『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第七十五話  袁紹、軍を挙げるのこと

 華陀達は山を出た。当然張魯との話の後でだ。
 その彼にだ。怪物達が尋ねるのだった。
「ねえダーリン、それでね」
「あたし達のこれからはどうなるの?」
「ああ、まずはだ」
 華陀は自分の左右にいるその彼等に答えて話をはじめた。
「洛陽に向かってくれとのことだ」
「都になの」
「そこになの」
「ああ、そうだ」
 こう二人に話すのだった。
「ただし。すぐには入らないでくれと仰っていた」
「都に?」
「すぐにはなの」
「時が来るのを待てとのことだ」
 そうしろとだ。張魯は華陀に言ったというのだ。
「そうしてくれとな」
「そうなの。じゃあ洛陽もなのね」
「入らないのね」
「それは特に止めてくれとのことだ」
 都に入るのはだ。絶対に駄目だと言われたというのである。
「郊外で潜伏してくれとのことだ」
「都でダーリンとデートしたかったのに」
「それができないなんて」
 二人はそのことに身をよじって悲しみを見せた。
「残念なんてものじゃないわ」
「あたし悲しくて涙が出るわ」
「何でも俺達は目立ち過ぎるかららしい」
 張魯もだ。わかっていることだった。
「それで駄目らしい」
「そうね、あたし達の美じゃね」
「嫌が応でも目立つわ」
「だからだ。何処かの廃屋にでも入って潜伏してくれとのことだ」
「わかったわ。それじゃあね」
「そうさせてもらうわ」
 二人は華陀のその言葉に頷いた。そんな話をしてだ。
 あらためてだ。こんな話をするのだった。
「それにしても洛陽はねえ」
「怪しい雰囲気に満ちているわね」
「そうですね。私もそれを感じます」
 命がだ。暗い顔で妖怪達に話す。今一行は道を歩いている。周りは荒地だ。何もない荒野ばかりが広がっている。砂漠に近い。
「洛陽の方から」
「命ちゃんはどういったものを感じるの?」
「それで」
「はい、黒い気です」
 それを感じるというのだ。
「人それ自体を否定し滅ぼそうとするような」
「流石ね。それよ」
「それなのよ」 
 妖怪達はだ。まさにそれだと話すのだった。
「今都に満ちているのはね」
「そしてそれが国全体に拡がろうとしているわね」
「確かに」
 感じながらだ。命は答えた。
「この気配は徐々に」
「さて、あたし達の相手だけじゃないわね」
「貴方達の関係者もいるわよ」
「我等のか」
 刀馬がそれを聞いてだった。
 その赤い目を顰めさせてだ。そうして話したのだった。
「話は色々聞いているが」
「あれなのか」
 天草もいた。彼も言うのだった。
「あの邪神が。まさか」
「それはこれから確かになることよ」
「他にも大勢いるみたいだしね」
「そうだな。そういえばだ」
 ここで言う華陀だった。するとだ。
 一行の目の前にだ。ある男がいた。
 白い服に赤い仮面の男だ。その彼の姿を見てだ。華陀が言うのだった。
「あんた誰だ?」
「黄龍という」
 仮面の男はこう華陀達に名乗った。
「おそらく。御主等と目的は同じだ」
「そうか。じゃあ話は早いな」
 華陀はすぐにこう黄龍に返した。
「俺達と一緒に来てくれるか」
「そのつもりで来た」
 黄龍も答える。そんな話をしてであった。
 彼も華陀達の同志となった。そうしてだった。
 その黄龍にだ。怪物達が声をかける。
「それでだけれど」
「貴方が来たことはね」
「むっ、まさかと思うが」
 黄龍も彼等の言葉を聞いて言うのだった。
「私のことを知っているのか」
「おおよそね」
「知らない訳じゃないわ」
 二人はこう彼に返したのだった。
「貴方達の世界もね」
「行く来できるから」
「そうなのか。ではこの世界についても」
「勿論知ってるわよ」
「だから来たのよ」
 平然と答える。まさに何でもないといったようにだ。
「あたし達あらゆる世界を行き来できるからね」
「全然平気なのよ」
「一体どういった人間だ」
 それを聞いただ。幻十郎が言う。
「前から奇怪に思ってたが」
「奇怪なんて失礼ね」
「こんな美しい乙女達を捕まえて」
「俺は男でも構わないが」
 幻十郎は女だけでなく男もいけるのだ。その特技は千人斬りである。しかしだ。二人については妖怪変化を見る目で言うのであった。
「しかしだ」
「しかし?」
「しかしっていったら?」
