『オズのムシノスケ』




             第八幕  二人と合流して

 皆で一緒に大学に戻る中で、です。恵梨香は少し首を傾げさせてそのうえで教授に対して尋ねることがありました。
「オズの国ってさっき通った場所でも次の日に通ったら全然違うってことありますのね」
「うん、何かとね」
「この道にしても」
 黄色い煉瓦の道もです。
「この前は象さんが寝ていましたし」
「今はいないね」
「はい、他にも蔦があったりしましたよね」
「眠り草があったりもしたね」
 教授はかつてドロシーを困らせたこの草のことをお話しました。
「崖もあったり」
「本当に色々変わりますよね」
「君達の世界もそうだけれど」
「何でも変わるんですね」
「それがオズの国では早いんだよ」
「変わることが」
「そう、それがオズの国なんだよ」
 そうだというのです。
「この国はそうした国なんだよ」
「マンチキンにしてもですね」
「そうだよ、ただね」
「ただ、ですね」
「変わらないものもあるよ」
 あらゆることが変わるこの国でもというのです。
「色とかはね」
「マンチキンの青がですね」
「そう、変わらないんだよ」
 全く、というのです。
「それぞれの国の色はね」
「青はですね」
「そうだよ、変わらないものもあるからね」
「変わるものもあれば変わらないものもあるんですね」
「全く変わらないというものもないけれど」
 その変わらないものもです。
「人間の目から見ればね」
「変わらないってことですね」
「徐々に、凄くゆっくり変わるものもあるんだよ」
「オズの国でも」
「そうだよ、けれどオズの国もね」
 この国というのです。
「私が最初の旅をした時と比べたら本当に変わったよ」
「私が最初にオズの国に来た時はね」
 ドロシーがお話するのはその時からのことでした。
「もっと人が少なくてわからないことも多くて」
「オズの国のことでも」
「ムシノスケ教授にも会っていなかったわ」
 その教授を見て言うのでした。
「マンチキンの国もね」
「あまり開けていなくて、ですね」
「悪い魔女もいたのよ」
 ドロシーのお家が上から落ちて潰されたその魔女です。
「その時と比べて本当に変わったわ」
「食べものなんか特にですね」
「そう、和食も中華料理もなくて」
 それに、というのです。
「シェラスコなんかもね」
「なかったんですね」
「本当に変わったわ」
 実にというのです。
「オズの国もね」
「しかもすぐに変わるのだよ」
 オズの国はとです、教授もまたお話します。
「だから昨日通った場所でも変わっていたりするのだよ」
「じゃあこのまま歩いていって」
「うん、何もなかった場所に何かあったりするのだよ」
「そういうことですね」
「だから何が起こってもね」
 例えです、それが不測の事態でもというのです。
「驚かないで対応すればいいんだよ」
「じゃあ例えば」
 ここでカルロスはさっきお話に出たことを言うのでした。
「目の前に急に眠り草があっても」
「それも有り得るよ」
「カリダが出て来ても」
「そう、驚かないことだよ」
 そうしたことがあってもというのです。
「そうして対処していくべきだよ」
「そういうことですね」
「そうだよ」
 そうしたお話をしているとです、実際にでした。
 一行の目の前に厄介なものが出て来ていました、それはといいますと。
 蔦です、しかも普通の蔦ではありません。自分からうねうねと動いて何かを絡め取ろうとしています。その蔦を見てです。
 恵梨香はです、首を傾げさせて言いました。
「確かあの蔦って」
「そうよね」
 ナターシャが恵梨香に応えます。
「オジョさんが捕まったことのある」
「そうした蔦よね」
「まさかここで出て来るなんて」
 それでと言うナターシャでした。
「こうしたことが本当にあるのね」
「オズの国はね」
「ううん、どうしたものかな」
 ジョージは腕を組んで難しいお顔になって言いました。
「あの蔦に捕まるとまずいよ」
「ここは火を使うべきじゃないからな」
