『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第六十五話  孔明、姉と再会するのこと

 孔明はだ。この日も徐州の政務にあたっていた。
 劉備を助けてだが。それでも実質には彼女と鳳統がかなりの部分を担っていた。
 木簡や竹簡を手にしてだ。それに書いたり読んだり運んだりしてだ。あちこちを動き回っていた。
「はわわ、今日も大忙しです」
「そうよね」
 その彼女に共にいる鳳統が声をかける。二人共その両手に山の如き木簡を抱えている。
「御仕事を幾らしても」
「次から次に来るし」
「それをやっていかないといけないから」
「大変ですう」
 そんな話をしながら劉備のところに向かう。そこでだった。
 劉備がだ。にこりと笑ってこう孔明に言うのであった。
「あのね、孫策さんのところからね」
「揚州からですか」
「うん、使者の人が来るそうなの」 
 こう孔明に話すのだった。
「今そのお話が来たわ」
「使者がですか」
「何か私が徐州の牧になったことのお祝いみたい」
 表向きの理由をそのまま話す。劉備も細かい話はまだ聞いていない。
「前の陳琳さんや夏侯淵さんと同じでね」
「それと楽就さんとですね」
 鳳統は袁術配下のその人物の名前も出した。
「その人達と」
「うん、お祝いの使者みたい」
 こう話すのだった。
「だから。応対の準備をしないとね」
「わかりました。それじゃあ」
「そちらの用意も」
「ええ。あと今日のお仕事は?」
 劉備は二人に自分の仕事のことを尋ねた。
「どれだけあるのかしら」
「はい、これだけです」
「宜しく御願いします」
 出されたのはだ。二人が抱いているその木簡全てであった。
 どさりと机の上に置かれたそれ等の木簡をだ。劉備はうっとした顔になって見た。そうしてそのうえで二人に対して尋ねるのだった。
「これだけあるの!?」
「はい、これだけです」
 孔明が答える。
「これが今日の分です」
「こんなにあるなんて」
「昨日もこれ位でしたけれど」
 今言ったのは鳳統であった。
「違いましたか」
「昨日大変だったし」
 その仕事がだという劉備だった。
「それで今日もなんて」
「けれど御願いします」
「民の為に」
 仕事に関しては引かない二人だった。
「それぞれの政への対策はまとめておきましたので」
「桃香様はそれを参考にされて」
「決断を下すのね」
「はい、そうです」
「後はそれだけです」
 軍師二人はこう劉備に話した。二人は既に全ての政治について見てだ。そのうえで的確な対策を決めてそれをまとめてだ。劉備には決断だけをすればいいようにしているのである。
「そういうことで」
「御願いします」
「わかったわ。私頑張るわ」
 劉備は気を取り直してだ。真剣な顔になって述べた。
「皆の為に」
「はい、是非」
「御願いします」
 こうしてだった。劉備もまた仕事に取り掛かるのだった。そうした意味で彼女も他の群雄達と肩を並べる存在になっているのであった。
 孔明と鳳統は劉備の前から退室してだ。牧の屋敷の渡り廊下を歩きながらそのうえでこんな話をしていた。右手には緑の庭が見える。
「それにしても揚州の使者の人って」
「そうよね。誰なのかしら」
「ううん、若しかして黄蓋さんとか」
「あの凄く胸が大きいっていう人?」
「あの人が来られたら負けそう」
 孔明はこう鳳統に弱った顔で述べた。
「大人の人だし胸、凄く大きいし」
「そうよね。私達まだ子供だから」
「胸だって小さいし」
 孔明はその弱った顔で話す。
「だから。あの人が来られたら」
「私、揚州の人達のことはよく知らないけれど」
 鳳統も弱った顔で話す。
「胸大きい人が多いのは本当なの?」
「うん、本当よ」
 その通りだと話す鳳統だった。
「もうね。凄く大きい人ばかりで」
「そんなに凄いよね」
「愛紗さんみたいな人が一杯いるの」
 実にわかりやすい例えだった。
「紫苑さんや桔梗さんみたいな人が」
「えっ、そんなになの」
「そうなの。もう凄いから」
「そんな、そうした人が来られたら」
 そのことにだ。怯えた顔になってしまった鳳統だった。
「私、負けるから」
「私も。胸のことはどうしようもないから」
「そうよね。胸、本当に大きくならないから」
「大きくなればいいのに」
 孔明は自分の胸をその両手で押さえてだ。弱りきった顔になっていた。
「もっと。大きく」
「身体も大きくなれば胸もっていうけれど」
「じゃあ私達も何時か桃香さん達みたいに」
「なれたらいいけれど」
 そんな話をしていたのだった。そうしてであった。 
 その使者が来る日になった。まず来たのはだ。
