『時空を越えた黄金の闘士』

第七話 「海闘士」

 

アースラの医務室で、カノンは診断を受けていた。

フェイトを庇い、強力な魔法の直撃を受けた為だ。

だが……。

「……大した怪我は負っていません。多少、体が痺れている程度ですね…」

医務官は引き攣りながら、診断結果を説明した。

「……無論だ。あの程度を防げない黄金聖衣ではない」

雷撃だった為、多少は痺れたが、衝撃は全て黄金聖衣が防いでいたのだった。

 

 

 

 

 

医務室を出ると、扉の前になのはが立っていた。

「大丈夫でしたか?」

「……ああ。特に問題はない…」

カノンの返答を聞き、ホッとし         た顔になった。

リンディに呼ばれていた為、なのはと共にブリーフィングルームに向かっている途中、なのはから様々なことが質問された。

と、言っても雑談のレベルだ。

「……どうしたんだ?以前よりも、オレに付き纏って……」

「……カノンさんが、すっごく優しいことが解ったからです!」

満面の笑顔で、そう答えてきた。

「……俺が……優しい?」

「はい!最初はちょっと怖かったんです……カノンさんがクロノ君と戦った時……私の理解を超えていて……クロノ君はズタボロにされていたし……。でも……カノンさんはフェイトちゃんのことを本当に心配していて……大切に思っているのがよく解ったんです。だから……カノンさんは優しいいい人だって……」

なのはの話を聞き、カノンは……その短絡思考に呆れていた。

フェイトのことを心配しているのは確かだ。

……確かにアテナにより悪の心を洗い流され、正義に目覚め、罪の償いをした。だからと言って自分の罪が消えたわけではない。

それに、アテナに仇為す敵に対して遠慮する気はさらさらない。

容赦なく、相手を殺すだろう。

だが……昔と違い、自分が甘くなっているのも自覚はしていた。

 

 ★☆★

 

「さて……カノンさんも大事には至らなかったので……事件の大元について……クロノ、『プレシア・テスタロッサ』についての調査報告を…」

「はい艦長…エイミィ、モニターに…」

【はいは〜い!】

カノンとなのはがブリーフィング・ルームに到着したので、さっそく会議が始められた。

モニターに、プレシア・テスタロッサのプロフィールが映し出された。

「僕らと同じ、ミットチルダ出身の魔導師『プレシア・テスタロッサ』。専門は、次元航行システムの開発。偉大な魔導師でありながら、違法研究と事故によって放逐された人物です。登録データとさっきの攻撃の魔力波動も一致しています……そして、カノンさんの話ではあの少女『フェイト』は、彼女の……」

「フェイトちゃん……あの時……『母さん』って……」

なのはは、海上でプレシアの攻撃のフェイトに襲い掛かる直前のことを思い出した。

「……母娘…ね……」

「……その……驚いてたって言うより、なんだか怖がってるみたいでした……」

リンディの呟きの後、なのはが感想を述べた。

「この人が……フェイトちゃんのお母さん……」

「……アルフ…フェイトの『使い魔』の話では、フェイトは、母親に鞭で打たれる虐待を受けているとのことだ……」

虐待……という言葉に、その場にいる者たちの顔が歪んだ。

 

 

 

 

 

高次元空間内 『時の庭園』

鞭がフェイトの身体を何度も何度も打ち据える。

響く悲鳴。

「あれだけの好機に、ただボ〜っとしているなんて……」

プレシアは、息を切らせながら、フェイトに怒りをぶつけていた。

「……ごめん……なさい……」

「酷いわフェイト。貴女はそんなに『母さん』を悲しませたいの?」

プレシアは再び鞭を振るい、フェイトを打ち据えた。

「それに、あの男の件を報告してもらっていないわ…。あんな何処の馬の骨か分からない危険な男と行動を共にしていたなんて……私の願いが無になったらどうするつもりなの!?」

6つの『ジュエルシード』を魔法とは違う未知の力で抑え込んだカノンの存在は、プレシアにとっても脅威であり、容認できないイレギュラーであった。

その時、初めてフェイトはプレシアに対し怒りの視線を向けた。

短い付き合いだが、フェイトにとってカノンは父のようであり、兄のようであった。

初めて好きになった異性を侮辱され、流石に怒りを覚えたのだ。

「……何…その目は…?どうやら、悪い影響を受けた様ね……。ますます『母さん』を悲しませるつもりなのね」

鞭を打つ力を強め、フェイトの絶叫が庭園内に響いた。

 

