『オズのキャプテン船長』




               第六幕  クラーケン

 船長達はアマゾンの島の中にある村に戻りました、そうして潜水艦を返してでした。船長は皆に言いました。
「村の人達から誘いを受けたけれどね」
「どんな誘いなの?」
「この村に少しいて欲しいっていうんだ」
 こうトロットにお話しました。
「一日か二日ね」
「そうなのね」
「トロットはどう思うかな」
「ええ、それならね」
 お誘いを受けたならとです、トロットは船長に答えました。
「折角だから」
「この村にだね」
「お邪魔して」
 そうしてというのです。
「皆で飲んで食べてお喋りしてね」
「楽しむんだね」
「そうしましょう」
「私達もそうして欲しくてなのよ」
 村人の人達から若い女の人が出て来てお話しました、ラフな身なりで褐色のお肌と長くて黒い髪の毛のとても奇麗な人です。
「お誘いしてるのよ」
「そうなのね」
「今日は沢山食べて飲んでね」
「アマゾンのお料理をよね」
「そうよ、沢山あるからね」
「ええと、アマゾンのお料理っていいますと」
 恵梨香がどうかというお顔で村の人達に尋ねました。
「それは」
「ピラルクや鰐のお料理よ」
「アマゾンの生きものですね」
「そうしたものを煮たり焼いたりしたお料理よ」
「生では食べないですね」
「私達は生では食べないの」
「そうなんですか」
 恵梨香は納得してから答えました。
「日本では生ものをよく食べますから」
「ええ、そうらしいわね」
「このお話はご存知ですか」
「私達も聞いてるわよ」
 女の人は恵梨香ににこりと笑って答えました。
「日本人はお刺身とかが大好きよね」
「よく生ものを食べます」
「そうよね」
「けれど川のものは」
「あまり生で食べないのね」
「あたるって言われていて」
 生で食べることがあるのは事実でもです。
「気をつけてます」
「そうした考えはこの島でもあるからよ」
「生では食べないですか」
「オズの国ではあたらないけれど」
 病気がない国です、それでその心配もないのです。
 ですがそれでもとです、女の人は恵梨香にお話します。
「私達の島では生ものは食べないわ」
「そうですか」
「けれどアマゾンのものを食べられるなら」
 ナターシャが微笑んで言ってきました。
「嬉しいわ」
「うん、ブラジルでも滅多に食べられないから」
 ブラジル人のカルロスも言います。
「これは貴重な経験だよ」
「ピラルクとかピラニアとか鯰とか食べられるなら」
 それならと言う神宝でした。
「皆で食べよう」
「鰐も食べられるし」
 ジョージは特にこちらに興味を持っている感じです。
「是非共だね」
「食べることもまた学問だよ」
 教授は学者としてお話します。
「それならこの機会を逃さないことだよ」
「では皆で食べよう」
 モジャボロも皆に言います。
「これからね」
「さて、今日も楽しいものになるわね」
 ビリーナもかなり乗り気な感じです。
「この村にお邪魔するのも久し振りね」
「あれっ、ビリーナはこの村にいたことがあるの」
「ええ、一度一泊してるわ」
 ビリーナは恵梨香にすぐに答えました。
「楽しかったわよ」
「そうなのね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「今久し振りって言ったのよ」
「そうなのね」
「じゃあアマゾンの食事とおもてなしをね」
「今夜はなのね」
「体験するのよ」 
 はじめての恵梨香達はというのです、こうお話してでした。
 そのうえで、です。皆はこの日は村に一泊させてもらうことにしました、すると村の人達は恵梨香達を村の真ん中に招いてでした。
 鰐やピラルク、ピラニアのお料理を出してです。そうして太鼓や笛で音楽を鳴らして歌も踊りも出してです。
 皆をおもてなしします、船長はそのおもてなしの中で恵梨香達に言いました。
