『新オズのカボチャ頭のジャック』




                第四幕  立派な天主閣のあるお城

 皆でギリキンの国に入ってでした。
 緑から紫になった世界を進んでいきます、するとお山の近くに通って。
 そのお山を見るとでした、何とです。
 お山全体が日本の昔の建物お城の門や櫓それに壁に幾重にも覆われていてです。
 頂上には青い瓦と金箔が貼られた壁とです、
 赤い最上階があります、恵梨香はそれを見て言いました。
「あれは安土城ね」
「滋賀県にあったっていう?」
「あのお城なんだ」
「あのお城がそうなんだ」
「戦国時代のお城なんだ」
「間違いないわ、漫画で読んでそのままよ」
 恵梨香はナターシャ達四人にそのお山を見つつお話しました。
「あれは安土城よ」
「そうなのね」
「あれが安土城なんだ」
「物凄く大きくて奇麗だね」
「山全体がお城になっていて」
「そう、あれは安土城だよ」
 ムシノスケ教授もそうだと言いました。
「織田信長さんのお城だよ」
「やっぱりそうなのね」
「そうだよ、あのお城にだよ」
「織田信長さんがおられるのね」
「家臣の人達と一緒にね」
「あの人もオズの国に来られてると聞いたけれど」
「オズの国は夢がある人、沢山のいいことをした人が来るからね」
 そうした国だからだというのです。
「織田信長さんもだよ」
「来られているのね」
「あの人も夢があって沢山のいいことをしたからね」
「あれっ、信長さんって魔王って言われてたよ」
 カルロスは信長さんがいいことをしたと聞いて驚いて言いました。
「第六天魔王だとか」
「敵には容赦しなかったんだよね」
 こう言ったのは神宝です。
「例え身内の人でもね」
「家臣の人達にも恐れられていて」
 ジョージも言います。
「暴君だったんだね」
「そんな人と聞いてるけれど」
 ナターシャもまさかというお顔になっています。
「いいことをしてきたのかしら」
「いや、信長さんは善政を敷いたんだよ」
 こう言ったのはかかしです。
「オズの世界では有名だよ」
「そうなんですか」
「魔王と言われていたけれど」
「怖い人ってイメージですが」
「違うんですか」
「そうなんですか」
「それはイメージでしかなくてね」
 かかしは恵梨香達五人にお話します。
「実際は違うよ」
「怖い人じゃないんですね」
「信長さんは」
「かっとして残酷なことをするとか」
「気性の激しい人って聞いてましたけれど」
「人を人と思わない様な」
「それが違うよ、本当に善政を敷いてね」
 本当の信長さんはというのです。
「無駄な血は流さなかったし優しい人だったんだよ」
「そうだったんですね」
「魔王とか言われてです」
「無慈悲で残酷で」
「容赦ない人と思ってましたが」
「実際は違いますか」
「全くね、結構剽軽で気さくでね」
 そうした人でというのです。
「面白い人だよ」
「ちょっと寄っていかない?」
 ジャックはこう提案しました。
「このお城に」
「安土城にだね」
 樵がジャックに応えました。
「そうするんだね」
「今からね」
「最初からそのつもりだったわ」 
 オズマがこう言いました。
「ここは通ることがわかっていたから」
「だからだね」
「今からね」
「安土城を訪問して」
「そしてね」
 そのうえでというのです。
「信長さんにもね」
「お会いするんだね」
「そう、そして家臣の人達ともね」
 この人達ともというのです。
「お会いするわ」
「そうするんだね」
「じゃあいいわね」
「うん、今からだね」
「安土城を訪問しましょう」
 こう言ってでした。
 オズマは自ら先に出てでした。
 そのうえで安土城の正門に皆を連れて向かいました。そうしてお城を訪問してその正門のところにおいてです。
 門番の日本の具足と槍それに陣笠を被った兵達さんつまり足軽の人達に声をかけようとするとすぐにでした。 
