『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                             第七十話  何進、姿を現すのこと

 貂蝉がだ。急にこんなことを言った。
「ダーリン、わかったわよ」
「何がだ?」
 彼等は今漢中にいる。そこでだ。五斗米道の活動をしているのである。
「あの人のことがよ」
「大将軍のことか」
 それですぐに察した華陀だった。
「わかったのか」
「ええ、今予州にいるわ」
「あそこか」
「それで曹操さんのところに身を寄せようとしているけれど」
「曹操殿は受け入れられるな」
 それはだ。間違いないというのだ。
「確実にな。だが」
「だがなのね」
「それはどうかというのね」
 卑弥呼もだ。ここで出て来てだ。華陀に対して話すのだった。
「曹操さんのところに身を寄せるのは」
「最良の選択ではないのね」
「ああ、そう思う」
 華陀は考える顔になって述べた。
「袁紹殿や袁術殿もだ」
「最良ではないの」
「そうなの」
「孫策殿も同じだ」
 彼女にしてもだというのだ。
「どうもな。それはよくない」
「じゃあ誰のところがいいの?」
「誰のところに身を寄せるべきなのかしら」
「劉備殿だな」
 彼女だというのだ。華陀は考える顔で述べた。
「あの方のところに向かう方がいい」
「そうなの。劉備殿ね」
「あの御仁のところなのね」
「そう思う。あの御仁の持つ剣は」
 どうかというのだ。その剣はだ。
「二人共それを言ったな、前に」
「ええ、そうよ」
「劉備殿が持っているあの剣ならね」
 どうかというのだ。二人はだ。
「あの連中を封じられるから」
「それはここに来た時に話した通りよ」
「なら劉備殿だ」
 それならばだというのだ。華陀は言い切った。
「劉備殿しかない」
「わかったわ。それじゃあね」
「大将軍は劉備殿のところに案内するのね」
「そうする。それではだ」
 ここまで話してだ。すぐにだった。
 華陀はだ。あらためて二人に話した。
「予州だったな」
「ええ、そこよ」
「そこに身を隠しておられるわ」
「ならすぐにそこに向かいたい」
 思い立ったらであった。華陀の動きは速かった。
「今すぐにな」
「それじゃあ今からね」
「行きましょう」
「瞬間移動ですね」
 命が三人の会話を聞いて述べた。
「これからそれを使われて」
「その通りよ」
「どんな遠くに離れていてもね」
 貂蝉と卑弥呼は楽しげに笑いながら話す。
「あっという間にね」
「辿り着けるのよ、私達って」
「超能力だな」
 ミスタービッグは二人のその能力をそれだと評した。
「それで移動できるのか」
「そう言うかも知れないわね」
「仙術とも魔術とも呼ぶかも知れないけれど」
 二人も肯定する様にして話す。
「私達も長い間生きててね」
「そうした術を学んだのよ」
「そもそも一体何歳なのだ」
 刀馬はそのことも疑問に思うのだった。
「戦国時代から生きているとは聞いているが」
「もっと前からよ」
「伏儀様の頃からよ」
 その頃からだというのである。
 そしてそれを聞いてだ。華陀は話すのだった。
「ああ、あの伝説の三皇五帝の一人のか」
「そう、その三皇の一人」
「あの方の頃から生きているわ」
「そうだったのか」
「待て」 
 話をそこまで聞いてだ。ギースが言った。
「今三皇五帝と言ったな」
「ええ、そうよ」
「その通りよ」
 二人は何でもないといった口調でだ。ギースに答えた。
「天地開闢から少し経ってね」
「その頃に生まれたのよ」
「その皇は確か上半身は人間だったが下半身は蛇だったな」
「よく知ってるわね」
「そこまで知ってるのね」
「カレッジの講義で学んだ」
 そうだとだ。ギースは話す。
「チャイナ、この国の神話のことはな」
「神話じゃないわよ」
「事実なのよ」
「それだけの古の時代からいたのか」
 クラウザーもだ。唸る様にして述べた。
