『オズのベッツイ』




                 第九幕  クルマー達

 一行は真実の池に向かいます、その途中でナターシャがアンに尋ねました。
「あの、アン王女は」
「私は?」
「ウーガブーの国は昔はオズの国の端にありましたよね」
「ええ、谷の中のね」
 アンもこうナターシャに答えます。
「今も谷の中にあるけれど」
「すぐ傍が死の砂漠で」
「そこから先は行けなかったのよ」
「そうでしたね」
「だから余計に外の世界に行きたかったの」
「外の世界に」
「そうだったの、それが征服したいって気持ちにもなって」
 王女はかつてウーガブーの軍隊を率いてオズの国を征服しようとしました、それが結果としてチクタクに会ったりノーム王と会ったりとなったのです。
「軍隊も編成したわね」
「そうでしたね」
「けれど今は違うわ」
「死の砂漠が大陸の海岸までいって」
「思い切り開けたのよ」
 ウーガブーの国の周りが、というのです。
「それで谷の中に国があっても」
「もうオズの国の端にないんですね」
「大体。ウィンキーの北西部の真ん中かしら」
 そこが今のウーガブーの国がある場所だというのです。
「いい場所にあるわ」
「それでお国の周りも」
「どんどん人が来てお家が建ってね」
「賑やかになったんですね」
「そうなの、その人達とも仲良くしてるわ」
 アンはにこにことしてナターシャにお話しました。
「今はね」
「それはいいことですね」
「ウーガブーの国もいいところよ」
 にこりと笑って言うアンでした。
「だから戻った時はね」
「その時はですね」
「楽しんでね」
 そのウーガブーの国をというのです。
「是非」
「わかりました、その時も楽しみにしています」
「そうしてくると何よりよ。ただね」
「ただ?」
「真実の池に行ってね」
 そして、というのです。
「ウーガブーの国に戻るとなると」
「あっ、時間が」
「かなりかかるわね」
「貴女達ジャムはあれよね」
「はい、ヘンリーおじさんとエムおばさんの結婚記念日へのプレゼントです」
「私が贈るのよ」
 ここでベッツイも言います。
「その為にお願いしてるけれど」
「そうよね、結婚記念日ね」
「その時にまで間に合えばいいけれど」
「この調子でしたら」
 どうかとです、ナターシャが旅にかかる時間と結婚記念日の日のことを頭の中で計算してから二人の王女に答えました。
「ぎりぎりですね」
「これから真実の池に行ってお花を摘んでウーガブーの国に行って」
「はい、エメラルドの都に戻るとなりますと」
「ぎりぎり結婚記念日に間に合うのね」
「そうなります」
 こうベッツイにお話するのでした。
「本当にぎりぎりですけれど」
「わかったわ、それじゃあね」
 ベッツイはナターシャのお話を聞いてこう言いました。
「少し急いだ方がいいわね」
「いえ、それは」
「いいの?」
「特に急ぐことはないです」
 今の一行のペースで、というのです。
「このままでいいです」
「このままでぎりぎりなんですね」
「はい、ですから」
「焦ることはないのね」
「私達日の出と一緒に起きて夜まで進んでますよね」
 食べる時間は入れていますが。
「殆どずっと進んでいますから」
「進んでいるのが早いのね」
「一日にかなり進んでいますよ」
「そういえばそうね」
 恵理香もここで言いました。
「私達ってオズの国にいるとね」
「凄く歩くでしょ」
 ナターシャがその恵理香に応えます。
「私達の世界にいる時よりも」
「ええ、ずっとね」
「車や自転車を使わなくてもね」
「一日で凄い距離を歩いているわね」
「大体一時間五キロ位で」
 それで、とです。ナターシャはお話します。
「日の出が四時半でしょ」
 オズの国はいつもこの時に日が昇ります。オズの国の朝は早いのです。
「それで七時まで歩くから」
「お日様が沈むまで」
「寝るのは九時だけれどね」
「大体出発が五時半だから」
「お昼に三十分程食べてね」
「その間殆ど歩いてるわね」
「だから相当進んでいるから」
 毎日です。
