『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                               第五十九話  張勲、袁術と郭嘉を取り合うのこと

 反乱平定の為に徐州に入った劉備達はだ。最初にあることに気付いた。
「あれっ、何か」
「そうだな。見たところ」
 軍の先頭に立つ劉備と関羽が最初に気付いた。
「若い男の人達だけが」
「異様にいないな」
 見ればだ。徐州の至る町や村でそうだったのだ。
「やっぱりこれって」
「反乱のせいか?」
「多分そうなのだ」
 二人の横で豚に乗る張飛も言う。二人は馬だが彼女は豚だ。しかもその背には大きなつづらがある。
「それでなのだ」
「ううん、だとすると」
「敵兵の数は多いか」
 二人は次にこのことを危惧した。
「私達数が少ないけれど」
「それは兵法で補うか」
「そうするしかないのだ」
 張飛も言う。
「戦は兵の多さが大事だけれどそれだけではないのだ」
「できれば」
 ここでだ。劉備は顔を曇らせて言うのだった。
「戦わなくて済んだらいいけれど」
「反乱軍が降伏してくれればか」
「うん、できればそれで」
「確かにそれで済めばいいな」
 関羽は姉のその言葉にまずは賛成した。
「だが。そうならないのが常だ」
「どうしてもなのね」
「話がそれで済めば苦労はしない」
 関羽も顔を曇らせていた。そのうえでの言葉だ。
「何ごともな」
「そうなのね。じゃあ」
「姉上、覚悟はしておいてくれ」
 劉備のその曇ってしまった横顔を見ての言葉だ。
「最悪の事態はな」
「ええ、それじゃあ」
 こんな話をしてだった。そのうえであった。
 一行は情報収集もした。その結果だ。
 野営の天幕の中でだ。孔明と鳳統が居並ぶ諸将に話した。
「敵の数は数十万です」
「その殆ど全てが若い男性です」
 まずは兵についての話だ。
「三姉妹の周りに集まってです」
「その数は日増しに増えています」
「若い男だけか?」
 皆卓に座っている。馬超はそこで言うのだった。
「敵の兵隊は」
「はい、十代から二十代前半のです」
「独身の者ばかりです」
「何か偏ってるな」
 馬超はその話を聞いて腕を組んでこう思った。
「普通反乱軍って後がないからな」
「そうだな。引っ張れる者は誰でも引き込む」
 趙雲も言う。
「しかしこの反乱はだ」
「若い奴ばかりってな」
「しかもです」
「その入っている人達ですが」
 ここでまた話す孔明と鳳統だった。
「自分達からどんどん入っています」
「まるで引き寄せられるようにです」
「そこも変わっているわね」
 黄忠は話を聞いてまた述べた。
「無理矢理入れられるっていう話もないのは」
「しかも三姉妹を中心にして絶叫しているだけで」
「今はこれといって動きがありません」
「役人達は寄せ付けませんが」
「凶暴さや残忍さもありません」
「何だ、そりゃ」
 ここまで話を聞いてテリーが言った。
「それじゃああれだな」
「そうだな、コンサートだな」
 リョウも言う。
「俺達の世界で言うな」
「こっちだと舞台だな」
「はい、そのままです」
「三姉妹の舞台そのままなんです」
 軍師二人もそうだというのだった。
「かなり特殊な反乱です」
「数は多いのですが」
「それならだけれどな」
 草薙は話の根本から考えて述べた。
「三姉妹を黙らせたら話は終わるだろ」
「はい、その通りです」
「あの三姉妹がこの反乱の中心に他なりません」
 また言う孔明と鳳統だった。
「そうすればこの反乱は収束します」
「それだけで」
「言葉ではめっちゃ簡単やな」
 ケンスウは首を捻りながら述べた。
「頭何とかしたら終わりやさかいな」
「けれどそこに行くまでが大変よ」
 アテナは現実を語った。
「その三姉妹を何とかするにしてもそこまで行くのは」
「そうだな。やはり戦うしかないか」
 魏延は言った。
「ここはな」
「そうよね。敵の中心まで一気に突っ切ってね」
 馬岱は積極案を出した。
「三姉妹やっつけちゃって」
「敵兵の殆どは素人みたいだし」
 黄忠は反乱軍の質を見抜いていた。
「それは楽にいけそうね」
「はい、話は曹操さんの軍と合流してからです」
