『オズのポリクローム』




                 第五幕  降ってわいた騒動

 ポリクロームは皆の服のチェックが終わったところで、です。皆にあらためて言いました。
「じゃあ今からね」
「うん、その扉を開けてね」
「そうしてだよね」
 臆病ライオンと腹ペコタイガーがポリクロームに応えます。
「ポリクロームの家族にね」
「会わせてくれるんだね」
「皆待ってるから」
 ポリクロームは皆に笑顔で言います。
「だからね」
「これからだね」
「皆でお邪魔するんだね」
「ええ、扉は私が開けるから」
「それじゃあ今から」
「入らせてもらうね」
 ポリクロームが白い扉を開けるとです、そのお部屋の中はです。
 白くて奇麗なお部屋でした、お家の他の場所と同じで。
 そこにポリクロームと同じく金色の髪に青い瞳、それに整ったお顔立ちの虹色の丈の長い服を着た人達がいました、その人達からです。
 皆にです、微笑んで挨拶をしてきました。
「ようこそ、私達の家に」
「お邪魔してるわ」
 ドロシーが皆を代表して挨拶をしました、皆もここで一礼します。魔法使いは被っている帽子を脱いだうえで。
 そしてその挨拶からです、ドロシーはポリクロームの家族に言いました。
「急に来て」
「いやいや、私達は待っていたんだよ」
 ポリクロームの家族の男の人の中で一番年長の人が挨拶をしてきました。
「貴方達が来るのをね」
「あら、そうなの」
「そうだよ、私達のところまで来てくれる人は少ないからね」
「お客様が来てくれると嬉しいのよ」
 その人の横にいる女の人の中で一番年長と思われる人も言ってきました。
「だから待っていたのよ」
「そうなのね」
「そして私達はね」
 男の人がドロシーにこうも言いました。
「ポリクロームの父だよ」
「母よ」
「この屋敷の主、そして虹の精の長だよ」
「オズの国のなのね」
「そうだよ」
 こうドロシーにお話するのでした。
「私がね」
「そしてポリクロームはね」
 ポリクロームのお母さんもお話します。
「私達の娘で虹の王女の一人なのよ」
「へえ、ポリクロームさんも王女様なんですね」
 ジョージはそのお話を聞いて言うのでした。
「そうなんですね」
「あれっ、知らなかったのかな」
「いえ、言われてみればそうですね」
 魔法使いにはこう答えました。
「確かに」
「そうだよ、だからドロシーと同じだよ」
「王女様だから」
「そうなんだ」
「オズの国は王女様が多いですね」
「プリンセスは多くても困らないよ」
 魔法使いは微笑んでこうしたことも言いました。
「お姫様はね」
「確かに。別に」
「そうだよね」
「だからオズの国には王女様が多いんですね」
 神宝は魔法使いのその言葉を聞いて目を瞬かせてです、魔法使いに尋ねました。
「多くても別に何もないから」
「うん、むしろお姫様が大勢いたら華やかだね」
「確かに。お姫様が多いと何か」
「だからオズの国はお姫様が多いんだ」
 魔法使いは神宝にもお話しました。
「あちこちにいるんだよ」
「ドロシーさんもお姫様で」
 カルロスはポリクロームも見てお話しました。
「ポリクロームさんもそうで」
「ベッツイさんやトロットさんもよね」
「オズマ姫だってそうだしね」
 恵理香とナターシャも二人でお話します。
「アン王女もおられて」
「他にも」
「よかったら君達もどうかな」
 魔法使いはにこりと笑って恵理香とナターシャに誘いをかけました。
「お姫様になってみるかい?」
「えっ、私達もですか」
「お姫様にですか」
「うん、君達は今はオズの国の名誉市民だけれど」
 それをというのです。
「お姫様になってみるかな」
「ううん、それは」
「ちょっと」
 二人は魔法使いからのお誘いに遠慮して答えました。
「私達そんな」
「お姫様になるなんて」
「ちょっと、ね」
「そうよね」 
 二人でバツの悪いお顔でお互いにお話するのでした。
「そんな立場になるなんて」
「恐れ多いっていうか」
「あまりね」
「いいわ」
 こうしたことをお話してでした、二人で魔法使いに答えました。
「いいです、それは」
