『オズのムシノスケ』




            第十二幕  楽しいお別れ

 ゆっくり休んでからでした、皆はです。
 大学を発ってエメラルドの都に向かいました、その途中で木樵はふと気付いてです、皆にこんなことを言いました。
「おっと、一つ忘れていたことがあったよ」
「どうしたの?」
「うん、身体に油をさすことをね」
 そのことをとドロシーに答えるのでした。
「忘れていたよ」
「あっ、そうだったの」
「だからね」
 それで、というのです。
「歩きながらで出来るけれどちょっと待ってね」
「油をさすのね」
「これを忘れるとね」
 それこそというのです。
「僕は動けなくなるからね」
「そうだったわね、それじゃあね」
 ドロシーはにこりと笑って木樵にこう言いました。
「木樵さんはそのまま歩いててでいいから」
「ドロシー嬢がだね」
「ええ、さしてあげるわ」
 その油をです。
「そうしていいわよね」
「お願いするよ、それじゃあね」
「ええ、今からね」
 ドロシーは木樵からその油さしを受け取ってでした、そのうえで。
 歩いている木樵の関節のあちこちに油を入れました、実に慣れた動きです。それを済ませてからでした。
 木樵にです、笑顔でこう言ったのです。
「済んだわ」
「有り難う」
「これで今日も安心して動けるわね」
「いや、僕は食べなくても飲まなくてもいいし」
「寝ることも休むこともね」
「一切しなくていいけれど」 
 それでもだというのです。
「油さしを忘れたらね」
「動けなくなるのよね」
「そうなんだよね、これが」
「それだけがですよね」
 カルロスもその木樵に笑顔で言います。
「木樵さんの弱点ですね」
「うん、油をささないとね」
「動けなくなることが」
「それで動けなくなって助けてもらったことがね」
「ドロシーさんとの出会いにもなりましたね」
「あの時ドロシー嬢に会わなかったら」
 そうしていたらどうなっていたか、木樵はしみじみとして言うのでした。
「僕はずっとあそこにいたままかもね」
「そうなっていかたも知れないんですね」
「本当にね、ドロシー嬢は僕の救世主だよ」
 木樵はドロシーを見つつ言うのでした。
「有り難い友人だよ」
「それは僕についてもだよ」
 かかしも言うのでした。
「僕もずっと畑で寂しくいたよ」
「それが、でしたね」
「ドロシー嬢と会ってからだね」
「今のかかしさんがあるんですよね」
「そうだよ、だから僕にとってもね」
 ドロシーはというのです。
「救世主だよ」
「そうなんですね」
「そう、本当にね」
 こう言うのでした。
「今の僕達はドロシー嬢との出会いからだよ」
「その私も」
 他ならぬドロシーも言うのでした。
「皆と出会えて」
「そうしてなんですね」
「今の私があるのよ」
「ドロシーさんもですね」
「そのはじまりは竜巻からだったわ」
 全てはそこからでした。
「カンサスにいて竜巻でここまで運ばれて」
「あの時は本当にびっくりしたけれどね」
 その時から一緒だったトトの言葉です。
「けれどね」
「あの時からだったね」
「オズの国に最初に来て」
「こうして皆と一緒にいるんだよね」
「偶然からはじまったけれど」
「凄いことになってるね」
「偶然は非常に面白いものだよ」
 まさにと言ったのは教授でした。
「予測出来ない、そして予測出来ない結果を生み出す」
「それが偶然なんですね」
「そうだよ」
 恵梨香にもです、教授は答えました。
「偶然はいつも突然やって来てそうして結果を残していくんだ」
「何時何が起こるのか」
「わからないよ、そしてね」
「そしてですね」
「思わぬ結末に導いてくれるものだよ」
「凄いものなんですね」
「とても凄いよ」
 それが偶然だというのです。
「だから私もね」
「教授もですか」
「偶然について研究しているけれど」
 教授の研究対象の一つだというのです。
「これがね」
「わからないですか」
