『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                                 第四十八話  厳顔、主を見つけるのこと

 劉備達はその厳顔に会うことにした。そこでだった。
「そういえばですね」
「そうだな。紫苑がだったな」
「その厳顔と知り合いだったのだ」
 劉備に関羽、張飛が言う。一行は今宿の部屋の中にいる。そこでくつろぎながら話をするのだった。
「それでなんですけれど」
「その厳顔という者」
「どんな奴なんだ?」
「話のわかる人よ」
 まずはこう話す黄忠だった。
「豪放磊落な性格でね」
「ふむ。ということはだ」
 その話を聞いてだ。黄忠はある者のことを思い出した。それは。
「孫策殿のところの黄蓋殿と似た性格か」
「そうね。性格だけじゃなくて喋り方も似てるわ」
 実際にそうだと話す黄忠だった。
「細かいところは違うけれど」
「太守としてだけでなく武人としても立派な方だそうですね」
 孔明がこう言ってきた。一行は今は寝巻きになっている。風呂あがりなのか身体が桃色にほてっている。その姿でベッドに座りながら話している。
「智勇兼備の方だとか」
「へえ、そんなに立派な人なのか」
 馬超もその話を聞いて言う。
「本当に一度会ってみたいな」
「そうね。少なくとも」
 馬岱はその従姉を見ながらくすくすとしている。
「姉様みたいに脳筋の方じゃないみたいだし」
「おい、何だよ脳筋って」
 馬超は従妹のその言葉に顔を顰めて言い返す。
「あたしが筋肉馬鹿っていうのかよ」
「その通りではないのか?」
 趙雲がくすりと笑ってここで言う。
「貴殿はだ。何かと猪突猛進だからな」
「そういうところ鈴々ちゃんとそっくりだし」
 馬岱は趙雲に合わせる。
「まあそれはそれでいいんだけれど」
「悪くないのかよ」
「それでいいのだ?」
「個性だからな」
「それでいいと思うわよ」
 趙雲と馬岱は馬超だけでなく張飛にも話す。
「少なくとも貴殿等が理知的だったりするとだ」
「かえって怖いしね」
「何か馬鹿にされてねえか?」
「そんな気がするのだ」
 突撃派の二人は顔を見合わせて話す。
「だよな。何かな」
「確かに考えることは苦手にしてもなのだ」
「とにかくですね」
 鳳統が話を元に戻してきた。
「明日、その厳顔さんと御会いしましょう」
「そうよね。本当にどんな人かしら」
 劉備は素直に期待していた。
「優しい人だったらいいけれど」
「いえ、とても厳しい人です」
 その劉備に話すのは魏延だった。彼女は黒い寝巻き姿である。
「それはもうかなり」
「えっ、そうなの!?」
「私が喧嘩をすればです」
 魏延は驚く劉備にさらに話す。
「すぐに捕まえてお仕置きです」
「いや、それは普通ではないのか?」
 関羽は魏延の話を聞いて述べた。
「確か厳顔殿は貴殿の師だったな」
「その通りだ」
「ならば弟子が悪さをすれば叱るのは当然ではないのか?」
「私もそう思うわ」
 神楽も関羽の言葉に頷く。
「それはね」
「しかし喧嘩なぞ」
「いえ、喧嘩は流石に」
 月はそのことを指摘する。
「悪いことだと思いますけれど」
「喧嘩は女の華だ」
 魏延の言葉だ。
「それでどうしてお仕置きをされなければならないのだ」
「っていうか喧嘩なんて悪いに決まってるじゃない」
 馬岱は呆れた目で魏延を見て話す。
「そりゃ怒られるわよ」
「何っ、御前に言われたくはない」
「それは私の台詞よ」
 二人は向かい合って言い合いだした。
「私はな。これでもだ」
「何よ、私に文句でもあるの!?」
「最初見た時から思っていたがな」
「そうね、あんた何かむかつくのよ」
 完全に二人での言い合いに移っていた。
「そのいけ好かない態度はだ」
「桃香さんにばかりべたべたして」
「私は劉備殿に忠誠を誓っているのだ」
「あんたのは忠誠じゃないでしょ」
「では何だというのだ」
「自分の胸に聞いてみなさいよ」
 延々と言い争う二人だった。周りはそんな二人を見てだった。
「犬と猿ね」
「そうね」
 神楽がミナの今の言葉に頷く。
「これはどう見ても」
「そのままね」
「蒲公英がこんなに言う相手なんてそういないぜ」
 馬超も呆れながら見ている。
「よっぽど相性が悪いんだな」
「というか仲が悪過ぎるのだ」
 張飛も困った顔をしている。
「どうなっているのだ、この二人」
「まああれだ」
 趙雲だけはそんな二人を見て微笑んでいる。
「喧嘩する程というやつだな」
「それは違う」
「絶対に有り得ませんから」
 二人はその趙雲に顔を向けて即座に否定した。
「そんなことは絶対にだ」
「本当に嫌いですから」
「まあそう言うのならいいがな」
 趙雲はそんな二人の言葉を余裕の顔で受けている。
「さて、それではだ」
「ええ、そうね」
 黄忠が趙雲の今の言葉に頷く。
「寝ましょう。夜も遅いし」
「明日に備えてな」
「お二人はどうしますか?」
 劉備が趙雲に問うた。