「貴様等は止めておこう」
「美しさは罪ね」
「微笑みさえ罪ね」
 相変わらずだ。勝手な、自分達にとってみれば当然の解釈をする彼等だった。そのうえでだ。彼等はまたしても言うのであった。
「誰にも手出しをさせないまでの」
「そこまでの美なのね」
「そう思うのなら思うといい」
 幻十郎でさえもだ。こう言うのだった。
 そうしてだ。そんな話をしてだった。
 彼等は道を進んでいくのであった。彼等の道をだ。
 袁紹のところにだ。彼女にとって不快な文が来ていた。それを読みだ。
 彼女は己の机に座りながらだ。怒り狂った言葉を出していた。
「何ですって!?まだ言いますの!」
「あの、董卓さんからですよね」
「ひょっとしてですか?」
「そうですわ。高句麗を攻めよと」
 こうだ。命令が着ていると顔良と文醜に話すのだ。
「また来ていますわよ:
「あの、高句麗を攻めても」
「何の利益もないですよ」
 それは二人も言うことだった。
「我が漢王朝に従順ですし」
「あんな寒くて土地が痩せてて」
「しかも鉄も銅も塩もありませんわ」
 袁紹も言う。
「そんな何もない国、攻める必要一切ありませんわ!」
「そういえば孫策さんも南越征伐を命じられていて」
「袁術様もあれですよね。南蛮を」
「おまけに華琳はわたくしと共に高句麗ですわ」
 要するに牧達の殆んど全員に命じているのだ。
「これだけの兵を起こすとなると」
「あの、おかしいのでは?」
 二人と共にいた陳琳が言ってきた。
「国力を無駄に使ってしまいます」
「まずはわたくし達ですわね」
「はい、これは」
 どうかとだ。陳琳はさらに話した。
「まずは我々の国力を消耗させ」
「そのうえで、ですわね」
「はい、我々を取り潰しにかかるかと」
 陳琳はここではだ。軍師として話していた。彼女は軍師としても動くことができるのだ。
「そうしてきます」
「間違いありませんわね」
 袁紹も彼女のその言葉に腕を組んで頷く。その豊かな胸が腕の上に落ちる。かなりの重量を感じさせる胸である。
「それは」
「はい、確実に」
「それが狙いですわね」
「けれどですよ、麗羽様」
 文醜がここで袁紹に言う。
「このまま拒否し続けたら」
「はい、解任されて都に召還されます」
 顔良も話す。
「そうなれば」
「結局同じですよ」
「それが狙いかと」
 また言う陳琳だった。
「董卓殿の」
「動けばやがて攻められ動かなければ処刑」
 袁紹は難しい顔で述べた。
「都に召還されればそうなりますわね」
「はい、間違いなく」
 そのことも言う陳琳だった。
「そうされます」
「ではわたくし達は打つ手がありませんわね」
 袁紹は自分だけではないと言った。
「華琳にしても孫策にしても」
「美羽様にしても」
「そうですわ。このままでは全員同じですわ」
 そうだというのである。
「動いても動かなくても」
「じゃあ今はどうすれば」
「どうします?本当に」
 武の二人は深刻な顔をして主に問うた。
「待っていても仕方ないですし」
「それならいっそのこと」
「いえ、今は待つべきよ」
 しかしだった。ここでだ。
 陳琳はその二人に対してだ。こんなことを言ったのである。
「ここはね」
「解任されるのに?」
「それでも?」
「近いうちにその話が来るわ」
 陳琳はいぶかしむ二人に冷静に話す。
「麗羽様の牧解任と都への召還の話がね」
「だから。それが来たらよ」
「まずいじゃないか」
 二人はいぶかしむ顔で陳琳に言い返す。
「麗羽様が処刑されちゃうわよ」
「そうなってもいいのかよ」
「だから。その話が来たらよ」
 その時にこそだというのである。
「動けばいいのよ」
「動く?」
「この場合どう動くんだよ」
「兵を挙げるのよ」
 そうすればいいとだ。二人に話す陳琳だった。
「挙兵よ、挙兵」
「ちょっと待ってよ、そんなことしたら」
「それこそ最悪なことになるぜ」
 顔良と文醜は驚いた顔になってまた言い返した。
「私達謀反人になるじゃない」
「そうなってもいいのかよ」
「そうね。けれど相手はどうかしら」
 自信のある笑みでだ。陳琳は話した。
「都の話は聞いてるわよね」
「董卓殿の暴虐のこと?」
「それかよ」
「そう、それよ」
 まさにだ。それだというのだ。
「都で悪逆非道の限りを尽くしている董卓征伐を」
「つまりその董卓さんを征伐する為になの」
「挙兵するっていうんだな」
