『オズのカエルマン』




                       第十一幕  川を戻して

 皆は玄武が湖の中から戻って来るのを待っていました。カエルマンはその中で五人の子供達に言いました。
「すぐに戻って来てくれるよ」
「そうですね、ただ」
 神宝はカエルマンに考えるお顔で答えました。
「この湖って意外と」
「深いっていうのかな」
「はい、玄武さんも大きいですけれど」
「そういえばそうだね」 
 ジョージも言うのでした。
「この湖って大きいしね」
「そうだよね、玄武さんも大きいけれど」
「その玄武さんがいても」
 それでもです、この湖は。
「青龍さんもいられてそれでも物凄く余裕があるから」
「確かに広いよね」
「うん、流石に五大湖程じゃないけれど」
「ああ、アメリカの」
「五大湖は広いよ」
 ジョージはこうしみじみとして言いました、自分のお国の湖について。
「カナダの方にもあるしね」
「大きな湖が五つ連なっていてね」
「そこからミシシッピー河も流れているんだ」
「あの河も大きいね」
「神宝のお国の黄河や長江にも負けないよ」
 ジョージは自信ありげに笑ってこうも言いました。
「あの河はね」
「確かにね。相当な大きさだからね」
「うん、五大湖もミシシッピー河もね」
「まあそうね」
「そのことはね」
 二人にです、ナターシャとカルロスは余裕のある笑顔で応えました。そのうえでこうしたことを言ったのでした。
「五大湖もね」
「ミシシッピー河にしても」
「黄河や長江も」
「大きいことは大きいね」
「けれどね」
「それでもだよね」
 こう言うのでした、二人一緒に。
「カスピ海やバイカル湖よりはね」
「アマゾン程じゃないね」
「カスピ海は世界一の大きさよ」
「アマゾン河は凄いよ」
「まあね」
「流石にね」
 神宝とジョージは二人の反撃に敵わないといった様子で応えました。
「負けるよ、流石に」
「君達の国にはね」
「湖も河も」
「大きさではね」
「皆広い国だから」
 最後の一人の恵梨香は困ったお顔です、一人だけ。
「日本は敵わないわ」
「日本は確か」
「はい、皆のお国は何処も広いんです」
 四人ともとです、恵梨香はケーキに答えました。
「けれど私の国は」
「狭いのよね」
「そうなんです」
 困ったお顔のまま言うのでした。
「それこそどの河も日本よりも大きくて」
「日本はそんなに狭いの?」
「とても。皆のお国よりは」
 到底というのです。
「人口も違うんです」
「そこまで違うの」
「実は日本も広いなんだよ」 
 恵梨香にです、魔法使いが言ってきました。
「世界的にはね」
「そうなんですか」
「この子達の祖国が大きいだけでね」 
「大き過ぎるんですね」
「そうだよ、他の四国がね」
 四人の出身国がというのです。
「それだけだよ、特にね」
「あっ、ロシアは」
「特別広いからね」 
 魔法使いはナターシャを見ています、ナターシャはその視線を受けて少し自慢そうに微笑んでいます。
「また」
「桁外れに」
「日本の四十五倍ですよね」
「アメリカや中国の倍位だし」
「ブラジルだってね、ロシアの何分の一しかないんだよ」
 カルロスも国土の広さについては敵わないといったお顔です。
「とてもね」
「ロシアは別格だよ」
 また言った魔法使いでした。
「本当に」
「そうよ、とはいっても」
 ナターシャはお国が広いことは自慢出来てもでした、ここで今度はこの娘が苦笑いになって言いました。
「その国土の殆ど全部が寒いのよね」
「全部なのね」
「北極に近い場所もシベリアもね」
「モスクワも?」
「何処もだから」
「広くてもなのね」
「寒い場所しかないから」
 そのことが残念だというのです。
「それが残念なの」
「ロシアは」
「だから他の国が羨ましいわ」
 恵梨香だけでなく三人の男の子達も見ています。
「暖かい場所が多くて」
「オズの国もかな」 
 カエルマンはこうナターシャに尋ねました。
「暖かい場所ばかりだから」
「はい、オズの国は素晴らしいです」
 ナターシャはその暖かさを感じつつカエルマンに答えました。
「暖かくて、確かに我が国は広いですけれど」
「暖かい場所がないことは」
