『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                              第五十五話  華陀、徐州に入るのこと

 華陀はだ。相変わらず各地を旅していた。
 共にいるのはだ。やはりこの二人であった。
「ねえダーリン」
「今度は何処に行くのかしら」
「そうだな。最近どうもおかしい」
 腕を組んでだ。彼は貂蝉と卑弥呼に話した。
「あちこちでな」
「そうよねえ。どうやら」
「間違いないわね」
 ここで話す二人だった。
「あの連中がね」
「蠢いているわね」
「そうだな」
 華陀もだ。二人の話に応えて言う。
「怪しいとは思っていたがな」
「確信持っていいわね」
「もうね」
「そうだな。じゃあ今はだ」
「どうするの、それで」
「今度は何処に行くのかしら」
「あの書を手に入れる」
 こう二人に話す華陀だった。
「そしてだ」
「力を封じるのね」
「あの書の」
「そうしてそのうえでだ」
 華陀の話は続く。
「連中を何とかしないとな」
「あの書だけじゃないからね」
「オロチだっているし」
「最初は信じられなかった」
 華陀はだ。真剣な顔で二人に語っていく。
「まさかな。そんな奴等がこの世界に来ているなんてな」
「けれど本当よ」
「本当のことなのよ」
 二人は乙女の仕草で華陀に説明していく。
「この世界に来てね。そのうえでよ」
「この世界を彼等の思うままにしようとしているのよ」
「人間達を消してしまう」
「ええ。それを考えているのよ」
「彼等はね」
 そうだと話すのだった。
「彼等は文明を嫌っているの」
「大自然の神々の一柱だから」
「それでか。自然か」
 華陀は二人の話を聞いてまた述べた。
「自然は時として人と対するか」
「ううん、人も自然の一部よ」
「この世界のね」
「それじゃああれか」
 二人の話を聞いてまた述べる華陀だった。
「自然の中での対立か」
「そうなるわね」
「結局のところはね」
 二人はこう結論付けて話した。
「人間は自然と対立する存在じゃないの」
「この星ともね」
「そしてこの世界ともだな」
「私達の知ってる世界じゃ人間が世界の敵だなんて」
「そんなこと言う人間もいるけれど」
「安っぽい話なんだな」
 華陀はこれで終わらせるのだった。
「そんな主張は」
「そうよ。鳩の出来損ないも言うけれどね」
「所詮その程度の人間もどきでしかないのよ」
 二人はその鳩の様な存在はこう言って切り捨てる。
「まあ。そんなのはいいとして」
「ダーリンも熱くなってきたわね」
「ああ、燃えてきた」
 実際にそうだという彼だった。
「この世界、何としても救う」
「そうそう。そんなダーリンだから」
「私達もついていくのよ」
 ここでも乙女の仕草をする二人だった。
「問題はあの書が何処にあるかね」
「それが問題だけれど」
「怪しいのは」
 華陀はまた考える顔になった。そのうえで二人に話した。
「あれだな。数え役萬三姉妹か」
「ああ、最近大人気の」
「旅芸人の三人ね」
「確かに素質はあったが」
 華陀も三人のその力は認めていた。
「それでもだ。あの急な売り出しはだ」
「何かある」
「そう見るのね」
「ああ、絶対に何かあるな」
 また言う華陀だった。
「ここはあの三人を探すとしよう」
「問題は何処にいるかね」
「それだけれど」
「飛べるか、今」
 華陀は二人に問うた。
「この国の空を」
「ええ、勿論よ」
「任せて」
 身体をくねらせながら応える二人だった。
「何時でも飛べるわ」
「この大空を」
「そうか、それならだ」
 華陀も二人の言葉を聞きながら話していく。
「空からだ。何処にいるかな」
「調べるのね」
「そうするのね」
「それが一番だからな」
 それでだというのである。
「上から見ると横から見るよりわかりやすい」
「そうそう。何でもそうよ」