 

 

 

 

「フェイト……フェイト!!」

プレシアが奥に消えた後、アルフが倒れ伏しているフェイトに駆け寄り抱き締めた。

「……このまま此処に居れば……いつかフェイトは…あの鬼婆に殺される……。いくらフェイトがあの女の為にと望んでも……」

アルフは先日のカノンの言葉を思い出した。

【もし、フェイトの母親がフェイトを害そうとするなら……此方に逃げてくるんだ】

アルフはフェイトを抱きかかえ、庭園から逃げ出す決意をした。

フェイトがプレシアを慕っていようが、プレシアは間違いなくフェイトを疎んでいる。

アルフにはそうとしか思えなかった。

正直、管理局は信用できないが、カノンがいるから大丈夫だとアルフは思っていた。

カノンなら、フェイトをどんな者からでも護ってくれる。

カノンの強さ、優しさ(カノン本人に自覚なし)をアルフは信頼していた。

 

 

 

フェイトを抱きながら走っていると、行く手を遮る者が現れた。

「何処に行く気だ」

その男は、蒼いローブで己が姿を覆い隠していた。

アルフは今まで、こんな奴がこの『時の庭園』に存在していたことを知らなかった。

「……アンタ…誰だい?ここへの侵入者なら見逃してやるから、とっとと何処かに行きな!」

警戒しながら、男に問う。

「……フッ……俺様はプレシアの協力者だ……使い魔には用はないが、その小娘にはまだ使い道がある。置いていってもらおう」

返答を聴いたその瞬間、アルフは男に拳を放った。

だが、その拳はあっさりと躱されてしまう。

男は纏っていたローブを脱ぎ、その姿を見せた。

カノンが纏っている『聖衣』に似たプロテクターを纏った男であった。

「使い魔風情が、この俺様に敵うと思うか!」

アルフはそう答えた男から、覚えのある気配を感じた。

そう……それは宇宙……『小宇宙』!

「……これは……あの時のカノンに似た力!?……」

あの時……つまり、カノンが『ジュエルシード』を押さえ込んだ時に感じた力に似ていた。

アルフの心に絶望が広がった。

感じる力は、カノンに比べればかなり落ちる。

しかし、それでも自分を凌駕する力であった。

「あ……アンタ……何者なんだ…!?」

「フム……。犬っころに名乗るというのも……まあよかろう。俺様は『海賊《パイレーツ》』のフック。くらえ『バイキング・アックス』!」

フックの豪腕がアルフのなぎ払う。

アルフはフェイトをその場に残し、吹き飛ばされた。

「……とどめだ!」

フックがもう一度『バイキング・アックス』を放つ。

先程よりも、大威力で……。

アルフは『バイキング・アックス』を喰らいながら、咄嗟に転移魔法を使い、その場を離脱した。

「……フン!逃げたか……。あの男と接触を図るだろうが、まあいい……」

フックはアルフが逃げ込む先は間違いなく、カノンと接触すると確信した。

「……さて、我が主が事を起こす為の準備が整うのには、後10年は必要。『海龍《シードラゴン》』様……アンタはその障害になる可能性が高い……この小娘をプレシアに引き渡した後、急いであの御方に指示を仰がねば……」

フックは、フェイトを肩に抱えて庭園の奥に向かって行った。

 

 ★☆★

 

アリサ・バニングスはご機嫌であった。

先程、学校を休学している親友の高町なのはからのメールを読んだからだ。

最近のなのはは、何に悩んでいるのかよくボ〜ッとして居たので、少し喧嘩してしまった。

自分達に相談してもくれす、一人で悩んでいたからだ。

話してくれれば、一緒に考えてあげることも出来るし、そのことで少しは楽になるかも知れないのに……。

そして……何故かなのはが自分達の前から居なくなるのではないかという思いからであった。

「…ッ!?鮫島、ちょっと止めて!!」

外を見ていたアリサは、あるモノが目に入り車を止めさせた。

「……やっぱり大型犬…」

そこには、紅い鬣の大型の犬が倒れていた。

それは、狼の姿に戻ったアルフであった。

「怪我をしていますな……かなり酷いようです」

「……でもまだ生きてる……鮫島!」

「心得ております」

鮫島はそう答えると、アルフを優しく抱きかかえ車に運び込んだ。

【……フェイト……カノン…】

アルフは、朦朧とする意識の中で大好きな二人を思い浮かべた。

 

