『オズのモジャボロ』




            第七幕  飴の川

 兎の人達に暫しの別れを告げてです、一行はさらに南に進みました。周りは赤いカドリングのそれが続いています。
 その赤の中で、です。ドロシーがふとモジャボロに言いました。
「狐の国だけれど」
「懐かしいね」
「驢馬の国もね」
「そうだね。ただね」
 ここでモジャボロはこう言うのでした、複雑な表情になって。
「僕は驢馬の国ではね」
「ええ、頭がね」
「驢馬のものにされたからね」
「ボタン=ブライトは狐でね」
「まさかああなるなんてね」
 とてもだったというのです。
「思いも寄らなかったからね」
「あの時はびっくりしたわね」
「全くだよ」
 その時のことを思い出しながらお話する二人でした。
「やっぱり僕にはこの頭だよ」
「人間のね」
「これが一番いいよ」
 こう言うのです。
「やっぱりね」
「そうよね」
「あの時はびっくりしたけれど」
 それでもだとです、モジャボロは複雑な表情をここで明るい笑顔に変えました。そうして言うことはといいますと。
「今はね」
「いい思い出よね」
「そう、今はね」
 そうしたものになったというのです。
「懐かしいね」
「あの時がモジャボロさんがオズの国に来た時だったから」
「あの頃はオズの国も今よりは小さくてね」
「そうそう、今よりもね」
 死の砂漠がオズの国がある大きな島の岸辺にまで達してです、島にある全部の国も囲んでオズの国に入れたからです。オズの国は大きくなったのです。
「だから驢馬の国もオズの国の外にあったね」
「他の国もね」
「ミュージッカーさんもね」
「あの人もお元気かしら」
 ミュージッカーの名前が出てドロシーはこうも言いました。
「最近お会いしていないけれど」
「この前の旅で会ったよ」
「それでどうだったの?」
「うん、とても元気だったよ」
「それじゃあ今もなのね」
「そう、身体から音楽を出しているよ」
 だからミュージッカーなのです。この人は身体から音楽をいつも出しているとても賑やかというか騒がしい人なのです。
「本人は楽しんでいるよ」
「それは何よりね」
「あの人はどうなのかな」
 ここで微妙な顔になってです、モジャボロは言いました。
「チョッキンペット嬢と狐の王様、驢馬の王様には招待状を出したしこれから出すけれど」
「それでもよね」
「うん、あの人にはどうかな」
「あの人が来てくれるのならね」
 それならと言うのでした、ここで。
「お渡ししようかしら」
「ドロシーはそうした考えだね」
「そう、皆来てもらった方がいいじゃない」
「そうだね、それじゃあね」
 こうしてです、ミュージッカーにお会いしたらとお話するドロシーでした。そうしたことを決めてなのでした。
 そしてです、二人でお話をしてからです。
 ドロシーは恵梨香達に顔を向けました、そのうえでこう尋ねました。
「貴方たちもミュージッカーさんのことは知ってるわよね」
「はい、あのいつもお身体から音楽を出すっていう」
「あの人ですよね」
「そうなの、あの人もパーティーに呼ぶつもりだけれど」
 ドロシー達はというのです。
「貴方達はどう思うかしら」
「いいんじゃないですか?」
「あの人もお呼びましましょう」
 五人はドロシーの問いにこう答えました。
「パーティーは人が多い方が楽しいですから」
「ですから」
「そうなのね、それじゃあね」
「はい、あの人もですね」
「一緒に」
「そうよ、これで決まりよ」
 五人の意見も聞いてでした。
「あの人もね」
「そうですか、それじゃあ」
「また来てくれる人が増えましたね」
「これでね」
 ここでドロシーは言うのでした。
「チョッキンペットに兎の王様、狐の王様と驢馬の王様に」
「ミュジッカーさんですね」
「あの人も加わりましたね」
「多分招待状を渡したら来てくれるわ」
 他の人達と同じく、というのです。
「それと他の人達も来るから」