「こうした宴はどうかな」
「何かですね」
 恵梨香が五人を代表して船長に答えます。
「冒険小説に出て来るみたいな」
「そうしたものだね」
「秘境に入った時みたいな」
「ははは、秘境だね」
「アマゾンは秘境ですから」
 外の世界ではというのです。
「それでこう思いました」
「それでだね、けれどね」
「それでもですか」
「オズの国ではアマゾンもだよ」
 外の世界では世界最大の秘境と言われていてもです。
「普通の場所だよ」
「むしろもっと不思議な場所がありますね」
「そう、だからね」
「この島もですか」
「至って普通の場所でね」
「この村もですね」
「オズの国では秘境じゃないんだよ」
 そうなるというのです。
「至ってね」
「そうなんですね」
「この村の人達もオズの国の住人でね」
 それでというのです。
「普通に暮らしているよ」
「じゃあ秘境というのは」
「恵梨香達が悪い意味で考えていないのはわかるよ」
 それでもというのです。
「けれどオズの国ではアマゾンも秘境でなくてね」
「この村の人達もですね」
「普通の村だよ」
「オズの国の中の」
「オズの国の法律を守っていてオズマ姫に忠誠を誓っているね」
「普通のオズの国の人達ですね」
「生活はアマゾンのものであるだけだよ」
 ただそれだけだというのです。
「本当にね」
「そうですか、じゃあ秘境と思わないで」
「普通の場所の普通の人達だとね」
「わかってですね」
「楽しもうね」
「わかりました」
 恵梨香も他の子達も笑顔で応えてでした、そのうえで。
 皆で飲んで食べて歌って泳いで楽しみました、特にブラジル人のカルロスはサンバも披露してかなり楽しみました。
 そしてそれぞれ男の子と女の子に分かれて水浴びをしてからでした、そのうえでそれぞれ用意してもらったお部屋の中で、でした。
 ぐっすりと寝てそのうえで。
 朝に手を振り合って村を後にして船の場所に行きました、そうしてまた海に出ましたが海に出た時はもうお昼でした。
 それでお昼のサンドイッチを皆で食べてです、外を見ますが。
「奇麗よね」
「うん、オズの国の海もね」
「凄く奇麗だね」
「何度見てもいいね」
「海もお空もね」
「そうよね、色々な生きものもいて」
 それでと言う恵梨香でした。
「素敵な場所ね」
「そういえばここはね」
 ビリーナが言ってきました。
「あと少し行ったら小島が一杯ある場所に着くわよ」
「小島が?」
「そう、そこにね」
 ビリーナは恵梨香達にお話しました。
「着くけれど」
「何かあるの?そこにも」
「島と島の間に沢山の生きものがいるの」
「そうなのね」
「珊瑚礁の中にあってね」
「見ているだけで素敵な場所みたいね」
「ええ、とても奇麗な場所よ」
 ビリーナは明るい声でお話しました。
「そこもね」
「そうなのね」
「だからね」
「そこに入ったら」
「そう、その時はね」
 まさにというのです。
「じっくり観て楽しんでね」
「そうさせてもらうわね」
「私も珊瑚好きだしね」
「そうなの」
「そうよ、宝石は嫌いじゃないし」
 その中でもというのです。
「珊瑚は好きな方だしね」
「だからなのね」
「それを観ることもね」
「好きで」
「船が早くそこに着いて欲しいと思ってるわ」
「私もそう聞くとね」
 恵梨香も言いました。
「楽しみよ」
「そうでしょ、じゃあ船長さんいいわね」
「あそこにだね」
「早く着く様にしてね」
 船の速度を速めてです。
「いいわね」
「それじゃあね」
 船長も頷いてでした、そのうえで。
 ビリーナの言う通り船の速度を速めました、すると三時前にはもうそこに着きました。そこはどういった場所かといいますと。
 小さい小島が沢山あってです、その島と島と相田の海にです。
 珊瑚礁が広がっていてそこに宝石みたいに奇麗なお魚やイソギンチャク、烏賊や蛸や蟹達がいます。その風景を透明になった船底から見てです。