 足軽さん達からです、オズマに言ってきました。
「これはオズマ姫」
「ギリキンに来られると聞いていましたが」
「これよりですね」
「殿に会われますね」
「そうしたいけれどおられるかしら」
 オズマは声をかけてきた足軽さん達に尋ねました。
「信長さんは」
「はい、おられます」
「今は茶を楽しまれています」
「馬術と水練の後で」
「それを楽しまれています」
「そうなのね、ではお会いしていいかしら」
 オズマに笑顔で言いました。
「これから」
「はい、それでは」
「案内致します」
「これよりそうします」
 足軽さん達はオズマに笑顔で応えてでした。
 門を開けてお城の中に入てでした。
 案内してくれました、そのお城の中はです。
「凄いですね」
「城壁に櫓、門が幾つもあって」
「白い壁に瓦が奇麗で」
「空堀も一杯あって」
「階段や坂道も整えられていて」
「そうだね、大きいだけじゃなくて立派だね」 
 ガンプも見て言います。
「このお城は」
「ええ、これが信長さんのお城よ」
 オズマは恵梨香達五人だけでなくガンプにもお話しました。
「素晴らしいでしょ」
「うん、日本のお城の中でもね」
「独特でね」
 こうガンプにお話します。
「そしてね」
「奇麗だね」
「山全体をお城にしてね」
 そうしてというのです。
「その中に櫓があって家臣の人達のお屋敷もあるのよ」
「そういえばお屋敷もあるね」
「中には豊臣秀吉さんのお屋敷もあるわよ」
「あの人のものなんだ」
「あの人は元々信長さんの家臣だったから」
 だからだというのです。
「今は天下人でもないし」
「同じオズの国の人になったからなんだ」
「そうよ」 
 その為にというのです。
「だから織田家の家臣に戻って」
「それでだね」
「今ではね」
「この安土城にもお屋敷があるんだ」
「それでここにおられる時もあるのよ」
「羽柴殿は今はこちらに来られていますよ」
 足軽の人が答えてくれました。
「ご自身のお城から」
「そうなんだ」
「はい、奥方と一緒に」
「そうしているんだ」
「そして殿の茶会に出られています」
 そうしているというのです。
「そうされています」
「そうなんだね」
「ですから」  
 それでというのです。
「お会いになられますよ」
「じゃあ楽しみにしているよ」 
 ガンプも笑顔で頷いてでした。
 皆でお城の中を見回りながら足軽の人達に案内してもらいます、そしてお山の頂上にある天主閣の前に来ますと。
 足軽の人は笑顔で皆にお話しました。
「殿はここにおられます」
「あれっ、ここにおられるんだ」 
 ジャックは足軽の人の言葉に驚いて言いました。
「日本のお城の天守閣って」
「安土城では天主閣ね」 
 オズマが応えました。
「塔の様なものでね」
「人が暮らす場所じゃないよね」
「普通は御殿があってね」
「そこで暮らすね」
「けれどこのお城は違うの」
 安土城はとです、オズマはジャックに答えました。
「天主閣が御殿になっているの」
「そうなんだ」
「そして信長さんもよ」
「天主閣の中で暮らしているんだ」
「そうしているのよ」
「成程ね、だから今もなんだ」
「そうよ、天主閣の中でね」
 まさにこの中でというのです。
「茶会を開いているのよ」
「そうなんだね」
「では中に入りましょう」
「おお、オズマ姫ではないか」
 ここで、でした。
 高い男の人の声がしてです、天主閣の中から細面で切れ長の目できりっとしたお顔立ちの男の人が出て来ました。見れば髷を結っていてお髭は薄く袴姿です。 
 恵梨香はその人を見て皆に言いました。
「この人が信長さんよ」
「この人がなのね」
「あの織田信長さんなんだ」
「日本の歴史でも特に有名な」
「戦国時代の英雄だね」
「そうなんだね」
「如何にも。わしが織田三郎である」 
 ご自身から笑って答えました、その後ろには大勢の髷を結って袴を穿いた人達がいます。