「詳しくお話をしていきます」
 そこからはそうするとだ。孔明と鳳統が話す。
「作戦についてはです」
「そのつもりです」
「ううん、あの娘達をやっつけるの?」
 劉備がここで暗い顔で話す。
「そうするのは」
「姉上、気持ちはわかるが」
 関羽がまたそんな顔になった劉備の肩に手を当てて言う。
「しかし反乱を収めなければだ」
「どうしようもないのね」
「そうだ。天下の乱れは放っておけない」
 これが関羽の考えであり言葉だ。
「だからこそだ」
「ううん、けれど」
「あの三人は悪い奴等じゃないのだ」
 張飛はどちらかというと劉備寄りだった。
「やっつけても何にもならないのだ」
「ですが反乱の平定はです」
「絶対にしないと駄目です」
 孔明と鳳統も困った顔でこう話す。
「ですからここは」
「仕方ないです」
「本当に何とかならないかしら」
 まだ諦められない劉備だった。
「ここは」
 どうしてもだった。劉備は戦いを避けたかった。そのうえで曹操軍の駐屯場所に入った。彼女達はすぐに曹操自らの出迎えを受けた。
「よく来てくれたわね」
「曹操さん、お久しぶりです」
「ええ。元気そうで何よりだわ」
 何処か困った顔で劉備に応える曹操だった。
「本当にね」
「それで曹操さん」
 劉備はここで曹操に対して尋ねた。
「今ここに来ているのは曹操さんだけですか?」
「主だった面々は連れて来ているわ」
 そうだという曹操だった。
「春蘭や秋蘭達はね」
「そうなんですか」
「ただねえ」
 困った顔のままだ。曹操は言うのだった。
「麗羽や孫策が動けないから」
「あっ、異民族の平定で」
「そうなのよ。それの後始末とかでね」
 それは曹操もわかっていることだった。
「それでなのよ」
「御二人はなんですか」
「どっちかでも来てくれればよかったんだけれど」
「しかし今はだ」
 関羽がその曹操に話す。
「袁術殿が来ておられるのだろう?ここに」
「あのちびっこい奴がなのだ」
 張飛はとりあえず自分のことを置いている。
「だったら兵の数は困らない筈なのだ」
「兵の数は今回はどうでもいいのよ」
 曹操はこう張飛に返した。
「ただね」
「ただ?」
「袁術がああなるなんて」
 こんなことを言い出す曹操だった。
「意外だったわ」
「むっ、袁術殿は確かに癖は強いが無能ではないぞ」
 趙雲がそれを指摘する。一行は駐屯地の陣中の道を進んでいる。左右には兵達のいる天幕が連なり曹操軍の黒い武装した兵達が並んでいる。どれも見事な兵達だ。
 その中を進みながらだ。ここで趙雲がこのことを指摘した。
「基本的には文の方のようだがな」
「袁術のことも昔から知っていたわ」
 それはだというのだ。
「あの困った性格もね」
「なら何でそんなに困った顔になってるんだよ」
 馬超もそれを指摘する。
「一体何があるんだ?」
「凛がねえ」
 曹操は無意識のうちに溜息を出した。
「ああなるなんて?」
「凛って?」
「郭嘉のことよ」
 馬岱に応えて彼女のことだというのだった。
「あの娘の真名よ」
「そうだったの」
「あれっ、そういえば」
 ここで曹操は馬岱の顔を見てふと気付いたのだった。
「貴女もこの反乱平定に参戦するの」
「そうだけれど?」
「参戦する武将の知らせに貴女の名前はなかったけれど」
「あっ、予定が変わったの」
 平気な顔でこう言う馬岱だった。
「それでなの」
「それでって」
「こいつまた黙ってついてきたんだよ」
 馬超が顔を顰めさせて曹操に説明した。
「それでいるんだよ」
「黙ってって」
「またつづらの中に入ってたんだよ」
 具体的にはそうしてだというのだ。
「全くよお」
「それでいるの」
「そうなんだよ。困った奴だよ」
 馬超は今度はその従妹を見て言う。
「留守番しろって言ってたのにな」
「いいじゃない、別に」
 馬岱は従姉にも平気な顔だ。
「武将の数は多い方がいいじゃない」
「そういうものじゃないだろ」
「まあわかってましたから」
「絶対にこうなるのは」
 少し微笑んで言う孔明と鳳統だった。
「ですからあの時はあれで終わらせました」
「しょうがないですけれど」
「まあいいけれどね」
 曹操はこのことには多くは言わなかった。
「とりあえず今は頭痛の種ができたし」