「二人は。それでは」
「いえ、人間よ」
「そうなのよ」
 それは確かだというのだ。
「だって心は人間だから」
「だから人間なのよ」
「そうだな。二人共間違いなく人間だ」
 華陀は微笑んでだ。二人の言葉に応えて話した。
「少し長生きしているだけだ」
「それだけだというのか」
「ああ、それだけだ」
 華陀は獅子王の問いに対しても答えた。
「他に何かあるのか?」
「いや、いい」
 獅子王は華陀にこれ以上言わなかった。言うのを止めたのだ。
 そしてだ。そのうえでだった。こう華陀に話した。
「とにかくだ。また出発するのか」
「ああ、暫くしたらここに戻る」
「一旦ね」
「そうするわ」
 こう言ってだ。三人はだ。
 すぐにだ。漢中を後にしたのだった。
 まさに瞬間移動だった。それによってだ。
 予州に辿り着いた。そこに着くとだ。
 いきなりだ。目の前にだ。
 曹操の兵達がいた。彼等は華陀よりも二人を見てだった。
「な、何だあれは!」
「怪物か!?」
「人間ではないな!」
「絶対にそうだ!」
 誰もがだ。二人を人間とは見なさなかった。そしてだ。すぐにだった。
「将軍の方を御呼びしろ!」
「そ、そうだな!」
「軍師の方もだ!」
「御呼びしろ!」
 こうしてだ。怪物達を囲んでだった。
 そのうえでだ。然るべき相手を呼んだ。そうしてなのだった。
 来たのは。彼女達だった。
「な、何だと!?」
「また出て来たの!?」
 夏侯惇と荀ケだった。来たのは二人だった。
「おのれ、死んだのではなかったのか!」
「んっ!?死んだ?」
 荀ケは夏侯惇のその言葉に眉を顰めさせた。
 そのうえでだ。彼女に顔を向けて尋ねた。
「何で死んだってなるの?」
「違ったか?」
「少なくとも死んだってことにはなってないじゃない」
 荀ケはこう彼女に言った。
「消えてはいるけれど」
「そうだったか」
「そうよ。あの時大暴れして空に消えたじゃない」
「ううむ、あまりにも異常な状況だったからな」
「勝手にそう思ったのね」
「間違いだったか」
「そうよ。そう思いたい気持ちはわかるけれど」
 それでもだというのである。
「とにかく。また出て来たから」
「ううむ、怨霊め」
「あら、失礼ね」
「うら若き乙女を捕まえて怨霊だなんて」
「私傷ついちゃったわ」
「私もよ」
「ええい、黙れ黙れ!」
 夏侯惇は怪物達に対して怒鳴った。  
 そのうえでだ。大刀を構えて。こう告げるのだった。
「ここで会ったが百年目!成敗してくれる!」
「御札も用意してあるわよ」
 荀ケはそれを出してきていた。
「妖怪を封印する為のね」
「よし、それでは今はだ」
「ええ、怪物退治よ」
 二人は勝手にそう思い込んでいた。
「それで」
「だから失礼しちゃうわねえ」
「こんな乙女を捕まえて」
「まだ言うか!」
 いい加減激怒した夏侯惇だった。
「何処の世界から出て来た怪物かは知らないがだ!」
「また出て来るなんていい度胸ね!」
「貴様等にこの国を荒らさせはしない!」
「さっさと成仏しなさい!」
「悪いけれど今はね」
「あんた達の相手をする暇はないのよ」
 怪物達は落ち着いて二人に述べた。
「だから。これでね」
「さよならな」
「そうだな。とにかくだ」
 華陀もここで言う。
「あの御仁を探すとしよう」
「むっ、そういえば」
「あんたもいたの」
 夏侯惇と荀ケはようやく華陀に気付いたのである。
「何故だ?妖怪の餌になったのか?」
「どうして一緒にいるのよ」
「ああ、この二人は俺の友だ」
 それだとだ。華陀は二人に話すのである。
「ある事情から行動を共にしているんだ」
「魔界にでも行くのか?」
「本当に食べられても知らないわよ」
「だからそういうのはないからな」
 彼だけが落ち着き払っている。
「安心してくれ」
「むう、そういえば御主以前には」
「華琳様に随分失礼なこと言って怒らせたわね」
「それだな。まあ曹操殿のそのこともやがて何とかしないとな」