「どうしてもね」
 それが、というのです。
「偶然程研究して難しいものはないよ」
「そうですか」
「計算出来ること、調べてわかることじゃないからね」
 偶然、教授は考える顔でお話するのでした。
「このことについての研究はこれからも続けるけれど」
「それでもですね」
「答えは出ないかもね」
「若しかして」
 ジョージも腕を組んで考える顔で言いました。
「偶然はこの世で一番難しいものでしょうか」
「その一つかも知れないね」
「偶然ドロシーさんがカンサスで竜巻に遭って」
 ジョージはドロシーを見つつ言うのでした。
「魔女の上に落ちてかかしさんと木樵さんに偶然会って」
「臆病ライオンにも遭ってね」
 ドロシーはこうも言い加えました。
「そうしてね」
「今につながるんですよね」
「一つの偶然からはじまって偶然が続いて」
 その結果なのでした。
「今の私達があるのよ」
「偶然って凄いんですね」
 神宝もしみじみとして言います。
「本当に」
「計算出来ないし予測も出来ないからね」
 教授は神宝にもお話しました。
「だからね」
「凄いものなんですね」
「いい結果になるか悪い結果になるかもね」
「わからないんですね」
「まさに神のみぞ知るだよ」
 何時何処でどういった偶然が起こってどういった結果になるかをです。
「そうしたことはね」
「神様だけですね」
「まさにね」
「そうなんですね」
「だからこそ難しいのだよ」
「研究もしにくいんですね」
「うん、起こる可能性は何時でもあってね」
 そして、なのです。
「起こらないことも普通だから」
「僕達では何の予測も出来ないんですね」
「人間にはね」
 勿論動物達にもです。
「一切わからないよ」
「本当に難しいものなんですね」
 神宝は教授の説明にしみじみとして言いました、そしてでした。
 ナターシャもです、こう言うのでした。
「神様だけが知っていることですね」
「偶然はね」
「人間ではですね」
「わかる筈がないものだよ」
「普通の市民でもですか?」
 ここでナターシャがお話に出した人はといいますと。
「ユー=クー=フーでも」
「そう、あの人でもね」
「オズマ姫でもですね」
「偶然はどうしようもないよ」
「偶然はそれだけ凄いものなんですね」
「魔法で雨を降らせたりすることは出来るよ」
 それは出来ます。
「天気のこともね。けれどね」
「偶然は」
「それは何も出来ないんだよ」
 ユー=クー=フーもオズマもというのです。
「魔法でもね」
「何も出来なくて」
「偶然は受けるだけなんだよ」
「人は」
「だからドロシー嬢もここに来たしね」
 このオズの国にというのです。
「私もオズマ姫に出会えて今に至るのだよ」
「そういえばあれでしたね」
 カルロスは教授の今の言葉にぽん、と手を叩いて言いました。
「教授も本当に偶然に」
「そう、オズマ姫に出会えたのだよ」
「まだ男の子だった頃のオズマ姫にですね」
「あの時はまさか本当は女の子だと思わなかったよ」
「けれどですね」
「その時のオズマとの出会いが今の私を導いてくれたのだよ」
「偶然が」
「私もまた偶然に支配されているのだよ」
 つまり彼も偶然についてはどうしようもないというのです、このことについては。
「ボタン=ブライトもだよ」
「僕もなの」
「君はいつも私達とたまたま会うからね」
「そのたまたまが」
「そう、偶然なのだよ」
 そうなるというのです。
「最初からそうだね」
「私と会った時がまさにそうだったわね)
 ドロシーはボタン=ブライトとのはじめての出会いの時をここで思い出しました、その時もそうだったのです。
「偶然だったわ」
「僕そこにね」
「どうしていたのかも知らなかったわよね」
「うん」
 その通りだったというのです。
「何も」
「他の世界もオズの国も偶然に満ちているのよ」
「偶然は魔法よりも強いんでしょうか」
 カルロスはドロシーに尋ねました。