「その郭嘉さんのことね」
「あれじゃあ褥にも呼べないわ」
 相変わらずの趣味の曹操である。それは変わらなかった。
「あそこまで露骨にだと」
「露骨って」
 黄忠も話がわからずきょとんとしている。
「郭嘉さんは曹操さんに絶対の忠誠を誓っているのではなかったかしら」
「それは変わらないけれど」
「それでも褥には呼べなくなったの?」
「そうなのよ。どうしたことやら」
 また溜息を出す曹操だった。
「あの三人は」
「三人で?」
 劉備がそれを聞いて目をしばたかせた。
「三人っていうと」
「妙な話になってきたな」
 魏延もそれを感じ取った。
「どうなっているのだ、一体」
「それは見たらわかるわ」
 曹操の顔がうんざりとしたものになっていた。話をしているうちに一際大きな天幕の前に来た。そうしてだった。
「それじゃあね」
「ここにその問題があるんだな」
 関羽はその天幕の入り口を見ながら述べた。
「それが」
「そうよ。どうにもならないわ」
 こんな話をしてだった。そのうえでだった。
 一行はその天幕に入った。するとそこでは。
 曹操と袁術のそれぞれの配下の者達がだ。困り果てた顔でいた。皆曹操と同じ顔になっている。
「やれやれだな」
「どうにかならないのか?」
「どうしようもないんじゃない?」
「そうよね」
「これは」
 どちらもだ。こう話すのだった。
「この状況は」
「まさかこうなるなんて」
「この三人が」
 見ればだ。袁術と張勲がだ。郭嘉を挟んで何かを言い合っていた。
 張勲はだ。いつものにこにことした顔で主に言っている。
「私と凛ちゃんはもうできているんですよ」
「だからそれは駄目なのじゃ!」
 袁術は泣きながら張勲に抗議していた。
「凛は取るななのじゃ!」
「だって私達仲いいんですから」
「わらわと凛はもっと仲がいいのじゃ!」
「私達同じ二十三歳の教えに入っていますから」
「何っ!?何じゃそれは」
 それを聞いてだ。袁術の顔が強張った。
 そのうえでだ。楽就に問うた。
「黄菊、何じゃそれは」
「七乃さんが提唱している集まりなんですけれど」
「そんなものがあったのか」
「何でも十七歳に対抗してのそうです」
 こう主に話す楽就だった。
「二十三歳から永遠に歳を取らないとか」
「わらわ達は全員十八歳以上になっておるのじゃが」
 こんなことを言う袁術だった。
「そんなものがあったのか」
「はい、どうやら」
「ううむ、ではあと五年じゃな」
 あくまで自分を十八歳とする袁術だった。
「わらわがそれに入られるのは」
「っていうか美羽様」
「入られるのですか?本当に」
 それを聞いてだ。楽就だけでなく紀霊も彼女に問うた。
「その二十三歳とやらに」
「まことに」
「あと五年後じゃ」
 本気の顔で言う袁術だった。
「そうする」
「ううん、それならいいのですが」
「いいの?本当に」
 思わず揚奉に問う紀霊はこんなことも言った。
「美羽様がまた怪しげなことしだすけれど」
「けれど美羽様らしいから」
「いいっていうのね」
「私はいいけれど」
 それでだというのだった。とにかくであった。
 袁術と張勲はだ。まだ言い合っていた。袁術はだ。
 いきなり郭嘉を抱き締めてだ。こう言うのであった。
「凛は誰にも渡さないのじゃ!」
「あっ、美羽様」
 そしてだ。郭嘉もまんざらではない顔で顔を赤らめさせて言う。
「そんな、私には華琳様が」
「主はおるのはわかっているがわらわと凛は親友同士なのじゃ」
 こう言う袁術であった。
「だから絶対に誰にも渡さんのじゃ」
「ですから」
 しかし張勲は余裕の表情のまままた言う。
「凛ちゃんと私はもうですね」
「ええい、それならじゃ!」
 勢い余ってだった。袁術は。
 卓の上にあった。菓子を一つ手に取ってだ。郭嘉に手渡してだ。
「さあ、これをじゃ」
「はい、そのお菓子を」
「まずは食うのじゃ」
 こう彼女に言うのであった。
「よいな」
「はい、それでは」
 こうして郭嘉にその菓子を食べさせる。それからだった。
 自分もだ。向かい側からその菓子に食らいのであった。誰もがそれを見てだった。
「な、何と」
「そこまでする!?」
「っていうかもう」
「完全にこれは」
