『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第六十八話  華陀、益州に戻るのこと

 華陀と愉快な怪物達は黄巾の乱の後また病人達を助ける旅に入っていた。しかしである。
 貂蝉がだ。天地を覆していた。
 何とだ。地中をだ。クロールで進んでいたのだ。
 それを見てだ。華陀は言うのであった。
「それは何の術なんだ?」
「この術?」
「ああ。何ていう術なんだ?」
 こう彼に問うのである。
「それで何の術なんだ?」
「地行術よ」
 貂蝉は泳ぎながらその問いに答えた。
「最近ちょっと運動不足だったから」
「それで泳いでるんだな」
「そうなの。運動は美容の共よ」
 こう言って泳ぐのである。
「ダーリンもどうかしら」
「生憎俺はその術は知らなくてな」
 平然とした顔で答える華陀だった。
「したくてもできないんだ」
「あら、じゃあ教えてあげるのに」
「あたしもできるわよ」
 卑弥呼もいた。
「ダーリンにはあたしが教えてあげるわ」
「そうだな。じゃあ気が向けばな」
「できるようになるのね」
「そうするのね」
「水の中を泳ぐことはできるんだがな」
 それはできるというのだ。
「けれどな。そういうのはな」
「だから。教えてあげるわよ」
「手取り足取りね」
 二人はこう言って華陀を誘うのだった。そしてだ。
 そんな彼等を見てだ。刀馬は怪訝な顔になってだ。そのうえでギースに問うのだった。
「こうした術もあるのか」
「知らん」
 腕を組み困惑している顔のギースだった。
「人間にできるのかどうか」
「それ自体が疑問だな」
「この様な術は聞いたことがない」
 クラウザーはこう言う。
「気を使うことはできるが」
「それでもだ。地面の中を泳ぐのはだ」
「できないな」
「そうだ、できない」
 こう刀馬に話すギースだった。
「とてもな」
「全くだな。しかし」
「しかし?」
「こうした術は役に立つ」
 ギースはそのことは認めた。
「確かにな」
「そうだな。少なくともだ」
 クラウザーは自分も泳ぎはじめた卑弥呼を見ていた。
「この二人は。術だけでなくだ」
「それだけでなくだな」
「その心も確かだ」
 そうだというのだ。
「悪人ではない」
「ふん、私には合わんな」
 ギースはこれまでの生き方から述べる。
「しかし。この連中はだ」
「どうなのだ?貴様は」
「少なくとも貴様よりはましだな」
 ギースがクラウザーに返した言葉はこれだった。
「嫌いではない」
「そうか」
「無論貴様よりもだ」
 ギースは今度はミスタービッグを見て話した。
「貴様まえ来ているとはな」
「ふん、腐れ縁だな」
 ミスタービッグはギースを一瞥してから述べた。
「貴様と。この世界でも一緒になるとはな」
「何時かのキングオブファイターズ以来だったな」
「そうだな。あの時以来だな」
「あれはあれで悪くなかった」
 クラウザーはその時のことを思い出しながら述べた。
「楽しませてはもらった」
「そうか」
「そうだ、楽しんだ」
 クラウザーはまた言った。
「そうさせてもらった。だが」
「だが?」
「やがては決着をつけなければならんな」
 ギースを見てだ。クラウザーは述べるのだった。
「貴様とはな」
「それはこちらも同じことだ」
「そうか。同じか」
「貴様を倒すのは私だ」
「御互いにそうだな」
「ボガード兄弟もそうだが」
 無論彼等のことは忘れてはいなかった。しかしだというのだ。
 クラウザーを見据えてだ。ギースは話すのだった。
「貴様もだ。私が倒さなければならない相手だ」
「血は争えぬな」
 クラウザーも彼に応える。
「やはりな」
「その通りだな。我等はな」
 御互いに火花を散らすのだった。彼等は今は供にいるがそれでもだった。その中にある因果は何があろうとも消えないものだった。