「かかしさんに木樵さんもですか」
「あの人達も」
「グリンダもジャックもチクタクもね」
 勿論この人達もでした。
「臆病ライオンも腹ペコタイガーもね」
「まさにオズの国の名士がですね」
「勢揃いですね」
「そうなるわ、ヘンリーおじさんとエムおばさんもね」
 ドロシーの大切な、カンサスにいた頃からの家族であるこの人達もパーティーに来てくれるというのです。
「皆来てくれるから」
「オズマ姫のパーティーに」
「皆が」
「そう、来てくれるのよ」
 ドロシーは今からとても楽しそうです。
「オズの国からね」
「そうですか」
「皆がですね」
「そうよ、本当にオズの国の人は色々な人がいるから」
 これまで一行が会ってきた人達以外にもです。
「いるからね」
「だからですね」
「色々な人達が一同に会して」
「オズマ姫と一緒に」
「そうよ、楽しいパーティーになるわよ」
 ドロシーは五人にも笑顔でお話するのでした、そうしてです。
 皆でさらに南に向かいます、その途中でまたお昼を食べます。お弁当の木があったのでそこからお弁当を取って食べていますと。
 カルロスがです、モジャボロに尋ねました。
「あの、南に行く中で」
「どうしたのかな」
「はい、ミュージッカーさんはいいとしまして」
「ああ、ガーゴイルとだね」
「スクーグラーがいましたね」
「そうそう、彼等のことだね」
 モジャボロも林檎を食べつつカルロスに答えます。
「彼等もいるよ」
「あの、凄く危ないですよね」
 恐る恐るです、カルロスは言うのでした。
「あの人達は」
「いや、今はね」
「今はですか」
「彼等も大人しくなったよ」
「そうなんですか」
「昔みたいに凶暴じゃないよ」
 モジャボロ達が最初に彼等に出会った頃とは違ってです。
「彼等もね」
「そうですか、それならいいですけれど」
「スクーグラーに捕まった時は大変だったわ」
 ドロシーはその時のことを思い出して苦笑いになりました、今ドロシーは恵梨香と同じお握りのお弁当を食べています。
「食べられちゃうかって思ってね」
「そうだったね、いや彼等は」
 モジャボロもドロシーに応えて言います。
「最初はかなりね」
「凶暴だったから」
「そうだったね、そういう種族も昔はね」
「オズの国に多かったわ」
「そうだったね」
「最近オズマの治世がよくてかなり減ったわ」
 そうした凶暴な種族も、です。
「有り難いことにね」
「オズマのお陰だね」
「本当にね、だから僕達もこうしてね」
 どうかというのです。
「楽しく旅が出来るんだよ」
「安全にね」
「そう、だからね」
 それではというのでした。
「一緒に行こうね」
「狐の国にも驢馬の国にもね」
「ミュージッカーさんのところにも」
 招待状を届けたい人達のところにです、そして。
 ドロシーはです、恵梨香達にも言いました。
「安心してね、スクーグラーの人達のことも」
「はい、わかりました」 
 恵梨香はお握りを手に取って食べながらドロシーに応えました。
「南に行きましても」
「オズの国も昔よりもずっと安全になったからね」
「そういえばオズの国ってあれですよね」
「あれって?」
「いえ、トビハネ族って人達もいますよね」
「イッカク族もね」
「色々な種族がいますね」
 このカドリングの国だけでもです。
「その人達の中でもスクーグラーの人達は物凄く怖いですよ」
「恵梨香達が知っているあの人達はね」
「外見も怖いですよね」
 顔が二つあってです、そのどの顔もとても怖いのです。それがスクーグラーという種族の特徴なのです。
「それで心も」
「けれどそれがね」
「変わったんですね」
「そうよ、今では地下のノームの人達ともね」
 かつてラゲドー王の下で何度も揉めてきたその人達ともです。
「平和よ。あの人達もオズの国の中に入ったのよ」
「地下もですか」
「そう、地下もね」 
 オズの国に入ったというのです。
「今ではオズの国なのよ」
