『オズの木挽きの馬』




                第八幕  二人の力士

 一行は妖怪の人達と川辺で楽しい時間を過ごした後そこで今度は広場に行って運動会をするという妖怪達と別れてでした。
 道を先に進んでいくとここでモジャボロが恵梨香に言いました。
「皆はお墓で運動会をしたいって言ってたね」
「本音ではですね」
「夜にね」
「はい、日本の妖怪は」
 恵梨香はモジャボロに応えて言いました。
「朝は寝床で寝まして」
「夜はなんだ」
「お墓で運動会をするんです」
「そうなんだね」
「朝は寝て夜に行動しますので」
「それでだね」
「運動会といいますと」
 その場所はというのです。
「墓場で、となるんです」
「そうなんだね」
「はい、ただ」
「ただ?」
「オズの国ではお墓はないですね」
「誰も死なないからね」
 モジャボロは恵梨香に答えました。
「だからね」
「そうですね、ですから」
「広場でだね」
「運動会をしまして」
 それでというのです。
「楽しむんです」
「そういうことだね」
「そうなんです、多分広場に妖怪さん達以外の色々な人が集まって」
 そうしてというのです。
「楽しくです」
「運動会をするんだね」
「そうなると思います」
「成程ね、日本の妖怪さん達も面白いね」
「そうですよね」
「それなら一緒に参加したかったけれど」
 弟さんはモジャボロの横で言いました。
「それはね」
「はい、ちょっとですよね」
「僕達には目的があるからね」 
 弟さんは恵梨香に微笑んで答えました。
「だからね」
「ですから」
「うん、そういうことでね」
「運動会じゃなくて」
「旅を続けようね」
「そちらを楽しむんですね」
「是非ね、あと今回日本に色々と縁があるけれど」
 ここで、です。弟さんはこんなことも言いました。
「本当に昔のオズの国ではね」
「なかったですね」
「こうしたことはね」
「それが、ですね」
「日本のものも見られて」 
 そしてというのです。
「中国やイタリア、ドイツやフランス、イスラエルやメキシコにね」
「色々な国がありますね」
「それにロシアやスペイン、ブラジルもね」
「あるんですね」
「だからね」
 それでというのです。
「何かと面白いよ」
「そうなっているんですね」
「色々な国のものが楽しめてね」
「考えてみたらアメリカは色々な国から人が来るんだ」
 モジャボロはこのことを指摘しました。
「それならね」
「色々な国のものが出てきますね」
「アメリカにね、そしてね」
「オズの国はアメリカが反映されますから」
「色々な国のものが出て来るよ」
「そういうことですね」
「日本のものもね」
 まさにというのです。
「そうなるよ」
「左様ですね」
「そしてね」
 それにというのです。
「どんどん楽しい国になっているよ」
「色々な国のものが楽しめてね」
「それに新しい文明もどんどん入って来ているし」
「思えばね」
 ガラスの猫がここで言いました。
「潜水艦が出て来てね」
「そうそう、飛行機もヘリコプターも出て来てね」
 木挽きの馬が応えます。
「そしてテレビも入って」
「コンピューターにね」
「テレビゲームに」
「そしてインターネットが出来て」
「携帯電話やスマートフォンもあるよ」
「今はね」
「物凄く変わったよ」
 オズの国もというのです。
「本当にね」
「そうよね」
「魔法もどんどん進歩して」
 グリンダも言いました。
「その魔法と科学が一緒になって」
「そしてね」
 木挽きの馬は言いました。
「どんどんよくなっていってるね」
「楽しく便利にね」
「そうだね」
「オズの国も変わったわ」
「色々なものが出て来て」
「そして新しいものもね」
 テレビやスマートフォン等がというのです。
「誕生して」
「凄い国になったよ」
「本当にね」
「スマートフォンなんて」
 モジャボロはしみじみとして言いました。
「いや、テレビですらね」
「モジャボロさんがオズの国に来られた時は」
「夢みたいなものでしたよね」
「ラジオもまだね」
「そんな時代でしたから」
「だからですね」
「うん、こんなものがあるなんてってね」 
 恵梨香達五人にお話しました。
「科学も凄いと思ったよ」
「科学と魔法は同じ位凄いね」
 木挽きの馬はこう言いました。