「まさか便秘のことか?」
「ちょっと、それ言ったら駄目じゃない」
 夏侯惇と荀ケはひそひそと話をはじめた。
「また悩んでおられるからな」
「どうしたものかしら」
「一応言っておくが芋や南瓜、牛乳がいいぞ」
「それを食べるとか?」
「あれにいいのね」
「ああ、そうだ」
 まさにその通りだというのである。
「そうしたものがいい、あれにはな」
「そうか。しかし華琳様はそれを仰るとな」
「本当に激怒されるから」
 この辺りがだ。実に難しいというのである。
「それが問題だな」
「そうね。誰が言えばいいのか」
「麗羽殿が仰ればかなりいいのだが」
「けれどあの人無神経に高笑いで人前で言うから」
 それがだ。袁紹の難しいところなのだ。
 そしてだ。そうなればどうなるか。二人はよくわかっていた。
「そうなればだ」
「二人で大喧嘩ね」
 そうなれば洒落にならないことはだ。猪武者の夏侯惇でもわかることだった。無論軍師である荀ケならばだ。それは余計にであった。
「だから麗羽殿に御願いしてもな」
「駄目ね。けれどあんたあの人とも幼馴染だったわよね」
「うむ、、その通りだ」
「昔からああいう人だったのね」
「全然変わっていないぞ」
「厄介な話ね。あんたもそうみたいだけれど」
 荀ケは何気に夏侯惇のことも言う。
「秋蘭も大変だったのね」
「だからどうしてそうした話になるのだ」
「いいじゃない、事実なんだし」
「事実とは何だ事実とは。私は幼い頃より華琳様をだな」
「ああ、いいか?」
 勝手に二人で話をしだしている彼女達にだ。華陀が言うのだった。
「俺達はこれからな」
「むっ、まだいたのか」
「それで何なのよ」
 二人は華陀の言葉を受けて彼に顔を戻して問うた。
「我々に用はないのだな」
「じゃあ早く何処かに行ったら?」
「だからそうしようと思ってな」
「御別れの挨拶をしたいのよ」
「そういうことなのよ」
 それでだと。怪物達も言うのである。
「それでね。どうかしら」
「今から兵隊さん達、どけてくれるかしら」
「そうだな。それではな」
「そうするわ」
 随分とだ。物分りのいい調子になっている二人だった。
 そのうえで兵達に包囲を解かせてだ。あらためて華陀達に告げた。
「さあ、行け」
「そっちの妖怪達も今は見逃してあげるわ」
「だから妖怪じゃないのに」
「傷ついちゃうわ」
 身体をくねくねとさせながら悲しい顔を見せる乙女達だった。
 そしてその乙女達を見てだ。兵達のうち何人かが卒倒した。
 それを見てだ。夏侯惇が驚いて彼等に駆け寄って叫ぶ。
「どうした、しっかりしろ!」
「まさか、こいつ等の妖術で!?」
 荀ケもびっくりした顔で兵達の傍に来て言う。
「倒れたというのか!?」
「一体何をしたのよ!」
「あら、何もしてないわよ」
「この美しい姿を見せているだけじゃない」
「黙れ、どうやら貴様等は!」
「その存在自体が破壊みたいね!」
 あらためて言う二人だった。
「やはり人間ではないな!」
「一体どの世界の魔物なのよ!」
「今度は魔物って」
「だから違うわよ」
「くっ、こいつ等本当に何者だ!?」
「尋常な存在じゃないのはわかるけれど」
「まあとにかくだ」
 相変わらずだ。華陀だけが冷静だ。そうして夏侯惇達に話すのだった。
「行っていいんだな、もうな」
「あ、ああ。とにかくだ」
「早く行きなさいよ」
 それはいいという二人だった。
「この兵達の手当てもしないといけなくなった」
「とりあえずそこの妖怪達がいなくなって欲しいから」
「何度も言うけれど乙女なのに」
「どうしてそんな酷いことを言うのよ」
「だからそれはいい!」
「早く行きなさい!」
 いい加減切れた二人だった。かくしてだ。
 華陀達は半ば強引に解放された。そうしてである。
 行く先々で勝手に騒動を起こしながらだ。探す相手のところに来たのだった。
 何進は今は森の中を彷徨っていた。服はあの時のままだ。