「信長というのは諱であるが今ではそちらで呼ばれておるな」
「あの、諱っていいますと」
「昔はそちらの名前もあったのだ」
 信長さんは恵梨香ににこりと笑って答えました。
「正式な名であるがまず使われず呼ばれなかった」
「そうだったんですか」
「実はわしは織田という姓であるがな」
 今度はこちらのお話をしました。
「これも本来の姓ではないのだ」
「名字が違うんですか」
「わしは平家の出であるから」
「源氏や平家の」
「左様、わしは本来の名で呼ぶと平信長となる」
「そうなんですか」
「だがおおむね織田三郎と呼ばれておった」
 恵梨香達に笑顔でお話します。
「今は普通に織田信長と呼ばれておるがな」
「昔はそうだったんですね」
「江戸時代ではな」
「だからわしもな」
 お猿さんみたいなお顔の小柄な人懐っこい感じの人も言ってきました。
「豊臣秀吉ではないぞ」
「あっ、貴方は」
「人はよく豊臣秀吉と呼んでくれるがな」 
 こう恵梨香に言うのでした。
「羽柴藤吉郎がな」
「戦国時代ではですか」
「普通に呼ばれた名前じゃ」
「そうでしたか」
「今はよいがな」
「昔はですね」
「そうした名前じゃ」
「慣れるのに時間がかかった」
 大柄で濃い髭の人も言ってきました。
「柴田勝家と呼ばれるには」
「丹羽五郎左ではなくな」
 少し小柄で穏やかそうな感じの人です。
「丹羽長秀と呼ばれて諱を使うかと」
「わしはずっと牛助と呼ばれていたのにのう」
 大柄でしっかりとした感じの人です。
「信盛と呼ばれて何かと思ったわ」
「いや、外の世界では随分と変わった様で」
 鋭い目で引き締まったお身体の人です。
「この滝川左近も驚いたことです」
「皆さん織田家の人達ですね」
「左様、わしは前田又左。利家という」
 背が高くて瓢箪みたいなお顔の人が恵梨香に応えてきました。
「宜しくな」
「ははは、皆今ではここで暮らしておる」 
 信長さんが笑って言ってきました。
「織田家に仕えていた者はな」
「そうなんですね」
「さて、こうして来てもらったしのう」
 信長さんはさらに言いました。
「茶を飲むか」
「お茶ですか」
「左様、茶会をしておってな」
 今そうしていてというのです。
「これからな」
「私達もですか」
「飲むか、どうじゃ」
「ええ、お願いするわ」
 オズマがにこりと笑って応えました。
「お茶会にね」
「ではな、わしが煎れよう」
 信長さんはオズマに応えてでした。
 家臣の人達と一緒に皆を天主閣の中に迎え入れました、天主閣の中は吹き抜けになっていてそうしてです。
 天主閣の中は一階一階多くのお部屋があってです。
 襖の一つ一つに神様や仏様それに天女が描かれていてです。
「キリスト教のものもあるわね」
「そうね」
「何となくわかるね」
「昔の日本の絵だけれど」
「天使だって」
「左様、あらゆる教えの絵を描かせた」 
 信長さんは案内役をしながら恵梨香達五人にお話しました。
「この城の襖にはな」
「そうなんですね」
「この城にはあらゆる教えを入れた」
 そうしたというのです。
「そして城の守り、結界にもしたのじゃ」
「そうなんですね」
「あと石垣であるが」
 信長さんはお城のそれのお話もしました。
「使われなくなった墓石や地蔵尊を用いておるが」
「そうされてるんですか」
「それもじゃ」
 そちらもというのです。
「結界じゃ」
「それにされていますか」
「この城は山全体を用いてな」 
 そうしてというのです。
「多くの壁や櫓、空堀を守りとして」
「結界もですか」
「その様にしてな、この天主閣もじゃ」 
 これもというのです。
「あらゆる教えを描かせてな」
「守りにされていますが」
「そうなのじゃ」
「そうですか、ですが信長さんは」
 恵梨香はここまで聞いて信長さんにお話しました。
「神様や仏様は信じないのでは」
「いや、信じておるぞ」