「そんなに急がなくてもいいのよ」
「そうなのね」
「そうなの」
「だから結婚記念日まで間に合うのね」
「焦らないで行ってもぎりぎりでね」
 そうなることをです、ナターシャは恵理香にもお話しました。
「だから安心していいわ」
「わかったわ、それじゃあね」
「ただね」
 今度はカルロスが言いました。
「僕達お昼御飯を食べる時以外はいつも歩いてるけれど」
「そうそう、休まないでね」
「ずっと歩いてるよね」
 ジョージと神宝もカルロスに続いて言います。
「お昼以外は」
「それこそずっと」
「それでもね」
「全然疲れないね」
「そう、足も痛くならないよ」
 カルロスはそのことも言いました。
「全くね」
「そのことがね」
「今気付いたけれど」
「考えてみればね」
「凄いことだよね」
「あっ、そのことね」 
 三人の男の子達の疑問についてはです、ベッツイが答えました。
「オズの国の食べものに理由があるのよ」
「オズの国の、ですか」
「今僕達が食べている」
「その食べものに理由があるんですか」
「そうなの、オズの国の食べものはね」
 それはどういったものかといいますと。
「食べると物凄く元気が出てしかも身体の疲れも癒してくれるから」
「だからですか」
「その食べものを食べているからですか」
「僕達は疲れないんですね」
「そうよ、食べれば凄く元気が出るから」
 それで、というのです。
「朝とお昼にたっぷり食べたら休まなくていいのよ」
「夜まで歩いていられる」
「そうなんですね」
「休まないでいいんですね」
「休んでもいいけれど休む必要がなくなるの」
 ベッツイは子供達ににこりと笑ってお話しました。
「だからいいのよ」
「そうですか」
「だからですか」
「ずっと歩いていられたんですか」
「そうなの、それにさっきだけれど」
 ここでベッツイは先程歩く速さについても言ってくれたナターシャにお顔を向けました。そのうえでこう言いました。
「貴女はさっき一時間五キロの速さで歩いてるって言ったわね」
「はい、私達は」
「実際はね」
「その五キロよりもですか」
「速く歩いているわよ」
 今のベッツイ達はというのです。
「オズの食べものを食べて元気が出ているから」
「元気だと余計にですね」
「そう、速く歩けるでしょ」
「それで私達は」
「五キロよりもね」
 さらにというのです。
「速く歩いているわよ」
「じゃあどれだけの速さで歩いているんでしょうか」
「この速さならね」
 今歩いているその速さを見てです、ベッツイは言いました。
「七・五キロ位かしら」
「それ位ですと」
「もっと時間に余裕があるわよね」
「はい」
 そうだとです、ナターシャも答えます。
「それですと」
「そう、だからね」
「時間的な余裕はさらにありますね」
「そう思うわ、それに旅はね」
「何があるかわからない」
「そう、だからね」
 それ故にというのです。
「余裕があるに越したことはないわね」
「時間的な余裕が」
「そうよね」
「はい、確かに」
「まして道中長いから」
 このことは確かにその通りです。
「だから余計にね」
「何があってもですね」
「いい様に。速く歩けるkとはいいことよ」
「それだけで」
「その通りだね」
 ハンクもここで言ってきました。
「時間に余裕があるとね」
「それだけでね」
「違うよ」
 そうだというのです。
「だから今はこのまま。焦らないまでも」
「歩いていくことね」
「どんどん歩いていこう」
「お昼は休んでも」
「そうしていこう」
 こう言ってでした、ハンクも先に先にと進んでいきます。そしてお昼御飯に皆でパンとブイヤベース、それに鴨のお肉をオリーブ油で焼いたものとフルーツを食べてです。
 また先に進みはじめたところで、前から思わぬ人達が来ました。
 海賊の首領みたいな目立つ服で四つん這いです、そして両手足の手首は車輪になっています。恵理香はその人達を見て言いました。
「クルマーの人達ですね」
「ええ、そうよ」
 そうだとです、ガラスの猫が恵理香に答えます。
「あの人達がね」