 誰がどう見てもであった。
「怪しいっていうか妖しい」
「どうなっていくのかしら」
「ここまでいくと」
「えっ、そんな・・・・・・」
 そしてだ。張勲もぎょっとした顔になっていた。そのうえで言うのだった。
「私だってそこまではまだなんですよ」
「そんなこと知ったことではないわ!凛は絶対に渡さぬのじゃ!」
 小さな身体で郭嘉を抱き締めながらだ。あくまで言う袁術だった。
 そんな彼女達を見ながらだ。曹操はまたしても溜息を出すのだった。
「こうなってるのよ」
「ううむ、これは」
「予想外なのだ」
「私もよ」
 曹操は唖然となっている関羽と張飛に述べた。そうなっているのは二人だけではなく劉備達全員がであった。そうなってしまっていた。
「まさかねえ。この三人が」
「しかしそれでいてだ」
「妙に納得できるのだ」
 こうも言う関羽と張飛だった。
「この組み合わせは」
「何か入られないものがあるのだ」
「そうなのよ。だからね」
 曹操も納得しざるを得ないという顔である。
「どうしたものか困ってるのよ」
「とりあえず置いておくしかないんじゃないのか?」
 馬超の考えはこうしたものだった。
「こりゃどうしようもないだろ」
「そうだな。まさか袁術殿と郭嘉殿がだとは思わなかったがな」
 趙雲も今は何もしようとしない。
「だが私も納得しているのは確かだ」
「けれど何か危なくないですか?」
「そうです」
 孔明と鳳統は困った顔になっている。
「袁術さんと張勲さんも危うかったですけれど」
「郭嘉さんが入ると余計に」
「まさかああして食べ合うなんてね」
 黄忠はそこを指摘する。
「初対面の筈なのに仲がいい・・・・・・どころじゃないわね」
「ううむ、私もできれば」
 魏延はそんな二人を羨ましそうに見ている。
「桃香様とああして」
「あんたどさくさに紛れて何言ってんのよ」
 馬岱はそんな魏延を横目で見ながら突っ込みを入れた。
「そうなったら本当に言い逃れできないわよ」
「まあとにかくここは」
 劉備が最後に言った。
「三人はそっとしておいてあげて」
「それしかないわね」
 曹操も完全に匙を投げてしまっている。
「作戦会議ね」
「むっ、これからのことか」
「そうですね」
 曹操の言葉でようやく我に返る袁術と郭嘉であった。
「それでは凛よ」
「はい、席に着きましょう」
「そうですね。反乱平定が第一ですから」
 張勲も二人のその言葉に頷く。
「では今から」
「うむ、では曹操よ」
 袁術は何もなかったかのように曹操に対して言う。
「作戦会議をはじめようぞ」
「全く。この小娘は」
 曹操はここでも溜息だった。
「こんな反応見せるなんて思わなかったわよ」
「じゃあお話をはじめましょう」
 しかし劉備はこんな状況でも自分のペースである。
「今から」
「そうね、それじゃあ」
 こうしてだった。三人が席に着きそれぞれの家臣がその後ろに立ちだ。話をはじめるのだった。
 まずはだ。袁術がこう曹操に問うのであった。
「あの三姉妹は元々旅芸人だったそうじゃな」
「ええ、一介のね」
「最近物凄く売れてきておるのは聞いておった」
 それはだというのである。
「わらわのところにも来ておったしのう」
「そうだったのね」
「中々いい歌を歌いおる」
 袁術は納得している顔で述べる。
「わらわ程ではないがのう」
「あんた昔から歌は上手いからね」
 曹操は何気に袁術のその歌は認めていた。それを言葉に出す。
「そっちの張勲もね」
「有り難うございます」
「それで話は元に戻すけれどね」
 曹操はここでそうしてきた。
「その只の旅芸人が反乱を起こしたのよ」
「考えてみれば妙な話じゃな」
「そうなのよ。何か役人が言い掛かりをつけてきたのが理由らしいけれど」
「その役人はどうなったのですか?」
 関羽が曹操にそのことを問うた。
「事件の元凶は」
「これがさらに妙なことになっててね」
 曹操は言いながらいぶかしむ顔を見せていた。
「その時のことを覚えていないのよ」
「まさか、そんなことが」
「それが事実なのよ」
 荀ケも今は困惑したものをその顔に見せている。そのうえでの言葉だった。
「何かね。何をしていたのかも覚えていないみたいで」
「だとするとそれは」
