『オズのラゲドー王』




                第六幕  巨人の家でのおもてなし

 一行は何日も森の山道を進んでいきます、そうして山も幾つか越えましたが。
 トロットはある朝皆に言いました。
「明日はあの巨人の夫婦のお家がある山に着くわよ」
「あのお城ですか」
 ナターシャはトロットの今のお話に思わず暗いお顔になりました。
「いらなくなったものを何でも魔法で変える」
「ご主人は捕まってましたよね」 
 神宝も暗いお顔です。
「ユープさんですね」
「ご夫婦でよくない人達で」
 ジョージはこう思っています。
「オズの国でも評判が悪かったですね」
「あの人達のところに行くのは」
 どうかとです、恵梨香も心配な感じです。
「ちょっと」
「魔法で姿を変えられないですか?」
 カルロスもかなり心配しています。
「あの人のお家に行ったら」
「大丈夫よ、奥さんは樵さん達の姿を魔法で変えてからそのことがわかって処罰されて今は改心しているし」
 トロットは五人に笑顔でお話しました。
「魔法も返上したから」
「あっ、そうなんですか」
「そういえばオズの国で魔法を使う人達は制限されていましたね」
「オズマとグリンダさん、魔法使いさんの三人だけでしたね」
「そうなっていましたね」
「だからですか」
「もう魔法も使わないし」
 それでというのです。
「改心しているしご主人もね」
「捕まっていてですね」
「それで山の中にいましたね」
「その時は改心していない感じでしたが」
「それでもですね」
「今はちゃんとですか」
「そう、改心していて」
 それでというのです。
「今は悪いことはしない人達になっているわ」
「この辺りは村があるけれど村の人達とも親しいよ」
 キャプテン=ビルもお話しました。
「あの人達は今はね」
「昔は人付き合いもなくて」
「それで隠れていましたね」
「悪いことがしているのがばれることも恐れて」
「それで山の中のお城に住んでいましたけれど」
「今ではですか」
「そうした人達になっているんだ」
 キャプテンも五人にお話しました。
「だからね」
「安心してですか」
「お城に入っていいですか」
「そしてお会いしていいんですね」
「そのユープさんのご夫婦とも」
「そうなんですね」
「そうだよ」  
 実際にというのです。
「だからこのまま行こうね」
「いや、ギリキンに来ることもあまりないしね」
 カエルマンは至って上機嫌です。
「ご夫婦に会うことも楽しみだよ」
「そうなんですね」
「カエルマンにしてみるとなんですね」
「お二人とお会いすることが楽しみですか」
「そうしたことをしてきたんですが」
「それでもですね」
「過去のことだからね」 
 巨人の夫婦の行いはというのです。
「だからね」
「それはそうですね」
「言われてみますと」
「今は違いますね」
「過去は過去で」
「今は今ですね」
「大事なのは今」
 クッキーも言ってきました。
「過去は今に生かすもので」
「大事なのは何かといいますと」
「やっぱり今ですね」
「過去はもう過ぎたことで」
「今がどうか」
「それが一番大事ですね」
「そうだからね」
 それでというのです。
「私もご夫婦に会うことが楽しみよ」
「それを言ったらこの人なんてどうなるか」
 ビリーナは前ノーム王を見つつ五人に言いました。
「そうでしょ」
「あっ、確かに」
「そう言われるとそうだね」
「この人の過去はね」
「何度もオズの国に悪いことをしようとしたから」
「ご夫婦よりも遥かに」
「だからね」
 それでというのです。
「過去は参考にするけれど」
「大事なのはあくまで今で」
「今をどうしていくか」
「そうしたものだから」
「ご夫婦のところに行っても」
「問題はないのね」
「一切ね。このまま行って」
 そうしてというのです。
「お会いしましょう」
「わしはお二人のことは聞いていたけれど」
 お話に出た前ノーム王も言ってきました。
「しかしね」
「会ったことはないのね」
「そうだよ」
 こうビリーナに答えました。
「だから一体どんな人達か」
「お会いして」
「そしてね」
 そのうえでというのです。
「この目で確かめたいよ」
「そうよね」
「だからね」
 それでというのです。
「早くお二人のお家に行きたいね」
「お城に」
「そうしたいよ、それじゃあ」