「そうなんでしょうか」
「そうよ、オズマは魔法を使えるけれど」
「偶然は使えないんですね」
「若し偶然を自由に使えればね」
「物凄い力になりますね」
「魔法よりもね」
「何か偶然を人が動かせる様になったら」
 その時はどうなるか、カルロスは少し考えました。
 そしてです、こう言うのでした。
「ノーム王みたいな人がそうなったら大変ですね」
「そうよね、前のノーム王みたいな人だったらね」
 かつてのあの人が偶然を使えたらでした、それこそ。
「もう大変なことになるわよ」
「悪用したら怖い力ですね」
「魔法よりもずっとね」
「だから偶然はですね」
「動かせることが出来てもね、人が」
 ドロシーもです、カルロス達に考えるお顔でお話します。
「使うべきじゃないわね」
「この上なく恐ろしいものだからこそ」
「それは駄目よ」
「絶対にね」
「そうですよね」
「人が持っていい力とよくない力があるのよ」
 それこそというのです。
「そして偶然がね」
「そうした力に他ならないですね」
「私もそう思うわ」
「そうなんですね」
「ええ、偶然は人が動かす力を持ってはいけないものの一つよ」
 あまりにも凄い力であるが故にです、そうしたことをお話しながらでした。一行は大学からエメラルドの都に向かうのでした。
 やがて草原が青からさっとです、緑に変わって。
 そしてでした、遠くにエメラルドの都が見えてきました。トトはその都を見て尻尾を振って皆に言いました。
「見えてきたね」
「ええ、そうね」
 ドロシーもトトに笑顔で答えます。
「旅に出て一番嬉しい時はね」
「都が見えて来た時だね」
「ええ、この時よ」
 まさに今だというのです。
「帰ったって思えてね」
「そうだよね」
「そしてね」
「うん、都に帰ってだね」
「また皆で楽しみましょう」
 都の中でもだというのです。
「そうしましょう」
「いつも通りね」
「今回もでしたね」
 ここで言ったのはカルロスでした。
「楽しかったですね」
「いやいや、家に入るまでがね」
「旅ですね」
「そう、だからね」
「まだ旅は続くんですね」
「そう、そしてだからね」
 それでだとです、さらに言う教授でした。
「楽しんでいこう」
「わかりました、それじゃあ」
 カルロスは教授の言葉に笑顔で頷いてでした。
 そうして一歩一歩楽しく進んでいきます、残りの旅も楽しみながら。その中でドロシーは皆にこうも言いました。
「御飯はね」
「都に着いてからですね」
「その時にしましょう」
 それからというのです。
「そして宮殿のお料理を皆で食べましょう」
「宮殿のですね」
「カルロスは何を食べたいのかいら」
 その宮殿のお料理のうちで、というのです。
「何でも食べたいものを言ってくれれば作ってもらえるわよ」
「ううん、そうですね」
 そうドロシーに言われてです、カルロスは少し考えてでした。
 それからです、こうドロシーに答えました。
「行ってから考えます」
「その時になのね」
「はい、今はまだ」
「考えられないのね」
「都に入ることだけを考えていて」
 それでだというのです。
「そこまでは」
「そうなのね」
「着いてからでいいですよね」
 何を食べたいか考えることは、と尋ねるカルロスでした。
「別に」
「ええ、いいわよ」
「それでしたら」
「その時に考えて」
「ご馳走になります」
「わかったわ、実は私もね」
 ドロシーにしてもと言うのです。
「これといってね」
「考えていないんですね」
「ええ、宮殿で何を食べようか」
 そうしたことをというのです、カルロスと同じく。
「まだ考えていないわ」
「そうなんですね」
「全くね」
「じゃあ宮殿に入って」
「それからね」
「そういうことですね」
「まずは帰りましょう」
 エメラルドの都の宮殿にというのです。
「そうしましょう」
「それじゃあ」
「帰ったら」
 ボタン=ブライトもいます、今はちゃんと起きています。