 神宝が出した解決案はこれでした。
「植物だから火には絶対に弱いよ」
「そうだね、それはね」
 ジョージは神宝のその言葉に答えました。
「一番いいやり方だね」
「どっちにしてもあの蔦を放っておくと」
「迷惑だし」
 それ故にというのです。
「燃やしておこう」
「そういうことだね」
「そうね、それがいいわね」
 ドロシーもです、二人のやり取りに頷いて言うのでした、
「あの蔦は放っておいたら誰かの迷惑だし」
「わかりました、それじゃあ」
「今から燃やしましょう」
 ジョージと神宝はドロシーにも言われてあらためて頷きました、他の皆も蔦を燃やそうと言いました。ですが。
 トトがです、皆にこう尋ねました。
「燃やすのはいいとしてだよ」
「問題はどうして燃やすかだね」
 教授も言います。
「あの蔦に近付いてね」
「近付けばですね」
「それで」
 ジョージと神宝は教授の言葉を聞いてです、今度は困った感じのお顔になりました。そうして言うのでした。
「捕まって」
「動けなくなりますね」
「そこが問題だよ」
 だからだというのです。
「そして下手な火ではね」
「大きな相手ですから」
「燃やしきれないですね」
「そこが問題だよ」
 蔦を燃やせるだけの量の火を出してです、そして蔦に捕まらずに火を浴びせて燃やすかということの二つがです。
「具体的にどうするかがね」
「問題なんですね」
「さて、あの蔦はね」
 どうしたものかと言う教授でした。
「我々の誰もね」
「近付けないですね」
 カルロスが応えるのでした。
「迂闊には」
「蔦は一本や二本じゃないよ」
 見れば何十本もの蔦がうねうねと上下左右にです、蔦の茎と思われる部分を中心としてうねっています。
 それを見てです、教授は言うのです。
「あれだけ多いとね」
「僕達全員がですね」
「うん、捕まってしまうよ」
 それで危険だというのです。
「迂闊には近寄れないよ」
「しかもね」
 ドロシーも言うのでした、ここで。
「私の誰も火を持っていないわよ」
「マッチ位はあってもですね」
「ええ、あの蔦を燃やせるだけの火はね」
 そこまではというのです。
「ないよ」
「そうですね」
「だからね」
 それでだというのです。
「いざ燃やすにも」
「火もですね」
「それもないのよ」
「火を出すのなら魔法か道具ですね」
 カルロスは具体的な火の出し方を述べました。
「そうなりますね」
「そう、どうしたものかしら」
「今回はね」
 流石にと言う教授でした。
「打つ手がないから」
「避けますか?」
「そうしよう、確かに蔦は道を行く人の迷惑になるから」
 どうにかして除かないといけないことは確かです、ですがそれが出来ないから仕方がないというのです。
「避けよう」
「そうするしかないですか」
「何かを出来たらいいよ」
 その時はというのです。
「けれどね」
「何も出来ない時はですね」
「危うい場所には近付かないこともね」
「大事ですか」
「確かにどうしようもなくても何とかしない時もあるよ」
 実際にドロシー達は何度もそうした場面を経てきています、そうしていつも何とか潜り抜けているのですが。
 それでもです、今はといいますと。
「今はそうした状況でないから」
「だからですね」
「今は」
「そう、避けよう」
 そうしようというのです。
「そうして大学に戻ろう」
「それしかないですか」
 カルロスは教授のお話を聞いて少し残念そうに言いました。
「ここで皆の迷惑になるから何とかしたいですけれど」
「それが出来ないからね」
「仕方ないですか」
「油でもあればね」
 ここでこう言った教授でした。
「別だけれど」
「油ならね」
 それならと言って来たのはドロシーでした。
「テーブル掛けから出せるけれど」
「それを蔦にかけて燃やせば」
「少しの火でもね」
 それこそマッチ位の火でもです。
「油が燃やしてくれるから」
「何とかなりますよね、その時は」
「そう、けれどね」
 それでもだというのです。
「蔦に捕まるから」