「このまま進んでいきましょう」
 こうしたお話をしてでした。
 皆は森の中の黄色い煉瓦の道を進んでいってそうして岩山の中にあるお城に着きました。するとです。
 樵の恰好をした十メートル以上の大きさの巨人の男の人、顔中ダークブラウンの濃い髭の男の人が出て来ました、するとその人は驚いて言いました。
「まさかあんたは」
「あんたっていうと?」
「そちらのノームの旦那だよ」
 ビリーナに前ノーム王を見ながらお話しました。
「ラゲドーさん、前のノームの王様じゃないか」
「如何にも。前の名前はロークワットといったよ」
 前ノーム王が直接答えました。
「わしはな」
「やはりそうか」
「旅に出ていてね」
 前ノーム王は巨人の男の人を見上げてお話しました。
「プレーリードッグの街にいたら」
「そこでかい」
「この人達に会ったんだ」
 トロット達を見ながらお話します。
「そしてだよ」
「そのうえでだね」
「この人達と一緒に旅行をしているんだよ」
「そうなんだね」
「イッソスの国に行って」
 このこともお話するのでした。
「そこでお寿司を食べるんだ」
「お寿司、日本の食べものか」
「それをだよ」
「ああ、お寿司を食いに行くのか」
「皆でね」
「それはいいな、それであんた達うちに来たなら」
 今度は巨人の方から言ってきました。
「一晩どうだい?」
「泊まっていいのね」
「今うちは宿屋でもあるからね」
 巨人はトロットに笑顔で答えました。
「だからね」
「それでなのね」
「よかったら泊まっていくといい」
 こう言うのでした。
「あんた達さえよかったら」
「それじゃあお言葉に甘えて」
「ああ、もう夕方だしな」
 巨人は時間のことにも言及しました。
「それじゃあな」
「今夜はね」
「泊まるといいさ、飯も風呂も寝るところもある」
 その全てがというのです。
「そして女房もいるしな」
「それで貴方がユープさんですね」
 ナターシャは巨人を見上げて彼に尋ねました。
「そうですね」
「自己紹介が遅れたがそうだよ」
 巨人はナターシャに笑顔で答えました。
「如何にもわしがユープだよ」
「やっぱりそうですね」
「刑期を終えて家に戻ってね」 
 このお城にというのです。
「そしてだよ」
「このお家で暮らしているんですね」
「今はそうしているよ、女房と一緒にね」
「そういうことですね」
「さて、ではね」
「今からですか」
「中に入ってくれるかな」
 お城の門は開けたままです、そのうえでのお誘いです。
「これから」
「それでは」
 ナターシャも他の子達も笑顔で応えてでした。
 皆はお城の中に入りました、お城の中は中世の欧州の山にあった騎士の人達が住む石造りのものでした。
 廊下には絨毯が敷かれ壁の左右には燭台があります、ですが。
 何もかもが巨大です、それこそ一行が使う分の十倍位の巨大さです。ナターシャはその巨大さに驚いています。
「巨人のお城だから」
「それでよね」
「この巨大さだね」
「物凄く大きいけれど」
「巨人の人達の場所だから」
「これだけの大きさなのね」
 ナターシャは恵梨香達四人とお話しました。
「そういうことね」
「そう、この城はわし等が築いたからだよ」
 お城の中を案内しているユープさんが答えました。
「だからだよ」
「この大きさですね」
「巨人には巨人のサイズがあるね」
「はい」
 ナターシャはその通りだと答えました。
「それは」
「だからだよ」
「このお城はですね」
「わし等が住んでいるから」
 それ故にというのです。
「この大きさだよ」
「そういうことですね」
「そして」 
 ナターシャにさらにお話しました。
「他のものもだから」
「そうなんですか」
「そのこともね」
「これからですね」
「見てくれるかな」
「それじゃあ」
 ナターシャも他の子達も頷いてでした、お城の中を案内してもらってそうしてからお城の食堂に案内させてもらいました。
 するとです、そこには赤い丈の長いスカートとベストそれに白いブラウスと青のエプロンの巨人の女の人がいました。ユープさんはその人の隣に来て紹介しました。
「わしの女房だよ」
「ユープ夫人と言われているわ」
 奥さんの方もから名乗りました。
「宜しくね、それでだけれど」
「どうしたのかしら」
「その子達がオズの名誉市民の子達で」
 トロットにナターシャ達五人を見ながら尋ねました。
