『オズのキャプテン船長』




               第三幕  出港して

 船長達はリンキティンク王の国で五日程滞在してそのうえでいよいよ出港となりました、その時にです。
 王様は王子と一緒に皆を港まで見送ってから皆に貸す船についてお話しました。
「そこに行けと言うだけでじゃ」
「行けるんだね」
「一切操船の必要はない」
 まさにと船長にお話します。
「よい船じゃぞ」
「それは凄いね」
「そして船を動かす楽しみを味わいたいならな」 
「その場合はだね」
「動かせる」
 それも出来るというのです。
「ちゃんとな」
「それはいい船だね」
「しかも中によい食堂やお風呂もあってじゃ」
 そちらの設備も整っているというのです。
「船の底がボタン一つで透明になってじゃ」
「海の中を観ることが出来るんだね」
「うむ、海に接している部分全部がな」
「それもいいことだね」
「だからじゃ」
 それでというのです。
「最高の船旅になるぞ」
「よし、それでは」
「鮒旅を楽しんでくるのじゃ」
「そうしてくるよ」
「こうした船旅を楽しむこともね」
 笑顔で言うトロットでした。
「冒険だから」
「それではね」
「そう、是非ね」 
 まさにというのでした。
「今から冒険の旅に出ましょう」
「海にね」
「海に出たら」
 その時のことをお話する教授でした。
「色々と面白いものを観て学べるから」
「楽しみだね」
「そちらもね」
 モジャボロにこう答えるのでした。
「ずっと楽しみにしていたし」
「今からそれがはじまると思うと」
「期待していて」
「心がうきうきとしているね」
「これまで通りね」
「海の旅もいいものよ」
 ビリーナも期待しています、それが態度にも見えています。
「私も大好きよ」
「えっ、そうなんだ」
 カルロスはそう聞いて驚きました。
「ここに来る時に凄い嵐に遭ったのに」
「ドロシーさんと一緒にね」
 神宝もその時のことを言います。
「危うくどうなるかだったのに」
「それでも好きなんだ」
 ジョージは首をかしげてさえいます。
「てっきり二度とって思ってたけれど」
「それも大好きなんて」
 ナターシャっまさかと言うお顔になっています。
「凄いわね」
「それはどうしてなの?」 
 恵梨香はビリーナ自身に尋ねました。
「海の旅が好きな理由は」
「二度目からね」
 ビリーナは恵梨香達の疑問に答えました。
「素敵な旅ばかりだったからよ」
「だからなのね」
「そちらの旅も好きなのよ」
「そうなのね」
「最初のオズの国に来た時もね」
 危うくだったその時もというのです。
「私もドロシーも絶対に大丈夫って思っていたわ」
「そう言えば落ち着いていたわね」
「私はそう簡単に死ななかったからよ」
「だからあの時もって思っていたのね」
「そうよ」 
 まさにというのです。
「それで実際にだったでしょ」
「ドロシーさんと一緒にオズの国に来て」
「その後の大活躍だったでしょ」
「皆を助け出してノーム王を懲らしめて」
「そうだったからね」
 だからだというのです。
「もう最初からね」
「怖くないのね」
「そうだったしね」
「今はもう楽しみなのね」
「そうよ、青い海とお空を観ながらの旅よ」
 そうしたものだからだというのです。
「とても素敵な冒険でしょ」
「そう思うから」
「そうよ、楽しみでね」
 それでというのです。
「本当に今からね」
「期待しているのね」
「教授さんみたいにね」
「そう、私は学問でビリーナは旅をだよ」
 教授も言ってきました。
「それぞれ楽しむのだよ」
「そういうことですね」
「じゃあ今から乗ろうね」
 モジャボロは五人に穏やかで優しい声をかけました。
「これからね」
「はい、それじゃあ」
「さて、楽しい旅をしてくるのじゃぞ」 
 王様は船に乗り込む五人に声をかけました。
「これから」
「よい冒険の旅を」
 王子も声をかけます。
「これから」
「そうしてくるよ」
 船長が二人に言葉を返してでした。
 皆で船に乗ってそうして海に出ました、船は実際に船長がそこに行ってくれと言うだけで自動で動いてくれます。
 それでモジャボロも船長に言うのでした。
「舵を取る必要がないからね」
「取ろうと思ったら取れるけれどね」