 恵梨香達はうっとりとして言うのでした。
「赤や黄色の珊瑚達が奇麗ね」
「そうだよね」
「緑の珊瑚もあるよ」
「青や紫の珊瑚もね」
「オズの国の色が全部あるね」
「その五色がね」
「青や紫の珊瑚はね」
 どうかと言う恵梨香でした。
「これもオズ国ならではよね」
「そうだよね」
「オズの国でないとね」
「こうした色の珊瑚ないからね」
「余計に素敵ね」
「生きものもね」
 お魚や蟹達もというのです。
「奇麗よね」
「宝石が沢山泳いでいるみたいね」
 トロットが言ってきました。
「そうよね」
「はい、何か」
「それがね」
 まさにというのでした。
「この場所なのよ」
「そうなんですね」
「烏賊や蛸もだね」
 船長もお話します。
「色々な色や模様で奇麗だね」
「熱帯魚みたいですね」
「貝も蟹もね」
「とても大きな宝石箱みたいです」
 こうも言った恵梨香でした。
「ここは」
「そう、オズの国の海の宝石箱」
「実際にそう言われていますか」
「ここはね、主もいるしね」
「主っていいますと」
「そう、クラーケンがいるんだよ」
 この生きものがというのです。
「それがね」
「クラーケンですか」
「恵梨香達も知ってるね」
「はい」
 恵梨香はすぐに答えました。
「とても大きな蛸か烏賊の生きものですね」
「オズの国では両方いるんだ」
「蛸のクラーケンも烏賊のクラーケンもですか」
「それでここにいてね」
「ひょっとして二匹共ここにですか」
「そう、いるんだ」
「そうですか」
 恵梨香も他の子達もでした、船長のお話を聞いてです。
 そうして周りを見回しましたがそれらしき巨大な生きものは見当たらなくてそれでこう言ったのでした。
「今はいないわね」
「大きな蛸も烏賊もね」
「普通の蛸や烏賊はいるけれど」
「何メートル、何十メートル位になると」
「いないわね」
「いや、いるよ」
 船長は五人に笑って答えました。
「今ここにね」
「えっ、何処にですか?」
「何処にでしょうか」
「一体何処に」
「見当たらないですが」
「それらしき生きものは」
「そことね」
 船長は島の一つを指差いて、でした。もう一つも指差しました。ですがその二つの島のどちらもでした。
 至って普通の何の変わりもない島です、それで恵梨香は船長に言いました。
「どの島も」
「普通に見えるね」
「はい」
 そうだと答えるのでした。
「別に」
「それは仕方ないね、何しろクラーケンはね」
「ひょっとして」
「そう、大きいからね」
 だからだというのです。
「島と変わりないんだよ」
「そういえば」
 島の一つを見てです、恵梨香は気付きました。
「あの島ちょっと尖っていますね」
「わかったね」
「あの島は実は」
「クラーケンの頭なんだ」
「そうなんですね」
「そしてね」
 さらに言うのでした。
「別の島もね」
「クラーケンの頭ですか」
「よく見ればわかるかな」
「あの山は」
 本当によく観ればです。
「妙に丸いですね」
「そう、あの島は蛸の頭だよ」
「そうですか」
「クラーケンは本当に大きいからね」
「頭だけでもですか」
「相当に大きいからね」
「あれは頭で」
 それにと言う恵梨香でした。
「しかも一部ですよね」
「海面に出ているだけだね」
「それであの大きさとなると」
 それこそでした。
「どれだけ大きいか」
「わからない位だね」
「何百メートル位ですか」
「それ位はあるね」
 実際にというのでした。
「どっちのクラーケンも」
「物凄い大きさですね」
「そうだよ、それで寝るとね」
 そうなると、というのです。
「もう何日も寝たりするんだ」
「そこまで寝るんですか」
「そうだよ、それで沢山食べるしね」
「身体が大きいからですね」
「そうもするからね」
「あっ、動いたよ」
 モジャボロが言うとでした、実際にそれぞれ島にしか見えないクラーケン達が動いてそのうえででした。