「それでそこにいるノームの人が」
「ラゲドーさんよ」
「そうよね」
「わしもさっき同じやり取りをしたよ」
 ユープさんが言ってきました。
「丁度」
「そうなのね」
「うん、それでだが」
 奥さんにさらにお話します。
「これから食事を用意してくれるか」
「わかったわ、じゃあ今晩のメニューをね」
「それをだね」
「作るわ。もうお風呂は入られるから」
「では食事を待つ間は」
「お風呂に入ってもらいましょう」
「それではね」 
 こうしたお話をしてでした。
 一行はまずはお風呂に入りました、お風呂は男湯と女湯に分かれていました。そうしてお風呂を楽しんでからです。
 ナターシャ達五人は驚いたお顔でお話しました。
「凄かったわね」
「お風呂も巨大だったね」
「まるでプールだったよ」
「普通の人のシャワーや蛇口や桶もあったけれど」
「湯舟の大きなこと」
「だからここは巨人のお城よ」
 トロットが五人にお話しました。
「だからよ」
「お風呂も巨大なんですね」
「その造りが」
「巨人の人に合わせられているから」
「それで、ですね」
「あの大きさなんですね」
「巨人のお家は巨人が住む場所よ」
 まさにそれだというのです。
「だからよ」
「この造りなんですね」
「私達から見れば巨大で」
「あの大きさですね」
「他の場所と同じで」
「ああなっているんですね」
「そうなの。それで他の場所も」
 そこもというのです。
「そうで食べものもよ」
「凄いよ、ここの食べものは」
 キャプテンも言ってきました。
「これからご馳走になるけれど」
「一体どういった大きさか」
「この目で見させてもらいます」
「食べものについても」
「そうさせてもらいます」
「そうしようね」
 こうお話してでした。
 お風呂から上がった皆は食堂に戻りました、すると。
 とてつもない量の、十人前はあるポークソテーにサラダ、マッシュポテト、オニオンスープにパンそしてデザートのゼリーがありました。
 そのとんでもない量の夕食を巨人が使う巨大なテーブルの上で見てでした。ナターシャ達はまたしても驚きました。
「巨人のお城だから」
「それで食べものも多いんだね」
「十人前はあるけれど」
「一品一品が」
「これだけの量なのね」
「そうよ、これだけの量だから」
 トロットが五人に言ってきました。
「充分でしょ」
「はい、これだけありますと」
「僕達が分けて食べると充分ですね」
「普通に食べられますね」
「皆で分けて食べて」
「そうですね」
「だからね」
 それでというのです。
「今から食べましょう」
「遠慮は無用だよ」
 ユープさんも言ってきました。
「どんどん食べてね」
「わかりました」
 住人はユープさんの言葉に頷きました、そうしてです。
 出されたお料理を皆で分けながら食べました、全て食べ終えると皆お腹一杯でした、ただユープさんはといいますと。
 食べ終わってからここにいる皆がすっぽり入る様な巨大なガラスのジョッキでビールを飲んでいます、そうしてソーセージを食べますが。
「やっぱり夜はだよ」
「ビールっていうのね」
「如何にも」
 こう奥さんにも応えます。
「食後のこれだよ」
「いつもよく食べるわね」
「ははは、よく食ってよく働く」
 それがというのです。
「わしの楽しみだからな」
「それでなのね」
「こうしてだよ」
「よく飲んで」
「そしてだよ」
 そのうえでというのです。
「よく寝て」
「よく働くのね」
「そうするのだよ」
 二十リットル近くはあると思われるビールを凄い勢いで飲みながら言うのでした。
「わしはな」
「樵のお仕事に」
「宿屋のそれもだよ」
 まさに両方というのです。
「そうするのだよ」
「そうね、じゃあもう一杯」
「もう二杯貰おうか」
「それだけ飲むわね」
「ビールは大好きだからな」
「ううん、飲むものだ」
 前ノーム王はユープさんの飲みっぷりを見て唸りました。
「やはり巨人だけはある」
「そうね」
 トロットは前ノーム王の言葉に頷きました。
「流石よ」
「全くだ、そしてその飲みっぷりを見ていると」
「貴方もよね」
「飲みたくなったよ」
 そのビールをというのです。
「どうもね」
「それはわしもだ」
「私もだよ」
 キャプテンとカエルマンも続きました。
「この飲みっぷりを見ていると」
「どうにもね」
「じゃあ今から出すわね」
