『オズのガラスの猫』




               第九幕  香辛料の畑

 一行は遂にです、オズの国で最も美味しい香辛料を作っているお百姓さんのお家の前まで来ました。見ればお家の後ろにはです。
 色々な畑があります、ガラスの猫はその畑を見て言いました。
「あの畑がなのね」
「そうよ、香辛料の畑よ」
 オズマはガラスの猫に答えました。
「あれ全部がね」
「そうよね、あそこで胡椒とか唐辛子を作っているのね」
「生姜もシナモンも山葵も大蒜もね」
「全部よね」
「そう作っているのよ」
 そうだというのです。
「あそこでね、じゃあね」
「ええ、今からね」
「お百姓さんに会いましょう」
「それじゃあね」
 こうお話してです、オズマがお家のベルを鳴らすとです。一人の若くて大柄なウィンキーの女の人の服を着た人が出てきました。髪の毛は栗色で目は灰色でお顔立ちも逞しいです。
 その人がです、オズマ姫を見て言いました。
「オズマ姫ようこそ」
「ええ、ちょっと訪問させてもらったわ」
「訪問っていいますと」
「実は香辛料が欲しくて」
 それでというのです。
「お邪魔したの」
「そうなの、それでなの」
「ええ、それでね」
「はい、香辛料をですね」
「欲しいけれど」
「どういったものですか?」
 女の人はオズマに笑顔で尋ねました。
「それで」
「といってもね」
「一つではないですか」
「河豚は知っているかしら」
 このお魚のことをお話に出したオズマでした。
「日本でよく食べるお魚だけれど」
「河豚ですか、食べたことはないですが」
「知ってるのね、貴女も」
「はい、名前だけは」
「その河豚料理に合う香辛料をね」
 それをというのです。
「欲しいの」
「そうですか、実は私は河豚は」
「食べたことがないのね」
「はい、名前だけです」
 知っているのはというのだ。
「今お話した通りに」
「じゃあ今から食べてみる?」
 それならと応えたオズマでした。
「河豚を実際に」
「はい、それじゃあ」
「今からね」
 二人でお話してです、女の人も河豚を食べてみることにしました。皆でお家に入ってそうしてでした。
 一行は女の人のお家に入りました、女の人のお名前はペッパーといいました。何とこの人のご親戚に。
「ジンジャー将軍がですか」
「従妹だったんですか」
「そうなのよ」
 その人ペッパーさんは五人に笑顔でお話しました。
「実はね」
「ううん、何か」
 ジョージはペッパーさんを見て言いました。
「あまり似ていないですけれど」
「よく言われるわ」
「はい、ペッパーさんは大柄ですから」
 神宝も言います。
「ジンジャーさんよりも」
「そうよね、私はお父さんに似たの」
「将軍のお父さんにですか」
 今度はカルロスが言います。
「似ているんですか」
「そうなの、ジンジャー姉さんのお母さんと私のお母さんは姉妹でね」
 それでとお話したペッパーさんでした。
「そっくりだけれど」
「それでもですか」
 恵梨香はペッパーさんの整っていますが何処か男性的なお顔を見ています、そのお顔は本当に逞しい感じです。
「ペッパーさんはお父さんにですか」
「似てるのよ」
「そうですか、けれどですね」
 ナターシャもペッパーさんに言いました。
「ジンジャーさんとはですね」
「従姉妹同士なのよ」
 またお話すペッパーさんでした。
「私達はね」
「そうなんですね」
「そうよ、それで姉さんはお菓子でね」
「ペッパーさんは香辛料ですね」
「そうよ、けれど生姜はケーキにも使えるけれど」
 笑ってこうもお話したペッパーさんでした。
「私は胡椒でしょ」
「ペッパーですね」
「そう、胡椒はお菓子には使えないわね」
「生姜と違って」
「シナモンともね、そのせいかね」
「香辛料の畑をですか」
「持っていて香辛料を作っているの」
 そうしているというのです。
「私はね」
「そうですか、そして」
「今ではオズの国で一番の香辛料作りと言ってもらってるわ」
 笑顔でお話したペッパーさんでした。