 しかしその頭にだった。頭巾を被っていた。
 その彼女を見てだ。華陀が声をかけた。
「大丈夫か?」
「むっ、張譲の刺客か?」
「いや、俺はそうじゃない」
 こうだ。その何進の前に出て答えるのである。
「俺は医者だ。華陀という」
「華陀?あの天下の名医のか」
「名医かどうかは知らないが俺は医者だ」
 こう何進に話すのである。
「そう、医者王だ」
「医者王か」
「ゴオオオオオオオオッド米道のな。医者王だ」
 それだというのである。
「それでだ。いいか?」
「御主はいいのじゃが」
 何進はここで彼の左右を見た。やはりいた。
「そこのあやかし共は何者なのじゃ?」
「あら、古い付き合いじゃない」
「超機械大戦の世界でね」
 ここでこんなことを言う怪物達だった。
「ダーリンとも貴女とも随分と競演してるのに」
「仲間だったこともあったじゃない」
「これで信じてくれるか?」
 華陀も言う。
「この連中もな」
「不思議なことに信じられるのう」
 何進は腕を組んだ姿勢になって答えた。
「そう言われるとな」
「そうそう、付き合いはこの世界だけじゃないのよ」
「中の存在の付き合いは重要なのよ」
 怪物達はこんなことも言うのであった。
「私なんてね。コーチ、いえ教官やってたし」
「あたしは東方不敗だったわよ」
「俺は医者王の他にも出ていたな」
「わらわものう。子供になっておったりしておった」
 何進も理解できることであった。不思議とだ。
「この世界ではあの憎むべき張譲しかおらんかったが」
「まあそれは仕方ないな」
「そうそう、中の存在はね」
「色々とあるから」
「そういうことじゃな。しかしじゃ」
 ここで何進は話を戻してだ。そのうえでこう話すのであった。
「わらわはこのまま曹操のところに身を寄せるつもりじゃが」
「そうみたいだな」
「そうじゃ。曹操の本拠地の城はもうすぐじゃ」
 地理のことはだ。頭の中に入っているのである。
「だから向かっておるのじゃが」
「曹操殿のところもいいがな」
「よりよいところがあるのじゃな」
「だからここに来た」
 こう何進に話す華陀だった。
「そういうことだ」
「ふむ。では袁紹のところか?」
 まずはこう考えた何進だった。
「若しくは孫策、袁術か」
「その四人のところに行くのも悪くない」
 華陀はそれ自体はいいとした。
「四人共絶対に貴殿を匿ってくれる」
「そのうえで兵を起こし宦官達をじゃ」
 何進はこう話しながらだ。目を怒らせるのであった。
「今度こそ一掃してやるわ」
「それねえ。気持ちはわかるけれど」
「あの人達処刑されたって話があるわよ」
 あえてだ。二人はその宦官達についてはこう説明するのだった。
「今洛陽は董卓さんが掌握しているわよ」
「状況が変わったのよ」
「何っ、それはまことか!?」
 それを聞いてだ。思わず驚きの声をあげた。彼女の知らないことだったからだ。
「董卓がか」
「貴殿は董卓のことはよく知らないんだな」
「うむ。確かにわらわについてはいたが」
 それでもだというのである。
「それでもじゃ。中央から距離を置いていた故にじゃ」
「よく知らないんだな」
「しかし暴虐の者ではない筈じゃ」
 このことは何進も知っていた。
「色々よくない根も葉もない噂があるがじゃ」
「とにかくその董卓が今都を掌握している」
 また何進に話す華陀だった。
「宦官達はな」
「ふむ。ではわらわは匿われてそれで終わりじゃな」
 話を聞いてだ。何進は自分のこれからのことを察した。
 そのうえでだ。こう言うのであった。
「大将軍には戻れぬか」
「どちらにしろそうね」
「貴女の天命はもう官位とは関係なくなっているわ」
「左様か。なら仕方あるまい」
 怪物達の話を聞いてだ。何進は達観した様にして述べた。
「大将軍として国を正しくしたかったが」
「それはまたね」
「他の人がやる運命にあるから」
「わかった。ではそれならそれでよい」
 己の運命を素直に受け入れた何進だった。その顔には未練がない。