「そうなんですか」
「そうなの、カリコさんと私達はお友達だから」
「カリコさんがですよね」
 今度はジョージが言ってきました、マスタードがとてもよくきいた美味しいソーセージのホットドッグを食べながら。
「今のノームの王様ですよね」
「ええ、真面目でいい人よ」
「そうですよね」
「あの人が王様になってからね」
 その時からというのです。
「ノームの人達も変わったのよ」
「平和な人達になったんですね」
「王様でかなり変わるのよ」
 このことはノームの人達も同じだというのです。
「元々ノームは地下で平和に暮らしていたのよ」
「ところがあの人が王様になって」
 ジョージはラゲドーのことを考えながら言うのでした。
「ノームは悪くなったんですね」
「そう、あの人はよくない王様だったから」
「暴君でしたよね」
 神宝はお饅頭。中に鶏の挽き肉と筍を入れたそれを食べながらラゲドーについてこの言葉をかけました。
「あの人は」
「そう、大変なね」
「その人が王様だったからですか」
「ノームの国も悪くなったのよ」
「そしてノームの人達も」
「けれど今はカリコさんが王様だから」
 だからだというのです。
「今は私達とノームの人達はお友達よ」
「それは何よりですね」
「そう、それにね」 
 ドロシーはにこにことしてさらにお話します。
「妖魔の人達も今ではすっかり変わったから」
「何かオズの国も本当に」
「僕達が知っている時とかなり変わったね」
 ジョージと神宝はここで二人で顔を見合わせてお話しました。
「平和になったね」
「悪い人達がよくなったんだね」
「人は変わるんだよ」 
 モジャボロはにこにことして彼等に言いました、今はサンドイッチを食べながら。
「よくも悪くもね」
「だからですか」
「ノームの人達も妖魔の人達もですね」
「今はいい人達なんですね」
「そう変わったんですね」
「そうだよ、さてお昼を食べたら」
 どうするか、モジャボロはにこにことしてこれからのこともお話しました。
「また旅を続けよう」
「狐の国に入ったら」
 どうなのかとです、ナターシャが言いました。ナターシャは今は白くて綺麗な食パンを食べています。パンにはバターがたっぷりと塗られています。
「狐の皆さんとお話をして」
「そう、それで王様に招待状をお渡しするから」
 ドロシーがナターシャにお話します。
「それでパーティーに来てもらうわ」
「わかりました、それじゃあ」
「ただね」
「ただ?」
「狐の王様が。若しもね」
 ここでこんなことをです、ドロシーはナターシャだけでなく他の子供達にもお話しました。
「自慢をしてもね」
「l狐のですね」
「それをですね」
「そう、悪気はないから」
 だからだというのです。
「気にしないでね」
「はい、わかりました」
「その時は」
 五人もこのことは知っていました、何しろ五人共オズの国のことはボームさんが書いてくれた多くの本のことで知っていますから。
「そういうこともあるってですね」
「気にしないことですね」
「そう、そうしてね」
 聞き流して欲しいというのです。
「驢馬の王様もね」
「別に頭を狐にされたりしないですよね」
 恵梨香はドロシーにです、このことを尋ねました。
「ボタン=ブライトみたいに」
「大丈夫よ、もうあの人達も魔法は使わないから」
「だからですね」
「そう、心配しなくていいわ」
「わかりました、それじゃあ」
「そうしてね」
「それと狐さんでしたら」 
 ここで、です。恵梨香はお握りと一緒にお弁当の中にあるお野菜をお醤油で煮たものを食べながらにこりとして言うのでした。
「食べものが楽しみですね」
「鶏肉?」
 ナターシャはロシアの濃厚なサラダを食べています、今は。そのうえで狐の食べものについて言った恵梨香に尋ねました。
「それかしら、狐って」
「いえ、他にもあるから」
「ああ、きつねうどんにある」
「そう、揚げがあるわよね」