「色々な場所から見るといいのよ」
「そうだな。それじゃあな」
「ええ、今すぐね」
「飛びましょう」
 こうしてだった。二人はそれぞれ両脇から華陀を掴んでだ。そのうえでだった。
 空を飛ぶ。そうして上から国を見てだった。すぐに貂蝉が言った。
「あそこにいるわ」
「あの場所か」
「ええ、あそこよ」
 こうだ。華陀に話すのだった。
「あそこにいるわね」
「あそこは確か」
「徐州ね」
 今度は卑弥呼が話す。
「あのお城にいるわね」
「そうね。間違いないわね」
「見えるんだな」
 華陀は何千メートルも下から人を見つけ出せる二人の目について言う。
「凄いものだな」
「私達の目は特別よ」
「そうなのよ」
 目だけではないがこう言うのだった。
「だからね」
「普通に見えるのよ」
「そうなんだな」
「そうよ。じゃあ」
「ダーリン、あそこに行くのね」
「とりあえずあの州に入ろう」
 こう二人に話した。
「話はそれからだ」
「ええ、じゃあね」
「降りるわよ」
 こうしてだった。二人はその場所に降り立った。降り立ってからあらためて話をするのだった。
「皆は後でね」
「ここに呼べばいいわね」
「ああ、それにしてもこれは便利だな」
 薄く細長い銀色のものを出して話す華陀だった。そこには押す場所が多くある。
「これを使って呼べばか」
「そうよ、何処にいてもね」
「あっという間になのよ」
「東映の携帯か」
 それがその宝貝の名前であった。
「そっちの世界にあるものだな」
「そうなのよ」
「東映のね」
「東映というのは人の名前か?」
 華陀はそこまでは知らなかった。
「凄いものを造る仙人もいるな」
「他には腰巻もあるのよ」
「それを着けるとね」
 どうなるか。二人はさらに話すのだった。
「変身できるのよ」
「仮面の戦士にね」
「腰巻を使って変身できるのか」
 それを聞いてだ。華陀は興味深そうな声をあげた。
「それは凄いな」
「そうでしょ。よかったらダーリンも」
「それ使ってみたらどうかしら」
「ううむ、俺はそれよりもだ」
 だが、だった。彼はここでこんなことを話すのだった。
「この前話してくれたあれだな」
「勇者ね」
「それになりたいのね」
「そっちの方が会っている気がするな」
 これが王の言葉だった。
「そう思うがな」
「そうね。ダーリンだったらね」
「最高の勇者になれるわ」
 二人も華陀のその言葉に笑顔で頷く。
「あたしはあれよ。聖戦士やコーチにね」
「あたしは東方何とかとか衝撃とか」
「そういうのが合ってるかしら」
「そうよね」
「何か面白そうだな」
 華陀は二人の言葉をそのまま受け入れていた。
「何にしても自分に合っているものがあるのはいいことだな」
「そうよね、やっぱりね」
「それはね」
 二人もまた言う。
「まあお話はそれ位にして」
「今からこの徐州で」
「捜すか、あの書を」
 三人は徐州でも旅を続ける。しかしだ。
 その三人のところにだ。ある二人が来た。
 見れば呂蒙と周泰である。二人は道を歩きながら話すのだった。
「洛陽に行くのははじめてですけれど」
「あっ、そうなんですか?」
 周泰はおずおずと話す呂蒙に対して問うた。
「呂蒙さんは」
「私。最近まで一士官でしかなかったですし」
 それでだというのである。
「ですから」
「そうだったんですね」
「はい、都どころか揚州の外に出たことも」
「なかったですか」
「そうなんです」
「けれど今からですね」
「はい、何か楽しみです」
 こう話してだった。二人で向かう。そしてこんなことを話すのだった。
「それでなんですけれど」
「何かありますか?」
「洛陽はどうした場所ですか?」
 呂蒙は周泰に尋ねるのだった。
「やっぱりかなり」
「そうですね。凄く繁栄しているのは確かです」
「やっぱりそうなんですね」
「ただ。気をつけて下さいね」
 周泰は真面目な顔になって呂蒙に話してきた。
