『新オズの臆病ライオン』




                第五幕  必要なものを受け取りに

 ドロシー達は動物園に行った次の日は会議の場所となるオズの神々の神殿で会議の準備をしていました。
 そこにはオズの国のお役人の人達も働いていましたが。
 役人さんのお一人、エメラルドの都の人である証の緑のスーツとネクタイと靴、ライトグリーンのブラウスを着た若い身だしなみを整えた男の人がドロシーに言ってきました。
「実は飾りたい絵がです」
「ないのね」
「そうです、その絵はオズマ姫とです」
 オズの国家元首である彼女がというのです。
「今回列席される方々と共にいるところを描いた」
「そうした絵なのね」
「オズマ姫は来られないですが」
「オズマはオズの国の国家元首だからね」
 ドロシーは役人さんに答えました。
「だからね」
「はい、絵の中心におられます」
「そうよね」
「ですがその絵がです」 
 ドロシーに残念そうに言うのでした。
「見付かりません」
「この神殿にあるのよね」
「いえ、それが」
 お役人は困ったお顔で答えました。
「どうもない様です」
「あら、そうなの」
「この神殿に持って来たと思ったら」 
 それがというのです。
「どうもです」
「ないのね」
「そうなのです」
「じゃあ何処にあるのかしら」
 ドロシーはそのお話を聞いて考えるお顔になりました。
「一体」
「それはあれじゃないかな」
 ここでかかしが言ってきました。
「実は忘れてきたんじゃないかな」
「忘れてきたといいますと」
「うん、今回この神殿に色々なものを持って来ているね」
 かかしは自分達の周り神殿の中の一室を見回して言いました。見れば紫色でかつてのメソポタミアのそれを思わせる石造りの神殿の中に緑のエメラルドの都の芸術品や装飾品が神殿の中に入れられて飾られています。
「そうだね」
「はい、そうですが」
「それがあまりにも多くてね」
 その為にというのです。
「ついついね」
「忘れてしまいましたか」
「そうじゃないかな」
「ああ、持って行くものがあまりにも多いとね」
 樵もかかしのお話を聞いて頷きました。
「どうしてもね」
「忘れものが出るわね」
「だから持ちものはね」
「あまり多過ぎない方がいいわね」
 ドロシーは樵の言葉に頷きました。
「そうね」
「うん、かかし君が言う通りにね」
「そうなんだ、僕もそう考えたけれど」
 かかしはまた言いました。
「どうかな」
「僕もそうだと思うよ」 
 樵はまた頷いて応えました。
「かかし君の言葉を聞いて思ったよ」
「私もそうだと思うよ、それならね」
 魔法使いも言ってきました。
「ここは都の方に確認しよう」
「あちらにあるかどうかですか」
「そうしたらどうかな」
 こうお役人さんに言うのでした。
「ここは」
「そうですね、では確認します」
「携帯電話でね」
「そうします」 
 お役人さんは魔法使いの言葉に頷いてでした。
 そのうえでご自身の携帯を出して都に残っている同僚の人に尋ねますと暫くしてでした。
「あるそうです」
「ああ、やっぱりそうだね」
「忘れていたみたいです」
「かかし君の言う通りにだね」
「そうでした」
「あったんだ、よかったね」
 ボタンはそのお話を聞いて笑顔で言いました。
「なくしたんじゃなくてね」
「いや、そうも言っていられないよ」
 腹ペコタイガーはボタンに突っ込みを入れました。
「だってね」
「忘れたから?」
「そうだよ、絵はエメラルドの都にあるんだよ」
 だからだというのです。
「僕達は今ギリキンのかなり北の方にいるけれど」
「そこから都となると」
「うん、かなりの距離があるよ」
「それじゃあ飛行機で戻ればいいじゃない」
 ボタンは何でもないといった調子で答えました。
「僕達がここまで来た」
「あの飛行機でなんだ」
「今も街の傍にあるし」
 そこに置いているというのです。
「だからね」
「あれに乗ってだね」
「一気に戻って」
 エメラルドの都までというのです。
「そして絵を受け取ってね」
「ここまで戻るんだね」
「そうしたらどうかな」
「ううん、それはいいけれど」
 トトはボタンのそのお話を聞いて言いました。
