『オズのビリーナ』




                 第六幕  虹色の菫

 トロット達は一旦鶏の国を出てその正門の傍にシートを敷いて座ってです、テーブル掛けからお昼御飯を出しました。今日のお昼はといいますと。
 ハンバーガーにホットドッグ、マッシュポテトに野菜スティックそしてフルーツをミキサーにかけたジュースです。デザートは。
「アイスクリームを出すわね」
「今日はアメリカンですね」
 ジョージは特にハンバーガーを見て笑顔になっています。
「いいですね」
「ええ、何がいいかしらって考えたけれど」
 今日のお昼御飯はです。
「これにしたのよ」
「お野菜は野菜スティックですか」
 カルロスはお野菜を見ています。
「これもいいですね」
「あとジャガイモはマッシュポテトですか」
 恵梨香はそのマッシュポテトを見て言うのでした。
「柔らかくて美味しいんですよね」
「ホットドッグのソーセージが大きくて」
 神宝はホットドッグのその大きなソーセージを見て喉をごくりと鳴らしました。
「いいですね」
「そして飲みものはジュース」
 ナターシャはオレンジやグレープフルーツ、苺、パイナップルのジュースを見ています。
「これもいいですね」
「そうでしょ、美味しいし栄養のバランスもいいから」
 それでとです、トロットは五人に笑顔で応えました。
「楽しく食べましょう」
「私はこれね」
 エリカは大きな鰯を目の前にしています。
「鰯ね」
「エリカは鰯も好きでしょ」
「ええ、大好きよ」
「それで出したの」
「それも新鮮な生の鰯を」
「好きなだけ食べてね」
「そうさせてもらうわね」
 是非にと答えたエリカでした。
「お腹一杯食べるわよ」
「じゃあ私はね」
 何も食べる必要のないガラスの猫が言うことは。
「皆が食べるのを見て楽しませてもらうわ」
「ええ、わかったわ」
「それじゃあお昼ね」
「これからね」
 トロットはガラスの猫にも笑顔で応えます、そしてそれぞれいただきますをしてから皆で食べはじめました。
 二段のハンバーガーを食べてです、恵梨香はこんなことを言いました。
「中のチーズとトマト、細かく刻んだ玉葱も美味しくて」
「素敵な味でしょ」
「ケチャップとトマトもよく効いていて」
 こうトロットに答えます。
「とても美味しいです」
「ええ、私もそう思うわ」
「あと二つ食べられそうです」
「うん、確かにこのハンバーガー美味しいよ」 
 ジョージは恵梨香以上に美味しそうに食べています。
「僕も三つ食べられそうだね、ホットドッグもね」
「そうそう、ホットドッグ美味しいよ」
 神宝はまずそちらを楽しんでいます。
「ソーセージもパンもね」
「マッシュポテトも」
 カルロスはスプーンでマッシュポテトを食べています、そのうえでの言葉で。
「いいよ」
「全部美味しいわ、野菜スティックもよくて」
 ナターシャは人参や蕪、胡瓜やアスパラガスを縦長に切ったそれを食べています。バーニャパウダーに付けてから。
 そしてです、その野菜スティックについてトロットに尋ねるのでした。
「今日のお昼はこちらにしたんですね」
「少し考えてね」
「サラダやシチューではなくて」
「今日は趣向を変えたのよ」
「こちらにしたんですね」
「これも美味しいから」 
 野菜スティックもというのです。
「だからね」
「はい、確かにいい野菜の食べ方の一つですね」
「そうでしょ、私も好きなのよ」
「あっさりと手軽に食べられて」
「そちらもどんどん食べてね」
「うん、野菜スティックも食べよう」 
 キャプテンも実際にです、野菜スティックを食べています。人参や蕪のそうしたものを食べつつそのうえでの言葉です。
「美味しいからね」
「はい、そうさせてもらいます」
「勿論野菜スティックも頂きます」
「どのお料理もたっぷり食べます」
「どれも」
 恵梨香達四人も応えて笑顔で野菜スティックも食べます、その彼等を見ながらです。 
 エリカは鰯を頭から食べつつです、こんなことを言うのでした。
