『オズのベッツイ』




                  第一幕  探しものがなくて

 恵里香達五人はまたオズの国に来ていました。
 五人はドロシー、そしてベッツイ=ボビンと一緒でした。ナターシャはお茶を飲みながらそのベッツイに言うのでした。
「そういえばこれまで、ですね」
「どうしたの?」
「はい、私達ってベッツイさんとあまりお話したことがありませんでしたね」
「そういえばそうね」
 ベッツイも言われてこのことに気付きました。
「私達ってね」
「そうですよね」
「ええ、言われてみればね」
 そうだとです、ナターシャに答えるベッツイでした。
「貴方達はドロシーとはよく一緒にいるけれど」
「ベッツイさんとは」
「ですからこうしたお話していると」
「楽しいのね」
「はい、ベッツイさんもいい人ですね」
「あら、お世辞はいいわよ」
「お世辞じゃないです」
 それは違うとです、ナターシャは答えました。
「本当に」
「私がいい人って言ってくれるのね」
「そうよ、ベッツイはいい娘よ」
 ドロシーもにこりと笑って五人に言うのでした。
「とても明るくて気さくでね」
「そうですよね、一緒にいてとても楽しいです」
「そうよね、だから私もベッツイが大好きなの」
 ドロシーもにこにことして五人にお話します。
「冒険に出る時以外はいつも一緒にいるわ」
「ベッツイさんは冒険は」
「時々行くわ」
 ベッツイは今度は恵里香に答えました。
「ドロシー程じゃないけれどね」
「そうなんですね」
「ドロシーは本当に冒険が好きだから」
 旅行がです、ドロシーにはそのまま冒険になるのです。
「そのドロシーと比べたらね」
「ベッツイさんはですか」
「ええ、そんなに冒険しないわ」
 そうだというのです。
「ドロシーは本当にいつも冒険に出るから」
「私オズの国に来てからね」
 その時からとです、ドロシーはベッツイに答えました。
「冒険が大好きになったのよ」
「昔はそうじゃなかったんだよ」
 ドロシーの足元からトトが五人にお話しました。
「カンサスにいた時はね」
「そうだったのね」
「うん、あの時は冒険とかはね」
「全く縁がなかったの」
 ドロシーも言うのでした、このことを。
「本当にね」
「それがなんですね」
「オズの国に来て。変わったわ」
 ドロシーはまたナターシャ達にお話しました。
「性格もね」
「そういえばドロシーさんの性格って」
「そうそう、昔はね」
「ボームさんの年代記ではね」
 ジョージと神宝にです、カルロスが言います。
「もっと大人しくて」
「活発じゃなかったね」
「慣れていなかったっていうか」
「そう、もう少し後ろ向きだったわ」
 かつての自分のことをです、ドロシーはこう言いました。
「昔の私はね」
「そうですよね、昔のドロシーさんは」
「もう少し、でしたよね」
「大人しめでしたよね」
「時々言われるの」
 周りの人達からというのです。
「私どんどん活発になってるって」
「はい、そう思います」
「冒険の旅に」
「前向きにもなっていますし」
「どんな辛いことがあってもね」
 本当にです、ドロシーはその冒険の中で沢山危険な目に遭っています。ですがその危険な目をいつも様々な要因で乗り越えているから言うのでした。
「それは乗り越えられるのよ、だからね」
「ドロシーさんもですね」
「前向きになられたんですね」
「以前よりも」
「そうなの」
 こう笑顔で答えるのでした、五人に。
「冒険はするものよ」
「例えどんなことがあっても」
「それでもですね」
「大変な目に遭うとしても」
「それが後でいい思い出になるのよ」
 苦難もまた、というのです。
「だから私はよく旅に出るの」
「そうなのよ、ドロシーはオズの国一の冒険者でもあるのよ」
 ベッツイも言うのでした。
「王女であると共にね」
「そうなんですね、ドロシーさんは」
「そうした方なんですね」
「ドロシーがオズの国を冒険してね」