「私達がお姫様になることは」
「遠慮させてもらいます」
「今のままでいいです」
「そう、君達がそう言うのならいいいよ」
 二人にそのつもりがないならとです、魔法使いも答えました。
「そういうことでね」
「なりたくなったら何時でも言ってね」
 ドロシーも二人ににこりと笑って言いました。
「お姫様になれるから、貴女達も」
「ううん、名誉市民してもらっただけじゃなくて」
「私達は、ですか」
「お姫様にもなれるんですね」
「このオズの国の」
「そうだよ」
「あと君達もだよ」
 ジョージ達にはトトが言いました。
「君達さえよかったらね」
「ええと、僕達は男の子だから」
「それじゃあね」
「王子様になるのかな」
「うん、そうだよ」
 まさにその通りだというのです。
「君達は王子様になるよ」
「ううん、僕達が王子様って」
「ちょっとね」
「考えられないよね」
 三人はトトの言葉に戸惑って少し困った様に笑ってお互いにお話しました。
「そんなね」
「柄じゃないっていうか」
「そんな風じゃないよ」
「まあそのこともね」 
「僕達次第なんだね」
「恵理香達と一緒で」
「僕達がなりたいならなんだ」
「そうだよ、君達もそうだよ」
 こうお話してでした、そのうえで。
 皆はあらためてポリクロームのご家族とお話をしました、その中で。
 ポリクロームの一番上のお兄さん、つまりご兄弟の中で一番年長のその人が皆にこんなことを言ってきました。
「ところで君達はお昼は君達の食事を食べるよね」
「はい、そうです」
 ジョージがお兄さんに答えました。
「僕達は僕達の食事を楽しみます」
「そうだよね」
「皆さんは朝露だけですよね」
「それを舐めればいいだけだから」
「お料理は、ですか」
「うん、悪いけれどね」
 ジョージ達にとってはというのです。
「お料理はないから」
「だからですね」
「君達は自分の食事は用意しているかな」
「ええ、あるわ」
 ドロシーがお兄さんににこりと笑って答えました。
「だから心配しないで」
「そう、ならいいよ」
「魔法のテーブル掛けがあるから」
「魔法の?」
「敷いて食べたいものをどれだけでも出せるの」
 このテーブル掛けのことをです、ドロシーはお兄さんにお話しました。
「だから大丈夫よ」
「そう、それを聞いて安心したよ」
「だから心配しないでね」
「それじゃあね、じゃあお昼はね」
「貴方達は朝露を食べて」
「君達は君達の食べたいものを食べればいいよ」
「そうさせてもらうわね」
 ドロシーはにこりと笑ってです、お兄さんに答えました。
「お昼は」
「そういうことでね、さてそれではね」
「色々とお話して楽しみましょう」
 ポリクロームはくるくると動きながら皆に言いました。
「そして遊びましょう」
「遊び?」
「歌って踊って」
 ジョージにもくるくると踊りつつでした、見ればそうした動きをしているのはポリクロームだけで家族の他の人はそうではありません。
「楽しみましょう」
「実はポリーは踊りが得意でね」 
 お父さんがまたお話します。
「そして私達は皆歌えて楽器も使えるんだ」
「じゃあ音楽も」
「いつも楽しんでいるからどうかな」
 こう皆に言うのでした。
「これからね」
「じゃあお願い出来ますか?」
 ジョージはお父さんにこう答えました。
「今から」
「うん、それじゃあね」
「じゃあ皆で楽しみましょう」
 ドロシーも言いました、こうしてでした。
 オズの国の皆はです、ポリクロームと彼女の家族の人達とです。
 楽しく歌に踊り、そして音楽を楽しみました。それからです。
 お昼になってでした、それぞれの食事を楽しみました。ポリクロームと彼女のご家族は朝露を舐めてです。
 ドロシー達はシェラスコを食べました、今日のシェラスコは羊のシェラスコです。
 その羊のシェラスコを食べてです、腹ペコタイガーはこんなことを言いました。
「何かね」
「何かって?」
「うん、シェラスコって牛肉ってイメージがあるよね」
 こう親友の臆病ライオンにお話するのでした。
「実際牛肉を使うことが多いじゃない」
「確かにそうだね」
「けれどこうした羊肉のシェラスコもね」