 それでもと答える船長でした。
「そこに行ってくれと言ったら」
「もうそれで行けるから」
「海を観たり船の上での楽しみにも専念出来るよ」
「それでだね」
「今から色々と楽しもう」
「そうするんだね」
「皆でね」
「じゃあまずは」
 トロットが言ってきました。
「海の中を観ましょう」
「船の中に入ってだね」
「ええ、王様がお話してくれた通りにね」
「船の底を透明にして」
「それで観ましょうね」
「うん、では今から船の中に入って」
「そうしてね」
 それでというのでした。
「海の中を観ながら」
「そうしてだね」
「丁度お昼だから」
 その時間だからだというのです。
「お昼ご飯を食べましょう」
「今日のお昼は何かな」
「海に出たから」
 それでというのです。
「シーフードにしましょう」
「そちらをだね」
「ええ、お寿司がいいかしら」
「そういえば最近お寿司は食べていなかったね」
「ええ、だからね」 
 最近食べていなかったこともあってというのです。
「お寿司にしましょう」
「それはいいね」
「色々なネタを出すから」
 こうもお話するトロットでした。
「皆で楽しみましょう」
「それではね」
 船長はトロットの言葉に笑顔で頷いてでした、それぞれ甲板の上で景色を楽しんでいる皆を船の中に案内してでした。
 船の底を透明にするボタンを押してそうしてでした。船の中から奇麗な珊瑚礁や泳いでいる沢山の海の生きもの達を観ながらお寿司を食べるのでした。
 そのお寿司の中から鮪を選んでお口の中に入れつつです、恵梨香は言いました。
「オズの国の船って潜水艦でもね」
「ええ、こうしてね」
「海の中観られてだね」
「この船でもだよね」
「普通に観られるね」
 ナターシャ達四人も恵梨香に応えます、勿論四人も他の皆もお寿司をそれぞれ食べて美味しい思いをしています。
「それがいいよね」
「ただ海の上を進むんじゃなくてね」
「その中も観て楽しめるから」
「それもいいことよね」
「そうよね、こうした楽しみもね」
 まさにと言う恵梨香でした。
「素敵よね」
「これがオズの国の船旅よ」
 ビリーナは雄氏は食べていません、ただお寿司のご飯を食べて言うのでした。
「だから私も好きなのよ」
「海の中も観られるから」
「それでなのよ」
 それ故にというのです。
「私も大好きなのよ」
「そういうことなのね」
「ええ、観て」 
 海の中のある場所を指差してです、ビリーナは恵梨香に告げました。そこでは蛸がいて気持ちよさそうに泳いでいます。
「大きな蛸でしょ」
「二メートルはあるわね」
「蛸が泳ぐ姿はあまり観られないでしょ」
「隠れていることが多いしね」
「そうしたものも観られるのよ」
「オズの国の海の旅だと」
「だからいいのよ」
「そうなのね、あの蛸さんは」
 こうも言った恵梨香でした。
「美味しそうね」
「そこでそう言うの」
「だって私蛸好きだから」
 見れば恵梨香が今食べている寿司のネタは生蛸です、まさにそれです。
「それでなのよ」
「そう言うの」
「駄目かしら」
「駄目じゃないけれど恵梨香らしいわね」
「私らしいの」
「もっと言えば日本人らしいわね」
 そうだというのです。
「どうもね」
「蛸を見て美味しそうっていうのが」
「もうね」
 そのことがというのです。
「日本人ね」
「蛸を食べる国の人は少ないからね」
 船長も恵梨香にお話しました。
「だからこう言うんだよ」
「そうなんですね」
「実際にだよ」
「蛸を食べる国の人は少ないんですね」
「烏賊も案外少ないけれど」
「蛸はもっとですか」
「日本と中国は食べたかな、あとイタリアに」
 船長は具体的に蛸を食べる国を挙げてきました。
「スペイン、ギリシアに韓国かな」
「それ位ですか」
「フランスも食べないしね」
「そうなんですね」
「わしもオズの国に来て随分と経ってからだよ」
 船乗りとして世界中を巡ってきた船長もというのです。
「オズの国に日系人の人が増えて」
「和食も広まってですね」
「それからだよ」
「そうなんですか」
「本当に蛸を食べる国はね」
「少ないですか」
「それも日本人みたいには」
 それこそというのです。
「少ないね」
「それは私もよく言われます」
