『オズのエリカ』




               第四幕  駒の国

 一行は冒険の旅を続けました、アンはその中で地図を拡げてそれを見つつ歩いていましたがその中で。
 地図を見てです、アンは一緒に冒険をしている皆に言いました。
「また面白い国があるわね」
「今私達がいるこの近くに?」
「そう、すぐ近くにね」
 まさにそこにというのです、エリカにお話しました。
「あるわよ」
「それでどんな国なの?」
「駒の国らしいわ」
「駒の国?」
「そう、駒の国よ」
 その国だというのです。
「その国があるわ」
「駒の国なのね」
「そうよ、こう聞いたらよね」
「行きたいわね」
 エリカはアンに笑顔で答えました。
「是非」
「やっぱりそう言うわね」
「好奇心を刺激されたわ」
「猫ね、本当に」
「猫の中でもね」
 まさにと言ったエリカでした。
「私はとりわけ猫らしいんでしょ」
「ええ、本当にね」
「だからこそね」
「好奇心を刺激されて」
「そしてね」
 そのうえでというのです。
「今から行くわ」
「皆はどうかしら」
 アンはエリカの意見を聞いてから皆に尋ねました。
「それで」
「僕も行きたいよ」
「僕もだよ」
 臆病ライオンと腹ペコタイガーもこう答えてきました。
「面白そうな国だしね」
「是非共行こう」
「貴方達の考えもわかったわ、じゃあね」
 次はジョージ達五人に顔を向けたアンでした、そして五人にも尋ねました。
「貴方達はどうかしら」
「はい、僕達もです」
「宜しくお願いします」
「面白そうな国ですし」
「行きましょう」
「皆でそうしましょう」
 これが五人の返事でした、こうしてでした。
 皆はその駒の国という国に行くことになりました、そこは五人が今歩いている黄色い煉瓦の道を少し離れるとありました。
 この国も城壁に囲まれていますがこの国は。
「ええと、黒と白で」
「チェス模様だね」
 臆病ライオンと腹ペコタイガーがその壁を見て言いました。
「黒と白が縦と横に代わりばんこに並べられていて」
「決して同じ色が続かない様になっていて」
「まさにチェスの駒だね」
「そうだね」
「あれっ、この模様は」
 ジョージは城壁の上にある塔の模様を見て言いました。
「木に縦横にラインが描かれているけれど」
「これは日本の将棋の盤だね」
 カルロスもそれを見て言いました。
「塔の模様は」
「あと門の扉の模様は」
 神宝は城壁の門を見ました、そこも模様になっていますが。
「中国将棋だね」
「何ていうか」
 ナターシャは首を傾げさせて言いました。
「ボードゲームの盤の模様になってるわね」
「うん、全部ね」
 最後に恵梨香が言いました。
「そうなってるわね」
「そうね、じゃあここにいる人達は」
 エリカは五人のお話を聞いて言いました。
「駒の人達かしら」
「将棋やチェスの」
「それかしら」
 こうアンに言うのでした。
「やっぱり」
「実際にね」
 ここで、でした。アンは塔の窓から見える兵隊さんを見ました。見るとその人はどういった人かといいますと。
 黒い兵隊さんでしたがその兵隊さんは。
「チェスの駒に手足が生えた感じの人が見えたわ」
「あっ、本当ね」
 エリカもその塔を見て言いました。
「あの人は」
「そうでしょ、だからね」
 それでというのです。
「実際にこの国はね」
「駒の国なのね」
「そうみたいよ」
「そうした国なのね」
「そうだと思うわ、じゃあ今から門に行って」
「そしてね」 
 そのうえでというのです。
「国の中に入れてもらいましょう」
「それじゃあね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆は門のところに行きました、すると今度は将棋の歩兵の駒に手足が生えている人達が出てきました。駒の上の方にお顔があります。
 そしてエリカ達を見てすぐに尋ねました。
「あれっ、噂に聞いた」
「ひょっとして」
「そうよ、私がエリカよ」
 エリカが兵隊さん達に答えました。
「猫のね」
「そうだよね」
「貴女がオズの国で一番猫らしい猫だね」
「その猫だね」
「そうだよね」