「そうよ。袁紹様はその董卓の理不尽な命に従わなかった」
「けれど董卓さんに解任され都で処刑されるから」
「それに対して兵を挙げる」
「そうなるのよ」
 こうだ。陳琳はその場合の大義名分を話すのだった。
「どう?これで」
「いい感じね」
「そうだよな」
 顔良と文醜は陳琳のその言葉に頷いた。そうしてだった。
 陳琳は次にだ。袁紹に向き直ってだ。あらためて彼女に問うた。
「これで如何でしょうか」
「そうですわね。それがいいですわね」
 袁紹もだ。陳琳のその言葉に頷くのだった。
 そのうえでだ。彼女はこうも話した。
「それでは。今は待ちますわ」
「はい、それにです」
「まだありますの?」
「間違いなく他の牧達にも解任と召還を言います」
 董卓がそうしていくというのだ。
「その方々にも檄を送りましょう」
「わたくし達だけではなくて」
「はい、全ての群雄が一つになって董卓を討伐するのです」
 陳琳の中に漢の地図があった。それに描きながらだった。
「そうしてそのうえで」
「全員で董卓を倒すのですわね」
「それでどうでしょうか」
 また話す陳琳だった。
「連合軍を組織するのです」
「では挙兵と共に檄文を出し」
「はい」
「そうして征伐しましょう」
 そんな話をしてだった。彼女達はだ。
 これからのことを考えていくのだった。実際に暫くしてだ。
 袁紹のどころにだ。その文が来たのだった。
 やはりだ。彼女の牧解任と都への召還のことだった。それを読み終えてだ。
 袁紹は集めている家臣達と異世界からの客将達にだ。こう話した。
「来ましたわ」
「解任のお話ですね」
「そのことですね」
「その通りですわ」
 袁紹は己の左右に控えている田豊と沮授に答えた。
「では。ここは」
「はい、挙兵すべきです」
「既にその用意はできています」
 軍師二人はすぐに主に述べた。
「麗羽様がよしと仰ればです」
「何時でも」
「わかっていますわ。それではでしてよ」
 袁紹もすぐに言う。躊躇していなかった。
 彼女はだ。全員に告げた。
「挙兵ですわ」
「それではです」
「我々も」
「そして檄も出しますわ」
 それも忘れていない。とりわけだった。
 陳琳に顔を向けてだ。こう言うのであった。
「檄文を書くのは貴女ですわ」
「わかりました」
「名文を期待していますわ」
 文にも秀でている彼女にだ。あえて告げたのである。
 こうして袁紹は挙兵しすぐに牧全員に檄を渡した。それを呼んでだ。
 まずは曹操がだ。己の家臣や客将達を集めて話すのだった。
「麗羽から来たわ。董卓に対する挙兵の誘いよ」
「そうですか。麗羽殿が」
「そうされますか」
「ええ、そうよ」
 まさにだ。その通りだと曹仁と曹洪に話す。
「連合軍に参加されたしとね」
「麗羽殿も牧を解任されるとのことですが」
「華琳様と同じく」
「ええ、今の牧全員がよ」
 その中にはだ。やはりであった。
「私も含めてね」
「元々我々もです」
「挙兵のつもりでしたが」
 夏侯姉妹もここで言う。
「麗羽殿が先にですか」
「動かれましたか」
「あの娘はせっかちだからね」
 袁紹のそうした性格をよくわかっている曹操だった。
 それを踏まえてだ。彼女はさらに話す。
「こうなるとは思っていたけれどね」
「それでどうされますか?」
 荀ケがここで曹操に尋ねた。
「華琳様としては」
「勿論挙兵よ」
 曹操は即答してみせた。
「私達もね」
「わかりました。それでは」
「そして麗羽の誘いに乗るわ」
 笑ってだ。それもだというのだ。
「そうするわ」
「それが宜しいかと。ただ」
 荀ケは連合軍に加わることはいいとした。しかしここで顔を曇らせてだ。こんなことも言うのだった。
「あの娘には会いたくありませんけれど」
「あの娘ね」
「はい、陳花にはです」
 この名前を出すのであった。
「どうしても」
「まあそれは我慢して頂戴」
 曹操は先程とは違う笑顔で荀ケに話した。
「顔を会わさなければいいのだし」
「そうですね。それでは」
「まあ凛は嬉しいでしょうけれど」
「えっ、私ですか」
「そう。貴女はね」
 今度は悪戯っぽい笑みで郭嘉を見て述べた。
「袁術に張勲も来るでしょうから」
「な、何故お二人なのですか!?」
 郭嘉はその名前が出るとだ。それだけで顔を真っ赤にさせてだった。
 あたふたとしてだ。己の主に言うのだった。
「私は華琳様の臣です」
