『ノルマ』




                          第三幕  ノルマの言葉

 あのイルスンミルの木の前にまたガリア人達が集まっていた。そこで兵士達が話していた。
「まだ出発していないのか」
「そうだ」
 彼等はそう話をしていた。
「まだ彼等の宿営地にいる。そして」
「そして?」
「聞こえるのは戦いの声だ」
 ガリア人達は遂に制止できなく蜂起したのだ。ガリア戦記では批判的であるが多分に情緒的で突飛な行動を取る彼等について書かれている。
「ざわめきに武器のぶつかり合う音」
「他には?」
「旗が風にそよぐ音だ」
「全て戦場の声だな」
「その通りだ」
 その声こそが何よりの証拠であった。何が起こっているかということの。
「もうすぐだ、我等の自由が幕を開ける」
「再び」
「ローマ人から解放され」
 それを心から望んでいるのだ。だからこそ今蜂起したのだ。
「この静けさが終わるのだ」
「そして奏でられるのは」
「栄光の声だ。歓喜の声だ」
 そう話をしていた。そこにオロヴェーゾがやって来た。今回の蜂起は彼の主導であったのだ。
「勇ましいガリアの戦士達よ」
 彼は兵士達に声をかけてきた。
「オロヴェーゾ」
「何かあったのですか?」
「いや、それはまだだ」
 彼は残念そうに告げるのであった。
「私は諸君等に心を脈打つ知らせか己も顧みない情熱か煮えたぎる怒り、つまり勝利に向かうものを知らせたかったがそれは適わなかったのだ」
「ではまだローマ軍は倒れておらず」
「そうだ」
 まだローマ軍は残っているのであった。
「そしてあの総督もいる」
「ポリオーネもまた」
「それどころか」
「それどころか」
 話は続く。
「より冷酷な男が来るらしい」
「冷酷な男が」
「一体どのような」
 彼等はそれを聞いて顔を顰めさせる。確かに碌でもないことであった。
「詳しいことはわからない。だがどちらにしろ」
「今の蜂起は正しかったと」
「そうだ、正しかったのだ」
 オロヴェーゾの言葉は自分自身に対しても告げるものであった。彼もまだ心の中では迷っていたのだ。それを隠し否定する為の言葉でもあったのだ。
「この蜂起は」
「しかしノルマは」
 ここでノルマの名前が出た。
「このことは御存知だったのでしょうか」
「そういえば」
「それはまだだ」
 何もかもがオロヴェーゾの独断である。やはり彼もガリア人なのだ。いい意味でも悪い意味でも。ローマ人とは違っていたのだ。
「運命に従うのだ」
「神々の定められた運命に」
「そうだ。今回はどうやら失敗したかも知れない。それならば」
「どうされますか?」
「散るとしよう」
 この場はということであった。
「さもなければ他の同胞達にも危険が及ぶ。いいな」
「では今回は」
「盗賊が襲った」
 ものは言いようである。だがこの時代は盗賊やそういった類が多くまたかなりの力も持っていた。だから言い繕うことは可能であったのだ。
「そういうことにするぞ。いいな」
「わかりました。それでは」
「そのように」
 彼等は言い合う。そういうことにするのであった。
「ですがオロヴェーゾよ」
「何だ?」
「我々は何時までこうして」
 今回のことが失敗だとすると。それを思わずにはいられないのであった。
「いればいいのでしょうか」
「それはわからない」
 オロヴェーゾも苦渋に満ちた顔で彼等に答えるしかなかった。
「確かに惨いことだ」
「そうです」
「何時までこうしてローマの前に跪いているのか」
「何時まで」
「それは私も同じだ」
 彼もそれはわかっている。だからこそ今回の蜂起も指示したのだ。
「だが神々はまだ我々の方を向いては下さらない」
「そうですか」
「死んだ者はいないな」
「はい、全く」
 誰かが死んでいれば亡骸を手に入れられそこから今回の蜂起のことがわかる。だからそれを確かめたのである。
「ならばいい。知らぬふりだ」
「何もなかった」
「我々にとっては何もなかった」
 それを強調するのであった。
「それでよいな」
「はい、それでは」
「その時まで」
 蜂起もなかったことにして立ち去る。こうしたことも度々のようであった。だがそれも終わる時がある。何かが起ころうとしていたのだ。
