『新オズの腹ペコタイガー』




                 第四幕  最高のカレー

 ジュリア=ジャムは朝早くから宮殿のお庭にあるオレンジを採っていました。そのジュリアのところにです。 
 恵梨香が来てです、彼女に尋ねました。
「今からですか」
「ええ、お仕事をしてるの」 
 ジュリアは恵梨香ににこりと笑って答えました。
「こうしてね」
「まだ朝早いのに」
「私いつもこうなの」
「そういえばいつも早起きですね」
「朝早く起きて働くの」
 それがジュリア=ジャムの毎日なのです。
「こうしてね」
「それで夜は、ですね」
「早く寝てるの」
「早寝早起きですね」
「少なくとも誰よりも早く寝てね」
 そしてというのです。
「早く起きてるわ」
「宮殿の中で一番ですね」
「私は姫様のお付きの侍女だから」
 メイドさんだからというのです。
「そうしてるの」
「メイドさんも大変ですね」
「いやいや、特にね」
「大変じゃないですか」
「姫様はとても優しいから。前のかかしさんもね」
「あの人は、ですね」
「そうでしょ、他の人を怒ったりしないし」
 そうした人ではありません、かかしも木樵もとても心優しいので。
「それにね」
「あの人は食べることも寝ることもないので」
「何もしなくてよかったし。魔法使いさんも」
「あの人はあの頃はずっとお一人でおられて」
「何でもご自身でされていたから」
 だからというのです。
「私は何もね」
「することがなかったんですか」
「そうなの、それで姫様もね」
「いい方なので」
「怒られたりしないし。それどころかね」
 怒られるどころかというのです。
「いつも褒めてもらってるの」
「そうなんですね」
「だからね」
「お仕事はですか」
「全然辛くないわ、むしろね」
「楽しいんですね」
「こんな楽しい仕事ないわ」
 宮殿でのメイドのお仕事はというのです。
「私はずっとここで働くわ」
「早寝早起きをして」
「そうしてね」
「そうですか、そういえばジュリアさんお疲れのことはないですね」
「いつも元気よ」
「そうですよね」
「何の不満もなくて」
 満面の笑顔での言葉です。
「この通りよ」
「それは何よりですね」
「ええ。ただ貴女も早いわね」
「今朝はですね」
「またどうしたの?」
「昨日かなり早く寝まして」
 それで、というのです。
「早く起きてしまって」
「それで起きて」
「着替えてお散歩していました」
「そうだったの」
「そうしたらジュリアさんがおられて」
「話し掛けてきたってことね」
「そうなんです」
 こうお話したのでした。
「お仕事中だとわかっていましたが」
「そうした気遣いはいいわ」
 にこりと笑ってです、ジュリアは恵梨香に答えました。
「別にね」
「そうですか」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「このオレンジだけれど」
 朝一番で摘み取っているそれがというのです。
「これが凄く美味しいのよ」
「オズマ姫がいつも召し上がられますよね」
「ドロシー達もね」
「そして私達も」
「普通に食べても美味しいし」
 それにというのです。
「しかもね」
「ジャムとかにしてもいいですよね」
「どういった風にしても美味しいの」
「このオレンジは」
「宮殿の果物やお野菜は何でも美味しいでしょ」
「それが、ですね」
「こうしていつも摘み取ってるの」
 ジュリアが、というのです。
「毎朝ね」
「そうなんですね」
「このオレンジ達がどうなるか」
 にこりと笑いつつです、ジュリアは手に持っているそのオレンジを見詰めながら恵梨香にお話するのでした。
「それも楽しみよね」
「本当にそのまま食べてもいいですし」
「ジャムとかにしてもね」
「そうですよね」
「オレンジ自体が美味しいと」
 それで、というのです。
「何にしても美味しいのよね」
「はい、どんな風にしても」