「マトンだね、これは」
「いいよね」
 つまり美味しいというのです。
「中々ね」
「そうだよね、羊も美味しいからね」
「そういえばね」 
 トトもそのシェラスコを食べています、お野菜はサラダがあって林檎や蒲萄のジュース、それにパンもあります。
「皆はマトンでも食べるけれど」
「どうかしたの?」
「匂いが気になるっていう人もいるって聞いたよ」
「あっ、それ恵理香だよ」 
 ジョージはトトに恵理香を見て答えました。
「恵理香は最初そう言ってたね」
「ええ、皆とはじめて会った頃はね」
 実際にとです、恵理香はジョージに答えました。
「私マトンの匂いが苦手だったの」
「美味しそうな匂いなのに」
「味は好きだったけれどね」
 それでもだったというのです。
「マトンの匂いは苦手だったわ」
「そうだったんだ」
「あまりね」
 どうしてもというのです。
「馴染みのない匂いで」
「そういえば日本人羊あまり食べないね」
「それで匂いもね」
「慣れていなかったんだね」
「そうだったの」 
 かつての恵理香は、というのです。
「あまりね」
「成程ね」
「今は大丈夫だけれど」
「最初は駄目だったんだね」
「ラムは大丈夫よ」
 子羊のお肉はというのです。
「好きよ」
「そうなのね」
 こうしたことをお話してでした、そしてです。
 恵理香はそのマトンのシェラスコを自分でも食べて言うのでした。
「もう一皿ね」
「今では平気なんだね」
「何かこの匂いが」
 それこそとです、恵理香はトトに答えました。
「かえってよくなったわ」
「マトンの美味しさがわかったからかな」
「そうだと思うわ、それが美味しいってわかったら」
「その匂いもね」
「美味しい匂いって思うのね」
「そうだと思うよ」
 こうしたことをお話してでした、そしてです。
 恵理香も皆もお昼御飯のシェラスコを楽しみました、その後で。
 皆午後は何をしようかとお話していた時にです、急にです。
 外で雷の音が聞こえてきました、それも一つや二つではなくです。
 幾つも、それもひっきりなしに聞こえてきました。その音を聞いてです。
 ジョージは三回位瞬きをしてからです、こんなことを言いました。
「ううん、大丈夫かな」
「このお家は雷を出す雲より上にあるから」
 だからとです、ポリクロームがジョージに答えました。
「心配いらないわ」
「そうなんですね」
「ええ、その証拠に雷の音は下から聞こえるわね」
「はい、全部」
「雷は上には来ないから」
 全部下に落ちるものです、だから雷が幾ら落ちる状況でもその雲の上は至って静かなのです。
「安心していいわ」
「それじゃあ」
「飛行船もだよ」
 魔法使いもお話してきました。
「雷は全て防ぐからね」
「魔法で、ですか」
「私が飛行船にそうした魔法をかけておいたんだ」
「耐電コーティングですね」
「うん、他には熱や冷気も防ぐから」
 雷以外のものもというのです。
「どんな状況でもお空を飛べるんだ」
「大雨や吹雪の中でもですか」
「勿論だよ」 
 そうした悪天候の中でもだというのです。
「だから安心してね」
「わかりました、じゃあそうした時も」
「心配しなくていいからね」
「はい、ただ」
 ジョージは雷のことも飛行船のことも安心しました、ですが。
 あまりにも雷が続くからです、怪訝なお顔になって言うのでした。
「何か止まらないね」
「そうだね、これはね」
 神宝もジョージに応えて言います。
「幾ら何でもね」
「もうどれ位鳴ってるかな」
「百回位?」
 神宝は首を少し傾げさせて言いました。
「それ位かな」
「幾ら何でも多いよね」
「相当にね、これはね」
「ちょっと多過ぎるから」
「何かあったのかな」
「雷の精霊さんとかいます?」
 カルロスはポリクローム達に尋ねました。
「お空には」
「ええ、お空には私達以外にもね」
 ポリクロームがカルロスのその問いに答えました。
「沢山の精霊がいるのよ」
「そうなんですか」
「その雷の精霊さんにね」
 それにというのです。
「雲や風、雪に雨のね」
「色々な精霊さんがいるんですね」
「それでなのよ」