 その森の中にノルマもいた。彼女は一人でこれからのことを考え微笑んでいた。彼女とポリオーネのことをだ。
「あの方が帰ってくる。アダルジーザのおかげで」
 アダルジーザを信じていた。それを誓い合ったのだから。
「あの方とまた一緒になれるのね。それを考えると夜だというのに太陽が見えるよう」
 新月の空を見上げる。今彼女はそこに太陽を見ているのであった。
「幸せがまた私のところに」
 そこにクロチルデがやって来た。そうしてノルマに声をかけてきた。
「ノルマ様」
「どうしたの?」
「お気持ちを確かに」
 彼女はまずノルマにこう言ってきたのであった。
「どうか」
「何があったというの?」
 彼女のその言葉に不吉なものを感じる。それで問わずにはいられなかった。
「一体何が」
「アダルジーザ様が訴えられたのですが」
「ええ」
「駄目でした」
「馬鹿な、そんな」
 ノルマはまずはその言葉を信じようとしなかった。
「彼女はあれ程言っていたのに。どうして」
「ポリオーネ様の御心は変わらなかったのです」
「そんな、そんなことが」
「あろうことかそれに」
「それに」
「あの方はアダルジーザ様を追いかけて」
 クロチルデの声が震える。ノルマはそれを聞いてさらに不吉なものを感じるのであった。
「悲しみと苦しみに打ちひしがれられ祈りに来たアダルジーザ様をこの森まで追いかけて」
「この森に入り。そして」
 これには言葉を失いかけた。それはガリアの者達にとっては誇りを傷つけられることであった。森に勝手に入られるだけでなく尼僧を奪われそうになるとは。
「そこまでしたというの。許すわけにはいかない」
「ノルマ様・・・・・・」
「すぐに同胞達を集めるのです」
 またしても怒りに覆われる。しかも今回の怒りは違っていた。
「復讐を!」
 ノルマは叫ぶ。
「復讐を!ローマ人の血でこの穢れを清めるのです!」
 遂にノルマが立った。森にガリア人達が集められる。鐘の音が鳴りそれが彼等を集める。忽ちのうちにガリアの者達が集められたのだった。
「ノルマ!」
 彼等は前に立つノルマに対して問う。既に彼女は神木を背にして立っていた。
「一体何があったのですか」
「鐘が鳴ったということは!」
「戦いだ!」
 ノルマは彼等に対して高らかに宣言する。
「立つのだ戦士達よ!敵を皆殺しにするのだ!」
「しかしノルマ」
「貴女は」
 ここでオロヴェーゾもガリアの者達もその顔を強張らせてノルマに対して問うのであった。
「貴女はこの前は」
「そうだ。今はその時ではないと」
「今は違う!」
 しかしノルマはそれでも叫ぶのだった。
「皆殺しだ!何があろうとも!」
「何があろうとも」
「そうだ!」
 またしても叫ぶ。
「勇ましい戦士達よ戦いの雄叫びをあげよ!」
「ならば!」
「我々も!」
 誇り高きガリアの戦士達もそれに応えた。そうしてノルマの前に一斉に立ち上がり叫ぶのだった。その手に剣や槍を持って。
「戦え、戦士達よ!ガリアの森で我等が負けることはない!」
「その通りだ!」
 彼等は口々に叫ぶ。
「餓えた狼の様に彼等に襲い掛かり」
「我等の剣や槍を紅に染めてやるのだ!」
「斧もだ!」
「弓も!」
 斧も弓矢も高々と掲げられる。
「ローマ人の血でリグリの汚れた水の上にほとぼしり出るのは彼等の血!」
「身を鎌で刈り取るかのように彼等を撫で斬りとして!」
「ローマの鷲の旗を叩き落せ!」
「神々に彼等の血を捧げよ!」
「太陽の光の前に!」
 ノルマは怖気を奮わせる顔をして彼等の前に立っていた。その彼女に対してオロヴェーゾが問うのであった。
「ノルマよ」
「はい」
 ノルマは兵士達を見据えたまま父に対して応えた。
「生贄はどうするのだ」
「生贄ですか」
「そうだ。戦いの前の生贄だ」
 ガリアの風習である。戦いの勝利を祈って生贄を捧げる。それが彼等の習わしなのだ。
「誰がいいか」
「それは」
 ノルマは祭司としてそれを選ぼうとする。だがここでクロチルデがまた来て彼女に対して言うのであった。
「ノルマ様」
「どうしたの?」
「この森にローマ人が入って来ていました」
「ローマ人が」
「はい」
 ノルマはそれを聞いてそのローマ人が誰なのかおおよそわかった。しかしそれは今はあえて言わないのであった。その顔でまた言うのであった。