 孔明はその話を聞いてすぐにあることを察した。
「操られていたんですか?誰かに」
「ええ、そうみたいなのよ」
 荀ケも孔明に応えてこう話す。
「これだけでもおかしなことよね」
「誰かが反乱を仕組んでいるんでしょうか」
 鳳統も言う。
「だとすると」
「あの三姉妹を使って?」
「それも妙な話だ」
 今度は夏侯姉妹が言う。
「無害な三人にしか思えないが」
「ただの旅芸人に反乱を起こさせてどうするのだ」
「大体あれだろ?」
 馬超も姉妹に続いて話す。
「反乱軍、名前は何ていったかな」
「黄巾賊です」
 張勲がその名前を話す。
「自分達では黄巾党と言っています」
「そうなのか。黄巾賊っていうのか」
 馬超はその名前を聞いてそれを頭の中に入れた。
「あの三姉妹の色をそのまま使ってるんだな」
「しかもそもそも只の観客達だったな」
 趙雲はこのことを指摘した。
「数は多いが質は大したものではないな」
「はい、それはです」
 程cが趙雲のその指摘に答える。
「既に戦術は決定しています」
「どうするのかしら、それは」
「袁術さんと劉備さんの軍で敵の注意を引き付け」
 まずはそうするというのである。
「そして後方から我々が回り込み一気に中央を攻略します」
「それで簡単に終わる話なのよ」
 曹操もここで言う。
「実際のところね」
「そうか。それならすぐにね」
 黄忠もその話に乗る。
「準備に入りましょう」
「では作戦開始じゃな」
 袁術も言う。
「取り掛かろうぞ」
「あの、それでなんですけれど」
「いいでしょうか」
 ここで孔明と鳳統が問うてきた。
「その黄巾賊は戦を知らない人が殆どの言うならば烏合の衆ですね」
「そんな人達がずっと集まっていてしかも増えている理由は」
「歌って聞いていますけれど」
「そうですね」
「ええ、そうよ」
 曹操がその通りだとだ。二人の問いに答えた。
「あの三姉妹、ここでも歌ってね」
「それで人をどんどん引き寄せている」
「そうなんですね」
「厄介なことにね」
 また二人に話した。
「だから数は無視できないのよ」
「それだったら。雛里ちゃん」
「そうよね、朱里ちゃん」
 二人は顔を見合わせて言い合った。
「歌には歌で」
「それができるわよね」
「うん、それじゃあ」
「それでいこう」
 こう二人で話してから。曹操に顔を戻してこう言うのだった。
「あの、曹操さん」
「考えがあるんですけれど」
「何かしら」
 曹操も二人の話を聞く。
「策を閃いたみたいね」
「はい、実は」
「戦わなくて済むかも知れません」
「えっ、どういうこと!?」
 それを聞いてだ。驚いたのは荀ケだった。
「戦わずに済むって」
「ですから。三姉妹は歌を歌って人を集めていますよね」
「それならこっちもです」
 これが二人のその策だった。
「歌を歌ってそれで」
「彼等を解散させましょう」
「そんなことできる筈ないじゃない」
 荀ケは二人のその考えを否定した。
「あの三人は歌だけじゃなくて妖術と宝貝も使ってるんだから」
「それってそんなに凄い妖術でしょうか」
「私達の見た限りですと」
 二人は三姉妹と会った時のことを思い出して話す。その妖術や宝貝はというとだった。
「あまり大した術じゃないですよね」
「三人が歌を広める為だけの」
「それで人を引き付ける」
「それ位だと思いますけれど」
「それなら対抗できるっていうのね」
 曹操は二人のその話を聞いていた。そのうえでの言葉だ。
「私達にも」
「はい、そうです」
「できると思います」
「向こうが妖術と宝貝なら」
 今度は曹操が考えてだ。そうして言うのだった。
「こちらはね」
「どうしますか、それで」
「華琳様、お考えが」
「ええ、あるわ」
 曹操は今度は曹洪と曹仁に述べた。四天王はここでも全員彼女と行動を共んにしている。
「からくりよ」
「からくりですか」
「今度は」
「ええ、それを使うわ」
 また二人に話した。
「ここはね」
「ほなここは」
 李典が早速楽しそうな声を出してきた。
「うちの出番やな」
「そうよ。真桜御願いできるわね」
「はい、わかってます」
 李典はその明るい声で曹操に応える。
「ほな早速」
「とびきりのものを頼むわね」
 曹操も笑顔で李典に話す。
