『時空を越えた超戦士−Remake−』

其之十七 激闘!アースラ武装隊VS半人前サイヤ人

 

 第6管理世界で3番目に大きな大都市に、青と黄色の異形が闊歩していた。

 サイヤ人の携帯戦闘生物、貝割マンと球根マンである。

 破壊の限りを尽くす戦闘生物たち相手に、この都市に駐在している陸士達が必死に応戦していた。

 住人の避難は既に完了している。

 バーダックとの会談で、サイヤ人の目的を知ったクロノ達は、すぐさま住人たちに避難勧告を出した。

 この星の住民を皆殺しにするのが目的である以上、この世界の何処が狙われるか解らない。

 幸いといっていいのか、第6管理世界は自然豊かな世界であり、この世界の住人はル・ルシエ族の様な部族達であり、それぞれ集落を作り生活をしているので、大都市と言っても人口は、ミッドチルダの首都クラナガンや西部エルシダ地方のような大規模な都市と比べものにならず、せいぜい辺境の小規模な都市程度でしかない。

 その為、サイヤ人の襲来前に避難はほとんど完了していた。

 おかげで、陸士達も気兼ねなく応戦できていた。

 戦闘生物たちに対する対処法は、『アースラ』が成果を挙げているので、駐在陸士達でもなんとか対応が出来ていた。

 殺傷設定に切り替えた魔道砲を、遠慮なく敵生体にぶち込み、弱らせていた。

 いかに強敵とはいえ、命令を聞く程度の知性しか持っていない人工生物相手に、何度も対処出来ないほど時空管理局も甘くはない。

 対処法さえ確立されれば、こんなものである。

 それでもサイヤ人を侮ってはならない。

 今回、戦闘生物と行動を共にしているサイヤ人は、前回、暴れたタニブという男に比べるとかなり格下の相手という情報である。

 しかし、それでも戦闘力はオーバーSランク魔導師を凌駕する実力を持っているのだ。

 決して、油断して勝てる相手ではなく、死に物狂いで掛からなければならない相手である。

 

「あーあ。もう貝割マン達は役に立たないな…」

 

「まあ、所詮あいつらは使い捨ての兵力だからな……相手を消耗されられれば充分だぜ」

 

 貝割マン達と管理局員の戦いを見物していたサイヤ人……オニオンとブロッコが動き出した。

 

「サイヤ人だ!」

 

「サイヤ人が来たぞ!!」

 

 陸士達に動揺が走る。

 オーバーSランク以上の戦士相手に恐怖するのは当たり前だ。

 何しろ、タニブの暴れっぷりはこの世界駐在の管理局員には周知。

 タニブよりも弱いとはいえ、平均Cランクの陸士達にとっては脅威以外の何者でもない。

 しかし、ここで彼らに救いの手が差し伸べられる。

 戦闘の準備を整えたアースラが到着したのだ。

 

「エイミィ、陸士達には引き続き、戦闘生物たちに対応するよう指示を出してくれ!」

 

「了解!」

 

「サイヤ人……確かバーダックさんはオニオンとブロッコと呼んでいたな。奴等には僕とフェイトが対応する」

 

「うん…了解!」

 

「ギャレット達は僕とフェイトの援護だ……決して突出するなよ」

 

「「「「「了解!」」」」」

 

「…キャロちゃんは、負傷した武装隊員の治療に協力してくれ」

 

「はい…」

 

 正直、出会ったばかり頃のフェイト達よりも幼いキャロを使うのは気が進まないのだが……今は猫の手でも借りたい状況だ。

 キャロも自分の力が役立つ事を喜んでいる。

 その力を恐れられ、追放されたキャロにとって、誰かの役に立てる事が嬉しいようだ。

 そして、バーダックもキャロを出す事を反対しなかった。

 バーダックはキャロを大事にしているが、過保護というわけではない。

 キャロの意思を尊重し、それをフォローさえすれば問題なしと判断していた。

 

「それでは出撃!」

 