「おう、はじめて見る顔もいるな」
「やっぱり・・・・・・」
 黄蓋だった。相変わらずの明るさで劉備達を見回して言っていた。
 孔明はその彼女を見てだ。しおしおとなってしまっている。
「黄蓋さんが使者の方でした」
「あわわ、物凄いおっぱい」
 鳳統ははじめて見るその胸に圧倒されてしまっている。
「あんなのじゃとても」
「そうよね。とてもね」
「勝てないわ」
 こう話す二人だった。しかしだ。
 猛獲達はだ。黄蓋の周りに来てだ。楽しそうにはしゃいでいる。
「凄い胸だにゃ」
「巨大なおっぱいだにゃ」
「桃香のもいいけれどこっちも凄いにゃ」
「おっぱいおっぱい」
「ほほう、わしの胸が気に入った様じゃな」
 黄蓋もだ。その彼女達を見て満足そうに笑っている。
「好きなだけ見てもいいぞ。減るものではないしのう」
「しかも気前もいいにゃ」
「おっぱいが大きいと心も大きいにゃ」
「だからおっぱいが好きにゃ」
「そうだにゃ」
 こんなことを楽しそうに言って黄蓋の周りを跳ね回る猛獲達だった。そしてそのうえでだ。黄蓋は劉備達にこんなことも言った。
「わし等が今日ここに来た理由はじゃ」
「うむ。何だ?」
 関羽が彼女の言葉に応える。今彼女達は牧の謁見の間にいる。だが主の階段もその上の座もない。階段がなくそのまま座になっているのだ。その為劉備と黄蓋は同じ高さで顔を見合わせていた。
 しかもである。劉備は席に座らずに立っている。そこが他の牧達と違っていた。
「その理由とは」
「御祝いの使者じゃ」
 笑顔でだ。それだというのであった。
「それはもうわかっていると思うがな」
「確かにな。それはな」
 関羽も微笑んで黄蓋のその言葉に応える。
「おおよその察しがついていた」
「そういうことじゃ。劉備殿、おめでとう」
 こう祝賀の言葉を告げた。
「我が主孫策から。そう伝えてくれとのことじゃ」
「有り難うございます」
 劉備も笑顔で黄蓋、そして彼女の主の孫策に応える。
「御礼を述べさせてもらいます」
「うむ。わしが伝えるのはそれだけじゃ」
 とりあえず仕事は終わったというのであった。しかし話はこれで終わりではなかった。
「さて、それでじゃ」
「それで?」
「孔明殿に用がある者がおってのう」
 こうだ。孔明を見ながら話すのであった。
「少しな」
「私にですか?」
「ここに呼んでいいかのう」
 黄蓋は孔明にこうも言った。
「御主さえよければじゃ」
「誰なんでしょうか」
 孔明は黄蓋の言葉の中身がわからず首を捻った。
「揚州の方なら」
「察しがつくか?」
「ふむ、そうか」
 ここで言ったのは厳顔であった。
「そういうことじゃな」
「おっと厳顔殿今は言わないでくれるな」
 黄蓋は微笑んで彼女に釘を刺した。
「それはな」
「うむ、わかっておるぞ」
 厳顔も含んだ笑顔で彼女に返した。
「それではな」
「そうしてくれ」
「揚州の方となると」
 孔明もだ。考えながら述べた。
「となると」
「おっと、察するのは止めた方がいい」
 孔明が答えに辿り着くと読んでだ。それは止めた。
「その前に呼ぶとするか」
「ええっ、今すぐにですか」
「そうじゃ。さあ入るがいい」
 黄蓋は部屋の入り口に顔を向けてその者に声をかけた。
「もう遠慮はいらんぞ」
「わかりました、それでは」
 その言葉に従いだ。入って来た者は。
 孔明はその彼女の顔を見てだ。飛び上がらんばかりに驚いたのだった。
「御姉ちゃん!?」
「朱里!」
 諸葛勤だった。彼女は孔明の方に駆けてだ。その小さな身体を抱き締めたのだった。
 そしてだ。驚いている妹に対してこう言うのであった。
「会いたかったわよ、ずっとね」
「揚州で孫策様にお仕えしてるのは聞いてたけれど」
「この前は会えなかったからね」
「けれど。まさかここで」
「会えるなんて思わなかったでしょ」
「ええ、とても」
 その考えに至る前にだ。相手が出て来たのである。
「それでも。会えて」
「嬉しい?」
「嬉しくない筈ないよ」
 孔明の顔がだ。次第に驚きのものから喜びのものになってきていた。
 そして姉を抱き締め返しながらだ。こう言うのだった。
「御姉ちゃんも元気よね」
「ええ、とてもね」
「よかった、また会えて」
「そうね、本当にね」
「あわわ、こうなるなんて」
 鳳統はだ。今の事態に慌てふためいていた。彼女にとっても思わぬ事態なのだ。
「感動の姉妹の再会ですか」
「そうじゃ。こうしたことはいきなりの方がよいのじゃ」
 満面に笑みを浮かべて言う黄蓋であった。
「奇襲は大成功じゃな」
「成功し過ぎて壊滅したのだ」
 張飛もこれには唖然となっている。
「朱里に御姉ちゃんがいるのは知っていたのだ。それでもなのだ」