「あの三姉妹に対抗できるようなね」
「わかってます。最高のからくり見せますわ」
 こうして対策は決まった。そしてであった。
 劉備達は今度はだ。歌手を選ぶのであった。
「さて、歌手ですね」
「そうね」
 紀霊と楽就がこのことを話す。
「三姉妹に対抗できる歌手をこちらも出しましょう」
「三人ですね」
「二人はもう決まっているわ」
 こう二人に述べる曹操だった。
「もうね」
「となると」
「それは」
 曹操の今の言葉を受けてだ。袁術と張勲が目を輝かせる。
「わらわ達じゃな」
「そうですよね」
「正直あんた達二人は外せないわ」
 まさにそうだという曹操だった。
「絶対にね」
「当然じゃな」
「頑張りますから」
「全く。袁家ってのは癖の強い娘ばかりだから」
「全くですね」
 曹操のその言葉に頷いたのは荀ケだった。
「どういう家なんでしょうか」
「麗羽がここにいたらもっとややこしかったわね」
「あの方なら絶対に御自身も出ようとされますね」
「間違いなく」
 夏侯姉妹が言う。
「絶対に」
「そうしますね」
「そうね。あの娘がいないのは結構寂しいけれどね」
 曹操はこんなことも言った。
「けれど言っても仕方ないわね」
「はい、また機会があればですね」
「共に」
 夏侯姉妹も何気に袁紹には好意を見せていた。そしてやはり寂しさも見せていた。
 そんな話をしているうちにだ。人選はというとだ。
 二人が決まった。残るは一人であった。
「さて、最後の一人だが」
「誰にするのだ?」
 関羽と張飛が話す。
「袁術殿と張勲殿と肩を並べる歌の歌い手となると」
「そしてあの三姉妹に対抗できる奴なのだ」
「かなり限られるが」
「誰なのだ」
「うむ、それなら」
 何気に出て来る夏侯惇だった。
「一人いい者がいるぞ」
「姉者、まさかと思うが」
「秋蘭、いいだろう?」
 咎めようとする妹にすがる目で訴える。
「私とて女だぞ。歌は好きだ」
「それは知っているが」
「だからだ。ここはだ」
「やれやれ。仕方ないな」
 妹に対して優しい笑顔を向けてだった。
「そこまで言うのならだ」
「済まない、秋蘭」
 二人で話を決めた。しかしであった。
 ここでだ。程cが夏侯惇より先に言ってきたのだった。
「あっ、それでしたら」
「風、推挙ね」
「はい、凛ちゃんがいいです」
 彼女を推挙するのだった。
「凛ちゃん実は歌も凄く上手いんですよ」
「ちょ、ちょっと風」
 その推挙を受けてだ。郭嘉はあからさまに狼狽を見せて言うのだった。
「私はそんな」
「じゃあ試しに今ここで歌ってみたら」
「そうね。袁術も張勲もだけれど」
 曹操は二人も見て述べた。
「三人共ここで歌ってみて」
「わかったのじゃ」
「それでしたら」
 袁術達二人は早速それにかかるのだった。
「歌わせてもらうのじゃ」
「今から」
「凛、貴女もよ」
 曹操は当然のように彼女にも声をかけた。
「いいわね」
「わかりました」
 主に言われてもだった。彼女も頷くしかなかった。それでだ。
 三人で実際に歌ってみる。するとだ。誰もが感嘆して言うのだった。
「えっ、これって」
「三人共かなり」
「上手いじゃない」
「そのまま歌手になれるっていうか」
「そこまで」
 特に劉備達が驚いている。
「これはいけるな」
「いけるのだ」
 関羽と張飛も認める。
「確実にな」
「あの三人に対抗できるのだ」
「当然じゃ」
 歌い終わった袁術はふんぞりかえって二人に応えた。
「わらわだけでなく七乃と凛もおるのじゃ」
「それならですね」
「何かお二人が凄くて負けそうですけれど」
 郭嘉は謙遜を見せている。
「この三人で」
「いきましょう」
「決まりね」
 曹操も笑顔で言う。
「この三人とからくりで対抗するわよ」
「では任せるのじゃ」
「けれど。凛がねえ」
 ここでだ。曹操は難しい顔も見せた。
「このままじゃ二人のうちのどっちかに取られるわね」
「あの、華琳様私は」
 郭嘉は曹操の今の言葉にすぐに真剣に言う。
「華琳様の臣です。そのことは何があろうとも」
「それはわかってるわよ」
 その彼女にこう返す曹操だった。
「だから。違うのよ」
「違うとは」
「褥は共にできないわね」
 曹操が言うのはこのことだった。