 クロノの合図で、サイヤ人討伐作戦が開始された。

 

 ★☆★

 

 出撃して早々、クロノとフェイトはサイヤ人に向かって仕掛けた。

 普段ならば、時空管理局である事を名乗り、最初に投降勧告をするのが通例だが、サイヤ人相手にそれは意味がない事は、先のタニブとの戦いで承知の上だ。

 サイヤ人にとって、闘争こそ全て……戦う前から投降する等、よほど格上の相手でも無い限りありえない。

 ましてや、自分よりも弱者に対しては……。

 クロノもフェイトも相手の方が上である事は承知している。

 ならばもはや問答無用である。

 実はフェイトなどは、先のバーダックとの会談でサイヤ人を説得できないか……と主張していた。

 バーダックとは話が通じるのだから可能性があるのでは……という淡い期待からだが、バーダックに全面否定された。

 

「俺がこうなったのは……かつて守るべきモノを守る事が出来なかった後悔と、守る事で出来た時の歓喜が要因だ。あれがなければ俺も侵略と殺戮を楽しんでいただろうぜ。今の俺は、サイヤ人としては異端と言っていいだろう。俺を基準に判断してもしょうがねぇぞ」

 

 この返答にフェイトも不可能である事を悟った。

 バーダックと同じ様になる事を望むならば、一度の奴等の守るべきモノを皆殺ししなければならないし、その後、新しい守るべきモノを守り通させなければならない。

 彼らを改心させるだけの為に、その誰かに危害を加えるなど本末転倒も甚だしい。

 そもそも、バーダックが言った様に、そんな存在がいるかどうかも怪しいし、バーダックと同じ様になる保障もないので、どうしようもなかった。

 一般的な道徳を持ち合わせていない相手に、倫理を用いて説得しても意味がない。

 

 

 

 

 

 オニオンとブロッコに対してはクロノ達でも奮戦出来ていた。

 基本的に相手の方が上だが、先のタニブとの絶望的な戦いの経験が、クロノ達の教訓になっている為である。

 しかし、圧されている事に変わりはないので楽観はできないが…。

 

「その程度の戦闘力でやるじゃねぇか」

 

「だが、テメーらの抵抗もここまでだ」

 

 半人前とはいえ、サイヤ人である自分達が格下相手に奮戦されてるいる事に憤りを感じたのか、オニオン達が突出して来た。

 

「ギャレット!」

 

「了解!」

 

 突出してくる2人に対し、ギャレット達武装隊の面々が一斉に射撃魔法で弾幕を張った。

 アースラの武装隊員達の『シュートバレット』を殺傷設定で使用した時の威力は、一般の拳銃などとは比べ物にならない。

 その為、如何にサイヤ人といえど戦闘力1000にも満たない者に対しては、致命的とまではいかないまでも、足止め程度の役には果たせていた。

 その隙にクロノがデバイスを構える。

 クロノの周囲に100を超える魔力刃が現れる。

 

 

「くらえ!『スティンガーブレイド エクスキューションシフト』!!」

 

 魔力刃が一斉に2人に遅い掛かる

 着弾と同時に爆散する魔力刃によって、2人の視界が遮られる。

 

「今だフェイト!」

 

「うん!」

 

 クロノの合図と共にフェイトが持ち前のスピードでオニオンの背後に回り、あるモノを力いっぱい掴んだ。

 

「ぐ……ぐあ…」

 

「よし!」

 

 爆散した魔力が晴れた。

 そして、フェイトが掴んだモノが明らかになった。

 サイヤ人にとって最大の特徴にして最大の弱点。

 それは『尻尾』。

 これを強く握られるとサイヤ人は力が出なくなってしまう。

 最も、鍛える事によって克服できてしまう弱点ではあるが。

 バーダックは無論のこと、キャーベもコーンも既に克服している。

 しかし半人前であるオニオンとブロッコはこの弱点を克服していなかった。

 バーダックからそれを知らされたクロノは、試す事にしたのだ。

 フェイトに尻尾を強く握られたオニオンは、その場に突っ伏していた。

 