「そうよ、それでね」
 猫は歩兵の駒の兵隊さんにさらに言いました。
「今回私達が来た理由はね」
「訪問かな」
「それかな」
「これからグリンダのところに行くけれど」
 その前にというのです。
「ちょっと近くを通ったからね」
「来てくれたんだ」
「そうだったんだ」
「そうよ、じゃあいいわね」
 是非にと言ったエリカでした。
「今からお国の中に入って」
「うん、いいよ」
「じゃあ中に入ってね」
 歩兵の兵隊さん達は明るい声で応えました。
「我が国の中に」
「そうしてね」
「わかったわ」
 エリカは兵隊さん達に胸を張って応えました、そうしてでした。
 皆は中に入れてもらいました、そのうえで。
 エリカ達は国の中を見ました、するとそこは。
 道はチェスの盤で家はそれぞれ日本や中国のそれぞれの将棋の盤の模様でした、そして道行く人達は皆それぞれのゲームの駒に手足があって上の方にお顔があるといったものでした。その人達を見てでした。
 エリカは納得してです、こう言いました。
「ええ、その名前通りね」
「駒の国だね」
「そうだっていうんだね」
「そうよ」
 その通りと臆病ライオンと腹ペコタイガーに答えます。
「まさにね、ただ人達の大きさはね」
「結構大きいね」
「アン王女位の大きさがあるね」
「大きさはそれ位だね」
「そこは違うね」
「人だからよね」
 それでと言ったエリカでした。
「これ位の大きさなのね」
「そうだね、この国はね」
 ここでこう言ったのはジョージでした。
「人が駒の国なんだね」
「そうね、ただね」
「ただ?」
「いえ、駒ってチェスだけじゃないけれど」
 エリカはこのことを言うのでした。
「そのことは知ってたけれどこの国もそうなのね」
「そうね、やっぱりあれよね」
 今度はアンが言ってきました。
「昔オズの国で盤で遊ぶゲームはチェスだけだったけれど」
「チェスだけじゃなくなったから」
「日本や中国の将棋も入ったから」
「だからこの国もなのね」
「将棋もあるのよ」
 そちらの模様もそうした人達もというのです。
「そうなってるのよ」
「成程ね」
「やっぱりこれはね」
 ここでまた言ったジョージでした、皆は駒の国の中を見て回りながらそのうえでお話をしています。門番の兵隊さん達が案内を申し出たのですがエリカは自分達で見回りたいと思ってそれを断ってそうなっているのです。
「アメリカがチェスだけじゃなくなったから」
「それでなの」
「うん、盤の上で駒を使って遊ぶゲームもね」
 それもというのです。
「増えたからね」
「将棋もする様になったの」
「そちらを指す人も出来たから」
「日本の将棋を指す人もいるのね」
 その日本人の恵梨香が言ってきました。
「それでなのね」
「中国の将棋もあるんだね」
 中国人の神宝の言葉はしみじみとしています。
「そちらを指す人もいて」
「日系人や中国系の人からの影響だね」
 カルロスはこう考えました。
「その人達がアメリカに入ったから」
「それでオズの国はアメリカが反映されるから」 
 最後に言ったのはナターシャでした。
「この国もチェスだけじゃなくなったのね」
「そうみたいね、私が自分の国の外にはじめて出た時のオズの国は」
 その時のことを思い出して言ったアンでした。
「当時のアメリカが反映されていたのね」
「それで全然違ったわね」
「ええ、そうだったわ」
 その時のオズの国はというのです。
「日本や中国の将棋の駒はなかったわ」
「そうよね」
「というか日本や中国の面影もね」
「なかったのね」
「全くと言っていい程なかったわ」
 そうだったというのです。
「今じゃオズの国の人間の人も白人だけじゃないでしょ」
「アジア系の人もアフリカ系の人もいるわね」
「ラテン系の人もね」
 そしてそれぞれの混血の人達もです。
「いるわね」
「そうね、けれど昔は」
「白人だけだったのよ」
「そうなのね」
「それが今じゃそうなったから」
 人間の人達もというのです。
「随分変わったわ」
「実は昔のアメリカもアジア系やアフリカ系の人はいたんですが」
 それでもとです、アメリカ人のジョージが言ってきました。