「日本の狐って揚げが好きよね」
「大好物なのよね」
「それでオズの国の狐さん達も」
 ナターシャは言うのでした。
「今ではなの」
「そうだったら面白いわよね」
「そういえば恵梨香ちゃん揚げ好きだよね」
 神宝は八宝菜を食べています、そうしながら恵梨香にいうのでした。
「油揚げね」
「ええ、お豆腐も好きだから」
「それでだったね」
「きつねうどんも好きだし」
 ナターシャがお話に出したそれもです。
「普通に焼いたり煮た揚げもね」
「好きだよね」
「大好きよ」
 にこりと笑っての言葉です。
「本当にね」
「そうだよね、本当に」
「だから狐さんの杭も揚げがあれば」 
 期待する顔での言葉です。
「嬉しいわ」
「揚げってお豆腐だからね」
 ジョージもう言うのでした、たっぷりとあるサラダを食べながら。
「身体にも凄くいいんだよね」
「そうなの、しかも美味しいから」
「恵梨香ちゃん大好きなんだよね」
「そうなの」
「だよね、お豆腐ねえ」
「お豆腐はオズの国でも食べられるから」
 ドロシーがここでまた五人にこうお話します、デザートの干し蒲萄を指で摘んでそのうえでお口の中に入れながら。
「私達も大好きよ」
「ううん、オズの国も何か」
「色々な食べものが増えましたね」
「やっぱりアメリカの料理がそのまま出るからね」
 モジャボロがここでまたこのことをお話しました。
「何でもあるんだよ」
「それもアメリカが色々な人が来ている国だから」
「それで、ですよね」
「そうだよ。しかしアメリカも変わったみたいだね」
 モジャボロはかつて彼がいた頃のアメリカと今ジョージ達から聞くアメリカを比較してこうしたことも言いました、林檎のジュースを飲みながら。
「あの頃はお握りなんてなかったしね」
「日系人が少なかったんですよね」
「うん、まだね」
 そうだったとです、日本人の恵梨香にも答えます。
「お寿司なんてものもね」
「お寿司美味しいですよね」
「美味し過ぎてついつい食べ過ぎてしまうよ」
 このことは苦笑いと一緒に言ったモジャボロでした。
「あれは罪な食べものだよ」
「そうですよね、お寿司は」
「パーティーで出るかな」
 そのお寿司が、というのです。
「どうなのかな」
「出たらその時はですね」
「うん、食べるよ」
 モジャボロは恵梨香に笑顔で答えました。
「絶対にね」
「お寿司はちょっと卑怯だよ」
 ここで苦笑いと一緒に言ったのはカルロスでした。パンの間に焼いた牛肉やお野菜をたっぷりと挟んで食べています、簡単なサンドイッチにして。
「だってあんなに美味しいんだから」
「お寿司は卑怯かしら」
「うん、美味し過ぎてね」
 こう恵梨香に言うのです。
「沢山食べ過ぎてしまうから」
「それで卑怯って」
「あんなのあったら和食が美味しいってすぐに皆が知るじゃない」
「だから卑怯なの」
「卑怯過ぎるよ、最高に美味しいから」 
 だからだというのです、カルロスは。
「僕も食べ過ぎて太るからね」
「そうそう、お寿司は食べ過ぎてしまうよ」
 モジャボロもにこにことしてこうお話します、恵梨香に。
「それが問題なんだよね」
「私もお寿司好きだけれど」
 そこまでかしらと思う恵梨香でした、あまりにも美味しいと言われますと。
「アメリカにもブラジルにも中国にもロシアにも美味しいものは一杯あるのに」
「簡単に食べられるからよ、お寿司は」
 ここで言ってきたのはドロシーでした。
「それに色々なお魚とかが食べられるわよね」
「お寿司のネタですね」
「そう、それでなのよ」
「お寿司は卑怯なんですか」
「お砂糖とお酢も合うからね」
 お寿司の時に食べる御飯の中にです。
「それもまたね」
「卑怯ですか」
「そう思うわ、私もお寿司は美味し過ぎると思うわ」
「君達が最初に来た時に僕達は皆でお寿司を食べたんだ」
 モジャボロ達で、です。かかしや木樵、チクタクといった何も食べる必要のない人達は食べてはいませんが。