「あの、このままじゃ」
「何、心配無用だ」
 実に素っ気無く言う趙雲だった。
「そのことはだ」
「心配いらないんですか」
「そうだ、このまま寝ればいい」
「寝られます?」
「二人は外に出す」
 やはりその言葉は素っ気ない。
「それで終わりだ」
「そうなんですか」
「ではだ」
「そうだな。私がやろう」
 関羽が出てだった。二人を掴んでだった。
 部屋に出して終わりだった。後は扉を閉めた。
「これでよし」
「あの、お二人は」
「どうなるんですか?」
「飽きたら中に入って寝るだろうな」
 関羽は孔明と鳳統に答える。
「それでは。寝よう」
「何はともあれですね」
「明日に備えて」
「そういうことだ。では明日はいよいよ厳顔殿だな」
 こんな話をして休息に入る一行だった。喧嘩をしている二人はそのままだ。
 そして翌朝である。一行は城の中の太守の屋敷に向かった。その途中である。
「全く。昨日はだ」
「あんたのせいでね」
 魏延と馬岱が憮然とした顔で見合って言い合っている。
「寝不足ではないか」
「夜遅くまで言い合ったせいでね」
「御前がそもそもだ」
「何よ、私が悪いっていうの!?」
「そうだ、悪い」
「悪いのはあんたよ」
 こんな調子である。道の中でも言い合う二人だった。
 しかしそんな話をしている中でだった。一行は厳顔の屋敷に来た。その屋敷を見るとだった。
「質素だな」
「そうなのだ」
 関羽と張飛がその屋敷を見て言う。確かにその屋敷は他の太守のものに比べてかなり質素だった。壁も瓦も全てがそうだった。
「厳顔殿は贅沢は好まれないようだな」
「だとしたらいいことなのだ」
「これが普通ではないのか?」
 魏延はそれを聞いて少しきょとんとした顔になって言った。
「太守の屋敷は」
「全然違うぞ、それは」
 馬超が話す。
「あたしの家ずっと立派だったけれどな」
「そうよね。馬家の屋敷って凄かったから」
 それは馬岱も言う。
「涼州の牧だったしね」
「この屋敷は」
 馬超はさらに言う。
「涼州のどの太守の屋敷よりも小さいな」
「だよね。こんな小さな太守の屋敷はじめて見たよ」
「幽州にいた時の私の屋敷と同じ位か」
 趙雲もこんなことを言う。
「これ位だとな」
「桃々ちゃんのところにいた時ね」
「桃香さん、また真名間違えてるわよ」
 黄忠がすぐに突っ込みを入れる。
「それは」
「あっ、すいません」
「ううむ、公孫賛殿はな」
「いつも間違えられて可哀想なのだ」
 関羽と張飛もその公孫賛に同情する。
「まあとにかくだ」
「ここは屋敷の中に入るのだ」
 こう話してだった。一行は厳顔の屋敷に入る。するとだった。
 すぐにだ。紫の波がかったやや長い髪に大人の顔をしている。細く形のいい切れ長の眉は髪と同じ色で目は勝気な漢字の琥珀の色だ。
 脚がかなり露わになっている黒い服は胸が実によく見えている。かなりの巨乳だ。赤紫の帯はリボンの様子になっており髪にはかんざしがある。
 そして左肩に酸と書かれた肩当がある。その彼女が一行を出迎える。一行は屋敷の中の広間で茶を前にして話をするのだった。
 彼女はだ。すぐに魏延を見つけて言うのだった。
「何じゃ、御主暫く見ぬと思っておれば」
「はい、桔梗様」 
 魏延はその女に右膝をつき右手の平に左手を拳にして合わせて応える。
「私は今はこの方と共にいます」
「共にか」
「はい、この方とです」
 こう言って劉備の方を見るのだった。
「劉備様とです」
「劉氏か」
 それを聞いてだ。女の顔がぴくりと動いた。
「では皇族の方は」
「何かそうみたいです」
 劉備はおっとりとした調子で答える。
「名前は劉備玄徳といいます」
「聞いたことがある」
 女はまた言うのだった。
「幽州での烏丸との戦いで功績を挙げたのだったな」
「むっ、そのことを知っているのか」
「そうだったのだ」
 女の言葉に関羽と張飛も眉を動かした。
「遠く益州にいてもか」
「それを知っているのだ」
「話は聞いておる」
 女は二人にも答えた。
「天下のことはおおよそ知っておるつもりだ」
「相変わらずね、そうしたところは」
 その女にだ。黄忠が微笑んで言ってきた。
「桔梗の耳がいいのは」
「ふむ、久しいな紫苑」
 女は黄忠の顔を見ると微笑になった。
「御主もおるか」
「最初から気付いていたのではなくて?」
「そうじゃがな。しかし御主がおると話が早い」
「そうね。昔馴染みがいるとね」
「では名乗ろう」
 ここでだった。女は一同にこう話した。
「わしの名は厳顔という」
「ああ、名前は聞いてるさ」
「ここの太守様ですよね」
「左様」
 馬超と馬岱の言葉にも微笑んで返す。
「とはいってももうすぐ太守を辞するがな」
「それは魏延から聞いていたが」
 趙雲が厳顔のその言葉に応える。
「それは何故だ?」
「うむ、ここのことも気懸かりだが」
「それでもなのか」
「そうじゃ。中原が乱れようとしている」
 厳顔はこのことも知っているのだった。