「寝ようかな」
「また寝るのね」
「うん、寝ているとね」
 それでだとです、恵梨香に答えます。
「それで気持ちよくなるからね」
「寝ているだけで、よね」
「僕寝ることが大好きなんだ」
 それでだというのです。
「だから幾ら寝てもね」
「寝ることが好きなのね」
「大好きだよ」
「それで大学でもなの」
「気付いたら寝ていて」
 そしてなのでした。
「ずっと起きなかったんだと思うよ」
「ボタン=ブライトって本当に寝ることが好きなのね」
「食べることと寝ることがどっちも好きだよ」
「他のことは?」
「他のことって?」
「食べることと寝ること以外に好きなものはないの?」
「そう言われると」
 こう尋ねられてです、ボタン=ブライトの答えはといいますと。
「僕わからないよ」
「そうなのね」
「だって寝ることと食べること以上に楽しいことはないから」
「だからなのね」
「他に好きなことって言われるとね」
 それがというのです。
「僕わからないよ」
「わかったわ、そのことが」
「わかってくれたんだ」
「ボタン=ブライトの趣味は食べることと寝ることね」
「どっちも大好きだよ」
「それだったらね」
 それで、というのです。
「いいと思うわ」
「そうなんだ」
「ええ、私もどっちも好きだし」
「というか嫌いな人いないよね」
 カルロスも言います、食べること寝ることはというのです。
「それが出来るのなら」
「どっちが出来なくても困らないけれど」
「確かにそれが出来たら楽しいのだろうね」
 かかしと木樵はどちらも必要ありません、ですがそれを出来る皆が楽しめるのなら楽しいだろうと思い言うのでした。
「ずっとおしゃべりしていてもこれがまた楽しいけれど」
「食べなくてもずっと動けることもね」
「けれどそうしたことが出来るのならね」
「楽しまないと駄目だね」
「だからボタン=ブライトもですね」
 恵梨香はかかしと木樵の言葉を聞いてあらためて言いました。
「いいんですね」
「うん、そうなるよ」
「出来ることは楽しまないといけないからね」
 二人はこう恵梨香に答えました、黄色い煉瓦の道を進みつつ。
 そしてでした、皆は遂にでした。
 エメラルドの都に入りその緑の世界を進んでいってです、宮殿に入りました。そして宮殿の中でなのでした。
 カルロスは皆にです、こう言いました。
「よし、ここはね」
「何を食べるのかしら」
「パスタを」
 ドロシーに明るい声で答えました。
「それを食べたいです」
「パスタなのね」
「はい、それをです」
 是非食べたいというのです。
「トマトと大蒜をたっぷりと使った」
「スパゲティかしら」
「スパゲティに」
 それにというのです。
「グラタンも」
「マカロニグラタンね」
「それもいいですね」
「とにかくパスタがいいのね」
「トマトと大蒜を使った」
 この二つは外せないというのです、今は。
「それをお願いします」
「わかったわ、じゃあ私もね」
「ドロシ−さんもですか」
「ええ、パスタにするわ」
 ドロシーもというのです。
「スパゲティにマカロニに」
「その二つですね」
「あとラザニアにフェットチーネもいいわね」
 この二つもというのです。
「カルロスもどうかしら」
「はい、それじゃあ」
「ううん、それでね」
 ドロシーはさらに言うのでした、恵梨香達も見て。
「皆もいいかしら」
「パスタですよね」
「それを皆で」
「ええ、どうかしら」
 御飯はそれにしようかというのです。
「これでね」
「そうですね、それじゃあ」
「それをお願いします」
 四人もドロシーに笑顔で答えてでした、そのうえで。
 ドロシーはシェフの人にお願いしてパスタを作ってもらうことにしました、そのことを決めてからでした。そのうえで。
 ドロシーは皆にです、こうも言いました。
「じゃあ御飯が出来るまでの間はね」
「はい、その間は」
「何をしましょう」
「ええ、お風呂はね」
