『子猫のトムのお話U』





 子猫のトムはこの時狐どんにあることを教えらえていました、その教えられていることは何かといいますと。
「へえ、東の方じゃフォークとナイフじゃないんだ」
「そうだよ、スプーンは使う国もあるけれどね」
 狐どんは自分のお話に驚いているトムにさらにお話しました。
「二本の小さな棒、お箸を使ってだよ」
「食べるんだ」
「そうだよ、それぞれの国で食べる時に使うものが違っていてね」
「東の方じゃそれを使って食べるんだね」
「お箸をね」
「そうなんだね」
「それで食べものを摘んでお口の中にいれるんだ」
「じゃあパンとかも?」
「ははは、パンを食べるのは同じだよ」
 狐どんはトムの今の言葉に笑って答えました。
「手で食べるんだ」
「僕達だと前足だね」
「そうだよ、その時は同じだけれど」
「それ以外の時はなんだ」
「お箸で食べるんだ、お寿司や飲茶なんかもだよ」 
 そうしたものもというのです。
「そうしてだよ」
「お箸で食べるんだ」
「そうだよ、あちらではお米を炊いたりして食べて主食にしているけれどね」
「そのお米もなんだ」
「そうして食べるんだよ」
「ふうん、そうなんだ」
「そうした国もあるんだ」
 狐どんはトムに笑顔でお話しました。
「そのことは覚えておくといいよ」
「うん、わかったよ」
 トムは狐どんの言葉に頷きました、そうしてです。
 暫くお箸のことを考えていました、するとです。
 ある日一家でお祝いごとがあってその後に森の中華料理屋さんに行くことがありました、それで海鮮麺や海老蒸し餃子に蟹焼売、睨饅頭、八宝菜等を注文してそれで皆で食べることになりましたがここで、でした。
 トムはそのお料理達を前にして言いました。
「お箸で食べるんだよね、こうしたものって」
「ええ、そうよ」  
 お母さんのタビタさんが答えました。
「本来はね」
「よくそんなこと知っているな」
 お父さんはそのことに素直に驚いています。
「トムも」
「狐どんに聞いたんだ」 
 トムはお父さんに正直に答えました。
「だから僕も知ってるんだ」
「そうだったのか」
「それで僕もお箸を使って食べたいけれど」
「いいが難しいぞ」
「私達だってフォークやスプーンで食べているのよ」
 お父さんもお母さんもこうトムに言いました。
「それでもいいの?」
「お箸を使って食べてみるのか」
「そうしてみるよ」
 トムはお父さんとお母さんに答えました、そうしてです。
 お父さんがお店の人にお話して持って来てもらった二本の小さな棒、お箸を頂きました。そのお箸を前にしてです。
 トムはどうして使うのかと考えました、ここでお母さんが右の前足にそのお箸を持ってみてトムに言いました。
「こうよ、鉛筆を持つみたいでね」
「鉛筆をなんだ」
「そう、こうして持つのよ」
「こうかな」
 トムはお母さんの持っている通りに持ってみました、ですが。
 持つことは出来ましたが動かせません、それで驚いて言いました。
「動かせないよ、とても」
「こうすればいいのよ」
 お母さんは自分が持っているお箸を動かしてみました、そして海老蒸し餃子を摘んでお口の中に入れてみました。
「出来るかしら」
「ううん、こうかな」
 トムは動かそうとしました、ですが。
 お箸はぽろりとトムの右の前足から落ちてしまいました、それでトムは泣きそうになって言いました。
「駄目だよ、動かすどころじゃないよ」
「今すぐには無理なんだ、お箸を使うにも練習が必要なんだ」
 そのトムにお父さんが言いました。
「だからトムはこれからだよ」
「お箸を使う練習をすればいいんだね」
「そうだ、そうすれば動かせる様になって」 
 そうなってというのです。
「それを使って食べる様になるぞ」
「そうなんだね」
「お家に帰ったら時々でも練習していこうか」
「今はフォークとスプーンで食べなさい」
 お母さんはトムに優しく言いました。
「いいわね」
「うん、そうするね」
「それじゃあ食べましょう」
「そうするね」
「いただきます」
「いただきます」
 ずっとお兄ちゃんを見ていたミトンとモペットも言いました、そうしてです。
 家族全員で美味しいものを食べました、その後でお家に帰ってトムは妹達と一緒にお箸の使い方の練習をはじめました。すると暫くして使って食べられる様になりました。お父さんとお母さんと同じ位に。


子猫のトムのお話U   完


                    2021・12・29








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