 幻十郎がだ。彼等のところに来た。そうして言うのだった。
「面白い話がある」
「何だ?」
「この国の都で動きがあった」
 そうなったというのだ。
「董卓とかいう小娘が宰相になったらしいな」
「董卓?」
「董卓というと」
 その名前を聞いてだ。まずはギースとクラウザーが述べた。
「あの擁州のか」
「牧だったな」
「そうだ。その小娘がだ」
 宰相になったと。話すのである。
「そしてだ。それまで力を握っていた大将軍がだ」
「死んだか」
「殺されたか」
「そうらしいな。それにだ」
 さらにだとだ。幻十郎は話していく。
「どうも都では怪しい動きが続いているな」
「怪しいか」
「俺には関係の話だが」
 幻十郎はそれは断った。そのうえでの言葉だった。
「しかしだ。それでもだ、話は聞いた」
「戦乱になるか」
 刀馬は幻十郎の言葉の調子からそれを察した。
「都での乱れがそのまま」
「そうなるかもな。では俺は」
「どうするつもりだ、それで貴様は」
「機が出来るかもな」
 酷薄な笑みでの今の言葉だった。
「あいつを斬る機会がな」
「覇王丸という男か」
「あの男を斬るのは俺だ」
 幻十郎は今度は真剣な顔になっている。
「俺以外の誰でもない」
「そうは。では俺もだ」
「貴様もそうした相手がいるな」
「俺の刃は何の為にあるか」
 そのことから話すのだった。
「それはあいつの刃を斬る為だ」
「だからだな」
「俺は零だ」
 刀馬は己をそれだと話す。
「絶対のものだ」
「零が絶対だというのだな」
「そうだ、それは不動」
 零はだ。それだというのだ。
「何があろうとも動かないものだ」
「ではその不動により斬るか」
「あいつを。そうする」
「ならそうするがいい」
 幻十郎はそれはいいとした。
「俺は俺の斬りたい奴を斬る」
「果たして本心からそうなのか」
 その彼にだ。ミスタービッグが言ったのだった。
「貴様等はな」
「何が言いたい」
「俺達の本心は違うというのか」
「斬ればそれで終わりだ」
 ミスタービッグが言うのはこのことだった。
「しかしだ。その相手が永遠にいればだ」
「どうだというのだ」
「それで」
「その相手と戦える悦びがあるな」
「俺はただ斬るだけだ」
「俺もだ」
 二人はこう返してミスタービッグの言葉を否定する。
「それで何故だ」
「そうしたことを言う」
「私の間違いだというのだな」
「そうだ。俺はあの男を斬りたいだけだ」
「剣はその為だけにあるものだ」
「かもな。だが本心はどうかだ」
 まだ言うミスタービッグだった。
「それが問題だが」
「安心しろ、俺はだ」
「俺もだ」
 また言う二人だった。
「嘘はつかない」
「決してな」
「そう言うのだな」
「何度も言わせるか」
「くどいと思わぬか」
「そうだな。ではこれで止めておこう」
 ミスタービッグもだ。ここで言葉を止めた。
 そのうえでだ。彼はその場を去った。そしてだ。
 幻十郎のところにだ。泳ぎ終えた貂蝉が来た。そのうえでだ。
 彼に対してだ。こう尋ねたのだった。
「ねえ、今だけれど」
「都のことか」
「そうよ。何があったの?」
 問うのはこのことだった。
「よかったら教えてくれないかしら」
「だからだ。怪しい動きがあった」
 こう彼にも話す幻十郎だった。
「これまで権力を握っていた大将軍が処刑されてだ」
「そして宦官達がなのね」
「あの連中ではに」
「違うの?」
「董卓という娘が権力の座に就いた」
 そうなったとだ。貂蝉にも話すのだった。
「そうなった」
「そう。それじゃあ」
「それでは?何だ」
「やっぱり動いたのね」
 ここでだ。貂蝉の目が光った。
 そのうえでだ。彼はこんなことを言った。
「時が来たわね」
「時だと?」
「そうよ。時よ」
 こう言うのである。