「まさかここで会うなんてな」
「予想外にも程がある」
 馬超も趙雲もこれには驚きを隠せない。
「けれど。姉妹か」
「やはりいいものだな」
「全くだ。涙が出て来たぞ」
「むっ、御主は誰じゃ?」
 黄蓋は涙ぐみ目尻を己の指で拭く公孫賛に声をかけた。
「見慣れぬ顔じゃが」
「そうか。揚州の者なら知らなくて当然だな」
 公孫賛は顔を戻してこう黄蓋に返した。
「私は公孫賛だ。白馬長史と呼ばれている」
「白馬長史?」
「そうか、知っているか」
「いや、知らぬ」
 はっきりと答える黄蓋だった。
「だから問うておるのじゃ」
「な、何故知らない?幽州の牧だった私を」
「幽州の牧なら袁紹殿であろう」
 ここでもいつものやり取りであった。
「あの御仁がなるまであの州には牧はおらんかった」
「くっ、私は揚州でも無名だったのか」
「見たところ相当影の薄い御仁の様じゃが」
 それは黄蓋にもわかることだった。
「頑張る様にな。人生色々とあるぞ」
「うう、私はこの世界では有名になれないのか」
「そうは言っても日々の方でも何かないがしろになってきていないか?」
 容赦のない突込みを入れたのは関羽だった。
「私もあの世界のことは少しわかるような気がするが」
「否定できないぞ。今度は電車突き落としか」
「あれだけだったな」
「私の持ちネタはどうなるんだ。弟だけか」
 こんな話を嘆きながらする公孫賛であった。そしてその間にであった。
 孔明と諸葛勤は感動の再会を堪能していた。それは謁見の間で終わらずにだ。 
 使者を招待する宴の場においてだ。姉妹並んで仲良く話をするのだった。
「私達元々はこの州の生まれで」
「幼い頃は三人一緒だったんですよ」
 こんなことをだ。周りに話すのだった。
「それが私達はそれぞれの主や先生のところに向かって」
「今に至るんです」
「そういえば朱里ちゃんのところって」
 鳳統が言う。彼女も宴の場にいるのだ。
「三人姉妹だったよね」
「うん、そうなの」
 孔明がその問いに答えた。
「実はね」
「私が長女で朱里が次女でね」
 諸葛勤も話をする。
「それで黄里が末っ子でね」
「その人が三女さんですね」
「ええ、そうなの」
 諸葛勤も鳳統に話す。
「あの娘は確か曹操殿のところにね」
「仕官するみたいですね」
「三人共別々ね」
「そうね」
 姉妹でも話すのだった。
「生まれは同じだけれど」
「今はそうなっちゃったね」
「けれど今こうして会えるのは」
「やっぱり嬉しいし」
「わかります」
 月がその二人を見て微笑む。
「私も今は兄さんとは一緒ですが」
「そうだな。だが楓はな」
「曹操殿のところにでしたね」
「その様だな」
 その兄の守矢と話すのだった。
「この世界でも私達はな」
「別れ別れですね」
「何で弟さんは曹操のところにいるのだ?」
 張飛はそのことがわからずだ。いぶかしんで言うのだった。
「それがわからないのだ」
「そこは色々とありまして」
「それでだ」
 二人がこう張飛に話す。
「また縁があれば」
「会うと思うが」
「あっ、そういえばだけれどな」
 馬超がここであることに気付いた。それは。
「前曹操のところに行った時にな」
「弟殿とは会われなかったのか」
 趙雲もそのことに気付いた。
「その時はどうしたんだ?」
「会えたのか?」
「いえ、弟は山賊退治に出ていまして」
 それでだというのであった。
「残念ですが」
「そうか。それならな」
「仕方ないな」
「また機会があります」
 月は微笑んで述べた。
「その時を楽しみにしています」
「そうか。じゃあその時にな」
「盛大に祝うことにしよう」
 二人は月のその言葉と心を受けてこう返した。彼女もまたそうしたものを持っているのだ。
 宴は続く。その中でだ。
 諸葛勤はナコルルとリムルルを見てだ。二人に言うのだった。
「そういえば貴女達も」
「はい、姉妹です」
「私達もです」
 その通りだと。二人も答える。
「二人で精霊を使って」
「そうして戦ってきました」
「そうらしいわね。精霊ね」
「この二人は少し特別なんだ」
 チャムチャムがここで話す。
「神様の使いでもあるしね」
「じゃあ巫女みたいなものかしら」
 諸葛勤はチャムチャムの言葉を聞いてこう考えた。
「それだと」
「はい、巫女なんです」
「村の」
「成程ね。けれどこの世界にどういう訳か来た」
 諸葛勤は考える顔で述べた。
「そうしたことね」
「そうなります」
「そこは他の方と同じです」
「揚州にも巫女がいるけれどね」
 諸葛勤は笑いながらある少女の話を出した。
「あかりという娘だけれど」
「あっ、あかりさんですか」
 雪が彼女の話を聞いて声をあげた。
「そういえばあの娘も巫女ですね」