 皆が乗っている船のところに来てです、それぞれ船の何倍もの大きさの蛸と烏賊が出てきました。その彼等を観てです。
 恵梨香達はびっくりして言いました。
「うわ、凄いわね」
「これはまた凄い大きさだね」
「この船より遥かに大きいいよ」
「頭だけで小島位あるね」
「これがクラーケンなのね」
「やあはじめまして」
「君達にははじめましてだね」
 二匹のクラーケンがそれぞれ五人に言ってきました。
「船長さん達にはもうお会いしてるけれどね」
「君達ははじめてだね」
「オズの国の名誉市民の子達だね」
「そうだよね」
「ええ、そうなの」
 恵梨香は五人にその通りだと答えました。
「私達はオズの国の名誉市民よ」
「そうだね、お話には聞いていたけれど」
「会ったのははじめだね」
「じゃあね」
「これから宜しくだね」
「ええ、こちらこそ」
 恵梨香は二匹に笑顔で応えました、勿論ナターシャ達四人も二匹に挨拶をします。そしてここででした。
 ふとです、恵梨香はこんなことを言いました。
「蛸や烏賊の数え方は杯だけれど」
「一杯二杯だね」
「君はそう数えるんだね」
「ええ、日本だとね」
 こうクラーケン達にお話します。
「そうなるけれどクラーケンだとどうかしら」
「別に一匹二匹でいいと思うよ」
「僕達の場合はね」
 クラーケン達はこう答えました。
「それでいいと思うよ」
「特にこだわらなくね」
「日本ではそうかも知れないけれど」
「オズの国ではいいと思うよ」
「それに僕達はクラーケンだからね」
「普通の蛸や烏賊と違うからね」
 このこともあってというのです。
「数え方はね」
「杯じゃなくてもいいんじゃないかな」
「そうね、それじゃあね」
 恵梨香も頷いてでした、そのうえでそれでいこうと思いました。
 そしてです、こうも言いました。
「じゃあそうね」
「一杯二杯でも別にいいけれど」
「一匹二匹でもいいよ」
「それじゃあね」
「そう数えてね」
「それじゃあね」
 恵梨香はまた頷きました、そうしてです。
 そしてです、また言った恵梨香でした。
「クラーケンって二種類いるのね」
「蛸か烏賊かでね」
 教授が言ってきました。
「それぞれいるんだ」
「そうなんですね」
「そう、そしてオズの国ではね」
「両方いるんですね」
「そうなんだ、この国ではね」
「それで私達は今どちらのクラーケンとも会ってですね」
「お話をしているんだよ」
 こう恵梨香達に言うのでした。
「今ね」
「そうですね、じゃあ」
「これを機会にだね」
「若しクラーケンさん達がよかったら」
 それならというのです。
「お友達も」
「喜んで」
「是非共だよ」
 これがクラーケン達の返事でした。
「お友達になろうね」
「ここに来た時はこうしてお話しようね」
「宜しくね」
「オズの国は誰ともお友達になれる国よ」 
 トロットは笑顔で恵梨香達にお話しました。
「だからね」
「私達もですね」
「そうよ、是非ね」
 まさにというのです。
「これからもね」
「お友達を増やしていくといいんですね」
「そうよ、クラーケン達ともお友達になったし」
「他の皆ともですね」
「貴方達はこれまでの島々の生きものや人達ともお友達になっているわ」
「だからですね」
「これからもね」
 さらにというのです。
「お友達を増やしていきましょう」
「わかりました」
「私もそうしていくから」
「そうさせていってもらいます」
「そうそう、お友達といえば」
 ここで船長も言ってきました。
「氷の島の人とは会ってないね」
「そうでしたね」
「丁度次の島に行く途中に寄れるから」
「それじゃあ」
「そう、またあの島に寄って」
 そうしてというのです。
「会おうか」
「そうしてくれるんですね」
「友達は多い方がいいからね」
 だからだというのです。
「是非ね」