「その時がね」
「どういうことだ、それは」
「そうだ、それはだ」
 刀馬も貂蝉に対して問うた。
「どういうことなのだ」
「わかるわ。ただ」
「ただ?」
「今度は何だ」
「少し用ができたわ」
 こんなことを言う貂蝉だった。
「少し。皆とはお別れね」
「そうね」
 貂蝉だけでなく卑弥呼も言う。
「行かなきゃいけないところができたわ」
「これからね」
「何だ?何処かに行くのか?」
 華陀も二人のところに来た。そのうえで問うのだった。
「今度は何処だ?」
「あらダーリンいいところに来たわね」
「丁度いいわ」
「何だ、俺も行くのか」
「ええ、そうなの」
「少しいいかしら」
「ああ、いいぞ」
 華陀は微笑んで二人に答えた。
「何かはわからないけれどな」
「わからないが行くのか」
「相変わらず大物だな」
 ギースもクラウザーも彼の器は認めるしかなかった。
「しかしだ。では我々は」
「暫くはここに留まることになるか」
「ああ、済まないな」
 華陀はその彼等に対して答えた。
「度々こうなるがな」
「全てはね」
「この世界の為だから」
 怪物達も言う。
「少しだけね」
「待っていてね」
「ふむ。何かはわからないがな」
「いいだろう」
 ギースとクラウザーはそれでいいとしたのだった。
「少し。その辺りのゴロツキ達と賭けでもしてだ」
「金を巻き上げるとしよう」
「いかさまをしたり難癖をつければだ」
 どうするか。幻十郎が話すのはそのことだった。
「斬るだけだ」
「あら、物騒ね」
「簡単に殺したら駄目よ」
 一応は止める怪物達だった。
「あくまで穏健にね」
「優しくよ」
「ふん、向こうが斬りつけてくればだ」
 どうなるか。幻十郎は悪びれずに話す。
「斬られても文句は言えまい」
「俺もそうする」
 そしてそれは刀馬もだった。彼も言うのだった。
「容赦なくな」
「少なくとも半殺し程度はさせてもらう」
 ミスタービッグも伊達にそうした世界で生きている訳ではない。こう言うのだった。
「そうした奴はな」
「まあ人は殺さないでくれよ」
 華陀が言うのはこれ位だった。
「手の切断位は俺が治せるからな」
「それはか」
「できるのだな」
「ああ、できる」
 自信を持っての返事だった。
「流石に首は無理だがな」
「そんなの糊着ければくっつくから」
「全然平気よ」
 どうやら怪物達の世界ではそうらしい。平然として言っている。
「そんなの。首が切れてもね」
「全然平気よ」
「平気だとは思えないがな」
 流石にこれにはミスタービッグも引く。
「それは確実に死ぬだろう」
「いや、大丈夫だ」
 しかし華陀はまだ言う。
「俺の医術は。それ位じゃまだ助けられる」
「ある意味において仙術だな」
「それに近いようだな」
 ギースとクラウザーは華陀の術をそれだと述べた。
「そしてその術でか」
「人を助けるか」
「ああ、それが俺の役目だ」
 そしてだ。こうも言うのだった。
「この世も。そうして救う」
「だから今もか」
「こうしてここにいるか」
「ああ、そうだ」
「だからよ」
「いいわね、ダーリン」
 また怪物達が彼に声をかける。
「これからね」
「洛陽に行きましょう」
「わかった、それならな」
 こうしてだった。三人は一旦洛陽に入ったのだった。その洛陽は。
 沈みきっていた。何かが違っていた。
「ううむ、これは」
「まずいわよ」
 二人でだ。こう話すのだった。
「この状況は」
「予想していたけれど」
「そうだな、おかしいな」  
 華陀もだ。その暗澹としている都を見て話す。
「人の顔が暗いな」
「ええ。ただ」
「ダーリン、話によるとね」
 貂蝉と卑弥呼が華陀に話す。
「洛陽では暴虐の限りが行われていると言われていたわ」
「そう言われていたわね」
「そうだったな。董卓の軍によってな」