「まだ小さくて。小蓮様みたいな感じだけれど」
 諸葛勤は己の主の一人の名前も微笑みながら話す。
「それでも。力は凄いわね」
「天才と言ってもいいな」
 守矢も彼女について言う。
「あの力はな」
「そうね。まさに天才ね」
 それは諸葛勤も見てわかることだった。そのうえで彼女をこう評した。
「あのままいけば。凄い巫女になるわね」
「そうですね。本当に」
「将来が楽しみだ」
「この世界に来ている他の世界の人達は」
 黄忠は彼等全体を一括りにして話をした。
「誰もが凄い力を持っているわね」
「そうですよね。特に草薙君がね」
 馬岱はくさなぎを観て話す。
「火を自由に出せるし」
「俺のこれはちょっと特別だからな」
 草薙はこう馬岱に話す。
「草薙家のな。オロチを払う為の炎だからな」
「オロチねえ。何度か聞いてるけれど」
「とんでもない相手じゃな」
 厳顔もそのことは聞いていた。だからこそ言うのだった。
「その力だけではなくな」
「そうよね。怪物じみてるっていうか」
「いや、怪物どころではないな」
「それ以上ですか?」
「神じゃな」
 厳顔はオロチをそれだというのだ。
「まさにな」
「神様なんですか、オロチって」
「神といっても色々おる」
 ここからはだった。難しい話になる。厳顔もそれを自覚しながら話す。
「中にはよからぬ神もおる」
「そうなんだよな。あのオロチってのはな」
「人の文明や文化そのものの敵だ」
 二階堂と大門もそのオロチについて話した。
「そうしたものをとことん嫌っててな」
「全てを破壊しようとする」
「それならばだ。我々のこの世界にオロチがいたならば」
 魏延はそれを仮定として話した。
「この世界も何もかも」
「ああ、ぶっ壊されるな」
「間違いなくだ」
 二階堂と大門も話す。
「その場合はな」
「そうなる」
「今天下は確かに乱れているが」
 魏延は二人の話を聞いたうえで深刻な顔になって呟いた。
「そうした存在がいないだけましか」
「いえ、何か」
「よからぬものは感じ続けられます」
 ところがだった。彼女のその呟きにナコルルとリムルルが述べた。
「この世界にも」
「何か。絡み付いて蠢く様な」
「随分と禍々しいものの様だな」
 関羽が二人のその話を聞いて述べた。
「その存在は」
「はい、どうやら」
「尋常なものではありません」
「天下を覆うこの大乱がそれなのか」
 関羽はそれではないかと考えた。
「それで今天下は」
「それで済めばいいのだけれど」
 神楽は自分の口元に自身の手を当てて述べた。
「私も。何かそれ以上の」
「感じるわね」
「そうね。もっとね」
 こうミナとも話す。
「どうにもね」
「あまりにも不吉な」
「それあかりも言っていたわ」
 諸葛勤もここで話す。
「何なのかしら、本当に」
「宦官ではなかろうか」
 黄蓋は彼等ではないかと考えるのだった。
「あの連中はとかく暗躍し私腹を肥やしておる」
「宦官は帝の御傍にいつもいるので」
「そして宮廷という特異な場所にいて中々手が出せないので」
 孔明と鳳統は困った顔になって話をする。
「それで邪な心があれば」
「容易に権力や富を得られます」
「厄介な話じゃ」
 黄蓋は溜息を出して忌々しげに言う。
「帝をたぶらかしやりたい放題じゃ」
「そうですね。始皇帝に仕えた趙高もそうでしたし」
「宦官達は何かと問題があります」
「特に今の十常侍は」
「その中心にいる張譲は」
 二人はだ。この者に行き着いた。
「策謀に長け悪い意味で政治に長けています」
「何かあると隠れ、そして帝の裏で囁きます」
「それ最悪じゃねえか」
 丈は二人の話を聞いて呆れた様に言った。
「何なんだよ、それ」
「ですから。宦官はそうした存在ですから」
「厄介なんです」
「どうにかならないのかよ、本当に」 
 丈は怒った顔になって二人に解決案を尋ねた。
「そうした連中こそ何とかしないと駄目だろうが」
「帝がしっかりとされればいいのですが」
「宦官達に惑わされずです」
 二人は丈に対して弱りきった顔で話した。
「それが宦官に対する一番の対策です」
「それこそがです」
「けれどそれは難しいわね」
 マリーは二人のその言葉に難しい顔で述べた。
「人間はいつも自分の傍にいる相手の言葉を信じるから」
「特に馬鹿な奴はそうだな」
 ロックは多少辛辣に述べた。
「簡単にな」
「信じていい奴といない奴がいる」
 蒼志狼も呟く様に言う。
「それを見極めなければだ」
「そういう者が偉い立場におればのう」
 チンは酒を飲みながらここで話す。
「厄介なことになるわ」
「それが今やな」
 ケンスウは肉まんを食べている。無論他のものもだ。