「残念です」
「そうなんだね」
 こうしたことをお話しながらでした、皆で。
 玄武が戻って来るのを待っていました、すると。
 皆のお話が終わったところで戻って来てでした、こう皆に言いました。
「どの川かわかったよ」
「あっ、何処ですか?」
 神宝は玄武にすぐに尋ね返しました。
「それで」
「うん、それはね」
 玄武は一呼吸置いてから答えました。
「ギリキンの国のハドソン川だよ」
「ハドソン川っていいますと」
「ここからまっすぐ北に行って」
 そしてというのです。
「イックスの国にあるよ」
「あの国ですか」
「そうだよ」
「そういえば僕達はまだ」
 ここで神宝は気付きました。
「イックスの国とかは行ってないです」
「じゃあ丁渡いい機会だね」
「はい、今回はこのままですね」
「イックスの国に向かってね」
 そしてというのです。
「ハドソン川まで行ってね」
「問題を解決すればいいよ」
「そうですね、じゃあすぐに」
「それでどんな状況なのかな」 
 カエルマンは玄武にハドソン川の状況について尋ねました。
「ハドソン川は」
「何か濁っているらしいんだ」
「濁ってるんですか」
「そうみたいだよ」
「それでだね」
 このことまで聞いてです、カエルマンも頷きました。
「蛇君も調子が悪い」
「そうなっているみたいだよ」
「それじゃあすぐに行こう」
 カエルマンは即決でした、そのうえで。
 皆にもです、あらためて言いました。
「イックスの国のハドソン川までね」
「わかりました、すぐに行きましょう」
 ケーキがカエルマンに答えました、その彼に。
「そして問題を解決して」
「蛇さんに元気になってもらってね」
「青龍さんにも東に戻ってもらいましょう」
 オズの国で言うとマンチキンの国にです、こうお話してでした。
 一行はすぐにでした、イックスの国にまで向かおうとしました。ですが。
 ここで青龍がです、皆に言ってきました。
「皆私の背に乗ってくれるかな」
「えっ、青龍さんの」
「うん、すぐに行こう」
 そのハドソン川にというのです。
「飛んでね」
「そういえば青龍さんは」
「そう、このままでね」
「自由にお空を飛べますね」
「神通力でね」 
 それが可能だというのです。
「出来るよ」
「だからですね」
「私に乗って欲しい、そうすればね」
「ハドソン川まで、ですね」
「すぐだよ、それこそ一瞬だよ」
「僕達は皆お空も飛べるし水の中でも自由に動けるんだ」
 玄武は四霊獣のことをお話しました。
「地の中も進めるしね」
「何処でも進めるんですね」 
 ジョージはここまで聞いて驚きました。
「四霊獣さん達は」
「神様だからね」 
「神通力で」
「何処でも進めるよ」
「そうなんですね」
「ハドソン川の場所は何処かな」
 青龍はカエルマンに尋ねました。
「それで、私は木の場所ならわかるけれどね」
「水のことはだね」
「うん、わからないからね」
「そうなんだね、じゃあこれを見てくれるかな」
 ここでカエルマンは地図を取り出してでした。
 青龍にその地図を見せました、青龍はその地図を見て頷きました。
「わかったよ、じゃあね」
「今からだね」
「行こうか」
「じゃあ皆青龍さんの背中に移ろう」
 カエルマンは今度は皆に言いました。
「そしてすぐに行こう」
「オズの国にね」
 そして、でした。皆で。
 青龍の背中に乗りました、青龍の背中はとても大きくて広くてです。
 皆普通に乗ることが出来ました、カルロスは背中に乗ってからです、背びれに掴みながら少し心配そうに言いました。
「落ちないかな」
「大丈夫だよ」 
 青龍がカルロスの心配に答えました。
「私の身体全体に神通力がかかっているからね」
「その神通力で、ですね」
「皆を守っているから」
「落ちないんですね」
「背中にいる限りはね」
「そうですか、それじゃあ」
「うん、行こうか」
「わかりました」
 カルロスはここまで聞いて安心してでした。
 そのうえで皆でイックスの国に行きました、すると。
 本当に一瞬で、です。そのハドソン川まで来ました。川は端まで見えない位の広さでしたがそこに、でした。
 何かおかしなものがありました、それは。