「雷の精霊さんもですか」
「いるのよ、ひょっとして」
「雷の精霊さん達がですか」
「何かあってね」
 それでというのです。
「それで騒ぎになっているのかしら」
「ううん、大丈夫かな」
 ジョージはポリクロームのお話を聞いてです、そのうえで雷の精霊さん達のことが気になってそれで言うのでした。
「雷の精霊さん達」
「そうね、何かね」
「この鳴り方は尋常じゃないわね」
 恵理香とナターシャもジョージの言葉に続きます。
「変なことになってるのかしら」
「揉めごとが起こっているとか」
「喧嘩とかはオズの国ではないけれど」
 ドロシーも怪訝なお顔で言います。
「けれどこの鳴り方は確かに普通じゃないわね」
「やっぱりそうですよね」
「ええ、だからね」
 それでとです、ドロシーは皆に言いました。
「雷の精霊さんのところに行ってみようかしら」
「そうしますか?」
「騒ぎになっているのならね」 
 それならというのです。
「放っておけないから」
「そうですね、オズの国の王女として」
「ええ、王女は困っている人を見たら放っておいてはいけないの」
 それは絶対にというのです。
「だからね」
「ここは、ですか」
「雷の精霊さん達のところに行こうかしら」 
 こう言うのでした。
「そうしようかしら」
「それじゃあ」
 こうしたことをお話してでした、そのうえで。
 皆は雷の精霊さんの状況を見に行くことにしました、そして大変な状況ならば助けさせてもらおうとも決めてです。
 この時にです、ポリクロームが皆に尋ねました。
「じゃあお家からは」
「ええ、悪いけれどね」
 ドロシーがポリクロームのその質問に答えました。
「失礼させてもらうわ」
「そうなのね、それじゃあね」
「それじゃあ?」
「私も行っていいかしら」
 こう頼むのでした。
「雷の精霊さん達のところにね」
「ポリクロームも?」
「行ってみたくなったから」
 だからだというのです。
「いいかしら」
「ええ、私達はね」
 ドロシーはそのポリクロームにすぐに答えました。
「いいわよ」
「そう、それじゃあね」
「ええ、この雷の状況はね」
 ドロシーから見てもというのです。
「普通じゃないから」
「本当にこれはね」
 ポリクロームのお父さんも言います。
「少しおかしいね」
「そうですね、ですから」
「ドロシー王女が調べに行くんだね」
「お話を聞いてきます」
 その雷の精霊さん達にというのです。
「そうしてきます」
「ではね」
「はい、ポリクロームも一緒に」
「ポリクローム、くれぐれも皆に迷惑をかけるんじゃないよ」
 父親としてです、ポリクロームにこう注意するのでした。
「そのことはいいね」
「ええ、わかってるわ」
 ポリクロームはお父さんの忠告に素直に頷きました。
「それじゃあね」
「ではドロシー王女、そして皆さんも」
 お父さんは笑顔でドロシー達に言いました。
「また」
「はい、お邪魔させて頂きます」
 ドロシーも挨拶をしてでした、一行はポリクロームも加えたうえででした。ポリクロームのお家を後にしてです。
 また飛行船に乗り込むことになりました、ポリクロームは飛行船に乗る時に見送りに来たご家族にひらひらと手を振って言いました。
「少し行って来るわ」
「また戻って来るんだぞ」
「今回は危険なことをしたら駄目よ」
 兄弟姉妹がこうポリクロームに言います。
「帰ったらとっておきの朝露を用意しておくかわ」
「どんなことがあったのか教えてね、今回の冒険のことを」
「それじゃあね」
「行ってらっしゃい」
「皆行って来るわね」
 ポリクロームは家族に笑顔で手を振ってでした、そしてです。
 飛行船に乗り込みました、魔法使いは皆が乗り込むと飛行船の扉を閉めて操縦席に来て高らかに言いました。
「出発」
「行って来るわ」
 ポリクロームは雲の上にいる家族と手を振り合って一時の別れの挨拶をしました、このことはドロシー達もです。 
 ポリクロームのお家がある雲は瞬く間に小さくなってです。
 すぐに見えなくなってしまいました、その雲が見えていた場所を見ながらです。
 ジョージはしみじみとしてです、こう言いました。