「そしてその二つが合わさると」
「余計に凄いことになって」
 恵梨香はしみじみとして言いました。
「夢みたいなものになるわね」
「そうだよね、オズの国を見てると」
 ジョージは恵梨香に続きました。
「心から思えるよ」
「科学と魔法が一つになったら」
 神宝の言葉には感嘆すらありました。
「これ以上はないまでに素晴らしいものになるんだね」
「それがあるのがオズの国なのよね」 
 ナターシャはそのオズの国のお話をしました。
「まさに」
「お伽の国だからだね」
 こう言ったのはカルロスでした。
「そんな有り得ないことが普通にあるんだね」
「そうよね、そして色々な人がいるのよね」
 恵梨香はこうも言いました。
「本当に」
「そうだね、妖怪さん達もいるし」
「真田幸村さん達もいて」
「お伽の国だけあって」
「色々な人もいるわね」
「そうなのよね、このまま先に進むとさらに色々な人に会えるわね」
 恵梨香はこのことを楽しみで仕方がなくなっていました。
「今回の旅でも」
「そうだね、だから先に進んでいこうね」
 木挽の馬が恵梨香に応えました。
「少し先には土俵もあったしそれも見ようね」
「土俵っていうと」
「日本のお相撲のね」
「それがあったの」
「そうだよ、その上に屋根があったけれど」
 木挽きの馬は恵梨香にその土俵のお話もしました。
「日本のものだったよ」
「そうだったの」
「お相撲するみたいだね」
「そうなのね、それは是非観たいわね」
「恵梨香お相撲好きなんだ」
「お祖父ちゃんが好きなの」
 そのお相撲がというのです。
「それでよくお話を聞くわ」
「お祖父さんからだね」
「そうなの、それで私もそれなりにね」
「知っているんだね」
「そうなの、ただお相撲ってね」 
 恵梨香はそのお相撲についてさらにお話しました。
「これがね」
「これがっていうと」
「女の子はあまりね」
「しないんだ」
「何でも土俵はずっと女の子が入ったら駄目ってね」
「言われていたんだ」
「そうらしくて」
 それでというのです。
「私達女の子はね」
「お相撲にはなのね」
「縁がなかったの、けれどね」
「それがだね」
「最近は女の子も土俵に入ることが出来て」
 そうなってというのです。
「格闘ゲームでもお相撲で戦う女性キャラもね」
「いるんだね」
「こちらは親戚のお兄さんに聞いたの」
「時代は変わったね」
「日本でもね、それでね」
 恵梨香はさらにお話しました。
「若しそこでお相撲をしているのなら」
「それならだね」
「観てみたいわ」
 こう木挽きの馬にお話しました。
「是非ね」
「そうなんだね」
「私もね」
「そういえばね」
 ここでモジャボロが言ってきました。
「お相撲の時お塩を撒くね」
「土俵に入る時にですね」
「力士さんがね、あれがいいよね」
「あれは魔除けですね」
「清めのお塩だね」
「はい、お相撲は神事でもありますから」
 それでというのです。
「ああしてです」
「お塩を撒いてだね」
「清めるんです」
「そうだったね」
「はい、ですから」 
 それでというのです。
「お塩が必要で」
「ああしてだね」
「土俵入りの時に沢山撒きます」
「力士さんがだね」
「そうします」
 まさにというのです。
「絶対に」
「日本のお相撲の力士さんは神社の神主さんみたいだね」
「親戚みたいな関係らしいです」
「お相撲が神事でもあるからだね」
「そうです、力士さんは魔を払う」
「そうした人達でもあるんだね」
「そうなんです」
 恵梨香はモジャボロに笑顔でお話しました。
「力士さん達は」
「成程ね」
「何ていうかね、物凄く神秘的だよね」
 弟さんはこう言いました。
「お相撲って」
「神秘的ですか」
「僕達から見るとね」
「そうですか」
「何か不思議な世界にある様な」
「不思議ですか」
「この世にこんなものあるんだってね」
 その様にというのです。
「思える位にね」
「不思議なものですか」
「恵梨香から見たらそうじゃないけれどね」
「日本人から見るとですか」
「不思議じゃなくても」 
 それでもというのです。
「他の国の人、オズの国でもね」
「不思議ですか」
「お伽の国の中にあってもね」
 それでもというのです。
「かなりね」
「そうなんですね」
「ちょん髷にその神事のことがね」