「悪い人間も多いですから」
「ヤクザ者やすりとか?」
「はい、お世辞にも治安はいいとは言えません」
 まず話したのはこのことだった。
「それは注意して下さい」
「わかりました」
「私も気をつけてますし」
「そうなんですね」
「すりが多いですから」
 それが特にというのである。
「お金とか気をつけて下さい」
「うっ、そういえば私結構そういうことは」
「そうですよね。宮中はもっと危ないですし」
「宦官ですか」
「孫策様も宦官によく思われていませんし」
 この事情も話す周泰だった。
「曹操殿や袁紹殿とそこは同じですから」
「今回も交州の牧になることも」
「かなり渋っていましたし」
 宦官達がだというのだ。とにかく宮中での彼等の力は大きいのだ。
「それで私達があらためて」
「大将軍にお話してですね」
「帝に直接認めて頂きますから」
 その為にだ。二人は洛陽に向かうのだった。
 そしてだ。あらためてこんなことも話された。周泰からだ。
「それは私達だけではないですし」
「そうですね」
 呂蒙は軍師の、彼女の本来の顔になった。目が鋭くなる。
「先にお話に出た曹操殿に袁紹殿も」
「それに袁術殿もですね」
「袁紹殿も幽州牧になられるのに」
「やはり大将軍にお話されていますし」
「何かと厄介な事情が続いてますね」
「そうですよね。宮中の対立は深刻ですね」
「このまま」
 呂蒙の顔にだ。今度は憂いが宿った。
「最悪の事態になることも」
「最悪の事態とは」
「はい、宮中での全面衝突です」
 それだというのだ。
「それが問題です」
「大将軍と宦官達の」
「そうなり宦官達が勝利を収めれば」
 呂蒙の危惧する言葉は続く。
「その場合は私達にとって危険です」
「大将軍の派である私達は」
「彼女達は必ず孫家にも何かをしてきます」
「ううん、それだけは」
「ただ」
 ここでさらに話す呂蒙だった。
「宦官達には武力はありません」
「あるのは」
「帝の寵愛だけです」
 それだけだというのである。
「ですから。武力ではどうにもできません」
「軍は大将軍が持っておられますしね」
「武力が無い権力には限度がありますから」
「ですか」
「それに」
 呂蒙の言葉は続く。
「今の帝は」
「宦官達を寵愛されているその帝ですね」
「御身体が宜しくないそうですね」
「はい、それは私も聞いています」
 諜報を担当する周泰ならばだ。知っていることだった。
「どうやら本当にお命が」
「危ないそうですね」
「じゃあ次の帝は」
「陳留王の様ですね」
 この名前が出て来たのだった。
「どうやら」
「陳留王といいますと」
「非常に利発で聡明な方のようです」
 呂蒙はこのことも頭に入れていた。やはり彼女は軍師であった。
「ですから宦官達にも」
「惑わされることはないですか」
「そう思います」
 これが呂蒙の見たところだ。
「ですが問題はです」
「帝が代わられてもですか」
「宦官達が武力を持てば」
 その場合のことをだ。さらに考えていく呂蒙だった。
「帝から疎んじられてもです」
「力を持ちますか」
「大将軍との政争に勝たれれば余計に危ういです」
 その話を続ける呂蒙だった。
「天下にとって」
「そうですね。今の宦官達は自分達のことしか考えていませんし」
「その欲望を満たすことだけ考えていますね」
「そうなんですよ。とにかく酷いんですよ」
 周泰は眉を顰めさせて話していく。
「今の宦官達は」
「そんなに酷いんですか」
「私腹を肥やすなんてものじゃなくて」
 そうだというのである。
「もうやりたい放題で」
「民を虐げているんですね」
「はい、もう徹底的に」
 そうだというのだ。
「流石に大将軍はそこまで酷い人じゃないですし」
「それでかろうじてその専横が止められていると」
「それが今の都です」
 周泰は話していく。
「本当に大変なんですよ」
「困ったことですね」
「各州の方がずっと平穏だと思います」