「暗澹とはしているわ」
 それは事実としてもだというのだ。
「けれど。それでもね」
「暴虐が行われた後はないわね」
「人々の顔は暗いがな」
 それでもだと。華陀も話す。
「怯えたものはないな」
「そうよね。全然ないわよね」
「何もね」
「怯えじゃない」
 そうではない。華陀は言った。
「ただ、心が死んでいるな」
「そうよ。空も暗いわ」
「真っ暗になっているわ」
 そのことも話される。確かに空は暗澹となっている。
 そしてだ。その空はだ。
「あの空はね。妖術が行われている時の空よ」
「それが今の空よ」
「じゃあ洛陽には」
「ええ、間違いなくいるわ」
「この都にね」
「その妖術を行っている人間は誰か」
 華陀が考えたのはそのことだった。
「果たして誰かだよな」
「そう、それを調べるのよ」
「その為にここに来たのよ」
 貂蝉と卑弥呼がそれを話す。
「若しも。あたし達が思っている通りだったら」
「大変なことになるのよ」
「そういえば御前達は」
「ええ、あたし達も別の世界から来たのよ」
「そうなのよ」
 それだと話す二人だった。
「別の世界からこの世界に来て」
「この世界を害する存在を止める為に働いているの」
「じゃあ今の戦乱はか」
「そうよ、誰かが蠢いているわ」
「闇の中でね」
「そいつも他の世界から来ているんだな」
 華陀は二人の話からこのことを察した。
 そしてだ。彼は二人に対してまた話すのだった。
「その連中かも知れないな」
「そう、様々な世界を旅して蠢く存在はね」
「色々いるのよ」
「色々か」
「そう、スサノオやケイサル=エフェス」
「そうした連中よ」
 華陀の知らない名前だった。
 その名前についてもだ。華陀は二人に対して尋ねた。
「何だ?スサノオ?それにケイサル=エフェス?」
「ダーリンはケイサル=エフェスとは面識があるわ」
「その筈よ」
「いや、俺は知らないが」 
 そのケイサル=エフェスをだ。知らないというのだった。
「そんな奴はな」
「ダーリンの魂がよ」
「その魂が知っているのよ」
「魂がか」
「そうよ、あたし達もよ」
「魂は声を通じて様々な世界の中にあるのよ」
 こう話すのだった。その華陀に対してだ。
「だからダーリンもね」
「そのケイサル=エフェスを知っている筈よ」
「そうなのか。そいつをか」
「ええ、そうなの」
「そういうことなのよ」
「成程な、俺の魂は他の世界にもあるんだな」
 華陀はそのことがわかった。そしてだ。
 そんな話をしながらだ。三人は洛陽の中を巡っていく。兵達の姿は多い。しかしだった。
 彼等は何もしない。全くだった。
「動きがないな」
「そうね、全くね」
「予想通りね」
 また話す彼等だった。
「兵達は何もしないわ」
「暴虐も何もね」
「略奪もしていないし」
「規律が取れているな」
 兵達はだ。そうだというのだ。
「しかし。町は」
「かなり寂れているわね」
「何もかもがなくなっているわ」
「重税をかけられているな」
 華陀はそのことを察した。
「それも相当な」
「見て、あれ」
「あの宮殿よ」
 二人が指差したそれはだ。巨大かつ壮麗な宮殿だった。それが暗澹たる場所だった。それを指差してだ。二人は華陀に話すのだった。
「随分と立派ね」
「あれだけの宮殿を築くにはね。相当なお金がかかるわ」
「人手も必要だな」
華陀はこのことも言った。
「かなりのな」
「そうよね。つまりは」
「人も徴用してるわね」
「建築は国を衰えさせる」
 華陀は深刻な顔で述べた。
「権力を持つ者の病だ」
「ええ、それでだけれど」
「あれは誰が建築させているか」
「それが問題だけれど」
「ダーリンは誰だと思うのかしら」
「普通に考えれば董卓だな」
 華陀は考える顔で述べた。
「宰相になった彼女がな」