「嬉しいことにね」
「そうですか」
「それでだけれど」
 用意されたテーブルの上から言うガラスの猫でした、皆はお家の中のテーブルのそれぞれの席に座手tお話をしています。
「どの香辛料が欲しいか」
「ええ、それをね」
「その河豚のお料理を食べさせてもらって」
「選んで欲しいのよ」
 こうペッパーさんに言うのでした。
「これからね」
「わかったわ、ただね」
「ただ?」
「私河豚を食べたことはないから」
 このことをまた言ったペッパーさんでした。
「楽しみよ、ただね」
「それでもですか」
「一体どんな味なのか」
 それがというのです。
「楽しみだわ」
「ええ、とても美味しいからね」
 オズマがペッパーさんに笑顔でお話しました。
「楽しみにしていてね」
「そうさせてもらいます」
「そう、そしてね」
「河豚料理にどの香辛料が合うのか」
「選んで欲しいの」
「わかりました、では」
 ペッパーさんはオズマに微笑んで応えました。
「今からご馳走になります」
「それじゃあね」
 こうしてでした、オズマはテーブル掛けを出してです。
 その河豚料理を出しました、お鍋にお刺身に天婦羅に唐揚げにです。
 カルパッチョやアクアパッツァ、フライも出しました。そうして皆で食べはじめました。ガラスの猫とつぎはぎ娘、チクタクは食べないので皆が食べて笑顔になるのを見て楽しむことにしました。そしてです。
 ペッパーさんはお刺身を食べてまずはこう言いました。
「山葵ですね」
「その香辛料ですね」
「ええ、それが合うわ」
 ナターシャに笑顔で答えるのでした。
「このお刺身にはね」
「そうですか」
「カルパッチョだと」 
 今度はこのお料理を食べてみました。
「胡椒、あとシナモンもいいわね」
「そうしたものですか」
「唐揚げは」
 こちらも食べていうことはといいますと。
「生姜ね、お鍋も」
「生姜をお醤油やおつゆに入れて」
「食べるといいわね、天婦羅だと」
 こちらを食べてみての感想は。
「紅葉ね、おろした」
「それですね」
「それがいいわ、アクアパッツァは」
「大蒜ですか」
「それが一番ね、香草も入れて」
 これも忘れていませんでした。
「そうして味付けするといいわ」
「アクアパッツァはですね」
「そう、そしてね」
 今度はフライを食べていいます。
「フライはマスタードね」
「それですか」
「これでいいと思うわ、ただ」
「ただ?」
「いえ、河豚をはじめて食べたけれど」
 このお魚自体についても言うのでした。
「凄く美味しいわね」
「そうでしょ」
 オズマが笑顔で応えました。
「河豚はね」
「この通りですね」
「凄く美味しいの」
 こうペッパーさんにお話しました。
「あっさりしていてね」
「食感もいいですね」
「この通りね、それで今食べて」
「はい、私が思うにです」
「今言った通りのね」
「組み合わせていいと思います」
 河豚料理と香辛料はというのです。
「私は」
「わかったわ、ではね」
「はい、今私が言った香辛料をですね」
「貰いたいけれどいいかしら」
「喜んで」
 ペッパーさんは笑顔で答えました。
「それでは」
「そうさせてもらうわね」
「その様に、しかしですね」
「しかし?」
「いえ、私実はお魚自体を」
「あまりだったわね」
「主人が狩人なので」
 だからだというのです。
「肉料理はよく食べますが」
「お魚はね」
「はい、あまり食べなかったですが」
「河豚は美味しいわね」
「凄く」
 実際に食べてみての感想です。
「本当に、今日は満足しています」
「お料理の量も種類も多いしね」
「その分。あとこのお料理は」
 その河豚料理も見て言いました。
「日本とイタリアですね」
「その二国のお料理ね、大体」
「そうですよね」
「日本もイタリアも魚介類を使ったお料理が得意で」
 それでというのです。
「それで、ですね」
「そうなの、それで河豚もね」
「こうしてですね」
「お料理出来るの。ただ実はイタリアで河豚は」
「食べないですか」
「オズの国だけだと思うわ」 