「幾ら大事な絵でも飛行機を使ってまでって大袈裟じゃないかな」
「そうかな」
「うん、飛行機を使うならね」
 それならというのです。
「もっと大掛かりな。せめて僕達全員が乗ったり沢山のものを乗せる時だね」
「そういう時になんだ」
「使った方がよくない?」
「あの飛行機を動かせるのはこの中で魔法使いさんだけよ」
 ドロシーも言ってきました。
「自動で動くけれどそうする様に出来るのはね」
「魔法使いさんだけなんだ」
「魔法使いさんはパイロットの資格を持っていて」
 そうしてというのです。
「魔法も使えるから」
「そういえばあの飛行機魔法も使っていたね」
「それもかなり高度なね」
「オズの国で魔法使えるのってね」
「オズマ姫とグリンダさの魔法使いさんだけだったね」
「そう、だからね」 
 ボタンにさらにお話しました。
「あの飛行機はね」
「僕達の中では魔法使いさんしか乗れないんだ」
「そうなのよ、それで魔法使いさんはね」
「いや、今とても忙しいよ」
 魔法使いが申し訳なさそうに言ってきました。
「だからね」
「飛行機は動かせないんだ」
「申し訳ないけれどね」
「そうした事情があるから」
 それでと言うドロシーでした。
「ここは私の魔法の道具でね」
「取りに行くんだ」
「そうするわ、ここでいいのは」
 沢山の魔法の道具を入れた鞄を出しつつ言います。
「空飛ぶ橇ね」
「ああ、橇に乗ってだね」
「サンタさんみたいにね」
 トトに笑顔で答えました。
「そうしてなの」
「エメラルドの都に一気に飛んで」
「それで絵を受け取るわ」
「そうするんだね」
「すぐにね、じゃあ今からオズマにも連絡するわ」
 トトに自分の携帯を出しつつ言いました。
「そうするわ」
「橇っていいますと」
 神宝は空飛ぶ橇と聞いて言ってきました。
「曳く生きものが必要ですね」
「馬とかトナカイとか犬とかね」 
 ナターシャも言います。
「そうした生きものが必要ね」
「ええと、僕達の中でそれが出来るのは」
 ジョージは皆を見て言いました。
「限られているね」
「犬でもトトは無理ね」
 恵梨香はすぐにわかりました。
「小さいからね」
「そうなると臆病ライオンさんは腹ペコタイガーさんだね」
 カルロスは二匹を見て言いました。
「そうだね」
「すいません、腹ペコタイガーさんいいですか?」
 ふとお部屋に入ってきた若いアジア系の女性のお役人さんが言ってきました。
「頼みたいお仕事がありまして」
「僕になんだ」
「はい、神殿のお庭の森のことで」
「虎は森にいるからだね」
「そちらのことでお願いしたいのですが」
「ううん、けれど今橇のお話が」
 腹ペコタイガーはそちらもとなって困りましたが。
 すぐにです、臆病ライオンが言ってきました。
「橇は僕が曳かせてもらうよ」
「君がなんだ」
「僕は森には棲んでいないね」
「ライオンはね」
「森に棲んでいるのは君だから」
「虎だからなんだ」
「森のことは君だよ」
 何と言ってもというのです。
「それでそっちは君が受け持って」
「君は橇を曳くんだ」
「うん、そうしてね」
 そのうえでというのです。
「ここはね」
「君が行って」
「絵を受け取って来るよ」
「そうしてくれるんだ」
「任せてくれるかな」
「君がそこまで言うのなら」
 親友と言っていい彼の言葉を受けてでした、腹ペコタイガーは答えました。
「それならね」
「僕に任せてくれるね」
「そうさせてもらうよ」
「じゃあ私が橇を操るわ」
 ドロシーが言ってきました。
「今オズマに事情をお話したし」
「そうしてくれるんだね」
「今すぐね」
 まさにというのです。
「橇に乗って」
「僕が曳いて」
「行きましょう」
「それじゃあね」
 臆病ライオンも頷いてでした。 
 早速橇が出されてでした、そのうえで。
 皆で一旦神殿のお庭に出てそこで臆病ライオンの身体に橇が付けられてドロシーが乗るとです、ドロシーは臆病ライオンに笑顔で言いました。
「それじゃあね」
「今からだね」
「都に行きましょう、絵はオズマが見付けてね」
 そうしてというのです。
「私達が来ればね」
「渡してくれるんだ」
「そう言ってくれたわ」