「私達の揚州もですね」
「そうですね。孫策様は善政を心掛けておられますし」
 それは間違いなかった。孫策はどちらかというと武の人間だが政治家としても決して劣っている人物ではないのである。しかもだった。
「それに張昭さん達がいますから」
「人材もですね」
「はい、及ばずながら私達も」
 呂蒙の顔が真面目なものになった。
「頑張ってそうして」
「孫策様と民達の為に」
「やっていきましょう」
「是非共」
 こんな話をしながら都に向かう二人だった。だがその話は怪物達に聞かれていた。
「ううん、都ねえ」
「相変わらず大変なのね」
 木の陰から出て来てそれぞれ言うのだった。
「あそこも何とかならないかしら」
「むしろ他の州の方がずっといいからね」
「ええ、この徐州や益州は牧がいないから今一つだけれど」
「それでも他の州はね」
「それも危険だからな」
 二人のところにだ。華陀が出て来て話す。
「中央の力が弱く各州が強いとな」
「そうそう、群雄割拠ね」
「それになるからね」
「この国は中央集権だからな」
 この世界の中国もこれは同じだった。
「中央が地方をまとめる形だからな」
「それで中央が混乱して地方がまとまっていたら」
「まずいのよね」
「このままだと本当に」
「大変なことになるかも」
「兵乱が起こるな」
 華陀も眉を顰めさせていた。
「特に危ないのはだ」
「さっき話してたけれど」
「この徐州や益州よね」
「そこから兵乱が起こる」
「そうね」
「もう一つは中央と地方の対立だな」
 それもあるとだ。華陀は話す。
「中央を掌握した勢力が専横と悪政を極めてだ」
「地方を圧迫してね」
「それでなのね」
「今の牧達は全員宦官達と仲が悪いしな」
 そうした意味で彼等は同じなのだった。
「擁州の董卓は比較的いいようだが」
「軍師の女の子が宦官に必死に働きかけてるからね」
「それでだからね」
「あの眼鏡の少女だな」
 華陀は彼女のことも知っていた。そのうえで二人に話すのだった。
「真面目で友達思いのいい娘だがな」
「それがかえってね」
「問題になったりするから」
「そうだ。裏目に出なければいいが」
 華陀は彼女のことを真剣に憂慮していた。
「それがな」
「そうよね。擁州は都にも近いし」
「董卓ちゃんは曹操ちゃんみたいに果断なところはないし」
 董卓自身も問題だというのだった。
「そこも危ないわね」
「そうよね」
 そんな話をしているとだ。彼等のところにだ。
 まず刀馬と命が来た。そうして彼等に声をかけるのだった。
「呼んだか」
「何かあるのですか?」
「ああ、これからある」
 華陀が真剣な顔で二人に話した。
「これからな」
「では今のうちにか」
「何かをするのですね」
「ええ、そうよ」
「まあ情報収集ね」
 それだとだ。二人が話すのだった。
「ここで怪しい人達がいるかね」
「調べてそれからよ」
「表立っては動かないな」
 獅子王も来ていた。そうして話すのだった。
「そうだな」
「ああ、潜伏という形になる」
 実際にそうだという華陀だった。
「表に出るのはここぞという時だ」
「わかった」
「では。今は」
「とりあえず目立たないようにしてくれ」
 華陀はとにかくこのことは念押しした。
「いいな」
「しかし。この国で起こっていることはだ」
「考えれば考えるだけ不穏なものだな」
 ギースとクラウザーも来た。
「私はそれについては特に思わないがな」
「俺もだ」
 刀馬もそれは同じだった。
「だが。テリー=ボガードとまた会いだ」
「俺は蒼志狼だ」
「倒せればいいのだがな」
「その助けをしてくれるのならそれでいいが」
「ああ、それはおいおいわかるわ」
「少しずつね」
 貂蝉と卑弥呼が彼等に話す。
「だから待って」
「今はね」
「わかっている。今はだ」
「そうさせてもらう」
 二人も彼等のその言葉を受けて頷く。
「とにかく今はな」