「また肉屋に戻るだけじゃ」
「それでいいんだな」
「うむ。それも気楽でよい」
 肉屋もだ。悪くないというのである。
「どのみちそちらでそこそこ繁盛しておったしのう」
「これからはそうするのね」
「そちらで生きるのね」
「そうさせてもらう。しかしじゃ」
 ここでだ。何進は再び怒った顔を見せてだ。こう三人に話すのだった。
「それもこれもじゃ。まずはじゃ」
「そういえばその頭巾はどうしたんだ?」
 華陀がここでやっとこのことを尋ねた。
「また一体。どうしたんだ?」
「御洒落じゃないわね」
「それとは違うわね」
「わらわは頭巾は好きではない」
 だからだ。違うというのである。
「これはあれじゃ。隠しておるのじゃ」
「隠すっていうと」
「角でも生えたの?」
「そんな生易しいものではない」
 何進のその顔が忌々しげなものになる。そのうえでの言葉だった。
「張譲めはわらわにとんでもないことをしてくれたのじゃ」
「とんでもないことか」
「そうじゃ。それでじゃ」 
 忌々しげに語り続ける何進だった。
「そのうえでわらわを都より追放したのじゃ」
「随分なことがあったのね」
「そうなのね」
「そうじゃ。今はとてもじゃ」
 どうかと話すのである。
「この頭巾を外せぬ」
「病気なのか?」
 華陀は何進の口調からそれを察した。
「それでそうしているのか」
「病気、違うな」
「じゃあ何だっていうんだ?」
「これは呪いじゃ」
 それだというのである。
「呪いになっておるのじゃ」
「呪いだというのか」
「そうじゃ。御主は医者だったな」
「ああ、そうだ」
 またこの話になった。その通りだというのである。
「それはその通りだ」
「それなら観ればわかるか」
「ああ、呪いの類もな」
 それについてもだ。どうかと答える華陀だった。
「学んでいる。解くことができる」
「では。見てもらえるか」
「見せてくれるか」
 是非そうしてくれとだ。答える華陀だった。
 そうしてだ。何進に対してあらためて言うのだった。
「貴殿のその頭のことをだ」
「私達も呪いには強いから」
「医術のこともわかるわよ」
 妖怪達も言う。
「だから見せてくれるかしら」
「マジカルナースにね」
「そうじゃな。御主達にもわかるのならじゃ」
 どうかとだ。話す何進だった。
「見てもらいたい」
「それではな」
「見せて」
「是非ね」
「ではじゃ」
 こうしてだ。何進はその頭の頭巾を外した。そうしてだ。
 彼女のその頭を見る。そうしてだ。
 華陀がだ。こう何進に対して述べた。
「それは治るぞ」
「治るというのか」
「ああ、それは薬を飲まされてそうなったな」
 こうだ。何進に対して言うのだった。
「そうだな。薬を飲まされたな」
「その通りじゃ。あの張譲めにじゃ」
「それだ。それは猫子丹だ」
「猫子丹じゃと」
「人を猫に変えてしまう薬だ。そういうものもある」
 何進のその頭を見ながらの言葉だった。その耳が猫のものになってしまい頭の上に生えてしまっているものを見ながらである。
「そうした薬は。封印されてきたのだがな」
「ええ。妖術師達が持っていたけれどね」
「魔道にいる仙人とかがね」
「となるとやはりそうか」
 ここでだ。華陀は確信したのだった。その顔が鋭くなる。
「今は」
「そうね、間違いなくね」
「裏にいるわね」
「政の話じゃな」
 何進は三人の今の話はそれだと察した。そのうえで三人に言うのだった。
「それか」
「いや、もっと根が深いな」
「政治ではあるけれどね」
「もっと複雑な話よ」
「ううむ、ややこしいことになっておるのかのう」
 何進は事態を完全には把握し理解してはいなかった。だがそうした状況であることはだ。おおよそだが察することができたのである。
 しかしだ。彼女は今はこう言うのだった。
「しかしそれはじゃ」
「いいんだな」
「うむ、わらわが知っても関係のないことになっておるな」
