『ダッチェスのお話』




黒犬のダッチェスはお友達の何匹かと一緒にお散歩に出ている時にその皆からふとこんなことを言われました。
「ダッチェスって夜は見えないよね」
「そうだよね、真っ黒だからね」
「夜だとね」
「もう全然見えないよね」
「何処にいるのかわからないよね」
 こう皆で言うのでした。
「本当に凄く黒いからね」
「そこまで黒いとね」
「もう完全に夜の中に隠れてね」
「見えなくなるね」
「うん、そうだよね」
 ダッチェス自身皆のその言葉に頷きます。
「だから夜に外出歩いたらね」
「もう誰にも見付からないね」
「匂いとか音ならわかるけれど」
「目ではね」
「見えないね」
「だからね」
 それでとです、こうも言ったダッチェスだった。
「異葛をしてもね」
「そうそう、見付からないね」
「悪さをしてもね」
「それは便利だよね」
「僕なんかね」
 白犬のペリーが言うには。
「夜でも目立つから」
「そうだね、君はね」
「真っ白だからね、身体が」
「夜でも隠れられないね」
「けれど君はね」
 ダッチェスに言うのでした。ペリーも。
「それだけ真っ黒だから」
「お昼はともかくとしてね」
「夜になったらね」
 それで、というのです。
「隠れられるね」
「有り難いことにね」
「じゃあ実際に悪さしてみる?」
「そうしようかな」
 ダッチェスはまんざらでもないといった声でペリーに返しました。
「今度ね」
「僕達にはしないでね」
「そんなことしないよ、するとしたら」
 その悪戯をというのです。
「マクレガーさんだよ」
「ああ、あの人ね」
「あのすぐに怒るからね」
「僕達が畑に入ろうとしたらね」
「もうそれだけでね」
「だからね」
 それで、というのです。
「あの人にね」
「悪戯するんだね」
「そうするんだ」
「そうだよ、僕達はね」
 犬はというのです。
「お野菜食べないじゃない」
「そうそう、全然ね」
「お野菜は食べないよ、僕達は」
「パンは食べる時もあるけれど」
「お野菜は食べないよ」
「犬だからね」
「そう、畑で用を足すけれど」
 それでもというのです。
「それだけでも怒るよね」
「あの人はね」
「兎にも何でも怒るけれど」
「僕達にもだから」
「困るんだよね」
「そう、だからね」
 あまりにも怒るからというのです、マクレガーさんが。
「夜にやってやるよ」
「あの人への悪戯」
「それをするんだね」
「そうするよ、今夜にでもやろうかな」
「早速だね」
「今夜にもなんだね」
「仕掛けるんだね」
 皆でダッチェスに尋ねます。
「あの人のお家に行って」
「そのうえで」
「そうしてみるよ、そしてあの人をぎゃふんと言わせてやるんだ」
 今から楽しそうに言うダッチェスでした。
「今夜にでもね」
「よし、じゃあね」
「僕達も一緒に行くよ」
「君がどういう悪戯するのか見るよ」
「何なら協力しようかい?」
「それには及ばないよ」
 自信たっぷりにです、ダッチェスは協力を申し出た皆にこう返してそれを断りました。
「僕だけでやってみせるよ」
「自信があるんだね」
「じゃあその自信を見せてもらうよ」
「是非共ね」
「そうしてくれると嬉しいよ、ただね」
 ここで、です。ふととした感じで、でした。
 ダッチェスは周りを見回しながら皆にこう返しました。
「今日は寒いね」
「うん、冬になったからね」
「随分と寒いね」
「そうなってきたね」
「もう完全に冬だよ」
「雪降るかな」 
 ダッチェスはその寒さを身体で感じながら言いました。
「ひょっとして」
「うん、そうかもね」
「この寒さだとね」
「お空もどんよりとしてるし」
「やっぱりね」
「降るかもね」
 こうお話しながらです、皆で雪のこともお話してでした。その夜に。
 皆でマクレガーさんのお家に来ました、ただ。
 一面もう銀世界です、夜ですが周りはもう真っ白です。
 その真っ白な世界の上を歩きつつです、ダッチェスは一緒にいる皆に言いました。
「じゃあね」
「うん、これからね」
「悪戯を仕掛けるんだね」
「そうするんだね」
「そうするよ、具体的にはね」
 どういった悪戯をするかもです、ダッチェスは言いました。
「マクレガーさんのお家に向かって吠えるよ」
「そしてマクレガーさんが出て来てもだね」
「夜の中だからダッチェスは見えない」