 そのオズマがというのです。
「さっき携帯でやり取りをした時にね」
「オズマ姫がそう言うなら」
 それならとです、臆病ライオンも安心しました。そうしてです。
 ドロシーがエメラルドの都に行くわと言うと臆病ライオンは早速駆けだしました、するとすぐにです。
 橇は動きはじめ空を駆りました、そこからは一気にです。
 雪原を滑り下る様に物凄い速さで飛んでいきます、橇を曳く臆病ライオンは空を駆りつつ言いました。
「これは凄いね」
「ええ、風よりも速いわ」
 橇に乗るドロシーも言います、乗っていますがオズの国では生きものには言うだけで充分なので鞭は使っていません。
「もうね」
「そうだよね」
「むしろ飛行機よりもね」
「速い位だね」
「これだとね」
 ドロシーは髪の毛を風にたなびかせ雲と雲の間を橇で駆け抜けつつ言いました。
「都までね」
「あっという間だよ」
 臆病ライオンも鬣を風にたなびかせています。
「それこそ」
「そうね、それじゃあ」
「うん、すぐにでもね」
「都に行きましょう」
「そうしようね」
「そして」
 ドロシーはさらに言いました。
「オズマから絵を受け取って」
「すぐに神殿まで戻ろうね」
「そうしましょう」 
 こうしたお話もしてでした。
 橇はどんどん進み眼下の紫の世界はあっという間に緑に変わってです。
 都に着きました、そして都の真ん中の宮殿のお庭に着陸するとそこにはもうオズマがいて自分の前に滑って降り立ったドロシー達に言いました。
「速いわね、今絵をね」
「持って来てなのね」
「ここに来たところよ」
 こうドロシーにいうのでした。
「そうだったのよ」
「このお庭に」
「ええ、絵はね」 
 これはといいますと。
「宮殿の美術館にあったわ」
「あそこね」
「飾る芸術品はあそこから今回の会議に持って行っていたから」
「美術館に行ったら」
「それでね」
 まさにそれでというのです。
「すぐによ」
「見付かったのね」
「そうなのよ」
 こう言うのでした。
「嬉しいことにね」
「それは何よりね」
「ええ、ではね」
「これからよね」
「これだから」
 緑色の布に幾重にも包んだその絵を差し出して言います。絵の大きさは大体横に五十センチ縦に四十センチ位です。
「この布は魔法の布でね」
「そうなの」
「この布で包んだらかなり小さくなるの」
「どれ位になるの?」
「大体十分の一位よ」
「じゃあこの絵元はかなり大きいのね」
「そうなの」
 こうお話するのでした。
「実はね」
「そうなのね」
「橇に乗せて運ぶにしても」
「私の鞄は何でも入るけれど」
「それでも出す時何メートルもあると大変でしょ」
「そうね、いきなり大きいものが出るとね」
「そう考えてね」
 それでというのです。
「包むと小さくなる布をね」
「使ってくれたのね」
「ええ、それでね」
「絵を出す時は広い場所で出すのね」
「そうしてね、いいわね」
 ドロシーにその絵を両手で持って言いました。
「いいわね」
「そうさせてもらうわね」
 ドロシーも頷きました、そうしてです。
 ドロシーは絵を受け取るとすぐに自分が持っている鞄の中に入れました、絵は鞄の中にあっさりと入ってです。
 ドロシーはオズマに笑顔で言いました。
「それじゃあ今すぐにね」
「神殿に戻るのね」
「そうするわ、そしてね」
 そのうえでというのです。
「絵を飾るわ」
「それではね、あとね」
「あと?」
「皆にご苦労様って伝えて」
 こうもです、オズマは言うのでした。
「そうしてね」
「お役人の人達になの」
「そのことをお願いするわ」
「忘れものをしたことは」
「人は間違えることもあるでしょ」
 オズマはにこりとして答えました。
「皆頑張ってくれている中でね」
「間違えるのならなのね」
「それを言うことはしないわ」
「オズマはそうよね」
「オズの国でもそうでしょ」
「失敗は咎めない」
「だって皆いつも頑張ってるから」
 そうした国なのです、オズの国は。
「楽しみつつね」
「だから間違えても」
「そこは皆でフォローするでしょ」
「ええ、それはね」
「それでよ」
「オズマも咎めないわね」
「ええ、だからね」
 それでというのです。
「皆にはね」