「そうね、普通はそう考えるわね」
「今一番力を持っているし」
「しかしだ」
 それでもだとだ。華陀はここでこう話すのだった。
「俺は董卓のことは聞いているが」
「それでもよ」
「今回はおかしいわよね」
「ええ、董卓にしては」
「何かがおかしいでしょ」
 こう話すのだった。三人でだ。
 そしてだ。華陀は二人に対してまた話した。
「董卓は善政を愛しているからな」
「擁州はそれでかなりまとまっていたわね」
「彼女の善政のお陰で」
「その董卓が洛陽に来て急にこんなことをするかどうか」
 華陀は考える顔で述べていく。
「甚だ疑問だな」
「そうよね、ちょっとね」
「考えられないわよね」
「だとすれば誰だ?」
 考えをさらに深めていく。そしてだ。
 華陀はだ。この名前を出すのだった。
「張譲か?」
「宦官のね」
「彼よね」
「あいつならやりかねないな」
 語る華陀のその顔は深刻なものになっていく。
「贅のことしか考えていないからな」
「自分自身のね」
「その資質を全てそこに使っている位よ」
「その張譲ならやりかねない」
 こう話すのだった。
「そう考えるのが妥当だが」
「けれど張譲は妖術は使えたかしら」
「それはどうだったかしら」
 二人が指摘するのはこのことだった。
「それは一体ね」
「どうだったかしら」
「いや、聞いたことはない」
 まさにその通りだと答える華陀だった。
「確かに陰謀家だが。妖術を使うとはな」
「そうよね。彼はね」
「妖術を使えないわ」
 それはだ。間違いないというのである。
 そしてだ。華陀はさらに話すのだった。
「つまり彼とは別にね」
「妖術を使う存在がいるのよ」
「!?そいつは」
 ここでまた察した華陀だった。すぐにこの名前を出したのだった。
「まさか。于吉か」
「そうよ、彼よ」
「彼は間違いなくここにいるわよ」
 二人が指摘した。そのことをだ。
「この洛陽の何処かにね」
「潜んで。そうしてこの都をね」
 こう華陀に話していく。
「暗黒の世界にしているのよ」
「絶望で覆っているのよ」
「絶望か」
 また言う華陀だった。
「じゃあ太平要術の書は」
「間違いなくここにいるわ」
「そうよ」
 二人の指摘は続く。
「洛陽の何処かにね」
「潜んで。よからぬことをしようとしているわ」
「そうだな。あの書を封印する」
 華陀の言葉が強いものになる。
「その為にも」
「ええ、じゃあダーリン」
「いいかしら」
 ここでまた話す二人だった。
「この洛陽の何処かにいる于吉とその書を探し出して」
「封印しましょう」
「わかった。それならだ」
 すぐに動きをはじめる三人だった。しかしそこに。
 白装束の一団が来た。瞬く間に三人を取り囲んだ。
 そのうえでだ。華陀が身構えながら述べた。
「何だ、この連中は」
「決まっているわ。悪の手先よ」
「それよ」
 こう話す二人だった。
「あたし達のことに気付いたわね」
「相変わらず目ざといわね」
「まさかこの町に来るとはな」
「また出て来たか」
 白装束の男達は貂蝉と卑弥呼を見ながら述べた。
「どうやらこの世界でもか」
「邪魔をしに来たというのだな」
「邪悪な謀略を阻止しに来たのよ」
「そういうことよ」
 しかしだ。二人はこう彼等に反論するのだった。
「貴方達のその邪な陰謀」
「この世界でも防がせてもらうわ」
「そうか。御前等は」
 華陀もだ。鋭い顔になって述べる。
「于吉の配下の者か」
「その通りだ」
「我等は于吉様達にお仕えする者」
 実際にそうだと答える彼等だった。
「しかしだ。我等だけではない」
「それも言っておこう」
「オロチね」
 貂蝉が言った。
「彼等もこの世界に来ているのね」
「そして刹那や他の存在も」
 卑弥呼も話す。
「一緒に来ているわね」
「その通りだ」
「どうせここで死ぬのだ」