 それこそです、ドロシーはこれまでオズの国中を冒険してきています。その数々の冒険が王室の年代記に書き残されています。
「オズの国の沢山のことがわかったのよ」
「そういえば」
 ここで、です。ナターシャも気付きました。
「オズの国って物凄く色々な人がいて場所があって」
「わかっていないことも多かったわよね」
「死の砂漠の外だった場所も」
 今は大陸全体が砂漠に覆われていますがかつては違いました。リンキティンクの国なんかはオズの国の外にあったのです。
「そうでしたね」
「そうした人や場所がね」
「ドロシーさんの冒険によって」
「そう、わかったのよ」
 そうだったというのです。
「色々とね」
「それじゃあドロシーさんのオズの国への貢献は」
 冒険によるそれはです。
「相当なものですね」
「そうよ、だからドロシーはオズの国の功労者でもあるのよ」
「私何もしてないわよ」
 ベッツイの言葉にです、ドロシーは笑ってこう言うのでした。
「功績とかそんなことは」
「あら、していないの?」
「ええ、何もね」
 これがドロシーの言葉でした。
「していないわ」
「それは謙遜じゃないの?」
「謙遜じゃないわ」
 やっぱりこう言うのでした。
「だって。私はただ旅がしたくてね」
「それで宮殿を出て、だからなのね」
「そう、冒険は好きだけれど」
 それでもというのです。
「何か目的を持ってしてはいないしいつも私だけじゃないから」
「僕が一緒のことも多いしね」
 トトがここでも言ってきました。
「最初にこの国に来た時もそうだったし」
「そうね、トトはよく私と一緒にいてくれるからね」
「だって僕はドロシーの一番古い友達だよ」
 それこそです、カンサスにいた時からの。
「だから僕が一緒じゃないとね」
「寂しいからね」
「僕が宮殿に残ることになったりもしているけれどね」
 多くの場合はなのです、ドロシーとトトは。
「僕達は一緒だよ」
「冒険の時はね」
「大抵はね」
「トトもいてくれてね」
 ドロシーは五人にさらにお話します、そのトトの頭を撫でてあげながら。
「かかしさんもいてくれて木樵さんもいてくれて」
「他にもその冒険の都度、よね」
 ベッツイはまた微笑んでドロシーに言いました。
「色々な人と一緒に冒険しているからよね」
「そう、私だけで冒険に行ったことはないわ」
 それがドロシーの冒険なのです。
「いつも誰かが一緒にいてくれて助けてくれてきているから」
「だからですか」
「ドロシーさんの旅は、ですか」
「ドロシーさんの功績じゃない」
「そう仰るんですね」
「そうよ、むしろピンチを招くのが私でね」
 ドロシーが何をしていなくてもです。
「皆が助けてくれているの」
「それでドロリーさんの功績じゃない」
「そう言われるんですね」
「そう、私は何もしていないの」
 やっぱりこう言うドロシーでした。
「だって何も出来ないから」
「けれどその好奇心と前向きさが」 
 ナターシャがそのドロシーに言います。
「そのピンチを解決させてもきていますよ」
「そうかしら」
「はい、ドロシーさんだからこそ」
「物事が解決したこともあるのね」
「私はそう思いますけれど」
「だといいけれどね。ただ私はね」
 また言うドロシーでした。
「功績って言ってもらっても」
「その功績はですか」
「功績とは思っていないわ」
 そうだというのです。
「全くね」
「そうなんですね」
「ええ、これまでお話した理由でね」
 そう考えているからというのです。
「私はただ冒険をしているだけよ」
「それじゃあこれからもですね」
「そうよ、またね」
 時間があればというのです。
「私冒険に出るから」
「何かドロシーさんと一緒にいますと」
 恵里香が言います。
「私達いつも冒険に出ていますね」
「そうね、何かが起こってね」
「はい、いつも」
「そうした巡り合わせね、ただ今回はね」
「ドロシーさんは旅に出られないんですね」
「暫く。エメラルドの都で式典があって」