「あの島にもう一度行きますか」
「そうしよう」
「氷の島だね」
「あの島はいい島だね」
 クラーケン達もこう言います。
「僕達も時々行くよ」
「あの島の景色を楽しみにね」
「それじゃあね」
「またあの島に行って来るといいよ」
「そうして友達を増やすんだ」
「友達が多いこともまたいいことだからね」
「そうしてくるわね」
 恵梨香はクラーケン達ににこりと笑って応えました、そうしてです。
 珊瑚礁の島々から氷の島に向かいました、その途中でです。
 教授は海を観ながら皆に言いました。
「オズの国は常春の国だから海も暖かいけれど」
「あっ、北極や南極の海は寒いですね」
 恵梨香が教授にすぐに応えました。
「そうでしたね」
「本ではそう書いてあるね」
「それで赤道線では暑いんですね」
「そう、地球は丸くてね」
「北極や南極は寒くて」
「赤道線のところでは暑いんだよ」
 そうなっているというのです。
「そこはオズの国とは違うよ」
「オズの国は何処も常春なので」
「外の世界はそうなっているんだよ」
「アメリカもそうだよ」
 モジャボロは自分の祖国、ドロシーやジョージ達の祖国でオズの国にも深く関わっている国のお話をしました。
「マイアミとシアトルじゃ全然違うよ」
「そうなんですね」
「うん、マイアミは常夏で」
 そうした街でというのです。
「シアトルは寒い時が多いんだ」
「シカゴも寒いですし」
 アメリカ人のジョージも言ってきました。
「これがカルフォルニアだと暖かいんですよね」
「天津も寒いよ」
 中国人の神宝も言います。
「けれど広州はかなり暑いよ」
「アメリカは確かに南北で違うね」
「中国だってね」
「今いる日本も北海道と沖縄じゃ違うけれど」
「僕達のそれぞれの国もそうだね」
「そうしたお話は私達はね」
「ちょっと入れないね」
 ナターシャとカルロスは今のお話に入りにくい感じで困ったお顔になってそのうえで言っています。
「ブラジルは凄く暑いからね」
「ロシアはその殆どが寒いから」
「広くてもそうした国だから」
「困るわね」
「まあそこは国それぞれだね」
 教授もこう言います。
「けれど南北でね」
「外の世界は気温が変わりますね」
「赤道に向かうと暑くて」
「北極南極に向かうと寒くなる」
「そうなっていますね」
「外の世界はそうですよね」
「そう、そしてこのオズの国はね」
 とても広い大陸と周りの海とそこにある島々のです。
「常春の国だから氷の島に行っても」
「暖かいんですね」
「実際暖かかったね」
「はい」
 恵梨香はその通りだと教授に答えました。
「中にいても」
「そこは有り難いね、海を進んでいるとだよ」
 船長もお話します。
「短い期間で気温が変わったりするからね」
「南北を進んでですね」
「そうなるからね」
「大変なんですね」
「服もだよ」
「すぐに着替えるんですね」
「ボタン=ブライトはセーラー服を着ているね」
 ここで船長はあの少年の服のお話をしました。
「あの服は寒いところでは黒くて生地が分厚いんだ」
「それで暑いところではですか」
「白くて生地も薄くなるんだ」
「あの子のセーラー服は白いですが」
「あれは彼が好きだから着ていてね」
「寒い場所だとですね」
「黒いものになるんだ」
 そうしたセーラー服になるというのです。
「もう本当にあっという間にね」
「着替えないといけないんですか」
「そうだよ、だからね」
 それでというのです。
「大変なんだよ」
「そうなんですね」
「それが船の旅の醍醐味でもあるけれど」
「それでもですか」
「気をつけないといけないよ」
「そうですか」
「そう、本当にね」
 まさにと言うのでした。
「外の世界ではそうだよ」
「そう思うとオズの国は」
「そこも楽だよ」
「本当にそうですね」
「まあね、常春の国だとね」