「ご苦労様ね」
「そう伝えてね」
「わかったわ、それじゃあね」
「あと神殿はメソポタミアの神様の神殿だけれど」
「ギルガメスさんのね」
「あの神様にも宜しくね」 
 このことも言うのでした。
「そうしてね」
「それじゃあね」
 こうしたお話もしてでした。
 絵を受け取ったドロシーは出発しようとしますが臆病ライオンはオズマにこんなことを言いました。
「この橇凄く速いね」
「そうでしょ、速さを考えて」
 オズマはにこりとして答えました。
「造ったのよ」
「そうしたものなんだ」
「魔法を入れてね」
「だからあんなに速いんだね」
「もう木挽きの馬と同じだけ、いえお空を飛ぶから」
「もっと速いんだね」
「皆が乗っていた飛行機よりも」
 それよりもというのです。
「さらにね」
「速く進めるんだね」
「そうよ、だからね」
「この橇でだね」
「またね」
「うん、乗って行くよ」
「そうしてね」 
 こうお話してでした。
 臆病ライオンとドロシーはその橇を使ってすぐに神殿まで戻りました、そしてまた音よりもずっと速くお空を駆ってです。
 神殿に着きました、すると皆驚きました。
「もう戻られたんですか」
「さっき行かれたと思ったら」
「都に行かれて」
「戻られたんですね」
「いや、凄いね」 
 魔法使いも自分の携帯を手に驚きを隠せないでいます。
「さっきオズマ姫から絵を渡したって連絡を受けたところだよ」
「そうなのね」
「まさに音よりも速いだね」
 橇から降りたドロシーに言いました。
「これは」
「そうなるのね」
「うん、それで絵だけれど」
「これよ」 
 早速その絵を出しました、鞄からにゅっと出ます。
「貰ってきたわ」
「ああ、その布は」
「何でも包んだらね」
「大きさが十分の一になるんだよ」
「そうした布なのね」
「オズマ姫が造ったんだ」
「そうよね」
 ドロシーも頷きました。
「オズマから聞いたわ」
「それでね」
 魔法使いはさらに言いました。
「この絵は実は大きいから」
「オズマが言った通りにね」
「然るべきお部屋に飾ろう」
 こう言うのでした。
「そうしよう」
「ええ、そうしましょう」
 ドロシーは魔法使いの言葉に頷きました。
「ここはね」
「是非ね、しかしね」
「どうしたの?」
「いや、ボタンの時といいね」 
 魔法使いは微笑んでお話しました。
「ドロシーと臆病ライオン君のお手柄だね」
「絵を持って来て帰ったから」
「それでなんだ」
「どちらもファインプレーだよ」
 魔法使いは笑ってこうも言いました。
「本当にね」
「そう言われてもね」
「僕達は自然にやったから」
「昨日動物園でもお話したけれど」
「ファインプレーでもないよ」
「ははは、当然のことだね」
 魔法使いは普通に言う二人に笑って返しました。
「そうだね」
「ええ、だからね」
「そんな褒められることじゃないわよ」
「オズの国それも責任ある立場だと」
「これ位はね」
「その当然のことを当然に行う」 
 そうすることがというのえす。
「素晴らしいことだよ、だから私はね」
「今なのね」
「僕達を讃えてくれるんだ」
「そうだよ、では絵は飾ろうね」 
 こう言ってでした。
 皆で絵を布に包んだまま然るべきお部屋に持って行ってそのうえでそこで床の上に置いて布を開きました、すると。
 絵は忽ちそれまでの十倍の大きさになりました、そこにはオズマを中心としてギリキンの北の国々の主な人達が描かれていました。
「ハイランドとローランドからはね」
「ドウ一世とチック=ザ=チュラブとバラ=ブルーイン」
「イックスからはジクシー女王」
「ノーランドからはバド王とお姉さんのフラウ王女」
「そしてメリーランドからは女王様」
「そしてキャンディマンさんだね」
 臆病ライオンと腹ペコタイガーは描かれている人達を見て言いました。
「今回の会議に参加する人達だね」
「皆描かれているね」
「そうだね」
 トトも見て頷きます。
「この絵にはね」
「そういえばね」 
 ボタンもその絵を見て言いました。
「この人達って僕も馴染みがあるよ」
「ええ、都の宮殿のパーティーでお会いしてね」
 ドロシーも絵を見ながら言います。
「そしてね」