「だからおかしなことになってるんやな」
「帝ですか」
 アテナはその皇帝について考えるのだった。
「この国の今の帝は」
「こう言っては何だけれど」
「そうなのじゃ」
 諸葛勤と黄蓋が苦い顔でアテナに話す。
「あまりね」
「察してくれ、これだけで」
「わかりました」
「そういう方なんですか」
 アテナだけでなくパオも頷いた。
「だからこそですか」
「今の状況に」
「しかも今病に臥せっておられる」
 黄蓋はその皇帝の今の状況についても話をした。
「明日をも知れん命だという」
「明日をもかよ」
「それだと」
「ああ、そうだな」
「何時皇帝が代わってもおかしくはない」
 テリーとアンディも話す。テリーはハンバーガー、アンディは納豆スパを食べている。そうしたものを食べながら話をするのだった。
「問題は次の皇帝だよな」
「どういった人物がなるかだな」
「今の太子は非常に聡明な方だと聞いています」
「まだ幼いですが」
 孔明と鳳統がその太子について説明する。
「あの方でしたら」
「宦官達に惑わされることはありません」
「ほな状況はよくなるんやな」
 ロバートは二人の話を聞いてこう述べた。
「次の皇帝になったら」
「そうだな。宦官達に惑わされなかったらいいからな」
「それだと問題はないわね」
 リョウとユリもロバートの言葉に頷く。
「ならだ。もうすぐだな」
「この国のおかしな状況も終わりね」
「じゃあ俺達も後は平和に暮らせますね」
 真吾はうどんを食べながら能天気に話す。
「何でこの世界に来たのかはわかりませんけれど」
「そうじゃな。天下泰平が一番じゃ」
 黄蓋はそんな真吾の言葉に頷き目を細めさせる。
「そこの子供、いいことを言うのう」
「えっ、俺子供なんですか?」
「わしから見れば立派な子供じゃ」
 右手に杯を持ち豊かな胸を震わせて言う。
「ふふふ、御主の様な者の相手も楽しいものじゃ」
「楽しいってまさか」
「どうじゃ?よかったらわしと二人でじっくりと話をするか?」
「黄蓋さんとですか」
「しっぽりとのう」
「あの、祭殿」
 思わせぶりな流し目さえ送る黄蓋に諸葛勤が横から止めに入った。
「そうしてからかうのは」
「からかってはおらんぞ」
「そうですか?」
「そうじゃ。わしは実際にこうした子供が好きでのう」
「年下趣味だったのですか」
「おなごもよいがな。何ならじゃ」
 今度はだ。諸葛勤を見て囁く。
「藍里でもよいぞ」
「なっ、私もとは」
「どうじゃ?わしと今晩」
 諸葛勤のその顎を手に取る。そのうえで顔を近寄せて囁く。
「同じ褥でのう」
「は、はううそれは」
「お姉さんははううか」
「そうみたいだね」
 キングとナコルルが二人のやり取りを見て慣れた様に話す。
「姉妹で言葉が違うな」
「微妙にだけれどね」
「私はそうした趣味は」
「はじめては誰でもそうじゃ。しかしじゃ」
 黄蓋の攻めはさらに続いている。
「一度知れば。その快楽にじゃ」
「ですからそれは」
「な、何か凄い展開になってきたけれど」
「大丈夫でしょうか」
 劉備も鳳統も顔を真っ赤にさせている。
「黄蓋さんってこうした趣味もあったの」
「女の人もなんですか」
「ははは、普通ではないか」
 黄蓋は諸葛勤から離れて笑って話す。
「おなご同士というのものう」
「確かにそうですが」
 解放された諸葛勤はほっとした顔になって話す。
「雪蓮様と冥琳殿もですし」
「そうじゃ。至って普通じゃ」
「ソレガコノ国ノ普通」
 タムタムは仮面の下から麺をすすりながら話す。
「タムタムヨクワカラナイ」
「俺の国じゃ昔から結構あるけれどな」
 草薙がタムタムのその言葉に言う。
「そっちの話はな」
「ソウナノカ」
「結構多いな、本当に」
「えっ、そうなんですか!?」
「それは凄いです」
 孔明と鳳統は草薙の話を聞いてだ。それぞれ手と手を組み合わせてそのうえで目を輝かせている。さながら十字架の神への祈りである。
「男同士が多いんですか」
「草薙さんのお国は」
「ああ。俺はそっちの趣味はないけれどな」
「そうだな。普通にあるな」
 蒼志狼もそうだと話す。
「それを日記に書いてた公家の人もいたしな」
「はわわ、最高ですう」
「そこまであからさまだと」
 二人はその目をさらに輝かせている。
「縁があれば是非」
「私達もその世界に」
「何か凄い憧れてるんだな」
 草薙はそんな二人を見ていささか呆れながら言った。
「男同士とか好きか」
「はい、どっちが攻めでどっちが受けとか」
「大好きです」
「ああ、つまりな」
 草薙はそんな二人を見てこの言葉を出した。
「あんた達腐女子だな」
「そのものね」
 舞も苦笑いで言う。
「まさかこの世界にもいるなんて」