 ドロシーは恵里香にです、どうして旅に出られないのかをお話するのでした。
「それの用意があるの」
「式典っていいますと」
「ヘンリーおじさんとエムおばさんの結婚記念日のお祝いよ」
「あっ、ドロシーさんを育ててくれた」
「そう、もうすぐお二人の結婚記念日だから」
 それで、というのです。
「それに出ないといけないし用意があるから」
「ドロシーさんが出ないとですよね」
「おじさんとおばさんが私を育ててくれたからね」
 ドロシーはにこりと笑って五人にこのことをお話しました。
「だから絶対に出ないとね」
「駄目ですよね」
「そう、だからね」
 それでというのです。
「私は芝r買う旅行に出ないでね」
「式の用意に専念されるんですね」
「トトと一緒にね」
 今度はトトを腕の中に抱き寄せて優しく抱っこしてあげながら言うのでいsた。
「そうしないといけないから」
「じゃあ私達も」
「いえ、オズの国は不思議の国よ」
 ドロシーは微笑んで恵里香にこう答えました。
「いつも何かが起こる国でしょ」
「だからですか」
「そう、しかも貴方達が来たらいつも何かが起こるじゃない」
「そういえばそうなんですよね」
「不思議と」
 ジョージと神宝はドロシーのその言葉に首を縦に振りました。
「僕達がオズの国に来たら」
「僕達いつも冒険に出ています」
「最初の時からそうでしたし」
「これまでいつも」
「そう、だからね」
 それでというのだ。
「今回もそうなるんじゃないかしら」
「けれど今回は」 
 カルロスもドロシーに言います。
「ドロシーさん出られないですよね、お外に」
「冒険をするのは私だけじゃないわよ」
「ドロシーさん以外の人とですか」
「オズの国には沢山の人がいるじゃない」
「はい、本当に沢山の人が」
「この宮殿にもね」
 特にこの宮殿に集まる人達は独特です、オズの国の中でもとりわけ個性的な人達が出入りしている場所でもあるのです。
「いるでしょ、だからね」
「それでなんですね」
「そう、その誰かと一緒に旅行に出ることになるかも知れないわよ」
「だとしたら誰と」
「さて、私もそこまではわからないわ」
 ドロシーもこまではでした。
「けれど貴方達はどうもこの国に来たらいつも冒険することになっているみたいだから」
「今回もですね」
「何かあると思うわ」
 要するに冒険の旅に出ることになるのではというのです。
「私の勘ではね」
「ドロシーさんの勘って当たりますから」
 ナターシャが考えるお顔で言います。
「私達はまた、ですね」
「そうね、旅に出るわね」
 ベッツイも言ってきます。
「そうなると思うわ」
「今こうして皆で宮殿にいてもですね」
「だから。常に何かが起こる国だから」
 ベッツイもこのことを言うのでした。
「明日はわからないわよ」
「明日冒険に出て」
「そうして」
「そう、楽しく遊びましょう」
「ベッツイさんが一緒になれば」
「どうなるかわからないけれどね」
 先のことはわからないからです、ベッツイはここではこう言いました。
「そうしましょうね、そして今はね」
「はい、今は」
「お菓子と紅茶を楽しみましょう」
 今そうしている様にというのです。
「こうしてね」
「わかりました」
「この紅茶美味しいわね」
 ベッツイは紅茶を飲みながらナターシャにその感想を述べました。
「ジャムを舐めながら飲むとね」
「ロシア式ですね」
「ナターシャに教えてもらったけれど」
「いいですよね、この飲み方」
「ええ、とても美味しいわ」
 スプーンに執ったジャムを舐めてから紅茶を飲みつつです。ベッツイはナターシャににこにことして言うのでした。
「こうした飲み方もあるのね」
「ロシアではこうして紅茶を飲むんです」
「最初はジャムを紅茶の中に入れると思っていたけれど」
「それは日本のロシアンティーです」
 ナターシャは恵里香を見つつベッツイに説明します。
「あの飲み方も美味しいですけれど」
「うん、私実はね」 
 その恵里香がナターシャに応えます。