「モジャボロさんや魔法使いはカクテルや果実酒もお好きよ」
「オレンジのですね」
「そうなの、よく夜に飲んでおられるわ」
 オレンジを使って作ったカクテルやそれを入れたカ果実酒をというのです。
「気持ちよくね」
「そうなんですね」
「そうなの、お酒にも使うし」
「だから余計にですね」
「毎朝こうして摘み取るお仕事がね」
 それこそというのです。
「楽しくて仕方ないの」
「ジュリアさんの楽しみの一つですね
「そうなの」
「じゃあ私がお手伝いしたら」
「したいの?」
「駄目ですか?」
 あらためてです、恵梨香はジュリアに尋ねました。
「そうしたら」
「いいわよ」 
 笑顔で、です。ジュリアは恵梨香に答えました。
「恵梨香がそうしたいならね」
「有り難うございます、それじゃあ」
「お野菜や果物は朝一番で採るとね」
「美味しいっていいますね」
「西瓜もそうなのよ」
 甘くて水分がとても多いこのお野菜もというのです。
「朝が一番美味しいのよ」
「朝に採って朝に食べるのがですね」
「そうなの、今朝どうかしら」
「あっ、今朝は西瓜ですか」
「それもよかったら出すけれど」
「お願いします、私西瓜も大好きなんです」
 明るい笑顔になって自分の両手を重ね合わせてです、恵梨香はジュリアに言いました。
「他のお野菜や果物も好きですけれど」
「西瓜は特になのね」
「あとトマトやセロリも好きです」
「セロリは癖があるから」
「好きじゃない人もいますね」
「けれど恵梨香はなのね」
「はい、そのセロリもです」
 大好きだというのです。
「苺や無花果、蒲萄や柿に桃も」
「好きなもの多いわね」
「自分でもそう思います、ただ」
「ただ?」
「柿も大好きですけれど」
 ここで、です。恵梨香は少し残念そうなお顔になって言うのでした。
「柿はオズの国には」
「あるわよ」
 ジュリアは優しく微笑んで恵梨香に答えました。
「あのオレンジの果物よね」
「はい、へたのある」
「それもあるわよ」
「そうなんですか」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「この宮殿にはないけれど食べたらいいわ」
「はい、それじゃあ」
「よかったら食べてね」 
「そうさせてもらいます、そういえば」
 ここで恵梨香も思い出しました、オズの国のことに。
「オズの国にも柿がありましたね」
「そうでしょ、オズの国には色々な果物があるから」
「柿もですね」
「あるのよ」
 そうだというのです。
「ただ、ね」
「オレンジとは限らないですね」
「マンチキンの柿は青いわね」
「コバルトブルーですね」
「青い柿はあっても」
「青柿とはまた違いますね」
「緑ですから」
 だからというのです。
「また違いますね」
「緑だとエメラルドの都ですね」
「そうよね」
「日本では緑とかも青に入るんです」
「同じ系列の色になのね」
「ブルーと言ってもグリーンになります」
「ちょっと難しいわね」
 ジュリアは摘み取ったオレンジ達を背中に背負っている籠に入れていきます、そうしつつ恵梨香にお話します。
「そこが」
「そうですよね、青だと思ったら」
「緑だったりするのね」
「そうです」 
 まさにというのです。
「日本では」
「じゃあオレンジもかしら」
「はい、橙色に入ります」
「オレンジ色にならなくて」
「ところがオレンジ色って言う時もあります」
「橙って言ったり」
「あと蜜柑は蜜柑色です」
「同じ柑橘類でもなのね」
「それぞれの色があるんです」
「ううん、橙でまとめたり」
 ジュリアも首を傾げさせて言います。
「それでそれぞれの色に分かれていたり」
「難しいですよね」
「日本人の色の表現って面白いわね」
「青もそうなんです」 
 その緑も入る色もというのです。
「緑も入れば」
「それにですか」
「はい、青っていってもコバルトブルーやマリンブルーがあって」
「スカイブルーとか?」