「あれっ、鯨?」
「そうよね」
 ナターシャと恵梨香がです、川の中の鯨を見て言いました。見れば川の中にです。白くてとても大きな鯨がいました。
 その鯨はです、何かといいますと。
「モビーディッグ?」
「あの伝説の」
「まさか本当にいたなんて」
「あの鯨まで」
「ああ、そういうことなんだね」
 ここでカエルマンもわかったのでした。
「どうして蛇さんの調子が悪くなったのかわかったよ」
「モビーディッグさんにですか」
「関係があったんだよ」
 神宝にもお話するのでした。
「蛇さんの調子が悪い理由は」
「確かモビーディッグっていうと」
 ジョージは子供の頃お祖父さんに聞いたお話を思い出しました。
「エイハブ船長と死闘を演じた」
「ああ、白鯨だよね」
 神宝もジョージにすぐに応えました。
「あのお話は面白いね」
「そうだね、けれどね」
「あの鯨はとても怖くて」
 そして、です。
「最後の最後でね」
「主人公の乗っている船に体当たりして」
「船を壊してしまうんだよね」
「それだけにね」
 あの鯨はというのです。
「物凄く怖いよ」
「そうだよね」
「あの、そもそもだよ」
 カルロスもその鯨、モビーディッグを見つつ言いました。
「あの鯨マッコウクジラだけれど」
「うん、頭が大きいしね」
「歯もあるしね」
 神宝とジョージは川から顔を出しつつ泳いでいるモビーディッグを見ながらカルロスに答えました。その姿はまさにマッコウクジラです。
「あれはね」
「マッコウクジラだよ」
「確かマッコウクジラって二十メートル位だよね」 
 カルロスは首を傾げさせつつ言いました。
「そうだよね」
「あの鯨二十メートルどころじゃないよ」
 ここでこう言ったのはです、カエルマンでした。
「その十倍はあるね」
「二百メートルですか」
「それはまた相当ですね」
 神宝もジョージもあらためてです、その大きさを認識しました。
「あの巨大さは」
「玄武さんの倍はありますよ」
「普通の鯨じゃないです」
「とてつもない大きさなんですけれど」
「モビーディッグのことはね」 
 ここでこうもお話したカエルマンでした、五人の子供達に。
「僕も知ってはいたよ」
「あの鯨さんもオズの住人ですか」
「そうなんですね」
「あの方も」
「そうなんですか」
「そうだよ、けれどね」
 そのモデーディッグはといいますと。
「凄く大人しいから」
「あっ、そうなんですね」
「オズの国のモビーディッグさんはですか」
「大人しいんですか」
「そうなんですね」
「うん、だからね」 
 それで、というのです。
「安心していいよ」
「そうですか」
「あの鯨さんは大人しいんですね」
「白鯨のモビーディッグさんと違って」
「そうなんですね」
「そうだよ、けれどね」
 それでもとです、カエルマンは五人にこうも言ったのでした。
「どうして蛇さんの身体の調子が悪いのか、蛇さんは淡水だけれど」
「鯨は普通は海にいますね」
 恵梨香がカエルマンにこのことを言いました。
「外の世界では」
「それはオズの国でもだよ」
「海、つまり海水に」
「淡水の生物が海水に入りますと」
「それだけでね」
「よくないんですね」
「そう、だからね」 
 だからだというのです。
「そのことがあって」
「だからですか」
「蛇さんも調子が悪くなったんだよ」
「淡水に海水のものが入ると」
「よくないから」
「そういうことですか」
「オズの国では本当に滅多にないことだよ」
 それこそというのです。
「いや、実際にね」
「それでも起こったので」
「蛇さんも調子が悪くなったんだよ」
「そういうことですか」
「だからね」
 カエルマンの目がここで光りました、そして言うことはといいますと。
「モビーディッグさんに海に戻ってもらえば」
「それで、ですね」
「うん、蛇さんも元気になるよ」
「そうなんですね」 
 神宝はカエルマンのその言葉に頷きました。
「それじゃあすぐに帰ってもらいましょう」
「モビーディッグさんにもその方がいいよ」
「海の生物は海で暮らすべきですね」
「身体の構造がそうなっているからね」
「だからですよね」
「うん、ここは戻ってもらおう」
 是非にというのです。