 男達はこう彼等に話していく。
「我等はこの世界においてだ」
「その望みを全て適えるのだ」
「それではだ」
 そこまで聞いてだ。華陀がであった。
 その白装束の男達に対してだ。こう問うたのである。
「貴様等がその望みをこの世界で達成する」
「うむ」
「そうすればだな」
「この世界はどうなるか」
「聞きたいのはそこだな」
「そうだ。その場合はどうなる」
 華陀が問うのはこのことだった。
「この世界、そしてこの世界の人間達は」
「そんなことは我等の知ったことではない」
「全くな」
 これが男達の返答だった。
「この世界の人間なぞだ」
「何程の価値がある」
「人そのものがだ」
 何の価値があるかと。こう華陀に答えるのである。
「何の価値もない」
「全くな」
「そういうものでしかない」
「そうか、わかった」
 そこまで聞いてだ。まずは頷いた華陀だった。
 そしてそのうえでだ。彼は言うのだった。
「では俺はだ」
「どうするのだ?」
「医者よ、貴様は」
「その企み、阻止してやる!」
 高らかにだ。こう叫んだのである。
「この俺が!黄金の医術でだ!」
「偉いわ、流石はダーリン」
「そうこなくっちゃね」
 貂蝉と卑弥呼は華陀のその言葉に感激していた。
「じゃあ及ばずながらあたし達も」
「頑張っちゃうわよ」
 こう言ってであった。 
 二人はその全身に力をみなぎらせ。高らかに叫んだ。
 そしてだ。口から凄まじい光を放ったのであった。
「さあ、これを受けなさい!」
「神の浄化の光よ!」
「何っ、口から!?」
「口から光を出しただと!?」
 男達はそのことに驚きを隠せなかった。
「どういうことだ!」
「そうした力も持っているのか!」
「その通りよ」
「あたし達はただ拳法を使えるだけではないの」
「こうした力もね」
「備えているのよ」
「くっ、怪物が!」
 男達のうちの一人が言った。
「まさかこうした力まで使えるとは」
「我等の想像を超えている」
「そしてこの力で」
「この世界も守るわよ!」
 そしてだ。二人はお互いの両手を重ね合った。そのうえで。
 左右に駒の如く回転してだ。周囲に光を放つのだった。
「神罰!」
「今ここに!」
「う、うわああああああ!」
 その光を受けてだ。男達は消え去ってしまった。
 だが、だ。すぐにであった。
 男達はまた出て来た。次から次にだ。
 そのうえで三人を取り囲む。だが二人は光を放ち続け華陀はその針を周囲に投げてだ。男達を黄金の光に変えていくのだった。
 だが、だ。それでもだった。
 彼等は次から次に出て来る。その攻防が続く。
「ううん、ここは」
「ちょっとね」
 貂蝉と卑弥呼はだ。その彼等を見て言った。
「洒落にならないわね」
「ここはちょっと」
「どうする?まだ戦うか?」
 華陀は二人に対して問うた。
「そして何としても于吉を」
「いえ、ここはね」
「退いた方がいいわね」
「そうか。退くんだな」
「ええ。考えてみたら今は何の用意もしてこないから」
「だからね」
 それでだというのだった。二人はだ。
 回転を止めてだ。そしてだ。
 華陀をその両脇から掴んでだ。それぞれ右手と左手を高々と掲げる。
 そのうえで。空に飛ぶのだった。
「さあ、ダーリンまずは」
「皆のところに戻りましょう」
 こう華陀に言った。
「いいわね、今は」
「この町を去るわよ」
「ああ、わかった」
 華陀も二人のその言葉に頷く。
「今度は。備えをしてだな」
「またこの町に来ましょう」
「そうしましょう」
 こう言ってだ。そしてだった。
 彼等は空を飛びその場を後にした。後には男達が残った。
 彼等はだ。その暗澹たる町の中で述べるのだった。
「逃げられたか」
「どうする?」
 こう話す彼等だった。
「追うか?」
「そして消すか?」