「ええ、確かにね」
「どうして美羽様や七乃殿に会いたいと思うのですか。矛盾してます」
「姉ちゃん、真名出してるぜ」
「これ、それを言ったらいけません」
 程cが頭上の人形に突っ込みを入れる。
「真実を言ったら困る人もいるから」
「おっと、そうだったねい」
「そう。禁句ですから」
「ま、待て風」
 郭嘉は今度はそちらにその真っ赤になった顔を向けて言い返した。
「私はだから、その美羽様とは何も」
「接吻したし」
「あれは私がお酒を飲んで」
「しかも同じ口で同じもの食べて」
 その突っ込みは実に容赦がない。
「それで何もないとは」
「言えないというの!?」
「まああえて言わないけれど」
 無表情で攻める程cだった。
「けれど凛ちゃんと袁術さんは運命だと思う」
「運命!?」
「そう、中身の運命」
 そういう運命だというのだ。
「それだと思うから」
「何故納得できるか自分でも不思議だけれど」
 それを言ってしまったのだった。自分自身でも。
「しかし。董卓を討伐するのならです」
「全軍で攻めるべきね」
「はい、董卓軍は強いです」
 話はそこに戻った。ようやくといった感じで。
 郭嘉は真面目な顔になってだ。あらためて曹操に話すのだった。
「兵が強いだけでなく将帥も揃っています」
「あの呂布もいるわね」
 曹操の顔が真剣なものになっていた。そのうえでの言葉だ。
「あの娘と戦うとなると」
「はい、我々も全軍でなければ」
「ならないです」
 夏侯姉妹もここで言う。
「生半可な相手ではありません」
「だからこそだと思います」
「麗羽も美羽も全軍で来るわよ」
 彼女達もだというのだ。
「それに孫策もね」
「そうでなければ戦になりません」
 董卓軍はだ。そこまでの相手だというのだ。郭嘉は楽観していなかった。
「だからこそ。全軍で」
「わかっているわ。それではね」
「はい、それでは」
「全軍に命じるわ」
 そのだ。全軍にだというのだ。
「出陣の用意よ。然るべき場所で麗羽達と落ち合うわよ」
「御意」
「では今より」
 曹操達も出陣を決意した。そうしてすぐにだった。
 袁紹に使者をやってだ。話をするのであった。
「僕達も出陣するからね」
「宜しく御願いします」
 許緒とだ。典韋が今まさに出陣する袁紹に対して話すのだった。
「華琳様から宜しくと」
「そう伝えてくれとのことです」
「ええ、わかりましたわ」
 袁紹は馬に乗ろうとしているところだった。そのうえで二人に話すのだった。
「それでは。合流する場所は」
「何処にするの?」
「それが問題ですよね」
「許昌の西がいいですわね」
 合流する場所はそこだというのである。
「そこにしましょう」
「うん、わかったよ」
「ではそこで」
「さて、話はこれで決まりですわね」
 また言う袁紹だった。そうした話をするのだった。
「では」
「では?」
「あの、他に何かお伝えすることがあるのですか?」
「いえ、何もありませんわ」
 それはないという。しかしなのだった。
 袁紹はここでだ。こんなことを言ったのである。
「劉備さんも来られますわね」
「あっ、徐州の」
「あの方ですか」
「あの娘はこれといって董卓に言い掛かりをつけられてはいませんでしたけれど」
「袁紹さん劉備さんにも檄を送ってますよね」
「それなら来られるのでは」
「ええ、送ってますわ」
 当然だ。彼女にもそうしているというのである。
「ただ。来られるかどうかは」
「わからない」
「そうなんですか」
「あの娘には直接関係ないことですし」
 狙い撃ちにされたのは袁紹達である。彼女達の挙兵は仕方ないことだった。
 しかしだ。劉備はというのだった。
「来られるかどうかは」
「わからないんだ」
「あの人は」
「来られればよし」
 その場合は何の問題もないというのだ。
「けれど来られなければ」
「その場合はどうするの?」
「何かされますか?」
「いえ、何も」
 しないというのである。
「劉備さんとわたくしは何もありませんし」
「劉備さんを征伐とかはしないんだ」
「そういうことはですか」
「そうですわ。しませんわ」
 また言う袁紹だった。
「ただ。参加して頂けないと寂しいですわ」
「ああ、確かにね」
「劉備さんって何かおられるだけで違いますから」
「そうですわ。是非参加して欲しいですわ」
 それでだというのである。これが袁紹の本音だった。