 ビリーナは海の水平線を観つつ述べました、水平線の向こうはは何処までも続いている感じになっています。
「色々と季節が変わることに気を配らなくていいから」
「貴女も楽なのね」
「かなりね」
「そうなのね」
「まあね」
 また言ったビリーナでした。
「私にとってはそうよ」
「そういうことなのね」
「そこはあんた達と違うわね」
 そうした考えだというのです。
「はっきり言って」
「まあ貴女らしい考えね」
「気楽に過ごせたら」
 それでというのです。
「気温はどうでもいいわ」
「わしは考えるね」
 船長はビリーナにも言いました。
「外の世界のことを思い出してね」
「オズの国に満足していてもよね」
「うん、思い出だからね」
 それでというのです。
「そこから考えることもあるよ」
「今いる世界のことだけ考えるのじゃなくて」
「そこはだよ」
「成程ね、それぞれね」
「こうしたこともね」
 こうビリーナに言うのでした。
「そうなるね」
「そうね、しかしね」
「しかし?」
「いや、私はオズの国にいるから」
 それでというのです。
「ずっと生きていられて私の王国も築いてね」
「君は女王でもあるからね」
「鶏の国のね、そして沢山の家族がいるわ」
「そうなったのはオズの国に来たからで」
「もう充分過ぎるまでに満足しているわ」
「それはわしもだよ、ただ」
 これ以上はないまでに満足していてもというのです。
「外の世界を思い出すことはあるよ」
「大変なことがあっても」
「それも懐かしい思い出だよ」
 そうなっているというのです。
「これがね」
「そうなのね」
「この水平線を観ても思い出すよ」
 ビリーナが観ている水平線も観てです、船長はとても温かい笑顔になってそうしてビリーナに言うのでした。
「外の世界のこともね」
「大変でかつ楽しかったのね」
「そうさ、あの頃と同じく」
 まさにというのです。
「わしは航海をしている」
「それも嬉しいのね」
「心からね」
「船長さんのそうしたところはとても素敵ですね」
 恵梨香は横から聞いて思いました。
「本当に」
「そう言ってくれるかい?」
「白鯨に会いましたけれど」
 この時のことからお話する恵梨香でした。
「白鯨を追い求めていたエイハブ船長は」
「楽しんでいなかったね」
「そうでした」
「あの人のことはわしも知ってるよ」
 船長は恵梨香だけでなく他の子達にも悲しいお顔でお話しました。
「わしと同じ片足だったな」
「はい、白鯨に食べられて」
「そのことからも白鯨を恨んでいてな」
「見付けて復讐しようとです」
「ひたすら思っていたな」
「そうでした」
「あの人が復讐を忘れていたら」
 船長は心から思いました。
「幸せになれていたかも知れないよ」
「そうだったんですね」
「そう、けれどね」
「復讐ばかりになってしまって」
「それでだよ」
「ああなってしまったんですね」
「片足をなくした気持ちはわかるよ」
 自分と同じだからというのです。
「けれどだよ」
「復讐ばかりになると」
「心がいつも寒くなってね」
「ああなってしまうんですね」
「楽しみを忘れてね」
「そういえば楽しんでいる感じはないですね」
 恵梨香もエイハブ船長の姿を思い出しました。
「確かに」
「そうだよね、あの人はね」
「全然楽しそうじゃないね」
「白鯨への復讐ばかりで」
「取り憑かれている感じだったわ」
「それだけで凄く不孝なことだよ」
 船長は五人にお話します。
「復讐しか頭にないなんてね」
「本当にそうですよね」
「全然楽しめなくなっていてで」
「ひたすら白鯨を追い求めてなんて」
「凄く悲しい人生ですよね」
「あの人は」
「若しあの人がオズの国に来たら」
 どうかと言う船長でした。
「一度じっくり一緒に飲んで」
「そしてですか」
「そうしてですか」
「それからですね」
「お友達になって」
「それからですね」
「うん、楽しい人生を送ってもらえるようにしたいね」