 それはといいますと。
「もう朝に水浴びをしてるから」
「今はですね」
「入ることはないですね」
「ええ、そう思うから」
 それでだというのです。
「お喋りをするか遊ぶかして」
「そうしてですね」
「御飯を待つんですね」
「そうしない?」
「いえ、その前にです」
 ここで王宮の侍女であるジェリア=ジャムがドロシー達に言って着ました。
「皆さん旅に出られたままなので」
「服をというのね」
「はい、王宮に着かれましたし」
「ドレスに着替えて、ですね」
「そうされてはどうでしょうか」
「そうね、旅行から帰って来たしね」
 それならとです、ドロシーも応えます。
「着替えないとね」
「服は用意していますので」
「それじゃあ皆着替える?」
 ドロシーはあらためて教授と子供達に声をかけました。
「今から」
「はい、それじゃあ」
「お言葉に甘えまして」
 皆もドロシーの言葉に応えてでした、御飯が出来るまでの間に服を着替えることになりました。服はその間に洗濯されることになりました。
 恵梨香はピンクの、ナターシャは黒のドレスを着てです。そうして。
 ジョージは赤、神宝は青、カルロスは黄色のそれぞれの絹の立派な服に着替えました。教授も見事な燕尾服とシルクハットに着替えてです。
 その上で宮殿の大広間に出ました、ドロシーは白い見事なドレスです。カルロスはそのドレス姿のドロシーを見て言いました。
「ドロシーさんドレスも似合いますよね」
「あら、有り難う」
「普段はあまり着られないんですよね」
「ええ、そうなの」
 ドロシーはこうカルロスに答えました。
「私旅に出ることが多いから」
「だからですよね」
「ドレスはあまり好きじゃないし」
「そのこともあって」
「そうなの、だからね」
 それでだというのです。
「普段はドレスとかは着ないで動きやすい服なのよ」
「昔ながらの服ですね」
「そうなの」
 カンサスにいた時からの着慣れたそれだというのです。
「いつもね」
「じゃあドレスは」
「ドレスを着るのは王宮の中だけよ」
「それがドロシー嬢だよ」
「昔からだよ」
 かかしと木樵もこうお話します、う二人はそれぞれ洗濯をしてもらって身体に油を塗ってもらってとても綺麗になっています。
 その綺麗な格好で、です。こうそれぞれ言うのです。
「動きやすい服が大好きでね」
「ドレスは綺麗だけれどあまり着ないんだ」
「確かにドレス姿も似合うけれど」
「あまり着ないんだよ」
「そうですよね、そのことがわかってきました」
 カルロスも二人の言葉に頷きます。
「やっぱりドロシーさんは旅がお好きなんですね」
「だからね」
 ここで新しい声が聞こえてきました、その声はです。
 オズマ姫のものでした、金と銀の素晴らしいドレスに王冠で飾っている王女が来てです、少し困ったお顔で言うのでした。
「私もそれが少し残念なの」
「あっ、オズマ姫」
「私がドロシーといたい時もね」
 そうした時もというのです。
「ドロシーは旅に出たりしてるから」
「そのことはね」
 ドロシーも少し残念そうに言うのでした。
「申し訳ないと思ってるけれど、私も」
「それでもっていうのね」
「やっぱり旅はね」
 ドロシーにとってはというのです。
「私にとっては欠かせないものだから」
「ええ、それは私もわかってるわ」
 オズマにしてもです、ドロシーのことはよく知っています。何しろ二人はこの上ない親友同士なのですから。
「だからね」
「私が旅に出てもよね」
「いつも待っているわ」
 ドロシーが帰る時をだというのです。
「こうしてね」
「有り難う、いつもね」
「ええ。それでだけれど」
 オズマはドロシーとお話してからでした、自分達が集まっている大広間の中を見回してそうしてからでした。
 首を少し傾げさせてです、こう言うのでした。
「ボタン=ブライトは」
「あっ、そういえば」
 カルロスもオズマの言葉に気付いてでした。 