「恵梨香自身もだね」
「私達の通っている学校は世界中から人が集まってますので」
 だからだというのです。
「言われます、蛸はこうしてお寿司で食べたり」
「お刺身もあるね」
「あとおでんに入れる人もいて」
 冬に美味しいこの食べものにというのです。
「茹蛸、酢蛸に」
「何といってもたこ焼きかな」
「それが一番多いですね」
「そう、たこ焼きなんてね」
 このお料理はというのです。
「もうそれこそだよ」
「日本にしかないお料理で」
「もうこんな食べものがあるかってね」
 船長はサーモンの握りを食べつつ言うのでした。
「思った位だから」
「そうですか」
「けれどそれが食べたら」
「美味しいですよね」
「おやつにも酒の肴にもいいよ」
 両方にというのです。
「お好み焼きや焼きそばと一緒だね」
「お酒にも合うんですね」
「かなりだよ」
「ビールや焼酎と合うんだ」
 モジャボロは鳥貝の握りを食べつつ恵梨香にお話しました。
「たこ焼きやお好み焼きはね」
「その時はお酒が止まらなくて困るよ」
 教授はハマチの握りを食べています。
「どうにもね」
「全くだよ、そしてたこ焼きは」
 船長はたこ焼きのお話を続けました。
「今ではわしの大好物だよ」
「そこまでのものですか」
「この航海の間も一度は食べたいね」
「じゃあ一度出すわね」
 その食べものを出すテーブルかけを持っているトロットも言ってきました。
「冒険の間に」
「そうしてくれるかな」
「一度ね」
「では期待して待っているよ」
「それではね、それとね」
「それと?」
「まだ出港したばかりだけど」
 カジキの握りを食べながらです、トロットは船長に蛸のお話とはまた別のお話をしてきました。
「この船は何処に向かっているの?」
「氷の島だよ」
「そこに向かっているの」
「ペンギンとかオオウミガラスのお話が出たね」
「あっ、少しね」
 恵梨香も言われて思い出しました。
「そういえばね」
「それでだよ」
「そちらに行くのね」
「そうするよ、最初はね」
「そうなのね」
「あの島はいい島だね」
 教授は氷の島についてこう述べました。
「北極の生きものも南極の生きものもいてね」
「だから行こうと決めたんだよ」
「寒い地域の生きもの達がまとめて観られるからね」
「教授にとってもいい島だね」
「まことにね」
「北極に南極となると」
 恵梨香はそのお話を聞いて言いました、見れば今は納豆巻きを食べています。
「シロクマにペンギンに」
「全部観られるからね」
 教授は恵梨香にすぐに答えました。
「楽しみにしていてね」
「わかりました」
「しかもだよ」 
 教授はさらにお話しました。
「外の世界にはいない生きものもいるからね」
「そのこともですね」
「楽しみにしていてね」
 こうも言うのでした。
「是非ね」
「今回の冒険は楽しみが多いですが」
「そうだね、けれど実際にだよ」
「楽しみが多いんですね」
「そうした旅だからね」
 こう恵梨香に言うのでした。
「今回は」
「ならですね」
「その楽しみを受け入れて」
「そうしてですね」
「行こうね」
「わかりました、氷の島も」
「是非ね」
 恵梨香に笑顔で言う教授でした。
「それに入り口には恵梨香ならね」
「私ならですか」
「ひょっとしたら知っているかも知れない子達もいるしね」
「ひょっとしたらですか」
「うん、若しかしたらね」
「どんな子達かもですね」
「期待してね」
 そうしてというのです。
「オズの国ならではの不思議があるから」
「楽しみにしてですね」
「待っていてね」
「そうさせてもらいます」
「さて、お昼を食べたら」
 トロットはいくら巻きを食べつつ皆に言いました。
「暫くここで海を観ましょう」
「このままですね」
「そうしましょう、それでティータイムの時は」
 その時はといいますと。
「外に出てね」
「それで、ですね」
「甲板の上で海と空を観ながら」
 そうしてというのです。
「お茶にしましょう」
「いいね、ではね」
「ええ、三時はね」
 そのティータイムはとです、トロットは船長に答えて言いました。
「甲板の上よ」
「そして海の上とお空の景色を楽しみつつだね」
「今度はお茶とお菓子の」
 お寿司の次はというのです。