「それをわしなりに何とかしたいと思ってな。中原に出てじゃ」
「それでなのか」
「そうじゃ。そこでわしに合う主の下で戦おうと思ってじゃ」
「それでしたら」
 劉備がすぐに厳顔に話した。
「孫策さんはどうですか?」
「ふむ。悪くはないのだがな」
 厳顔は孫策の名前を聞くと少し考える顔になって述べた。
「じゃが」
「何かありますか?」
「わしは泳げぬのじゃ」
 そうだというのである。
「孫策殿のところは水軍が主じゃな」
「そうよ」
 その通りだと答えたのは黄忠だった。
「黄蓋殿もおられるし」
「おお、あの御仁もおったな」
 厳顔の顔が明るくなる。
「懐かしいのう」
「黄蓋殿ともお知り合いなのですか」
「ふむ、若い頃何度か会ったことがある」
 関羽に答えながら笑顔で茶を飲む。
「心地よい人物じゃな」
「そういえばこの二人似てるのだ」
「そうだよな」
 張飛と馬超がここで話す。
「喋り方といい」
「酒好きみたいだしな」
「そういえばそうじゃな」
 それは厳顔自身も認めることだった。
「わしと黄蓋殿は似ておるわ」
「そうだな。しかし貴殿は泳げないのか」
「そうなのじゃ」
 厳顔は趙雲の指摘に曇った顔を見せる。
「だからじゃ。わしは孫策殿のところはな」
「そういうことか」
「曹操殿や袁紹殿はじゃ」
 厳顔はその二人の名前を出した。
「会わぬのがわかるからのう」
「二人共個性が強いからね」
 黄忠もそのことはわかっていた。
「多分桔梗の個性にはね」
「合わぬ。だからこの二人もじゃ」
「じゃあ袁術さんのところも」
「もっと合わぬな」
 馬岱に話した。
「絶対にな」
「そうよね。董卓さんもね」
「あそこはどうもよからぬものを感じる」
 董卓についてはそうだというのだった。
「董卓殿達だけでなく他の者達も悪い御仁達ではないようだがな」
「それでもなんですか」
「よからぬものを感じる」
 また言う厳顔だった。劉備にだった。
「不吉なものをじゃ」
「不吉なもの」
「まさか」
 ミナと月が彼女の顔のその言葉に顔を曇らせる。
「この国を覆うそれなのかしら」
「その可能性はありますね」
「とにかくそれでなのですね」
 神楽も厳顔に話す。
「仕えるべき主は」
「どうも見当たらん」
 厳顔は首を傾げさせてもきた。
「中原に向かうと決めたがな」
「そういえばこの益州は牧の人がいませんね」
「そうよね」
 孔明が鳳統の言葉に頷く。
「交州は孫策さんで決まりそうですけれど」
「徐州と益州は。今のところ」
「それも何とかならぬかのう」
 厳顔はこのことにも難しい顔を見せた。
「それでこの州は今一つ落ち着かん」
「厳顔さんは牧にはなられないんですか」
 劉備がふと尋ねた。
「申し出て。それには」
「ははは、わしの性に合わん」
 そのことは一笑に伏す厳顔だった。
「そうした偉い立場にいる人間ではない」
「だからなですか」
「そうじゃ。だからこそここの太守を辞めてじゃ」
「中原になんですか」
「そうする。まあ話はこれで終わりじゃ」
 厳顔はここで話を終わらせた。そうしてだった。あらためて劉備達に話す。
「さて、茶の後はじゃ」
「むっ、何だ」
「何かあるのだ?」
「街に出ぬか?」
 一行をこう誘った。
「ここに閉じ篭って話してばかりというのも面白くなかろう」
「それはそうだな」
「その通りなのだ」
「だからじゃ。街に出て見回ろうぞ」
 こう劉備達に話す。
「それではな」
「わかりました。それじゃあ」
 こうしてだった。劉備達はだった。厳顔と共に街に出る。そこはかなり賑わっていた。
「ほほう、これは」
「いい感じだね」
 趙雲と馬岱が左右に連なる店を見て話す。どの店も活気に満ちており客が盛んに出入りしている。そうしたものを見てだった。
「ものも豊富にある」
「この辺りで一番いい街じゃないかな」
「桔梗様はああ見えてもだ」
 魏延がここで話す。
「いい太守なのだぞ」
「ああ見えてもというのは余計じゃ」
 そこに突っ込みを入れる厳顔だった。
「全く。言うにこと欠いてのう」
「これはすいません」
「まあよいがな。しかしこの街ともすぐにお別れじゃ」
「後任の太守は誰なのだ?」
「とりあえず袁術殿のところから張勲殿が来るそうじゃ」
 趙雲の問いに答える。
「それで後任が来るまで治めるらしいな」
「また癖の強いのが来るな」
 馬超は張勲の名前を聞いてすぐにこう言った。
「あの人もかなりアクが強いからな」
「そうだよね。それなりに能力はあるけれど」
「黒いところもあるが根っからの悪人ではない」
 厳顔は彼女のこともよくわかっていた。
「とりあえずこの街が困ることはない」
「それはそうね」
 それは黄忠もわかっていた。
「それじゃあとりあえずは大丈夫ね」
「うむ。わしが中原に向かった後でもな」
「しかし袁術殿も思い切ったことをしたな」
 関羽は袁術の立場になって考えてみて述べた。
「懐刀の張勲殿を送られるとはな」
「そうですよね。袁術さんにとっては一番頼りになる臣下の人ですけれど」