「本当に張勲とできてないでしょうね」
「そ、そんなことは」
「すいません、曹操殿」
 しかもだった。ここで張勲が満面の笑顔でわざと言うのだった。
「凛ちゃんとは末永く幸せに」
「怨むわよ、本当に」
 曹操も笑顔を作って彼女に合わせる。
「凛を泣かせたら許さないからね」
「はい、わかっています」
「あ、あのですから私達はそんな」
 郭嘉は顔を真っ赤にして何とか言おうとする。
「張勲さんとは別に」
「そ、そうなのじゃ!」
 その郭嘉と同じ位慌てているのが袁術だった。
「凛は取るななのじゃ、七乃だろうが曹操だろうが許さんぞ!」
「すいません、美羽様」
 このことについては主にも容赦ない張勲だった。
「私達もう」
「だから凛だけは駄目なのじゃ。凛とずっと一緒にいるのはわらわなのじゃ!」
「あの、美羽様私も」
 郭嘉はもじもじとしてその袁術に言う。両手の人指し指の先を胸の先で合わせながら。
「美羽様と一緒にずっと」
「そうじゃ。七乃も大事じゃが凛も大事なのじゃ」
 袁術は言い切った。
「だから絶対に離れるななのじゃ」
「はい、わかっています」
「この三人大丈夫なのかい?」
「どうしたのですか、宝ャ」
 程cが己の頭の上の人形に問う。
「何かあったのですか?」
「いやよ、何かどろどろの三角関係ってよ」
「しかも女同士で」
「華琳様を置いてけぼりでどうなんだろうねえ」
「確かに。凄いものがありますね」
「野放しにしてちゃまずいんでねえかい?」
 一応人形が言っていることになっている」
「これはよう」
「確かに。何か暴走していますし」
「止める奴はいねえのかい?」
「この三人は難しいですねえ」
「困ったことだねい」
「はい、けれど見ていて飽きないです」
 何気に本音を出す程cだった。
「これは」
「というか一人で喋っていないか?」
 魏延がその程c二突込みを入れる。
「人形のふりをして本音も交えて」
「気にしないで下さい」
 慣れているのかこう返す程cだった。
「そういう設定ですから」
「設定なのか」
「はい、そうです」
 また魏延に述べる彼女だった。そんな話をしていてだった。
 その中でだ。相変わらず郭嘉を取り合う二人であった。
「だから凛は」
「いえいえ、こればかりはです」
 張勲は明らかに遊んでいるが袁術は必死である。
「私も凛ちゃん好きですから」
「ぬうう、凛は誰にも渡さぬのじゃ」
「あのね、美羽」
 曹操が呆れながら彼女に突っ込みを入れる。
「忘れてるかも知れないけれど」
「むっ、曹操ではないか」
「さっきも言ったけれど華琳でいいから」
 本名で言うことを許してはいる。
「けれどよ。凛はね」
「そなたの家臣じゃったな」
「そうよ。それは覚えておいてね」
「わかっておるわ。安心せい」
「けれどこれじゃあ」
 曹操も珍しく難しい顔をして述べる。
「凛を褥にはっていうのは絶対に無理ね」
「申し訳ありません、華琳様」
「いいわよ。こんなの見せられたらどうしようもないわ」
 郭嘉には笑顔で応える。
「ただし。条件があるわ」
「条件ですか」
「そうよ。美羽とも張勲とも仲良くしなさいね」
 言うのはこのことだった。
「どっちも外も中も強烈な個性だけれど」
「っていうかあのお二人って」
「郭嘉さんもですけれど」
 孔明と鳳統がその三人を見ながら話す。
「物凄い個性です」
「あの、どういう人達なんでしょうか」
「袁術は多分他にも色々やっているのだ」
 張飛は本当的にそのことを察していた。
「楽器を演奏している人間をいじっていたのだ」
「むっ、何故わかったのじゃ」
 袁術もその張飛の言葉に顔を向けて言う。
「あの陽子じゃな」
「ちょっとは捻ったら?」
 曹操はまた呆れた声を出した。
「そのままじゃない」
「むっ、左様か」
「幾ら何でもそれはまずいでしょ」
「しかしあ奴はうい奴でのう」
 袁術の笑顔が黒いよこしまなものになってきていた。そのうえでの言葉だ。
「中々いじりがいがあるわ」
「そうなんですよ。美羽様その娘をですね」
 張勲もここで話す。
「ことあるごとに可愛がられているんですよ」
「どういう風に可愛がってるんだよ」
 馬超がすぐに問うた。
「何か怪しいな」