 そんなことを話してだった。彼女達は合流する場所も決めた。
 そして劉備達のところにだった。その文が来たのである。
 劉備はその文を読んですぐに全ての仲間達を集めた。そのうえで彼等の意見を聞くのだった。まずは関羽がこう言うのだった。
「前から妙に思っていましたが」
「董卓さんのことよね」
「あの方が暴虐を尽くしている」
 関羽は眉を顰めさせて言う。
「そんなことは信じられません」
「私も。愛紗ちゃん達からのお話を聞くと」
 劉備もだ。己の席に座り首を傾げさせて言うのだった。
「ちょっと」
「信じられませんね」
「どうしてもね」
 彼女にしてもだ。そうなのだった。
「そんな娘かしら」
「おそらくですけれど」
 次に話したのは孔明だった。こう劉備に言うのである。
「これは何か裏があります」
「裏が?」
「おそらく董卓さんは名前を使われているだけです」
 既にだ。そこまで見抜いている孔明だった。そのうえで劉備に話すのだ。
「御姿を見せていないようですし」
「それも妙な話だ」
 趙雲がいぶかしむ声で述べた。
「董卓殿は政は善政でしかもあれで行動的な方だ」
「それでお姿を見せないのはおかしいことです」
 孔明はこのことも指摘するのだった。
「何かあると考える方が妥当です」
「じゃああれか?宦官でもいるのかよ」
 馬超は彼等の存在を口にした。
「あの連中はもう粛清されただろ」
「そう思うのですが」
 実際にだ。孔明もこう話した。
「宦官の人達はいない筈です」
「十常侍はです」
 鳳統は彼等に話を区切ってきた。
「ですが他の宦官達の可能性もあります」
「そうね。宦官は彼等だけじゃないから」
 黄忠は話を十常侍に限らなかった。
「他の誰か、碌でもない人がいればそれでね」
「はい、同じことになります」
 鳳統はまた話した。
「その彼等が今宮中で蠢いている可能性はあります」
「だったら大変なことなのだ」
 張飛が怒った顔で言った。
「そんな奴等野放しにはできないのだ」
「じゃああれ?この討伐軍に参加しろっていうの?」
 馬岱はその張飛に問い返した。
「鈴々ちゃんはその考えなのね」
「そうなのだ。そんな奴等放っておいたら民が苦しむだけなのだ」
「そうよね。洛陽は実際に大変なことになってるらしいし」
「悪い奴等はやっつけないと駄目なのだ」
 張飛はそのことは強く言った。
「だから鈴々はこの討伐軍に賛成なのだ」
「少なくとも動かないと何にもならないな」
 テリーが言った。
「都の人達を救えないな」
「じゃあ兄さんもあれだね」
「この話賛成なんだな」
「ああ、そうだ」
 その通りだとだ。テリーはアンディと丈に答えた。
「どうもこんな話は放っておけないタチでな」
「俺達が何もしなくてもあれですけれどね」
 真吾が言う。
「袁紹さんや曹操さん達が動いてますけれど、もう」
「それで自分は何もしないっていうのはないだろ」
 二階堂がその真吾に話す。
「だろ?自分でやらないとな」
「ええ、それはもう」
 この考えは真吾も同じだった。例え見習いにしてもだ。
 それでだ。彼はまた言うのだった。
「それじゃあここは」
「さて、この度の戦じゃが」
 厳顔が話す。
「桃香殿の考えはどうじゃ?」
「私はできれば戦いたくはないけれど」
 劉備は顔を曇らせて俯き気味になってだ。こう話した。
「けれど。それでも都の人達が困ってるのなら」
「参加するのじゃな」
「それしかないと思うから」
 それでだというのだ。
「困っているのは都の人達だから」
「うむ、ではそれで決まりじゃな」
「全軍出陣です」
 劉備はまだ苦しい顔である。しかし顔を上げてこの言葉を出した。
「そうしましょう」
「了解です、それでは」
「出陣なのだ」
 関羽と張飛が言う。それでだった。
 劉備達も出陣することになった。こうしてだった。
 彼等はすぐにその準備に取り掛かった。こうして全ての牧達が参加することになった。
 無論孫策達もだ。彼女の動きも早かった。
「さて、それじゃあね」
「はい、参りましょう」
「今から」
 二張がだ。今出陣する孫策に述べた。無論彼女達も出陣する。
「そしていざ都に」
「向かいましょう」
「ええ。それにしても私達もかなりの人材が揃ったわね」
 今居並ぶ面々を見てだ。孫策は満足した顔で話すのだった。
「母様の時は貴女達三人だけだったのに」
「ははは、あの時は思えば静かじゃったな」