「そうなるわ」
「ではね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆でそのまま景色を観ていきます、お寿司を食べ終わった後で茶碗蒸しを食べましたがその茶碗蒸しを食べてです。
 船長はこんなことを言いました。
「お寿司に茶碗蒸しはね」
「これがまた合うんだよね」
 モジャボロが応えて言いました。
「実にね」
「そうなんだよね」
「不思議な位ね」
「お寿司と合うのは案外少ないけれど」
「お茶は合うね」
「そして他にはね」
「これなんだよね」
 茶碗蒸しだというのです。
「本当に」
「そうだね、それとね」
「それと?」
「お酒も選ぶね」
「そうそう、日本酒だね」
「やっぱり日本のお料理だけあって」
 それでというのです。
「一番合うお酒はね」
「日本酒だね」
「本当に」
 こうお話するのでした、茶わん蒸しを食べながら。
「それで茶わん蒸しもね」
「合うね」
「これがアメリカのお寿司だと」
 トロットが言ってきました。
「どうもね」
「合わないね」
「そうよね」
「日本のお寿司だからね」
「合うのよね」
「茶碗蒸しはね」
「アメリカのお寿司っていいますと」
 そう聞いて言ったのは恵梨香でした。
「どんな感じですか?」
「うん、やっぱりね」
 トロットが恵梨香に答えました。
「大きくてね、ネタもね」
「違うんですか」
「生ものは使っていても」
 それでもというのです。
「日本の巻き寿司とか組み合わせが違っていたりするのよ」
「そうなんですか」
「派手だね」
 アメリカ人のジョージも言います。
「全体的に」
「そういえば中国のお寿司も違うね」
 中国人の神宝も言います。
「日本のものとは」
「ロシアはどうかしら」
 ナターシャは自国のことを思いました。
「果たして」
「ブラジルもお寿司屋さんあるけれど」
 どうかとです、カルロスも言いました。
「どうだろうね」
「その国それぞれの文化があってね」
 船長は世界を巡ったことから五人にお話します。
「日本のお料理のお寿司もだよ」
「国によって違っていて」
「それが、ですか」
「オズの国でも出ていますか」
「オズの国が色々な人が集うアメリカが反映されるから」
「このこともわかるんですね」
「そう、わしは世界を巡って」
 そしてというのです。
「今はオズの国にいるからね」
「それで、ですね」
「船長もおわかりになっているんですね」
「そしてトロットさんも」
「そうなんですか」
「お寿司のことでも」
「カレーなんてそうだね」
 お寿司以上にというのでした。
「日本のカレーはインドのカリーとは全然違うね」
「それ言われます」
 実際にとです、恵梨香は船長に答えました。
「インドから来た子に」
「そうだね」
「はい、もうです」
 それこそというのです。
「別ものだって」
「カリーとはだね」
「元は確かになんですよ」
「カリーだね」
「インドの、ご飯の上にかける」
 このことは間違いないというのです。
「ですがそれが」
「カレーライスはね」
 日本のそれはといいますと。
「もうそれこそだね」
「完全に別ものだって」
「そうだね、実際にね」
「もう完全にですね」
「あれは別ものだよ」
 またこういう船長でした。
「カレーライスというね」
「カリーとは違った」
「イギリスでもカレーはよく食べるけれど」
 それでもというのです。
「やっぱりね」
「また違うものになっていますか」
「イギリスから日本に入ってね」
「そもそもビーフカレーは、ですね」
「インドでは牛肉は食べないね」
「はい、そのことも言われました」
 インドから来た同級生の子にです。
「その子絶対に牛肉食べないですし」
「宗教の問題でだね」
「もう何があってもです」
 牛肉を食べることはというのです。
「しないです」
「そうだね、けれどだね」
「日本のカレーは牛肉が入っているカレーが多いです」
「ビーフカレーがね」
「そう考えるとですね」
「実際にかなり違うよ」
 日本のカレーとインドのカリーはというのです。
「しかも独自の進化を遂げているしね」
「カツカレーは斬新なお料理だよ」
 教授はこう言い切りました。
「まさにね」