「それから縁が出来たね」
「そうだったわね」
「あの時はサンタさんもいたね」
「サンタ=クロースさんがね」
「今思うと懐かしいよ」
「本当にそうね」
 二人で笑顔でお話します。
「あの時も何かとあって」
「凄い冒険だったね」
「あの時は私はまたカンサスに帰ったけれど」
「今はずっとオズの国にいるね」
「そこは違うわね」
「何かです」
 神宝達五人もその絵を見ています、そうして神宝が言いました。
「オズの国ならではの人達ですね」
「そうだね、ジンジャーブレッドや蝋やキャンディの身体の人がいて」
 カルロスも言います。
「それで子供の王様とお姉さん」
「ずっと生きている奇麗な女王様に」
 ジョージも言いました。
「おもちゃの身体の熊さんってね」
「如何にもオズの国ね」 
 ナターシャも思って言いました。
「この人達は」
「つぎはぎ娘やガラスの猫やチクタクがいて」
 恵梨香はこの人達の名前を挙げて言いました。
「この人達もいるのね」
「うん、けれど知ってるね」
 かかしが五人にお話しました。
「この人達は最初はオズの国の人達じゃないよ」
「死の砂漠は最初この大陸の海岸までなくて」
「海岸やその先の島にある国々は、でしたね」
「オズの国じゃなかったですね」
「また別の国でしたね」
「オズの大陸にあっても」
「死の砂漠は大陸の海岸に移って」
 そうなってとです、かかしはさらにお話しました。
「そして幅もぐっと狭くなったんだよ」
「そうでしたね」
「それでオズの国はずっと広くなりましたね」
「昔と比べて」
「それでギリキンの北の国々もですね」
「オズの国に入りましたね」
「そうだよ」 
 樵も言ってきました。
「今はそうなってるんだよ」
「リンキティンク王の国もでしょ」
 ドロシーはこの国のお話もしました。
「かつてはね」
「オズの国じゃなかったですね」
「あの人のお国も」
「かつてはそうで」
「オズの国が大陸全体になって」
「それからですね」
「オズの国に入ったでしょ、オズの国は最初は今より小さな国で」
 それでというのです。
「中にある国も人もね」
「少なかったですね」
「今よりも」
「そうでしたね」
「かつては」
「ボームさんが外の世界に知らせていた時は」 
 その頃はというのです。
「死の砂漠はオズの大陸の真ん中の四方を囲む感じであって」
「その中にオズの国があって」
「砂漠の幅も広かったですね」
「今よりずっと」
「それで誰も通れないで」
「オズの国を出ることも入ることも出来なかったですね」
「同じ大陸にいてもね」
 それでもというのです。
「そうだったわ」
「それが砂漠が大陸の海岸の方に移って」
 臆病ライオンも言いました。
「幅もほんの僅かになってね」
「オズの国も広くなって」
「大陸全体になってね」 
 ドロシーにお話しました。
「沢山の国が入ってくれて」
「人も増えたわね」
「今ではね」 
 臆病ライオンはお話を続けました。
「オズの国は大陸とその周辺の海だよ」
「そこまで領土が広がったわね」
「そしてね」
「その周りの海もね」
「オズの国の海だよ」
「そうなっているわね」
「そして外の世界からボームさんと同じ理由で人も来て」
 そうもなってというのです。
「さらにね」
「賑やかになったわね」
「そうだよね」
「サンタさんも来てくれるし」
「あの時もだったね」
「ええ、サンタさんはオズの国の人じゃないけれど」
 それでもというのです。
「神宝達と同じでね」
「オズの国の名誉市民だね」
「そうなっているわ」
 臆病ライオンに笑顔でお話しました。
「あの人は」
「そうだよね」
「あの人がいてくれて」
 それでというのです。
「どれだけ皆夢を持っているか」
「わからないね」
「そうよね、サンタさんは本当にいるかどうか」
「もうそれはね」
「決まっているわ」
 言うまでもないというのです。
「そのことはね」
「サンタさんはいるよ」
「実在するわ」
「そうだよね」
「だからね」
「オズの国にも来てくれるね」
「そうなのよ」
 こう言うのでした。
「そして名誉市民なのよ」
「オズの国のね」
「そのサンタさんの絵もあるよね」