「それでそのローマ人はどうなりましたか?」
「捕まりました」
 クロチルデは答える。がリア人達はそれを聞いてまたいきり立つのであった。
「そのローマ人を生贄に!」
「それこそが生贄に相応しい!」
「いえ、待つのです」
 しかしノルマはそう言って彼等を止めるのであった。
「まずは私が生贄を見ましょう」
「貴女がですか」
「そうです」
 そう皆に対して告げる。
「ここにその生贄を」
「はい。それでは」
 クロチルデはそれに応えて兵士達にそのローマ人を連れて来る。その彼とは。
「やはり」
「ポリオーネ!」
「この男が!」
 それはやはりポリオーネだった。ガリア人達の血が騒ぐ。
「殺せ!」
「生贄に!」
 彼等は口々にそう叫ぶのであった。
「この森を汚した罪は重い!」
「ガリアの神々の怒りを受けるのだ!」
「いいだろう」
 ポリオーネも覚悟を決めていた。毅然と胸を張って彼等に応えるのだった。
「喜んでその死を受けよう」
「やはりこの方が」
 ノルマは何とか表情を保ちつつポリオーネの姿を見て呟く。
「どうすれば」
「ノルマ!」
 その彼女にガリアの者達が声をかける。
「今こそここで!」
「生贄に!」
「わかっているわ」
 ノルマは己の心を隠して彼等に応える。
「鎌を」
「はい」
 それに応えて尼僧の一人があの黄金の鎌を彼女に手渡した。生贄を殺す神々の刃である。それが今ノルマに手渡されたのであった。
「さあ、今それで!」
「殺せ!」
「いえ、待つのです」
 しかしここでノルマは言うのだった。
「待つ?」
「そうです」
 ノルマは言う。
「この男に聞きたいことがあるのです」
 ガリア人達に顔を向けての言葉であった。
「この男に」
「一体何を」
「ここに来ることはガリアの者達にしかできないこと」
 ガリア人達の聖地だからだ。だからここに来る道も彼等しか知らないのだ。それでどうして知っているかということはやはり何かがあるということであるのだ。
「この男を招き入れたのは誰か。私は知らなければなりません」
「我等の裏切り者が誰か」
「それをですか」
「そうです」
 彼女は言う。
「だからこそ。暫く二人でこの男に聞きます」
「わかった。それでは」
 オロヴェーゾはそれを聞いて同胞達に声をかける。これには先程の蜂起の失敗に対する後ろめたさもあったのであろうか。
「いいな」
「はい、それでは」
「暫しの間」
 こうして彼等は姿を消した。後にはノルマとポリオーネだけになる。ノルマは二人だけになるとポリオーネに向かい合った。そうして言うのであった。
「これで貴方は私の思いのままになったのよ」
 じっと彼を見据えての言葉であった。
「わかるわね」
「わかってはいる」
 ポリオーネもそれは認める。
「しかしだ」
「しかし?」
「君はそうはしない」
「いえ、するわ」
 だがノルマはこうポリオーネに言葉を返すのであった。
「できるわ」
「それは何故だ」
「子供達にかけて」
 二人の間にいる子供達を出してきた。
「誓うのです。アダルジーザを諦めることを」
「アダルジーザを」
「そうです」
 ポリオーネの目を見据えての言葉であった。
「あの娘を神々の祭壇から引き離さないことを。そうすれば命を助けてあげるわ」
「僕の命をか」
「ええ。それに」
 ここで一瞬だが俯いた。しかしすぐに顔を上げて言うのであった。
「私も二度と貴方の前に姿を現わさない。それを誓うのよ」
「嫌だ!」
 だがポリオーネはそれを拒むのであった。
「拒むというの!?」
「そうだ。僕は卑怯者ではない」
 彼も覚悟を決めていた。だからこそ毅然として言うのであった。
「だからだ。そんなことは誓えないのだ」
「誓うのです!」
「誓う位なら死んでみせる!」
「まだ言うというのね」
「僕の心は変わりはしない」
 恐れずに言うのであった。
「例え何があろうとも」
「何があろうとも。そう」
 ノルマは今の言葉を聞いて顔をさらに怒らせるのであった。目が真っ赤に燃え盛っていた。
「子供達を。子供達を」
「何が言いたい」
「子供達は生きているわ」
 それは保障する。
「けれどこの前には危うく。怒りで母親であることすら忘れて」