「近寄れないから」
「油がどうにかなってもね」
 それでもなのでした。
「蔦に捕まるから」
「蔦を切れば」
 ここでまた言ったのはです、ナターシャでした。
「刃物で」
「刃物ね」
「刃物は」
「悪いけれど」
 ドロシーはまたしてもでした、困ったお顔になってそのうえで答えたのでした。今度はナターシャに対してです。
「それも出せないわ」
「私も持っていないよ」
 教授もでした。
「刃物はね、果物を切るナイフ位しかないよ」
「ナイフだと」
「あの蔦相手ではね」
「太刀打ち出来ないよ」
 蔦の数は多くしかも一本一本が太いです、若布みたいな大きさです。
「あれが相手ではね」
「そうですね」
「何か本当に」
「うん、今の私達ではね」
「打つ手がないですね」
 ナターシャもこう言うしかありませんでした。
「残念ですけれど」
「だから避けてね」
 そうしてと言う教授でした、教授にしてもここで皆の迷惑になる蔦をどうにか出来ないことを残念に思っています。
 しかしです、打つ手がないからこそ。
「大学に戻ろう」
「それしかないですね」
「大学に戻ってね」
 ドロシーはこう言うのでした。
「そしてね」
「ボタン=ブライトを起こして、ですね」
「そう、そしてエメラルドの都に戻って」
 そうしてというのです。
「魔法使いさんかグリンダの魔法の火でね」
「燃やすんですね」
「そうしましょう、今の私達ではどうしようもないわ」
 それ故にというのです。
「今は避けましょう」
「それで帰るんですね」
「ここで捕まったら元も子もないわ」
 ドロシーも仕方なくこの考えに決めるしかないのでした。
「そうしましょう」
「それじゃあね」
 ナターシャも頷くしかありませんでした、そうしてです。
 四人にです、こう言いました。
「それじゃあね」
「そうね、仕方ないわね」
「何も手がないのならね」
 恵梨香とカルロスが最初に応えました。
「だからここはね」
「ドロシーさん達の言う通りね」
「避けるしかないんだね」
「今回は」
 ジョージと神宝も言うのでした。
「まずは大学に戻って」
「それからになるね」
「どうしようもない状況で避けられるのなら」
 それならというのでした。
「向かわないこともやり方なのね」
「僕達のやり方ではないけれどね」 
 それでもとです、トトも残念そうに述べます。
「そうするしかないよ」
「それじゃあね」 
 ドロシーが皆に言います。
「避けて通ろう」
「はい、わかりました」
「残念ですけれど」
 こうお話してでした、そのうえで。 
 皆は蔦を避けて通ろうとしました、しかし。
 ここでなのでした、一向に後ろからでした。声がしました。
「あれっ、ドロシーさんじゃないか」
「教授もいるね」
「それに恵梨香さん達も」
「トトまでいるじゃないから」
「あっ、かかしさんに木樵さん」
 カルロスが最初にその後ろの方を振り向きました、見ればです。
 かかしと木樵がいました、そしてなのでした。二人共です。
 すぐに一行のところに来てです、そうして尋ねるのでした。
「一体どうしたのかな」
「旅をしているみたいだけれど」
「何かあったのかい?」
「困っている感じだね」
「ええ、実はね」
 ドロシーが二人にです、皆が旅に出た理由もこれまでのことも全てお話しました。勿論今の蔦のこともです。
 その全てを聞いてからです、かかしがこう言いました。
「それならいい案があるよ」
「その案は?」
「うん、要は蔦に捕まらずに燃やせばいいんだね」
「それはそうだけれど」
「それならだよ」
 ならばだというのです。
「まずは蔦を切ることだよ」
「では僕の出番だね」
 ここで木樵が名乗り出るのでした。
「僕の斧で蔦を切ってだね」
「そう、木樵君の斧に切れないものはないからね」
 だからこそだとです、かかしも木樵にお話します。
「まずは絡め取ろうとする蔦を切って」
「それからね」
「あらためてですね」
 カルロスがかかしに尋ねます。
「蔦に油をかけて」
「それもたっぷりとね」