「どうやら、バーダックさんの言った通りのようだ……武装隊はもう1人に集中砲火を浴びせ足止めするんだ!」

 

 

 

 

 

 

「奴等は、弱点をそのままにしている筈だ。克服できる弱点を克服できないから、奴等は半人前なんだよ」

 

 バーダックは知らない。

 自分の長男も、死ぬまでにその弱点を克服しなかった事を…。

 

 

 

 

 

「とにかくこれで1人、動きを封じ……フェイト!」

 

 武装隊の弾幕によって足止めを受けていたブロッコが間隙を縫って、フェイトに向かってエネルギー波を放った事に気づいたクロノが叫ぶ。

 尻尾を握る事に成功し、ホッとしていたフェイトもそれに気付いたが防御魔法を張る事も出来ず硬直していた。

 一瞬の油断……まだまだサイヤ人の事を甘く見ていた。

 今、対峙しているサイヤ人は確かに、『サイヤ人から見れば』半人前だ。

 サイヤ人としては半人前、凡人でも他の星間種族から見れば、生まれながらの闘いの天才と呼ばれる者達ばかりなのだ。

 しかし、エネルギー波はフェイトではなく、フェイトとオニオンの真ん中の空間を通り過ぎて行った。

 

「い……痛えぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!」

 

 オニオンは尾?骨部分を押さえながらぴょんぴょんと飛び跳ねた。

 フェイトの手には……千切れた尻尾が握られている。

 確かにサイヤ人にとって尻尾は弱点だが……切断してしまえば弱点は無くなってしまう程度のモノでしかない。

 まさか弱点とはいえ、体に生えているモノを何の躊躇いも無く切断するとは思いもせず、ブロッコを攻撃していた武装隊員達も唖然となり、攻撃を止めてしまっていた。

 

「きゃっ!」

 

 フェイトも体から切られたばかりの尻尾に慄き、慌てて振り払う。

 

「て…てめー…ブロッコ!俺の尻尾じゃなくこの女に攻撃すれば済むだろうが!」

 

「ケッ…尻尾を握られるヘマをしたお前が悪い。だったら尻尾がなければそんな不覚を受けないだろう」

 

「覚えてやがれ…お前が尻尾を握られた時に仕返ししてやるからな!!」

 

 いくら、窮地を救うためとはいえサイヤ人にとって大事な尻尾を無断で切断され、怒り心頭のオニオンはブロッコと言い争いを始めていた。

 

「…くそっ…やはり2人同時に握らなければならなかったか」

 

 相手が1人ならばともかく、2人同時にするには無理があったので、1人を足止めしている間に、もう1人の尻尾を握り戦闘不能にする。

 そして、尻尾にバインドを巻き付けて戦闘不能にする。

 というのが作戦だったが……まさか尻尾を切るという手段に出るとは思わなかった。

 これでもはや弱点である尻尾を狙う事が出来なくなった。

 

 ★☆★

 

 管理局とサイヤ人の戦いは続いた。

 たった2人のサイヤ人を相手に、艦長以下『アースラ』所属の戦闘魔導師全員でもってようやく対抗できていた。

 しかし、それでも管理局側の方が劣勢という、管理局員として認めたくない現実であった。

 

「へへへ……なかなか楽しめるぜ」

 

「ああ。せいぜい足掻いてくれよ!」

 

 オニオンとブロッコの余裕の態度に、クロノは内心、|腸《はらわた》が煮えくり返っていた。

 クロノを含めた武装隊員達の|防護服《バリアジャケット》は、既にボロボロである。

 武装隊の何人かは既に墜とされている。

 そして、クロノの手には氷結の杖『デュランダル』が握られていた。

 『デュランダル』は、氷結魔法に特化したストレージデバイスで、このデバイスを用いる事でクロノは本来自分では扱い切れないオーバーSランクの広域凍結魔法『エターナルコフィン』が使用出来る。