 トトはドロシーに彼女の足下から聞きました。
「そうだね」
「ええ、あるわよ」
 ドロシーはトトに明るく笑って答えました。
「王宮の美術館から持って来たわ」
「そうだね」
「それでね」
「この神殿を飾るね」
「そうするわ」
「この神殿ってね」
 トトはこちらのお話もしました。
「壮麗で神聖でね」
「それで、でしょ」
「うん、重厚な感じがあるね」
「この神殿は何でもね」
 臆病ライオンもトトにお話しました。
「メソポタミアの神様のね」
「確かギルガメスさんの神殿だね」
「それで神塔もあって」 
 そうした建物もというのです。
「その頂上に庭園もあるよ」
「屋上にだね」
「空中庭園っていうんだ」
 神塔の頂上の提案はです。
「そこがまた奇麗らしいよ」
「そうなんだね」
「緑豊かでね」
「へえ、それはよさそうだね」 
 腹ペコタイガーはそのお話を聞いて言いました。
「それじゃあ僕達もね」
「空中庭園に行きたいね」
「とてもね」 
 トトは尻尾を振って答えました。
「今思ったよ」
「バビロンの空中庭園ともいうらしいよ」
 こうもでした、臆病ライオンは言いました。
「何でもね」
「へえ、バビロンなんだ」
「空中庭園なんだ」
「この神殿の庭園はね」
 神塔の屋上にあるそちらはというのです。
「そう言うらしいよ」
「何でもね」
 魔法使いがお話しました。
「ギルガメスさんはメソポタミアの神様だけれど」
「外の世界で言う中近東だね」
 臆病ライオンが応えました。
「確か」
「そう、シュメールとかアッシリアとかバビロニアとかね」
「そんな国があった場所だね」
「フェニキアやヒッタイトという国もあってね」
「ペルシアやマケドニアもだね」
「そうした国もあって」
「アラビアンナイトの舞台でもあったね」
 臆病ライオンは魔法使いに応えました。
「あちらは」
「そう、チグリス=ユーフラテスという川の流域でね」
 それでというのです。
「砂漠が多い場所なんだ」
「そこにだね」
「ギルガメスさんがおられてね」
 そうしてというのです。
「砂漠が多いから」
「川の周りでも」
「周りに緑が乏してくね」
「庭園がだね」
「尊ばれてね」
「それで空中庭園なんだ」
「そうだよ」
 まさにというのです。
「ギルガメスさんもね」
「この神殿になんだ」
「庭園を築いたんだ」
「そういうことだね」
「だからね」
 魔法使いは笑顔でお話しました。
「今僕達は会議の準備をしているけれど」
「それが終われば」
「その時はね」
「空中庭園にだね」
「行くこともね」
 このこともというのです。
「出来るよ」
「時間が出来たら」
「その時はね」
「それじゃあね」
 そのお話を聞いてです、臆病ライオンも笑顔で言いました。
「準備をね」
「皆で頑張ってね」
「早く終わらせようね」
「そうしよう」
 こう言うのでした。
「是非ね」
「それじゃあね」
「そういえばね」
 ここでドロシーが言ってきました。
「空中庭園って紀元前のもので」
「大昔だね」
「それだとね」
 かかしと樵が応えました。
「もうね」
「二十一世紀から見れば」
「そんな大昔だと」
 それならというのです。
「技術だってまだまだで」
「ものもなくてね」
「そんな頃に今で言うビルの屋上に庭園なんてね」
「今じゃ普通でも」
「昔はね」
「相当に凄いことよね」 
 ドロシーはこのことをしみじみとして言いました。
「それって」
「そうだね」
「それもかなりね」
 かかしも樵もそれはと応えます。
「外の世界だと余計にだね」
「魔法だっておおっぴらにないし」
「それだとね」
「相当大変なことだったね」
「ああ、だからですね」 
 神宝がここでふと気付いて言いました。
「空中庭園は世界の七不思議の一つでしたか」
「何が凄いって」
「昔だとそんなものを造ることが」
「そのことが難しかったのね」
「他の世界の七不思議も」
「そういうことだね」
 恵梨香達四人も納得しました。
「要するに」
「ピラミッドとかも」
「確かに昔だと造るの大変だよ」
「人手もかかるし」
「昔はブルドーザーとかクレーン車もないし」
「そうだよ、だからなんだ」 
 魔法使いも五人に言います。
「昔はね」