「そして燃やせばいいんですね」
「あの蔦は放っておくとよくないよ」
 かかしもこう言うのでした。
「皆の迷惑になるからね」
「だからですね」
「そう、何としても排除しておかないと」
「それでなんですね」
「確かにどうしようもない状況ならね」
 これまでのドロシー達の様にです。
「避けるしかないけれど」
「今はですね」
「木樵君がいるからね」
 その何でも切れる素晴らしい斧を持っている木樵がです。
「蔦を切って燃やそう」
「わかりました、それじゃあ」
「まずは僕が行くよ」
 木樵が斧を手に前に出ました、そうしてです。
 一人蔦の方に歩いて行ってです、斧を両手に持って。
 自分の方に来る蔦をです、片っ端から切っていきました。そうして蔦を短くしてでした。蔦はもうちろちろと動くだけになりました。
 その蔦を見てです、かかしは言いました。
「さて、後はね」
「燃やすだけですね」
「油をかけてね」
「油なら」
 ドロシーはテーブル掛けを敷いてでした、そこからです。
 油を出しました、それは菜種油でした。かかしはその油を見てまた言うのでした。
「さて、次はね」
「この油を蔦にかけるのね」
「そうしてね」
「火を点けて燃やせば」
「蔦は退治されるよ」
 無事にです、そうなるというのです。
「ではいいね」
「それじゃあね」
 ドロシーがその油が入った容器を持ってでした、蔦に近付きました。蔦はもう完全に切られていて根元がちろちろと動いているだけです。
 その蔦を見つつです、ドロシーは蔦全体に油を丹念にかけてです。
 今度はマッチを出して火を点けます、するとです。
 油に忽ち火が点いてでした、蔦を燃やしてしまいました。その燃える蔦を見てです。カルロスはほっとした顔になってかかしと木樵に言うのでした。
「有り難うございます、お陰で」
「いやいや、礼には及ばないよ」
「これは当然のことだよ」
 かかしと木樵はそのカルロスににこりと笑って述べました。
「オズの国で皆の迷惑になることがあればね」
「それをどうにかするのが僕達の義務だからね」
「これ位はね」
「当然のことだよ」
「だからなんですね」
「そう、だからね」
「礼には及ばないよ」
 だからだというのです。
「このことはね」
「全くね」
「それじゃあ」
「さて、それでは」
「蔦もなくなったし」
 それならというのです。
「今からね」
「大学に行こうか」
「そうですね、ボタン=ブライトを起こして」
「とにかく寝たら何時起きるかわからないのよね」
 ドロシーが困った顔で言って来ました。
「あの子は」
「すぐに起きることもあるんですよね」
「ええ、その場合もね」
 確かにあります、しかしそれでもと言うドロシーでした。
「けれど大抵はね」
「中々なんですね」
「特に酷い場合はね」
「今回みたいにですか」
「そう、幾ら声をかけても身体をゆすっても起きないのよ」
「目覚まし時計とかは」
 こう言ったのは恵梨香でした。
「効かないですか」
「あまりね」
 起こす時の定番もそれもなのです、ボタン=ブライトにはあまり意味がないのです。彼が深く寝ている時はです。
「だからなのよ」
「今回みたいにですか」
「そう、お菓子を枕元に置いたら起きるのよ」
「とびきり美味しいお菓子を沢山ですね」
「置いたらね」
 その匂いで、というのです。
「起きるのよ」
「これまでお話している通りに」
「そう、だからよ」
 それでだというのです。
「ここはそうするのよ」
「それにね」
 木樵も皆にお話します。
「オズの国では無理に起こすことは好まれないんだ
「叩き起こす様なことはですか」
 カルロスが尋ねます。
「そうしたことはしないんですね」
「そう、君達の世界では無理に起こそうとする場合もあるね」
「というか朝になれば大抵ですね」
「しないよ、起きてもらう様にするか自然に起きるのを待つんだ」
「だからボタン=ブライトもなんですね」
「そう、無理に起こさないんだよ」
「それにあの子はそうしても起きないからね」