「不思議ですか」
「とてもそう思えるよ」
 こう恵梨香に言うのでした。
「外の世界の日本では普通でもね」
「というか日本のものは不思議なものが多いね」
 木挽きの馬も恵梨香に言いました。
「お侍も忍者もね」
「不思議なのね」
「陰陽師もそうで和歌もね」
「和歌もなの」
「不思議なものだよ、呪文みたいだよ」 
 そうしたものに思えるというのです。
「少し見るとね」
「あれは詩でね」
「不思議なものじゃないんだ」
「ええ、ごく普通のね」
 そうしたというのです。
「詩よ」
「そうなんだ」
「別に呪文でも何でもね」
「ないんだ」
「ええ、本当にね」
 恵梨香は木挽きの馬に答えました。
「そうなのよ」
「筆で短冊に書くのとかがね」
「呪文みたいなの」
「日本語自体がね」
「そんなにかしら」
「だって日本語って平仮名と片仮名があってね」
 木挽きの馬は恵梨香に日本語のこともお話しました、彼から見てあまりにも独特で不思議な言葉について。
「漢字も使うね」
「ええ、実際にね」
「そのことがね」
「不思議なの」
「文字を幾つも同時に使う言葉なんて他にあるかな」
「二つならあるんじゃないかしら」
「けれど三つもってね」
 平仮名、片仮名、漢字とです。
「それはね」
「日本語だけだっていうのね」
「それで書く詩なんてね」
 その和歌はというのです。
「不思議だよ」
「そうなのね」
「奇麗だしね」
「その和歌も楽しみたいわね」
 グリンダも言ってきました。
「オズの国では英語以外の言葉も使えるから」
「勉強錠を飲むとですね」
「日本語のそれを飲んで」
「和歌のもですか」
「飲むとわかるから」
 それでというのです。
「詠めるからね」
「日本語がわかってですね」
「そのうえで和歌も、だから」
 そうなるからだというのです。
「それでね」
「そうなんですね」
「だからね」 
 それでというのです。
「今度ね」
「皆で、ですね」
「和歌もね」
 これもというのです。
「楽しみたいわ」
「そうですか」
「お花や他の自然を観ながらね」
「そうしてですね」
「詠みたいわ、皆でね」
「和歌会ですね」
「そうしたいわ」
 こう恵梨香に言うのでした。
「機会があればね」
「それもいいですね、じゃあオズの国の皆で」
「和歌会を開いて」
「今度詠みましょう」
「それがいいわね」
「色々なお花や川や木々を観て」
 そのうえでというのです。
「そうしましょう」
「それではね」
 皆は日本のそうしたお話をしながら先に進んでそしてでした。
 その土俵がある場所に着きました、土俵の上には確かに日本の神社を思わせる屋根があります。そして。
 二人の力士もいました、恵梨香はとても大きな体で髷を結っていて褌姿になっているその人達を見て言いました。
「あの人達がね」
「力士さん達だよね」
「そうなの」
 こう木挽きの馬に答えました。
「あの人達こそが」
「そうだよね」
「今からお相撲をするのかしら」
 恵梨香はその力士さん達を見て言いました。
「若しかして」
「それなら是非観たいね」
「そのお相撲もね」
「どんな勝負するか」
「そうしたいわ」
 ジョージ達四人も言いました。
「じゃあこれからね」
「ちょっとここで観よう」
「一体どんな勝負になるか」
「今からね」
「ええ、何をするのかしら」
 恵梨香は固唾を飲んでいます、そして。
 ガラスの猫はその力士さん達のところに来て尋ねました。
「あんた達何をするの?」
「今から一勝負するんだ」
 見れば力士さんはそれぞれ白い褌と黒い褌姿です、それぞれの褌を身に着けていて色でわかります。その中の黒い褌の人が答えました。
「土俵の上でね」
「そうするのね」
「そうなんだ」
「それはどうしてかしら」
「ちょっとここで魔除けをしようと思ってだよ」
 白い褌の力士さんが答えました。
「オズの国には魔はないけれどね」
「それでもなの」
「景気付けにはなるから」
 それでというのです。
「これからね」
「やってみるのね」
「そう考えているんだ」
 ガラスの猫にこう答えるのでした。
「僕達はね」
「景気付けね」
「神事はそうしたことも出来るからね」
「それでなのね」
「ここはね」
 まさにというのです。
「一勝負して」
「そうするのね」
「お塩も撒いてね」