「緑も深緑、エメラルドグリーンとかです」
「色々あるのね」
「それが色鉛筆や絵の具にもあります」
 日本では、というのです。
「四十八色の色鉛筆セットもありますよ」
「恵梨香が持ってるのね」
「はい、同じ系列の色でもです」
 それこそというのです。
「色々あったりします」
「一括りにしたりしても」
「日本ではそうしたこともあるんです」
「そうしたことも日本なのね」
「色をまとめたり分けたり」
「面白い国ね」
 こうしたことをお話するのでした、そしてです。 
 二人で果物を積んでです、一仕事してから。
 恵梨香は朝御飯の場に出ましたがそこで色のことをお話するとです、ジョージが頷いてから言いました。
「そう、日本人の色の表現って難しいよ」
「そんなに?」
「本当に青って言っても緑だったりするし」
 それにというのです。
「青でも群青とか紺とか空色とかマリンブルーがあって」
「空色がスカイブルーでね」 
 カルロスも言います。
「どんな色かって思ったりもするよ」
「そうなのね」
「僕達からしてみればね」
「黄色にしても」
 神宝も言います。
「檸檬色だったり緑と混ざった黄緑、それに蜜柑色とか」
「蜜柑色はオレンジじゃ」
「黄色が勝ってるんじゃ」
「流石に黒や白は一つだけれど」
 最後にナターシャが言います。
「青、赤、緑、黄色。オレンジ、ピンク、紫はそれぞれ色々な色があるわね」
「日本は」
「私驚いたわ」
 それこそというのです。
「貴女の色鉛筆セット見て」
「四十八色の」
「絵の具も二十五色の持ってるわね」
「ええ」
「それがね」
 それこそというのです。
「そんなに色があるのかって」
「ロシアとかにはないの」
「ないと思うわ」
「アメリカでもないんじゃ」
「中国でもちょっと」
「ブラジルでも見ていないよ」
 男の子三人も言います。
「恵梨香が持ってる色鉛筆セットや絵の具セットは」
「よくこんなのあるなって驚いたよ」
「二十四色でも凄いのにね」
「それぞれの色を細かくしかも奇麗に分けてるのは」
 ナターシャは皆の意見をまとめて恵梨香に言いました。
「日本だけだと思うわ」
「そうなの」
「貴女の家に行ったらクレヨンのセットもあったけれど」
「それもっていうのね」
「そちらも三十六色あったわね」
「ええ」
「それもね」 
 そのクレヨンセットもというのです。
「ちょっとないわね」
「他の国には」
「日本人って色々な色を表現していると思うわ」
 ナターシャは恵梨香に確かな声で言いました。
「本当にね」
「うん、細かい表現だね」
「繊細って言うべきだね」
「それが色にも出てるね」
「私もそう思うわ」
 トロットも恵梨香に言いました、朝御飯を食べながら。
「恵梨香の持っている色鉛筆のお話を聞いてね」
「トロットさんもですか」
「言われてみればエメラルドの都も」
 皆が今いるこの国もというのです。
「一口に緑といってもね」
「色々な緑がありますね」
「ええ、薄かったり深かったり他の色が入ったりして」
 様々な緑があるというのです。
「本当にね」
「色々な緑がありますよね」
「それぞれの国でね」
 マンチキンでもギリキンでもです。
「それぞれの色があるけれど」
「青にしましても」
「色々な青がね」
「マンチキンの中にありますね」
「そうよね」
「青と一括りに出来て」
 それと共になのでした。
「分けられていますね」
「そういうものなのね」
「そう考えると面白いですね」
「色もね」
「今食べているものも」
 ここで言ったのはドロシーでした。
「オレンジもね」
「はい、これもですよね」
「それぞれの国で色が違ったりするわね」
「ギリキンだと紫ですね」
「そうなっていたりしますね」
「その紫もね」
 ギリキンの紫のオレンジもというのです、今朝のメニューはオレンジの他にはグレープフルーツや蒲萄、林檎に無花果、すぐりに桃、苺と揃えたフルーツの盛り合わせです。西瓜もあります。そこに真っ白なミルクが飲みものとしてあります。