「斬新ですか」
「そう、第二次世界大戦後日本の千葉茂という日本のプロ野球選手が考えだしたんだ」
「日本の、ですか」
「その人は洋食が好きでね」
 それでというのです。
「カレーライスと豚カツを同時に食べたいと考えて」
「それで、ですか」
「カレーライスとご飯を一緒にしてね」
「出来たんですね」
「そこからだろうね」
 そのカツカレーからというのです。
「海老フライカレーが出来てハンバーグやソーセージも使った」
「そうしたカレーもですか」
「出て来たんだよ」
「そうなんですか」
「日本のカレーは凄い進化を遂げているよ」
 まさにと言う教授でした。
「味についてもね」
「林檎を隠し味に使うことはね」
 モジャボロは自分の大好物からお話します。
「いいことだね」
「その隠し味の使い方もですか」
「いいことだと思うよ」
 まさにというのです。
「本当にね」
「そうですか」
「蜂蜜も使ったりするしね」
「それもいいことですか」
「面白い味になってね」
「インドのカリーも美味しいけれど」
 ここで言ったのはトロットでした。
「日本のカレーもね」
「美味しいですか」
「私も大好きよ、また今度ね」
「カレーライスをですか」
「食べましょう、たこ焼きも食べて」
 そしてというのです。
「カレーライスもね」
「わかりました」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆で茶碗蒸しも食べて三時まで海の中を観てでした。
 三時になると和風のティ―セット、お抹茶に三色団子、きんつばにどら焼きを食べつつそのうえででした。
 皆で海を観ていますがその海で、です。
 恵梨香はあるものを見付けてそれで皆に言いました。
「さっき鯨いたけれど」
「うん、さっきね」
「凄く大きな鯨だったね」
「しかも白くて」
「凄く目立ったわね」
「あれはまさか」
 白くてとても大きな鯨だからとです、恵梨香はさらに言いました。
「白鯨かしら」
「うん、オズの国の海にはね」
「白鯨もいるんですか」
「モビィーディッグもね」
 船長は白鯨をこう呼びました。
「いるんだよ」
「あの、白鯨って」
 この鯨だと聞いてです、恵梨香は眉を曇らせてこうも言いました。
「確か」
「凄く怖い鯨だっていうんだね」
「体当たりで船を壊す様な」
「あれは外の世界の白鯨だよ」
「オズの国にいる白鯨とは違いますか」
「うん、違うよ」
 そうだというのです。
「だから安心していいよ」
「そうですか」
「とても優しいから」
 オズの国の白鯨はというのです。
「安心していいよ」
「それじゃあですね」
「うん、若し近くに来ても」
 それでもというのです。
「船に何もしてこないよ」
「それなら」
「うん、若し近くに来たら」
 白鯨がそうしてきたらというのです。
「お話してみるといいよ」
「わかりました」
「こっちに来るみたいよ」
 ビリーナはマストの方に登ってそれで海を遠くまで見ていますがそこから恵梨香達に言ってきました。
「どうやら」
「そうなの」
「じゃあね」
「ええ、私達もね」
「お話出来るかもね」
 恵梨香達は少し期待しましたが実際にでした。 
 白鯨は船の方に来てです、白くてとても大きなお顔を出してそのうえでまずは船長達に挨拶をしてきました。
「こんにちは」
「ええ、こんにちは」
 恵梨香がにこりと笑って応えました。
「元気そうね」
「この通りね」
 見ればとても白くて大きなマッコウクジラです、その大きさは大体百メートルでしょうか。かなりの大きさです。
「元気だよ」
「それは何よりね」
「うん、それとね」
「それと?」
「その子達がだね」
 白鯨は船の横をお顔を出して泳ぎつつです、船の中をとても大きな目で見つつトロットに尋ねました。
「外の世界から来ている」
「ええ、オズの名誉市民の子達よ」
「そうだね、噂には聞いていたけれど」
 それでもというのです。
「はじめて会ったね」
「そうよね」
「はじめて会ったけれど」
 それでもというのです。
「皆は僕のことを知っているかな」
「ええ、知ってるわ」
「白鯨さんだよね」
「白くて大きなマッコウクジラだね」
「僕達も知ってるよ」
「貴方は有名だから」