 黄蓋もいる。彼女は笑いながら話す。
「三人しかおらぬのではのう」
「私も小さかったしね」
「そうじゃったな。わし等も歳を取ったものじゃ」
「実際あんた達幾つなんだ?」
 十三がその黄蓋に尋ねた。
「女の人に年齢を聞くのはあれだけれどな」
「そういえば幾つじゃったかな」
 随分ととぼけた感じのだ。今の黄蓋の返事だった。
「わしも知らんな」
「自分の年齢をかよ」
「まあ二十代後半と思ってくれ」
「私達もじゃ」
「そう思ってくれるようにな」
 二張もその年齢にしておけというのだった。
「実際の歳は知らぬ」
「本人さえ知らん」
「随分いい加減な話だな」
 十三はそこまで聞いて腕を組んで己の首を捻った。
「俺の世界じゃそんなのは流石にないけれどな」
「そういうあんたは幾つなの?」
 孫策が十三に尋ねた。
「結構歳いってる感じだけれど」
「ああ、二十七だよ」
 彼は自分の年齢をしっかりと把握していた。実にあっさりと答えたのである。
「今はな」
「そう、二十七なの」
「老けてるかい?」
「そんな感じじゃないの?」
 孫策はこう十三に返した。
「その外見だとね」
「これでもお嬢には結構言われるけれどな」
「ハッパなんぞ咥えてるからや」
 あかりが十三に言う。
「そのハッパはあれやろが。悪球打ちのあれやろが」
「ああ、あいつな」
「どんなに古いネタやっちゅうねん」
「今も連載してるけれどな」
「はじまったん何時や」
「相当昔だけれどな」
「そやからや。どんだけ古いネタやねん」
 あかりはそのことをやたらと言う。
「ほんまに。古いネタは飽きられるんや」
「じゃあ新しいネタを出せってか」
「そや。ネタは大事や」
 あかりはあくまでそこにこだわる。
「新鮮かつ面白いネタや」
「何かあるか?それ」
「探せばあるのではないのか?」
 甘寧が十三に言う。
「貴殿は見たところそうしたことについての才があるようだしな」
「お笑いってことか」
「うむ、そんな感じだ」
「それ元の世界でも言われてたんだよ」
 十三は少し項垂れながら甘寧に話した。
「困ったことだよ」
「そうは見えへんけどな」
「だからお嬢はそこでいつも突っ込み入れるよな」
「だから言うたやろ。ぼけとつっこみや」
 つまりだ。十三がぼけというのである。
「それでうちは合わせてるんや」
「全く。そんな話ばかりだよな」
「しかしまあとにかく」
 今言ったのは陸遜だった。相変わらず呑気な感じだ。
「こうして皆さんで出陣となりましたね」
「ええ。ただ私達はね」
 孫策がその陸遜に応える。彼女達は今船の上にいる。そうして話すのだった。
「船はあるけれどね」
「馬ですよね、問題は」
「そう。馬がないのよ」
 こう話すのだった。
「それをどうしようかしら」
「馬がなくても充分に戦えるわ」
「そうね、冥琳」
 孫策は笑顔で彼女に応えた。
「戦い方はもう考えてるわよね」
「勿論。それは貴女もですね」
「何となくだけれどね。歩兵は歩兵で戦い方があるからね」
 孫策は笑顔でこう話した。
「さて、袁紹達と合流ね」
「袁術殿もいるな」
 今話したのは孫権だった。
「また訳のわからないことをしなければいいが」
「それ絶対に無理ね」
 孫尚香が笑いながら話す。
「袁術だから。絶対に何かするわよ」
「歌は歌いますね」
「それは確実ですよね」
 大喬と小喬が話す。
「私達に対抗とかして」
「絶対に騒ぎ起こしますね」
「そうよね。あの娘はね」
 孫策は困った笑顔で話す。
「よく言えば天真爛漫だけれど」
「悪く言えば我儘勝手だからな」
 孫権がそこを指摘する。
「今回も振り回されるか」
「それは想定の範囲内だからね」
 孫策はそうしたことは既に考えているというのだ。
「まあ騒ぎに巻き込まれてあげるわ」
「それでいいのじゃな」
「いつものことだからね」
 黄蓋にも話すのだった。そうしてだった。
 そう話をしてだ。彼女達も合流するそこに向かうのだった。そして袁術もだった。
 彼女もまた出陣していた。当然そこに張勲もいる。他の面々もだ。
 彼女は馬車に乗っている。そこから隣にいる張勲に話す。馬車の手綱は張勲が握っている。
「のう七乃」
「はい美羽様、何か」
「うむ。何か妙な話じゃな」
 袁術は首を傾げさせながら張勲に話した。
「董卓め、わらわ達にあえて謀反を起こさせたしかな」
「思えないと仰るんですね」