 ★☆★

 

なのはは一時帰宅ということになり、リンディは家族への説明のため、ムウと共になのはに同行して行った。

その頃、カノンは遠見市のフェイトのマンションに来ていた。

当然ながら、フェイトもアルフも居ない。

管理局に接触する前に用意していたご飯は、綺麗に食べられていた。

恐らく、カノンと別れた後、フェイトたちはこの部屋に戻り、これだけは食べたのだろう。

冷蔵庫の中は、ジュースのペットボトル以外は、最後に見たままであった。

どうやら、約束どおり、それ以来この部屋には戻っていないようであった。

カノンはフェイトたちと暮らしていた時に使っていた部屋に入り、そこで一晩過ごした。

 

 

 

 

 

一夜が明け、マンションを後にしたカノンは、海鳴市に戻っていた。

時間があるので、なのはの家が経営している『翠屋』で、時間を潰そうと向かっていたのだが、突然、クロノから連絡が入った。

『怪我をしたフェイト・テスタロッサの使い魔をなのはの友人が保護した』

その報告を聞いたと同時に、バニングス家の近くにテレポーテーションした。

バニングス家の近くに到着したカノンは、待っていたムウと合流し、なのはから事情(魔法関連以外)を聞いた鮫島に案内された。

そこには、傷ついたアルフが檻の中に入っており、その前になのはを含む3人の少女がいた。

一人は、金髪で、勝気そうな少女。もう一人は、黒髪のおっとりとした少女であった。

「貴方がこの子の飼い主?」

金髪の少女……アリサがカノンに問いただしてきた。

「飼い主の友人だ……。すまない…迷惑を掛けたようだな」

カノンは、アルフを助けてくれたアリサに礼をする。

アルフを檻から出してもらうと、そのまま背負いバニングス家を後にした。

その後、念話で関係者すべてと話し合うことになった。

 

 

 

「何があったんだ?アルフ…」

人気の無い所で、カノンはアルフに事情を問いただした。

「……管理局の連中も…見ているんだね…」

【『時空管理局』クロノ・ハラオウンだ。どうも事情が深そうだ。正直に話してくれたら、悪いようにしない。君の事も……君の主『フェイト・テスタロッサ』の事も…】

「………話すよ全部……。だけど約束して、フェイトを助けるって……あの娘は何も悪くないんだよ!」

【約束する!】

クロノから約束を取り付けたアルフは、説明を始めた。

フェイトの母親である『プレシア・テスタロッサ』が、この事件の黒幕であり、『ジュエル・シード』は彼女の目的の為に必要な物であること。フェイトもアルフもその目的がどんな物なのかは教えられていないこと。

そして、プレシアのフェイトに対する様々な虐待行為。

そして、看かねたアルフはとうとう、フェイトを連れて脱走する決意をした。

しかしその途中で、謎の男に見つかりアルフは重症を負わされてしまう。

その男は、カノンと同じ『小宇宙』を使っていたこと……など知っていることすべてを告白した。

【……『小宇宙』を使った……。敵に『聖闘士』がいる……と、いうことか?】

聖闘士の強さは骨身に染みて知っているクロノは、戦慄した。

「……アルフ…。その男はどのような男だ?」

「……カノンが着ている『聖衣』…だっけ?それに似た鎧を着ていて……『海賊』のフックって名乗ったよ…」

カノンの問いに、アルフが答えるとカノンの表情が変わった。

「何ッ!『海賊』のフックだと!?」

「……知っているんですか?カノン…」

隣を居たムウが問う。

「……ああ。奴は……『海闘士《マリーナ》』だ」

 

 

 

 

 

『海闘士』とは、地上を護る女神アテナに『聖闘士』が居るように、海界を支配する神『海皇ポセイドン』を守護する闘士である。

彼らは『鱗衣』と呼ばれるプロテクターを纏い、その実力はアテナの聖闘士に匹敵する強さを持っていた。

そもそも、聖闘士が纏う『聖衣』は、鱗衣を纏った海闘士に対抗するために生み出されただったのだ。

神秘の金属『オリハルコン』によって作られた鱗衣を貫ける武具も、鱗衣で身を包んだ海闘士の放つ拳を防ぐ防具も存在しなかった。

そこで、鱗衣に対抗するために聖衣が生み出され、それを纏う聖闘士の発生を促したのだ。

『海闘士』の選抜方法は、聖闘士と異なり、厳しい修行でその資格を得るのではなく、海闘士としての資質を持ち、海皇に選ばれた者が海闘士になると言われている。

 