「それで凄く美味しいってね」
「あらためて驚いたのよ」
 ドロシーはにこりと笑って恵梨香に言いました。
「本当にね」
「それで今こう言うんだ」
「そうですか、じゃあ若しも」
「ええ、パーティーでお寿司が出たらね」
「皆で楽しもうね」
「はい、そうしましょう」
 恵梨香は二人に笑顔で応えました、そしてでした。
 一行はお昼を食べたらまた先に進みました、その途中で。
 一行の前に川が出てきました、その川は小さな川で幅は数メートル程しかありません、ですがよく見るとです。
 何かおかしいです、最初にそのことに気付いたのはカルロスでした。カルロスはその川を見て皆に言いました。
「この川流れていないんじゃ」
「そうね、何かね」
 ここでナターシャも気付きました、今自分達の前にある川が普通の川とはどうにも違うということにです。
「流れていないわね」
「流れていてもね」
「流れが随分遅いわね」
「お水がどろどろとしてるよ」 
 カルロスは川を見ながら言います。
「何かね」
「おかしな川ね」
「そうだね」
「あれっ、川の中にお魚がいるけれど」
 今度は神宝が言います、川の中にいるお魚を見ながら。
「やけに色が明るくない?」
「そうだね、白にピンクに水色にね」
 ジョージもそのお魚を見て言います、見ればどのお魚も色がはっきりと分かれていてとても綺麗です。それはお魚にしてはどうにも不自然な感じです。
「熱帯魚、いやまた違うね」
「そうだね、鱗でもないよ」
「ううん、何かなあれ」
「飴に似てるかな」
「草もね」
 川の中の草についてはです、恵梨香が言いました。
「柔らかい感じだけれど」
「ちょっと違うわね、普通の水草と」
 ナターシャは今度は恵梨香に応えました・
「綺麗な緑で」
「ううん、お口の中に入れたら美味しそう?」
「そんな気がするわね」
「あっ、この川はね」
 ここで、です。川を見ていぶかしんでいる五人にドロシーがお話してきました。
「飴の川なのよ」
「飴ですか」
「飴の川ですか」
「そう、その川なのよ」
 そうだというのです。
「流れているお水は水飴でね」
「だあらですか」
「流れが遅いんですね」
「そうなの、それにね」
 そうしてだというのです。
「お魚はキャンディなのよ」
「じゃあ水草も」
「そう、緑の柔らかい飴よ」
 こちらもまた飴だというのです。
「水草もね」
「そうなんですね」
「ええ、だからね」
 それでだとです、ここでドロシーが言うことはといいますと。
「この川もね」
「食べられるんですね」
「そうよ、美味しいわよ」
「どうするんだい、それで」
 モジャボロはにこりと笑って五人に尋ねてました。
「飴を食べるかい?」
「丁度今おやつの時間よ」
 ソロシーもこう言ってきます。
「三時よ」
「あっ、じゃあ時間的にも」
「丁度いいですね」
「そう、それでどうするのかしら」
「でしたら」
 そのお話を聞いてでした、まずはです。
 恵梨香がです、ナターシャに尋ねました。
「どうしようかしら」
「私的にはね」
「ナターシャちゃんとしては?」
「かなり興味があるわ」
 ナターシャは喉をごくりとさせました、そのうえでの言葉です。
「美味しそうよね」
「どの飴も」
「ええ、お水もお魚も水草もね」
 そのどの飴もだというのです。
「美味しそうだから」
「それじゃあナターシャちゃんは」
「食べてみたいわ」
 そしてです、舐めてだというのです。
「是非ね」
「それじゃあね」
 ナターシャは賛成でした、そしてです。
 男の子三人に至ってはです、もう聞くまでもありませんでした。
 目をきらきらとさせてです、川の飴達を見つつ言いました。
「食べよう、早く」
「どの飴も美味しそうだよ」
「そう、だからね」
「今すぐにね」
「食べようよ」
「もう涎が出そうだよ」
 これが三人の言葉でした、つまり五人共賛成でした。勿論恵梨香もです。