「私はこれでね」
「満足なのね」
「鰯があればね」
 トロットに今食べながらお話します。
「もう充分よ」
「他のものはいらないのね」
「キャットフードもね」
 大好物のそちらもというのです。
「いいわ」
「そうなのね」
「この鰯とても大きいし」
 確かにかなり大きくて丸々としています。
「充分よ」
「デザートもいらないの」
「いらないわ」
 ここでも充分と言います。
「これ食べたら満腹よ」
「ミルクはいるでしょ」
「あっ、そうね」
 言われて気付いたエリカでした。
「それを忘れていたわ」
「じゃあ後で出すわね」
「お願いするわ、猫用の最高のミルクをね」
「デザートを出す時に出すわね」
 エリカのミルクもというのです、そうしたお話をしながらです。 
 皆で楽しく食べます、そうしつつです。
 ナターシャはふとです、トロットに尋ねるのでした。
「あの、ビリーナ達のさっきのお話ですけれど」
「カミーユのこと?」
「いえ、もう一つのお話です」
「ああ、虹色の菫ね」
「オズの国にはそうしたものもあるんですね」
「そうなのよ」
 実際にという返事でした。
「これがね」
「オズの国にはそうしたものもあるんですね」
「そうよ、これがとても奇麗なのよ」
「そうですか」
「ただ、凄い場所にあるから」
「滅多にはですか」
「採りに行けないの」
 そうしたお花だというのです。
「王宮にもないでしょ」
「大変な場所にあるお花だからですね」
「王宮にもまだないのよ」
「採りに行くこともですね」
「難しいわよ」
「けれどビリーナは採りに行くって言ってますね」
「種でもね」
 まさにというのです。
「相当な難しさよ」
「ビリーナだけで大丈夫でしょうか」
「ううん、どうかしらね」
 ホットドッグを食べながらです、トロットは考えるお顔になって言いました。
「それは」
「やっぱり難しいですか」
「そう思うわ、鶏だけだと」
「難しいですか」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「あのお花は地下にあるから」
 トロットはお花がある場所もお話しました。
「それでそこへの出入り口の場所もわかっているから」
「ビリーナだけでもですか」
「採りに行けないこともないと思うわ、地下は迷路になっているけれど」
「あっ、ビリーナは何かを見付けたり迷路を進むことは得意ですからね」
「あの娘はそうしたことの天才よ」 
 まさにというのです。
「だからね」
「一羽だけでもですか」
「行けると思うわ」
「そうなんですね」
「ええ、ただやっぱり鶏一羽で行くことはね」 
 それはといいますと。
「大冒険になるわよ」
「そのことは間違いないですね」
「絶対にね」 
 それはどうしてもというのです。
「誰かと一緒に行った方がいいわね」
「用心の為に」
「そう思ったわ、今ね」
「というか地下でしょ」
 ガラスの猫がここでお話に入りました。
「それってあちらに迷惑でしょ」
「あっ、そうね」
 トロットはまた気付きました。
「地下といえばノームの人達だけれど」
「鶏はノームの人達の天敵よ」
 彼等が大の苦手とする卵を産むからです。
「雄鶏だって怖がるのに」
「それが雌鶏になると」
「もう来たら大騒ぎよ」 
 それだけで、というのです。
「それこそ」
「そうよね」
「今のノームの人達は穏やかだから」
 かつてと違ってです。
「無闇に騒ぎを起こすのもよくないでしょ」
「ええ、本当にね」
「そこにはノームの人達いるの?」
「あの人達は地下なら何処でもね」 
 それこそと言ったトロットでした。
「行き来出来るから」
「会う可能性はあるわね」
「否定出来ないわ」
「じゃあね」
「ビリーナだけで行ったら」
「ちょっと問題でしょ」
「それもそうね」
 トロットはガラスの猫の言葉に頷きました。
「幾らビリーナが難を逃れられてもね」
「それではね」
 ここでキャプテンが言いました。
「誰かが一緒に行くべきだね」
「ビリーナが種を採りに行く時に」