「そうしよう、じゃあここは」
「よし、今度も」
 ここでこの場では喋っていなかった青龍が皆に言いました。
「皆私の背に乗ってくれ」
「それで、ですね」
「モビーディッグのところに行こう」
 ケーキにも答えるのでした。
「そうしよう」
「わかりました、それじゃあ」
 ケーキが最初に頷いてでした。
 皆はすぐにまた青龍の背中に乗りました、そのうえで。
 青龍はお空を飛んで、でした。川の中を泳いでいるモビーディッグのところに来ました。そしてまずは青龍がモビーディッグに声をかけました。
「いいかい?」
「龍かな」
「そう、青龍というんだ」
「ふうん、そうなんだ」 
 モビーディッグは穏やかな男の人の声で青龍に応えるのでした。今も泳ぎながら。
「名前通り身体が青いしね」
「この通りね、それでだけれど」
「何かな」
「君はどうしてここにいるのかな」
 かなりダイレクトにです、モビーディッグに尋ねたのでした。
「この国に」
「うん、そのことはね」
「そのことは?」
「実は探しものをしているんだ」
「探しもの?」
「この川にあるらしいんだ」
 ハドソン川にというのです。
「真珠がね」
「真珠?」
「そう、オズの国の真珠の中でも特別な七色に輝く真珠がね」
「真珠っていったら」
 どうかとです、青龍はモビーディッグにこう答えました。
「オズの国の海なら何処でもあるじゃない」
「だから。七色に輝くね」
「特別な真珠なんだ」
「それがこの川にあるらしいんだ」
「その真珠が欲しいんだ」
「その真珠をお腹の中に入れてね」
 そして、というのです。
「僕の宝物にしたいんだ」
「だからなんだ」
「僕は今その真珠を探しているんだ」
「君が川にいる理由はわかったよ」
 ここまで聞いてです、青龍は頷きました。
 そしてその後で、です。モビーディッグに言うのでした。
「けれどだよ」
「けれど?」
「君は鯨、海にいる鯨だからね」
「川にいたらいけないんっていうんだね」
「そうだよ」
 モビーディッグにこのことも言いました。
「それはよくないよ」
「海の生きものは海にいるものだね」
「そう、だからね」
「君はどれだけ川にいるのかな」
 カエルマンはモビーディッグに尋ねました。
「一体」
「一ヶ月位かな」
「それだけいるんだ」
「ずっとこの川の中で探してるよ」
 その七色の真珠をというのです。
「この中でね」
「その一月君がこの川にいてね」
「何かあったのかな」
「オズの国の川や湖のお水を司っている玄武さんのうちの蛇さんが体調を崩してるんだ」
「僕のせいで?」
「そう、君のせいでね」
 カエルマンはモビーディッグに少し厳しい口調でお話しました。
「蛇さんが困っているんだ」
「僕一匹のことで」
「海の生きものは川や湖にいたらいけないんだ」
 どうしてもというのです。
「だからなんだ」
「その蛇さんの体調が悪いんだね」
「そうだよ」
 その通りだというのです。
「だから気をつけてね」
「けれどね」
「その七色の真珠をだね」
「見付けたいんだ」
 そして自分の宝物としたいというのです。
「何があっても」
「その頑張りは認めるよ」
「この一月の間のことだね」
「うん、そして君は七色の真珠を見付ければ」
「もうね」
 モビーディッグは泳ぎつつカエルマンに答えます。
「この川から出て海に戻るよ」
「そうするんだね」
「うん、そもそもね」
「そもそも?」
「何か一月の間に」
 ここでこうも言ったモビーディッグでした。
「僕も少し体調が悪くなってきたかな」
「それは当然だよ」
「僕は海の生きものだからだね」
「そう、海の生きものは海にいないとね」
 ここでまたこのことを言ったカエルマンでした。
「よくないからね」
「僕自身にもよくないことなんだね」
「だからね」
「早く海に戻らないと」
「誰にとってもよくないんだよ」
「それじゃあ早くですね」
 神宝が言いました、ここで。
「その七色の真珠を見付けましょう」
「それがいいね」
 ジョージは神宝のその言葉に賛成して頷きました。
「モビーディッグさんに海に戻ってもらう為には」
「川に一月もいて探す位欲しいのならね」
 カルロスも言いました。
「それならね」