 それで、です。ドロシーはにこりと笑ってこう言いました。
「じゃあ決まりね」
「はい、それじゃあ」
「今から」
「食べましょう」
 川、つまり飴達をというのです。
「皆でね」
「そうしましょう」
 こうしてでした、皆でなのでした。
 川のところに来ました、ですがここでモジャボロは五人にこう言いました。
「ただ、この川は水飴だから」
「そのまま手を入れたらですね」
「その時はですね」
「そう、べたべたになるからね」
 だからだというのです。
「手を入れたらちょっと面倒なことになるよ」
「そうですよね、手に飴がついて」
「それで、ですよね」
「うん、だからね」
 それでだとです。モジャボロはここで。
 五人にそれぞれ懐から出した紙のスプーンを出しました、そのうえで五人にこう言うのでした。
「これで水飴をすくって食べよう」
「お魚や水草はどうして取ればいいんですか?」
 カルロスはモジャボロにお水の中にいる彼等について尋ねました。
「このまま手を入れたら」
「うん、捕まえられるけれどね」
「その手はやっぱり」
「水飴でべたべたになるよ」
 お水とは違ってです、そうなるというのです。
「だからね」
「それじゃあどうして捕まえたら」
「大丈夫だよ、これがあるから」
 モジャボロは懐からまた何かを出してきました。それは釣り糸でした。先にはちゃんと曲がった釣り針があります。モジャボロは針にすぐに何かを塗りました。
「これを中に入れればね」
「お魚はですか」
「食いついてくるから」
 だからだというのです。
「安心していいよ」
「そうですか、じゃあ」
「お魚は僕に任せてね」
 言いながら早速釣り糸を水飴の中に入れたモジャボロでした、けれど飴なので糸は中にまでは入りません。ですが。
 そこにです、お魚が自分から来てでした。
 釣り針を噛んでです、簡単に捕まってしまいました。モジャボロはその綺麗な飴のお魚を手に取ったのでした。
 そのうえで、です。こう言いました。
「これでいいよ」
「あれっ、随分とあっさりでしたね」
「あっさり捕まりましたね」
「そんな簡単な釣りって」
「はじめて見ました」
 恵梨香達五人はそのお魚を見ながらモジャボロに言いました。
「餌もなくて針だけで釣りが出来て」
「それで捕まるなんて」
「凄いですね、モジャボロさん天才ですね」
「釣りの天才なんですね」
「いやいや、実はね」
 モジャボロはほくほくとしたお顔でこう五人に言います。
「針のところにあるものを塗っておいたんだ」
「あるもの?」
「あるものっていいますと」
「そう、蜜をね」
 それをだというのです。
「塗っておいたんだ」
「ああ、蜜ですか」
「お魚はそれに惹かれてだったんですか」
「針にすぐに喰いついたんですね」
「そうなんですね」
「そうだよ、ここのお魚は蜜が大好きなんだ」
 飴のお魚達はというのです。
「ついでに言うと心もないんだよ」
「あれっ、生きていないんですか」
「心がないっていうことは」
「この川自体がカドリングの人のおやつの為に作られたものなんだ」
 川のこともです、モジャボロは五人にお話しました。
「グリンダがね」
「あの人がですか」
「作られたんですか」
「カドリングの人達の為に」
「そうしたものなんですか」
「そうなんだ、このお魚もね」
 最初からです、オズの国にあったものではないというのです。
「動くだけで。言うならおもちゃかロボットか」
「そういうものですか」
「生きものじゃなくて」
「言うなら動く食べものかな」
 それがこのお魚だというのです。
「そうなんだ」
「ああ、そうなんですか」
「だからこのお魚はですか」
「生きてはいないんですね」
「そうだよ、オズの国で殺生は駄目だけれど」
 このことはオズマが厳しく定めています。もっともオズマがオズの国家元首になる前から定められていることですが。
「このお魚は生きてはいないからね」
「食べていいんですね」