 これが船長のあの人への願いでした。
「本当に」
「そうよね、楽しみを忘れた人に楽しみを思い出させる」
 トロットは船長のその言葉に頷きました。
「それはね」
「とても素晴らしいことでね」
「オズの国の人達の義務であるわね」
「法律でも定められているね」
 オズの国のそれで、です。
「そうだね」
「ええ、楽しみを忘れた人がオズの国に来れば」
 オズの国にいる人はもう楽しみに包まれています、ですが外から来た人はそうとは限らないのです。
「その人に楽しみを教えて」
「一緒に幸せになる」
「それがオズの国だからね」
「そう思うと」
 トロットも船長のお話を聞いて述べました。
「エイハブ船長はオズの国に来て欲しいわね」
「そうして幸せになって欲しいね」
「ええ、是非ね」
「そうなってもらって」 
「ずっとオズの国にいて欲しいわ」
「楽しみを忘れた人こそ楽しみを味わってほしいね」
「本当にね」
 船長に心から言うトロットでした。
「悲しい人だし」
「悲しみと楽しみはどちらが上か」
「楽しみに決まってるわ」
「その通りだよ、だからね」
「あの人と会えたら」
「楽しんでもらおう」
「無理強いはしないけれどね」
 オズの国ではそれはいいこととはされていません、船長達オズの国の名士の人達もそうしたことはしません。
「そうしましょう」
「そうだね、それでだけれど」
「ええ、何あかしら」
「今何時かな」
 船長はトロットに時間を尋ねました。
「日の高さを観たら三時かな」
「二時半よ」
 トロットは懐中時計を出して時間をチェックしてから船長に答えました。
「今は」
「そうかい、二時半か」
「あと三十分でお茶の時間ね」
「そうだね、もう氷の島は近くだし」
 見れば今にも停泊出来る距離です。
「それならね」
「島の人とね」
「お茶を飲んで」
「そうしながらね」
「恵梨香達のお友達になってもらおう」
「それがいいわね」 
 トロットは船長の言葉に頷いてでした、船長のお考えをよしとしました。そうして船はまた氷の島の傍の海に錨を下ろしてです。
 それで島に入るとすぐにでした、イヌイットの氷のお家を見付けてそこにイヌイットの服を着た中年の男女がいました。
 その人達のところに来てです、船長は五人にお話しました。
「この人達がだよ」
「氷の島に住んでいる人達ですね」
「そうなんだ」
 こう説明するのでした。
「この人達がね」
「宜しくね」
 男の人が恵梨香達二笑顔で挨拶をしてきました、見れば男の人も女の人もお顔立ちはアジア系です。
「わし等はこの島の住人だよ」
「夫婦で暮らしているのよ」
 女の人は恵梨香達にこうお話しました。
「ずっとね」
「そうしているんだよ」
「そしてオズの国の住人でもあるからね」
「このことも覚えておいてね」
「はい」
 五人はイヌイットのご夫婦に笑顔で応えました、そうして暖かいお茶を飲みながらそのうえでお話をはじめました。
 お茶は今日はレモンティーでドーナツとキャラメルそしてカラフルなケーキトいったセットでした。そのセットも楽しみつつです。
 ご夫婦は恵梨香達にこう言うのでした。
「いや、君達のことは聞いていてね」
「一週間位前にこの島に来ていたと聞いたけれど」
「わし等にその時会わなかったからね」
「残念に思っていたのよ」
「けれどこうして来てくれてね」
「会えて嬉しいわ」
「船長さんのお考えでなんです」 
 恵梨香が答えます、ドーナツを食べながら。
「私達がご夫婦ともお友達になるべきだって言われて」
「それでか」
「もう一度この島に来てくれたのね」
「それで今わし等とお茶を飲んでいる」
「そういうことなのね」
「はい、船長さんがそう考えられて」 
 それでというのでした。
「お会い出来て」
「一緒にお茶を飲んでね」
「お菓子も食べてだね」
「お話もしてお友達にもなる」