「ドロシーさんが会った」
「そう、そのクルマーよ」
「けれどあの人達は」
 猫のお話を聞いてです、恵理香は考える顔になって言いました。
「ここにはいない筈じゃ」
「旅行じゃないの?」
 そうでないかとです、猫は恵理香に答えました。
「それでここにいるのよ」
「旅行でなのね」
「あの人達も昔とは違って大人しいから」
「脅かしたりしないのね」
「今ではありのまま。普通に暮らしていて」
 そして、というのです。
「悪いことはしないわ」
「そうなのね」
「そう、ただね」
「ただ?」
「あの人達をこかさない様にしてね」
「ドロシーさんが最初に会った時と同じね」
「そう、一度こけたら起き上がることが大変だから」
 両手両足が車輪でそれで進むからです、クルマーの人達は一旦こけると起き上がることが大変なのです。
「だからね」
「そうね、あの人達に迷惑をかけない様に」
「気をつけてね」
「そうしないとね」
 恵理香も猫の言葉に頷きます、そしてでした。
 一行は道の向こう側から来るクルマー達に自分達も歩いて近寄りました。そしてクルマー達の前に来てです。
 ベッツイがです、一行を代表して彼等に笑顔で挨拶をしました。
「こんにちは」
「やあ、ベッツイ王女こんにちは」
「ここで会うなんて奇遇だね」
「そうね、私達は真実の池に向かっているけれど」
 ベッツイはクルマー達にもこのことをお話しました。
「貴方達はどうしてここにいるの?」
「旅行だよ」
「ウィンキーの国の北西部を観光しているんだ」
「こうして行きたい面子だけ集まってね」
「それでなんだ」
「こうして皆で回っているんだ」
 そうしてウィンキーの国のこの辺りを見て回っているというのです。
「食べるものは途中のお弁当の木で手に入れてね」
「寝る時はテントで」
「辺りの川や湖で身体を洗って」
「そうして快適に旅をしているよ」
「それは私達と同じね」
 その旅の仕方を聞いてです、 ベッツイは言いました。
「もっとも私達はお弁当の木以外にもテーブル掛けを持ってるけれど」
「広げたらどんなお料理でも出る」
「あの魔法のテーブル掛けだね」
「それを持ってるから」
「食べることには困っていないんだね」
「そうなの、けれど貴方達は観光なのね」
 その目的のことを言ったベッツイでした。
「そうなのね」
「そうなんだ」
「オズの国は何処も楽しいからね」
「何度観ても飽きないから」
「暇だと思ったらね」
「こうして観光を楽しんでるんだ」
「今もね」
 そうだというのです、こうお話をしてです。
 クルマーの族長さん、一際派手な服のこの人が出て来て言うのでした。
「王女に言っておくことがあるんだが」
「何かしら」
「いや、真実の池に行くんだね」
「ええ、そうよ」
 その通りだとです、ベッツイは族長さんに答えました。
「これからね」
「そうだね、ただ」
「ただ?」
「あそこは今はお花が物凄く咲いていて奇麗だから」
「あら、そんなになの」
「そう、もう色々な種類の花が咲いててね」
 それこそという口調で、です。族長さんはベッツイにお話します。
「もう本当に奇麗だから」
「そこに行けば」
「もううっとりする位なんだ」
 それでというのです。
「行くと是非ね」
「観て楽しめばいいのね」
「そう、そうすればいいから」
 だからだというのです。
「楽しんでね」
「わかったわ、真実の池はそうなっているのね」
「それだと」
 そのお話を聞いてです、アンは少し心配そうに言いました。
「お花を見付けることが大変そうね」
「お薬になるお花ね」
「ええ、そんなに咲いているのなら」
「そういえばそのお花はどうしたお花ですか?」
 ナターシャはそのアンにこのことを尋ねました。
「真実の池に咲いているとは聞いていますけれど」
「あっ、形は菖蒲でね」
「菖蒲ですか」
「それで色は銀色なの」
「銀色の菖蒲ですか」
「それがそのお花なの」
 ウーガブーの国で熱にうなされて寝込んでいるその人のお薬にな花だというのです。
「そう聞いてるわ」
「銀色の菖蒲ですと」
「見付かるかしら」