 ペッパーさんにこのこともお話しました。
「どうやらね」
「そこは違いますか」
「そうよ、それでデザートだけれど」
「はい、食後のそれは」
「貴女は何が食べたいかしら」
 ペッパーさんのリクエスト次第だというのです。
「それは」
「そうですね、シュークリームはどうでしょうか」
「シュークリームね」
「はい、私の大好物なんですが」
「わかったわ、じゃあね」
「はい、それを出してくれますか」
「この河豚料理を全部食べてからね」
 そしてというのです。
「そのうえで」
「次はシュークリームですね」
「そうしましょう」
 こうペッパーさんに言いました。
「是非」
「わかりました、それじゃあ」
「全部食べましょう、まずは」
「河豚料理を」
「こちらもかなり出したけれどね」
「そうですね、ただ私はこの体格ですから」
 大柄なそのお身体のことを笑ってお話するジンジャーさんでした。
「食べる量が多くて」
「それでなのね」
「皆さんもいますし」
「全部食べられるのね」
「これまで食べものを残したことはないです」
 一度もというのです。
「ですから安心して下さい」
「それじゃあね」
「今から」
 こうお話してです、実際にでした。
 皆で河豚料理を食べますがペッパーさんはとりわけでした。
 河豚料理をどんどん食べてです、気付けばどのお鍋もお皿も空になっていて後は骨だけが残っていました、そのうえで。
 皆はペッパーさんのリクエストのシュークリームを食べることになりました、ここで思わず言ったのはガラスの猫でした。
「いやあ、見ていてね」
「見事な食べっぷりだったわ」
 つぎはぎ娘もこう言います。
「本当にね」
「そうよね」
「ええ、こんなに元気に沢山食べる女の人はね」
「そうはいないわ」
「見ていてーーです」
 チクタクも言います。
「惚れ惚れーーしまーーした」
「全くよ、お陰であたし達もね」
 また言うガラスの猫でした。
「いい心の栄養になったわ」
「私が食べるのを見て」
「あまりにも元気よく美味しそうに食べるから」
 だからだというのです。
「見ていて気持ちよかったわ」
「それで満足したのね」
「とてもね、いつもそれだけ食べてるの」
「そうよ」
 その通りという返事でした。
「いつもね」
「そうなのね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「朝昼晩とそうなの」
「ええ、いつもって言ったでしょ」
 ペッパーさんはガラスの猫ににこりと笑って答えました。
「だからほんとうにね」
「毎食なのね」
「こうして食べてるの、そして食べてね」
「そうしてなのね」
「農作業もしているの」
 香辛料を作っているというのです。
「毎日ね」
「食べてそれがエネルギーになっているのね」
「私のね」
「それは何よりね、それでご主人は今日は」
「山に狩りに行ってるわ、それでいつもね」
「獲物を持って帰ってくれるのね」
「それもかなり沢山のね」
 ペッパーさんはガラスの猫にご主人のこともお話しました。
「そしてその獲物を私がお料理して」
「二人で食べてるのね」
「沢山ね」
「ううん、食べるのが大好きだってわかるわ」
「そうでしょ、私は食べるのが大好きよ」
「それでなのね」
「そう、そのお料理にはね」
 それにはというのです。
「私の畑の香辛料を使うの」
「ここでも香辛料ね」
「香辛料を使うとお料理の味が違うのよ」
 食べることはしないガラスの猫に合わせてこう言いました。
「だから使うの、それもね」
「それも?」
「適量よ。多過ぎても少な過ぎてもよくないの」
 香辛料のそれはというのです。
「だからね」
「適量ね」
「それだけ使ってね」
 そうしてというのです。
「美味しくお料理してるの」
「それでそれを食べてるのね、いつも」
「そうよ」
「よくわかったわ、どうもあんたはね」
「ええ、私は」
「香辛料を作るだけじゃなくてお料理も上手なのね」
 ガラスの猫もわかりました、このことが。