 かかしも言います。
「それこそお水の中に入れてもね」
「起きないですか」
「そう、流石にそうしたことはしたことがないけれど」
「お池の中に入れても」
「浮かんでそのまま寝ているんだよ」
「何か凄いですね」
「あの子は溺れずに浮かぶんだよ」
 そうして寝ているというのです、お池の中でも。
「そうして寝続けるからね」
「ううん、凄いですね」
「そうした子だから」
「お菓子ですね」
「そう、北風で駄目ならね」
「太陽ですね」
「人には太陽の方がいいんだよ」
 起こすにしてもその他のことでもだというのです。
「太陽の方が気持ちよく服を脱げるね」
「北風だとかえって守ってしまいますね」
「そう、暖かくさせてね」
「そうして起こす」
「それがオズの国のやり方だしね」
 そうしてというのです。
「賢いやり方なんだよ」
「それじゃあ僕達にも」
「勿論だよ、太陽だよ」
 そちらのやり方でだというのです。
「そうさせてもらうからね」
「わかりました」
「さて、では僕達もね」
「大学に行かせてもらおうかな」 
 かかしと木樵も言うのでした。
「皆でね」
「行っていいかな」
「ええ、勿論よ」
 二人の最も古い友達であるドロシーが最初に笑顔で答えました。
「それじゃあ今回もね」
「よし、それではね」
「一緒に行こうね」
 こうしてでした、かかしと木樵も一緒に大学に行くことになりました。一行はさらに賑やかになりました。その賑やかな中で、です。
 かかしはふとです、腕を組んでこんなことを言いました。
「さて、それにしても」
「それにしても?」
「ボタン=ブライトは本当に神出鬼没な子だけれど」
 その彼のことを言うのでした。
「彼は最初にドロシーに会った時もね」
「ええ、どうしてそこにいるのかわからないってね」
「言ったんだったね」
「それから時々ね」
「会っているね」
「いつも気付いたらいるのよ」
「元々はオズの国の住人じゃないんだよね」
 そうした意味ではドロシーや五人と同じです。
「かといっても何処で生まれ育ったか」
「私も調べているのだけれど」
 教授も言います、オズの国きっての知識派であるこの人もです。
「よくわからないんだよ」
「謎の子なんですね」
「そう、謎なんだよ」
 こうカルロスにお話するのでした。
「アメリカ生まれなのかな」
「そうじゃないかしら」
 ドロシーの返事もあまりはっきりとしないものでした。
「ひょっとしたら他の国かも知れないわ」
「日本ではないですよね」
 これはないとです、恵梨香が言いました。
「あの子髪の毛も目も黒じゃないですから」
「そのことは間違いないわね」
 ナターシャが恵梨香に言います。
「あの子はアジア系ではないわね」
「白人よね」
「ドロシーさん達と同じね」
「じゃあアメリカ人かしら」
「本人に聞いてもね」
「そうしてもね」
 ジョージと神宝は少し苦笑いになって言いました。
「わからないだからね」
「そう言うからね」
「だからね」
「何処の生まれかわからないんだよね」
「オズの国の何処かの生まれじゃないかな」
 こう言ったのはカルロスです。
「ほら、ローランドとかリンティンク王の国とかね」
「他には島国もあったわよね」
 恵梨香も言います。
「ドロシーさんがリンキティンク王と一緒に航海したあの」
「あっ、あの時ね」
 リンキティンク王と聞いてです、ドロシーも応えます。
「あの時のことを考えるとね」
「あの子はそうした国の生まれかも知れないですね」
「かも知れないわね」
 ドロシーも恵梨香の言葉に応えます。
「ひょっとしたらだけれど」
「そうですか」
「今では死の砂漠も大陸の端に移って」
 そうしてリンキティンク王の国もローランドや他の国もオズの国に入っているのです、そうしてオズの国で皆仲良く暮らしているのです。
「リンキティンク王もオズの国の人になったけれど」
「そうした国の生まれかも知れないですね」
「そう、あくまでひょっとしたらだけれど」
 そうではないかというのです、ドロシーも。