「確かに海の生きものが川にいるのはよくないけれど」
 ナターシャも同じ意見でした。
「モビーディッグさんには海に気持ちよく帰ってもらいたいから」
「このまま帰ってもらうよりは」
 恵梨香が最後に言いました。
「七色の真珠を手に入れてもらいましょう」
「そうだね、確かにモビーディッグ君は困ったことを引き起こしているけれど」
 魔法使いは青龍の背中の上で腕を組んで考えるお顔になっています。
「悪気はないし。今回はね」
「七色の真珠を手に入れてもらって」
 ケーキはずっとモビーディッグを見ています。
「帰ってもらいましょう」
「そういうことだね、それならね」
 またカエルマンが言いました。
「僕も協力させてもらうよ」
「君が?」
「僕は見ての通り蛙だよ」
 その蛙が大きくなって人間の様に動いているのがカエルマンです。このことをモビーディッグにもお話したのです。
「だから川のこともね」
「何でもわかるんだ」
「海は君、川や湖は僕だよ」 
 こうも言ったのでした。
「だからね」
「それでなんだ」
「そう、今からね」
 行こうと言ってです、そのうえで。
 カエルマンは皆に顔を向けて言いました。
「今から川の中に入って来るよ
「そうしてですね」
「僕も探すよ」
 神宝にもお話するのでした。
「七色の真珠をね」
「そうされますか」
「うん、今からね」
 こうです、カエルマンは神宝に答えてでした。
 すぐに川の中に飛び込みました、そのうえでモビーディッグに声をかけました。
「じゃあ僕もね」
「真珠を探すことに協力してくれるんだ」
「そうさせてもらうよ」
「有り難う、ただね」
 お水の中で、です。モビーディッグはカエルマンにこうも言いました。
「僕が一月探しても見付からないんだよ」
「それは当然だよ」
「当然って?」
「だから君は海の生きものだからね」
「川の中にいたら」
「海の中にいる時よりもね」
 その目がというのです。
「働かないんだ」
「そうだったんだ」
「あとお鼻やお肌の感覚もね」
 そのどちらもというのです。
「落ちるからね」
「だから一月探してもなんだ」
「僕は見付けられなかったんだ」
「そうだったんだよ、けれどね」
「君ならだね」
「少なくとも川の中では君より感覚がね」
 目やお鼻、そうした感覚がというのです。
「はっきりとしているからね」
「見付けられるんだ」
「そうする為に来たんだ」 
「じゃあお願いするよ」
「真珠の匂いは知ってるよ」 
 カエルマンはこのことからもお話するのでした。
「そしてね」
「そして?」
「僕は川の中だと犬君と同じだけお鼻が効くんだ」
「それじゃあ」
「この川の匂いを今から調べてみるよ」
「頼むね」
「さて」
 カエルマンはモビーディッグにお話してでした。それから。
 お鼻をくんくんとさせました、そのうえで。
 それからです、また言いました。
「どうやらね」
「どうやら?」
「真珠は近くにあるよ」
「その七色の真珠は」
「真珠は本来海にあるよね」
「そうだよ」
「だから川にあったらすぐにわかるんだ」
 本来は川にないものだからです、それが川にあるとどうしても目立つというyのです。カエルマンはこのことからもわかっているのでした。
「だからだよ」
「真珠の場所がわかったんだ」
「早いね」
「じゃあ今から」
「うん、その真珠をね」
 七色の真珠をというのです。
「今から持って行くよ」
「それじゃあ」
 こうしたことをお話してでした、それから。
 カエルマンはお水の中を泳いで、でした。すぐにです。
 その場所にまで行ってでした、モビーディッグのところに戻ってそれからそこに七色の真珠を見せたのでした。
「これだよね」
「うん、これだよ」
 まさにとです、モビーディッグは答えました。
「まさかこんな簡単に見付かるなんて」
「だから僕は川や湖にいる蛙だから」
「蛙君ならなんだ」
「そうしたこともね」
「わかるんだね」
「そうだよ、これでいいね」
「うん、有り難う」
 お礼も言ったモビーディッグでした、そして。
 カエルマンにお口の中にその真珠を入れてもらってそれを飲み込んでからです。そうしてからまた言ったのでした。
「今回のことはね」