「そうなのね」
「ええ、自信はあるわ」
「実際に」
「お料理を作る方もね」
 こちらもというのです。
「実際にね」
「いいことね、楽しく過ごせてるのね」
 つぎはぎ娘もそのお話を聞いて言います。
「あんたもご主人も」
「そうよ、凄くね」
「それは何よりよ、じゃあ後はね」
「ええ、シュークリームを食べて」
「楽しんでね」
「そうさせてもらうわ、最後のデザートもね」
 実際にです、ペッパーさんはシュークリームも食べました。それも残さず。そして最後のクリームをたっぷり入れたコーヒーを飲んで。
 ペッパーさんはそれぞれのお料理に合った香辛料を出してそれをオズマに手渡してから一行に言いました。
「それじゃあ」
「ええ、これを持って行くわね」
「そうして下さい」
「実は猫の国に行ってね」
「あそこにですか」
「そう、そしてね」
「それぞれの香辛料を使った河豚料理をですか」
 ペッパーさんもこのことをすぐに察しました。
「出して」
「あの国と揉めている犬の国の人達に食べてもらって」
 そうしてというのです。
「食べてもらうの」
「そうですか」
「河豚は近くの川で沢山釣るわ」 
 猫の国の近くのというのです。
「それで新鮮な河豚をね」
「調理してですね」
「貴女から貰った香辛料で食べるわ」
「わかりました、それじゃあ」
「今から猫の国に行ってくるわ」
「道中楽しんで下さいね」
 ペッパーさんはオズマにオズの国の別れの挨拶の一つを贈りました。102
「そして」
「ええ、無事にね」
「猫の国と犬の国を仲直りさせて下さいね」
「そうさせてもらうわね」
「是非共」
 こうお話してです、そうして。
 一行はペッパーさんとお別れしてそうして旅を再開しました、今度は猫の国に入ってそうしてでした。
 黄色い煉瓦の道をまた進んでいきますがふとです。 
 ナターシャはふとです、こんなことを言いました。
「これで目的の一つが達成されたわね」
「そうね」
 ガラスの猫が応えます。
「無事にね」
「ここまでも色々あったけれど」
「それはもうわかっていたでしょ」
「ええ、オズの国にいるから」 
 だからこそとです、ナターシャはガラスの猫に答えました。
「だからね」
「そうよね、そしてそれはね」
「これからもよね」
「絶対にあるわよ、オズの国にいるから」
 それだけにというのです。
「絶対に何か起こるから」
「猫の国に行くまでも」
「絶対にね、ドラゴンやホビットやリザードマンが出てね」
「泉もあったけれど」
「まだあるわよ」
 オズの国の中の冒険に付きものの『何か』はというのです。
「絶対にね」
「それじゃあ」
「そうよ、いいわね」
「ええ、その起こることにね」
「恐れず怯えずにね」
「向かっていくわ」
「その意気よ。じゃあね」
「ええ、それじゃあ」
「今からまた進んでいくわよ」
 猫の国にというのです、こうお話してでした。
 一行は先に進んでいきました、すると今度はです。
 道の左右に壁がありました、そしてその壁の上にです。
 狼が後ろの二本の足で立ってそうしてです、こんなことを叫んでいました。
「デュパンが出たぞ!」
「デュパンが出たぞ!」
 こんなことを言っています、その狼達を見てです。
 神宝がふと気付いたお顔になって言いました。
「あれはデュパンだね」
「自分達で言ってる通りに」
「そうだよ」
 こうナターシャにお話しました。
「あの狼はね」
「あれは確か」
 今度はジョージが言いました。
「イギリスの妖精だったかな」
「あの国のなの」
「うん、子供の頃にそんなお話を聞いたよ」
「ああ、アメリカは元々イギリスから来た人達が建国したし」
 カルロスはこのことから言います。
「だったらね」
「イギリスの妖精がいることも有り得るわね」
「充分にね」
「それでオズの国もなのね」
 恵梨香も言いました。
「オズの国はアメリカが反映されるから」
「それでなのね」
「あの妖精もいるのね」
「あの妖精は有名よ」
 つぎはぎ娘が五人にお話します。