「静かに調べるとするか」
「ふん、まあいいだろう」
 ミスタービッグも話す。
「これも何かの縁だ」
「悪いな、何かと助けてもらって」
 華陀はそのミスタービッグに礼の言葉を述べた。
「別の世界から来たのにな」
「乗りかかった舟だ」
 ミスタービッグは華陀にこう答えた。
「それを断る程薄情ではないつもりだ」
「貴方って悪いことをしてるけれど」
「そうした筋はあるのよね」
 貂蝉と卑弥呼もそのミスタービッグに話す。
「そうしたところいいわよ」
「私感じるわ」
「その言葉はいいが」
 ミスタービッグはかろうじて表情を消しながら二人に返した。
「しかしだ」
「しかし?」
「何かあるのかしら」
「私はそちらの趣味はないからな」
 それは断るのだった。
「間違ってもな」
「あら、言うわね。こんな美しい乙女達を捕まえて」
「ショック受けちゃうわ」
 二人はここでも身体をくねらせて話す。
「これでも数多くの美男子達を篭絡してきたのよ」
「もう星の数程ね」
「篭絡か」
 ミスタービッグはその顔を青くさせていた。
「それは絶望ではないんだな」
「絶望?違うわ」
「悩殺よ」
 あくまでこう言う二人だった。
「私達のこの美貌でね」
「そうしてきたのよ」
「まだ言うのか」
 ミスタービッグも言葉がなくなってきた。
「ここまで手強いとはな」
「さて、それではな」
 華陀だけが動じてはいなかった。
「早速動くとしよう」
「そうね、それじゃあ」
「はじめましょう」
 貂蝉と卑弥呼もだった。頷いてだった。
 彼等は早速行動をはじめたのだった。だが華陀を見てだ。命は考える顔で刀馬に話した。
「あの」
「わかっている」
「はい、どうして華陀さんは平気なのでしょうか」
 怪物達を見ての言葉である。
「あの人達を見てそれでも」
「わからない。だが」
「だが?」
「あの華陀という男」
 刀馬は彼を見て話すのだった。
「かなりの器だな」
「大器だというのですね」
「無限に大きな器の男だな」
 まさにそれだというのだ。
「凄い男だ」
「そうですか。あの人は」
「見ていきたい」
 そしてだ。刀馬はまた言った。
「あの男をな」
「そうされるのですね」
「最初は何とも思わなかった」
 刀馬は華陀と最初に会った時のことを思い出しながら話していく。
「だが。共にいるうちに」
「変わられたのですね」
「自分でもわからないが」
「では私は」
 命は微笑んでだ。その刀馬に話すのだった。
「その刀馬様と共に」
「俺とか」
「はい、共にいさせて下さい」
 こう彼に言うのだった。
「それは駄目でしょうか」
「好きにしろ」
 彼は拒まなかった。
「御前がそうしたいのならな」
「はい、それでは」
「だが。俺はあくまでだ」
 その赤い目を強くさせての言葉だった。
「絶対を目指す」
「それを」
「それは零だ」
 この考えは変わらないというのだ。
「それを目指す。絶対をだ」
「あくまでそれをですか」
「それは変わることはない」
 頑なな口調で話す。
「わかったな」
「はい」
 命はここでは目を伏せて頷いた。
「それでも私は」
「あの男は必ず斬る」
 憎悪も見せていた。
「必ずだ」
「刀馬様・・・・・・」
「彼もねえ」
「そうよね」
 貂蝉と卑弥呼は実は刀馬も見ていた。そのうえで話をするのだった。
「筋はいいのにね」
「ねじれてるわね」
「ええ、ねじれてるだけだけれど」
「そこが問題ね」
「けれど」
「そうね」
 ここでだ。二人の話の感じが変わった。
「そこを上手くやるのもね」
「私達の仕事なのよね」
「運命だな」
 華陀は微笑んで述べた。
「こうした巡り合わせもな」
「そうなのよ。それは」
「私達もなのよ」
 二人はまた身体をくねらせて華陀に話す。
「ダーリンと出会えたこと」
「それも運命なのよ」
「そうだな」
 そしてその言葉に頷く華陀だった。
「御前達二人と出会えてよかったと思っている」