「色々よね」
「オレンジの紫も」
「普通の紫のオレンジもあればね」
「赤紫に青紫」
 そうした色がというのです、紫が。
「ありますね」
「そうよね」
「何かそう考えますと」
「オズの国の色も多いわね」
「はい、本当に」
「最近グリンダはね」
 赤のカドリングの女王もとです、オズマがお話します。
「ピンクも好きなのよ」
「赤の中で、ですね」
「ピンクもね」 
 それこそというのです。
「気に入っていてピンクのハンカチとか集めてるのよ」
「グリンダさんもですか」
「そう、スカーレットのドレスも作っていてね」
「それとピンクですか」
「ピンクの帽子も持ってるわよ」
 そうだというのです。
「赤だからね」
「ピンクも赤の系統ですね」
「桃色もね」
「桃色もですか」
「グリンダは好きよ」
 オズマはその桃色の桃を食べています、そのうえでの言葉です。
「あの色もね」
「そうですか」
「桃色とピンクでまた違うわね」
「微妙に」
「そうよね、色は本当にね」
「様々ですね」
「赤といっても」
 ピンクもあります、そしてそのピンクと桃色はまた違うというのです。そうしたことをお話してです、恵梨香は牛乳を飲みました。
 その真っ白な牛乳を飲んでです、こう言いました。
「何か今日は朝から」
「色のお話をして」
「色々考えました」
「色鉛筆や絵の具のことに」
「はい、それとオズの国の色も」
 そのことについてもというのです。
「考えました」
「そうなったわね」
「そうです、色って面白いですね」
「ええ、私もそう思うわ」
 オズマはにこりと笑ってでした、恵梨香のその言葉に応えました。
「純粋に決まっている色は二つだけね」
「黒と白ですね」
「それだけね」
「そういえば五人はあれだよね」
 腹ペコタイガーもです、フルーツの盛り合わせと牛乳を臆病ライオンと一緒に楽しみながら会話に加わってきました。
「それぞれいつも同じ色の服を着てるね」
「私はピンクで」
「私は黒で」
 恵梨香とナターシャの女の子二人がまず応えてです。
 ジョージと神宝、カルロスの男の子三人もです、それぞれ腹ペコタイガーに応えてそうしてこう言いました。
「僕は赤」
「僕が青で」
「そして僕は黄色だね」
「うん、それぞれ好きな色の服を着てるけれど」
 それでもと言う腹ペコタイガーでした。
「それぞれの好きな色でも違うね」
「私はピンクが好きだけれど」
 恵梨香が腹ペコタイガーにお話します。
「ピンク系っていうので」
「桃色とかも着てるよね」
「桜色もね」
「その時で違ってきてるよね」
「そうよね」
「いつも同じなのは私だけね」
 ナターシャが微笑んで言います。
「私は黒だから」
「そうだね」
「けれどそれはメインの色で」
 このことは五人共です、ナターシャだけでなく。
「黒と合わせて他の色も身に着けてるわね」
「そうだよね」
「黒一色の服の時も多いけれど」
 ゴスロリの服等です、ナターシャはファッションとしてはゴスロリの服が好きでよく着ているののです。今は黒のドレスですが。
「黒以外の服も着るわ」
「そうだね、それで黒が好きな理由は」
「ロシアは寒いからよ」
「黒は熱を集めるから」
「それで着てるの」
 そうだというのです。
「それで寒さが全然違うから」
「暖かくなる為でもあるんだね」
「それでロシアにいた時から黒でね」
「今もなんだね」
「そう、日本にいる時もね」
 そうしているというのです。
「ずっとね」
「成程ね」
「着ているうちに好きになったの」
 その黒がというのです。
「私はね」
「そうした理由だね」
「ええ、そうなの」
「僕も黒は好きだけれど」
 腹ペコタイガーは自分の好みもお話しました。
「黄色と一緒じゃないとね」
「それで縦縞ね」
 恵梨香は腹ペコタイガーにすぐに言いました。
「その組み合わせなのね」