「それでマクレガーさんは吠える相手を探しても見付からないのでね」
「困るっていうんだね」
「そう、そうした悪戯をするよ」
 これがダッチェスの考えでした。
「マクレガーさんびっくりするだろうね」
「よし、それじゃあ頑張るんだよ」
「僕達は物陰から見守っているよ」
「健闘を祈る」
「作戦開始」
 皆で陽気に言ってでした、ダッチェスを送りました。そしてダッチェスは実際にです。
 マクレガーさんのお家の近くまで行って吠えます、暫く吠えていると。
 マクレガーさんがお家から飛んで行ってです、怒って言いました。
「どの犬だ」
「あっ、出て来たよ」
「マクレガーさんが早速ね」
 物陰から見守っている皆は様子を見つつお話します。
「けれどダッチェスは見付からないよ」
「絶対にね」
「夜だからね」
「真っ黒のダッチェスは見付からないよ」
「何があってもね」
 皆はこう確信していました、そしてダッチェスもそう思っていてです。 
 隠れもせず吠え続けます、そうしてマクレガさんを困らせようとしていましたが。
 そのマクレガーさんはダッチェスのいる方にでした、石を投げてきました。
「そこか!」
「あれっ、見えている!」
「この黒犬、何のつもりだ!」
「完全に見えているよ」
 ダッチェスもマクレガーさんが自分の姿が見えていることを察しました。
「これはまずいよ」
「ダッチェス、ここだ」
「ここに来るんだ」
「そして逃げるんだ」
「急ぐんだ」
 皆はマクレガーさんに石を投げられているダッチェスに急いで声をかけました。
「マクレガーさんは君に気付いているぞ」
「見えている」
「だからすぐにこっちに来るんだ」
「そして逃げよう」
「うん、そうするよ」
 ダッチェスも頷いてでした、そのうえで。
 皆のところに急いで駆けてです、そこから森の中に逃げました。そしてそれぞれの飼い主のところに戻る前にです。
 どうしてダッチェスはマクレガーさんに見えていたのか、そのことをお話するのでした。
「どうしてね」
「うん、君の姿が見えていたのか」
「マクレガーさんにね」
「それはどうしてだろうね」
「見えていない筈なのに」
「どうしてから」
「あれっ、何か」
 ここで言ったのはペリーでした。ダッチェスの身体を見てです。
「君今かなり白いよ」
「白い?僕が」
「うん、白いよ」
 そうなっているというのです。
「何かね」
「僕が白い筈がないよ」
 こう返したダッチェスでした。
「だって僕は黒犬だから」
「雪だよ」
「雪?」
「そう、雪が降ってるからね」
「その雪が身体に付いて」
「それで白くなっているんだ」
 こう言うのでした。
「僕も今気付いたよ」
「そういえば僕達もね」
「結構雪が付いてるね」
「何かね」
「そうなっているね」
「うん、それだよ」
 まさにと言うペリーでした。
「僕達も雪が付いてるけれど」
「僕は黒犬だから」
「そのせいで余計にね」
「目立ってしまって」
「マクレガーさんからも見えていたんだ」
 夜ですがそれでもです。
「そうなっていたんだ」
「そういうことだね」
「うん、そうなんだよ」
「わかったよ、だからなんだ」
 また言ったダッチェスでした。
「僕は見付かったんだね」
「白の中の黒はどうしても目立つよ」
「そうだね、僕が夜に目立たないのは」
 雪が降らない夜にです。
「夜の黒い中に紛れるからだからね」
「雪の中だとどうしても目立つよ」
 ペリーはダッチェスに言ってダッチェスも納得しました。そうしたお話をしてから皆はそれぞれの飼い主のところに戻りました。
 ダッチェスも飼い主のお家にある自分の小屋に戻って首輪をつけてからです。小屋の中に入って思いました。
「雪の時は気をつけないとね」
 自分の黒い身体ではと思ってです、そうしてそのまま寝てしまいました。一つ教訓を得たことを確かめながら。


ダッチェスのお話   完


                       2015・10・12



犬の悪戯。
美姫 「でも、日が悪かったわね」
だな。まあ、悪戯はダメって事だよ、うん。
美姫 「今回も楽しませてもらいました」
ではでは。



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