 すぐにです、信長さんは答えました。
「わしもな」
「そう言われていますが」
「違うぞ、信じておるからな」
 だからだというのです。
「城全体をじゃ」
「結界にされていますか」
「あらゆる教えを描かせてな」
 そうもしてというのです。
「そしてじゃ」
「墓石やお地蔵さんもですか」
「用いておる、どれも力があるからな」
 墓石やお地蔵さんの像もというのです。
「だからじゃ」
「それで、ですか」
「用いてな」
「結界にされていますか」
「どうも今の本朝、日本ではわしはそう言われておるな」
 信長さんはご自身から言いました。
「わしが血を好むだの神仏を信じぬだの」
「はい、そう」
「誤解じゃ、わしは血はこれといって好まぬしな」
 まずはこのことを否定するのでした。
「民が幸せに過ごせるならな」
「それならですか」
「よくな、そして神仏もな」
「信じられますか」
「教えを守らぬ僧は好まぬし」
 そうしたお考えでというのです。
「墓石や地蔵尊も只の石でないとじゃ」
「お考えですか」
「だから城の結界にしておる」
「そうですか」
「そしてじゃ」
 それにというのです。
「天主閣と書くな」
「漢字では」
「そうじゃ、天の主じゃ」
 そう書くというのです。
「これもじゃ」
「教えですか」
「そうじゃ、それでじゃ」
「信長さんもですか」
「神仏は信じておる」
「そうなんですね」
「わしは随分誤解されておる」
 信長さんはこうも言いました。
「後の世ではな」
「実際の信長さんは違うんですね」
「そこはわかって欲しいものじゃ」
「そうですか」
「うむ、ではそろそろ茶室であるが」
「はい、お茶ですね」
「皆で楽しもうぞ」
 笑顔で言ってでした。
 一行は今度は茶室に入りました、そしてです。
 そこに入るとでした、そこに一人のお年寄りの髷の人がいました。その人はオズマ達を見るとすぐに言いました。
「オズマ姫ようこそ」
「ええ、今回はお邪魔させてもらうわね」
「それでは」
「爺、茶はわしが煎れるぞ」
 信長さんはお年寄りに笑顔で告げました。
「そうするぞ」
「そうされますか」
「その様にな」
「さすれば」
「この爺が平手五郎左衛門じゃ」 
 信長さんは恵梨香達にこの人の紹介をしました。
「諱は政秀という」
「そうなんですね」
「今はこうして共におる」
「まさか殿が天下人になられるとは思いませんでしたが」
 平手さんは笑って応えました。
「それでに今こうしてオズの国に共におられるとは」
「思わなかったな」
「はい、ですが非常にです」
 平手さんは信長さんに笑顔で応えました。
「満足しております」
「今はじゃな」
「立派な殿のお傍にいられるので」
「爺は何かとわしを心配しておったしのう」
「その殿が天下人になられ」
 そうなってというのです。
「今はオズの国で幸せにされていますので」
「だからか」
「左様です」
 まさにというのです。
「それがしも」
「そうであるな」
「ただ傾くのは変わりませんな」
 このことはというのです。
「そのことは」
「ははは、わしはここでもじゃ」
 オズの国でもとです、信長さんは平手さんに応えました。
「傾いておるぞ」
「それは変わりませんな」
「ずっと傾いていくぞ」
「そして茶でもですな」
「そうするぞ、では姫も他の者達も座られよ」
 信長さんは一行に穏やかな声絵をかけました。
「これより茶を楽しもうぞ」
「それではね」
「ああ、足は崩してよい」
 オズマにこうも言いました、もう座布団は用意されています。
「慣れておらんとな」
「それならなのね」
「よい」
 それはというのです。
「痛くなるからのう」
「そうね、どうしてもね」
「正座に慣れておらんとな」
 どうしてもというのです。
「だからな」
「そうした人は足を崩して」
「そして座ってな」
 そのうえでというのです。
「楽しんでもらう」