「影響力がなかったですしその文化も」
「オズの国に出なかったのね」
「そう思います、表に出ることも」
 アジア系やアフリカ系の人達が当時のアメリカで、です。
「なかったですから」
「だからなのね」
「はい、本当に」
 それでというのです。
「昔のオズの国に出ることはなかったんです」
「そうなのね」
「それでオズの国の人間の人達も」
「白人の人だけだったんですね」
「そうなのね」
「僕アメリカでもこっちでも色々な人と友達です」
 そうだというのです。
「白人だけじゃなくて」
「アジア系の子ともアフリカ系の子ともなのね」
「そうです、けれど昔は違ったそうです」
「白人は白人だけだったのね」
「そうみたいですし白人の人ばかり表に出て」
「そうした社会だったから」
「オズの国もですね」
 ジョージはチェスの盤の道を歩きつつ家々も見ます、見ればそれぞれの盤の模様がどの家の壁や屋根を彩っています。そして道も日本の将棋のものや中国の将棋のものもあって実に色々な状況になっています。
「白人だけだったんですね」
「ええ、それにジャズもね」
「あの音楽もですか」
「なかったし」
「あっ、ジャズもアフリカ系の人からでしたからね」
 アメリカのその人達がはじめた音楽だというのです。
「だからですね」
「私ジャズ大好きなのに」
 それでもというのです。
「最初はなかったのよ」
「ジャズいいのに」
 このことを残念そうに言うのはエリカでした。
「私毎日聴いても飽きないわ」
「エリカジャズ好きだったんだ」
「そうよ、ジャズを聴いてるとついついね」
 笑って言うエリカでした。
「立ち上がって踊って歌う位なのよ」
「そこまで好きなんだ」
「そうよ、恰好いいでしょ」
 ジャズという音楽はというのです。
「アフリカ系の人がタキシードやスーツ着て歌って楽器演奏して」
「それが好きなんだ」
「だからね」 
 それでというのです。
「私いつも聴くのよ」
「エリカがジャズ好きって」
「そんなに意外だったのね」
「うん、もっと賑やかな音楽が好きだと思っていたよ」
「ロックとかラップとか」
「そんなイメージだけれど」
 それが、なのです。
「ジャズ好きなんだね」
「あの恰好よさが好きだから」 
 それでというのです。
「だからね」
「ジャズなら毎日でもなんだ」
「聴くわよ、ただ音楽も増えたわね」
 オズの国でというのです。
「私が最初に来た時と比べたら」
「うん、ラップはここ二十年少し位の音楽だしね」
「ロックも結構後よ」
 この音楽もというのです。
「ポップスとかもね」
「うん、僕ポップス好きだけれどね」
「そうした音楽はね」
「新しいよね」
「むしろジャズは古い方よ」
 エリカは自分が大好きなその音楽のことをさらに言いました。
「今オズの国にある音楽の中ではね」
「昔はクラシックとか位だったね」
「オズの国でもそうよ」
「それが随分変わったんだね」
「最初ジャズを聴いて凄いって思ってね」
「今でも大好きなんだ」
「そうよ、とはいっても旅の間はそうした音楽は聴かないけれどね」
 それでもというのです。
「帰ったり機会があったらね」
「聴くわ」
 そうするとです、エリカはジョージに答えました。
「この国ではそうした音楽はないでしょうけれど」
「グラスバンドの曲が聴こえてきたわ」
 アンは国の何処かから聴こえてきたその音楽を聴いて皆にお話しました。
「それがね」
「あっ、アメリカでも盛んですね」
 ジョージはグラスバンドと聴いて言いました。
「大抵の学校でやってますし」
「そうよね、そういえばグラスバンドってね」
 それはといいますと。
「元々軍隊からはじまってるしね」
「だからどの国の軍隊でもやってるんですね」
「ええ、それでね」
 さらにお話するアンでした。
「オズの国にもあるし」
「この国にも」
「それでチェスや将棋は戦いだから」
 それを駒で行うゲームだからだというのです。
「音楽はグラスバンドなのね」
「あっ、そうですね」
「チェスも将棋も戦いですね」
「互いに駒を取り合う」
「そうしたゲームですし」
「実際に戦っていますね」