 お部屋の中を見回してです、そして言いました。
「何処にいるのかな」
「また寝てるのかしら」
 首を傾げさせてです、オズマはこう考えました。
「そうなのかしら」
「ボタン=ブライトなら」
 オズマにです、教授がお話してくれました。
「今お風呂に入っておりますぞ」
「あら、お風呂に」
「左様、入りたいと言いまして」
「それでなのね」
「お風呂に入り」
 そしてというのです。
「服も着替えております」
「そうなのね」
「だから今はここにいないのです」
「お風呂に入ってるのね」
「そうなのです」
「それならいいわ」
 お風呂に入っているのならというのです。
「私にしても」
「では彼を待って」
「あの子が戻る頃にはね」
 ボタン=ブライトがです。
「御飯も出来ているから」
「丁渡いいですな」
「ええ、じゃあ今の間に」
 ボタン=ブライトが来るまでの間にです。
「何をしようかしら」
「ベッツイとトロットはいるかしら」
 ドロシーは二人の女の子達のことをここで思い出しました。
「今王宮に」
「はい、お二人共おられます」
 ジェリア=ジャムがドロシーに答えてくれました。
「お呼びになられてですね」
「皆で遊びましょう」
「食事が出来るまでに」
「お食事の量は多いわよね」
「はい、いつも通り」
 ジェリア=ジャムはドロシーに笑顔で答えました。
「たっぷりと作っています」
「そうよね」
「実は最初からベッツイ様とトロット様のことも考えて作ってくれています」
 シェフの人達がというのです。
「それにね」
「それによね」
「今王宮におられる全ての方々のものも」
 皆のものもというのです。
「作っていますので」
「それじゃあね」
「お二人もこちらにお呼びして」
「楽しく遊びましょう」
「何がいいかしら」
 オズマは遊ぶことについても言いました。
「皆で遊ぶにしても」
「サッカーはどうでしょうか」
 カルロスはオズマに笑顔でこれはどうかと提案しました。
「それは」
「サッカーをなの」
「はい、皆で」
「サッカーは私も知ってるけれど」
 それでもとです、オズマはカルロスのその提案に微妙なお顔になって答えました。
「それはね」
「駄目ですか」
「オズの王宮にはサッカーグラウンドがないのよ」
「あっ、そうなんですか」
「野球のグラウンドとフットボールのグラウンドとね」
 その二つにでした。
「テニスコートにプール、バスケットコートはあるけれど」
「サッカーグラウンドはですか」
「ええ、ないわ」
 こうカルロスにお話するのでした。
「それに私達今は運動する格好じゃないから」
「このこともあって」
「そう、だからね」
「サッカーはですね」
「ええ、出来ないわ」
「そうですか」
「身体を動かす遊びじゃなくて」
 スポーツ全体を外してでした。
「他のことをしましょう」
「そうですか、それじゃあ」
「百人一首はどうだい?」
 教授が一歩前に出て皆に提案してきました。
「この遊びは」
「あっ、百人一首ですか」
「カルロス君も知ってるよね」
「はい、日本の遊びですよね」
「そう、歌を謳ってね」
「その歌が書かれているお札を取る遊びですね」
「それはどうかな」
 こう提案するのでした。
「どうかな」
「そうですね、それじゃあ僕は」
 まずはカルロスが答えてです、他の皆もです。
「それじゃあ今は」
「百人一首をして」
「それで遊びましょう」
「御飯までは」 
 皆もそれぞれ言ってでした、そうして。
 実際に皆でテーブルを囲んで百人一首をするのでした。ですがここで恵梨香が皆にこうしたことをお話しました。
「実は百人一首は」
「本来は和室でするのよね」
「はい、そうなんです」
 こうです、お部屋に来たトロットにお話しました。
「日本では」
「日本の遊びだからね」
「だからです」
「和室なのね」
「畳の上でします」
「畳だけれど」
 トロットはその畳についてこうしたことを言いました。