「その人をなんて」
「まあ一時的なことじゃ」 
 厳顔は孔明と鳳統にも話す。
「それはな。しかし益州の牧となるとじゃ」
「いないんですね」
「これといった人が」
「そうじゃ。そこが問題じゃ」
 またこのことが話される。
「困ったことじゃ」
「誰か本当にいないと」
「益州が大変なことになりますね」
「今のうちはまだいい」
 あくまで今のうちは、なのだった。
「しかしこれがじゃ」
「長引けばですね」
「よくありませんね」
「それを何とかせねばならんがのう」
 深刻な話もしていた。しかしおおむねはこんな感じであった。
「あら太守さんこんにちは」
「今日は寄ってかないの?」
「どうするの?」
「うむ、今日は客人達がおるからのう」
 こう店の者達に返すのだった。
「悪いがまたじゃ」
「そうなの。じゃあまたね」
「また来てね」
「ここにいる間はね」
「そうさせてもらうぞ。さて」
 店の者達に応対しながらだった。劉備達に顔を向けてそのうえでこんなことを言ってきた。
「それでなのじゃが」
「はい。何か」
「この店に入ろうぞ」
 見ればだ。厳顔は前にある店を指し示していた。そこは。
「この店の麺が実に美味くてのう」
「そんなにですか」
「美味くて安くて量も多い」
 厳顔は満面に笑顔をたたえて勧める。
「特に特製大盛ラーメンがよいぞ」
「それ程いいのか」
「何か楽しみになってきたのだ」
「天下一品のラーメンもよいがじゃ」
 こんな名前もさりげなく出る。
「ここの麺もよいぞ」
「ええと、益州というと」
「確か」
 孔明と鳳統はそこから考えて言う。
「辛い味ですよね」
「それが特徴でしたけれど」
「うむ。無論この店も唐辛子と山椒をふんだんに使っておる」
 その二つで辛さを出しているというのである。
「よいぞ。どうじゃ?」
「甘いお菓子はありますか?」
「そちらは」
「無論ある」
 孔明と鳳統に胸を張って答える厳顔であった。
「ここは菓子もよいのじゃ」
「はわわ、それじゃあ」
「是非このお店に」
「むっ、御主達はどうやら」
 厳顔は二人のことばを聞いてそうして言うのだった。
「甘いものが好きか」
「はい、作るのも食べるのも」
「どちらも大好きです」
「それはわしもじゃ」
 厳顔はここで笑顔になっていた。
「甘いものも好きじゃぞ」
「そうよね。桔梗は昔からお酒もいけるけれど」
「甘いものも好きじゃ」
 こう黄忠にも答える。
「しかしそれは紫苑、御主もではないか」
「そうよ。どちらもいけるわ」
「因果なものよ。どちらも好きなのは」
 笑顔で話す厳顔だった。
「まあそれでじゃ」
「そうね。それじゃあ」
「ラーメンを食べに入ろうぞ」
 こうしてであった。彼女達はそのラーメン屋に入った。そうしてだった。
 一行の前に一つずつだ。途方もない大きさのラーメンの丼が出て来たのであった。そこには麺も具もスープも満ち満ちていた。
「ううむ、これは」
「二十玉はあるな」
 関羽にその麺の数を言う趙雲だった。
「そしてチャーシューはだ」
「一キロはないか?」
 関羽はそのチャーシューの量を見て述べた。
「これはかなり」
「葱にモヤシも尋常な量じゃないな」
「ゆで卵がそのまま五つも入っているのだ」
 馬超と張飛もまじまじと見ている。
「これはかなりな」
「食べがいがあるのだ」
「うっ、これだけ食べたら」
 劉備はその圧倒的なラーメンを前に引いている。
「間違いなく太るよね」
「はい、確実に」
「カロリーは相当なものですから」
 孔明と鳳統もそれを予測していた。
「けれど物凄く美味しそうですし」
「お腹も空いてますし」
 誘惑は強かった。それでだった。
「それじゃあやっぱり」
「ここは」
「うん、食べよう」
 馬岱の言葉は明るい。顔もだ。
「張り切ってね」
「御前にこれが食べきれるのか」
 魏延はここでも馬岱につっかかる。
「その小さな身体で」
「甘く見ないでよ」
 馬岱もきっとした顔で言い返す。
「私だってね。この位はね」
「そうか、食べきれるのだな」
「そういうあんたこそどうなのよ」
「こんなものは実に軽い」
 素っ気無く言ってみせる魏延だった。
「まあそこで見ていることだ」
「見なさいよ、私だってね」
 二人はここでもいがみ合う。そうしてであった。
 黄忠と厳顔はだ。笑顔で話をしていた。
「相変わらずラーメンも好きなのね」
「その通りじゃ。御主もそうじゃな」
「ええ、勿論よ」
「さすればじゃ」
「喜んで食べさせてもらうわ」
「そうするとしよう」
 こうした話をしてだ。二人もまた食べようとする。
 そしてであった。神楽達もであった。
「このラーメンは」
「辛い味付けね」
「唐辛子ですね」
 それぞれ話すのだった。
「この味もいいのよね」
「そうなの」
「そんなにですか」
「ええ、そうよ」
 神楽は笑顔でミナと月に話す。
「量はあるけれどそれは大丈夫ね」
「ええ、それはね」
「大丈夫ですから」
「それじゃあね」
 三人も食べることを決意する。そしてであった。