「そうしたらいいよ」
 こうトロットに言うのでした。
「それならね」
「そうね、それじゃあ」
「ビリーナが行く時になったら教えてもらって」
「行くべきね」
「それがいいね」
 これがキャプテンがトロットに言うことでした、そしてトロットも頷きます。キャプテンの言う通りだとです。そうしたお話をしてです。
 皆はハンバーガーも他のものも全部食べてです、そのうえで。
 アイスクリームを出します、皆それぞれが好きなアイスを出してもらいましたが。
 エリカはナターシャと恵梨香が出したアイスを見てです、こう言いました。
「二人は同じものね」
「そうね、お抹茶ね」
「それになったわね」
「ナターシャもお抹茶好きなのね」
「バニラが第一だけれど」
 それでもというのです。
「最近こちらも好きなの」
「そうなのね」
「だからこちらにしたの」
 見ればジョージはチョコレート、神宝は苺、カルロスはレモンです。トロットとキャプテンはバニラを前に置いています。
「お抹茶にね」
「お抹茶のアイスというか」
 エリカはナターシャのお話を聞いて言いました。
「お抹茶自体がお菓子に合うのね」
「ええ、そうなの」
 ナターシャは微笑んでエリカに答えました。
「日本に来てそのことを知ったわ」
「お抹茶がお菓子に合うことが」
「一緒に飲んでもいい」
「お菓子そのものにしてもなのね」
「いいのよ」 
 つまり美味しいというのです。
「とてもね」
「わかったわ、じゃあ私はミルクを飲むわね」
 トロットに出してもらったそれをというのです。
「美味しくね」
「あんたはそれでいいのね」
「だって私アイスは食べないから」
「猫だから」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「欲しいとも思わないわ」
「そういうことね」
「もっと言うとお腹一杯食べたから」
 このこともあってというのです。
「余計にね」
「いいのね」
「そう、私はミルクがあるし」
 それを飲むからというのです。
「どうぞ美味しく召し上がれと言うだけよ」
「よくわかったわ」
「そういうことでね」
 こうしたこともお話してです、皆はデザートのアイスクリームも楽しみました。そのアイスも食べ終わってテーブル掛けもシートもなおして。
 皆は鶏の国の王宮に向かいました、兵隊さん達は皆をあっさりと通してくれましたがこの時に五人に笑顔で言いました。
「今度からはです」
「今度からは?」
「皆さんはフリーパスですよ」
 チェックなしに通してくれるというのです。
「お祖母ちゃんのお友達ですから」
「ビリーナのお友達だから」
「そうです」
 まさにというのです。
「どの方もです」
「何か悪いわね」
「いえいえ、トロット王女とキャプテンは最初からでしたし」
 ナターシャに笑顔でお話します。
「どうぞ」
「それじゃあ」
「ええ、また来た時は」
「お言葉に甘えさせてもらうわね」
「そういうことで」
 こうしたお話もしてでした、皆でお国の中に戻りました。そのうえで王宮のところに来ますと。
 ビリーナは皆にです、こう言ったのでした。
「ちょっと行って来るわ」
「行って来るって?」
「何処に?」
「地下までよ」
 そこにとです、あっさりとして言うのでした。
「行って来るわ」
「また急ね」
 トロットはビリーナに目を瞬かせて問い返しました。
「とはいっても貴女らしいわね」
「思い立ったらその時よ」
 ビリーナは右手を挙げて言いました。
「まさにね」
「それが貴女だから」
「行ってくるわ」
「あっ、トロット」
 ビリーナが言い終えた瞬間にキャプテンが行ってきました。
「それじゃあね」
「ええ、そうね」
 トロットもキャプテンのその顔に頷きます。
「それじゃあ」
「言おうね」
「そうするわ、ねえビリーナ」
 トロットはキャプテンとの話をしてすぐにです、ビリーナに顔を戻して声をかけました。
「一つ提案があるけれど」
「提案って?」
「私達も一緒に行っていい?」