「恐ろしい女だ」
 ポリオーネはそれを聞いて言うのだった。そしてそのうえでまた言う。
「だが殺すのなら僕にするのだ」
「どうしても退かないというのね」
「そうだ。殺すのなら僕だけにするのだ」
 こうも言う。
「それで気が済むというのなら」
「ええ、ローマ人は皆殺しよ」
 怒りに燃えたその声を発する。
「そしてアダルジーザも」
「それが君の望みだというのか、ノルマの!」
「そうよ!」
 声がここでまた激昂した。
「アダルジーザを炎の中に放り込むのよ。。神々の怒りの炎を!」
「殺すのなら僕だけにするんだ!」
 彼はなおも叫ぶ。
「彼女は見逃すんだ!」
「いえ、貴方にも同じ苦しみを味あわせるわ!」
 ノルマはそれでも言う。
「この私の手で!」
「それが君の考えだというのか!ノルマの!」
「そうよ!罪を犯した女を裁く!」
 ここで何故か一瞬だけ目の色が変わる。しかしポリオーネはそれに気付かなかった。
「今こそ!出でよガリアの同胞達!」
 彼女がまた高らかに叫ぶとそれでまたガリアの戦士達が戻って来た。彼等だけなく僧侶達もいる。ノルマはその彼等に対して言うのだった。
「生贄が決まりました」
「生贄が!?」
「裏切り者は誰なのだ」
「一人の尼僧が神聖な誓いにそむきその祖国と神々を裏切ったのです」
「やはりそれは」
 ポリオーネは絶望するしかなかった。それが誰なのかわかるからだ。
「その尼僧を生贄にするのです」
「誰だ、それは!」
「裏切り者を許すな!」
 彼等はまた叫ぶ。何としてもその尼僧を生贄に捧げるつもりであった。
「火刑の用意を」
「はい、すぐに」
 兵士達の何人かがそれに応えた。
「ノルマ、やはり君は」
「そしてノルマよ」
 ポリオーネとガリア人達の言葉が同時にノルマの耳に届いていた。
「それは誰なのか」
「裏切り者とは」
「聞け!」
(けれど)
 言葉とは裏腹にノルマの心が揺れ動きだした。
(私の怒りの為に何の罪もないあの娘を責めるというのは)
 良心であった。ノルマをそれが止めるのでった。それは次第に大きくなり瞬く間に彼女の全てを包み込んでしまったのだった。彼女だけがそれに気付いている。
(それはならない。やはり)
「それではそれは誰なのか」
「お答え下さい!」
「私だけだ!」
 ポリオーネは何とかアダルジーザを救おうと叫んだ。
「私以外にはいない!」
「黙れ!信じられるものか!」
「ローマ人の言葉なぞ!」
「うう・・・・・・」
 結局ポリオーネの言葉は退けられる。そのうえでまたノルマに対して問うのであった。
「それは一体」
「誰なのか!」
「それはこの私なのだ!」
「えっ!?」
「今何と」
「私がその裏切り者なのだ。私の火刑台を早く作るのです!」
 ノルマの叫びを聞いても誰も信じられない。あまりの言葉に呆然とさえしていた。
「嘘だ、そんな」
「そんな筈がない」
「まさか、ノルマ」
 だがポリオーネにはそれが真実だとわかっていた。だからこそここで言うのだった。
「それも嘘だ!」
 彼は叫ぶ。
「ノルマは嘘をついている!それは!」
「そうだ、そんな筈がない」
「ノルマが我々を裏切るなぞと」
「ノルマの言葉に嘘はない!」
 しかしであった。ノルマはここでまた叫ぶのであった。峻厳なまでの言葉で。
「だからだ。早く火刑の用意を!」
「何と恐ろしいこと!」
「ノルマが!」
「全てはこれで終わるのよ」
 ノルマは言うのだった。
「これで全てが」
「どういうことだ、ノルマ」
 ポリオーネはノルマに対して聞かざるを得なかった。
「どうしてこんなことを」
「本当の罪人を裁くだけ」
 それがノルマの返答であった。
「それだけです」
「それが君の心なのか」
「そうよ」
 こうまで言い切るのだった。
「全てを終わらせる。私の死で」
「わかった」
 ポリオーネも遂に彼女の言葉を受け入れるのであった。
「ならば僕も」
「貴方も」
「今はこれ以上は言わない」
 だが。決意した顔であった。
「それだけだ」
「そう」
 ノルマも彼の心がわかった。しかし彼女もあえてそれを言わないのであった。言わないがそれでも。心はようやくつながったのであった。
「しかし嘘だ」
「そうだ、そうに決まっている」