 全員でラーメンを食べる。その味は。
「うっ、確かに」
「美味しいです」
「それもかなり」
 孔明と鳳統が劉備に話す。
「辛いのが食欲をそそって」
「どれだけでも食べられます」
「ううう、美味しいのはいいけれど」
 劉備は箸を勧めながら言う。
「これだけ食べると本当に」
「それは心配ないだろ」
「そうなのだ」
 馬超と張飛が劉備に言う。当然二人も食べている。しかもその勢いはかなりのものだ。
 まるで稲妻の如き速さで食べながらだ。二人は劉備に話す。
「食べた分動けばな」
「それでいいのだ」
「食べた分だけ動く」
 劉備も二人のその言葉に顔を向けた。
「それじゃあ食べた後は」
「というよりか姉者は」
「身体は太らないようだが」
 関羽と趙雲は劉備のある部分を見ていた。そこは。
「ただ。食べた分はだ」
「胸にいっているようだが」
「これですか」
 劉備もその胸を見る。己のその大きな胸をだ。
「ええと、これはですね」
「愛紗も人のことは言えないがな」
「むっ、私もか」
「見事なものだ」
 その通りだった。確かに関羽の胸は大きい。それもかなりだ。
 劉備に負けないだけの見事な自分の胸を見てだ。彼女は言った。
「しかしこれは」
「私も胸では不自由していないがどうすればそこまで大きくなるのだ」
「自然にだ」
 実はあれこれしたことはないのだった。
「こうなったのだが」
「ほう、そうなのか」
「胸は何かすれば大きくなるものなのか」
「さてな。しかし困っている者もいるな」
「ううむ、それは」
「違うか、朱里」
 趙雲はここで楽しげに笑って孔明に話を振った。
「それは」
「どうして私なんですか?」
「だから胸でだ」
 その笑みのまま言う趙雲だった。
「それだが」
「それは関係ありませんっ」
 やや強く断言する孔明だった。
「私はですね。まだ成長期ですから」
「そうなのか」
「そうです。ですから何の問題も」
「その通りです」
 鳳統は孔明の援護に回る。
「私達は。別に」
「そうよね。私もだし」
「鈴々もなのだ」
 馬岱と張飛も援軍に来た。
「まだまだこれからよ」
「こう御期待なのだ」
「何か顔触れが偏っておるのう」
 厳顔はその顔触れを見て首を捻る。
「わしの気のせいか」
「まあそう思っていていいんじゃないかな」
 馬超はさりげなく一方の味方をする。
「別にさ」
「それもそうか。さて、それではじゃ」
「それでは?」
「それではというと」
「あらためて食うとしよう」
 今言うのはラーメンのことだった。
「ではな」
「そうね。それじゃあね」
「気合を入れて食おうぞ」
 こうしてだった。一行はその巨大ラーメンを食べるのであった。そうしてであった。
 一行はラーメンを食べ終え店を出た。劉備は苦しい顔で言う。
「うう、全部食べちゃったよお」
「私もです」
「私も」
 孔明と鳳統もであった。
「結局全部食べちゃいました」
「あれだけ一杯あったのに」
「大丈夫かなあ」
 劉備はここで困った顔になった。
「本当に」
「だから痩せようと思えばだ」
 趙雲がその彼女に話す。
「歩けばいい」
「それだけですか」
「そうだ、歩けばいい」
 こう話すのだった。
「それだけでも身体をかなり使うからな」
「だといいんですけれど」
「実際姉者はだ」
 今度は関羽だった。
「旅をはじめてから腰が引き締まってきているぞ」
「えっ、そうでしょうか」
「しかもだ」
 関羽の指摘は続く。
「臀部の形もよくなり」
「お尻も」
「脚も奇麗になってきたのではないか?」
「何かいいこと尽くめですね」
「旅で歩くとそれだけ身体が引き締まる」
 また言う関羽だった。
「それが出て来ている」
「お姉ちゃん元々奇麗なのだ」
 張飛は劉備のスペックから話す。
「それが余計になのだ」
「旅をすればそれだけ」
「自信を持っていいのだ。お姉ちゃんは凄く奇麗なのだ」
「その通り」
 何故かここで魏延が出て来る。
「劉備殿はまさしく天下一の」
「絶対にこいつはな」
「そうよね」
 馬超と黄忠はそんな魏延を見て囁き合う。
「桃香さんのことな」
「心底からね」
「ですから自信をお持ち下さい」
 とにかく魏延は必死である。
「劉備殿だけお美しければ」
「だといいんですけれど」
「はい、是非です」
「さて、それではじゃ」
 ここで厳顔が足を止めた。
「次は甘味じゃが」
「はい、何処ですか」
「それでそのお店は」
「ここじゃ」
 右手を指差す。するとそこに黄色い看板の店があった。
「ここの菓子は絶品じゃぞ」
「ううん、何かお店の前に来ただけで」
「凄くいい匂いがします」
 とろけそうになっている孔明と鳳統であった。
「ここは期待できますね」
「それもかなり」
「左様。それではな」
「はい、入りましょう」
「今から」
「あのさ」
 馬岱が目をきらきらとさせている二人に問うた。
「二人共いいかな」
「えっ、蒲公英ちゃん」
「一体何が」
「二人共さっきのラーメンの時太ったらどうしようって言ってたじゃない」