「ここに出ることでね」
「そうなの」
「ええ、ああして叫んでるけれど」
 壁の上に立ってです。
「壁の端から端まで連なってね」
「そうなってるわね、道の左右の壁に」
 見れば実際にそうなっています、そうして物凄い数で叫んでいるのです。
「私達を見ないで」
「ここでずっとそうしてるのよ」
「ずっとなの」
「そうよ」
「どうしてそうしているのかしら」
 ナターシャはここでこのことを思うのでした。
「ああして叫んでいるのは」
「さて、どうしてかしらね」
 つぎはぎ娘はナターシャの今の質問には答えませんでした。
「あたしは知らないわ」
「そうなの」
「変だとは思っているけれどね」
「それでもなのね」
「どうして叫んでいるかはね」
「わからないのね」
「試しに聞いてみたら?」
 つぎはぎ娘は質問には答えられませんでしたがこう提案することは出来ました。
「デュパン達にね」
「そうね、本人さん達に聞いたらね」
「そうしている理由がわかるでしょ」
「ええ、それじゃあね」
「聞いてみるわ、どのみちあの道を通るし」
 デュパン達がいる壁に挟まれている道をです、こうしたことをお話してそのうえででした。ナターシャは一行の先頭に立ってです。
 そうして先に進んで壁の端にいるデュパンに聞きました、見ればこのデュパンは赤毛ですが黒や灰色、白、オズのそれぞれの国の色である青や緑、黄色、紫の毛のものもいてそれぞれの色合いがとても華やかです。
「ねえ、いいかしら」
「何かな」
 そのデュパンも吠えるのを止めてナターシャに応えました。
「一体」
「ええ、貴方達はどうしてそう叫んでるの?」
「デュパンが出たぞって」
「そう、デュパンは貴方達のことよね」
「そうだよ」
 その通りだとです、赤毛のデュパンも答えました。
「デュパンは僕達のことだよ」
「そうよね、貴方達が出たことを知らせているの」
「誰かがこの道と道を通りそうならね」 
 その時はというのです。
「普段は周りの草原で群れで暮らしているけれど」
「人が道を通ったら」
「というか壁の前を通るならね」
 その時はというのです。
「僕達はそれを事前に察してね」
「壁の上に乗って」
「そうしてこう叫ぶんだ」
「つまりそれは」
 そう聞いてすぐに察したナターシャでした。
「自己顕示ね」
「そう言うんだ」
「そう思ったけれどどうかしら」
「そうなるね」 
 デュパンも否定しませんでした。
「言われてみると」
「そうなのね」
「こうしてあえて言うことですね」
「自分達のことをなのね」
「知らしめているんだ、僕達は傍から見ると狼だよね」
「そうとしか見えないわ」
 実際にとです、ナターシャは答えました。
「外見からは」
「それが違うということをね」
「あえて言ってなのね」
「皆に教えてるんだ」
「そうだったのね」
「狼に似ているけれど狼じゃないんだ」
 このことを断るデュパンでした。
「そこを知って欲しいから」
「壁の上に皆で集まって立って叫んでるのね」
「そうなんだ」
「そのことがわかったわ」
「そういうことでね」
「ええ、じゃあ貴方達がデュパンであることをね」
 まさにと答えたナターシャでした。
「覚えておくわ」
「そうしておいてね」
「是非ね」
「何かね」
 ここでガラスの猫がこう言ってきました。
「狼に似ているのが嫌みたいね」
「嫌というかね」
「嫌ではないの」
「僕達のことを知ってもらいたいんだ」
「自分達のことをあくまで」
「そう、妖精であることをね」
「ううん、あたしにはわからないことね」
 ガラスの猫はデュパンのお話を聞いて考えるお顔になって述べました。
「どうにも」
「それはどうしてかな」
「だってあたしはあたしだってね」
 まさにというのです。
「もうはっきりわかってるから」
「他の人がどう思おうといいんだ」
「いいわよ、というかあたしは何に見えるかしら」
「ガラスの猫君だよ」
 デュパンははっきりと答えました。
「そう見えるよ」
「そうよね、けれど水晶の猫とも見えるわよね」