 まだガリア人達はノルマの言うことを信じようとしていなかった。
「こんな筈がない」
「ノルマが」
「そうですよね?」
 恐れる声でノルマに対してまた問う。
「嘘であると」
「そんなはずがないと」
「ほら、御覧下さい」
 誰かが空を指差した。
「穏やかになっているではありませんか」
「そうです」
 見ればノルマの怒りそのままに荒れていた空が穏やかになっていた。荒れ狂う稲妻が消え去り黄金色の月が穏やかな光を放っているだけであった。
「ですからノルマ!」
「お答え下さい!」
「人にはどうすることもできない力に動かされた」
 だが。ノルマの答えは変わらなかった。
「だからこそ」
「何ということだ」
 オロヴェーゾも言葉もなかった。
「こんなことが。ノルマが」
「父上」
「何だ?」
 ノルマの声にまだ我を失いながらも応える。
「まだ言うことがあるのか」
「あります。私には子供がいます」
「子供が!?馬鹿な」
 この言葉も信じられなかった。しかしノルマはまだ言うのであった。
「そんな筈が」
「二人います。今クロチルデが預かっています」
「クロチルデがか」
 一応は応えはするが。
「そんなことがあろうとは」
「子供達を守って下さい」
「御前の子供達を」
 呆然としたまま話を聞く。
「わしが預かるというのか」
「御願いです」
 ノルマの言葉は心からのものであった。
「あの子達を私の罪の生贄にせずに。どうか」
「しかし」
 まだ我を失いながらの言葉であった。
「ポリオーネの子であろう」
「そうです」
 それも認める。やはりノルマは嘘はつかないのだった。
「だからこそ。御願いです」
「何故こんなことに」
「私は愛に負けたのです」
 ここでノルマは言う。
「この方への愛に」
「ローマ人への愛にか」
「そうです」
 答えるのだった。
「どうか。お許しを」
「そなたはわしの娘」
 オロヴェーゾは血を吐くような言葉を出した。
「その娘の子達を死なせることはわしには出来ない」
「ではお父様」
 これこそノルマが最後に願う言葉であったのだ。
「本当に。宜しいのですね」
「よい」
 オロヴェーゾは二つの目から熱いものを溢れさせていた。そのうえでの言葉であった。
「わしが引き取ろう。それでいいのだな」
「有り難うございます。それでは」
「もうこれでいい」 
 ポリオーネも言うのだった。
「僕も。これで」
「これで終わるのだ」
 ガリア人達にもわかっていた。
「これで。何もかも」
「見よ、彼女の頭から」
 それまでのドルイドのあの冠が外され黒い死のヴェールが被せられる。それが合図であった。
「ではお父様」
「もうよい」
 首を横に振ってノルマに言うのだった。
「もうこれでな。言わずともわかる」
「そうですか」
「ノルマ」
 そして。ポリオーネも前に出て来た。
「僕も一緒に行こう」
「宜しいのですね」
「僕は。間違っていた」
 ポリオーネも泣いていた。そのうえでの言葉であった。
「けれど最後は僕も一緒だ。死を越えたところにより清らかで尊い永遠の愛があるのだから」
「そうだノルマ」
「貴女はそので永遠の存在となるのだ」
 ガリア人達もノルマに対して言う。誰一人として彼女を罵ろうとはしない。
「火刑台に昇り生贄となり」
「裁断を清めるのです」
 そうノルマとポリオーネに告げるのだtった。
「死んで罪を清め」
「永遠の愛の中に生きるのです」
「愛するガリアの者達よ」
 ノルマは最後に彼等に告げた。
「これで。永遠にさようなら」
「そして永遠に」
「その愛が続かんことを」
 二人は紅蓮の炎の中に消える。その時空に二羽の白い鳥が上った。そうしてそのまま空へと消えていく。永遠の愛がそこにあるかのように。


ノルマ   完


                         2008・1・7



やっぱり帰ってこず、怒り狂ったノルマが。
と、ここまでは予想していたけれど、まさか最後がこうなるとは。
美姫 「ちょっと驚きね」
うん。まさか、こんなエンドになるとは。
美姫 「投稿ありがとうございました」
ありがとうございました。



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