「そう、そうじゃないとね」
「虎さんだから」
「そうなんだ、僕はね」
「それわかるわ、どうしてもね」
 虎だからです。
「黒と黄色の縦縞になるわね」
「僕の好みではね」
「まさに虎ね」
「うん、何か日本でも大人気らしいけれど」
「人気はあるけれど最近今一つね」
 困ったお顔で、です。恵梨香は臆病ライオンも見て言いました。
「ライオンさんもね」
「僕も?」
「日本のライオンは白いけれど」
「白いライオンなんだ」
「最近今一つなのよ、昔は凄く強かったらしいけれど」
「僕は臆病だけれど」
「いえ、臆病ライオンさんはいざって時は本当は強いじゃない」
 けれど、というのです。
「日本の白いライオンさんもはっきりしないの」
「百獣の王なのに?」
「鷹さんによく負けるわ、虎さんは鯉さんにいつも散々やられるわ」
「どんな虎なのよ」
 ビリーナもお話を聞いて呆れ顔です。
「鯉に負ける虎なんて聞いたことないわ」
「日本だとそうなの」
「普通虎が鯉を食べるものでしょ」
「実際僕鯉好きだよ」
 腹ペコタイガーの大好物でもあります。
「おかしいね、日本の虎って」
「そんな虎には私が気合を入れてあげたいわね」
 こうも言うビリーナでした。
「是非ね」
「いいね、じゃあいっそのこと僕が鯉を食べようか」
 フルーツの盛り合わせをぺろりと食べておかわりのお皿のそれも食べながらです、腹ペコタイガーは言うのでした。
「美味しくね」
「そうするのね」
「うん、是非ね。ただ」
「ただ?」
「鯉もいいけれど今はね」
「あんたカレーに最近凝ってるからね」
「だからね」
 それでというのです。
「カレーの方がいいかな」
「そうなるわね」
「確かに鯉も食べたいけれど」
 それでもというのです。
「カレーの方がいいかな」
「カレーね」
「また食べたいよ、しかもね」
 腹ペコタイガーはさらに言いました。
「物凄く美味しい最高のカレーが食べたくなったね」
「最高の?」
「そう、最高のね」
 ビリーナに言うのでした。
「そう思ってるよ」
「というとどんなカレー?」
「凄く美味しいカレーだよ」
「そう言われても」
「わからない?」
「ええ、私はカレー食べないからね」
「ルーを付けた御飯は食べてるじゃない」
 腹ペコタイガーはこうビリーナに返しました。
「御飯の粒をね」
「あんたみたいに一杯食べていないわよ」
「そういう意味なんだ」
「そうよ、あんたはまたね」
 特にというのです。
「かなり食べているでしょ」
「まあね」
「私の食べ方だと美味しいことはわかっても」
「僕みたいにはだね」
「わからないわ」
「嘴と口の違いかな」
「そういうことね」
 ビリーナは冷静に答えました。
「私は噛みもしないし」
「嘴だからね」
「そういうことよ」
「そうなんだね、けれどね」
「美味しいカレーを食べたいのね」
「最高のね」
「宮殿のシェフさんの腕は最高よ」
 トロットが腹ペコタイガーに言いました。
「オズの国でもね」
「うん、そうだよね」
「じゃあ後は食材だけね」
「宮殿は食材もいいけれどね」
「けれどそれぞれが」
 トロットは腹ペコタイガーに応えながら彼の言いたいことを読みつつ言いました。
「オズの国でも最高のカレーね」
「お肉もお野菜もルーも御飯もね」
「そうしたカレーを食べたいのね」
「そうなんだ」
「そういうことね、何もかもがオズの国で一番のカレー」
「どうかな」
「面白そうね」
 トロットは少し考えてから腹ペコタイガーに答えました。
「そのカレーは」
「じゃあ食べよう」
「じゃあって。すぐには出来ないわよ」
「ああ、食材を集めないといけないから」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「それは無理よ」
「それじゃあまずは食材を集める?」
「そうしないといけないわね」
「じゃあ僕が集めて来るよ」