 彼女が二人に今尋ねるのはこのことだった。
「そうだよね」
「ええ、そうだけれど」
「それが」
「満腹だとも言ってたよね」
 馬岱はこのことも話した。
「確かに」
「ええ、確かに」
「それは」
「それじゃあさ」
 馬岱はここで首を左に捻ってだ。また二人に尋ねた。
「ここで甘いものは」
「大丈夫、それは」
「平気だから」
 こう言い切る二人だった。
「甘いものは別腹だから」
「それに甘いものでは太らないから」
「別腹?太らない?」
「女の子はそうだから」
「だからいいの」
「そうかなあ」
 馬岱は二人の返答に今度は右に捻った。
「だったらいいけれど」
「そうなの。ですから厳顔さん」
「ここは」
「うむ、入ろうぞ」
 至って平気な顔の厳顔であった。
「油っこいものの後は甘いものじゃ」
「そうですね。ですから」
「お菓子を」
「杏仁豆腐かごま団子か」
 厳顔はまずこの二つを話に出した。
「どれがよいかのう」
「ええと、私は」
 劉備もにこにことして話しはじめる。
「桃饅頭を」
「ふふふ、桃だからじゃな」
 厳顔は劉備の真名からこう言って笑ってみせた。
「面白いことじゃな」
「えっ、面白いですか」
「どうやら劉備殿は面白い方のようじゃ」
 今度はこう言う厳顔だった。
「さて、それではじゃ」
「はい、それでは」
「今度はこの店に入ろうぞ」
 こう話してであった。一行は今度は菓子を楽しむのだった。そんなことをしてこの日は心ゆくまで楽しんだ一行なのであった。
 そしてその日の夜。一行は厳顔の屋敷で休んだ。その時だった。
 ふとだ。神楽が言うのだった。
「あの厳顔さんもまた」
「何か感じられましたか?」
「ええ、若しかしたら」
 こう月に返してからだった。また言う。
「私達と一緒に戦う人なのかも」
「私達とですか」
「そんな雰囲気がするわ」
 これが神楽の見たところだった。
「まさかと思うけれど」
「そうなのですか」
「勿論ね」
 神楽はここで劉備達も見る。今は皆同じ部屋にいて楽しくお茶を飲んでいるのだ。
「皆も」
「私達全員がですか」
「そうよ。一緒にね」
「私は刹那を感じますが」
「私はオロチよ」
「私はアンブロジアを」
 ミナも加わってきた。
「少しずつ強くなってきている」
「それじゃあ今この国は」
「多くの魔が集まってきているわね」
 神楽の顔が曇ってきた。
「間違いなくね」
「そしてこの国にも元々」
「いるわね」
「強力な魔が」
「そしてその魔は」
 どうかとだ。神楽はさらに言う。
「おそらく一つ一つがそれぞれね」
「手を組み合っていますね」
「そうしているわ」
 そうだというのである。
「そうしてそのうえでね」
「この国で恐ろしいことをしている」
「おそらくは混沌」
 神楽は言った。
「それを為そうとしているわ」
「アンブロジアは世界を己の色で塗り潰そうとしている」
「刹那もまた」
「オロチも結局は同じね」
 三人の見立てはここで一致した。
「人をこの世から消し去り」
「そのうえで自分達の望む世界を創る」
「闇の世界を」
「だからこそなのね」
 神楽はここで察した顔になった。
「私達がこの世界に来た理由は」
「それを防ぐ為に」
「それで」
「そうよ。他の皆も」
 草薙やテリー達のことであった。
「だからこそこの世界に」
「そうして皆その魔と戦う」
「それがこの世界での私達の運命」
「間違いないわ」
「それなら」
「私達は」
「命を賭けても」
 三人の顔がそれぞれ強いものになった。
「この世界の為に」
「はい、そうですね」
「戦おう」
「ただ。月、貴女は」
 神楽はここで月を見た。そのうえでの言葉だった。
「命を賭けても捨てては駄目よ」
「捨てては」
「知っているわ。貴女のその封印はね」
 どうかというのであった。
「命を捨てるものね。貴女自身の」
「それは」
「隠す必要はないわ」
 それはさせなかった。何としてもだ。
「わかっているから」
「そうですか」
「だからよ。生きなさい」
 彼女への言葉だった。
「絶対に」
「けれど」
「守矢さんが言っていたわよね」
「兄さんが」
「それを忘れないで」
 語る神楽もだ。優しい顔になっていた。
「命は賭けても。捨てないで」
「決してですね」
「そうよ。決してよ」
 まさにそうだというのである。
「わかったわね」
「けれどそれはどうしたら」
「答えは必ずあるから」
「答えは」
「そう、この世界に」
 こう月に告げる。
「だから。いいわね」
「兄さんが仰っていたのと本当に」
「あの人は心から貴女を心配しているわ」
 神楽にもよくわかることだった。痛いまでに。
「兄として」
「兄さんだから」
「そうよ。だからね」
「では私は」
 神楽の言葉を受けてだ。それでなのだった。
「その考えを受けて」
「そうよ。何があってもね」
「生きるのね」
 こんな話をしていたのだった。彼女達はだ。
 そこにだ。厳顔が来た。それで三人に声をかけてきた。
「面白い話をしておるようじゃな」