「あれはね」
「何かありますか?」
「最初見た時はびっくりしたわ」
「そうよね」
 ベッツイもトロットのその言葉に頷きます。
「あれは」
「オズの国にもないわよ」
「あんな不思議なものは」
「靴を脱いであがって」
「その上に座布団をしいて座ってね」
「あんな不思議なものはね」
「見たことがなかったわ」
「オズの国にも畳はないんですね」
「ええ、日本だけよ」
「日本にしかないものよ」
 それが畳だというのです。
「あれは本当にね」
「見たこともなかったわ」
「だからね」
「日本人はね」
「あの畳の上で休んで寝て遊んで」
「凄く不思議な世界にいると思うわ」
「私は普通だと思ってますけれど」
 日本人の恵梨香にしてみればです、そうだというのです。
「けれど違うんですね」
「日本以外の国ではね」
「凄く不思議なものよ」
「他にないっていう位のね」
「オズの国にもない位の」
 不思議な物事で一杯のこの国にもないというのです、畳は。
 それで、です。トロットは恵梨香に言うのです。
「今度は畳の上でね」
「「この百人一首をですね」
「ええ、しましょう」
 こう言うのでした。
「次にする時はね」
「そうですか、それじゃあ」
「次はね」
「こうしてテーブルの上でするよりもですね」
「百人一首は畳の上でした方がいいから」
 その方が雰囲気が出るからです、トロットはそのことをよく知っているのです。そうしてなのでした。
 レモンティーを飲んでからです、ベッツイに言いました。
「飲みものもね」
「ええ、百人一首の時はね」
「日本のお茶よね」
「そちらの方がいいわよね」
「畳の上で座布団に座ってね」
「日本のお茶やお菓子と一緒に楽しむのが一番よね」
 二人で楽しそうにお話すのでした。
「やっぱりね」
「それがいいわよね」
「そうね」
 オズマも二人のその言葉に頷いて言います。
「百人一首ならね」
「やっぱり畳の上でするべきよね」
「和室の中で」
「宮殿の中にもあるから」
 その和室が、というのです。
「だからね」
「そこの中でね」
「楽しみましょう」
「次はね。普通に百人一首をしても楽しいけれど」
 それでもと言うオズマでした。
「和室の中でするのが一番だしね」
「じゃあ次はね」
「そうしましょう」 
 三人でもお話するのでした、そして百人一首の一番になった人は。
 教授でした、教授は自分が手にしている札を見てにこにことして言うのでした。
「楽しませてもらったよ」
「教授百人一首も」
「いや、こちらはね」
 百人一首は、とです。カルロスに答えます。
「まだ研究はしていないよ」
「そうだったんですか」
「うん、それでもね」
 今回の百人一首はというのです。
「出来たよ」
「そうですか」
「歌留多の遊びも面白いね」
 百人一首に限らずというのです。
「私の楽しみの一つだよ」
「それじゃあですね」
「これからも楽しむよ」
 こう言ってなのでした、教授は一番になれたことににこにことしていました。そうしたことをお話してなのでした。
 そして、です。そうした遊びもしてなのでした。
 皆で御飯を待っていました、そうして。
 メイドさんの人が来てでした、皆に言ってきました。
「お時間です」
「御飯が出来たのね」
「はい」 
 その通りだとです、メイドさんはオズマに答えました。
「今しがた」
「そう、それじゃあね」
「これからですね」
「皆で」
「ええ、御飯にしましょう」
 パスタを食べようというのです、しかし。
 オズマは首を少し傾げさせてです、彼のことを言いました。
「ボタン=ブライトは」
「そう、彼ですな」
「あの子はまだかしら」
「そろそろだと思いますが」
 教授はこうオズマに答えます。
「お風呂からあがって着替えて来るのは」
「そうよね、御飯も出来たし」
「はい、間も無くです」
 こう言ったところで、でした。実際に。