「実際のところはわからないけれど」
「本人もわからないですし」
「これからも調べてみるよ」
 教授も言います。
「何分資料がないけれどね」
「あの子のことは」
「本当にいつも急に出て来るからね」
 迷子になっているか寝ているかです。
「だからね」
「中々、ですね」
「そう、彼についてはわかりにくいんだ」
「そうですか」
「それでも調べられないことはないよ」
 教授はこのことは絶対に、と言うのでした。
「この世にはね」
「ないんですね」
「そう、ないよ」
 そうしたことはとです、教授は微笑んでそのうえで五人の子供達にもドロシーにも言い切るのでした。その強い声で。
「この世には絶対にわからないということはないんだよ」
「何でもわかるんだね」
「努力すればね」
 教授はトトにも答えました。
「わからないことはないよ」
「ボタン=ブライトのことも」
「そう、だからね」
 必ずというのです。
「彼のこともわかるよ」
「調べていけば」
「じっくりとね」
「そうなんだ」
「だから調べていくよ」
「頑張ってね」
 トトはその教授にエールを送るのでした、そしてです。
 一行は大学に戻って行きます、そうして夜になってです。
 皆休息に入りました、ドロシーはテーブル掛けを開いてそこからビーフシチューにロシア風のマヨネーズをたっぷり使ったサラダにです、白身魚のフライとパンを出しました。
 そのサラダを見てです、恵梨香達四人は少し驚いた顔になって言うのでした。
「何か違いますね」
「普通のサラダとは」
「どうも」
「妙に」
「そうかしら」
 けれどナターシャはこう四人に言うのでした。
「サラダはこういうものよ」
「ううん、何かね」
 カルロスは首をひねってそのナターシャに言葉を返しました。
「ポテトサラダとはまた違って」
「どうっていうの?」
「濃いね」
 そうしたサラダだというのです。
「レタスとか海草とかトマトの。僕達が普段食べているサラダとね」
「むしろ私にとってはね」
「ナターシャにとってはなんだ」
「そう、皆が食べているサラダの方がね」
「違うんだ」
「これがロシアのサラダなのよ」
 マヨネーズをたっぷりと使った濃いものがというのです。
「だってカロリー摂らないと」
「駄目だからなんだ」
「ロシアは寒いから」
 このことに尽きました。
「だからね」
「サラダも濃いんだね」
「そうなの、皆が食べる様なサラダならね」
 それこそというのです。
「ロシアだとカロリーが足りなくなるのよ」
「寒さを凌げないんだ」
「神戸はね、オズの国はもっとだけれど」
「暖かいんだ」
「冬も」
 神戸の冬にしてもというのです。
「風も含めてね」
「暖かいんだ」
「あれ位ならロシアでは冬にならないわ」
「ナターシャちゃんよくそう言うわよね」
 恵梨香も言って来ました、その神戸で生まれ育っている彼女がです。
「神戸は暖かいって」
「かなりね」
「神戸の冬は六甲から下りて来る風で寒いと思ってたけれど」
「寒さのレベルが違うのよ」
 その神戸とロシアでは、というのです。
「モスクワとかとはね」
「モスクワねえ」
「サンンクトペテルブルグなんてね」
 この街は特にというのです。
「北極の方にあるから」
「北極に」
「そう、もうびっくりする位寒いから」
「そこまで寒いのね」
「それでサラダもね」
「濃いのね」
「この通りね」
 今皆の目の前にあるそれの様にというのです。
「それで美味しいのよ」
「そう、ロシアのサラダもね」
 ドロシーも言ってきました。
「美味しいのよね」
「そうですよね」
「私もサラダは普段は皆と同じサラダを食べているわ」
 生野菜にドレッシングをかけたあっさりしたものをです。
「けれどね、ロシアのサラダもね」
「美味しいですよね」
「ええ、だから今日はこのサラダを出したの」
 ロシア風サラダをというのです。
「勿論後でデザートを出すわよ」
「そのデザートは何かな」
 教授がドロシーに尋ねます。
「今日のそれは」
「ええ、ケーキをって考えてるけれど」