「そうなんですね」
「うん、そうだよ」
 殺生にはならないというのです。
「安心していいよ」
「わかりました、それじゃあ」
「食べさせてもらいます」
「そのお魚も」
「そうしてね。後水草はね」
「それは私が取ったわ」
 ドロシーが言ってきます、見ればです。
 ドロシーは川の中にあるものではなく出ている水草を手に取っていました。それを束ねて手に持って五人に言うのでした。
「だから食べてね」
「あっ、すいません」
「もう取ってくれたんですか」
「ええ、じゃあ皆で食べましょう」
「わかりました、それじゃあ」
「皆で」
 五人はドロシーのお誘いに笑顔で応えました、そしてです。
 一行は水飴を舐めお魚と水草を食べました、どの飴もとても甘く美味しいです。ただ恵梨香はどの飴を舐めて食べても少し驚いてこう言うのでした。
「あれっ、何か?」
「何か?」
「何かってどうしたの?」
「思ったより甘いわ」 
 こうナターシャ達に答えるのでした。
「私が思っていたよりね。それに実はね」
「実は?」
「実はっていうと」
「オズの国の食べものって結構味が強いかしら」
 こう言うのでした。
「どうもね」
「オズの国の食べものの味はアメリカの味よ」
 ここでドロシーが恵梨香にこう言いました。
「アメリカのお料理が反映されるからね」
「だからなんですね」
「そう、味もね」
「アメリカの味なんですね」
「そうなの、恵梨香は日本人だから」
「日本人の私からしてみればですか」
「味が濃いと思いんじゃないかしら」
 ドロシーはその飴を舐めながら恵梨香にお話するのでした、水草の飴を。
「そうじゃないかしら」
「そうなんですね」
「ええ、日本には日本の味があるわよね」
「はい、日本人の好きな」
「それとはまた違うからね」
 だからだというのです。
「恵梨香は甘さが強いって思ったのよ」
「僕にとってはこれが普通だよ」
 アメリカ人のジョージの言葉です。
「これ位の甘さがね」
「そうなのね」
「話は聞いていたから最初からそうなんだって思ってたけれど」
 神宝も言います、ここで。
「日本のお料理の味は僕から見ても薄いよ」
「そうそう、油も少ないんだよね」
 カルロスは揚げものやそうしたものから言うのでした。
「天麩羅もフライもね」
「日本のお料理は全体的に薄味でカロリーも少ないわ」
 ナターシャははっきりと指摘しました。
「他の国の多くの人からしてみればね」
「そうなのね」
「だからオズの国のお料理はアメリカの味だから」
「私にしてみればなの」
「濃い味だと思うわ」
 そうなるというのです。
「恵梨香にとってはね」
「だから飴もなのね」
「そう、私達が今食べているこれもね」
 ナターシャは特に甘さが強いとは思っていません、実際に普通に舐めながら恵梨香にお話をするのでした。
「普通よ」
「そうなのね」
「けれど食べられないって訳じゃないでしょ」
「ええ、普通に食べられるわ」
 その通りだとです、恵梨香はナターシャに答えました。
「私もね」
「そうよね、美味しいわ」
「こうした甘さもあるのね」
「甘さもそれぞれってことね」
 飴にしてもというのです。
「ロシアの飴はまた違う味よ」
「そうそう、ロシアだとね」
 トトがです、皆の足元からナターシャにこんなことを言ってきました。トトはドロシーから貰った飴を美味しそうに舐めています。
「ケーキも違うよね」
「あっ、知ってたの」
「オズの国にもロシアのケーキがあるから」 
 だからだというのです。
「知ってるよ」
「そうなのね」
「アメリカだから」
 だからだというのです。
「ロシア系の人もいるからね」
「それでなのね」
「そう、ロシアのケーキもあるよ」
「あの固いケーキも」
「僕は最初あのケーキを見て驚いたよ」
 本当にというのです。
「こんなケーキもあるんだって」
「そうなのね」
「そう、あるよ」
「じゃあ今度食べられたらいいわね」