「だからね」
 それでというのです。
「音楽もね」
「軍隊に絶対にあるグラスバンドですね」
「こちらの音楽に成るんですね」
「この国にも音楽があって」
「それで、ですね」
「その音楽はグラスバンドですね」
「そうなるのね、納得したわ」
 見れば一行の横をそのグラスバンドのチームが横切りました、中国の将棋の駒達がそれぞれ楽器を演奏しつつ行進しています。
「実際に駒の人達が演奏してるし」
「あれは中国の将棋の駒の人達ね」
 エリカもその駒達を見て言います。
「紛れもなくそうね」
「そうね、確かに」
「ええ、それとね」
「それと?」
「いや、グラスバンドはどの国にもあるけれど」
 それでもというのです。
「オズの国でも」
「外の世界もそうで」
「それで中国の将棋の人達もね」
「グラスバンドをしているのね」
「そうなのね」
「これだと日本の将棋の駒の人達もグラスバンドしてそうね」
「そうよね、オーケストラだって」
 軍隊にはこちらもあるのです。
「それもね」
「ありそうね」
「それじゃあね」
 二人でお話してです、そしてでした。
 皆はグラスバンドの一団が通り過ぎてからさらに先に行きました、すると今度は先程お話した通りにでした。
 日本の将棋の駒達がオーケストラを演奏していました、指揮者は王将の駒が行っています。ですが。
 その駒達を見てです、アンは言いました。
「王将と玉将の駒があることはね」
「将棋特徴ですね」
「日本の将棋の」
「どちらも同じなんですよね」
「字が少しだけ違いますが」
「それでも何もかもが同じなんですよね」
「そうなのよね、私最初はね」
 こう五人に言うのでした。
「そのことがわからなくて」
「それで、ですか」
「戸惑われたんですか」
「どうして王将と玉将があるのか」
「別の駒だと思われたんですか」
「全く別のものって」
「そう思ってたの」
 実際にというのです。
「これがね」
「私もよ、本当にね」
 エリカもでした。
「何で違うのかって思ったわ」
「そうよね、けれど聞いてみたらね」
「全部一緒で」
「そうよね」
 それがというのです。
「何かって思ったわ」
「日本語ってそこも複雑よね」
「どうにもね」
「というか僕達漢字もわかるけれど」
「オズの国の力でね」
 臆病ライオンと腹ペコタイガーも言います。
「けれどね」
「王と玉で同じってね」
「ややこしいね」
「どうにもね」
「漢字ならではで」
「日本では特にそうなっていて」
「漢字は中国で生まれたのよね」
 エリカは中国人の神宝を見つつ言いました。
「そうよね」
「うん、そうだよ」
 その通りだとです、その神宝も答えます。
「時代によって字の形は違ったりもするけれど」
「そうよね、それで日本でも使う様になって」
 エリカは今度は日本人の恵梨香を見て言いました。
「さらに変わったのね」
「片仮名や平仮名も使って」
 それでと言う恵梨香でした。
「読み方や字の使い方も日本独自になったの」
「そうよね、それでこれは日本独自なのね」
「日本では漢字では宝石を意味する玉が君主の意味でもあるのよね」
 ナターシャがここで言いました。
「そうなったのよね」
「そうだね、尊いからってことかな」
 カルロスはこう考えました。
「それで将棋にも同じ意味で王将と玉将の駒があるのかな」
「そういうことなのね、けれどね」
 また言うエリカでした。
「わかったら納得出来るけれど最初は何かと思ったわ」
「どうも中国の漢字より日本の漢字の方が使い方難しいんだよね」
 ジョージもエリカに言ってきました。
「どうもね」
「ええ、将棋でもわかるわ」
「何かとね」
「全く、英語よりも遥かに難しい言葉ね」
 これがエリカの日本語そして日本の漢字についての感想でした。そのうえで駒の国の中を歩いていきますが。
 ここで臆病ライオンがこう言いました。
「一つ気付いたけれど」
「どうしたのかな」
 腹ペコタイガーがその臆病ライオンに尋ねました。
「一体」
「うん、この国にもお店が多いけれど」
 それでもというのです。
「食べるものは売っていないね」
「あっ、そうだね」