「お塩を沢山撒くわね、お相撲って」
「そうだね」
「そのことも景気付けになるのね」
「そうなんだ、じゃあ今からはじめるよ」
 こう言ってでした。
 力士さん達は土俵に上がってそのうえで、でした。
 力士さん達はそれぞれお塩を撒いて土俵に上がりました、何時の間にか軍配を持って行司さんも来ていて。
 はっけよい、のこったの後からです。
 激しい勝負が行われました、勝負は黒い褌の力士さんが勝ちましたが。
 その勝負の後で力士さん達は恵梨香達に言いました。
「こうしてね」
「この場所の景気付けをしたよ」
「これでこの場所は一層元気になるよ」
「お塩も撒いたしね」
「そうなんですね、何ていいますか」
 恵梨香は笑顔で言いました。
「凄くです」
「凄く?」
「凄くっていうと」
「素晴らしいものを観られました」
 こう力士さん達に言うのでした。
「勝負として」
「それは何よりだよ」
 黒い褌の力士さんが答えました。
「ただね」
「ただ?」
「これはね」
 まさにというのだ。
「勝負だけじゃなくてね」
「神事ですね」
「その意味もあるから」
 だからだというのだ。
「本当にね」
「素晴らしいとですか」
「言ってもらってね」
 それでというのです。
「嬉しいよ」
「この地域の景気付けにですね」
「今以上にね」
「今よりもよくなる為ですね」
「そうだよ、僕達はそうしたことも仕事だから」
「神事もですね」
「だからね」
 それでというのです。
「これからもね」
「景気付けにですね」
「勝負をしていくよ」
 白い褌の力士さんも言いました。
「勝敗が問題ではなくて」
「神事だからですね」
「やっていくよ」
「勝負は関係ないんですね」
「そう、どちらが勝ってもね」
 それでもというのです。
「いいよ」
「そうですか」
「そうした問題じゃないからね」
「神事であってですね」
「勝敗は関係ないんだ」
 どちらが勝ってもというのです、そしてです。
 そうしたお話をしていると行司さんも言ってきました、アジア系の飄々としていますがそれでいて気品もある人です。
「またする時があるから」
「その時にですね」
「観る機会があれば」
 それならというのです。
「観てくれるかな」
「そうしていいんですね」
「ここは観客席はないけれど」
「あくまで神事の場所ですか」
「そうだけれどね」
 それでもというのです。
「観ることは自由だから」
「観る機会があればですね」
「観てね」
「そうさせてもらいます」
「そういうことでね」
「わかりました」
 恵梨香は行司さんにも笑顔で答えました、そしてです。
 皆は力士さん達とお別れをして旅を再開しようとしましたが。
 その時に力士さん達に是非にと言われてちゃんこ鍋もご馳走になってそれからお別れとなりました。そうして。
 旅の道を歩きつつモジャボロはこんなことを言いました。
「いや、美味しかったね」
「うん、いいちゃんこ鍋だったね」
 弟さんが応えました。
「お野菜が色々沢山入っていて」
「しかもお魚もね」
「河豚でね」
「よかったね」
「オズの国の河豚は毒がないですからね」
 恵梨香はこのことを言いました。
「いいですよね」
「ああ、外の世界ではね」
 弟さんが恵梨香に応えました。
「河豚にはね」
「毒がありまして」
「簡単にはお料理出来ないね」
「そうなんです」
「折角美味しいのにね」
「毒がありますから」
 それでというのです。
「食べるにもです」
「大変だね」
「困ったことに」
「そうだね、けれどね」
「オズの国だとですね」
「河豚でもね」
 このお魚でもというのです。
「毒はなくてね」
「安心して食べられますね」
「それも美味しくね」
「そうですよね」
「だからさっきもね」
「ああしてですね」
「皆安心して食べられたんだ」
 弟さんは恵梨香ににこりと笑って答えました。
「美味しくね」
「そうですよね」
「いや、河豚を普通に食べられるなんて」
 神宝も言ってきました。
「素晴らしいことですよ」
「折角美味しいのに毒があるから」
 カルロスも言うことでした。
「中々食べられないんですよね」
「当たると怖いから鉄砲って言われてるんですよ」
 ジョージはこう言いました。
「日本の大阪の方では」
「それが毒がないなんて」