「見方によっては、人によってはそうかもね」
「それならそれもいいのよ」
「そう見られても」
「だってあたしがあたしってわかってるから」
 ガラスの猫だということをというのです。
「だからね」
「自分で言うこともしないんだ」
「する必要も感じてないわ」
 それも一切というのです。
「本当にね」
「そうなんだね」
「そうよ、まあけれどね」
「けれど?」
「別にあんた達がそうしたいならね」
 自分達がデュパンと言うことをです。
「それならそれでね」
「いいっていうのかな」
「そうよ、言いたいなら言えばいいのよ」
 自分達がデュパンであることをというのです。
「そうすればね」
「どっちでもいいんだね」
「そこは人それぞれでしょ、しかもオズの国の法律にも触れていないし」
「そんなーー法律はーーないーーですね」
 チクタクも言ってきました。
「オズの国ーーには」
「チクタクもそう言ってるし」
 ここでチクタクの動きが鈍くなってきたのでナターシャ達でぜんまいを巻いてあげました、するとチクタクはまた普通に動ける様になりました。
「別にいいのよ、それは」
「言っても言わなくても」
「あんた達が好きにしたらね」
「そうなんだね」
「誰かが困る訳でもないし」
「むしろこの場所の名物になってるわ」
 オズマが笑って言いました。
「デュパンの壁ってね」
「そうなのですか」
「ウィンキーの名所の一つよ」
「そうもなっているとは」
「知らなかったのね、けれどね」
「実際にですか」
「そうなっているの」
 まさにというのです。
「だからね」
「それで、ですか」
「ええ、これからもね」
「ここに人が通るなら」
「デュパンが来たぞって叫べばいいわ」
「わかりました、それじゃあ」
 デュパンも頷きました、そうしてでした。
 一行はデュパンが並んで立っている壁に挟まれている道を通って先に進みました、その間デュパン達はずっとでした。
 デュパンが来たぞと叫んでいました、その道を通り終えてです。
 ナターシャはしみじみとしてです、こんなことを言いました。
「いや、デュパンのこともね」
「オズの国だね」
「この国ならではだね」
「妖精も普通にいる国だから」
「ああしたこともあるのね」
「そうよね、いや最初に見た時は何かしらと思ったけれど」
 それでもというのです。
「オズの国ならではね」
「そうでしょ、他にも沢山の妖精達がいるけれど」
「ああしてですね」
「所々で出会えるのよ」
「オズの国にいると」
「そうなのよ、外の世界ではないわね」 
 こうしたことはとです、オズマは笑ってこうも言いました。
「滅多に」
「そうですね、妖精はいても」
「オズの国みたいにいつも会えないでしょ」
「はい、そもそもオズマ姫も」
 ナターシャは他ならぬオズマ自身のこともお話しました。
「妖精ですし」
「そうでしょ、私自身もね」
「妖精ですね」
「光の妖精よ」
 そうした妖精だとです、オズマは自分で言いました。
「私はね」
「そうでしたね」
「その私が言うけれど」
「はい、オズの国では妖精もですね」
「普通にいるのよ」
 人間達と一緒にというのです。
「色々な種族や生きものと一緒にね」
「それも楽しくですね」
「そうよ、不思議が普通の国だから」
「こうした猫もいるしね」
 ガラスの猫は胸をピンと張って言ってきました。
「ガラスの身体と宝石の脳味噌と心臓を持つね」
「そういえば貴女は妖精以上に不思議ね」
「そうでしょ、あたしはね」
 まさにとです、ガラスの猫はナターシャに言いました。
「まさに妖精以上に不思議で他の世界にはいない」
「そうした猫ね」
「その通りよ」
「あたしも他の世界には絶対にいないわよ」
 つぎはぎ娘もくるくると踊りつつ歩きながら言います。
「身体は布の生地のつぎはぎ、服と靴は最初から着ていてね」
「中身は綿で」
「そんな人他にいないでしょ」
「いる筈がないわ、かかしさんや樵さんやジャックと一緒で」
 まさにとです、ナターシャは五人を代表してつぎはぎ娘に答えました。