「それではね」
「では飲もうぞ」
 こう言ってです。
 信長さんは皆が座ってからお茶を煎れます、そして和菓子が来ましたが。
 信長さんはその和菓子を見て目を細めさせて言いました。
「よいのう」
「あれっ、信長さんってまさか」
「お菓子お好きですか?」
「お茶にはお菓子ですが」
「ひょっとして」
「信長さんお菓子が」
「お菓子だけでないぞ」 
 信長さんは恵梨香達五人に笑ってお話しました。
「果物も好きじゃ」
「殿は昔から甘いものがお好きでな」 
 柴田さんが言ってきました、それも微笑んで。
「瓜や柿をよく好まれてじゃ」
「お菓子もですか」
「お好きなんですか」
「昔からっていいますと」
「戦国時代からですか」
「その頃から」
「そうそう、それでじゃ」 
 今度は前田さんが言ってきました。
「元服前に瓜を齧っておられたのじゃ」
「貴殿達も知っておるかな」
 四角い穏やかなお顔の人が言ってきました。
「それは」
「確か吉法師と呼ばれた時の」
「その時じゃ、わしは池田というが」
「池田恒興さんですか」
「うむ、名を勝三郎という」  
 池田さんは恵梨香に笑って答えました。
「わしは殿がご幼少の頃からお仕えしているが」
「吉法師さんと呼ばれた頃から」
「その頃から甘いものがお好きでな」
 それでというのです。
「瓜や柿を好まれていたのじゃ」
「甘いものをですね」
「そして今もな」
「だからこうしてじゃ」
 信長さんはまた言いました。
「甘いものをじゃ」
「召し上がられるんですか」
「左様、茶を飲んでな」
 そうしてというのです。
「菓子や果物をじゃ」
「お口にされるんですね」
「それが楽しみじゃ」
「殿は今では洋菓子や唐の菓子も好まれるぞ」 
 少しお歳の人が言ってきました。
「紅茶や中国茶も飲まれてな」
「そちらもですか」
「うむ、かく言うこのわし林新五郎通勝もな」 
 ご自身で笑って名乗りました。
「殿のご相伴に預かりな」
「甘いものをですね」
「楽しんでおる」
「いや、甘いものはまことによいのう」
 信長さんは笑ってこうも言いました。
「だから毎日茶を飲みな」
「そうしてなんですね」
「楽しんでおるのじゃ」
「ううん、何か意外ですね」 
 恵梨香はここまで聞いて言いました。
「信長さんが甘いものがお好きなんて」
「お酒がお好きと思ってました」 
 神宝は正直に言いました。
「信長さんは」
「日本でお話を聞いてますと」
 それならとです、ジョージも言います。
「信長さんが甘いものがお好きとは思えなくて」
「本当に意外です」
 カルロスもこう思っています。
「だからお茶がお好きですか」
「何か凄く楽しそうですね」
 ナターシャは信長さんのにこにことしたお顔を見ています、そのうえでの言葉です。
「今の信長さんは」
「実は酒が全く駄目でのう」
 信長さんは言いました。
「今もほぼ飲まぬ」
「えっ、そうなんですか」
「お酒駄目なんですか」
「信長さんは」
「そうなんですか」
「お好きな様に見えて」
「全く駄目でな」
 それでというのです。
「外の世界におった頃はちょっと口をつけるだけであった」
「それで後はだね」
「うむ、飲まなかった」 
 ジャックに笑って答えました。
「公の場ではどうしても飲まねばならぬ時もあったが」
「少しだけなんだ」
「口をつけてな」
 そうしてというのです。
「飲まなかった」
「そうだったんだね」
「ほんの少しで酔い潰れてな」
 そうなってというのです。
「頭が痛うなったのじゃ」
「二日酔いっていうのかな」
「左様、オズの国ではないがな」
「それでもなんだ」
「今も酒よりな」
「甘いものだね」
「そちらの方がずっとよくな」
 そうしてというのです。
「いつも楽しんでおる」
「洋菓子や中国のお菓子もだね」
「ケーキも杏仁豆腐もな」
「お好きなんだ」