 ナターシャも言うことでした。
「それだけでも素晴らしいですね」
「あれだけ美味しいのに」
 それでもとです、グリンダも言いました。
「毒があると思うと怖いわね」
「オズの国では毒があっても死なないからね」 
 ガラスの猫はこのことを指摘しました。
「食べても大丈夫にしても」
「苦しい思いはしたくないよね」
 毒にあたってとです、木挽きの馬が続きました。
「やっぱり」
「そうよね」
「僕達は食べる必要がないからわからないけれど」
「そのことはね」
「日本では河豚は昔から食べていたけれど」
 恵梨香が二匹にお話しました。
「あたることがね」
「怖くてなのね」
「皆気をつけていたんだね」
「そうだったの、私も好きだけれど」
 それでもというのです。
「普通のお魚みたいにはね」
「食べられないんだね」
「そうなの、お鍋にしても美味しくて」
 恵梨香もちゃんこ鍋のお話をします。
「お刺身にしても唐揚げにしてもね」
「美味しいんだね」
 木挽きの馬は恵梨香に聞きました。
「それもかなり」
「そんな素敵なお魚なのに」
「毒があって」
「外の世界ではね」
「普通には食べられないんだ」
「よく食べても」 
 それでもというのです。
「そうなの」
「そうなんだね」
「それとね」
 恵梨香はさらに言いました。
「こちらのお魚は毒はないけれど」
「どんなお魚かな」
「鮟鱇よ」
「ああ、あのお口のとても大きなお魚だね」
「頭に光るものが付いた」
「提灯みたいにね」
「あのお魚も凄く美味しいの」
 そうだというのです。
「外見は怖いけれど」
「それでもだね」
「お鍋にしても唐揚げにしても美味しくて肝も」
「肝臓だね」
「物凄く美味しいのよ」
 そうだというのです。
「このお魚も」
「だから恵梨香も好きなんだね」
「そうなの、鮟鱇もね」
「成程ね」
 木挽きの馬は恵梨香の言葉に頷きました、そんなお話をしている間に森に入ってその間にある道を進んでいきましたが。
 ここで髷を結って草色の忍装束の上にマントを羽織った格好いいお顔立ちの人に木の上から声をかけられました。
「あんた達何処に行くんだい?」
「牧場の羊を捕まえて牧場に戻しに行くんだ」
 木挽きの馬がその人に答えました。
「そうするんだ」
「ああ、あの黄金の毛の羊か」
 木の上に立っている忍者さんは木挽きの馬の言葉を聞いて言いました。
「そうか」
「知ってるんだ」
「前に修行中に見たからな」 
 それでというのです。
「わしも知ってるぞ」
「そうなんだね」
「ああ、わしは嘘は言わないからな」 
 忍者さんは笑ってこうも言いました。
「真田十勇士の誇りにかけてな」
「貴方も十勇士なんだ」
「そうだ、穴山小助だ」
 忍者さんは笑って名乗りました。
「十勇士一の鉄砲の使い手さ」
「鉄砲の話をしたら出て来たね」
 木挽きの馬はさっきの河豚のお話をここで思い出しました。
「鉄砲を使う人が」
「鉄砲?」
「うん、河豚がそう言われると」
「ほう、河豚か」
 河豚と聞いてです、小助さんは。 
 皆のところに軽やかに降りてきて同じ高さになって言ってきました。
「わしも好きだぞ、こちらの世界では殿や他の連中と一緒によく食っている」
「そうなんだ」
「魚は何でも好きでな」
「河豚もだね」
「うむ、しかし大坂以外では生の魚は食わなかった」
「それはどうしてかな」
「昔山国では新鮮な魚は食えなかったからな」
「それでなんだ」
「わし等は山国の上田にずっといて和歌山にもおってな」
 それでというのです。
「山におることも多くてな」
「その大坂以外ではなんだ」
「生の魚は食わなかった」
「そうだったんだね」
「うむ、しかし今は違うぞ」
「お刺身もよく食べるんだ」
「大好きだ、特に青海の奴が食うぞ」
 小助さんは笑って言いました。
「あ奴はな」
「その人も十勇士だね」
「ずっと一緒にいる仲間だ」 
 小助さんは笑って言いました。
「殿にお仕えしているな」
「前に佐助さんにお会いしました」
 ここで恵梨香が言ってきました。
「渡し守をしていました」
「あいつも修行に出ているからな」
「はい、とても気さくな方ですね」
「あいつは十勇士で一番剽軽な奴でな」
「そうなんですか」
「よく悪ふざけをする、しかし殿への想いは同じでな」