 トロットはテーブル掛けを出しつつ三人に応えました。
「ビールをね」
「そうしてくれるんだね」
「今から」
「ビールを飲ませてくれるんだね」
「どうにも飲みそうで仕方ないから」
 三人を見ていると、とうのです。
「それではね」
「うん、ではね」
「おつまみは軽くナッツ類にして」
「それで飲ませてもらうよ」
「お腹一杯食べたからね」
「おつまみはそういうのでいいよ」
「では出してくれるかな」
 トロットは笑顔で頷いてでした。
 ジョッキのビールにナッツ類を出しました、すると三人は早速ナッツ類をおつまみにしてビールを飲みました、前ノーム王はキャプテンそれにカエルマンと乾杯をしてです。 
 満面の笑顔でビールをごくごくと飲みました、そして飲み終わってから言いました。
「いやあ、実に美味い」
「全くだ、最高だ」
「幸せを感じるよ」
 キャプテンとカエルマンもにこにことして言います。
「旅をしてじっくり歩いてお風呂に入って」
「そして食べてね」
「その最後に飲むビールはね」
 まさにというのです。
「最高だね」
「それでだよ」
 ユープさんも言ってきました、今も飲んでいます。
「わしは一日の最後には」
「こうしてだね」
「ビールを飲んで」
「そうしてだね」
「楽しんでいるんだ、毎晩ね」
 こう言うのでした。
「そして寝ているよ」
「毎日物凄く飲んで」
 奥さんも言ってきました。
「そしてなの」
「ご主人はお休みになるんだ」
「そうなのよ」
 こう前ノーム王に答えるのでした。
「本当にビールが好きでね」
「これがあれば文句はないよ」
 また飲みながら言うご主人でした。
「わしは」
「そうなのだね」
「毎晩のビールがね」
「うちの人はそうなの。無欲で」
 奥さんがまた言います。
「ビールがあれば」
「そうだよ、では今夜も」
「徹底的に飲むわね」
「そうさせてもらうよ」
 こう言ってでした。
 ご主人も前ノーム王達も飲みました、他の面々は甘いジュースやお茶を楽しみました。そうして歯磨きの後で。
 皆寝てです、朝早くにご夫婦と笑顔で分かれて旅を再会しました。そして六時になると朝ご飯を食べますが。
 先に進みながらです、トロットは皆に言いました。
「この森には豹がいるのよ」
「ああ、そうだったね」
 キャプテンが確かにと頷きました。
「樵さん達が出会っていたね」
「ええ、そこにね」
「豹がいるね」
「そしてその先にはね」 
 さらにというのです。
「ドラゴン達がね」
「いるね」
「ええ、そこを進んでいきましょう」
「いや、森も色々な生きものがいるとね」 
 前ノーム王がここで言いました。
「今ね」
「思ったのね」
「再認識しているよ」
 こうトロットに答えました。
「本当にね、実は地中にいた時は豹もあまり見なかったよ」
「地上の生きものだから」
「だからだよ、しかしこれから出会えるなら」
 それならとです、トロットに笑顔でお話しました。
「楽しくね」
「会うのね」
「そうさせてもらうよ」
 笑顔で言ってでした。
 皆は岩山から森に入りました、そうして進んでいるとです。
 木の上から声がしてきました。
「やあ、何処に行くのかな」
「おお、出て来たね」
 前ノーム王はその声に反応してその木の上を見上げて言いました。
「君がこの森の豹だね」
「そう言う貴方はラゲドーさんだね」
「そうだよ、会えて光栄だよ」
「こちらこそね。しかしね」
「しかし?」
「いや、君はとんでもなく悪い人と聞いていてね」
 それでというのです。
「どんな悪そうかと思っていたら」
「それがなんだね」
「違うね、にこにことして目がきらきらとしていて」
 そうしてというのです。
「善人だってわかるよ」
「そうなんだね」
「今の君はね」
 そうだというのです。
「そう思えるよ、さて」
「さて?」
「見下ろしてのお話は失礼だから」
 それでというのです。
「下りるね」
「そうするんだね」
「ちょっと待ってね」 
 こう言ってひらりとでした。
 豹は木の上から皆の前に跳び下りました、そしてです。
 皆にあらためて挨拶をしました、皆は豹に挨拶を返しました。カエルマンはその後でこんなことを言いました。
「身軽だね、君は」
「豹だからね」
 豹は笑顔で答えました。
「だからだよ」
「それでだね」
「豹は虎より身軽だよ」
「それで木登りも得意で」