 言われて腹ペコタイガーも気付きました。
「それはむしろ僕の方が気付くべきことだったね」
「食いしん坊だからだね」
「うん、けれど気付かなかったよ」
 臆病ライオンに言われるまでです。
「本当にね」
「そうなんだね、それでね」
「うん、確かにね」
「食べものは一切売っていないね」
「全くね」
「駒だからだね」
 ここでこう言った臆病ライオンでした。
「そのことはね」
「必要ないんだね」
「身体によって食べる必要がないんだよね」
 ここでジョージも言ってきました。
「オズの国の人は」
「そうだよ、かかしさんや樵さんがそうだね」
「つぎはぎ娘やチクタクもね」
 二匹の獣達はオズの国の名士達から食べる必要のない人達を挙げました。
「ガラスの猫も木挽きの馬もそうだしね」
「カボチャ頭のジャックやファイター大尉も」
「そうだね、それがオズの国だよね」
 少ししみじみとして言うジョージでした。
「だから食べる必要がない人もいることが」
「そうした国なのよ」
 まさにと言ってきたのはエリカでした。
「つまりね」
「そうだね、お伽の国だからね」
「そうした国ってことよ」
 まさにというのです。
「だから駒の人達が食べなくてもね」
「そうした国なんだね」
「そう思っていればいいのよ」
「そうだね」
「実際にお話聞いてみましょう」
 ここで、でした。アンはこう皆に言ってです。近くのチェスの白いビショップの人が店員をしている金物屋さんのところに行ってです。
 そのビショップの人に駒の国の人達は何を食べているのかと聞きますと皆が予想した通りの返事でした。
「何も食べないですよ」
「そうなの」
「はい、駒の身体ですから」 
 やはりこう言うのでした。
「食べる必要も飲む必要もない」
「ないのね」
「寝る必要もないです」
 こちらも必要ないというのです。
「休む必要も」
「かかしさんや樵さんと同じなのね」
「その通りです、私達はそうした人間なんです」
「そういうことね」
「はい、ですから暮らしやすいですよ」
 笑顔で言うビショップでした。
「とても」
「じゃあこの国はお昼も夜もこうなのね」
「はい、ずっとです」
 それこそお昼も夜もというのです。
「こうしてやっていっています」
「夜は灯りを点けてなのね」
「そうです、蛍達が近くの湖から大勢来てくれて」
 そしてというのです。
「国を照らしてくれるんです」
「蛍!?それはいいわね」
 蛍と聞いてです、エリカは思わず飛び上がらんばかりになって言ってきました。
「それじゃあね」
「その蛍をなのね」
「そう、是非ね」
 こうアンに言うのでした。
「見たいわね」
「エリカの好奇心が出たのかしら」
「出たわ、それにね」
「蛍自体がなのね」
「好きだから」
「奇麗だからよね」
「是非見たいわ」
 アンに目をきらきらとさせて言いました。
「どうかしら、それで」
「それじゃあ夜もこの国にいるのね」
「そうしましょう」
「そうね、御飯も食べて」
 そしてとです、アンもまんざらでないという顔で応えました。
「そうしてね」
「いいでしょ、蛍を見て」
「そうしていいわね」
「身体を奇麗にするのはその湖ですればいいし」
 エリカはこうも言いました。
「その近くで寝てね」
「そうした風にね」
「やっていきましょう」
「それじゃあね」
 二人で言ってです、そしてでした。
 一行は御飯も食べてそうしてでした、そのうえで。
 夜になるのを待ちました、その間ずっと駒の国の中を見て回ったりティータイムも楽しみました。それからです。
 夜になるとです、エリカは皆に言いました。
「じゃあいいわね」
「うん、いよいよだね」
「蛍だね」
「蛍を見るんだね」
「蛍に照らされた国を見て」
「そうして楽しむのね」
「そうするわよ」
 ジョージ達五人に言うのでした。
「これからね」
「そうしましょう、今回もエリカの我儘だけれど」
 ここで笑って言うアンでした。
「今回はいい我儘ね」
「いい我儘しか言わないわよ、私は」
「そこは違うから」
 このことはきっぱりと否定したエリカでした。
「ちゃんと言っておくわ」
「私の我儘で悪い我儘あったかしら」