 腹ペコタイガーはすぐにです、トロットに答えました。
「これからね」
「貴方一人で行くつもり?」
「そうだけれど」
「貴方だけで冒険することはね」
 トロッロはこう返すのでした。
「駄目よ」
「冒険は皆でするものだね」
「何かあったら危ないし」
 誰も死ぬことのないオズの国でも危険は一杯あります。実際にトロットもドロシー達も何度も危ない目に遭っています。
「一人だとね」
「そうだね、一人だとね」
「そのピンチを逃げるにしても」
「一人の力が限られているから」
「逃れにくいことも多いわ」
「けれど皆がいたら避けられる」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「冒険は皆でよ」
「行くべきだね」
「幾ら貴方が虎さんで強くても」
「僕だけだと何かあったらいけないから」
「何人かで行きましょう」
「そうするんだね」
「そう、今は船長さんがいないけれど」
 それでもというのです。
「一緒に行くわ」
「今回の冒険はトロットとだね」
「どうかしら」
「うん、じゃあ一緒に行こう」
 笑顔で、です。腹ペコタイガーはトロットに応えました。
「それならね」
「それじゃあね」
「それなら私も」
 オズの国で一番冒険が好きなドロシーはです、すぐに名乗り出ました。
「行きたいわ」
「ドロシーもなのね」
「そう、駄目かしら」
「いえ、貴女も一緒なら」
 是非にと答えたトロットでした。
「心強いわ」
「それじゃあね」
「ええ、それとよかったら」
 ここで、でした。トロットは恵梨香達五人を見て微笑んで誘いをかけました。
「貴方達もどうかしら」
「その言葉待ってました」
 リーダーのジョージが最初に応えます。
「というか僕達から言おうかなって思ってました」
「実は冒険のお話が出てピンときました」
 神宝もとても明るいお顔です。
「これはって」
「是非お願いします」
 カルロスも参加します。
「僕達も連れて行って下さい」
「オズの国の冒険が出来るのなら」
 ナターシャもいつものクールさを保ちながら笑顔になっています、
「絶対に参加させて欲しいですから」
「今度は腹ペコタイガーさんとですね」
 最後に恵梨香が言いました。
「冒険ですね」
「そうなるね、これまでも一緒に冒険したことはあったし」
 腹ペコタイガーは恵梨香ににこにことして応えました。
「今回もね」
「ええ、宜しくお願いするわ」
「一緒に行こうね」
「僕も行くよ」
「私もよ」
 ドロシーとビリーナも名乗り出て来ました。
「冒険に行くのなら」
「お願いするわね」
「ううん、何か今回は私も」 
 オズマも少しうずうずとしている感じです、何しろこの人もお姫様として国家元首に相応しい態度を保っていますが根はドロシー達と同じ明るくて活発な女の子なので。
「冒険に行きたいわ」
「そうしたお気持ちなんですね」
「ええ、けれど」
「それじゃあ留守番が必要だね」
 モジャボロはにこりと笑ってオズマに言いました。
「今回僕は宮殿に残るよ」
「留守番をしてくれるの」
「そうさせてもらていいかな」
「それじゃあ貴方とボームさんで」
「うん、残るよ」
 そして留守番をするというのです。
「そうさせてもらうよ」
「それじゃあお願いするわね」
「では今回はです」
 ジュリアもオズマに言ってきました、にこりと笑って。
「私も」
「あら、貴女もなの」
「いつもはここにいますけれど」
 それでもというのです。
「何か今回はです」
「冒険に行きたいのね」
「駄目ですか?」
「いえ、いいわ」
 これがオズマの返事でした。
「それじゃあ貴女もね」
「宜しくお願いします」
「僕も行くよ」
 ハンクも参加を申し出てきました。
「ベッツイがいないけれどね」
「ええ、じゃあ今回は私と一緒ね」
 トロットは微笑んでハンクに応えました。
「宜しくね」
「こちらこそね」