「菫の種を採りに」
「そうしていいかしら」
「ええ、いいわよ」
 ビリーナはトロット達のお願いに快諾で応えまっした。
「それじゃあね」
「今から一緒にね」
「そうしましょう、旅は多い方が楽しいし」
 それならと言うビリーナでした。
「一緒に行きましょう」
「それで決まりね」
「ええ、じゃああなた」
「うん、これからだね」
「行って来るわね」
「よい旅を」
 王様は奥さんに暖かい声をかけました。
「皆と一緒にね」
「そうさせてもらうわ」
「さて、僕はこのままね」
「この国を治めてくれるのね」
「そうするよ」
 こうビリーナに答えるのでした。
「引き続きね」
「それではね」
「それで種を手に入れたらすぐに戻って来るんだね」
「ええ、すぐによ」
 まさにというのです。
「そうするわ」
「じゃあ楽しみに待っているね」
「そうしてね、虹色の菫も植えたら」
 この鶏の国にというのです。
「この国はもっと奇麗になるから」
「いいね」
「ええ、だからね」 
 それだけにというのです。
「絶対に手に入れるわ」
「頑張ってきてね」
「途中悪いノームが出て来ても」
 地下の至るところにノーム族がいる可能性があります、そして彼等の前の王様であるラゲドーのことを意識してこう言ったのです。
「撃退するわ」
「その卵でだね」
「卵を産まなくてもよ」
 それでもというのです。
「私はノームには負けないわ」
「絶対にだね」
「そう、絶対によ」
 それこそというのです。
「私が負けることはないわ」
「その意気だね、けれど最近はノーム族もね」
「ええ、悪い人達が減ったわね」
「王様が代わってね」
「いいことよ、王様が代わるとそれだけで随分変わるわね」
「全くだね」
「ノーム族もそうだし」
 それでというのです。
「私達もでしょうね」
「そうなるだろうね」
「ええ、私達もしっかりしないとね」
「皆の為に」
 こうしたこともお話しました、ご主人と一緒に。
 ビリーナはそのことをお話してです、今度はトロット達に言いました。
「じゃあ今から出ましょう」
「ええ、このメンバーでね」
「そうしましょう」
「僕も行きたいな」
 ここで何とです、カミーユが出て来て言ってきました。
「ひいお祖母ちゃんの冒険に」
「あんたは駄目よ」
 ビリーナはそのカミーユにすぐに言いました。
「まだ子供だから」
「えっ、駄目なの?」
「当たり前でしょ。お父さんとお母さんの手伝いをしていなさい」
「そんなことしても面白くないよ」
 カミーユは嫌なお顔になってビリーナに返しました。
「全然ね」
「面白くなくてもよ」
「僕がまだ子供だから」
「駄目よ、どうしても行きたいのならね」
 その時はというのです。
「この国の中を隅から隅まで毎日歩いていなさい」
「それが冒険になるの?」
「そうよ、この国はこれでも結構広いのよ」
「あっ、確かにね」
 トロットはビリーナの今の言葉に頷きました。
「小さな村位はあるわね」
「そうでしょ、鶏にしてはもっと広く感じるわ」
「だからなのね」
「広いからよ」
 だからこそとです、ビリーナはまたトロットに言いました。
「隅から隅まで、毎日見回っていなさい」
「そんなの面白いの?」
「面白いわよ、私は嘘は言わないわよ」 
 カミーユにもです、ビリーナはこのことをはっきりと云うのでした。
「絶対にね、あと私はひいひいお祖母ちゃんでしょ」
「あっ、ひいお祖母ちゃんじゃないわえ」
「そこもしっかりしなさい」
「わかったよ、ひいひいお祖母ちゃん」
「冒険に行くのはちゃんとしたトサカが生えて」
 成長してというのです、雄鶏には立派なトサカがあるからそれでビリーナもカミーユにこう言ったのです。
「私をひいひいお祖母ちゃんだってはっきりわかってからよ」
「それからなんだね」
「そう、その時にね」
 まさにというにです。
「冒険に行きなさい」
「僕が大人になってからなんだ」
「そうよ」
 カミーユにひいひいお祖母さんとして言います。
「わかったわね」