 クロノはこれを使い、サイヤ人達を氷の中に閉じ込めるつもりであった。

 しかし、サイヤ人達のスピードは、『真ソニックフォーム』時のフェイトに匹敵するので、如何に広域魔法と言えど捕らえ難い。

 更に、既に混戦となっているため、使用すればギャレット達をも巻き込んでしまう危険性も高い。

 自分自身を犠牲にする事は出来ても、流石に部下諸共、氷付けにして永久封印するなどという暴挙には出れない。

 そこまでクロノは非情にはなり切れない。

 

「クロノ…準備は万端だよ」

 

 バルディッシュをリミットブレイク形態である『ライオットザンバー・カラミティ』に変形させていた。

 

【よし!総員、ピンポイント攻撃を行い、その後散開しろ!】

 

【【【【【了解!】】】】】

 

 クロノからの念話での指示を、ギャレット達が実行する。

 サイヤ人達に対し、一点集中攻撃を行った後、結果を確認せず四方八方に散開して、彼らから距離をとった。

 

「野郎…!」

 

「この程度で俺たちがやられるとでも…!?」

 

PiPiPi!

 

 その時、彼らのスカウターが反応した。

 

「な……何ッ…せ……戦闘力406だと!?」

 

「馬鹿な!?さっきまで108しかなかったぞ!!」

 

 フェイトの突如の戦闘力の上昇に驚愕する。

 フェイトはバーダックが、気をコントロールする様に、魔力をコントロールする事は出来ない。

 しかし、フェイトには…否、管理局の魔導師達には瞬間的に爆発的な魔力を得る手段がある。

 『カートリッジシステム』。

 本来は古代ベルカ式の『アームドデバイス』に採用されていたモノであり、ミッドチルダ式の『インテリジェントデバイス』には強度的に相性が悪かったのだが、数年前の『最後の闇の書事件』の折り、敵の古代ベルカの騎士に対抗する為に搭載し、そのデータを元に実用に成功した。

 

「「ぐあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」」

 

 オニオンとブロッコは『ライオットザンバー・カラミティ』に薙ぎ払われ、大地に叩き付けられた。

 フェイトのデバイス『バルディッシュ・アサルト』のリミットブレイクフォームである『ライオットザンバー』はフェイトが|好敵手《ライバル》との模擬戦を繰り返す過程で編み出された形態であり、『カラミティ』は重攻撃専用形態なので、これで繰り出される斬撃は、フェイトにとって最も強力な一撃と云えた。

 勿論、戦闘力406程度では、サイヤ人の下級戦士に対してはそれほど効果はないが、下級戦士に成りきれていない半人前のこの2人には充分なダメージを与える事に成功した。

 

「よし、今だ!総員砲火を集中しろ!!」

 

 これで決着をつけるべく、クロノは全員に命令を下す。

 すべての魔力を使い切るつもりで、武装隊員達は魔法を放とうとした……が。

 

「調子に乗るな!」

 

「もう遊びは終わりだ!!」

 

 怒り狂ったオニオンとブロッコが、フェイトに向かってフルパワーで気功波を放った。

 

「いかん!避けろフェイト!!」

 

 クロノの叫びに反応し、フェイトはなんとか身を翻し、気功波を躱した。

 フェイトの『真ソニックフォーム』は、スピードを特化させる為にその分、装甲がほぼ皆無である。

 そんな状態でサイヤ人の気功波が直撃すれば、間違いなく即死してしまうだろう。

 しかし、なんとか躱せはしたものの、その余波だけでもかなりのダメージ与えてしまい、フェイトはそのまま地に転がり、倒れこんでしまった。

 

「フェイト!」

 

「余所見をしている暇はないぞ!」

 

「てめぇもくたばれ!!」

 

 倒れたフェイトに気をとられたクロノと武装隊に向かい、連続的に気功弾が放たれ、次々と撃ち落とされて行った。








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