「ロシア人ってそう飲むと思っていたのよ」
「けれどそれが違うの」
「舐めながら飲むのね、ジャムを」
「そうなの、お茶の中に入れるんじゃなくて」
「どうも日本に間違って伝わったのね」
 そのロシアの紅茶の飲み方がです。
「そうなのね」
「ええ、ただね」
「ただ?」
「さっきも言ったけれど日本のロシアンティーも美味しいわ」
「ナターシャも気に入ってくれたのね」
「あの飲み方もね」
 そうだとです、ドロシーに答えるナターシャでした。
「大好きよ」
「そうそう、そういえばね」
 ここでなのでした、ベッツイが気付いたお顔になってドロシーに言いました。
「ヘンリーおじさんとエムおばさんの結婚記念日の式典だけれど」
「どうしたの?」
「私からの贈りものはね」
 このことについてです、ベッツイはドロシーに笑顔でお話するのでした。
「ジャムよ」
「そのジャムなのよ」
 これが贈りものだというのです。
「ウーガブーの国のね」
「アン女王の」
「そう、あの人にお願いして特別に黄金の林檎でジャムを作ってもらったの」
「あら、あの黄金の林檎でなの」
「そうなの、ギリキンの国でも稀少なね」
 ウーガブーの国はギリキンの国にあります、つまりアン女王はブリキの木樵が皇帝として治めているその国の中にある国の女王なのです。
「あの林檎でジャムを作ってもらったの」
「あの林檎凄く美味しいけれど」
「その林檎のジャムよ」
「それをおじさんとおばさんに贈ってくれるのね」
「どうかしら」
「おじさん達絶対に喜んでくれるわ」
 ドロシーはベッツイに晴れやかなお顔で答えました。
「二人共林檎もジャムも大好きだから」
「じゃあ丁渡いいわね」
「ええ、楽しみにしているわ」
「今それを持って来るわね」
「ジャムを?」
「丁渡私のお部屋に保管しているの」
 そしてそのジャムをというのです。
「だからドロシーとナターシャ達におじさん達に贈る前に見せるわね」
「そのジャムって何に入ってるの?」
 このことをです、トトはベッツイに尋ねました。
「黄金の林檎で作ったジャムは」
「ええ、割れないガラスの瓶に入ってるわ」
「それでそのジャムをだね」
「ええ、持って来るわね」
 今からだと言ってです、そしてなのでした。
 ベッツイは一旦お部屋に戻ってそのジャムを持って来ようとしました。ですが。
 何とです、ベッツイはドロシー達のところに戻ると残念そうに言いました。
「御免なさい、ないわ」
「ないって?」
「ないっていいますと」
「そのジャムがないの」 
 そうだというのです。
「黄金の林檎のジャムがね」
「あれっ、ベッツイさんのお部屋にあるんですよね」
「棚の中にね。置いたのよ」
「それがなんですか」
「そう、ないのよ」
 こう恵里香にも答えます。
「これがね。そういえばね」
「そういえばっていいますと」
「黄金の林檎は魔法にも使えるから」
「魔法に、ですか」
「魔法使いさんとグリンダにね。あげたわ」
 そうしたというのです。
「三日前に」
「そうだったんですか」
 ナターシャはこのことを聞いて言いました。
「じゃあ今は魔法使いさんとグリンダさんが持っておられるんですね」
「そう思うわ」
「じゃあ。返してっていうのもですよね」
「よくないわよね」
「どうしますか?それで」
「そうね、ジャムがないならね」
 それならと言うベッツイでした。
「他のものにしようかしら」
「黄金の林檎のジャム以外のものを」
「さて、何がいいかしらね」
 今度はこう言うのでした。
「おじさん達への贈りものは」
「何でも心のこもったものなら喜んでくれるわよ」
 ドロシーはベッツイにこうお話しました。
「贅沢なものよりもね」
「心のこもったものね」
「おじさん達は質素だから」
 贅沢なものに価値を見ずにです、贈りものをしてくれる人の心を大事にする人達だというのです。流石はドロシーの育ての親でしょうか。
「だからね」
「そうなのね、それならね」