「飛行船は遅いっていいますけれど」
「うん、それでもね」
「襲いっていってもね」
 神宝とカルロスがジョージに答えます。
「船とかよりはね」
「ずっと速いよね」
「もうあっという間にね」
「雲が見えなくなったよ」
「そうだよね、飛行機とかより襲いっていうだけで」
 他の乗りものや移動手段と比べると、というのです。
「速いよね」
「そうだよね」
「飛行船は速いよ」
「だからポリクロームさんのお家に着いたのも」
 それもだとです、ジョージは言うのでした。
「すぐだったんだよ」
「確かに最初思っていたよりも」
「早く着いたわね」
 恵理香とナターシャも言います。
「それで今も」
「もう雲が見えなくなったから」
「飛行船は速いわ」
「夜も昼も動いているし」
「そうだよね、飛行船は速いと思うよ」
 また言ったジョージでした。
「この飛行船自体もね」
「そんなに速いかな」 
 魔法使いは操縦を自動にしたうえでジョージ達のところに来てお話に加わってきました。ドロシーやポリクローム達も来ました。
「この飛行船は」
「はい、そう思います」
「ううん、オズの国は他にもね」
「速い移動手段がありますね」
「空を飛ぶのならガンプもね」
 かつてオズマが男の子だった時に都から脱出するのに使った鹿の剥製を中心とした空を飛ぶ大きな箱です、
「凄く速かったよ」
「ガンプね、私はあの時オズの国にいなかったけれど」
 ドロシーはその時のことはお話に聞いているだけです。
「凄く速くてオズのお空を飛んだのよね」
「そうらしいね」
「ガンプも速くて」
「木挽きの馬も速いよね」
「あの馬なんてもうオズの国だと何処でも一瞬よ」
 一瞬で目的地まで行けるというのです。
「それこそね」
「そうだよね、他にも速く動ける移動手段はあるし」
「飛行船だけじゃなくても」
「速いものは多いけれど」
「いえ、飛行船もです」
 実際にとです、ジョージは魔法使いとドロシーにも言います。
「速いですよ」
「それはあれかな」
「お昼も夜も進めるからじゃないかな」
 臆病ライオンと腹ペコタイガーがここで言いました。
「だからじゃないの?」
「ジョージ達が速く感じる理由は」
「僕達もこの飛行船はそんなに速く感じないけれど」
「いつも動いてるからね、この飛行船」
「それを考えたらね」
「速いかもね」
「いつも動けると」
 ポリクロームも言うのでした。
「その分だけ前に進めるからね」
「そのことはやっぱり大きいね」
 トトは今もドロシーの足元にいます。
「かかしさんや木樵さんもそうだしね」
「かかしさんや木樵さんだと」
 ここでまた言ったポリクロームでした。
「それこそ休む必要がないから」
「前に進もうと思えばね」
「かなりの距離を進めるわ」
「いつも動ける」
 トトははっきりと言いました。
「このことだけでかなり大きいよ」
「それで速いと思ったのかな、いや」 
 ジョージはポリクローむのお家があった方を今も見つつ言ったのでした。
「ポリクロームさんのお家があっという間に見えなくなったから」
「速いっていうのね」
「やっぱりそう思います」
 こうポリクロームにも答えるのでした、
「馬車とか船と比べると」
「つまり飛行機やヘリコプターと比べると遅いんだね」
 魔法使いはジョージ達のお話を受けてこう結論を出しました。
「乗りもの全体としては速いんだよ」
「そういうことですね」
「そうだね、じゃあまたお空の旅を楽しんで」
 魔法使いはここであらためて皆に言いました。
「雷の精霊さん達のところに行こう」
「わかりました」
「まだ聞こえるしね」
 雷鳴がというのです。
「それも随分と」
「本当に何があったのかしら」
 ポリクロームも気になっています。
「一体」
「確かに気になるわね」
 ドロシーもポリクロームのその言葉に応えました。
「喧嘩してないといいけれど」
「喧嘩していたら」
 ポリクロームも少し心配になってきました。
「仲直りしてもらわないと」
「そうそう、喧嘩なんてね」
「しない方がいいよ」
 臆病ライオンと腹ペコタイガーも言います。
「お互いに傷つくだけで」