「そうよ。運命の神様はね」
「私達を絶対に見捨てないのよ」
「妙なことを言っているな」
 クラウザーはその彼等の話を聞いて述べた。
「あの三人は」
「そうだな。しかしな」
 ここでギースも話す。
「納得できる」
「うむ。思えばだ」
 クラウザーはここでギースを見てだ。こう話すのだった。
「貴様と今こうして共にいるのもだ」
「運命か」
「そういうことになるな。あの三人の話によれば」
「うむ、確かにな」
 ギースもその通りだと頷く。
「貴様とは何時か決着をつけようと考えているが」
「それは私も同じだ」
「だが。それはだ」
「また先にしよう」
 こう二人で言い合うのであった。二人の間にはかつての様な剣呑なものはなかった。憎悪といったものもだ。それも見られなかった。
 そしてその中でだ。彼等はまた話すのであった。
「あの華陀という男」
「かなりの傑物だな」
「それは間違いない」
「大器だ」
 こう話していくのであった。彼等もまた運命の中にあった。
 そしてだ。劉備達はであった。相変わらず遊んでいた。
「凄く楽しいね」
「全くなのだ」
 張飛が劉備の笑顔に同じ笑顔で応える。
「このお菓子とても美味しいのだ」
「ええと、このお菓子は」
「あっ、これはですね」
 三人共同じお菓子を食べている。他の面々もだ。
 白と黄色の中間色の、焦げ目のある魚の形のお菓子をである。それを食べながら孔明が話すのだった。
「鯛焼きです」
「鯛焼き?」
「そういうのだ」
「そうです。中に入っている餡子がいいですよね」
「そうよね。これ凄く美味しい」
「幾らでも食べられるのだ」
「私も鯛焼き大好きです」 
 孔明もにこにことしてその鯛焼きを食べている。尻尾のところからだ。
「特にこの尻尾の辺りが」
「私頭がいいけれど」
 見れば劉備はそちらから食べている。
「けれどどちらにしても」
「美味しいことには変わりないのだ」
「そうだな。こうした菓子もいいな」
 関羽も右手に取って食べながら話す。
「手軽で」
「だよなあ。涼州にはこうしたお菓子なかったからな」
「大秦からのお菓子はあったけれどね」
 馬超と馬岱も食べている。
「あれな。ケーキな」
「あれも美味しいけれどね」
「ケーキなら」
 今度言ったのは鳳統だった。
「私作られます」
「私もです」
 また孔明が出て来た。
「お菓子作るのは得意ですから」
「ですからケーキも」
「あっ、そうなのか」
「だったら今度」
「そうだな」
 馬超と馬岱だけでなく趙雲も言ってきた。
「食べたいものだな、そのケーキを」
「はい、桃家荘に戻ったら」
「作らせてもらいます」
 笑顔で言う二人だった。そしてだった。
 黄忠がだ。その鯛焼きを食べながら彼女も言った。
「鯛焼きの後は」
「うむ、お茶じゃな」
「それ飲みに行きましょう」
 厳顔に応えながらこう皆に話すのだった。
「丁度あそこに茶屋があるし」
「中々よさそうな店じゃ」
 厳顔はその店の立派な看板を見ながら笑顔で話す。
「ではあそこにじゃな」
「それでは劉備殿」
 魏延はこの時も劉備の傍にいる。
「早速あのお店に」
「はい、それじゃあ」
 劉備も笑顔で頷く。そうしてその店に入るのであった。
 そしてそこにはだ。新たな出会いがあった。これもまた運命であった。


第五十五話   完


                          2011・1・13



華陀たちの当面の目標は書か。
美姫 「みたいね。でも、華陀サイドの話になるとやっぱりあの二人が際立つわね」
ここに来て、孫策たちの方も色々と。
美姫 「ややこしい事にならないと良いけれどね」
どうなるのかな。
美姫 「劉備たちの新たな出会いというのも気になるし」
次回も待っています。



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