「そう、ケーキだね」
「ただ、ケーキもね」
 ここでまたナターシャを見てお話するドロシーでした。
「ロシアのケーキは違うけれど」
「ケーキは他の皆のケーキでお願いします」
 ナターシャは微笑んでドロシーに答えました。
「そちらで」
「普通のスポンジのケーキね」
「そちらでお願いします」
「わかったわ、じゃあケーキとね」
 それにというのです。
「ミルクがいいわね」
「飲みものはですね」
「寝る前にコーヒーや濃い紅茶を飲むと」
 そうすると、というのです。
「目が冴えるわよね」
「どうしても」
「だからね」
 それでだというのです。
「ミルクにしましょう、それも暖かいミルクをね」
「うん、それがいいね」
 教授もです、ドロシーのその提案に笑顔で頷きます。
「寝る前にホットミルクを飲むとじっくり寝られるんだよ」
「そうよね、だから私もそれを出そうって思ってるの」
「いいことだね、では皆でね」
「最後はね」
 デザートはというのです。
「ケーキとホットミルクよ」
「今日もかなり歩いて身体を動かしてるから」
 カルロスが言うには。
「ぐっすりと寝れますね」
「うん、皆よくね」
「寝ておくんだよ」
 かかしと木樵も一緒にいます、そのうえでの言葉でした。
「そうしたら次の日もよく動けるから」
「夜は休むことだよ」
「そうですね、それじゃあ」
「まあ僕達は寝る必要がないけれどね」
「食べることも飲むこともね」
 そうしたこととは一切縁がないのがこの二人です。
「けれど皆と一緒にいることは楽しいからね」
「いさせてもらうよ」
「いつもみたいにですね」
「こうした場は好きなんだ」
「食事には興味はなくてもね」
 食べる必要がないのに興味を持つこともありません、二人にとって食べものとはただ目に入るだけのものです。
 けれどです、皆が食べたり飲んでりして楽しんでいる笑顔はといいますと。
「笑顔に賑やかな声」
「そうしたものを見ることはね」
「好きだからね」
「一緒にいさせてもらうよ」
「つまりお二人は皆の笑顔を食べているんですね」
 カルロスはここでこうしたことを言いました。
「そうですね」
「あっ、そうなるね」
「言われてみればね」
 二人もカルロスの今の言葉に笑顔で応えます。
「僕達は何も飲んだり食べたりしないけれどね、口では」
「心ではそうだね」
「皆の明るい笑顔を見てね」
「そうして食べているね」
「そうなりますよね」
 あらためて言うカルロスでした。
「それだと」
「うん、確かにね」
「カルロスの言う通りだよ」
「そうした食べものもあるんですね」
 しみじみとしても言うカルロスでした。
「そうなんですね」
「そう、だからね」
「僕達も一緒にいたいんだね」
「食べるものは食べものだけじゃないんですね」
 勿論飲みものもです。
「それ以外にもあるんですね」
「そういうことだね」
「笑顔やそういった明るいものもだね」
「食べるものでね」
「とても美味しいものということだね」
「そうですね、そしてその食べものは」
 さらに言うカルロスでした。
「僕達も食べますね」
「そうね、それではね」
 ドロシーも言うのでした。
「皆で笑顔も食べましょう」
「笑顔は幾ら食べても減らないよ」
 トトはドロシーの横にいます、目の前にはお皿の上にあるとても大きなお魚のフライが二匹置かれています。
「それはね」
「そう、幾らでも出て来るからね」
「楽しい気持ちならね」
 それならばです、笑顔はです。
「ずっと湧き出るものだから」
「幾らでも食べられるのよ」
「そして笑顔を食べるとね」
「食べた人はとても嬉しい気持ちになれるわね」
「そう思うと笑顔って凄いね」
 トトはしみじみとして言うのでした。
「そうだよね」
「そう思うわ、それじゃあ」
「うん、僕達もね」
「食べましょう」
 その笑顔をというのです。
「皆でね」
「うん、そうしてだね」
「今夜も楽しく食べましょう」
 その晩御飯をというのです。
「そうしましょう」
「わかったよ」