「大体じゃ。南蛮を攻めよとか金を出せとかじゃ」
「確かにそうですよね」
「そんなことを次々に言って来てしかも断ったら牧解任じゃ」
「そして都で処刑になると決まってますし」
「そんなことをされたら誰でも謀反を起こすわ」
 袁術は主観に基づいてだがそれでもその通りのことを話した。
「今の様にじゃ」
「ですよね。実際にそうなってますし」
「わからん。董卓はあえて戦をしたいのか?」
「かも知れませんね」
 張勲もそれを話す。
「私達全員と」
「だとすれば容赦はせぬがのう」
 袁術は馬車の中で腕を組んで述べた。
「わらわも」
「戦ですし」
「そうじゃ。戦ならじゃ」
 袁術はまた言った。
「何をしても勝つぞ」
「はい美羽様、ただ」
「ただ?」
「今回の討伐軍は連合軍ですから」
「むっ、姉様もおるな」
「盟主は多分袁紹さんになりますよ」
 張勲はそれは断る様にして袁術に話した。
「そのことはです」
「仕方ないのう。五州の牧じゃからな」
「その通りです。ですから」
「はい、それでは」
 そんな話をした。そしてであった。袁術はこんなことも話した。
「ところ七乃、曹操も来るのじゃな」
「はい、そうですね」
「うむ、また凛に会えるのじゃな」
 このことにはだ。満面の笑みになる袁術だった。そのうえでの言葉だった。
「よいぞよいぞ」
「駄目ですよ、美羽様」
「何故じゃ?」
「凛ちゃんは私のものですから」
 張勲はにこりと笑ってこんなことを言ってみせた。
「ですから美羽様はもう凛ちゃんとは」
「ば、馬鹿なことを申すな!」
 そう言われるとだ。やはり食いつく袁術だった。
「凛はじゃ。わらわのものじゃぞ!」
「あら、そうなんですか?」
「そうじゃ。だからじゃ。七乃といえどもじゃ」
「ううん、美羽様も手強いですね」
「手強いと申すのか」
「ええ。何か」
 そしてだった。張勲は笑いながらまた話した。
「黒姫みたいですね」
「むっ、その呼び名じゃがのう」
「御気に召されましたか?」
「妙に納得できるものがあるのう」
 腕を組んで神妙な感じの顔になってだ。袁術は話すのだった。
「どういう訳かわからぬが」
「ですよね。中身の関係で」
「また中身と申すか」
「はい、中身です」
 張勲は笑いながらこの話を再びする。
「特に美羽様は中身が個性的ですから」
「七乃が言えるのか?」
「私がですか」
「うむ、御主はそもそも中身の名前は幾つあるのじゃ?」
「美羽様より多いでしょうか」
「絶対多いと思うぞ」
 袁術は張勲に顔を向けて述べた。眉を少し顰めさせてだ。
「あと孫策のところにおる呂蒙もじゃな」
「あの娘も結構ですよね」
「凛も結構多いがのう」
「そうですよね。まあそのお話をすると」
 どうかとだ。張勲は笑いながらこのことについても話す。
「結構困ったことになる人もいますけれど」
「孫尚香も甘寧も洒落にならんまで色々出ておるからのう」
「あの人達の中身の名前は少ないですけれどね」
「わらわや七乃や凛よりはのう」
「多い人は本当に多いですから」
「全くじゃ」
 そんな話をしながらだった。袁術達も合流場所に向かうのだった。
 劉備達もだった。彼女は白馬に乗り軍の先頭にいた。その中でだ。
 隣にいる関羽にだ。こう尋ねるのだった。
「あの、合流する場所は」
「まだ先です」
 こう答える関羽だった。当然彼女も馬に乗っている。
「まだ予州にも入っていません」
「そうなのね」
「はい。ただ」
「ただ?」
「馬ですからそれ程時間はかかりません」
 それは大丈夫だというのである。
「焦る必要もありません」
「それならいいけれど」
「むしろです」
 ここで孔明が劉備に話す。彼女は劉備の後ろで椅子の車に乗っている。ただしだ。その車はタムタムに持たれてしまっている。
 そうして吊り下げられながらだ。主に話すのである。
「焦って先に進む方がよくありません」
「そうなのね」
「袁紹さんが真っ先に来られますし」
 その彼女が問題だというのだ。
「下手に先に行けば無用な騒ぎを引き起こしてしまいます」
「何でそれで騒ぎになるのだ?」
 張飛がその孔明に尋ねる。彼女は劉備の横で豚に乗っている。ここでも豚である。
「袁紹より先に着たら問題なのだ」
「各州の牧の人達が集まりますけれど」
 その中でだ。やはり問題になるのはだった。
「袁紹さんが最も勢力が大きいですね」