 普段とは違う組み合わせでも仲良くお話する二人でした、こうしてでした。皆で冒険に出ることが決まりました。
 ですがここで、です。ジュリアが皆に言いました。
「ただ」
「ただ?」
「ええ、カレーの食材だけれど」
 恵梨香に応えて言うのでした。
「オズの国のあちこちにあるわよ」
「この国のですか」
「人参、玉葱、ジャガイモとかお野菜に」
 それにというのです。
「お肉もあるわね」
「そうですね、カレーって具も一杯ありますね」
「ルーは色々な種類のスパイスから作るし」
「御飯も必要ですね」
「宮殿にシェフさんがおられて最高のキッチンもあるけれど」
「食材は、ですね」
「オズの国の各地にですね」
「そう、だから皆で行くとなると」
 オズマを含めた皆を見回してです、ジュリアは言いました。
「相当な長旅になるから」
「問題になりますか」
「姫様が冒険に出られることはいいけれど」
「長い時間宮殿を開けることは駄目ね」
 そのオズマのお言葉です。
「やっぱりね」
「はい、そうです」
「じゃあどうしようかしら」
「パーティーで行きませんか?」
 ここで提案したのは恵梨香でした。
「ゲームみたいに」
「皆で行かないで、なので」
「はい、それぞれの食材を手に入れるパーティーをそれぞれ出して」
 そのうえでというのです。
「行きませんか?」
「それはいい考えね」
「これなら皆それぞれの食材を調達に冒険に出られて」
「一度に行くよりずっと早いわね」
「どうでしょうか」
「ええ、いいわ」
 それならとです、オズマは恵梨香の提案に微笑んで応えました。
「それならそれぞれ分けましょう」
「はい、それじゃあ」
「それでだけれど」
 オズマは今回の冒険はそれぞれのパーティー即ちグループに分かれて食材を調達していくことに決めてです。  
 そのうえで、です。カレーを食べたいと言う腹ペコタイガーに尋ねました。
「それで貴方は何を食べたいの?」
「カレーで、だよね」
「カレーっていっても色々あるから」
「カリーにしてもね」
「貴方が言っているのは日本から入ったカレーライスよね」
「うん、そうだよ」
「そのカレーライスもね」
 一口にこう言ってもというのです。
「かなりの種類があるわよ」
「ビーフカレーにポークカレーもあって」
「チキンカレー、シーフードカレー」
「あとカツカレーにハンバーグカレー、ソーセージカレーってね」
「本当に多いわよ」
「そうなんだよね」
「貴方はどのカレーが食べたいの?」
 こう腹ペコタイガーに尋ねるのでした。
「それで」
「そうだね、ビーフカレーかな」
「そのカレーなのね」
「カレーの中で一番オーソドックスだよね」
「そうね、カレーライスではね」 
 カリーは牛肉は使わなくてもです。
「そうなるわ」
「そうだよね、どのカレーを食べたいかっていったら」
「今はビーフカレーなのね」
「そうなるよ」
「わかったわ、じゃあ牛肉を調達しましょう」
 牛肉ならというのです。
「そうしましょう」
「うん、じゃあそういうことでね」
「お肉とお野菜、スパイスに御飯に」
 オズマはあらためて食材を分けていきます。
「それだけかしら」
「あっ、あと果物とか蜂蜜があれば」
 ここでジュリアがオズマに言いました。
「シェフさんはいつも入れていますよ」
「そういえばそうだったわね」
「そうした甘いものも含めてですから」
「大きく分けて五つね」
「そうなりますね」
「じゃあパーティーは五つね」
 オズマは五つの食材を集めるからです、パーティーも五つに分けました。
「それでいきましょう」
「それでは」
「私達をどう分けるかもね」
 このことにも言及したオズマでした。
「大事ね」
「それはどうしますか?」
「そうね、私達宮殿の女の子は四人いるわ」
 オズマはジュリア達を見てすぐに分けました。
「私とドロシー、トロット、ジュリアね」
「合わせてですね」
「そして恵梨香達五人と」
「僕達だね」
 腹ペコタイガーが言ってきます。