「そうなんだ、僕は有名なんだ」
 五人に言われてです、マッコウクジラはこうも言いました。
「そうなんだね」
「外の世界の小説で出ているのよ」
 恵梨香がお話します。
「それでなのよ」
「ああ、白鯨だね」
「貴方も知ってるのね」
「船長さんに前教えてもらったんだ」
 そうした小説があることをです。
「それで知ってるよ」
「そうなのね」
「ただね」
「ただ?」
「僕は鯨だから」
「あっ、いつも海の中にいるから」
「それで泳いでいるからね」
 だからだというのです。
「小説は読まないんだ」
「そうよね、やっぱり」
「お話を聞くことは出来るけれど」
 それでもというのです。
「読書は出来ないしね」
「しないのね」
「そうなんだ、だからその本を読んだことはないけれど」
「知っているのね」
「そうだよ、ただ僕人も船も襲わないから」
 このことはしっかりと言う白鯨でした。
「絶対にね」
「そうなのね」
「そんなことしないよ」
 本当に絶対にという口調でした。
「そんな怖いことは」
「ただ泳いでいるだけなのね」
「オズの国の海をね、この海には色々な生きものがいるけれどね」
「それは私も聞いてるわ」
「もうね、リバイアサンがいて」
「リバイアサンっていうと」
「とても大きな海のドラゴンだよ」
 それがリバイアサンだというのです。
「そしてオズの国の周りは一匹の大蛇が囲んでいるんだ」
「それはどんな大蛇なの?」
「ヨルムンガルドっていうんだ」
「ヨルムンガルドっていうと」
「北欧の神話に出て来るね」
「その大蛇よね」
「その大蛇はオズの国にもいて」
 そうしてというのです。
「オズの国の海を囲んでいるんだ」
「そうだったの」
「外の世界との境界ギリギリにいるよ」
「じゃあヨルムンガルドのいるところまでが」
「オズの国だよ」
「そこから先は外の世界ね」
「君達が本来いる世界だよ」
 そうなるというのです。
「外の世界だよ」
「そうなのね」
「それでね」
 白鯨はドロシーにさらにお話しました。
「海からオズの国に辿り着くことは出来るけれど」
「何かあるの?」
「オズの国に来る運命の人が来るんだ」
「じゃあそういった運命でないと」
「オズの国には来られないんだ」
「そうだったのね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「ヨルムンガルドの内側、オズの国は」
「運命の人でないと来られないの」
「選ばれてとかじゃないけれどね」
「そうした運命でないとなのね」
「来られないんだよ」
「だから私達は来られたのよ」
 トロット達が笑顔でお話します。
「そして貴方達もね」
「そういうことなんですね」
「だってここはお伽の国よ」
「何もかもが不思議な国だから」
「だからね」
「それで、ですね」
「運命でないと」
 絶対にというのです。
「来られないの」
「そうなんですね」
「だからね」
「私達も運命で来て」
「今こうして楽しんでいるのよ、ただ」
 ここでこうも言ったトロットでした。
「それは特別な運命じゃないのよ」
「オズの国に来られる運命でもですか」
「他の不思議の国に行く子もいるでしょ」
「ネバーランドや不思議の国に」
「そうした子達もいるから」
「それぞれの運命は運命で」
「特別ではないのよ」
 あくまでそれぞれでというのです。
「そこはわかっておいてね、そして運命は変わるから」
「それもまた運命ですか」
「悪い運命だとしても」
 船長も言います。
「それをいい運命に変えることも出来るんだよ」
「悪いものをいいものに」
「そうも出来るから」
 それでというのです。
「運命を悲観しないことも大事だよ」
「悪いと思ったらですね」
「いい運命にね」
「変えることですね」
「そうした努力も大事だから」
「そうですか、悪いものは」
「それは運命でもね」
 確かに重要なものです、ですがその重要なものもというのです。
「変えられるから」
「変えるといいんですね」
「そうだよ、いいね」
「はい、わかりました」
「そう、僕もね」
 白鯨がまた言ってきました。
「実はオズマ姫に言われたことがあるんだ」
「どう言われたの?」
「奥歯が痛いってこの海で出会ってね」