「はい、そうしたお花は珍しいですから」
 だからだというのです。
「それにここはウィンキーの国ですから」
「何でも黄色だから」
「お花もそうですよね」
「ああ、池のお花は殆ど黄色だったよ」
 族長さんもこう言ってきました。
「菖蒲だけじゃなくて菫や百合、風信子もあるけれど」
「どのお花もですか」
「黄色なんですね」
「それでその中で銀色となりますと」
「目立ちますね」
「それもかなり」
 五人の子供達はそのことを聞いて言うのでした、それでなのです。
 ここで、です。五人でなのでした。こうお話をしました。
「黄色の中の銀色」
「それを探せば」
「簡単に見付かるね」
「これは目立つよ」
「案外楽かも」
「その通りね」
 アンも五人のお話を聞いて頷きます、そして。
 ベッツイもです、確かな声で言いました。
「じゃあ真実の池に行けば銀色よ」
「銀色を探せば」
「すぐに見付かるわよ」
 ベッツイに言います。
「銀色の菖蒲ならね」
「そうね、面白いこと聞いたわ」
 アンもベッツイの言葉に頷きました。
「ウィンキーの特徴がここでも出るわね」
「何でも黄色ですと」
 ナターシャが言うことはといいますと。
「目立たない色は黄色ですね」
「黄色の中に黄色いものがあってもね」
「見つかりにくいですね」
「そう、私達にしても」
 ベッツイは自分達のことにも言及しました。
「カルロスの服は黄色だけれど」
「他の皆の服は」
「それぞれの色じゃない」
「あたしなんてガラスだしね」
「そう、だからね」
 その前だからです。
「その分目立ってわよ」
「そうよね」
「黄色の中に他の色があれば目立つわ」
「特に私はそうですね」
 黒いゴスロリの服のナターシャの言葉です。
「物凄く目立っていますね」
「虎を思い出すわ」
 ベッツイは微笑んで言いました。
「本当にね」
「虎ですか」
「腹ペコタイガーをね」
 思い出したのはこの虎でした。
「あの人をね」
「確かに。黒と黄色ですと」
 ナターシャも言います。
「腹ぺコタイガーさんですね」
「そうでしょ」
「豹もそうですけれど」
「けれど黒と黄色ならね」
 それならというのです。
「どちらかというとそうね」
「ええ、そうですね」
「それよね」
 まさにというのです。
「豹よりもどうしてもね」
「虎になりますね」
「私は腹ペコタイガーといつも一緒だから」
 ベッツイは王宮での自分のことをお話します。
「それでなのよ」
「黒と黄色だと虎を連想するんですね」
「そうなの、豹もオズの国にいるけれど」
「それでもですね」
「ええ、腹ペコタイガーをいつも見ているからね」
「虎になるんですね」
「そうなの」
 こうお話するのでした。
「それに豹は黒いだけのもいるでしょ」
「黒豹ですね」
「あれはあれで格好いいけれど」
 それでもとです、ベッツイは言うのでした。
「そのせいで豹が絶対に黒と黄色とは限らないイメージがあるのよ」
「虎も白い虎がいるわよ」
 猫はベッツイにこのことを言いました。
「ちゃんとね」
「そうね、けれどね」
「腹ペコタイガーを見ているから」
「そう、だからね」
 それでだというのです。
「私は黒と黄色だと虎なの」
「私もです」
「本当にナターシャの黒い服はウィンキーの国では特に目立つわね」
「あとね」
 アンもナターシャに言います、彼女が言うことはといいますと。
「ナターシャの服って」
「はい、何でしょうか」
「そのお姫様みたいな服は何なの?」
「お姫様の様でね」
 ベッツイもナターシャの服のお話に加わってきました。
「それでいてね」
「少し違うわよね」
「お人形さん?」
 アンは首を傾げさせてこうも言いました。
「ナターシャの服って」
「あっ、確かにそんな感じね」
「フリルがひらひらとしていて」
「スカートの長さは膝までで」
「それで可愛らしいデザインで」
「頭にはリボンが付いたボンネットがあってね」
 そうしたナターシャのファッションの細かいところまで言うのでした。
「脚は黒のストッキングで覆って」