「下りるのもだよ」
 こちらもというのです。
「得意なんだ」
「そうだね」
「着地だってね」
 それもというのです。
「この通りだよ」
「得意なんだね」
「そうなんだ」
「ピューマやジャガーも身軽だけれど」
 クッキーも言います。
「豹も負けていないわね」
「オオヤマネコやオセロットにもだよ」
 豹はこうした生きものの名前も挙げました。
「負けていないよ、そうみたいね」
「もう森の中、木の上なら」
 それこそというのです。
「豹は一番だよ」
「素早く動けるわね」
「猿にも負けないよ」
「そこまでなのね」
「そうだよ、それで君達は何処に行くのかな」
 豹はここでこのことも尋ねました。
「これから」
「イッソスの国に行くのよ」
 ビリーナが答えました。
「そこで皆でお寿司を食べるの」
「へえ、そうなんだ」
「だからこの森を北に抜けて」
「さらに行くんだね」
「そうするわ」
 こう豹にお話しました。
「これからね」
「わかったよ、じゃあ美味しく食べてきてね」
「そうするわね」
「僕はお魚はあまり食べないけれど」
 それでもというのです。
「楽しんできたらいいよ」
「そうさせてもらうわね、じゃあまたね」
「うん、またね」 
「ただこの先にいるドラゴン達はいびきが五月蠅いから」
 豹は別れ間際にこのことを言いました。
「注意してね」
「そんなに五月蠅いの」
「まるでヘリコプターの音みたいにね」 
 トロットに答えました。
「昼寝の時はそうだから」
「だからなのね」
「お昼あそこを通るなら注意してね」
「有り難う、気を付けるわ」
 トロットは豹の言葉に頷きました、そうしてです。
 豹と手を振り合って別れました、それからまた先に進みますが次第に森の先の方から物凄いいびきが聞こえてきました。
 そのいびきを聞いてです、ナターシャは言いました。
「凄いわね」
「うん、これが豹が言っていたいびきだね」
 カルロスも言いました。
「ドラゴンの」
「かなり離れていると思うけれど」
 それでもと言う神宝でした。
「凄いね」
「こんないびき近くで聞けないよ」
 ジョージは困ったお顔で言いました。
「とてもね」
「どうしようかしら」
 恵梨香もいびきを聞きつつ言います。
「ここは」
「いびきが終わるのを待つか」
 若しくはとです、ナターシャも言いました。
「それか我慢して進むか」
「ここは耳栓をしましょう」
 トロットは皆に言いました。
「そうしましょう」
「耳栓をしてですか」
「ええ、そしてね」
 そのうえでというのです。
「先に進みましょう」
「耳栓あるんですか」
「ここにね、人数分あって」 
 ナターシャにその耳栓を出しつつお話します。
「ビリーナとカエルマンさんの分もあるわよ」
「そうそう、私は鶏だからね」 
 ビリーナが応えました。
「だからね」
「耳は鶏のものね」
「そう、そしてね」 
 それでというのです。
「その鶏の耳栓もね」
「あるから」
「使ってね」
「わかったわ」
「私も蛙だからね」 
 カエルマンも言ってきました。
「だからだよ」
「蛙の耳で」
「蛙の耳栓じゃないと」
 人間用の耳栓ではというのです。
「都合が悪いよ」
「だからなの」
「用意してくれたんだね」
「実はこのバッグからね」 
 トロットはいつも持っている小さなバッグを皆に見せてお話しました。
「必要なものは全部出せるの」
「魔法のバッグですか」
「そうなの、オズマに作ってもらった」
 ナターシャに笑顔でお話しました。
「通称四次元バッグなの」
「四次元ですか」
「欲しいものはバッグから何でも取り出せるから」
 だからだというのです。
「通称はね」
「四次元バッグですか」
「他にはポケットや帽子もあるの」
 欲しいものは何でも出せるものはというのです。
「四次元のね」
「それは凄いですね」
「オズマが日本の漫画を読んで」
 そうしてというのです。
「ヒントを得てね」
「作られたんですか」
「そうしたものなの」
「その漫画は」
 ナターシャは日本の漫画と聞いて言いました、何しろ外の世界では彼女は今は日本に住んでいるからです。
「猫型ロボットの漫画ですね」
「あの青い耳のないね」
「鼠が嫌いで眼鏡をかけた男の子と一緒にいる」
「あの漫画を読んでね」
 そうしてというのです。
「ヒントを得たの」
「あの漫画は凄いね、わしも読んでいるけれど」 