 こうしたことをお話しながらでした、皆でその晩御飯とデザートそれに笑顔をたっぷりと食べてです。それから寝るのでした。
 ですがかかしと木樵は寝る必要がありません、それで一晩起きていることになりました。その二人が寝る前にです。
 皆にです、ふと気付いて言いました。
「そうそう、君達はね」
「お風呂には入らないのかな」
 言うのはこのことでした。
「僕達はお風呂に入る必要もないけれど」
「それで君達は違うよね」
「だからね、どうなのかな」
「寝る前に入らないのかな」
「お風呂じゃないけれど」
 それでもとです、ドロシーが二人に答えました。
「朝に水浴びをしたわ」
「シャンプーや石鹸でちゃんと洗いました」
 恵梨香も二人にお話します。
「それで綺麗になってますけれど」
「ああ、そうなんだ」
「もうなんだ」
「はい、そうです」
 それで皆綺麗になっているのです。
「朝のことですけれど」
「確かこの近くに湖があるから」
 また言うドロシーでした。
「朝になったらね」
「そこに行ってだね」
「身体を綺麗にするんだね」
「ええ、そうするわ」
 朝にというのです。
「それならいいわよね」
「うん、出来れば一日一回はね」
「お風呂に入るべきだからね」
 普通の人はです。
「僕の場合は中の藁を取って洗濯をするんだけれどね」
「僕は身体に油を塗るんだ」
 二人はそれぞれそうして綺麗にしているのです。
「君達はお風呂なりシャワーなりでね」
「水浴びもだけれど」
「そうしたことで綺麗にしないといけないから」
「そのことを考えて言ったんだ」
「ええ、そのことはわかってるから」
 ドロシーがまた答えます、それも笑顔で。
「心配してくれて有り難う」
「そういうことでね」
「それじゃあね」
 こうお話してでした、二人は納得しました。そしてこんなことも言うのでした。
「ドロシーが最初に来た時はね」
「お池の傍とかに石鹸やシャンプーが出来る木なんてなかったからね」
「そう思うとね」
「今は便利になったよ」
「そうよね。シャンプーだってね」
 ドロシーはここでシャンプーのことも言いました。
「昔はなかったわね」
「オズの国にもね」
「なかったね」
「洗剤もね」
 服や食器を綺麗にしてくれるこれもなのでした。
「なかったわね」
「今みたいにね」
「一杯なかったね」
「オズの国は昔よりも便利になってるわ」
 それも遥かにです。
「本当によくなったわ」
「よくなったのですか」
「文明はいい部分と悪い部分があるわよね」
「はい」
 このことについてはです、恵梨香が少し残念そうに答えました。
「色々と」
「そうよね、けれどね」
「オズの国ではですね」
「いい部分だけが出るのよ」
 文明の中のそれがというのです。
「だからいいのよ」
「そうなんですね」
「それでオズの国はね」
「文明が発展しても」
「文明のいいところが反映されるのよ」
「それはいいですね」
 恵梨香はドロシーのお話を聞いてしみじみとして言いました。
「こっちの世界は違いますから」
「文明の悪い部分も出て」
「そうなんです、いい部分も確かに出ますけれど」
「何でもいい部分と悪い部分があるから」
「そのいい部分しか出ないっていうことは素晴らしいことですね」
「本当にそうですね」
 こうしたお話もしてでした、皆はこの日は男女に分かれてぐっすりと寝るのでした。そうして次の日また旅を楽しむのでした。



帰りはちょっとした問題があったな。
美姫 「そうね、蔦が邪魔してたわね」
どうなるかと思ったけれど、偶然にもかかしと木樵が通り掛かったお蔭で助かったな。
美姫 「運が良かったわね」
だな。ドロシーたちは二人を加えて大学へ。
美姫 「次回はどうなるのかしらね」
次回も待っています。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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