「凄いですね、ある意味」
 香澄もだ。呆れた様な顔で話す。
「この世界にもいるなんて」
「腐女子は次元を超えるのね」
「そうみたいですね」
「あの、腐女子って」
「何でしょうか、それは」
 孔明と鳳統はその言葉に目をしばたかせて返す。
「何か妙に妖しい響きですけれど」
「一体」
「ああ、気にしないでいいわ」
 舞が笑ってそこは誤魔化した。
「こちらの世界の言葉だから」
「そちらの世界のですか」
「そうした言葉もあるんですね」
「そうよ。それにしてもこちらの世界は」
 舞はその世界自体について思うのだった。
「私達の知ってるこの時代の中国とは」
「全然違うな」
「そうなのよね」
 こうアンディにも話す。
「だからかなり戸惑うところがあるわ」
「前から思ってたところはだ」
 大門は炒飯をもりもりと食べながら述べる。
「北でも米がある」
「しかも俺達の時代の料理が普通にあるしな」
 二階堂は刺身を食べている。中華風の刺身である。
「不思議っていえば不思議だよな」
「その通りだ。書も想像より遥かに多い」
「服だって違うしな」
「そうした違いの多い世界だな」
「何かよくわからぬがだ」
 関羽も首を傾げさせている。
「我々の世界の漢とあちらの世界の漢はかなり違う部分があるのだな」
「考えていくと別物だな」
 草薙が話す。
「俺は学校は殆ど行ってないがそれでもわかるな」
「あの、それで草薙さん」
 真吾は彼が学校の話を出したところでそっと囁いた。
「いい加減。先生が怒ってますけれど」
「何でだよ」
「卒業しろって」
 言うのはこのことだった。
「何年留年したら気が済むんだって」
「またそれかよ」
「はい、本当に卒業してくれないと困るって怒ってますから」
「わかってはいるんだよ」
 草薙はバツの悪い顔で真吾に言い返す。
「卒業もな。
「ええ、御願いします」
「卒業した先も決まってるしな」
「草薙道場ですよね」
「ああ。親父の跡を継いでな」
 そうなるというのである。
「そうなるからな」
「そうですよね。俺も道場通いますから」
「御前草薙流好きだな」
「大好きですよ」
 好きどころではないとだ。真吾も言う。
「だから草薙さんと今こうしてるだけでも」
「いいのかよ」
「はい、とてもです」
 明るい笑顔で話す真吾だった。
「あといわしとうどんもあれば」
「そういえば好きだな」
 関羽が真吾のその食べ物の嗜好に言及する。
「御主魚はそれが一番好きだな」
「そうなんです。いわしって美味しいですよね」
「うむ、確かにな」
 それは関羽も認める。実際に食べての言葉である。
「しかもあれは身体にいいのだったな」
「はい、お肌も奇麗になりますよ」
「えっ、そうなんですか?」
 それを聞いてだ。声をあげたのは劉備だった。
「じゃあ私いわしもっと食べます」
「そうしたらいいですよ。あれは食べても太りにくいですし」
「じゃあ余計に」
 ここでまた話す劉備だった。
「食べさせてもらいます」
「それとあとは」
 真吾は笑顔でさらに話す。
「俺の趣味のあれですね」
「それは言うな、なのだ」
「全くだよ」
 張飛と馬超が顔を顰めさせて真吾に言う。
「真吾の怪談は怖過ぎるのだ」
「聞いたら夜寝られないんだよ」
「怖いのがいいんじゃないですか」
 だが真吾は笑顔でこう話す。
「そうじゃないですか?やっぱり」
「そんなことを言うのは変態なのだ」
「怪談なんて何処がいいんだよ」
「全くだ」
 関羽もその顔を暗くさせている。
「あんなものを聞いてもだ。何にもなりはしない」
「そういえば関羽さんって」
「何だ?」
「俺が怪談話したら何処かに行かれますね」
「そ、それは」
「ひょっとして怖いとか?」
 何となくだがそのことに気付いた真吾だった。
「関羽さんも怪談が」
「いや、そんなことはないぞ」
 関羽はそのことを必死に否定した。
「決してだ。それはない」
「ないんですか?」
「私はだ。怪談なぞ怖くはないぞ」
「実はだ」
 ここで趙雲がさりげなく真吾のところに来て囁く。
「愛紗はこれで怖がりなのだ」
「あっ、やっぱり」
「うむ。怖い話をすると怯えるからな」
「成程、それでだったんですね」
「そうだ。だからもっとしてやれ」
「おい星!」
 関羽はたまりかねた顔で趙雲に言う。
「私はだ。だからそんなことはだ」
「ほう。怖くないのだな」
「そうだ、怖くとも何ともない」
 真っ青になって引き攣った顔で話す。
「断言してもいい」
「鈴々もなのだ」
「あたしもだよ」
 張飛と馬超も必死の顔で主張する。
「あんなもの怖くとも何ともないのだ」
「そうだよ。真吾がどれだけ怖い怪談を言ってもだ」
「何か面白そうね」