 ベッツイはドロシーの言葉を聞いてこう言いました。
「ちょっと考えてみるわね」
「何を贈るか」
「式まで日はあるし」
 時間的な余裕はあるのです、今のベッツイには。
「だからね」
「これからなのね」
「そう、一日かけて考えてみるわね」
「ベッツイの気持ちをね」
 ドロシーはそのベッツイにアドバイスしました。
「贈ってね。おじさん達に」
「わかったわ、そうするわね」
「ええ、それじゃあね」
「さて、何かよね」
 また言うベッツイでした。
「具体的には」
「おじさん達が喜んでくれてベッツイさんのお心がこもったもの、ですか」
 ナターシャもベッツイに言って来ました。
「さて、それは」
「何がいいかしらね」
「こうした時はですね」
 ふと閃いてです、ナターシャはこうベッツイに言いました。
「ベッツイさんといつも一緒にいてくれている」
「ハンクね」
「はい、ハンクも呼んで意見を聞いてはどうでしょうか」
「そうね、ハンクと相談したらね」
 それならとです、ベッツイもナターシャに応えて言います。
「どんな問題も解決するから」
「ベッツイさんの場合はそうですよね」
「ハンクは何でも相談に乗ってくれてね」
 そして、というのです。
「いい答えを出してくれるのね」
「ですから」
「わかったわ、それじゃあね」
 ベッツイはナターシャの提案に笑顔で答えてでした、そのうえで。
 すぐにハンクを呼びました、ハンクはお部屋に入ってベッツイから事情を聞いてです、こうベッツイに答えました。
「それならおじさん達の好きなものをあげればいいんだよ、ベッツイが持って来てね」
「おじさん達がなのね」
「そう、黄金の林檎のジャムにしたのはおじさん達が好きだからだよね」
「ええ、おじさん達が林檎もジャムも好きだからね」
「それならだよ」
「おじさん達が好きなものを」
「うん、あげよう」
 これがハンクの提案でした。
「そうしよう」
「わかったわ、それじゃあそうするわね」
 ベッツイはハンクのアドバイスに笑顔で頷きました、そしてです。
 ベッツイはドロシーにです、あらためて言いました。
「おじさん達の好きなものはね」
「もうベッツイも知ってるわよね」
「ええ、よくね」
 長いお付き合いです、だから知っています。
「知ってるわ」
「じゃあその中から選ぶのね」
「そうするわ、そうね」
 ここでベッツイは腕を組んで考えました、そしてなのでした。
 あらためてです、その場にいる皆に言いました。
「やっぱりね」
「ジャムにするの?」
「それも黄金の林檎のね」
 まさにそれにするというのです。
「そうするわ」
「ウーガブーの国から贈ってもらった」
「そうするわ、ただね」
「ええ、ただよ」
「黄金の林檎は稀少なもので」
 このオズの国でもです。
「ウーガブーの国にはあるけれど」
「逆に言うと確かにあるのはね」
「ええ、あの国だけよ」
 そうだというのです。
「そしてあの国にね」
「確かなジャム職人の人がいるのよね」
「そうなの、だからもう一度お願いしようかしら」
「ウーガブーのアン女王に」
「そうしようかしら」
「そうね、黄金の林檎のジャムを贈りものにするのならね」
 それならとです、ドロシーもベッツイにお話します。
「それがいいわ」
「そうよね、じゃあお手紙を書いてね」
「アン女王に送ってそうして」
「また作ってくれる様お願いするわ」
「そういうことでね」
「さて、これでお話は終わりね」
 あっさりと言ったベッツイでした。
「これでね」
「ええ、何か今回は無事に済んだわね」
「いつもこうしたお話になるとね」
「冒険になるからね」
 オズの国、特にドロシーと彼女の周りではそうです。
「それが残念ね」
「やっぱりドロシーは冒険がしたいのね」
「ええ、少しね」
 実際にそうだと答えるドロシーでした。
「式典が終わるまでは宮殿から離れられないけれど」
「今は仕方ないわね」
「身体を動かしたくなったらスポーツをしようかしら」