「いいことなんて一つもないよ」
「お互いに抑えることは抑えて」
「それで仲良くしないとね」
「時々言い合いになってぶつかっても」
「深刻な喧嘩はよくないよ」
 激しいそれはというのです。
「若し雷の精霊さん達が喧嘩をしているのなら」
「相当激しい喧嘩じゃないかな」
 その雷の数と音が普通でないからです。
「だからね」
「ここは何とかしないと」
「大変なことになるよ」
「喧嘩ならね」
「そうね、じゃあすぐに行きましょう」 
 ポリクロームは言います、言葉を出すその間もひらひらと動いています。
 そうして動きつつです、こんなことも言いました。
「雷の精霊さん達のお家がある雲は私が知ってるから」
「教えてくれるかな、その雲の場所を」
「ええ、わかったわ」
 魔法使いに頷いてです、ポリクロームはその場所をお話しました。魔法使いはすぐに操縦席に戻ってです。
 その場所まで行く様にです、進路を決めてでした。皆のところに戻って言いました。
「これでいいよ」
「雷の精霊さんのお家まで」
「うん、自動操縦でね」
「じゃあ後は」
「そう、気楽に進めるから」
「安心ね」
「そうだよ」 
 このことはもう心配いらないというのです、このことを確かにしてです。
 そしてでした、皆はあらためてお話にしました、すると。
 もう夜でした、その時間になったからです。ドロシーはテーブル掛けを敷いてそこにお昼御飯を出しました。
 今日のお昼はお寿司です、そのお寿司を見てです。
 ポリクロームは自分が食べる朝露が入ったコップを手に取ってです、そのうえでこうしたことを言ったのでした。
「お寿司ね」
「ポリクロームさんはお寿司を見たことは」
「あることはあったわ」
 食べなくてもです。
「王宮とかでね」
「そうですよね」
「ええ、こうして見ていると」
 そのお寿司がというのです。
「本当に奇麗ね」
「ええ、何か宝石みたいですね」
「白い御飯の上に鮪や鮭が乗っていて」
 他にはハマチや貝柱、ヒラメに鯛。蛸やイカゲソ、卵と沢山の種類があります。勿論巻き寿司とかもあります。
「とても奇麗よ」
「ですね、雲丹やイクラ、納豆まであって」
「私は食べないけれど」
 それでもというのです。
「見ているだけで楽しめるわ」
「そうですね、そして」
「貴方達が食べると」
「物凄く美味しいんです」
「うん、お寿司はね」
「最高に美味しいものの一つだよ」
 臆病ライオンと腹ペコタイガーがまたお話します。
「見ても奇麗でね」
「食べても凄く美味しい」
「本当にね」
「こんないい食べものも滅多にないね」
「そういえばお寿司は」
 ドロシーはここで恵理香を見ました、日本人の彼女を。
「日本のお料理だけれど高いわよね」
「はい、回転寿司とか食べ放題もありますけれど」
 それでもだというのです。
「お寿司屋さんですと」
「高いのね」
「かなり」
「そうよね、オズの国にはお金はないけれど」
 ドロシーは外の世界から来たのでお金のことを知っていて言います、おじさんとおばさんがお金のことで苦労していたのも見ています。
「あちらの国ではね」
「高いお寿司はかなり高いです」
「そうよね、けれど」
「オズの国ではですね」
「普通に食べられるから」
 今の様にというのです。
「楽しんでね」
「わかりました」
「それじゃあ」 
 こうしたことをお話してです、そしてでした。
 皆でいただきますをしてからです、そのお寿司を食べるのでした。神宝はお醤油を付けてからお寿司を食べて言うのでした。
「山葵も入っていてね」
「これがまたいいんだよね」 
 魔法使いも食べながら応えます。
「山葵のつんと来て一瞬で消える感覚がね」
「そうですよね」
「最近まで駄目でした」
「この山葵の辛さがだね」
「とても」
「けれど今はだね」
「はい、好きになりました」
 お寿司の中に入っているそれをというのです、見れば皆その山葵が入ったお寿司をとても美味しそうに食べています。
「とても」
「最初は苦手でも」
 カルロスは納豆巻きを食べています。
「平気になったっていうか」
「美味しいね」