「ええ、もう貴女は政には大きく携わらないから」
「だからね」
「ならよい。それを知るべき者に伝えるがよい」
 彼女以外のだ。そうした相手に話せというのだ。
「とにかくじゃ。この耳は」
「貴殿はこのままだと完全に猫になる」
 華陀はこのことを指摘した。
「猫になりたいのならいいが」
「わらわは猫は大嫌いじゃ」
 何進は忌々しげな顔で言い返した。
「それだけは勘弁して欲しいのじゃ」
「そうか。それなら余計にだ」
「余計にというと」
「俺達に付き合ってくれ」
 こう何進に話すのだった。
「そうしてくれるか」
「うむ、わかった」
 今度も素直に頷く何進だった。
「それではな」
「じゃあ行くわよ」
「今からね」
「それで何処に行くのじゃ?」
 何進は三人にその行く先を尋ねた。
「四人のどの場所でもないとすると」
「残る一人の場所だ」
 そこだというのである。
「そこに行くつもりだ」
「残る一人。というと」
「そうよ。最後の一人よ」
「こう言えばわかるわよね」
「左様か。あの娘か」
 何進もだ。実際にわかった。そのうえでの言葉だった。
「そうじゃったな。あの娘もな」
「知ってはいるのだな」
「うむ。戦も政もあまり長けてはいないようじゃが」
 それでもだというのである。何進もだ。
「しかし。人を惹き付けるものを持っておる様じゃな」
「そこに行くがいいか?」
「この耳は治るのじゃな」
「ああ、そこに行けば間違いなく治る」
 それは間違いないと言う華陀だった。
「あそこには医術にも長けている軍師が二人もいるからな」
「その者達が薬を持っておるのか?」
「その薬自体は持っていなくても材料は持っている筈だ」
 それがだ。あるというのである。
「だからだ。そこに行けば俺が薬を調合できる」
「それでなのじゃな」
「そうだ。貴殿のその耳は治る」
 こう断言する華陀だった。
「だから安心してくれ」
「わかった。それではじゃ」
 ここまで聞いてだ。頷く何進だった。
 そのうえで再び頭巾を被ってだ。三人に言うのであった。
「行くとしようぞ」
「ええ、あの州にね」
「今からね」
「しかし。御主等はじゃ」
 何進は難しい顔になった。そのうえで貂蝉と卑弥呼に言うのである。
「人目につく場所には。出ぬ方がいいじゃろ」
「そうよね。この美しい姿を見たら」
「誰でも悩殺されちゃうわよね」
「いや、まあそう思うのならそれはそれでよいが」
 いい加減言うことを諦めた何進だった。しかしだ。
 彼女はあらためてだ。華陀に対して言った。
「では今からじゃな」
「ああ、徐州に向かおう」
「しかし。劉備とは」
 そのことがだ。以外といった顔であった。
「また思わぬことになったのう」
「そうかもな。しかしだ」
「しかしなのじゃな」
「いい娘だ。貴殿にとっても悪いことじゃない筈だ」
「そうじゃな。それではな」
「行くわよ」
「今からね」
 こうしてであった。何進は華陀に案内されて徐州に向かうのだった。ただし怪物達も一緒である。それが問題だが華陀は自覚していなかった。


第七十話   完


                         2011・3・19



オロチサイドも動き出してきたな。
美姫 「そうね、書や菫卓を使ってね。大きな戦乱が起こるかもね」
劉備たちの方は新たな再会や出会いもあって、戦力面が増強されたし、対処できるようになっているかな。
美姫 「どちらにせよ、華陀たちによって何進が連れてこられる以上は何もしないとはいかないでしょうけれどね」
大陸全土を巻き込みそうな感じになっているけれど、果たして無事に解決に導くことができるかな。
美姫 「本当に緊迫した状況よね。どうなるかしら」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね」



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