「クリケットでもどう?」
 ベッツイは笑ってこのスポーツを勧めるのでした。
「これは」
「あっ、いいわね」
「ドロシークリケット好きだしね」
「ええ、野球やバスケットボールが一番好きだけれど」
 流石はアメリカの女の子です、ドロシーはスポーツも大好きなのです。
「最近はね」
「クリケットもよね」
「好きになってきたわ」
「だからね」
 それで、というのです。
「身体を動かしたくなったらするといいわ」
「そうするわね」
「身体を動かさないとね」
「そう、オズの国でもね」
 決して死ぬことのないこの国でもです。
「健康であるべきだから」
「それに汗を流すと気持ちいいから」
「いいのよね、じゃあね」
 式典が終わるまではというのです。
「身体を動かしたくなったらそうするわ」
「そういうことでね」
「じゃあベッツイは」
「ええ、私はね」
 ベッツイはドロシーの問いに笑顔で答えました。
「ウーガブーの国に行こうかしら」
「貴女自身で行くのね」
「そうしようかしら」
「さっきお手紙か何か送ってって言わなかった?」
「ううん、最初はそう考えていたけれどね」
「考えが変わったのね」
「そう、冒険をしたくなったわ」
 ドロシーが普段している様にというのです。
「だから行って来るわ」
「じゃあ僕もね」
 ハンクもです、ベッツイの言葉を聞いて言いました。
「一緒に行くよ」
「ハンクも来てくれるの」
「だって。ベッツイと僕は友達じゃない」
「オズの国に入る前からのっていうのね」
「一緒に筏に乗ってオズの国に辿り着いたじゃない」
 ベッツイとハンクの絆はそれだけにかなり深く強いものなのです、この時にお互いを守り合って助かったからこそ。
「だからね」
「それでなのね」
「うん、僕はいつもベッツイと一緒だよ」
 ハンクはにこりと笑ってベッツイに言うのでした。
「それじゃあいいかな」
「うん、わかったわ」
 笑顔で、でした。ベッツイはハンクに応えました。
「それじゃあ宜しくね」
「うん、この旅もね」
「一緒に行きましょう、ハンクがいれば安心出来るわ」
「そうだよね、僕もベッツイが一緒だとね」
「安心出来るのね」
「ベッツイが心配だし」
 そして、というのだ。
「それに旅は人が多い方が楽しいじゃない」
「そのこともあるからなのね」
「提案したんだ」
 一緒に旅をしようとです。
「僕の背中に乗って旅をしようね」
「そうさせてもらうわ」
「何か面白いことがあるの?」
 ベッツイとハンクのお話がまとまったところで、でした。お部屋にガラスの猫が入って来ました。頭と胸にある宝石が今も動いています。
「随分楽しそうにお話してるけれど」
「ええ、これからベッツイがウーガブーの国に行くことになったの」
 ドロシーがガラスの猫にお話します。
「黄金の林檎で作ったジャムを貰いにね」
「ヘンリーおじさんとエムおばさんの結婚記念日への贈りものね」
 猫はこのことをすぐに察して言いました。
「その為になのね」
「あら、わかったのね」
「私の脳は特別なのよ」
 猫はその赤い、ガラスの身体から見えている脳を皆に誇らしげに見せながら言うのでした。
「だからね」
「わかったっていうのね」
「そうよ、かかしさん程じゃないけれど」
 流石にです、オズの国一の賢者程ではないといのです。この猫ですらそこまでは言いません。
「私だって頭がいいのよ」
「その頭が動いてくれてね」
「その通りよ、だからわかったのよ」
「それでだけれど」
「ええ、ウーガブーの国ね」
 猫もこの国のことを言うのでした。
「エメラルドの都からあの国に行くとなると大変よ」
「そうよね、遠いし」
「その間に色々な場所や人がいるわよ」
「ギリキンの国はまだそうなのよね」
「そう、そこにベッツイとよね」
 猫はここでベッツイを見ました、そして。
 ハンクも見てです、こうも言いました。
「ハンクも言うのね」
「うん、僕も行くよ」 
 おの通りだとです、ハンクは猫の問いに笑顔で答えました。