「ひいひいお祖母ちゃんには逆らえないよ」 
 やんちゃなカミーユもビリーナにだけはというのです。
「どうしてかな」
「それは君がビリーナのことが好きでね」
 キャプテンがビリーナのその疑問に答えます。
「絶対の信頼を持っているからだよ」
「だからなの」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「君もビリーナの言葉には従うんだ」
「僕がひいひいお祖母ちゃんの言葉に」
「そうだよ」
「確かに僕ひいひいお祖母ちゃんが一番好きだよ」
 他の誰よりもというのです。
「リンチェンおじさんも好きだけれど」
「一番はだね」
「だってひいひいお祖母ちゃんとても頭がいいし勇気もあってしっかりしてるから」
 だからというのです。
「いつも皆のことを考えてくれているし」
「私は皆のお母さんでこの国の女王よ」 
 こうはっきり言ったビリーナでした。
「それなら皆のことを考えるのは当然でしょ」
「そうなんだ」
「そう、それに皆の為に考えて勇気を出してしっかりしないと」
 このことについても言うのでした。
「誰が王様を助けてこの国を守っていくのよ」
「だからなんだ」
「私はそうしているだけよ」
「当然のことなんだね」
「そうよ」
 ビリーナにとってはというのです。
「そんなことは普通よ」
「ひいひいお祖母ちゃんにとっては」
「だから言うまでもないわ」
「そうなんだね」
「そこで尊敬しろとか言わないのね」
 ガラスの猫はビリーナにこう聞きました。
「そうしたことは」
「誰かに自分を尊敬しろとか言うのは恥を知らない人のすることよ」
 ビリーナはガラスの猫にはっきりと言いました。
「あんた達もそれはしないでしょ」
「このガラスの身体を自慢はするわ」
 ガラスの猫は今もその透き通った身体を誇らしげに見せています。 
 ですがその彼女もです、こう言うのでした。
「けれど私誰かに尊敬してもらいとは思わないわ」
「そうでしょ」
「私は私よ」 
 エリカもこう言います。
「尊敬されたいとも人にどう思われても構わないわ」
「そうよね、あんたも」
「尊敬しろなんて誰にも言わないわよ」
「私もよ、そんな恥知らずなことは言わないから」
 間違ってもというのです。
「そういうことを言う人程駄目人間だしね」
「だからなんだ」
「そう、私はあんたにも誰にもね」 
 あらためてカミーユに言うのでした。
「尊敬しろとは言わないわ」
「当然のことをしているだけで」
「何もね」
 一切というのです。
「偉いこともしていないし偉いことをしていても」
「尊敬しろとは言わない」
「そんなことを言う人こそ」
 自分から、というのです。
「尊敬されないわよ」
「そういうものなんだね」
「そうよ、だからいいわね」
「わかったよ、じゃあね」
「私は尊敬しなくていいから」
「好きでもだね」
「そういうことよ、王様を尊敬しなさい」
 尊敬するのならというのです。
「いいわね」
「僕もそんなことは言わないから」
 ビリーナと同じく、というのです。王様もこう言います。
「恥を知っているつもりだからね、僕は」
「そうなんだ、ひいひいお祖父ちゃんも」
「そうだよ、言わないよ」
「ううん、尊敬される人は最初からそんなことを言わないんだね」
 カミーユはビリーナと王様のお話を聞いて考えるお顔になりました、そこに確かなものを見てそうしてなのです。
「そうなんだね」
「あんたは誰から尊敬されたいと思ってる?」
「いや、全然」
 カミーユはビリーナの今の問いにはっきりと答えました。
「そんなこと考えたこともないよ」
「じゃあその気持ちを忘れないことよ」
「絶対にだね」
「そうよ、いいわね」
「わかったよ、僕も恥ずかしい人になりたくないから」 
 絶対にというのです。
「そんなことは思わない様にするよ」
「そこはしっかりとしなさい」
「悪戯はしても」
 それでもというのです。
「そうだね」
「出来るなら悪戯も程々にしてもらいたいね」 