「靴も可愛くて」
「アクセサリーでも飾っていて」
「とても可愛くてね」
 それでお人形さんに見えるというのです。
「ナターシャ自身可愛いし」
「色白でブロンドの髪で青い目で」
「お顔立ちも整ってて」
「お人形さんみたいだからね、普通でも」
「それがその服装で」
「余計にそう見えるのよね」
「この服はゴスロリっていいます」
 ナターシャはお話する二人いこう言いました。
「日本のファッションですけれどロシアにも入ってきまして」
「それでナターシャが着てるのね」
「そうなのね」
「そうです、お母さんが私が六歳の時に着せてくれて」
 ナターシャはロシアにいた時のことからお話しました。
「その時の格好に私もお母さんも凄く気に入って」
「それで今も着てるのね」
「日本に来てからも」
「オズの国でも」
「着ているのね」
「寝る時と体育の時以外はいつもこの服です」
 ナターシャは二人にこのこともお話しました。
「体育の時は汚れますから」
「体育って学校の」
「はい、その時はです」
「体操服よね」
「上は白の体操着か黒のジャージで下は黒の半ズボンかジャージのズボンです」
「そこでも黒なのね」
「黒が好きなので」
 ナターシャはアンに答えました。
「ですから」
「そうなのね」
「体育の時はそうした服です」
 こうお話するのでした。
「その時以外はこの服です」
「あんたの服は目立つね」
 クルマー達もナターシャに言いました。
「王女さん達と同じ位ね」
「目立っているのね」
「うん、そうだよ」
 こう言うのでした。
「わし等から見てもお人形さんに見えるよ」
「ドールハウスにあるみたいな」
「そう、あんな感じだね」
 まさにというのです。
「わし等の国にもあるけれど」
「あんたはその中のお人形さんみたいだよ」
「その顔と服がね」
「本当にそう見えるよ」
「じゃあ私が小さくて動かなかったら」
 その時はとです、ナターシャはクルマー達の言葉も受けて言いました。
「お人形さんそのままかしら」
「そうだね、そう見えるよ」
「まさにね」
「あんたが小さくて動かなかったら」
「本当にお人形だよ」
「そうとしか見えないよ」
「そっちの娘さんもね」 
 クルマー達は恵理香も見ました、そのうえで彼女にも言うのでした。
「かなり可愛いね」
「あんたもお人形に見えるよ」
「黒髪が長くて楚々としててね」
「着物とか似合いそうだね」
「日本の着物がね」
「私日本人だけれど」
 日本の着物の名前が出たところで、です。恵理香はこうクルマー達に答えました。
「だからかしら」
「ああ、あんた日本人か」
「その日本人か」
「じゃあ日本の着物が似合いそうなこともね」
「当然だね」
「それはそうだね」
「そうなるね」
 クルマー達も納得しました、そしてです。
 恵理香にです、こうしみじみと言いました。
「いや、オズの女の子は可愛い娘ばかりだけれど」
「あんた達も可愛いね」
「それもとてもね」
「可愛いじゃないか」
「どっちの娘もお人形さんみたいだよ」
「ここはあんた達のお人形を作ろうかな」 
 クルマーの族長さんは笑ってこんなことも言いました。
「わし等はこうした両手だから無理だけれど」
「車輪の手はこうした時不便だよな」
「全くだよ、手作業には向いていないからな」
「進むことが楽でも」
「それでもな」
「手作業になると」
「これがな」
 クルマー達は自分達のその車輪の手足を見ながら苦笑いにもなりました。その手足では、というのです。
 そうしたことをお話してです、そして。
 そのうえで、です。二人にあらためて言いました。
「だから誰かに作ってもらうよ」
「それでわし等の国の宮殿に飾っておくよ」
「フランス人形みたいにね」
「それかぬいぐるみだね」 
 二人のぬいぐるみもいいというのです。
「ああいうのでもいいね」
「とにかくあんた達は可愛いから」
「お人形みたいだからお人形を作るよ」
「誰かに頼んでね」
「お人形作りだと」
 お人形のお話をここまで聞いてです、ベッツイはクルマー達に言いました。