「うん、今はそう感じるよ」
 カルロスはジョージにも答えました。
「この納豆にしても」
「納豆のお話は聞いていたわ」
 ナターシャもその納豆巻きを食べています。
「大豆を発酵させて作る」
「ヨーグルトと同じだね、そこは」
 魔法使いも言います、とはいっても魔法使いが今食べているお寿司は河童巻きです、それを食べながら言うのです。
「発酵させているのは」
「そうですね」
「けれど大豆を発酵させるとね」
「こうしたものになるんですね」
「そうなんだよ」
「ロシアでも有名でした」
 納豆のことはというのです。
「かなり、それで」
「日本に来た時にだね」
「実際に食べてみて」
 そしてというのです。
「案外あっさりしていて食べやすい味でした」
「そうなの、実は納豆はね」
 また日本人の恵理香が言います。
「あっさりとした味なの。匂いはきついけれど」
「糸を引いていてね」
「そう、けれどね」
「味はよね」
「こうした感じなの」
 恵理香も納豆巻きを食べつつ言います。
「あっさりしていて食べやすいの」
「そうね、確かに」
「それでも納豆をお寿司に使うのはね」 
 ジョージも言います。
「凄い発想だよ、けれど」
「食べてみたら」
「美味しいね、あっさりとしていて」
 見ればジョージも納豆巻きを食べています。
「かなり食べられるよ」
「本当に幾らでも食べられるよ」
 腹ペコタイガーも納豆巻きを食べています、その大きなお口で。
「お寿司自体がね」
「実際に食べてるね」
 そうだとです、臆病ライオンも食べながら応えます。
「君は今日も」
「うん、何しろお腹も空いてるしね」
 腹ペコタイガーの場合このことはいつものことです。
「だから余計にね」
「食べるんだね」
「そうだよ、それにしても本当にこのお寿司は美味しいよ」 
 納豆巻き以外もというのです。
「オズの国のお寿司はね」
「私も見ていて楽しいわ」
 食べなくともです、ポリクロームも楽しんでいます。
「こうしているだけで。それに」
「それに?」
「それにっていいますと」
「お外だけれど」
 今飛行船はそのモニターを三百六十度にさせています、周りの夜の空の世界が幾らでも見られる様になっています。
「雲の上から見るのとはまた違うわ」
「はい、こうして三百六十度見渡す限りは」
「違うわ」
 ポリクロームはジョージにも言いました。
「凄くいいわ」
「自分がお空を飛んでいる感じで」
「虹の橋を渡るのともね」
「また違いますね」
「ええ、全く違うわ」
「じゃあ本当にですね」
「お空を飛んでいる感じがするわ」 
 自分自身がというのです。
「そんな風よ」
「そうですよね、僕も」
「僕もです」
「僕もやっぱり」
「私も」
「私にしましても」
 ジョージだけでなく四人も言うのでした。
「自分で飛んでいる感じがして」
「しかも後ろまで見られて」
「普通は見られないところまで見られて」
「普通に飛んでいるよりも」
「ずっといいです」
「うん、私もそう思うよ」
 魔法使いもでした、このことは。
「こうして三百六十度お空の中を見られるとね」
「ただお空の旅をするよりも」
「ずっといいですよね」
「下の雲も地上も見られて」
「星空も見られて」
「最高ですね」
「最高の旅です」
 五人はお寿司と夜の上も下も見られる状況を見てでした、幸せな気持ちになっていました。そしてなのでした。
 その中で、です。ポリクロームは皆に言いました。
「下を見て」
「下?」
「下をですか」
「ええ、私達の下をね」
 丁渡足の下をというのです。
「見ましょう」
「あっ、下は丁渡」
「オズの国ですね」
「田畑もあって」
「家もありますね」
「森も道もあって」
「全部見えますね」
 五人もその夜の中にあるオズの国を見ました、暗いので色でどの国かはわかりませんが。
 魔法使いはポケットから方位磁針を出してでした、方角を確かめてです。
 それからです、地図も出して下の山を見て言いました。
「ギリキンだね」
「今僕達がいるのはですね」
「ギリキンの上ですね」
「僕達はそこにいるんですね」
「そうなんですね」
「そうだよ、そこにいるよ」