 王様はビリーナをやれやれといったお顔で見つつ言いました。
「それも」
「えっ、駄目かな」
「困るからね」
「いいじゃない、悪戯位は」
「駄目だよ、全くこの子は」
「とにかく今はよ」
 ビリーナはまたカミーユに言いました。
「王国の隅から隅までじっくり観て回っていなさい」
「毎日だね」
「そうしなさい、いいわね」
「うん、じゃあね」
 本当にビリーナの言葉には素直なカミーユでした、それでこう答えたのでした。
「僕そうしていくよ」
「ええ、いいわね」
「絶対にね」 
 こう約束してでした、カミーユは早速お国の中の冒険に向かいました。そしてビリーナは皆と一緒に出発しました。
 出発するとです、ビリーナは皆にこう言いました。
「菫の種がある場所はもうわかっているから」
「だからなのね」
「ええ、道は任せてね」
 ナターシャに答えます。
「そこはね」
「ちゃんとなのね」
「知ってるから」
 だからだというのです。
「任せてね」
「それじゃあ案内はお願いね」
「皆はぐれないでね」
「そうそう、地下だからね」
 カルロスもビリーナの言葉に頷いて言うのでした。
「道が迷路みたいになっているから」
「オズの国の地下ってそうだよね」
 神宝はこれまでの皆の冒険のことから言います。
「ノーム族もいるしドラゴンもいてね」
「何かと大変なところがあるのは確かだね」
 ジョージもこのことはよくわかっています。
「だからはぐれない様にしないと」
「それに私達オズの国の地下ははじめてだから」
 恵梨香も言います。
「余計に気をつけないといけないわ」
「あっ、そういえばそうね」
 トロットは恵梨香の今の言葉に気付きました。
「貴女達皆地下には行ってないわね」
「そうなんです」
「はじめてだったわね」
「ですから不安もあります」
「そうよね、ただね」
「ビリーナが道を知っていてですね」
「私とキャプテン、猫達も地下のことは知ってるから」 
 だからだというのです。
「安心してね」
「行く道もですね」
「そう、そして何かが急に出て来てもね」
 そうしたことはあってもというのです。
「怯えたり不安になったりしないで」
「わし等もいるからね」 
 だからというのです、キャプテンも。
「任せてくれるかな」
「お願いします」
 ナターシャはキャプテンの言葉にも素直に応えました。
「それじゃあ」
「わし等も皆を全力で守るから」
「安心して私についてくるのよ」
 ビリーナは先頭を進みつつ言うのでした。
「いいわね」
「ええ、それじゃあね」
「私がいる限りノーム族もドラゴンも怖くないわ」
「絶対になのね」
「そう、絶対によ」
 それこそというのです。
「何があっても来てもね」
「いつもながら凄い自信ね」
 エリカがここでビリーナに言います。
「ドラゴンも怖くないなんて」
「ドラゴンも知ってるからよ」
「どんな生きものか」
「そうよ、確かに物凄く大きいけれどね」
「それでもなのね」
「知ってるから」
 ドラゴンがどんな生きものかをです。
「怖がることはないわ」
「じゃあ問題は何かしら」
「知らないことよ」 
 そのことが問題だというのです。
「ドラゴンを知らないことがね」
「問題なのね」
「そうよ、あんたのことも知ってるし」
「私のことも」
「もっと言えば猫のこともね」
「だから私達も怖くないの」
「オズの国の猫のことも知ってるわ」
 この国のというのです。
「ドラゴンについてもね」
「他の国のドラゴンってどんなのなの?」 
 ガラスの猫はこのことが気になって尋ねました、この猫はオズの国にずっといるので他の国のことはしらないのです。
「一体」
「色々なドラゴンがいるわよ」
 恵梨香がガラスの猫に答えました。
「実際にね」
「あら、そうなの」
「ええ、オズの国のドラゴンもそうでしょ」
「そういえばそうね」
 ガラスの猫もそう言われるとわかりました。
「トカゲに似た形の竜もいれば青龍もいて」
「そうでしょ、色々なのよ」
「そうなのね」
「青龍は中国の龍だよ」