「うん、これでわかったね」
「やっぱり海の生きものは海にいるべきだよ」
「川に入ったらよくないね」
「そうだよ」
 その通りだというのです。
「幾ら泳げても」
「お水の中で生きている生物でも」
「川にいたらね」
 それこそというのです。
「海にいる生きものにとってよくないよ」
「そういうことだね」
「そう、だからね」
「やっぱり僕達は海の中にいたら」
「駄目なんだ」
「そうだよ、だからもうね」
「海に帰って」
 モビーディッグも自分から言いました。
「二度と川に入るべきでないよ」
「わかったよ、それでその蛇さんが困るし」
「君自身の身体にもよくないからだね」
「だから帰ってね」
 そしてというのです。
「海で暮らすんだよ」
「ずっとだね」
「そうしてね、それじゃあ」
「これで帰るよ」
 モビーディッグは穏やかな声でお話しました、そのうえで。
 川の水面からお顔を出しました、カエルマンと一緒に。そうして青龍と彼の背中の上にいる皆に言いました。
「真珠は見付けてもらったよ」
「そうなんだ」
「そうしてもらったんだ」
「よかったね」
「探しものが見付かったのね」
「一月探していたものが」
「そうだよ、だからね」
 それでというのでした。
「もう僕は海に帰るよ」
「じゃあもう二度とだよ」 
 魔法使いはモビーディッグに念を押しました。
「川に入ったら駄目だよ」
「そうするよ」
「さもないと誰にもいいことが起こらないからね」
「本当にその通りだね」
 モビーディッグもしみじみとして思うのでした。
「もうこんなことはしないよ」
「幾ら欲しいものがあってもね」
「うん、皆に迷惑をかけたみたいだし」
「まだそこまではいっていないけれど」
 カエルマンはモビーディッグに穏やかな声で諭すのでした。
「それでもね」
「こうしたことは二度とだね」
「するべきでないよ」
「水の気を乱すとよくない」
 青龍が言うことはといいますと。
「それはオズの国全体に及ぶんだよ」
「そうなるんだね」
「かく言う私も」
 ここで自分のことにも気付いた青龍でした。
「気になったとはいえ」
「東から離れますと」
「よくない」 
 ケーキにも言うのでした。
「反省しないと」
「長い時間東から離れれば」
「やはりよくない」
「青龍さんは東にいるものだからですね」
「その通りだよ」
「だからですね」
「もう二度と」
 それこそというのです。
「東を長い間留守にしてはいけない」
「もう絶対にですね」
「心に刻んでおくよ」
 ケーキにも約束しました。
「もうね」
「旅行位ならいいんだよ」
 魔法使いはこう穏やかにお話しました。
「それ位ならね」
「旅行はいいんだ」
「うん、ただね」
「長い間自分のいるべき場所を留守にすると」
「よくないんだ、そしてモビーディッグ君の場合は」
 魔法使いも彼に言うのでした。
「また違っていてね」
「海にいるべきだからだね、僕は」
「川や湖にいると君にもよくないから」
「僕は完全に海にいるべきなんだね」
「身体の構造がそうなっているんだ」
 そもそもというのです。
「僕達人間がそのままではお空を飛べないことと同じで」
「僕は川には住めない」
「実際川にいてあまり体調はよくなかったね」
「どうにもね」
「そのことにもう出ているよ」
 モビーディッグが川にいてはいけないことが、です。
「既にね。それに居心地もだったね」
「あまりね」
「海の方がいいね」
「僕にとってはね」
 こうも答えたモビーディッグでした。
「ずっといいよ」
「そうだね、だからね」
「川に入らないよ」
「それがいいよ。若しどうしても欲しいものが川にあれば」
 それが我慢出来ないまでならというのです。
「何時でもお願いすればいいよ」
「誰にかな」
「私達にだよ」 
 魔法使いはモビーディッグに微笑んでこうも言ったのでした。
「そうしてくれるかな」
「君達に?」
「そうだよ、僕達にね」
 是非にというのです。
「そうしてくれたらいいよ」
「ううん、けれど」
「いや、僕達はこれで友達になったから」
「友達だからなんだ」
「何時でも頼ってくれたらいいよ」
 これが魔法使いの言葉でした。
「是非ね」