 そんな彼等の話を聞いて諸葛勤がそちらに顔を向けた。
「怪談なのね」
「お姉ちゃん怪談好きだったの」
「特に好きじゃないけれど興味はあるわ」
 それでだと妹に話すのだった。
「だから。ええと」
「はい、矢吹真吾です」
 真吾は笑顔で諸葛勤に対して名乗った。
「宜しく御願いします」
「ええ。じゃあ矢吹さん」
 諸葛勤も微笑んで真吾に言葉を返す。
「よかったら貴方の怪談を」
「あっ、聞いてくれます?」
「そうさせてもらえるかしら」
 こう彼に頼むのだった。
「この宴の後で」
「わかりましたっ」
 満面の笑顔で応える真吾だった。実に嬉しそうである。
「じゃあそうさせてもらいますね」
「ええ。御願いね」
「さて、じゃあどんな怪談にしようかな」
 制服のポケットからメモ帳を出してチェックする。
「とびきりに怖いものにしますから」
「真吾さんの怪談って凄いのよ」
 孔明はにこにことして姉に話す。
「もうね。本当に震える程にね」
「怖いの」
「だから楽しみにしていてね」
「ははは、ではそうさせてもらうか」
 黄蓋も笑顔である。
「是非な」
「う、うむ。それではな」
「期待しているのだ」
「ああ、あたしもだ」 
 そうは言ってもであった。関羽と張飛、それに馬超えはだ。顔を真っ青にさせてそのうえで表情を引き攣らさせている。そうしているのだ。
 そしてだ。三人は虚勢を張って言う。
「真吾の怪談なぞな」
「何も怖くはないのだ」
「ああ、全然平気だからな」
「三人共怪談の前に厠に行った方がいいよ」
 馬岱が彼女達に突っ込みを入れる。
「特に翠姉様はね」
「あたしかよ」
「おしっこ大丈夫よね」
「大丈夫に決まってるだろ、それは」
「だといいけれど」
「まあどうしてもというのならだ」
 趙雲は今度は馬超の傍に来ている。
「おむつもいいな」
「あたしは赤ん坊かよ」
「どうしてもならだ。私も共についていこうか?」
 さりげなくこんなことも言う。
「そして私が出させてやろう」
「おい、厠も一緒っていうのかよ」
「厠でする者もいるぞ」
「だから何をだよ。それにだよ」
 馬超はたまりかねた口調になって趙雲に反撃した。何とかだ。
「御前ずっとあたしに絡むよな」
「いや、翠だけではないぞ」
「あたしだけじゃないって?」
「愛紗もいいな」
 その関羽をちらりと横目で見てだ。微笑んで話すのであった。
「あの熟れた身体は味わいがいがある」
「ま、待て」
 それを聞いてだ。関羽は怪談に対するのとはまた違った焦りを見せて言う。
「私を味わうだと?」
「そうだ。私はそちらもいけるからな」
「だから何がいけるのだ」
「おなごであってもだ。いけるぞ」
「うう、まさかと思うが」
「あたし達二人を一度にかよ」
「悪くはない」
 二人に言われても平然としている趙雲だった。
「今夜辺り面白いかもな」
「あら、女の子同士なのね」
 諸葛勤は今度はそちらに顔を向けた。関羽達にだ。
「それもいいわね」
「結構きますよね」
「はい、とても」
 今度は孔明と鳳統も話す。
「女の子同士でというシチュエーションも」
「興奮するものがあります」
「あの娘達わかっているわ」
 諸葛勤は妹達以上にその目を輝かせている。その口元には涎さえ出ている。
「女の子三人で絡み合う。素晴しいわ」
「あれ、まさか」
 鳳統はここで諸葛勤のあることに気付いた。
「まさかお姉さんも」
「実はそうなの」
 孔明も鳳統に話す。
「お姉ちゃんもそういうお話が大好きで」
「あわわ、やっぱり」
「そのお姉さんの影響を受けてなのね」
 黄忠は孔明を見て微笑んで述べた。
「朱里ちゃんの趣味がそうなのは」
「えっ、私の趣味もですか」
「腐女子というのはこのことなのかしらね」
 そしてこんなことも言う彼女だった。そんな話をしてであった。
 宴の後は怪談になった。そして孔明達は怪しい絵のある書を手に怪しい会話に入った。その次の日の朝。朝食の席において。
 関羽と張飛、馬超はだ。目が真っ赤だった。そして何処かやつれている。
 その三人を見てだ。マリーがいぶかしみながら言った。
「目の下にクマまでできているわね、三人共」
「眠れなかったのだ」
「昨日はずっとなのだ」
「ああ、とてもな」
 こうだ。三人で声を揃えて言う。
「真吾のせいね」
 マリーはその三人を見てすぐにこう察した。
「あの子の怪談は確かに凄いから」
「だ、だからそうではない」
「それは違うのだ」
「怪談なんか怖くとも何ともないからな」
 しかし三人はそのことはムキになって否定する。
「全くだ。どうして怪談なぞだ」
「この鈴々が怖がるのだ」
「そんな筈がないだろ?」
「しかし御主達は」
 趙雲がまた三人に言う。