「あっ、厳顔さん」
「聞いていたのかしら」
「まさか」
「殆ど聞いておらん」
 こう返す厳顔だった。
「しかも何の話かさっぱりわからん」
「そうだったのですか」
「そうじゃ。何はともあれじゃ」
 月に述べてからだ。三人の前に座りそうして言うのであった。
「御主等も目的があるのだな」
「ええ、そうよ」
 神楽が答えたのだった。
「それはね」
「そして劉備殿と共におるのか」
「縁ね」
 ミナが答えた。
「これはね」
「縁あって劉備殿のところに加わったか」
「不思議なことに劉備さんのところには人が集まるのよ」
 神楽はこんなことも話した。
「私達にしてもそうだったし」
「そうじゃな。あの紫苑にしてもじゃ」
「黄忠さんが」
「一体?」
「あ奴はあれでも難しい奴でな」
 こう黄忠に対して話すのだった。
「今まで誰にも仕えたことはないのじゃ」
「そうだったんですか」
「うむ、それは一度もなかった」
 そうだったというのだ。
「しかしその紫苑がじゃ」
「ああして劉備さんと一緒にいるのは」
「それは」
「はじめて見たことじゃ。あの紫苑がな」
「それじゃあ」
「劉備さんは」
「本当に」
 それをだ。三人も悟ったのだった。そしてであった。
 厳顔はだ。今度は魏延を見た。そのうえでまた言うのであった。
「あの焔耶にしてもじゃ」
「魏延さんね」
「あの人は」
「あそこまで人に懐く者ではないのじゃ」
 今彼女は劉備の横にいる。そこであれやこれやと世話をしているのだった。その彼女を見てだ。厳顔は今それを言うのであった。
「全くな」
「それがああしてですか」
「劉備さんの傍にいるのは」
「あの人も」
「これは面白いのう」
 厳顔は楽しげに微笑んだ。
「ではわしもじゃ」
「厳顔さんもっていうと」
「まさか」
「ご一緒に」
「うむ、行かせてもらう」
 こう言うのであった。
「劉備殿と共にな」
「じゃあまたお一人ですね」
 月もまた微笑んで言う。
「私達と一緒に」66
「そういうことになるのう。さて」
「さて?」
「では飲むか」
 厳顔は三人の前にあるものを出してきた。それは。
「お酒?」
「お酒ですか」
「そうじゃ。飲むか?」
 巨大な徳利を三人の前に出してきたのである。
「益州の酒じゃ」
「益州のお酒というと」
 ミナがそれを聞いて言った。
「あれね。お米のお酒ね」
「左様、美味いぞ」 
 厳顔はにこりと笑って話す。
「しかも強い」
「そんなに強いのね」
「そのお酒って」
「そうじゃ。それでどうするのじゃ?」
 厳顔はまた三人に問うた。
「飲むか?どうする?」
「ええ、それじゃあ」
「喜んで」
 三人も笑顔で頷く。そうしてだった。
 彼女達はその酒を飲む。そこに劉備達も来る。
「あっ、お酒」
「何か美味そうだな」
「うむ、美味ぞ」
 厳顔はその劉備達に対しても話す。
「では皆でな」
「あっ、有り難うございます」
「それでは」
 こうしてだった。彼女達も飲むのだった。そうしてであった。
 厳顔はその一行の中に加わった。それでであった。
「太守様またね」
「縁があったら来てね」
「また会おうね」
「うむ、皆も達者でな」
 厳顔は郡を去る時に領民達に手を振って挨拶をするのだった。
「ではまたな」
「元気でね」
「じゃあね」
 こうしてだった。彼等とも別れる。そしてだった。
 劉備達の中に入る、するとだった。厳顔がここで魏延に声をかけられたのだった。
「あの、桔梗様もですか」
「そうじゃ。まあさしあたっては」
「さしあたっては」
「御主を見ねばのう」
 その魏延を楽しげに見ての言葉だった。
「全く。油断も隙もないからのう」
「あの、私がですか」
「誰でもわかるぞ」
 こう言うのであった。
「劉備殿じゃな」
「そ、それは」
「気持ちはわかるがもう少し目立たないようにせよ」
 そっと囁くのだった。
「よいな」
「目立たないようにですか」
「誰が見てもわかるわ」
 こうも囁くのであった。
「御主のその様子はな」
「そうだったのですか」
「気付いておるのは本人だけだ」
 そうだというのである。
「劉備殿だけじゃ」
「劉備殿御自身は」
「あの方はどうもな」
 その劉備を見ての言葉だった。
「おっとりしておるな」
「それがまたいいのですか」
「緩くないか?多少」
「それがとても」
 とにかく劉備を褒めまくる魏延だった。
「いいのでは」
「御主、べた惚れも過ぎるぞ」
 そうだというのである。
「だから慎め」
「ですから私は」
「だから誰が見てもわかるぞ」
「だからですか」
「そうじゃ。まあ言っても無駄じゃろうな」
 厳顔はそれもわかっているのであった。
「御主の場合は」
「左様ですか」
「本人はわかっておらぬしな」
 またこのことを言う。
「本人だけはな」
「ですからそれがまた」
「だからそれはわかっておる」
 劉備のその話はなのだった。
「わかっておるからじゃ」
「左様ですか」
「言っておくぞ。よいな」
「は、はい」