「ジャムをたっぷりと使ったものなぞじゃ」
 信長さんは楽しそうにお話しました。
「好きで好きでたまらぬ」
「そこまでなんだ」
「好きでな」
 それでというのです。
「明日食するつもりじゃ」
「それで、です」
 信長さんの近くにいる物凄く整ったお顔立ちの若い人が言ってきました。
「殿は外の世界では言われているそうですね」
「何てかな」
「はい、身体を壊されていたと」
 こうかかしに答えました。
「言われています」
「そうなんだね」
「糖尿病という病だったと」
「ああ、外の世界ではあるね」
「甘いものがお好きとのことで」
「そんなお話があるんだ」
「そうだったのです」
「成程ね」
 樵も頷きました。
「それだけ甘いものがお好きだったんだ」
「そうなのです」
「そして外の世界ではだね」
「お酒が好きだとです」
 その様にというのです。
「言われています」
「それじゃあ糖尿病という病気も」
「はい、私達の頃は飲水病と言われていますが」
 その病気はというのです。
「お酒のせいでなったとです」
「思われているのかな」
「その様です」
「成程ね」
「ですがこの通りです」
 その人はさらに言いました。
「甘いものがお好きです」
「それも大好きだね」
 教授も言います。
「そうだね」
「そうです、ですから今もです」
「和菓子をだね」
「召し上がられます、そして私達もです」
「食べるんだね」
「ご相伴に預かります」
 そうするというのです。
「これから」
「そうだね」
「はい、楽しみです」
「そうだね、ではね」
「皆さんも召し上がって下さい」
 こう言うのでした。
「それが出来ない方々は雰囲気を楽しまれて下さい」
「うん、ただ貴方は誰かな」
 ガンプはその人の言葉に頷きながらそうして言いました。
「一体」
「森蘭丸といいます」
 ガンプに率直に答えました。
「こちらでも殿にお仕えしています」
「森さんっていうんだ」
「はい、以後お見知りおきを」
「僕はガンプ、宜しくね」
「いや、お主達のことは皆知っておるぞ」
 信長さんが明るく笑って言ってきました。
「もうな」
「そうなんだ」
「お主達はオズの国の名士達であるからな」
 それ故にというのです。
「もうじゃ」
「皆知っているんだ」
「うむ、この城におる誰もがな」
「そうだったんだね」
「それでじゃ」
 信長さんはさらに言いました。
「オズマ姫にもな」
「私にもなのね」
「存分に召し上がってもらいたい、当然おかわりもあるからのう」  
 そちらもというのです。
「存分にな」
「それではね」
「うむ、楽しんでもらおう」
 笑顔で言ってでした。
 信長さんはお茶を飲んでです。
 和菓子も食べます、和菓子は淡い青や桃色それに白で、です。
 餡子や小麦の柔らかい生地それに葛や小豆が使われていてです。
 上品な甘さです、オズマはその和菓子達を食べてにこりとなりました。
「これはね」
「美味いであろう」
「ええ、凄くね」
「いや、いつもこうしたものを食ってじゃ」
 信長さんも楽しく食べて言います。
「わしは楽しんでおるのじゃ」
「この安土城で」
「そうしておる」
「家臣の人達と皆で」
「そして普段の食事はな」
 そちらはといいますと。
「八丁味噌でな」
「赤いお味噌ね」
「そして海老に鶏にな」 
 こうしたものにというのです。
「きし麺等をじゃ」
「食べているのね」
「名古屋のものをな」
「外の世界で言う」
「わしはそこの生まれであるからのう」
 だからだというのです。
「そうしたものが大好きじゃ」
「それで殿は焼き味噌がお好きで」
 秀吉さんが言ってきました。
「いつも食されております」
「焼き味噌?」
「お味噌に刻んだ葱や生姜を入れて混ぜて板につけて焼いたものです」
 秀吉さんはオズマに説明しました。
「それが大好物で」
「それでなのね」
「朝昼晩とです」
「焼き味噌を食べているのね」