「それはあれじゃ。胸がないのを言ったりじゃ」
 まずはそこだというのだ。
「七一六とのう」
「ない胸ってことだな」
「そうじゃ。他には管で麺を吸わせる芸を身に着けさせ」
「それいじめじゃないの?」
 今突っ込みを入れたのは許緒だった。
「何かそれっぽいけれど」
「いじめではないぞ」
 袁術はそれは否定する。
「あくまで芸を教えておるのじゃ」
「そうなんだ」
「そうじゃ。他には胸をいじったりスカートをめくったりじゃ」
「そうして遊んでるのね」
「うむ、陽子はうい奴じゃ」
 曹操に胸を張って述べるのだった。
「帰ったらまた遊んでやるとしようぞ」
「いいの?これで」
 馬岱がそっと郭嘉のところに来て囁く。
「怪しいみたいだけれど」
「あっ、それは大丈夫です」
 しかし郭嘉は微笑んでそれはないというのだ。
「美羽様は本気なのは私だけですから」
「あんただけって」
「はい、美羽様はそうした方です」
 こう笑顔で述べるのだった。
「ですから私もそうしたことでは」
「これは本物ね」
 馬岱はそのことを完全に理解したのだった。
「この三人、もう何ていうか」
「面白いことだ」
 趙雲はそんな三人を見て楽しそうに笑っている。
「このままいけばさらによいな」
「そうなんだ」
「そうだ。それではそろそろ準備にかかるか」
 趙雲はこう面々に述べた。
「舞台のな」
「はい、それじゃあ」
 劉備が彼女の言葉に応えてだ。そのうえでだった。
 一同は三人の舞台の準備にかかろうとする。しかしであった。
 ここでだ。徐晃が天幕に入って来てだ。こう曹操に言うのであった。
「華琳様、怪しい者を捕らえました」
「怪しい者?」
「赤い髪の若い男です」
「まさかと思うけれどそれは」
「名前は華陀と言っています」
 こう述べる徐晃だった。
「どうされますか?」
「華陀ね」
 その名前を聞いてだ。すぐに言う曹操だった。
「その者、すぐにこちらに連れて来て」
「はい、それでは」
「あれっ、華陀さんっていったら」
「そうよね」
 ここで孔明と鳳統がまた言った。
「天下第一の名医っていう」
「あの人ね」
「そうよ。そして」
 曹操は今度は怒りを見せるのであった。そのうえでの言葉だ。
「私に恥をかかせた破廉恥な男よ」
「破廉恥?」
 関羽は曹操の今の言葉に怪訝なものを見せた。
「どうしたのだ、一体」
「とにかく。その男はね」
「はい」
「すぐにここに連れて来て」
 曹操はこう徐晃に告げた。
「いいわね、すぐに」
「わかりました、それでは」
 こうしてだった。華陀がすぐに連行されてきた。するとだった。
 夏侯姉妹がだ。すぐに彼に躍り掛かった。
「貴様!よくもあの時!」
「華琳様に恥を!」
「あら、夏侯淵さんまでなの?」
 黄忠は姉だけでなく妹も彼に掴みかかったのを見て驚きの声をあげた。
「いつもあんなに冷静なのに」
「秋蘭は実は華琳様のことになりますと」
「春蘭よりも熱くなるんです」
 曹洪と曹仁がこう彼女に話す。
「それでなんです」
「今は」
「ううん、そうなのね」
 そしてであった。華陀は。
 捕まれ首筋に巨大な刃を突きつけられてだ。曹操の前に膝をつかされていた。そうしてそのうえでだ。曹操は残忍な笑みを浮かべて声をかけるのだった。
「久し振りね、華陀」
「曹操殿だな、実はここに来たのはだ」
「ええ、理由はわかっているわ」
 笑みはそのままでの言葉だった。
「私に殺されに来たのね」
「おお、これは衝撃の展開が待っているねえ」
 人形がこんなことを言う。
「首をすぱっとやられちまうかい?」
「これ、そんなことを言ってはいけません」
 また主が彼に突っ込みを入れる。頭上の彼を見ながらだ。
「何か事情がありそうですし」
「事情って何だい?」
「とりあえずそれを聞くのです」
 こう言ってだ。それでだった。
 華陀はだ。曹操に対して話をはじめるのだった。その話とは。ここで一つの話が終わりまた新しい話がはじまろうとしていた。


第五十九話   完


                         2011・1・21







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