「貴女の他には誰もね」
「こんな身体の人はいないわね」
「見たことも聞いたこともないわ」
「そうよね、まさにあたしはね」
「どんな世界にも他にいない」
「そんな人間なのよ」
 こう言うのでした。
「あたしはね」
「そんなあたし達がいるのよ」 
 また言うガラスの猫でした。
「だったらね」
「もうそれこそ」
「こんな不思議な国はないわ」
「妖精だけじゃないから」
「本当にね、それとね」
「それと?」
「いえ、あんた達も不思議な存在よね」
 ガラスの猫のこの言葉にです、ナターシャ達五人はまずは目を瞬かせてそのうえでお互いでお話をしました。
「私達不思議かしら」
「別にね」
「そうじゃないよね」
「これといって」
「不思議じゃないわよ」
「何言ってるのよ、外の世界から自由にオズの国に出入りしているのよ」
 ガラスの猫が言うことはこのことでした。
「だったらね」
「私達も不思議なの」
「そんな子達は他にいないから」
「だからなんだ」
「僕達も僕達で不思議なんだ」
「そうした子達なの」
「そうよ、まああたし達も渦を通って外の世界とオズの国を出入り出来るけれど」
 それでもというのです。
「それをいつもしている子達はあんた達だけだからね」
「私達は普段の生活は外の世界で送っているから」
 ナターシャがガラスの猫にお話しました。
「だからね」
「こうしたことはなのね」
「普通だって思っていたわ、けれど」
「どっちの世界も楽しんでる子達は他にいないでしょ」
「ええ、確かに」
「こんな不思議なことはないわ、それにどっちの世界も楽しめるなら」
 こうも言うガラスの猫でした。
「これは凄い幸せなことでしょ」
「二つの世界を行き来出来てどちらの世界も楽しめるなら」
「そうじゃないかしら」
「そうね、不思議でね」
「幸せでしょ」
「ええ、確かに」
 実際にと答えたナターシャでした。 
「言われてみると」
「まあそれぞれ不思議ってことよ」
「そうなるのね」
「誰でもね、まあそれでもね」
「貴女はなのね」
「あたしはオズの国で一番不思議で特別で奇麗なのよ」
 ガラスの猫のいつもの言葉でした。
「見ての通りね」
「そこでそう言うのがあんたね」
「だから誰も羨まないしね」
「妬むこともないのね」
「絶対にね」
 それこそというのです。
「それはないのよ」
「まあ他に羨むことがないのは」
「いいことよね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「あんたと同じことを思っている猫は多いみたいよ」
「エリカもそうね」
 この猫の性格もかなり有名です、エリカもまたとても猫らしい性格をしています。
「自分が一番よね」
「そう思ってるわよ」
「それはどうでもいいわ」
「エリカが自分を一番って思っていても」
「エリカがそう思うのを誰か止められるの?」
 ガラスの猫はナターシャに尋ねました。
「そもそも」
「そう言われると」
「出来ないでしょ」
「ええ」
 その通りだとです、ナターシャも答えました。
「言われると」
「そうでしょ、誰にもね」
「その人の考えを止めることはね」
「出来ないわ、言葉を塞ぐことは出来ても」
 例えそれが出来てもです、尚オズの国では言論の自由も保障されています。勿論悪口や誹謗中傷はいけないですが。
「それでもね」
「考えは止められないから」
「そうよ、それにね」
 さらに言うガラスの猫でした。
「あたしの考えは誰が言っても揺るがないのよ」
「自分が一番ということは」
「絶対に揺るがないから」
 それでというのです。
「いいのよ」
「そうなのね」
「エリカが自分を一番って思ってもね」
「成程ね」
「あたしがそう思ってるならね」
「あんたのその考えは立派ね、少なくとも羨んだり妬んだりしないから」
 そうした感情が絶対にないからです。
「いいと思うわ、問題があってもね」
「問題あるの」
「やっぱりあると思うわ、猫のそれがね」
「猫はこの世で一番素晴らしい生きものなのに」