「僕とライオン君、ビリーナ、ハンク君にトト」
「トトは私と一緒よ」
 いつもとです、ドロシーが言ってきました。
「そのことはね」
「変わらないね」
「ええ、私トトと冒険の時はいつも一緒だから」
「じゃあ実質四匹だね」
「女の子が一人、動物が一匹足りないわね」
 オズマは考えるお顔で言いました。
「どうしようかしら」
「もうすぐしたらベッツイが戻って来るわよ」
 こう言ったのはドロシーでした。
「あの娘がね、それにエリカもいるわよ」
「猫のね」
「ガラスの猫は今は遊びに出てるけれど」
 この猫がいるというのです。
「あの娘にも誘いをかける?」
「そうね、じゃあベッツイとエリカも入れて」
「二人にお話してね」
「パーティーを組みましょう」
「そうーーしまーーしょう」
 これまで黙っていたチクタクが言ってきました。
「ベッツイさんとーーエリカもーー入れて」
「そうね、じゃあベッツイが戻ってからね」
 オズマは全美決めました、そうしたお話をしていますと、
 その日のうちにベッツイがキャプテン=ビルと一緒に帰ってきました。それで冒険のお話を聞いてでした。
 ベッツイはにこりと笑ってです、こう答えました。
「それじゃあね」
「貴女も参加するわね」
「勿論よ」
 トロットに満面の笑みで答えます。
「いざ冒険の旅に」
「ではわしは留守番をしておくよ」
 船長さんは笑ってこう言いました。
「皆楽しんで来るといい」
「船長さんは行かないの?」
「いや、わしはね」
 どうもとです、船長さんはトロットに応えました。
「いいよ」
「そうなの」
「モジャボロさんと宮殿で留守番しようか」
「そうするのね」
「ラム酒を飲みながらね」
「船長さん本当にラム酒お好きですね」
 恵梨香はその船長さんに言いました。
「毎日少しずつ」
「そう、飲むのがね」
「美味しいんですね」
「だから君達が冒険に行っている間はそうしているよ」
「そうですか」
「本を読むのもいいしね」
「では船長」
 モジャボロが微笑んで船長ささんに声をかけました。
「暫く仲良く」
「うん、男二人で仲良く遊ぼう」
「本を読んだりもして」
「男やもめ同士そういうのもいい」
 宮殿で静かに時間を過ごすこともというのです。
「だからね」
「それじゃあね」
 こうしたことをお話してです、そのうえで。
 船長さんも残ることにしました、最後にふらりとです。
 エリカが来てです、こう言って来ました。
「面白いお話ね、何ならね」
「貴女もなのね」
「参加してあげるうわ」
 トロットに胸を張って応えるのでした。
「感謝することね」
「全く。貴女はね」
「何なの?」
「何でそう偉そうなのよ」
「それもいつもっていうのね」
「そうよ、だから色々言われるのね」
「安心して、言われても気にしないから」
 相変わらず胸を張って言うエリカでした。
「それはガラスの猫も一緒でしょ」
「ええ、自分が一番偉いて思っているわね」
「そうよ、だからこれでいいのよ」
「猫だから」
「そうよ、猫だからいいのよ」
「やれやれね、けれどね」
「私も冒険に参加するわ」
 エリカはこのことは間違いないと約束しました。
「それじゃあね」
「ええ、一緒にね」
 こうしてでした、それぞれ五人と五人、そして五匹が揃ってでした。 
 それぞれのパーティー三人ずつに分かれて冒険となりました。おじさん達はこの時は留守番だと思っていました。



今回も冒険に出る事になった惠梨香たちと。
美姫 「今回の理由はカレーの材料集めね」
みたいだな。しかも、今回は五つのグループに分かれてという、
美姫 「初めてのパターンね」
ああ。一体、どんな冒険が始まるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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