「それと甘いものにです」
 それにというのです。
「外の世界で言う名古屋の食べものがお好きです」
「きし麺とか海老とか」
「鶏の料理もお好きでして」
 それでというのです。
「モーニングもです」
「モーニング?」
「喫茶店で出る朝食でして」
 それでというのです。
「量が多くてそれもです」
「お好きなのね」
「あと鉄板のナポリタンも」
「どれも大好きじゃ、味噌カツも好きでな」
 こちらもというのです。
「ういろうもじゃ」
「それは甘いものね」
「今は食しておらんがな」
 信長さんご自身がオズマにお話します。
「ういろうもじゃ」
「そうなのね」
「あとな」  
 信長さんはオズマにさらにお話しました。
「食いもの以外では相撲と鷹狩りがな」
「趣味ね」
「そうじゃ、こうしたものが好きでのう」
「お相撲好きなの」
「運動は馬術に水練にな」
 そうしたものでというのです。
「槍に弓じゃ」
「運動もお好きなのね」
「そうなのじゃ」
「甘いものがお好きで」
「それでじゃ」 
 そのうえでというのです。
「日々武芸にもな」
「それが運動ね」
「皆と楽しく過ごしておる」
「それは何よりね」
「茶器も集めてのう。金魚も観て」
「あら、金魚もなの」
「好きじゃ」
 オズマに笑ってお話します。
「ギャマン、ガラスじゃな」
「その水槽に入れて」
「そしてじゃ」
 そのうえでというのです。
「眺めることもじゃ」
「好きなのね」
「そうして日々を過ごしておる」
「オズの国では」
「楽しくな。天下布武でなくな」
 そうでなくというのです。
「今のわしは楽しくじゃ」
「過ごしているのね」
「うむ、それで姫はこれから北に向かわれるな」
 信長さんはオズマに尋ねました。
「そうだるな」
「ええ、水田と南瓜畑を開拓、開墾するから」
「そこに行くな」
「そうするわ」
「いつも政に励んでおられるな」
 信長さんはしみじみとして言いました。
「お見事じゃ」
「そう言ってくれるのね」
「わしよりも遥かに見事な政をしておるしな」
「信長さんよりも?」
「うむ、実にな」
 こう言うのでした。
「見事であるぞ」
「それは褒め過ぎじゃないかしら」
「いやいや、確かにな」 
 綺麗な和菓子、食べるのが惜しい位のそれをとても美味しそうに食べながらそのうえで言うのでした。
「オズマ姫の政はじゃ」
「いいのね」
「このまま頑張ってもらいたい」
「それじゃあね」
「これからどんどんじゃな」
「オズの国をよくしていくわ」
 オズマも約束しました。
「これからもね」
「そうされるな」
「オズの国は何処までもよくなるから」 
 そうした国だからだというのです。
「これからもね」
「政に励み」
「そしてね」
「よりよい国にしていかれるな」
「そうしていくわ」
 こう言うのでした。
「思えば百年以上前とも全然違うし」
「あの、ドロシーが最初に来た時とね」 
 ジャックが言ってきました、彼とかかしに樵そしてガンプは飲んで食べる必要がないので雰囲気を楽しんでいます。
「オズマと二人で旅に出て行方不明になって」
「皆で探してくれた時ね」
「それだけを比べても」
「オズの国は全く違うわね」
「色々な人達が出て来て」
 そうなってというのです。
「それで色々なものもね」
「出て来たわね」
「潜水艦も出て来たし」
 こうしたものもというのです。
「本当にね」
「確かに変わったわね」
「そして今はね」
「テレビもパソコンもあって」
「ヘリコプターやジェット機もあってね」
「携帯電話もあるわ」
「かなり変わったよ」
 そうなったというのです。
「別の国みたいにね」
「ええ、列車もね」
「今は電車だね」
「リニアモーターカーもあるわ」
「科学だけでなく魔法も使った」
「そうしたね」
 こうオズマにお話します。
「凄いものがどんどん出て来て」
「変わったわね」
「自動車も出てね」