 それでというのです。
「我等十人共にな」
「幸村さんにですね」
「お仕えしておる、殿とは外の世界でも同じでだ」
「オズの国でもですね」
「同じだ、我等十人殿とは決して離れぬ」
 小助さんは恵梨香に笑顔でお話します。
「何があろうともな」
「大坂の陣でもでしたね」
「皆生き残ってな」
「実はそうで」
「薩摩まで逃げ延びておった」
「そうでしたね」
「殿そして大助様もな」
 こう言うのでした。
「あの方も」
「大助様って?」
「幸村さんの息子さんよ」
 恵梨香は木挽きの馬に答えました。
「この人も勇敢な人だったの」
「そうだったんだ」
「そうなの、それでね」
「幸村さんとだね」
「十勇士の人達ともね」
「戦っていたんだ」
「そうだったの、この人も大坂の陣でお亡くなりになったってね」 
 その様にというのです。
「言われているけれど」
「その実はなんだ」
「生きておられたのね」
「そうなんだね」
「よかったわ、幸村さんも大助さんも生きておられて」
 恵梨香はにこりと笑って言いました。
「本当に」
「日本のヒーローなんだね」
「本当にね、私幸村さんも十勇士の人達もね」
「大好きなんだね」
「ええ、皆生きておられて嬉しいわ」
「ははは、そう言ってもらえると嬉しいな」
 小助さんも笑顔で応えます。
「わしもな」
「そうですか?」
「とてもな」
「それは何よりです」
「それにしてもあんた達明るいわね」
 ガラスの猫は小助さんにこう言いました。
「佐助さんも」
「うむ、才蔵と伊佐はいささか冷めておるがな」
「基本的にはなのね」
「皆陽気でな」
「いつもそうなのね」
「そうだ、十勇士は皆明るい者達だ」
 そうだというのです。
「忍者というと暗いイメージもあるがな」
「あれっ、そうかな」
「痛快なイメージあるよね」
「忍者っていうと」
「物凄く強くて」
 ジョージ達四人はこう言いました。
「色々な術を使えて」
「物凄い体術で」
「飛んだり跳ねたりで」
「大活躍って思っていたら」
「いやいや、それは日本以外のことで」
 小助さんは四人に笑って言いました。
「日本ではな」
「そういえばそうですね」
「結構暗いイメージもありますね」
「闇に生き闇に死ぬとか」
「そんな風にも言われますね」
「そうだな、しかしわし等は違ってな」
 小助さんは大きなお口を開いてお話します、白い歯がとても奇麗です。
「色々な術も使って飛んだり跳ねたりな」
「そうした忍者なんですね」
「漫画やアニメやゲームみたいな」
「小説や講談にも出て」
「そんな人達なんですね」
「その通り、わし等は忍者だが基本隠れぬ」
 つまり忍ばないというのです。
「常に明るく楽しく過ごしてな」
「幸村さんと一緒におられて」
「修行も楽しくしておるぞ」
 また恵梨香に答えました。
「毎日な」
「それで今はですね」
「この森でな」
「修行をされていたんですね」
「森の木々の中を素早く駆けて木々の間を跳んでな」
 その様にしてというのです。
「木遁の術等もな」
「修行されていたんですか」
「そうしておる、そこでお主達に会って」
「お話してくれているんですね」
「そういうことだ」
「そうですか」
「修行が終われば殿のところに戻るぞ」
 幸村さんのところにというのです。
「そこで十二人で飲んで食ってな」
「楽しまれますか」
「そうする、殿に大助様に」
「十二人ですね」
「我等は何があっても離れぬしな」
「幸村さんも忍術を使えたわね」
 グリンダがこのことを言ってきました。
「そうだったわね」
「殿も大助様も忍術を得意とされておる」
「武芸の一つとして」
「殿は凄い、武芸十八般全て身に着けられておる」
「それで忍術もなのね」
「そうなのだ、殿は兎角学問と武芸がお好きで」
 それでというのです。
「忍術の鍛錬もだ」
「毎日なのね」
「励んでおられてな」
「お強いのね」
「魔法はお使いになられぬが」
 それでもというのです。
「しかしだ」
「忍術はなのね」
「お使いになられてな」
「凄いのね」
「我等の忍術は魔法と同じだけ凄くてな」
「幸村さんの忍術もなのね」
「左様、わしの忍術もかなりだぞ」
 こう言ってでした、小助さんは。
 分身の術を使って五体になったり急に姿を消したりしてみせました。これにはモジャボロ達も驚きましたが。