 そんな話をしておくのだった。そのうえでだ。
 その劉備にだ。行く先を尋ねたのであった。
「南蛮に行くのか」
「はい、そこです」
「ふむ。厄介な場所に行くな」
「厄介なんですか?」
「あそこは漢ではない」
 厳顔は難しい顔で述べた。
「それにじゃ」
「それに?」
「あの国はしかも妙な者達がおる」
「妙な?」
「妙なとは誰なのだ?」
 今度は関羽と張飛が問う。
「あの国は漢とは全く違う風俗習慣なのは聞いているが」
「どういった連中がいるのだ?」
「人間なのは間違いないがじゃ」
 厳顔の顔は曇ってきていた。
「それでもじゃ」
「それでも」
「それでもというと?」
「猫じゃな。それに似ておるか」
 猫だというのだった。
「それがな」
「猫?」
「猫なのだ」
「本人達は虎のつもりかのう。とにかく妙な者達じゃ」
「そういえば北の胡とはまた違うんだったな」
「そうよね。何もかもがよね」
 馬超と馬岱がそれを話す。
「漢に攻めてきたことはないか」
「そうよね」
「自分達だけで生きてるよな」
「だから何もね」
 こう話してだった。そうしてなのだった。
「今からそこにね」
「行くんだよね」
「覚悟しておれよ」
 厳顔は話した。
「悪い者達ではないようだがな」
「ふむ。ではどうしたものか」
 今はだ。趙雲が話した。
「南蛮では」
「行くしかないですよ」
「それでも」
 ここで孔明と鳳統が話す。
「劉備さんの剣を元に戻す為に」
「ですから」
 だからだというのである。
「劉備さんの剣は」
「さもないと」
「まあ南蛮の地理は知っておる」
 厳顔がまた話す。
「それはな」
「では案内してもらえるのね」
「うむ、任せておけ」
 こう黄忠にも話す。
「ではな」
「ええ。それじゃあね」
「しかし。北の幽州から南蛮までか」
「長い旅になっているのだ」
 そうだというのだった。関羽と張飛がこう話す。
「この国の北から南だからな」
「思えば遠くへ来たものなのだ」
「けれど。それだけにね」
「多くのものが手に入ったわ」
 神楽とミナも話す。
「劉備さんも」
「輝きが増してきているし」
「えっ、私ですか!?」
 そう言われてだった。劉備は驚いた顔になった。
「私は。そんな」
「いえ、変わってきていますよ」
 そうだとだ。月も話す。
「最初は朧だった光が。強くなってきています」
「光って」
「劉備さんはこの旅で大きく変わられました」
「そうなんですか」
「御自身では気付かれていませんね」
「そんなことって」
 きょとんとした顔にそのことが如実に出ている。
「ううん、私が別に」
「ではこう言いましょうか」
 突きはにこりと笑って話すのだった。
「私達がこうして劉備さんのところにいますね」
「それがなんですか?」
「はい、それです」
 まさにそれだというのである。
「私達が劉備さんと一緒にいることがです」
「私の光が強くなっている」
「そういうことです」
「ううん、なのかなあ」
 まだそれがよくわかっていない劉備だった。自分はだ。
 しかしその彼女にだ。魏延が来て言うのだった。
「あのですね」
「はい、魏延さん」
「私はです」
 その劉備の顔を見ながらの言葉である。
「劉備殿の為ならば」
「私の為に」
「はい、火の中水の中」
 これが魏延の言葉である。
「例え嵐であろうともです」
「何か凄いですね」
「劉備殿の為ならば何でもしますので」
「有り難うございます、魏延さん」
 劉備はにこりと笑って魏延のその言葉に応える。
「ではこれからも」
「はい、この身を粉にして」
「こら、言ったであろう」
 その魏延を己のところに引き寄せてだ。厳顔は言うのだった。
「あからさまにするなとな」
「それはですが」
「それは?」
「ですから隠れてです」
「隠れておらぬではないか」
 これもまた誰が見てもであった。
「何一つとして」
「そうでしょうか」
「そうじゃ。全く御主は」
「はい、申し訳ないですけれど」
「誰が見てもわかります」
 孔明と鳳統もこう魏延に話す。
「あの、魏延さん」
「積極的なのも程々に」
「しかし私はあくまで」
「それはわかります」
「わかり過ぎます」
 そうだというのである。
「ですから本当にです」
「程々に」
「ううう・・・・・・。何ということだ」
 二人にまで言われ愕然となる魏延だった。しかし何はともあれだった。
 一行は南蛮に向かうのだった。旅はまだ続くのであった。


第四十八話   完


                                    2010・12・9



厳顔も一向に加わったな。
美姫 「未だに領土はないのに臣下は増えているわね」
ある意味、凄い状態だな。
美姫 「南蛮を目指しているけれど」
その地で何が待つのやら。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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