 前ノーム王も言ってきました。
「色々な科学の道具が出て来るね」
「はい、何でも」 
 まさにとです、ナターシャはノーム王にも答えました。
「出ますね」
「それは魔法の様だよ」
「本当にそうですね」
「夢に満ち溢れている素晴らしい漫画だよ」 
 前ノーム王はこう言って絶賛しました。
「まことにね」
「そしてその漫画を読んで」
 またトロットが言いました。
「オズマもヒントを得て」
「魔法のバッグを作って」
「他にも色々なものを作っているの」
「そうなんですね」
「あの漫画にある様なものを」 
 そうした科学の道具をというのです。
「魔法だけでなく科学も使ってね」
「両方をですか」
「オズの国はどちらもある世界だから」
 魔法も科学もというのです。
「それでなのよ」
「両方を使ってですか」
「作っているの、オズマだけでなく」
 この人に限らずというのです。
「グリンダさんも魔法使いさんもね」
「作っているんですね」
「そうした道具をね」
「科学と魔法の両方を使った」
「ええ、あの漫画にある様なね」
「そうですか」
「あの漫画を描いた漫画家さんも今はオズの国におられるし」
 それでというのです。
「その漫画をどんどんね」
「描かれていますか」
「そうなの、道具も」
「生み出されていますか」
「オズマ達によってね、科学と魔法が合わされば」
 その二つの技術を使えばというのです。
「最高のものが出来るのよ」
「それがあるのがオズの国ですね」
「ええ、その漫画家さんは言っておられるわ」
 トロットはナターシャにこうも言いました。
「SFとは何か」
「それはですね」
「少し不思議ってね」
「少しですね」
「オズの国もそうよ」
「少し不思議な国ですね」
「とても不思議な国じゃないの」 
 オズの国はというのです。
「少しなのよ」
「不思議な国ですね」
「科学と魔法があって」
 そうしてというのです。
「色々な人がいる」
「少しですね」
「不思議な国よ、だからね」
「今からですね」
「魔法のポケットから出した耳栓を使って」
「耳栓をして」
「そしてね」
 そのうえでというのです。
「いびきを防いで行きましょう」
「わかりました」
 ナターシャはトロットの言葉に頷いてでした。
 耳栓をしました、他の皆もそうしてあらためて先に進みました。そうしてどんどん先に進んでいくとです。
 森の中、道の左右に巨大なユープさんのご夫婦よりも大きな身体のドラゴン達が何匹もいてそうしてです。
 寝そべっていびきを立てています、そのいびきでその場が揺れんばかりです。それを見てなのでした。
 皆耳栓をしていたらどうなるかと思いながらそうして先に進んでです、ドラゴン達のいびきが聞こえなくなって。
 それから耳栓を外しました、前ノーム王はそれから言いました。
「いや、耳栓があってよかったよ」
「そうでしょ」
「もっと言えば魔法のポケットがなかったら」
 その時はというのです。
「いびきが終わるまでね」
「待つしかなかったわね」
「そうだったね」
「そう思うと」
「魔法のバッグがあってどれだけよかったか」
「そうよね」
「そんな素晴らしいものを作ってくれたオズマ姫に感謝して」 
 そうしてというのです。
「ヒントになる漫画を描いてくれた」
「漫画家さんにもよね」
「感謝しないとね」
 こうも言うのでした。
「本当に」
「そうね、素晴らしい漫画よね」
「だからね」 
 それ故にというのです。
「わし等は」
「漫画家さんにも感謝して」
「そしてね」
 そのうえでというのです。
「また機会があれば」
「バッグを使わせてもらって」
「そうしてだよ」
「漫画もよね」
「読もうね」
「そうさせてもらうのね」
「あの漫画は一巻から読んでいるけれど」
 それでもというのです。
「まさかそれを道具にするなんてね」
「オズマのことね」
「ヒントを得てね」
「それでオズの皆に使ってもらっているのよ」
「皆を助けているんだね」
「ええ、オズマはね」
「そのことも凄いよ」
 前ノーム王の言葉は感心しているものでした。
「わしは魔法は使えても」
「それでもなの」
「今も面白いと思うだけで」
 漫画を読んでというのです。
「思わないしノーム王だった時も」
「その時もなのね」
「とてもね」
 それこそというのです。
「思うなんてね」