 

 

 

 

「……先の海皇との聖戦において、星矢達と戦った海闘士は雑兵たちと七人の海将軍たちだったが、別にそれ以外に海闘士が居なかったわけではない……『海賊』のフックもその一人だ…」

正規の海闘士は、聖闘士よりも数が少ない。

何故なら、海闘士の雑兵は実力的には青銅聖闘士に匹敵するからだ。

故に、カノンが口にした通り、先の聖戦において実際に星矢達と戦った海闘士は海将軍のみであった。

海闘士最強の『海将軍』は、『海馬《シーホース》』、『スキュラ』、『クリュサオル』、『リュムナデス』、『クラーケン』、『海魔女《セイレーン》』、『海龍』の七人存在する。

それぞれ、海の怪物などをモチーフにした鱗衣を身に纏っている。

雑兵の纏っている鱗衣は、半漁人をモチーフにしている。

しかし、いくら雑兵が青銅聖闘士に匹敵するとは言え、正規の海闘士が海将軍だけというわけではなかった。

白銀聖闘士と同レベルの海闘士『人魚姫《マーメイド》』のテティスの様な者も存在していた。

『海賊』のフックもテティスと同格の海闘士であった。

「……奴は海底神殿崩壊の際にくたばった思っていたのだがな…」

カノンが吐き捨てる様にそう言った。

「……どうやら、貴方は相当その男が気に入らなかったようですね…」

「俺だけではない!奴はすべての海闘士に嫌われていた」

フックは、格上の存在である海将軍には媚諂い、格下の雑兵等を奴隷のように扱っていた。

諂われた海将軍達も、蛇蝎の如く嫌っていた。

その実力は認められていたが、人格的には唾棄されていた。

こんな奴でも『同志』であることに変わりはない……。

そう、無理矢理自分を納得させていた。

『海龍』に扮していたカノンでさえも、フックの事は、反吐が出るほど嫌っていた。

何故、奴が『海闘士』として選ばれたのか……偽りの海龍であったカノンですら不思議に思っていたのだ。

「……しかし、海闘士が此方に来ているとは……」

「別に不思議でもあるまい。俺たちがここに居るのだから。聖闘士だけが此方に来ているとは限るまい…」

 

 

 

 

 

念話で事情を聞いていたなのはは、クロノに問われていてた。

クロノ達の判断は、プレシア・テスタロッサの逮捕に決定していたので、なのはがこれからどうするのかを………。

【……私は……私は、フェイトちゃんを助けたい!!】

なのはは、フェイトを哀しいことから救いたいことを告げた。

なのはの答えを聞き、アルフはカノンに背負われながら、涙を流していた。

【それに、友達になりたいって伝えた返事……まだ聞いてないしね】

クロノもなのはの答えを聞き、フェイトに関してはなのはに一任することに決めた。

【アルフも……カノンさんもそれでいいですか?】

アルフは静かに頷いた。

「なのは……だったね。頼めた義理じゃないけど、だけど…お願い、フェイトを助けて…。あの娘、今、本当に一人ぼっちなんだよ…」

【うん、任せて!】

「……それと…カノン…」

アルフは懇願するかのようにカノンを見つめた。

「……解っている。例の男が介入してきたら、俺がなのはとフェイトを護ろう」

カノンの答えに、アルフは満足した。

 

〈第七話 了〉

 


真一郎「……こんな海闘士居たっけ?」

 

オリジナルキャラです

 

真一郎「こいつが、カノンに対抗できるオリキャラか?」

 

いや、こいつはチョイ役です。こいつが言った『あの御方』が、以前予告したオリキャラですな

 

真一郎「じゃあ、何でこいつを登場させたの?」

 

詳しいことはいずれ作中で語りますが、ある重大な役割りと辻褄あわせの為に作りました。

 

では、これからも私の作品にお付き合いください。

 

真一郎「お願いします」




新たなキャラが登場。
美姫 「しかも海闘士」
あの御方とか計画とか気になる所はたくさんあったけれど。
美姫 「計画に十年というのも長い話よね」
とりあえず、今の所はぶつかる事はなさそうだけれど。
美姫 「実際にどうなるのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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