 ボタン=ブライトが来てでした、皆に言ってきました。
「皆、何してたの?」
「おっと、噂をすれば」
「来てくれたね」
 かかしと木樵は彼のその声を聞いて笑顔で声をあげました。
「その彼が」
「いいタイミングでね」
 見ればです、ボタン=ブライトはいつも通り白いセーラー服ですが洗濯されてしかもアイロンまで丁寧にかけられた綺麗なものを着ています。
 その綺麗なセーラー服を見てです、カルロスが言います。
「何か同じセーラー服でも」
「そうだね」
 教授がそのカルロスに応えます。
「いつもとは違う感じがするね」
「綺麗でアイロンもかけられた服ですから」
「同じ服でもね」
 普段と同じそれでもだというのです。
「綺麗でぴしっとしてたらね」
「全然違いますね」
「同じものでも綺麗でしっかりしてるとね」
「それで全く違ってきますか」
「そうだよ、服も人間もね」
「そういうことですね」
「私もね」
 虫である教授であってもというのです。
「いつも学問に励み身を慎み清潔にしていると」
「違うんですね」
「だからそうしたことは怠っていないよ」
 そうしているというのです。
「普段からね」
「そうですか」
「そう、いつもね」
 そうしているというのです。
「そうした人になりたいからね」
「だからですか」
「そうしているよ、では君達もね」
「はい、いつもですね」
「努力して心身を磨けば」
「ボタン=ブライトの服みたいになりますね」
「今の彼のね」
 そうだというのです、そうしたお話をしてです。
「そうなるよ」
「そうですよね、じゃあ」
「そのことは忘れないもらいたい」
「そう努力します」
「うん、それではね」
「これからですね」
「そう、食べに行こう」
 御飯をというのです。
「そうしよう」
「じゃあ僕はね」
 ここでボタン=ブライトが言うことはといいますと。
「食べたらね」
「どうするの?」
「寝ようかな」
 そうしようかというのです。
「また」
「そして気付いたらだね」
「うん、またね」
 今回もだというのです。
「何処かに行くよ」
「じゃあまたね」
 ドロシーもボタン=ブライトに笑顔でお話します。
「会いましょう」
「うん、何処かでね」
「じゃあ僕達も」
 カルロスも言うのでした。
「食べ終わったらね」
「元の世界にね」
「戻ります」
「また来てね」
 ドロシーはにこりと笑って五人に言いました。
「何時でも待ってるから」
「はい、それじゃあ」
「この国には何時来てもいいのよ」
 オジの国には、というのです。
「そうして楽しんでいいから」
「そうですよね、ドロシーさんがいつもお話してくれてる様に」
「そうして楽しみましょう」
「そして来てくれた時は」
 教授も五人に笑顔でお話します。
「その時は何処に行っても何を食べてもだよ」
「楽しくですね」
「そうしよう、是非ね」
「そうさせてもらいます」
 五人は教授にも笑顔で応えました、そうしてエメラルドの都の宮殿でとても美味しいパスタを食べてから自分達の世界に戻りました、五人で時計塔から出て言うことは。
「またオズの国に行こうね」
「皆でね」
 こう笑顔で言い合うのでした、そうしてこの日はお別れとなりました。


オズのムシノスケ   完


                             2014・7・14



流石に帰りには何もなかったな。
美姫 「みたいね。無事に王宮に辿り着いて、帰るまでに遊んだり」
食べたりだったな。
美姫 「ドロシーの冒険の話も出てきたりと、結構楽しかったわね」
うんうん。今回の冒険はこれで終わりだけれど。
美姫 「また五人がオズに来た時にはどんな話が待っているのか楽しみね」
だな。今回のお話も楽しかったです。
美姫 「投稿ありがとうございました〜」



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