 そしてというのです。
「お話したら」
「その時になの」
「虫歯だって言われて」
「虫歯だったの」
「うん、僕達海の生きものもね」
「虫歯になって」
「それだって言われて放っておいたら」 
 その虫歯をです。
「今以上に痛い思いをすることになるってね」
「そうした運命になるって言われたのね」
「それでね」
「あっ、歯を抜いたの」
「そうなってね」 
 それでというのです。
「悪い運命から逃れられたよ」
「虫歯の痛さに苦しむ運命から」
「その時カエルマンさんもいてくれて」
 オズマに同行していたというのです。
「彼が泳ぎながら僕のお口の中に入ってくれて」
「虫歯を抜いてくれたのね」
「それでね」
「悪い運命から逃れられて」
「今はすっきりしているよ」
「それもまた運命を変えることね」
「オズの国に来るよりは軽い運命だけれど」
 それでもというのです。
「これもまた運命だね」
「そうね、虫歯で苦しむとしたら」
「本当に悪い運命だよ」
「それは私もわかるわ」
「君も虫歯になったことがあるのかな」
「私がないけれどお母さんが子供の頃なったことがあるそうなの」
 それで恵梨香も知っているのです。
「私にもいつもお話してくれるの」
「虫歯は痛いって」
「それもかなりね、だから私気を付けて」
「歯を磨いているのかな」
「そうしているわ」
「それは僕達もしているよ」
 白鯨はここで自分達の歯磨きのお話をしました。
「海のお水をどんどん飲んでいくんだ」
「海のなの」
「海水だからお塩があるね」
「そのお塩で消毒するのね」
「そうだよ、それでね」
 海水をいつも沢山飲んでというのです。
「お口の中を奇麗にしているんだ」
「そうなのね」
「けれどその時はいつもより飲んでいなかったんだ」
「どうしてなの?」
「うん、喉の渇きを飲む以外は面倒臭くなったんだ」
「歯磨きの為に飲むことが」
「ちょっとしたことだけれど」
 それでもだったというのです。
「面倒臭くなってしなかったら」
「虫歯になったのね」
「いや、しないことだよ」
 本当にと言う白鯨でした。
「面倒臭がることはね」
「虫歯になる悪い運命になるから」
「そうだよ、だからね」
 それだけにというのです。
「それはしないことだよ」
「そういうことね、じゃあ私もこれからも」
「是非歯を磨くべきだよ」
「そうよね」
「君のお母さんがいつもお話している通りにね」
「そうしていくわ」
「そういうことでね、あとこの辺りの海には」
 白鯨は話題を変えてきました、今度の話題はといいますと。
「面白い島が一杯あるから巡るといいよ」
「そのつもりで出ているんだよ」
 船長が白鯨に答えました。
「そうしているんだよ」
「成程、もうだね」
「既にそうしているよ」
「それなら僕から言うことはないよ」
「うむ、ではな」
「よい冒険の旅を」
 皆に笑ってこうも言いました。
「是非ね」
「その言葉有り難く受け取ったよ」
「じゃあね」
 ここまでお話してでした、そのうえで。
 白鯨は遠くに泳ぎ去っていきました、そうしてです。
 自分達だけに戻ったところでトロットは船長に尋ねました。
「最初にどの島にいくのかしら」
「うん、それはあえてね」
「内緒なのね」
「行ってみてのお楽しみと思って」
 それでというのです。
「あえて言わないよ」
「そうするのね」
「うん、だからね」
 それでというのです。
「今は内緒だよ」
「けれど船長さんならよ」
 ビリーナがわかっているという声で述べました。
「もうね」
「大丈夫って思えるわね」
「ええ、そうよ」
 こうトロットにも答えます。
「何があってもってね」
「そうよね」
「だから安心してね」
「その島に行けばいいわね」
「そうしましょう」
「ではこのまま船は進んでいくから」
 それでと言う船長でした。
「このまま行こう」
「それじゃあね」
 トロットは笑顔で頷いてそうしてでした。
 船は最初の目的の場所に進んで行きます、白鯨と出会ってお話をした一行は今度はオズの国の不思議な島達の方を巡っていくのでした。








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