「そういうことね」
「いや、考え通りになって」 
 それでと言った船長でした。
「よかったよ」
「いい人がお友達でいてくれて」
 トロットも言ってきます。
「そうしたお友達が沢山いればね」
「それは幸せだね」
「本当にそうよね」
「わし等は果たしていい人か」
「それはわからないわね」 
 ご夫婦は二人でお顔を見合わせて笑ってお話しました。
「果たしてどうか」
「それはな」
「心からそう言う人で悪い人はいないよ」
 モジャボロがお二人に笑って言いました。
「自分はどうって自覚していい人になろうとするからね」
「そういうものかな」
「そうだといいけれど」
「うん、お二人はね」
 本当にというのです。
「僕もいい人だと思うよ」
「人は目を見ればわかるというけれど」
 ビリーナは実際に今お二人の目を見ています。
「二人共とても優しい目をしているわね」
「じゃあわし等は優しい人かな」
「そうだといいけれど」
「若しそうでなかったら」
「そうなりたいわ」
「前のノーム王も今は凄く奇麗な目をしているわ」
 オズの国に何度も悪いことをしようとしたこの人もです。
「楽しく暮らしてね」
「あの人は本当に色々しようとしたわね」
 恵梨香のノーム王のことを知っていて述べます。
「何かと」
「ええ、けれど今ではよ」
「奇麗な心になったのよね」
「それで楽しく暮らしているのよ」
「それで目もなのね」
「随分奇麗な目になったわ」
 そうなったというのです。
「昔は随分悪い目をしていたけれどね」
「悪い人だったから」
「そう、濁って陰険そうなね」
「その時のあの人の心のままね」
「それでノーム全体もよ」
 この種族自体がというのです。
「随分とね」
「悪い種族だったわね」
「それが変わったから」 
「いい種族になったのよね」
「そうなってね」
 そうしてというのです。
「皆と仲良く暮らしているわ」
「そうよね」
「あんた達にもそうだったでしょ」
「楽しく過ごせたわ」
「そうでしょ」
「まあわし等はノームのことは詳しくないけれど」
 ご主人が言ってきました。
「お話は聞いていてね」
「今そうなってっていうのね」
「よかったと思うよ」
「あの人達ともお友達になりたいわね」
 奥さんは笑って言いました。
「この島に来てくれたらね」
「そうよね、じゃあその時が来ることを願って」
 それでと言うトロットでした。
「今はね」
「皆でお茶を楽しむ」
「そうするべきね」
「恵梨香達とご夫婦がお友達になったし」
 それが適ったからというのです。
「よかったわ」
「うん、では夕方にはね」
 船長がまた言ってきました。
「出港しよう」
「それまではですね」
「この島にいてご夫婦とお茶を楽しもう」
 こう恵梨香にもお話します。
「そうしよう」
「わかりました、それじゃあ」
「その様にね」
「それで夜は、ですね」
「また船の中だよ」
「今晩は甲板の上でバーベキューにしましょう」
 トロットが食事のお話をします。
「そうしましょう」
「バーベキューですか」
「夜空を観ながらね」
 そうしながらというのです。
「お肉やお野菜を食べましょう」
「そうしてですね」
「美味しい思いをしましょう」
「さて、では飲みものは」
 そちらはと言う船長でした。
「何がいいかな」
「そうね、ジュースやコーラも出すけれど」
「お酒もだけれどね」
「船長さん達が飲むお酒ね」
「ビールがいいかな」
「そこは好きなお酒を言ってね」
「そうしてだね」
「好きなお酒を飲んでね」
「そうさせてもらうよ」
「ではね」
 二人でお話してです、そのうえで。
 皆は今はイヌイットのご夫婦とお茶を楽しみました、そうしてから夕方には船に乗ってまた船旅を楽しむのでした。








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