「ベッツイと一緒にね」
「そうなのね、あそこまで行くとなると」
 それならとです、猫はその目をくるくると動かしてそのうえでこうしたことも言いました。
「面白そうね、私も行こうかしら」
「貴女も冒険の旅に来てくれるの」
「面白そうだからね」
 だからとです、猫はベッツイに答えました。
「一緒に行ってあげるわ」
「そう、それじゃあ一緒に行きましょう」
「これで一人と二匹ね。ただね」
 ここでこうも言った猫でした。
「私は食べる必要がないから」
「その心配はいらないわね」
「ええ、このことは憶えておいてね」
「私とハンクの分だけでいいわね」
「僕はその辺りの草を食べるから」
 ハンクはベッツイにこのことをお話しました。
「だからね」
「それじゃあなのね」
「そう、用意するのはベッツイの分だけでいいよ」
「わかったわ、私の分の食べものと旅の道具だけを用意するわ」
「あら、一人だけなの?」
 ドロシーはハンク達とお話するベッツイにでした、笑顔で尋ねました。
「それは」
「一人っていうと」
「だから。ベッツイの分だけでいいの?用意するのは」
「そうね、そうよね」
 ベッツイはドロシーのその問いにです、すぐに気付いてでした。
 そうしてです、恵里香達に顔を向けて彼女達に尋ねました。
「貴女達もどうかしら」
「ウーガブーの国までの旅にですね」
「私達もですね」
「ええ、どうかしら」
 こう言って五人にお誘いをかけるのでした。
「それは」
「ご同行していいですか?」
「貴女達さえよかったらね」
 恵里香達の考えを尊重するというのです。
「一緒に来てくれるかしら」
「お誘いして頂けるなら」
 それならとです、恵里香が応えてです。
 そうしてでした、五人共言うのでした。
「お願いします」
「是非一緒にウーガブーの国まで」
「あの国にも一度行ってみたかったです」
「ですから是非」
「僕達も」
 恵里香だけでなくナターシャ、ジョージ、神宝、カルロスも言ってでした。五人はベッツイの旅に同行させてもらうことになりました。
 五人のその言葉を受けてです、ベッツイは笑顔になって言うのでした。
「賑やかで楽しい旅になりそうね」
「そうだね、五人が入ったからね」
 ハンスもにこにことしてベッツイに応えます・
「余計に楽しくなるね」
「まあ。私的にはね」
 ガラスの猫の言葉はといいますと。
「私だけでも楽しめるけれどね」
「君だけでしょっちゅうお外に出てるね」
 トトはその猫にこう言いました。
「それであちこちに行ってるよね」
「一人旅も好きよ」
「そして皆で行く旅も」
「嫌いじゃないわ、ではこの面子で行きましょう」
「それじゃあ楽しんできてね」
 トトは猫にこう告げました。
「この旅を」
「そうさせてもらうわ、是非ね」
「僕はドロシーと一緒にいるけれど」
 何といってもドロシーの一番の友達です、それならドロシーと別々にいることはとても考えられないことです。
「君達は楽しんできてね」
「さて、式の用意に取り掛かるわ」
 明るく言うドロシーでした。
「そして式が終わったわ」
「また冒険だね」
「そう考えているわ」
 やっぱり冒険好きです、ドロシーは。
「それじゃあ用意が出来たらね」
「ええ、それが済んだらね」
 ベッツイはそのドロシーに応えました。
「行って来るわ」
「旅の無事があらんことを」
 ドロシーはベッツイに祝福の言葉も贈りました、その言葉も貰ってです。ベッツイは皆と一緒にウーガブーの国に向かうのでした。



オズに来た恵里香達。
美姫 「またしても旅に出る事に」
今後はベッツイと一緒にウーガブーという国に向かうみたいだな。
美姫 「一体何が待っているのかしらね」
次回が気になる所。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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