「真吾の怪談の時真っ青だったではないか」
「そ、そうか?」
「そんな筈がないのだ」
「そうだよ。怖くとも何ともなかったんだからな」
 三人は強がって反論する。
「あんなものはだ」
「全然怖くなかったのだ」
「むしろ退屈したぜ」
「ふむ。それではだ」
 三人の虚勢は想定の範囲内だった。それで趙雲は今度はこう言った。
「真吾、今晩も怪談を話してくれるか」
「はい、わかりました」
 真吾も満面の笑顔で応える。
「今夜も楽しみにして下さい」
「い、いや今夜はな」
「遠慮するのだ」
「そういう気分じゃないからな」
 速攻で言う三人だった。かくしてこの三人は予想通りの結果になった。
 そして諸葛勤はというとだ。
「じゃあ今日はね」
「何処に行くの?」
 姉妹でだ。仲良く話をしている。朝からだ。
 黄蓋もだ。その二人を見ながら笑顔で話す。
「藍里は昨夜ずっと二人でいたそうじゃな」
「はい、そうです」
 鳳統がその黄蓋に答える。
「諸葛勤さん昨夜は朱里ちゃんと一緒に寝ましたし」
「仲がいいのう」
「そうなんです。夜遅くまで三人で本を読んで」
 どういった本かはあえて言わない。
「それで二人で」
「そうか。実はのう」
 ここで黄蓋はこんなことも話した。
「我が揚州の孫策様達もじゃ」
「あっ、三人姉妹ですよね」
「そうじゃ。今でも同じベッドで寝ることがあるのじゃ」
 このことをだ。鳳統に話すのだった。
「三人一緒にのう」
「三姉妹仲良くですか」
「やはり兄弟は仲がいいに限るじゃろ」
「はい、確かに」
 その通りだった。これは鳳統もわかることだった。
「私は。兄弟はいませんけれど」
「いや、もうおるではないか」
「いますか?」
「兄弟とは血がつながっているとは限らんのじゃ」
 そうだと話すのであった。
「例え血がつながっておらずともな」
「兄弟になれるんですね」
「そういうことじゃ。大事なのは絆だ」
 それだというのである。
「御主はそうした意味でだ。既に兄弟がおるぞ」
「そうなんですか」
「御主もわかる。やがてな」
「実は俺達もな」
「そうなんだよ」
 テリーとアンディがここで鳳統に話してきた。
「俺とアンディは実は血はつながっていないんだ」
「けれどそれでもこうして」
「兄弟なんですね」
「それと同じさ」
「大事なのは絆なんだ」
「そうですか。絆ですか」
 鳳統は二人の話も聞きながらだった。彼女はその仲睦まじい二人を見た。そこには絆があった。確かにだ。
 そうした楽しい日々も終わりだ。諸葛勤は揚州に戻ることになった。無論黄蓋もである。
 黄蓋がだ。劉備達に対して別れの挨拶を述べる。
「ではまたな」
「はい、また御会いしましょう」
 劉備が微笑んで彼女に応える。
「それでは」
「そうじゃな。また会う時が来る」
 黄蓋もだ。その顔が微笑んでいる。
「その時を楽しみにしておこう」
「その時まで暫しですね」
「うむ、ではな」
 そしてであった。この姉妹もだ。
 お互いに笑顔でだ。こう言い合うのだった。
「じゃあ朱里、またね」
「うん、お姉ちゃんまたね」
 二人も別れの挨拶をする。そしてこう話をするのだった。
「人は別れる時の相手の顔を覚えている、ね」
「そうね。だからね」
「こうしてお互いに笑顔で」
「また。その時まで」
「いい話だな」
 蒼志狼は二人の別れを見ながら述べた。
「別れの時は笑顔か」
「その通りだな」
 リョウは明らかに微笑んでいる。そのうえでの言葉だった。
「人間っていうのは最後のその時を一番覚えているからな」
「だからあえてか」
「ああ。御前もそう思うだろ」
「否定はしない」
 こう答える蒼志狼だった。
「だからいい話だと言った」
「そうだな。本当にな」
 暖かい雰囲気のまま諸葛勤達は帰った。そしてそれを見送った孔明は。
 すぐにだ。笑顔のまま劉備に言うのだった。
「では桃香様、すぐにです」
「政治よね」
「はい、今日は灌漑のことでお話があります」
「灌漑ね。あれもかなり大変よね」
「はい、国家の政治の根幹の一つです」
 中国においてはとりわけそうである。黄河や長江といった大河を抱えている国だからだ。
「ですから余計にです」
「しっかりしないと駄目よね」
「はい、それではです」
「ええ。じゃあすぐにね」
 笑顔のままだ。孔明は政治に戻る。姉妹の再会の楽しい時をそのまま胸に収めて。そうしたのである。


第六十五話   完


                                         2011・2・20







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