「むしろそちらの方が多いわよ」
「何処が?」
「何かと勝手な行動取ったりそうしたこと言ったりするじゃない」
「具体的じゃないわね」
「具体的に言うと寝かせろとかブラッシングしろとかあれ食べさせろ遊ばせろとかよ」
 具体的に言うと色々でした。
「実際にあるでしょ」
「私にとっては当然のことよ」
「だからいいのね」
「そうよ、聞いてみたらいい我儘しかないんじゃない」
「それは貴女にとってでしょ」
「そうかしら。とにかくね」
「今回はいい我儘っていうのね」
 アンはエリカをどうかという目で見ながら言いました、言いながらテーブル掛けを出しました。晩御飯を出す為に。
「そう言うのね」
「そうよ。あと今日はバーベキューがいいわね」
「バーベキューね」
「ええ、皆好きでしね」
 それでと言うのです。
「リクエストするわ」
「このこともね」
「我儘っていうのね」
「ええ、ただ今回もいい我儘ね」
「そのいい我儘と悪い我儘の違いが不明よ」
 エリカにとってはそうでした。
「私はいい我儘しか言わないって言ってるでしょ」
「そこがわからないというか」
「わかっているわよ」
「つまり勝手な解釈してるのね」
 エリカにとって都合のいい、です。
「そこも貴女らしいわね」
「言ってる意味が本当にわからないわね」
「やれやれね、けれどね」
「これからバーベキューを食べてね」
 そしてと言うエリカでした、今も自分の我儘はいい我儘であると考えてそのうえで皆に言っています。
「そうしながら蛍と蛍に照らされた街を見ましょう」
「ええ、今から出すわね」
 こう言ってでした、アンはテーブル掛けから牛肉や野菜を串に刺したバーベキューを出しました。皆それを食べながらです。
 そのうえで夕暮れが終わり夜の帳が世界を覆うのを待ちました、そうして夜になるとです。
 蛍達が出て来てです、そうしてでした。
 駒の国を隅から隅まで照らしました、それを見てです。
 エリカは唸ってです、ちょこんと座った状態で言いました。
「凄く奇麗ね」
「うん、優しい青がかった緑の光がね」
「その光がとても奇麗で」
「国中を照らしてね」
「お空にも一杯あって」
「本当に奇麗よ」
 ジョージ達五人がエリカに応えました。
「まさに天然の灯りね」
「夜の国を照らす」
「僕達の世界じゃ電灯で照らすけれど」
「電灯にも負けていないね」
「しかも幻想的だし」
「そうよね、自然のイルミネーションね」
 こうも言ったエリカでした。
「これは」
「そうね、しかもね」
 ここで空を見上げて言ったアンでした。
「お空には鯨や蟹があって」
「あっ、僕がいるよ」
 臆病ライオンは蛍達がライオンの姿を作ったのを見て言いました。
「ライオンが」
「僕もいるよ」
 腹ペコタイガーは虎も見ました。
「蛍達が僕達をわかっているんだ」
「それで歓迎して作ってくれているのかな」
「そうみたいね。私達も作ってくれたわ」
 アンは自分にジョージ達五人の姿も認めました、見れば夜空に今冒険の旅に出ている皆の姿が蛍のイルミネーションになって出ています。
 そしてです、エリカもいますが。 
 皆の真ん中にいます、エリカはその自分の姿を見て誇らしげに言いました。
「そうそう、私が今回の冒険のリーダーだからね」
「真ん中にいてなのね」
「それでいいのよ」
 それこそが相応しいというのです。
「蛍達もわかってるわね」
「このことはそうみたいね」
 アンもこうエリカに応えます。
「私もそう思うわ」
「そうよね」
「その証拠にね」
 エリカ達を作った別の蛍達が夜空に出てです、一行の蛍の絵の上にでした。
 字を作りました、そこにはこうありました。
『ようこそ、エリカと冒険者の方々』
「私が最初にきてるし」
「やっぱり今回の旅はね」
「私が主役なのよ」
「そのことは間違いないわね」
「わかっていてくれて何よりよ」
 誇らしげに言うエリカでした。
「本当にね」
「そうね、そのことはね」
「あんたもわかるでしょ」
「ええ、私もそう思うわ」
「夜まで残ってよかったわ」
「そのこともそう思うわ」
「そうよね、いやあいいものを観られて何よりも」