 ナターシャは期待するお顔で言いました。
「あのケーキも」
「そうだよね」
「まさかトトもロシアのケーキを知ってるなんて」 
 ナターシャはこのことに少し驚きました、ですが。
 ここで、です。こう言ったのでした。
「けれどロシアのケーキ美味しかったかしら」
「うん、とてもね」
「それは何よりよ、美味しかったら」
「皆好きだよ、あのケーキも」
「そうよね、だからあのケーキも皆で食べましょう」
「美味しいものは皆で食べないとね」
 トトは自分の尻尾を左右にぱたぱたと振って言いました。
「そうしないと美味しくないからね」
「そうよね、じゃあね」
「あのケーキもね」
 食べようとお話するのでした、ロシアのケーキも。
 皆は飴を楽しんで食べました、そして。
 また歩きだします、そこで。
 モジャボロはこの時も前を見て皆に言いました。
「また歩こう」
「はい、狐の国と驢馬の国に向かってですね」
「ミュージッカーさんのところにも言って」
「招待状を渡しましょう」
「スクーグラーやガーゴイルのところには行かないから」
 彼等のところにはというのです。
「君達は安心していいよ」
「今はあの人達も平和なんですよね」
「けれど君達はまだ怖いよね」
「はい、どうにも」
「襲われないか」 
 五人はあの時のスクーグラーやガーゴイル達しか知らないです、モジャボロ達を襲ったあの時の彼等しかです。 
 だからです、こう言うのでした。
「怖いです」
「やっぱり平和にいきたいですよ」
「楽しい旅でいたいです」
「そうだね、だからね」
 今回の旅ではというのです。
「彼等のところには行かないよ」
「また次の機会ですか」
「その時にですか」
「君達を案内するよ」
 その時にというのです。
「それでいいね」
「ううん、別に」
「そうよね」
 ですが五人はといいますと、まずはお互いに顔を見合わせてからでした。
 モジャボロに顔を戻してです、こう言いました。
「モジャボロさん達さえよかったら」
「スクーグラーやガーゴイルのところにも行きたいです」
「それであの人達にもお会いしたいです」
「お話したいです」
「そうなんだね」
 モジャボロは彼等の言葉を聞いて頷きました、そして。
 そのうえで、です。まずはドロシーに相談しました。
「いいかな、この子達を案内して」
「そうね、あの人達も大人しくなったから」 
 ドロシーは考える顔でモジャボロに顔を向けて答えました。
「それならね」
「危なくないからだね」
「お互いに親睦を深める為にもね」
 いいのではないかというのです。
「だからね」
「ドロシーがそう言うのならね」
「うん、じゃあね」
 こうお話してでした、そのうえで。
 二人は決めました、そうして五人に顔を戻して言いました。
「それじゃああの人達のところにも行こうか」
「スクーグラーやガーゴイル達のところにもね」
「そのうえであの人達にも会おう」
「そうしてお話をしましょう」
「はい、わかりました」
「じゃあお願いします」
「さて、これはさらに面白い旅になりそうだね」
 モジャボロは五人の笑顔での返事を受けてから自分も笑顔になって言いました。
「あの人達のところにも行くことになると」
「そうですね、それじゃあ」
「さらに南に」
 五人は意気揚々とした感じで南に歩いていきます、五人の旅はさらに楽しいものになるのでした。



旅の途中で一休みって所か。
美姫 「みたいね。休む場所もちょっと変わっているけれどね」
飴の川とかな。
美姫 「味が濃いって事らしいけれどね」
それでも皆、それぞれに楽しんでいるようだな。
美姫 「休憩も終えて、再び歩き出す一行」
次はいよいよ狐の国なのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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