「そう思っていてもね」
 ガラスの猫は想像もしないことです、けれどガラスの猫以外の人にはよくわかることなのです。ガラスの猫の困ったところは。
「仏教の言葉で言うと唯我独尊ね」
「それって悪い意味なの」
「悪い意味で使われる場合もあってね」
「今がそうなの」
「ええ、だからね」
 それでというのです。
「貴女はね」
「唯我独尊なところが」
「問題よ、エリカもそうだけれどね」
「猫のそうしたところは」
「本当に問題よ」
「成程ね、けれどね」
 ナターシャの言葉は聞きました、ですが。
 ここで、です。こうも言ったガラスの猫でした。
「あたしの考えはね」
「誰が言ってもよね」
「変わらないわ、あたしは自分にまず一番でね」
「そう思っていて」
「それで充分だからね」
 満足しているのです、それも完全に。
「いいのよ」
「それがよくも悪くもあるのよ」
「わからないわね、けれど聞かせてもらったわ」
 このことは確かにというのです。
「その様にね」
「ええ、それじゃあね」
 こうお話してです、ガラスの猫はさらに先に進みます。ですがそれは夜までで夜になるといつも通り晩御飯となりました。
 今度の晩御飯はお寿司です、オズマはそのお寿司を出して皆と一緒に食べながらそのうえで皆に言いました。
「やっぱりお寿司もね」
「美味しいーーのーーですーーね」
「ええ、だから出したけれど」
「何かーーありますーーか」
「いえ、お寿司も美味しいけれど」
 それでもというのです。
「実は魚介類だけじゃないのよね、お寿司は」
「ハンバーグもありますね」
 ここで言ったのは恵梨香でした。
「あと納豆とかも」
「そうなのよね、河童巻きもあるし」
 胡瓜の巻き寿司もあります。
「お寿司といってもね」
「色々で」
「魚介類だけとは限らないわ」
「そうですよね」
「そう、それがね」
「お寿司の持ち味ですね」
「そうよね、ただ魚介類限定にすると」
 そうしたくぐりを設けると、というのです。
「何かよくないわね」
「お寿司については」
「幅が広いから」
「その幅の広さはですね」
「守っていくべきね」
 こう言うのでした。
「色々なお寿司が食べられるとそれだけ美味しい思いが出来るから」
「だからですね」
「そうあるべきよ」
「そうですか」
「ええ、この卵焼きだってね」
 オズマは卵焼き、海苔で卵と御飯を巻いているそれも食べて言いました。
「そうでしょ」
「魚介類ではないですが」
「美味しいわね」
「はい」
 恵梨香はオズマに答えました。
「とても」
「だからよ」
「魚介類以外のネタもですね」
「沢山あっていいしそしてね」
「食べることもですね」
「いいことでしょ」
「そうですよね、このハンバーグも」
 恵梨香はハンバーグのお寿司も食べて言いました。
「美味しいですし」
「納豆美味しいわよ」
 ナターシャはこのお寿司を食べています、それもにこにことして。
「こちらもね」
「そうそう、最初は何かと思ったわ」
 オズマはその納豆を軍艦巻きにしているお寿司を食べているナターシャにも応えます。
「納豆自体がね」
「匂いが凄くて糸を引いていて」
「もう食べものかってね」
「そこまで思いますよね」
「それがね」
 まさにというのです。
「美味しいのよね」
「お寿司にしましても」
「面白いわよね」
「ええ、だから次に食べるわ」
 納豆巻きをというのです。
「そうさせてもらうわ」
「そうですか、それじゃあ」
「次ね」
「そうしますか」
「納豆は食べてみるとあっさりした味でね」
「普通の御飯にかけても美味しくて」
「お寿司にしても美味しいわ、本当にお寿司はね」
 魚介類以外のネタでもというのです。
「色々と美味しいわ」
「そうですね、それじゃあ」
「次は納豆巻きを食べるわ」
 笑顔で言ったオズマでした、そうして実際に魚介類以外のお寿司も楽しむのでした。








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