 エリカはすっかり満足しています、そしてです。
 バーベキューのお肉、よく焼けてソースで美味しく味付けされたそれを食べつつそのうえで自分達の周り、蛍の光で照らされた駒の国を見て言いました。
「街も奇麗になってるし」
「建物も道も人も照らされてね」
「凄く奇麗ね」
「そうね、あらゆるものが光ってね」
 エリカはうっとりとして言うのでした。
「素晴らしいわ」
「本当にそうね。私達のところにもね」
 蛍達は皆のところにも来てです、そうして。
 皆の周りをふわふわと漂って照らします、アンはその灯りが手元を自然に照らしてくれるのを見てまた言いました。
「来てくれてるし」
「うっ、これは」
 ふとです、エリカはでした。
 急にうずうずとしだして自分の目の前を通った蛍に前足を出しました、そのうえでこう言ったのでした。
「手が出るわね」
「あっ、前を通った蛍はね」
「見ない方がいいよ」
 臆病ライオンと腹ペコタイガーがエリカに言いました。
「どうしても前足が出るから」
「ネコ科の生きものの習性でね」
「そうなのよね、見ているとね」
 まさにというのです。
「ついつい前足が出るのよね」
「貴女は特にそうよね」
「もう無意識のうちによ」
 アンに応えつつもまた前足を出したエリカでした。
「こうして前足が出るのよ」
「猫ね、本当にね」
「それも特に猫らしい猫だからね」
「前足が出るから」
 それでというのです。
「止められないわ」
「だからこうした時は観ない方がいいよ」
「目の前に来た蛍はね」
 また言う臆病ライオンと腹ペコタイガーでした。
「そうしたら前足が出ないから」
「自然にね」
「それは好奇心が許さないのよ」
 エリカのそれがというのです。
「ついつい見てしまうのよ」
「そこも猫ね」
「ええ、猫らしい猫でしょ」
「あらためて思ったわ」 
 そうだというのです。
「今の貴女を見てね」
「まあそうでしょうね」
「ええ、けれど今はね」
「今は?」
「蛍を見ること以外にもう一つあるでしょ」
「やることが」
「そうでしょ」
「ええ、食べないとね」
 エリカもそのやることが何かはわかりました、それで言うのでした。
「バーベキューを」
「その通りね、食べないとね」
「そうよ、そっちも忘れたら駄目よ」
「わかったわ、じゃあ食べるわね」
「そうしましょう」
「それにこのバーベキューかなり美味しいしね」
 ジョージはお肉だけでなくピーマンや玉葱、人参も刺されているそのバーベキューの串を手に取って食べつつエリカに言いました。
「だからね」
「是非になのね」
「食べないとね」
「そうよね、やっぱりね」
 まさにと応えたエリカでした。
「食べることは忘れたら駄目よね」
「そうだよ、ジュースもあるし」
 見れば果汁をそのまま絞ったフルーツジュースもあります。
「林檎や武道のね」
「それじゃあね」
「そちらも楽しんでね」
「そうするわね」
 エリカも頷いてです、そうして。
 実際にバーベキューも食べてジュースも飲むのでした、そうしながらここでこんなことを言いました。
「いや、バーベキューも楽しめるわね」
「貴女のリクエストだしね」
「我ながらいい閃きしてるわね」
「それで皆に美味しいものを提供出来たっていうのね」
「そうよ」
 まさにその通りとアンに答えます。
「そう思って満足しているわ」
「そこでも貴女らしいことがが出たわね」
「そうなのね」
「ええ、本当にね」
 まさにというのです。
「貴女らしいわ」
「私のこの閃きはいつも皆を幸せにするわね」
「そうともばかり言えないわよ」
「またそこでそう言うのね」
「言うわよ、どうしていつもそう考えるのよ」
 アンもバーベキューを食べています、そうしつつエリカに言うのです。
「自分に都合よく」
「それが私ってことよ」
「つまり猫ってことね」
「そうよ、けれどお陰でね」
「蛍を見られてっていうのね」
「それにべーべキューも食べてるじゃない」
「バーベキュー出したのは私が持っているテーブル掛けだけれどね」
 そこを言うアンでしたが。
「貴女が言わないとっていうのね」
「あんた別のもの出してたでしょ」