「無闇と大きいのだ」
「五州を治めておられるその権勢は第一です」
 孔明はそのことを話す。五つの州を治めている袁紹のその力は侮れなかった。
「ですから。盟主となられるのは」
「あいつなのだ」
「はい、それはもう今の時点でほぼ決まっています」
 流石に五州の牧であることは大きかった。それもかなりだ。
「あの方しかいません」
「そのあいつより先に来ればやばいのだ?」
「盟主である袁紹さんが真っ先に来ないと気が済まないと思います」
 孔明は袁紹のそうした性格を完璧に読んでいた。まさにその通りだった。
「ですから。下手に急いで袁紹さんと先に行くとです」
「ううん、問題の多い奴なのだ」
「それが袁紹さんですから」
 だから問題だというのである。
「ここは落ち着いて進軍すべきです」
「わかったのだ。とにかく今はゆっくりなのだ」
「しかし。あの人が盟主かよ」
 馬超はそのことにだ。眉を顰めさせて述べた。
「ちと問題があるような気がするな」
「そうだな。何しろムラッ気のある方だ」
 趙雲もそこを問題視して言う。
「それがどうなるかだな」
「目立ちたがり屋だしな。自分が先陣になるとか言うんじゃねえのか?」
「それは間違いない」
 趙雲はそれを確信していた。まさにだ。
「ましてあの方は自分が前線に出て戦う方だからな」
「盟主が前面に出て戦うのはまずいだろ」
「そこが問題だな。無能ではないがな」
「そうね。それを止めるので一苦労しそうね」
 黄忠もそのことを話す。
「さて、どうなるかしら」
「数はこちらの方が勝っています」
 鳳統は連合軍のその数を話す。
「将帥も揃っていますが」
「なら問題ないんじゃないの?」
 馬岱はそのことに特に危惧を覚えていなかった。
 それでだ。楽観的な感じで鳳統に話すのだった。
「それで」
「普通はそうです」
「袁紹さんがおかしなことしたらまずいっていうの?」
「いえ、相手です」
 鳳統はそちらを問題とするというのだ。
「董卓さんの将帥は物凄い人達が揃っています」
「呂布じゃな」
 厳顔がその名前を出す。顔を曇らせてだ。
「あの者は尋常な強さではないぞ」
「天下無双の強さだというが」
 魏延も呂布のその強さについて話す。
「私なら倒せる」
「いや、あの者の相手は止めておけ」
 厳顔は真剣な顔で魏延に話した。
「あれはまさに化け物じゃ」
「そこまでだというのですか」
「そうじゃ。愛紗達が束にかかっても圧倒されたのじゃぞ」
 その強さは厳顔も知っていた。呂布の武はだ。最早生ける伝説となっていたのだ。
 そう話してだ。厳顔は魏延にさらに話すのだった。
「あの女とは絶対に一人で向かうな」
「ううむ、左様ですか」
「絶対に向かうでない」
 また言う厳顔だった。
「よいな」
「わかりました」
「そしてなのですが」
 鳳統がここでまた話す。
「その呂布さんの他の。異世界から来た方々もです」
「そういえばあっちにもいたな」
 公孫賛が彼等のことを話した。
「あっちの世界の連中もな」
「どなたがいるかが問題です」
「ううん、どうなるか」
 劉備は馬上で首を捻りながら言った。
「わからなくなってきたけれど」
「あっ、心配することはないです」
 徐庶はその心配はないというのだった。
「心配し過ぎてもかえってよくないです」
「だからなのね」
「はい、平常心で行きましょう」
「そうね。それじゃあね」
 劉備は徐庶のその言葉にだ。笑顔で頷くのだった。そうしてだった。
 彼女達も合流場所に向かう。そしてそれでだ。一同が集うのだった。


第七十五話   完


                          2011・4・12



中央からのあからさまに可笑しな命令が。
美姫 「流石に皆、それなりの地位に居るだけに上手くあしらっているけれど」
流石にずっとそのままでいられないしな。
美姫 「結果として歴史通りに挙兵ね」
でも、月を知る人たちは皆、今回の事を可笑しく思っていたり感じているみたいだしな。
美姫 「どのような形になるのか分からないわね」
ああ。ともあれ、主だった者たちは一つ所へと集結する事にはなったが。
美姫 「大きく歴史が動くかもね」
どうなるのか、次回も待っています。
美姫 「待ってますね」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る