「人に頼ってもいいんだ」
「どうしてもっていう時はね」
「僕はずっと頼ってこなかったけれど」
「それはこれから変えればいいんだ」
 どうしてもという時はというのです。
「僕達をね」
「それじゃあ」
「そういうことでね、じゃあ海に帰ろう」
「今からね」
 こうしたことをお話してでした、モビーディッグは川を下ってでした。海に戻りました、青龍と彼の背中にいる皆もです。
 モビーディッグと一緒に川の上を進んででした、そして。
 カエルマンは入江まで来たモビーディッグにです、あらためて言いました。
「じゃあまた」
「うん、またね」
「僕達が海に来た時はね」
 その時はと言うカエルマンでした。
「一緒に遊ぼうね」
「そして君達が困った時は」
「助けてくれるんだ」
「そうさせてもらうよ」
 モビーディッグは魔法使いに言われたことをここで自分も言ったのです。
「僕達は友達になったからね」
「じゃあお互いに」
「何かがあればね」
「助け合おうね」
「是非共ね」
 心で握手をしてでした、お別れとなりました。
 モビーディッグは海に戻ってその中に消えました。カエルマンはその紺碧の海を見つつ皆に言いました。
「これでね」
「はい、一件落着ですね」
「そうなったよ」 
 こう言うのでした。
「蛇さんの身体も元に戻った筈だよ」
「よかったですね」
 神宝もしみじいとして言いました。
「万事解決ですね」
「全く以てね」
「ただ」
 ですが神宝はここで首も傾げさせて言いました。
「どうして川に真珠があったんでしょう」
「そのことだね」
「はい、それはどうして」
「多分人か鳥が拾って自分のものにしていたけれど」
「間違って、ですか」
「この川に落としたんじゃないかな」
 これがカエルマンの仮説です。
「だから川にあったんじゃないかな」
「海にあるべき真珠が」
「うん、あとね」
「あと?」
「オズの国には川真珠もあるよ」
「あっ、そうなんですか」
「そうだよ、川でも真珠が採れるんだよ」
 このこともです、カエルマンはお話しました。それは神宝だけでなく五人の子供達全員に対してのお話でした。
「鮪や鯖だって川にいたりするね」
「確かに。オズの国では」
「そうですよね」
「だからですか」
「川でも真珠が採れるんですね」
「この国では」
「そうだよ」
 こう五人にお話するのでした。
「この国ではね」
「やっぱり不思議の国なんですね」 
 神宝はここまで聞いてしみじみとして述べました。
「この国は」
「そうだよ、こうした場合でもね」
「川でも真珠が採れる」
「それもかなりの量がね」
「そういえば」
 ここで、でした。また言った神宝でした。
「王宮には真珠で飾られたお部屋もありますね」
「あの真珠が川真珠なんだ」
「そうだったんですね」
「勿論海真珠も一杯あるよ」
 こちらの真珠もだというのです。
「そちらもね」
「それでもですね」
「そうだよ、川からも真珠が採れるからね」
「そのことも覚えておくといい」
「そういうことだよ」
「わかりました」
 神宝はカエルマンの言葉に笑顔で頷きました、そして。
 青龍がです、皆に言いました。
「それではお話も終わったから」
「はい、これからですね」
「玄武さんのところに戻って」
「蛇さんの様子を見ましょう」
「元気になったかどうか」
「そのことを」
「是非ね」
 こう五人にも答えた青龍でした。
「戻って見よう」
「いや、今回はね」
 魔法使いはしみじみとです、蛙の友人を見てこんなことを言ったのでした。
「カエルマン君のお陰だね」
「僕の?」
「うん、君が真珠を見付けてくれたからね」
 だからだというのです。
「無事解決したよ」
「それは何より」
 カエルマンは魔法使いの言葉に笑顔で応えました、気取った仕草もして。
「名誉にさせもらうよ」
「心の勲章にだね」
「如何にも」
 こう気取って言うのでした。
「これまでの冒険の時と同じ様に」
「この気取ったところがいいんだよ」
 魔法使いもにこにことしています。
「彼のね」
「そういえばカエルマンさんの気取りは」
 神宝もいうのでした。
「何か愛嬌とユーモアがあって」
「嫌味じゃないね」
「はい、だからですね」