「とんでもない建築物で」
「不思議だった」
「こんなもの築けることが」
「それで七不思議ですね」
「バビロンの空中庭園も」
「そうなんだ、もっとも今だとね」
 この時代ならというのです。
「別にね」
「不思議じゃないですね」
「空中庭園にしても」
「そして他の世界の七不思議にしても」
「それも同じですね」
「そうですね」
「特にオズの国は魔法もあるから」
 こちらの技術もというのです。
「尚更だよ」
「そうですよね」
「そこは違いますね」
「昔と今は」
「そして外の世界とオズの国は」
「また違いますし」
「だからね」
 このこともあってというのです。
「今は何でもないよ」
「昔と今は違うけれど」
 臆病ライオンはしみじみとした口調で言いました。
「けれどね」
「それでもだね」
「うん、このお話は特にね」
「実感するね」
「そうなってるよ」
「そうだね」
「それじゃあね」
 臆病ライオンはさらに言いました。
「これからどんどん凄い建築も」
「出来る様になるよ」
「そうだね」
「ほら、塔だってね」
 これもというのです。
「オズの国にも凄く高い塔があるね」
「そうだよね」
「流石にユグドラシル程じゃないけれど」
「あの木は特別だね」
「けれどね」
 それでもというのです。
「何百メートルもの高さの塔もあるね」
「そうそう、オズの国には」
「そうした塔なんてね」
「昔はだね」
「オズの国でも築けなかったよ」
 そうだったというのです。
「高層ビルだってね」
「築けなかったね」
「それが今は」
「何百メートルの塔も高層ビルも」
「築ける様になったね」
「そうだね」
「そうなったしこれからも」
 未来もというのです。
「さらにだよ」
「凄いものを築けるね」
「そうなるよ」
 こう臆病ライオンにお話します。
「絶対にね」
「そうだね、じゃあね」
「それならだね」
「そうしたものを築いて」
 そうしてというのです。
「皆に利用してもらって」
「役に立ってもらって」
「楽しんでもらおう」
「そうなっていくんだね」
「是非ね、それで宮殿も」 
 この建物もというのです。
「オズマ姫の宮殿も立派だけれど」
「とてもね」
「他の王様の宮殿もね」
「立派だね」
「天空の天帝さんの宮殿だってね」
「素晴らしいね」
「中国のそれもね」 
 そちらもというのです。
「巨大でかつ壮麗で」
「見事だね」
「そうした宮殿を築くことも」
「昔は大変だったんだね」
「今よりずっとね」
 そうだったというのです。
「空中庭園と同じで」
「そうだったんだね」
「けれど技術が進歩して」 
 そうなってというのです。
「人手も増えてね」
「築ける様になったんだね」
「楽にね」
「建築も色々あるんだ」
「そうだよ、あとオズマ姫は建築は必要なだけするけれど」
「それが何か?」
「うん、外の世界ではあまりね」
 ここで魔法使いは微妙なお顔になって言いました。
「建築をすることはよくなかったんだ」
「あっ、人手を使うから」
「外の世界ではお金もね」
 こちらもというのです。
「資源だってね」
「それでなんだ」
「あまりね」
「建築はなんだ」
「みだりにすることは」
 これはというのです。
「本当にね」
「よくなかったんだね」
「そうだったんだ」
「成程ね」
「だから」
 魔法使いはさらに言いました。
「オズマ姫が建築に夢中でないことはね」
「いいことだね」
「今のオズの国では何でもないことでも」
「建築が好きでないのなら」
「それ自体がとてもいいことだよ」
 臆病ライオンに微笑んでお話しました。
「責任ある立場としてね」
「そうなんだね」
「うん、立派な宮殿は最低限あればね」
「それでいいね」
「そうだよ、無駄にあってもね」
 そうであってもというのです。
「よくないんだ、そうしたことも頭に入れて」
「空中庭園にもだね」
「行こうね」
「うん、神塔のね」
 臆病ライオンも頷きました、そうしてでした。
 皆で会議の準備を進めていきます、皆はその作業も楽しくしていきました。








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