 その中国人の神宝の言葉です。
「中国の龍はああして空を飛んで細長い形なんだ」
「そして西洋の竜は四本足で翼が生えてるんだよね」
 ジョージはこの竜のことをお話しました。
「お口から火を吐いたりして」
「他にも色々な種類のドラゴンがいるね」 
 カルロスも言います。
「足がないドラゴンもいたり翼がなかったり頭が幾つもあったり」
「そういえば頭が幾つもあるドラゴンもいるわね」
 ナターシャもカルロスの言葉に気付きました。
「ヒドラみたいに」
「そうね、ドラゴンは頭が幾つかあるものもいるわね」
 トロットも聞いて頷きます。
「ギリシア神話とかに出て来るわ」
「うん、ラドンなんか凄いね」
 キャプテンも言います。
「百の頭があって身体も大きくて」
「あれは凄いわね」
「頭が百もあると」 
 トロットはラドンのその言葉を思い出して言うのでした。
「お互いに首が絡まったりしないかしら」
「そうした心配も出ますね」
「そうでしょ、頭が幾つもあると」
「特に百もあると」
 ナターシャも言います。
「そうなりますね」
「そうよね」
「頭は一つで充分でしょ」
 ビリーナの言葉です。
「幾つもあったらお互いの頭が喧嘩するわよ」
「そうよね、身体は一つでも頭の数だけ心と脳があるから」
「もうこんがらがるわよ」 
 また言うビリーナでした。
「訳がわからなくなるわ」
「そう思うでしょ、私は頭は一つでいいわ」
 これがビリーナの考えです。
「二つもいらないら」
「そうしたドラゴンとは違って」
「そう、絶対にね」
 本当にそこはというのです。
「頭は一つよ」
「それで充分なのね」
「ないと困るけれど沢山はいらないわ」
 二つはというのです。
「これで充分よ」
「今のままで」
「そうよ、ただ頭が二つある鷲は」
「ああ、あれね」
 ナターシャはビリーナが今お話に出したその鷲のお話にすぐに応えました。
「あの鷲ね」
「ナターシャも知ってるの」
「ええ、知ってるわ」
「そうなの」
「だってロシアの伝説にあるから」 
 だからというのです。
「モスクワの空の上を飛んだことがあるのよ」
「実際にいるのね」
「たまに頭が二つある蛇もいたりするのよ」
「外の世界だと」
「そう、それでね」
「そうした鷲もいるのね」
「そうよ」
 ナターシャはビリーナにお話します。
「ロシアにはそうしたお話があるのよ」
「それは面白いわね」
「そうでしょ」
「ええ、私の頭は一つで充分だけれど」
「こうしたお話は面白いわね」
「不思議よ」
 頭が二つある鷲のお話がというのです。
「とてもね、外の世界も私が見てきた以上に不思議ね」
「ビリーナも最初は外の世界にいたわね」
「その時には知らなかったわ」
 オズの国の外の世界のことはです。
「いたけれどね」
「そうなのね」
「ええ、不思議はオズの国だけのことじゃないのね」
「そうなるわね、ただオズの国は世界で一番不思議が多い国よ」 
 このことは間違いないというのです。
「また特別よ」
「そうなの」
「だってこの国は何から何まで不思議でしょ」
「それはそうね」
「こんなに不思議が多い国はないから」
 それこそというのです。
「外の世界の全ての国の不思議を合わせたよりも不思議が多いわ」
「そうなのよね、この国は本当に不思議の塊よ」
 トロットもこう言います。
「外の世界ではごく稀に不思議なことが起こるけれど」
「この国はなのね」
「特別よ」
「不思議が集まる国ね」
「魔法もあって」
 それにというのです。
「科学も他の世界と違うから」
「私もそう言われるわね」
 ガラスの猫も言います。
「不思議だって」
「あんたみたいなのは外の世界にはいないわ」
「絶対によね」
「そう、絶対によ」
 それこそとです、トロットはガラスの猫にもお話しました。
「いないわ」
「そうなの」
「機械で再現出来るかしら」
「今の技術では無理だと思います」
 恵梨香が答えました。
「ちょっと」
「そうなのね」
「この娘もかかしさんや木樵さんも」
「まさに魔法、そして不思議ね」
