でも、何とかしないと……無駄死にはゴメンだ…」

クロノは最後まで、悪足掻きをする覚悟で、AMF発生装置を探し始めた。

 

 ★☆★

 

事情をエイミィから聞いたカノンは、転送ポートに向かっていた。

「……まったく、管理局とやらは対応が遅すぎる……」

一人ごちながら、カノンは転送ボートで事件担当の部隊の下に転移しながら、先程の事を思い出していた。

 

 

 

 

 

ゼブラ・ベリーサから管理局に通告が届いたが、それがエイミィたちアースラのクルーに届くまで30分を有した。

ゼブラの通告が本当なのか、罠ではないのかと余計な討議に費やした時間である。

討議をする前に、さっさとその情報だけは伝えておくべきなのに……。

「何を考えているんだ!この管理局とやらの上層部は……一時間のタイムリミットなのにその半分の時間を無駄にするとは……」

「まったくです!でも、今はそんな愚痴を言っている暇はありません。カノンさん……お願いします、クロノ君を助けて下さい!!」

「カノン。私からもお願い……クロノを助けてあげて……」

涙目で訴えるフェイトとエイミィに懇願され、カノンは転送ボートに向かうのだった。

 

 ★☆★

 

部隊の司令部に到着したカノンが見たものは、傷だらけで蹲る武装局員達の姿であった。

「これは、何事だ!?」

「ん……君は何者だ?」

この部隊を率いる提督らしき人物がカノンに問いかけた。

「……俺の名はカノン…。クロノの救出に来た者だ」

「……君が、本局から連絡のあったカノンさんか……私は、この部隊の責任者である、シビック・エスクード提督だ」

「挨拶はいい……状況の説明を頼む」

シビック提督の話はこうであった。

断崖絶壁に転移させられたクロノ救出に向かった武装隊員は、その場を護る傀儡兵や、Aランクレベルの魔導師でも苦戦を強いられるこの世界に生息する三つの首を持つ黒いドラゴン『三頭漆黒龍』が、護っていたのだ。

Cランクが平均であるここの武装隊員達では歯が立たず、撤退を余儀なくされてしまったらしい。

「本局に応援要請をしたのだが、アレだけの数を抑えるにはAAAランク以上の戦闘魔導師が3人は必要だ……私は総合Sランクだが……後、二人……AAAランクの魔導師がいる……。しかし、今現在、手の開いている高ランク魔導師が居ないのが現実だ。だからこそ、アースラ所属のクロノ執務官を借りたのだが………」

「そのクロノが足手纏いになった……とでも言いたいのか?」

「いや、クロノ執務官が居なければ、奴のテロを防ぐことは出来なかった……」

事実、ゼブラはこの世界から、隣の管理世界にテロを行おうとしていたのだが、それをクロノが見事に防いだのだ。

もしクロノが居なければ、ゼブラのテロ行為を防ぐ事は出来なかったかもしれなかった。

「クロノ執務官は若いが、優秀な魔導師だ……。確かに少し融通の利かないところがあるが、それは若さ故……それはこれからどうにでもなろう……」

だから、このような場所で死なせたくはない。

「……わかった……。俺を現地に送ってくれ…」

「しかし、君一人では……」

「心配するな……よく見ておくがいい……」

 

 

 

 

 

 

 

現地に転移したカノンは、見渡す限りの傀儡兵と、三頭漆黒龍に呆れていた。

「……なるほど…これだけの数……奴ら如きでは突破不可能な筈だ……」

既に傀儡兵が何体か襲い掛かってきたが、カノンの光速拳の前にあっさりと粉砕されていた。

「これだけの数をいちいち倒していては面倒……」

カノンは小宇宙を高めていった。

すると辺りの景色が、まるで宇宙空間のようになった。

「………異次元の世界に飛んでいくがいい……『アナザーディメンション』!」

空間に現れた異次元への穴に傀儡兵や漆黒龍が次々と飲み込まれていく。

艦のモニターでその光景を見たシビック提督は、呆然と見入っていた。

「……信じられません……彼が開いたあの空間は……『虚数空間』と酷似しています……」

「どういうことだ?」

通信士の報告に、シビックは驚愕していた。

「……虚数空間ではないのですが……虚数空間と同じようにあらゆる魔法がデリートされてしまうようです……あそこに飛ばされれば、我々魔導師は、魔法が使えず……一切の脱出が不可能になるでしょう……」

「あれは、魔法なのか?……確か彼はSSランクの魔力量を持っているとアースラから報告があったが……」

「いえ、一切の魔力反応がありません……」

「……これが……神を護る闘士……聖闘士の力…か……」

アースラから報告された聖闘士なる存在……。

半信半疑だったその実力を垣間見たシビック提督は、魔導師の常識を超越した聖闘士の力に戦慄を覚えた。

 

 ★☆★

 