 丁渡そこだというのです。
「ギリキンの上にね」
「お昼は紫でわかりますけれど」
「夜はわかないですね」
「暗いせいで色がわからなくて」
「少し見ただけだと」
「わからないですね」
「同じ場所でもね」
 それでもとです、魔法使いはハマチのお寿司を食べつつ言いました。
「昼と夜では違うよ」
「時間が違うとですね」
「同じ場所でも」
「全く違う」
「そうなるんですね」
「そうだよ、昼と夜は同じ世界でもね」
 そして同じ場所でもというのです。
「全く違う世界なんだ」
「時間が違うと、ですね」
「同じものでも違ってくる」
「そういうことなんですね」
「そうだよ、だから下のギリキンの国もね」
 その国もというのです。
「今は紫が見えなくてね」
「それで、ですね」
「そうだよ、だからね」
「ああしてですね」
「お昼と受ける印象が違うんですね」
「それも全く」
「そうなんですね」
 五人も頷きます、そして。
 トトもです、こう言うのでした。
「あの中にいるのと上から見るのとね」
「また違うわね」
 ドロシーがトトに応えます。
「確かに」
「そうだよね」
「お昼と夜でも違っていて」
「上から見るのとね」
「あの中にいるのとでね」
「また違うね」
「同じ場所を見ていても」
「見る時間、見る場所によって」
 ポリクロームも言います。
「同じものを見ていても」
「違う印象を受ける」
「全く別のものに見えるのね」
「いや、そのこともね」
「わかるわね」
 トトもドロシーもしみじみとして言うのでした。
「こうして時には別の方から見たら」
「そうしたらね」
「普段はお昼にその中で見るけれど」
「夜に上から見たらね」
「全く別のものにも見える」
「そうなんだね」
 ドロシーとトトは納得しました、そして。
 ジョージはこんなこともです、皆に言いました。
「学校もそうだね」
「あっ、お昼と夜で」
「全く違うね」
「そういえばそうね」
「夜の学校は全然違うわ」
「普段は何でもない楽しい場所なのに」
 ジョージはお昼の学校からお話しました。
「夜は凄く怖いよね」
「お化けが出て来てもね」
「全然おかしくなくて」
「ちょっとした物音だけで怖い」
「そうした場所になるわね」
「そうなんだよね、同じ場所なのに」
 お昼と夜では、というのです。
「それで校舎の外から見たらただ校舎の中にある一室なんだよね」
「うん、中に入れば馴染みの場所なのに」
「外から見たらね」
「本当に校舎の中の一つで」
「何でもない場所なのよね」
「教室もそうで」
 そしてというのです。
「他の場所もだね、いや本当に」
「私のお家も」
 ポリクロームも言うのでした。
「中にいるのと外から見るのとお昼と夜でそれぞれ違うわね」
「どうしてそんなに違うのかっていう位ね」
「そういえばエメラルドの都もね」
「そうだよね」
 臆病ライオンと腹ペコタイガーもお話します。
「お昼と夜でね」
「全然違うし」
「外から見ても奇麗だけれど」
「中から見るのとまた違う奇麗さで」
「あの都もそうで」
「同じ場所でも違うんだね」
 見るポイントと、です。そして見る時間によってです。皆このことがわかりました。そして魔法使いは皆に言いました。
「さて、ではね」
「はい、もう夜も遅いし」
「今日はもう休んで」
「それで、ですよね」
「もう寝るんですね」
「そうしよう、明日も早く起きて」 
 日の出の時にです。
「楽しい旅を続けよう」
「わかりました」
 皆は魔法使いに笑顔で頷いてでした、そして。
 それぞれのベッドに入ってぐっすりと寝ました。皆が朝に見た日の出はこの日もとても奇麗なものでした。



のんびりと過ごすのかと思いきや。
美姫 「鳴り続く雷の音の原因を探りに」
ポリクロームも加えて、再び飛行船で出掛けることになったな。
美姫 「今度は雷の精霊ね」
一体、何があるのかな。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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