「いや、ここは左慈様に報告しよう」
 こうするというのだった。
「それからだな」
「どうするか決めるか」
「そうするとしよう」
 こうしてだった。彼等は宮廷の奥に入った。そしてだ。
 そのうえでだ。そこにいる左慈に報告した。話を聞いた左慈はまずは顔を顰めさせてだ。そうしてそのうえでこう言うのだった。
「やはり気付いたか」
「そうですね」
 傍らにいた于吉が彼に応えた。
「予想はしていましたが」
「この世界でも。邪魔をするか」
「さて、どうします?」
 ここで尋ねる于吉だった。
「ここは」
「ああ、ここはな」
 左慈はその于吉に対して述べた。
「とりあえずは追う必要はない」
「その必要はありませんか」
「左様ですか」
「そうだ、その必要はない」
 こうだ。彼は男達に答えた。
「またここに来た時にだ」
「その時に倒す」
「そうされますか」
「そうだ、そうする」
 左慈は断言した。そうしたのである。
「わかったな」
「了解です」
「それでは今は」
「この洛陽に留まるのですね」
「そうです。話は着々と進んでいます」
 于吉が妖しい笑みを浮かべながら述べた。
「それも順調に」
「そうだな、順調だな」
 左慈もその通りだと述べる。
「あの書の力も増幅し」
「そしてオロチに常世もです」
「どれも順調に進んでいる」
「ならです。我々はです」
「特に焦る必要もないな」
「焦ればそれで全てを失ってしまうでしょう」
 于吉は今は余裕を見せている。
 その余裕を顔に浮かべてだ。彼は話すのだった。
「むしろ落ち着くべきです」
「わかった。では于吉よ」
「はい」
「酒でも飲むか」
 仲間にだ。それを誘うのだった。
「そうするか」
「そうですね。ではオロチ一族の方々もお誘いして」
「それで飲むとしよう」
「はい、それでは」
 こう話をしてだ。彼等は今は悠然としていた。そしてその頃。
 華陀達はだ。都を脱して別の世界の仲間達と合流してだ。そのうえだ。
 彼等に対してだ。こう話すのだった。
「それで漢中に行くことになった」
「益州の北にね」
「そこに一旦行きましょう」
 華陀だけでなく怪物達も刀馬達に話す。
「支度を整えてからまたね」
「活動を再開しましょう」
「用意か」
 ギースはそれを聞いて鋭い目になって述べた。
「この世界では何かとあるのだな」
「ああ、そっちの世界と同じだろうな」
 華陀が微笑んでギースに話した。
「その辺りはな」
「我々の世界よりも多くのことがある様だな」
 クラウザーは冷静な顔で述べる。
「むしろな」
「まあそっちの世界の話もまとめて来てるからね」
「かなり凄いことになってるのは確かね」
 怪物達はクラウザーにこう答えた。
「それでその対策の為にね」
「一旦そこに行くのよ」
「わかった」
 最初に頷いたのはミスタービッグだった。
「それでは。そこに行くか」
「よし、じゃあ出発だ」
 華陀は微笑んで仲間達に話した。
「俺にとっては戻るってことになるがな」
「戻る。そうですね」
 命は華陀のその言葉に頷いてから述べた。
「華陀さんにとってはそこが拠点ですからね」
「ああ、そこに五斗米道の本山があるんだ」
 実際にそうだと話す華陀だった。
「だからだ。俺にはそうなる」
「ではそこに皆で行くとしよう」
 今言ったのは獅子王だった。
「是非な」
「左様だな。では我々も」
 天草もだ。彼等と共にいる。
 そして彼等はだ。皆華陀達と行動を共にすることになった。
 こうして彼等は一旦益州に入った。これもまただ。大きなうねりの一つなのだ。


第六十八話   完


                       2011・3・15







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