「マンチキンの国にね」
「いい職人さんがいるんだね」
「人形作りの」
「ぬいぐるみ作りにしてもね」
 そちらもだというのです。
「あの国にいたわよ」
「じゃあこの旅行でマンチキンの国にも行くか」
「そうしようか」
「ここからな」
「それがいいな」
 こう彼等の中でお話するのでした。
「それで二人のお人形さんを作ってもらうか」
「そうしようか」
「ついでにマンチキンの国でも観光して」
「そっちも楽しむか」
「それがいいな」
 こうお話してでした、皆でお話して決めました。ですがここで族長さんが皆にこうしたことを言ったのでした。
「ただな」
「ただ?」
「ただっていうと?」
「わし等は娘さん達の顔のことは知っているぞ」
 今見たからです、そのお顔だけでなく外見全体は服装も。
「けれどな」
「ああ、それでもな」
「マンチキンまで覚えているかどうか」
「覚えていても職人さんに外見のことをちゃんと言えるか」
「それが問題だな」
「そうだよな」
「それなら写真に撮ればいいじゃない」
 彼等にです、アンが言いました。
「あんた達カメラ持ってるの?」
「ああ、一応」
「それぞれ一個ずつ持ってるぞ」
「ちゃんとな」
「持ってるよ」
「それならよ」
 クルマー達のお話を聞いてです、アンはあらためて言いました。
「撮ればいいのよ、二人をね」
「そうだな、写真を撮って」
「そうしてその写真を見せれば」
「それでいいな」
「そうだよな」
「あんた達はどうだい?」
 族長さんはナターシャと恵理香に声をかけました。
「わし等が写真を撮っていいか?」
「はい、別に」
「いいですけれど」
 二人ははっきりと答えました。
「写真でしたら」
「どうぞ」
「それこそ何枚でも」
「是非」
「ただ」
 ここでナターシャはクルマー達の両手を見て言いました。
「クルマーさん達写真は」
「ああ、撮れるよ」
 族長さんがナターシャのその問いにはっきりと答えました。
「そのことは安心していいよ」
「そうなんですか」
「わし等でも慣れればな」
「カメラを使えるんですね」
「そうだよ、こうしてな」
 上着の懐にその車輪の手を入れてです、そこからカメラを出してでした。そのカメラを両手で使ってなのでした。
 族長さんは実際にナターシャを撮りました、その車輪の手を普通の手の様に器用に使ってそうしたのです。
 そのうえで、です。ナターシャに笑顔で言いました。
「この通りな」
「使えるんですね、カメラ」
「この両手で食事も出来るよ」
「そうなんですね」
「こうした身体でもな」
 車輪の手足でも、というのです。
「慣れたら出来るよ」
「そうですか」
「そう、だから」
「カメラも大丈夫なんですね」
「流石に人形とかぬいぐるみを作ることは難しい」
 そうしたことは無理というのです。
「針を糸を使うことは」
「無理ですよね」
「いやいや、車輪の間とかを使ってな」
「針や糸もですか」
「使えるよ、そうして服も作るんだよ」
「ミシンもとかも」
「使うよ」
 族長さんはナターシャににこにことしてお話するのでした。
「苦手でもね」
「ううん、そんなことが出来るなんて」
「ははは、驚いているな」
「オズの国は不思議の国ですから」
 クルマーみたいな人達がいることはわかるというのです、そのことは。ですがこの人達が火を使えるかといいますと。
「ですが針も使えるなんて」
「苦手だよ」
「それでも使えますよね」
「糸もな」
「それが凄いと思います」
「しなければならないことなら誰で身に着けられる」
 針や糸を使わなくてはならないならです、クルマー達も身に着けたのです。
「そうじゃないかい?」
「誰でも」
「だからわし等も針や糸を使える様になったんだよ」
「大変だったですよね」
「うん、苦労はしたよ」
 実際にそうだったというのです。
「これがな」
「そうですよね」
「けれど出来る様になった」
 それはというのです。
「料理とかもな」
「出来るんですね」
「そうだよ、じゃああんた達の写真はね」
「わし等も撮らせてもらうよ」