「そこまでの不思議はです」
「今の外の世界でもなのね」
「再現出来ないと思います」
 流石にというのです。
「やっぱり」
「そうなのね」
「そう考えますと」
「本当にこの国は不思議の国ね」
「不思議そのものです」
 中に不思議が一杯転がっているのではなく、です。
「そう思います」
「うん、この国はね」
 キャプテンも言います。
「まさに不思議そのものだよ」
「何といっても」
「不思議が創った国といっていいね」
 こうも言ったキャプテンでした。
「この国は」
「そうですよね」
 ナターシャはキャプテンのその言葉に頷きました。
「不思議の塊というか不思議そのものです」
「そうよ、不思議そのものだから」
 トロットもまた言います。
「凄く楽しいのよ、大変なことも多いけれど」
「大変なことがあっても」 
 ビリーナはこれまでの経験からトラブルについても言います。
「それを避けることもね」
「楽しみよね」
「そう、どう乗り越えるか考えて乗り越える」
 実際にとです、トロットに言うのです。
「それもまた楽しいのよ」
「そうそう、だから今回のことも」
「何があってもよ」
 まさにと言うビリーナです。
「乗り越えるわよ、いいわね」
「是非ね、じゃあ」
「まずは地下への入口まで行くわよ」
 そうしようというのです。
「わかったわね」
「その入口に行って」
「そこから地下だね」
「僕達地下へ行くのははじめてだけれど」
「どんなのかしら」
「本では読んでいたけれど」
 五人はそれぞれ考えるお顔になります、ビリーナはその五人にはこう言いました。
「私達がいるから安心してね」
「うん、ビリーナもトロットさんもいて」
「キャプテンさんもいてくれて」
「そしてエリカもガラスの猫もいるから」
「私達は安心していいのね」
「例え何があっても」
「一番大事なのは私達が信じることよ」
 まさにというのです。
「信じてついてくるのよ」
「わかったわ」
 ナターシャが代表して応えます。
「それじゃあついていくわね、ビリーナ達に」
「信じてついていく」
 神宝はこう言いました。
「時にはそうしたことも大事だね」
「信じられる人についていくこともね」 
 ジョージも言います。
「時として大事だね」
「そして勝手なことはしない」
 カルロスの言うことはこうしたものでした。
「かえって皆の邪魔にもなったりするし」
「私達は今はビリーナ達についていくわ」
 恵梨香は結論が出たお顔になっています。
「最後の最後まで」
「そうしなさい、はぐれずにね」
「ついてくるのよ」
 五人にです、エリカとガラスの猫も言います。
「色々あっても」
「最後の最後までね」
「自分で考えることも大事だけれど」
 トロットがここで言うことはといいますと。
「信じてついていくこともね」
「同じだけ、ですね」
「そう、大事なのよ」
 こう言うのでした。
「私もそう思うわ」
「トロットさんの場合やキャプテンさんですね」
「オズマもそうだしオズの国の皆もね」
「ドロシーさん、かかしさん、木樵さん」
「その他の皆もよ」
 オズの国の素晴らしい人達こそというのです。
「信じられる、何処までも信じるべき人だから」
「信じてですね」
「ついていくわ」
「わかりました、じゃあ」
「信じてついてくるのよ」 
 またビリーナが言います。
「わかったわね」
「是非そうするわ」
 ナターシャが皆を代表して応えました、そうしたお話をしながらです。皆はビリーナの案内を受けて地下に向かうのでした。



のんびりと過ごすのかと思ったけれど。
美姫 「地下へと行く事になったわね」
しかも、地下は迷路になっているみたいだし。
美姫 「どんな事になるのか楽しみよね」
だな。次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」
ではでは。



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