「いいんだよ」  
 そうだというのです。
「この人はね」
「そうですね」
「それでは」
 また青龍が言ってきました。
「玄武君のところに戻ろうか」
「はい、わかりました」
「それじゃあ」
 子供達も青龍に応えました、そして。 
 青龍はすぐにでした、玄武のいる湖に戻りました。するとです。
 玄武は二匹になっていました、亀とです。
 とても大きな黒い蛇もいます、カエルマンはその蛇を見てから神宝に尋ねました。
「この蛇さんがだね」
「はい、玄武さんのです」
「蛇さんだね」
「そうです」
「その通りだよ」
 亀がここで答えました。
「彼が僕のパートナーである」
「その蛇だよ」
 蛇も言ってきました。
「僕がね」
「そうですね」
「そうだよ、君達のお陰でね」
「元気になられたんですね」
「そうだよ」
 その通りだというのです。
「本当によかったよ」
「事情は私が神通力で知らせておいたよ」 
 青龍も皆にお話しました。
「君達の世界で言うテレパシーでね」
「あの力で、ですか」
「そうだよ」
 こうお話するのでした。
「ハドソン川のこともモビーディッグのこともね」
「有り難うございます」
「これで万事解決だね」
「いや、今回はね」
 蛇がまた言いました。
「君達のお陰で助かったよ」
「いえ、それは」
「エメラルドの都で見付けてくれましたから」
「ですから」
「それで私達もなんです」
「ここまで来られましたし」
「ああ、都というと」
 蛇は五人の子供達の言葉でこのことを思い出しました。
「オズマ姫にだね」
「はい、あの方がなんです」
 ジョージがオズマ姫のことをお話しました。
「青龍さんがギリキンの国におられることに気付かれて」
「それでだね」
「ここまで来られました」
「私が北にいることにだね」
「まず気付かれまして」
 ジョージは青龍にもお話しました。
「それでなんです」
「成程、それならね」 
 青龍はここまで聞いてでした、あらためて。
 玄武に対してです、こう言いました。
「一ついいかな」
「うん、このことについてだね」
「エメラルドの都に行ってね」
 そしてというのです。
「オズマ姫にお礼をしよう」
「それがいいね」
「白虎と朱雀も呼ぼうか」
 こうも提案した青龍でした。
「これからは」
「そうだね、それがいいね」
 玄武も頷くのでした。
「四霊獣全員で都に行こう」
「何か凄いことになって来たね」
 カルロスはこの状況の違いに目を驚かせました。
「四霊獣全員が揃うなんて」
「そうね、けれど姫様も喜ばれるわ」
 ナターシャはオズマのことを思うのでした。
「あの方もね」
「そうね、じゃあ」
 恵梨香も言います。
「私達もね」
「今から都に帰ろう」
 魔法使いが皆に言いました。
「これからね」
「はい、それじゃあ」
「今から都に戻って」
「オズマ姫にお話しましょう」
「今回の冒険のことを」
「そして四霊獣の皆さんのことを」
「ではその間に」
 皆が都に戻るその間にとです、青龍は言いました。
「私達は都に行く準備をしておくよ」
「そうさせてもらうよ」
 玄武も言ってきました。
「是非ね」
「白虎と朱雀も来るから」
 蛇も言うのでした。
「楽しみにしておいてね」
「わかりました、それじゃあ都でお会いしましょう」
 にこりと笑ってでした、神宝が青龍と玄武の亀と蛇に応えました。
「あの場所で」
「それではまた」
 最後にケーキが言ってでした、そのうえで。 
 お互いにお別れの挨拶をしてでした、今は別れました。一行の帰り道はとても明るく楽しい旅になりました。



どこの川かも判明し、青龍のお蔭で着くのもあっという間だったな。
美姫 「そうね。で、原因は鯨だったのね」
みたいだな。一か月も真珠を探していたみたいだ。
美姫 「これが原因で蛇の体調が崩れるなんてね」
でも、これもどうにか解決できたし。
美姫 「蛇も元気になったみたいね」
ああ。後は都古に帰るだけだな。
美姫 「これで今回の旅もお終いね」
だな。次回も待っています。
美姫 「待っていますね〜」



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