 恵梨香はくすりと笑って言いました。
「これがです」
「忍術なんだね」
「そうなんだね」
「はい、十勇士の人達の」
「成程ね」
「むささびの術や壁歩きの術や水蜘蛛の術も使えるぞ」
 小助さんは分身の術と透明の術の後で言いました。
「これは十勇士の基本だな」
「何かに変身出来ないの?」
「それは忍術ではないな」
 小助さんは木挽きの馬に答えました。
「妖術になるな」
「妖術は使わないんだね」
「忍者はな」
「あくまで忍術を使うんだね」
「だから忍者や、妖術を使うのはな」
 それはといいますと。
「妖術使いだ」
「そっちの人達だね」
「そして仙術を使うならな」 
 それならといいますと。
「仙人だ」
「それぞれ違うんだ」
「そこは覚えておいてくれ」
「小助さん達はあくまで忍者だね」
「妖術使いではない」
「だから変身はしないんだ」
「またな、よく間違えられるが」
 それでもというのです。
「そこは違うぞ」
「何か混ざってるところありますよね」
 また恵梨香が言ってきました。
「忍者と妖術使いって」
「確かにそうだな」
「忍術と妖術も」
「実は違う、忍者は鍛えた身体と道具を使う」
「そうですよね」
「妖術は魔法と同じ様なものだ」
 そうしたものだというのです。
「忍術とは違う」
「さっきの分身とか透明は」
「素早く動いて残像を残したり隠れたのだ」
「そうなんだ」
「人の見えないところに行けば」
 それでというのです。
「見えなくなるな」
「ああ、それでだね」
「透明に見える、素早く動くのがな」
 それがというのです。
「忍術では大事でな」
「それでだね」
「また違う、またオズの国では身体の使い方を修行で幾らでもよく出来るので」
「今みたいなこともだね」
「出来る」
 そうだというのです。
「わし等はな」
「それで妖術とはだね」
「違うのだ」
「成程ね」
「そしてな」
「そして?」
「殿も妖術は使われぬ」
 幸村さんもというのです。
「あの方もな」
「そうなんだ」
「抜群に頭の切れる方であられるが」
 それでもとだというのです。
「忍術はお使いになられても」
「妖術はなんだ」
「武芸にはないしな」 
 このこともあってというのです。
「お使いになられぬ」
「幸村さんは」
「兎に角忍術と妖術は違う」
 小助さんはこのことを言いました。
「そのことはわかってくれ」
「そこをわかっていない人もいましたね」
 恵梨香がここで言いました。
「昔は」
「昔の忍者漫画かい?」
「はい、昔の忍者漫画は」
 それはというのです。
「忍者の人達が普通に妖術を使っていて」
「それで、だな」
「もう忍者と妖術使いが」
「一緒になっていたな」
「そうでしたけれど」
「それは何時の漫画だったかな」
「お祖父ちゃんが子供の頃の漫画です」
 その頃だというのです。
「その頃の忍者漫画は」
「忍者が妖術を使っていたな、本当に昔は」 
 小助さんもここでこう言いました。
「昔の日本でも」
「忍術と妖術が一緒でしたね」
「そんな風でしたね」
「しかし忍術と妖術は違う」
 小助さんはこのことは強く言いました。
「知らない人にはそう見えてもだ」
「実は、ですね」
「そこはわかってくれ」
 こう恵梨香達に言いました。
「いいな」
「はい、忍者は忍者ですね」
「妖術使いは妖術使いでな」
「また違いますね」
「あれだね、梁山泊に公孫勝さん達がいるけれど」
 木挽きの馬はオズの国にいるこの人のことを思い出しました。
「あの人達がだね」
「そう、妖術使いだよ」
「道士であると共に」
「妖術を使うからな」
「そういうことだね」
「あの人達は忍術は使わないな」
「全くね」
 こう小助さんに答えました。
「使わないね」
「こう言えばわかるな」
「よくね」
「そういうことだ、ではわしは修行を再開する」
 小助さんは皆に笑顔で言いました。
「ではな」
「うん、またね」
「会おう」
 小助さんは爽やかにこう言ってでした。
 煙玉を出してそれを投げて煙を出してどろんと姿を消しました、皆はその煙が消えた後で旅を再開しました。そうしてさらに先に進むのでした。








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