「是非ね」
 他のクルマー達も言ってでした、そのうえで。
 皆それぞれカメラを出して二人の写真を撮ります、ですが次第に二人だけでなくです。 
 ベッツイやアン、ハンクに猫も撮ってです。さらに。
「あれっ、僕達も」
「僕達も撮ってくれるんだ」
「そうなんだ」
「ここで知り合ったのも何かの縁」 
 族長さんは三人の男の子達に言いました。
「だからな」
「それで、ですか」
「それでなのですね」
「僕達の写真も」
「撮ってな」
 そして、というのでした。
「後は」
「僕達のお人形もですか」
「作ってくれるんですか」
「そうしてくれるんですね」
「気が変わってな」
 最初はナターシャと恵理香だけでしたがそれがというのです。
「そうさせてもらうよ」
「じゃあお願いします」
「撮って下さい」
「是非共」
 三人もにこりと笑って応えます、そして。
 クルマー達は一行の写真を全て撮ってでした、充分過ぎる程撮ってからでした。族長さんはベッツイに言いました。
「それじゃあね」
「これからマンチキンの国に行くのね」
「そうするよ。ただ」
「ただ?」
「その途中エメラルドの都に入るけれど」 
「カドリングからマンチキンに行かないのね」
「都も観光したいからね」
 それでというのです。
「あそこにも寄るよ」
「そうですか、だからですか」
「そうさせてもらうよ、だからね」
「オズマ達に伝えたいことがあれば」
「わし等が伝えておくよ」
 エメラルドの都に来たその時にというのです。
「だから何かあるかい?」
「ないわ」
 特にと返したベッツイでした。
「アン王女と一緒になった位かしら」
「じゃあそのことを伝えておこうかい?」
「けれどそのことはオズマも鏡で知ってるから」
「ああ、王宮の」
「そう、オズの国の中なら何でも見られる鏡でね」
「あれがあるならわし等が伝えなくてもいいか」
 族長さんはベッツイの言葉を聞いて考えを変えました。
「それなら」
「そうなるわね、けれどね」
「けれど?」
「気持ちは受け取らせてもらったわ」 
 族長さんの好意はというのです。
「有り難う」
「いやいや、礼には及ばないよ」
「ただ。折角の族長さんのご好意よ」
 アンはベッツイに横から言いました。
「だからね」
「お願いしたらどうかっていうのね」
「ええ、族長さんは都に行かれることは間違いないし」
「そうね、だったらね」
 ベッツイはアンの考えを受けてです、族長さんにあらためてこう言いました。
「じゃあ私達は凄く楽しんでるってね」
「そう伝えて欲しいんだね」
「お願い出来るかしら」
「お安い御用だよ」
 族長さんはベッツイに笑顔で答えました。
「それじゃあね」
「ええ、お願いするわ」
「これからエメラルドの都に行くよ」
「メリーゴーランドマウンテンには気をつけてね」
「あそこは行かないよ」
 最初からというのです。
「別の道を選ぶよ」
「そうね、それがいいわね」
「あそこの厄介さはわし等も知ってるよ」
 族長さんは少し苦笑いになってベッツイに言いました。
「何かとね」
「そう、近道をしたいなら別だけれど」
「そうでないとね」
「あそこは出来るだけ入らない方がいいわ」
「さもないと大変な目に遭うのはこっちだからね」
「そう、だからね」
 それで、というのです。
「あそこは行かないに限るわ」
「全くだね」
「じゃあエメラルドの都に行ったらね」
「オズマ達に伝えておくよ」
 こうお話してでした。クルマー達は皆と別れてです。
 ベッツイ達は真実の池に再び向かいました、その途中で。
 ベッツイは目の前にあるものを見付けました、それはといいますと。 
 煉瓦の道の傍に咲いているお花でした、そのお花は薔薇でした。道の傍に野薔薇の園があったのです。
 その野薔薇達を見てです、ベッツイは皆に笑顔で言いました。
「これはいいわね」
「黄色い薔薇ね」
 アンも笑顔で応えます。
「幸せの」
「黄色い薔薇は幸せのお花だから」
「だからね」
「いいことがあるわね」
「そう、この薔薇を見れば」
 それで、というのです。