「変わったね」
「オートバイも出て」
「お空を飛べる様になったよ」
 こうお話するのでした。
「今ではね」
「ドローンもあるし」
「今のオズの国もね」
「そうね、本当に」
 オズマも頷きます。
「昔と全く違うわ」
「そうだよね」
「そうなったのもオズマ姫の善政があればこそ」
 信長さんは笑ってお話しました。
「我等も楽しく過ごせる」
「今みたいに」
「実はここには武田殿も上杉殿もおられるが」
「武田信玄さんに上杉謙信さんだね」
「そうじゃ、あの御仁達もおられるが」
 ジャックにお茶を飲みつつ応えました。
「仲良くしておるぞ」
「それもいいんだね」
「わし等は外の世界ではいがみ合っておったが」
 それがというのです。
「今では住んでおるところは離れておるが」
「それでもだね」
「仲良くしておるぞ」
「そうしてるんだ」
「そうなっておるのもな」
「オズマの善政があってだね」
「それでじゃ」
 それがあってこそというのです。
「仲良く出来ておる」
「若し政治が悪いと」
「オズの国でもな」
 とても平和で楽しい国ですがというのです。
「酷いものになってな」
「信長さんもだね」
「こうして楽しく過ごせぬ」
「オズマの政治がいいからこそだね」
「そうじゃ、例えば前のノーム王が心が入れ替わる前だとな」
 それならというのです。
「どういった政治になる」
「とんでもないことになるね」
「だからな」 
「オズマの政治がいいことはだね」
「実に素晴らしいことじゃ」
「オズの国にとって」
「そうじゃ」
 まさにというのです。
「わしもそう思っておる」
「だから今もそう言うんだ」
「そうじゃ、だから姫にはこれからもお願いしたい」
 ジャックとお話しつつオズマを見て言います。
「よき政をじゃ」
「これからもずっとだね」
「そうしてもらいたい、わしでよかったら協力させて頂く」 
 こうも言う信長さんでした。
「喜んで」
「及ばずながら我等も」
「何なりとお話して下さい」
 家臣の人達も言ってきました。
「オズの国の為に」
「何でもお話下さい」
「その気持ち受け取らせてもらうわ」
 オズマは信長さん達ににこりと笑って応えました。
「そして本当にね」
「何かあればであるな」
「お力を借りるわ」
「是非な、では今はな」
「ええ、ここでね」
「茶を飲もう」
「そしてお菓子を食べるのね」
「そうしようぞ」 
 今も笑顔で言ってでした。
 信長さんはお茶を飲んでお菓子を食べます、そしてその後はです。
「では夕食までじゃ」
「何をするのかな」
「馬に乗るか」
 こうジャックに言うのでした。
「それか水練をしてな」
「身体を動かすんだね」
「身体を動かしてこそじゃ」 
「美味しいものが食べられるのかな」
「そしてすっきりする」
 気分がというのです。
「よい汗をかいてな」
「だからなんだ」
「そうして身体を動かすか」
 馬術か水練で、というのです。
「どうじゃ」
「そうだね、僕は飲むことも食べることもしないけれど」 
 それでもとです、ジャックは信長さんに答えました。
「けれどね」
「それでもであるな」
「他の人達は違うからね」
「オズマ姫達はのう」
「じゃあそうしよう」
「さて、どれがよいが」
「馬に乗りましょう」
 オズマが言ってきました。
「そうしましょう」
「そちらか」
「ええ、そちらで汗を流して」
 そうしてというのです。
「その後でね」
「食事じゃな」
「そうしましょう」
「うむ、ではそうしようぞ」 
 信長さんも笑顔で頷いてでした。
 お茶と和菓子の後は皆で馬に乗りました、そしてその後で山や海それに川の珍味を揃えたご馳走を頂きました。その後でお風呂に入って天主閣に用意されたお部屋で休みました。








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