「なかったのね」
「あの時のわしは自分のことだけを考えていたよ」
 反省しての言葉でした。
「他の人のことなんてね」
「考えなかったの」
「全く。自分以外の全ての生きものが大嫌いで」
 そうしてというのです。
「誰かを好きになることもなくて」
「それじゃあ誰からも好きになってもらえないわね」
「嫌っているとね」
 そうしていればというのです。
「嫌われるね」
「当然としてね」
「あまりにも自分のことしか考えなかったから」
 それ故にというのです。
「自分以外はだよ」
「皆大嫌いだったのね」
「自分がしたいことをすればいい、そしてちょっとしたことでね」
 それでというのです。
「不平不満ばかり感じて言っていたよ」
「それで貴方は幸せだったの?」
 クッキーはその頃のことについて前ノーム王自身に尋ねました。
「それで」
「いや、そう感じたことなんてね」
「なかったのね」
「全くね」 
 そうだったというのです。
「何一つとしてだよ」
「感じなかったのね」
「誰もが嫌いで嫌われていて」
「不平不満ばかりで」
「そうなると自然と悪いことばかり考えるからね」
「自分のことばかりで」
「そんなのだとね」
 それこそというのです。
「幸せに感じることなんてね」
「ないわね」
「全くだよ」
 それこそというのです。
「本当にわしは幸せでなかったよ」
「それでオズマ姫みたいなこともなの」
「欠片程も考えたことはなかったよ」
 こうクッキーに答えました。
「全くね」
「そうだったのね」
「もう二度とああなりたくはないよ」
 昔の自分の様にはというのです。
「何があってもね」
「嫌われて幸せになれないだけね」
「あんな風になったら」  
 こうも言う前ノーム王でした。
「人はおしまいだよ」
「そうね。幸せでないから」
「自分のことばかり考えると」
 それこそというのです。
「自分以外の全てが嫌いになって」
「自分だけになって」
「自分のことだけが大事になってね」
 そうなっていってというのです。
「自分以外の全てに嫌われて」
「ちょっとしたことで不平不満ばかり感じる様になって」
「どんどんだよ」
「幸せでなくなっていくのね」
「人も生きものも去っていって」
 嫌われてというのです。
「幸せもね」
「逃げていくわね」
「そんな風にはなりたくないよ、けれど」
 それでもというのです。
「オズマ姫は違うね」
「いつも皆のことを考えておられるわね」
「オズの国のこともね」
「そして誰もが好きだから」
「皆に好かれてね」
「幸せもなのね」
「訪れるんだよ」
 オズマはそうだというのです。
「そうなっているんだよ」
「皆がどうしてオズマ姫が好きか」
「もうね」
 それこそというのです。
「オズマが皆を好きでね」
「皆のことをいつも考えているから」
「そうなっているんだ」
「そうなのね」
「そしてかつてのわしは」 
 あらためて自分のことを言うのでした。
「オズマ姫とは全く違ったよ」
「あまりにも酷かったって言ってるわね」
「そうだよ、いいところなんて一つもなかったよ」
 こう言うのでした。
「だから二度とね」
「ああした人にはならないのね」
「そうなる様に務めているよ、それでいて自分程偉い者はいないと思っていたから」
 当時はというのです。
「本当に駄目だったよ」
「どういう訳か」
 ここでナターシャが言いました。
「努力していない、もう駄目な人程」
「自分を偉いとだね」
「思っていますね」
「自分のことしか考えていないとね」
「他の人のこととか目に入らなくて」
「それでだよ」
「勘違いするんですね」
 こう言いました。
「勝手に」
「かつてのわしがそうだったよ」
「そうですが、ですが」
「今はね」
「そうじゃないですね」
「いや、人のことを考えると」 
 前ノーム王は笑顔でお話しました。
「いいね、人を助けたら自分もね」
「助かりますか」
「そうでもあるからね」
 それでというのです。
「これからもね」
「人のことを考えて」
「そして人を助けてね」
「幸せに過ごされますね」
「そうしていくよ」
 笑顔で言うのでした、そして。
 皆と一緒に先に進むのでした、旅はさらに進むのでした。








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