「はあ……はあ……見つけた……これがAMF発生装置……」

汗だくの泥まみれになっていたクロノはようやく目当ての物を見つけた。

「くそっ……後…五分か……」

早速、装置を破壊しようと試みるが、地面に叩きつけても大きな石で殴りつけてもびくともしなかった……。

AMFの効果範囲内にいる以上、魔法は使えない……。

管理局からの応援はまだ姿を見せない……。

実際、後五分では、助けに来た者たちも崩れてくる瓦礫から逃れる事は出来ず二重被害を被ってしまう。

助かる手段は、この装置を破壊して、AMFを消し、転移魔法を使用するしかないのだ。

「くそっ!壊れろ、壊れろぉぉぉぉぉ!!」

近くにある全ての石が砕けてしまった為、クロノは自分の拳で、装置を殴りつけた…。

 

 

 

 

 

『アナザーディメンション』で敵を一掃したカノンは、クロノの下に向かったが、またしても邪魔が入った。

今度は、AMF効果内でも活動が出来る様、対AMF対策を施された傀儡兵が突如として表れ、カノンの行く手を遮ったのだ。

今度は時間差を巧みに使い現れるので、一気に殲滅する事が出来なかった。

「チィッ!ゼブラ・ベリーサとやら……中々考えているな……」

そして、時間は無情にも過ぎていき、とうとう爆弾が爆発してしまった。

「しまった。どけぇ〜〜〜!『ギャラクシアン・エクスプロージョン』!」

敵を一気に粉砕し、そのまま断崖から飛び降りた。

 

 

 

 

 

「くそっ!爆弾が爆発したか!!」

爆発音を聞き、クロノは死を覚悟した。

瓦礫が次々と降ってくる。

やがてはそれが雪崩の様にこの場所を埋め尽くしてしまうだろう……。

「これまでか………いや、まだだ!!」

クロノは、最後まで足掻こうと拳を撃ち付ける……その時…。

「……なんだ?この感覚は……」

自身の内から魔力とは違う力が溢れてくるのを感じた。

「これは……まさか…」

死が差し迫った今、クロノが秘められし力を目覚めさせた瞬間だった。

 

 

 

 

 

「これは……『小宇宙《コスモ》』!?……まさか…」

落下していたカノンは、その先から今まで感じた事のない小宇宙を感じとっていた。

体を捻り、地にしっかりと着地したカノンの目に、小宇宙を燃焼させているクロノが映っていた。

「……クロノ…!?お前……『小宇宙』に目覚めたのか…」

クロノの周りに高まっていく『小宇宙』をしっかりと感じる。

「もっと……もっと『小宇宙』を高めろ!」

「……カノンさん!……僕が……『小宇宙』を…!?」

クロノは自身から感じる宇宙が『小宇宙』であることを自覚した。

「よし、そのまま拳をぶち込むんだ!」

「はい!……うおおぉぉぉぉぉぉぉぉ!!」

振り下ろした拳が、見事、装置を粉砕する。

辺りに展開されていたAMFが解かれていく。

その時、二人に瓦礫の雪崩が迫ってきたが、カノンが小宇宙の結界を張り、瓦礫を圧し留め、その間にクロノは転移魔法を展開し、二人の姿がその場から消えた。

 

 

 

 

 

シビック提督の艦へ転移に成功したクロノとカノンは、ホッと息をついた。

「驚いたぞ、クロノ……まさか、一度のまぐれとはいえ、『小宇宙』を目覚めさせるとは……な…」

「……あれが……『小宇宙』……自分でも信じられません…」

死が差し迫った時、発揮された『小宇宙』……それは…。

「お前は、アリシアと同じく死の淵において、『小宇宙』に目覚め、それを扱う事に成功したのだ……」

アリシアは『小宇宙』に目覚めたもののどうすることも出来ず命を落としてしまったが、クロノは見事、『小宇宙』を扱い窮地に一生を得たのであった。

「……フッ…どうやら……面白くなってきたな…」

『小宇宙』に目覚めた事を、未だに信じられない……と、いった顔のクロノを見て、カノンは、笑みを浮かべていた。

 

〈第十四話 了〉

 


今回は、まったくのオリジナル話です……いかがでしたか?

真一郎「……おい!」

……言うな…。これは早い内から、脳内で決めていたんだ……。

真一郎「何で?」

いや、リリなのの二次小説において、クロノの扱いって結構、酷いのが多いから……この話ではそういう扱いにはしたくなくって……

真一郎「でも、これはやりすぎじゃないのか?」

もう、後に引けん…。このままつっ走る!

では、これからも私の作品にお付き合い下さい

真一郎「……お願いします……。おい、ちょっと話があるから、風芽丘の体育館の裏に来いや!」

いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!




クロノが小宇宙に目覚めたみたいだけれど。
美姫 「という事は、クロノも聖闘士になれるのかしら」
それなりの鍛錬は必要だろうし、自由に操れるのかまだ分からないけれど可能性は高いよな。
美姫 「ちょうど聖衣も見つかったしね」
一体どうなるのか楽しみです。
美姫 「次回を待ってますね」
ではでは。



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