「幸せが訪れるわ」
「そうよね、じゃあ真実の池に行けば」
「お花が見付かるわ」
「そしてそのお花を摘んでね」
 アンは笑顔で言うのでした。
「ウーガブーの国に戻って」
「そうしてね」
「あの人の病気を治して」
 そして、とです。アンはさらに言いました。
「貴女にもね」
「ジャムをね」
「プレゼント出来るわ」
「そしてそのジャムをね」
「貴女がおじさんとおばさんにプレゼントするのね」
「そうなるわね」 
 こう二人で笑顔でお話するのでした。
「プレゼントしてもらってプレゼントをする」
「面白いわよね」
「それが世の中なのね」
「何でもつながっていてね」
「回っているのね」
 黄金の林檎のジャムのこともです。
「つながっていて回っている」
「そういうものなのね」
「そうですね、確かに」
 ナターシャも二人のお話を聞いて頷くのでした。
「世の中って何でもそうですよね」
「つながってるでしょ」
「そうして巡り巡って回っているものよね」
「ですね、面白いです」
 ナターシャもそのことがわかったのです。
「世の中はそうなんですね」
「そうよ、だからね」
「私達も真実の池に行ってね」
「そしてなの」
「お花を摘んでね」
 その銀色の菖蒲をです。
「それからウーガブーの国に戻って」
「黄金の林檎のジャムを作って」
「そしてそれをね」
「おじさんとおばさんにプレゼントするのよ」
「何かが起こってそこからどんどん動いて回っていく」
 また言ったナターシャでした。
「確かに面白いですね」
「幸せもそうよ」
 今ベッツイが言ったそのこともというのです。
「何が一つが起こってね」
「そこからですね」
「どんどん巡っていってね」
「そして、ですね」
「幸せになっていくのよ」
 ナターシャにです、ベッツイは笑顔でお話しました。
「そうしたものなのよ」
「幸せは一つじゃない」
「何かからはじまってね」
「巡り回って、ですね」
「なっていって、それは一つじゃなくて」
「幾つもあって」
「どんどん大きくなっていったりもするのよ」
 そしてこうも言ったベッツイでした。
「雪ダルマみたいなものかしら」
「最初は小さくても」
「雪ダルマはどんどん大きくなっていくわよね」
「そうして作っていきますね」 
 雪を徐々にです、小さな雪玉に巻いていってそうして大きくさせていきます。ナターシャもそのことがわかっているのでベッツイに応えました。
「それで幸せも」
「そういうことなのよ」
「若しくは玉突きね」
 アンはこちらを例えに出しました。
「一つの玉を突いたらね」
「他の玉を突いて動かしていく」
「そういうものかもね」
「幸せは、ですね」
「そう、一つ一つがね」
「連鎖するんですね」
「そういうものでもあると思うわ」 
 アンが言うのはこうしたことでした。
「一つでははじまらないし終わらないものなのよ」
「今回も」
「というかあたし達っていつもそうなのよね」
 猫もここで言うのでした。
「何か小さなことからはじまってね」
「それがつながって大きくなっていって」
「巡って回って」
「それで」
 そうした先にというのです、ナターシャも。
「私達も」
「大きな幸せになるの、そしてさらにね」
「その大きな幸せが」
「また大きくなるのよ」
 そうしたものだというのです、こうしたお話もしてです。
 一行はさらに先に進みました、真実の池までの道を。



真実の池に向かって進む一行と。
美姫 「結構、道のりが長いみたいね」
だな。日数的にはギリギリかと言っていたが
美姫 「歩いている時間が長いから距離は稼いでいるみたいだしね」
なら、少しは余裕があるのかな。
美姫 「どうかしらね。兎に角、このまま何事もなければ間に合うのでしょうけれど」
一体どうなるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
待っています。



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