「正直何出すか考えてなかったわ」
「ほら、見なさい」
 それこそと返すエリカでした。
「私が言わなかったらよ」
「バーベキューじゃなくて」
「蛍も観られなかったわよ」
 こちらもというのです。
「本当にね」
「だから貴女が言ってよかったっていうのね」
「その通りよ」
 バーベキューを食べてそうしてお空の蛍達も観ます、すると今度はそこにいるエリカ達が動いて遊んでいます。
 その蛍達を観てまた言うのでした。
「こうしたものも観られたんだから」
「いいこと尽くめっていうのね」
「そうよ、自負しているわ」
「まあ今回確かにね」
「よかったでしょ」
「私もそう思ってるわ」
 アンにしてもそうでした、蛍を観られてバーベキューを楽しめて。
「素敵な夜になってるわ」
「そうよね」
「ええ、じゃあね」
「御飯の後はね」
「湖の方に行ってね」
 そうしてというのです。
「テントを出して」
「湖で身体を洗って」
「男の子と女の子が交代でね」
 アンはこのこともちゃんと考えています。
「そうして身体を洗いましょう」
「そのことは忘れないのね」
「ええ、一緒だと恥ずかしいから」 
 だからというのです。
「このこともちゃんとするわよ」
「わかったわ、じゃあね」
「ええ、ちなみに貴女は私達と一緒よ」
「雌猫だからよね」
「女の子の方に入って臆病ライオンと腹ペコタイガーはね」
 彼等はといいますと。
「雄だからね」
「男の子と一緒になのね」
「身体を洗うわ」
「うん、そうさせてもらうよ」
「僕達はジョージ達と一緒に身体を洗うよ」
 二匹もこう答えます。
「一旦湖に入って身体を濡らしてね」
「シャンプーで洗うね」
「それでまた湖に入って毛を洗えば」
「それで終わりだよ」
「この辺りオズの国って楽だよね」
 ジョージがしみじみとして言いました。
「ボディーソープやシャンプーになる草が川辺にはいつもあるし」
「そうそう、しかも泡はお水の中で自然と消えていくしね」
 神宝も言います。
「それでお水を汚さないし」
「それも凄くいいよね」
 カルロスもこう言うのでした。
「しかもオズの国は暖かいからお水も冷たくないし」
「快適に身体を洗えるから」
 ナターシャもしみじみとした口調で言いました。
「いいのよね」
「旅に出ても毎日身体を洗えるから」 
 恵梨香もこのことを喜んでいます。
「凄くいいわ」
「昔はそうじゃなかったけれど」
 ここでこう言ったのはアンでした。
「旅に出たら身体を洗うことはね」
「出来なかったですね」
「ちょっと」
「そういえばそうでしたよね」
「昔のオズの国では」
「旅の途中殆ど身体を洗っていなかったですね」
「そうだったけれど」
 それがというのです。
「今は変わったわ」
「身体も洗える様になって」
 ジョージが言いました。
「しかもテントもあって」
「随分と変わったわ」
「それはいいことですよね」
「とてもね、じゃあ今夜もね」
「はい、後はですね」
「身体を奇麗にして」
 そしてというのです。
「寝ましょう」
「わかりました」
 ジョージは笑顔で応えました。
「それじゃあ今夜も」
「ええ、ゆっくりと寝ましょう」
「そして明日もお日様が出たら」
「朝御飯を食べてね」
 そうしてというのです。
「出発よ」
「そうしますね」
「明日も楽しい旅になるわよ」
「さて、明日は何があるかしら」
 エリカは左の後ろ足で自分の頭の後ろを掻きながら言いました。
「それも楽しみよね」
「うん、今回の冒険も順調に進んでいってるけれど」
「順調にいかなくてもね」
 それでもというのです。
「そこは何とかするものよ」
「皆でだね」
「そう、そうしていくものだから」
 だからだというのです。
「焦らず迷わずね」
「何かがあっても乗り越えていくってことだね」
「そうよ、そうしていくわよ」
 今度は背伸びをして言うエリカでした、そんなお話をしながら蛍とその灯りに照らされている国を見てから湖の方に行って休息を摂りました。








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