『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                             第三十六話  親父達、新たに加わるのこと

 袁紹は匈奴達を平定し終えはした。しかしであった。
「まだここを去る訳にはいきませんわね」
「はい」
「今度は戦後処理を徹底させましょう」
 田豊と沮授がこう袁紹に話す。彼女達は今天幕の中にいる。
「この度の匈奴の侵攻、どうもおかしなことが多過ぎますし」
「ですから」
「そうですわね」
 袁紹も二人のその言葉に頷く。彼女は今主の座にいる。
「北匈奴もこれまで大人しかったというのに」
「それが急にです」
「しかもあれだけの大軍で」
 田豊と沮授は袁紹にまた話した。
「ですからここはです」
「侵攻が二度と起こらないようにです」
「戦後処理の徹底ですわね」
 袁紹も真剣な顔になっている。
「そうしますわよ」
「はい、それでは」
「今から」
 二人の軍師は主の言葉に頷いてだ。そうしてであった。
「まずは降った者達は我等の民としまして」
「その中の精強な者達は兵としましょう」
「ええ、そしてそのうえで」
 袁紹もここで言った。
「騎兵にするのがいいですわね」
「やはり匈奴の者は精強です」
「是非そうしましょう」
「騎兵の充実はいいことですわ」
 袁紹もこのことは喜んでいた。しかしであった。
「ただ」
「ただ?」
「といいますと」
「民にしてそれで元の民との軋轢は避けたいですわね」
 彼女が懸念しているのはこのことだった。
「それは注意しなければなりませんわね」
「はい、それについてもです」
「既に考えてあるます」
 二人は袁紹にすぐにこう答えた。
「彼等の村を用意してです」
「それも国境からできるだけ離れた場所に置きます」
 その村をだというのだ。
「そしてそこで鍬を持たせて畑を耕させます」
「それでどうでしょうか」
「そうですわね。悪くありませんわね」
 袁紹は二人のそのことばに頷いて答えた。
「ではそうなさい。いいですわね」
「はい、わかりました」
「それでは」
 二人もそれに頷いてだった。この話はこれで終わった。だがそれでも袁紹は動けなかった。戦後処理はこれで終わりではなかったからだ。
 今度は顔良と文醜にだ。問うのであった。
「斥候からの報告は」
「はい、敵軍はもういません」
「反乱を起こした奴は全員降りました」
 こう答える二人だった。
「北の方の部族は何処も落ち着いてますし」
「とりあえずは安心していいみたいですよ」
「今のところは、ですわね」
 袁紹はそれを聞いても楽観していなかった。そうしてだった。
 二人にだ。さらに言うのであった。
「それでその北の部族にですけれど」
「攻めますか?」
「まさか」
「いえ、それはしませんわ」
 攻めることは否定したのだった。
「ただ」
「といいますと」
「何をしますか?」
「誓約を誓わせるべきですわね」
 真剣な顔での言葉だった。
「今後漢の領土に入らないということを」
「そうするんですか?」
「何かそこまでって気もしますけれど」
「そのかわりこちらも匈奴の領内には入りませんわ」
 袁紹はこうも言った。
「決して」
「つまりお互いがですか」
「約束するってことですね」
「その通りですわ。後は南匈奴の勢力圏だった場所を開墾し」
 袁紹は同時にこのことも考えていた。
「我が勢力圏として確固たるものにさせますわよ」
「それは赤珠と青珠にも伝えて」
「そのうえで」
「そうしますわ。そのうえでそこに兵も常駐させ」
 さらに言う袁紹だった。
「この際。長城も修復しておきたいのですけれど」
「麗羽様、それは流石に無理です」
 審配がここで彼女に言ってきた。
「そうするべきなのですが」
「お金が、ですわね」
「長城の修復には多額の費用がかかります」
 こう主に言うのであった。
「ですから。本来はそうすべきでも」
「私の四州だけではやはり」
 袁紹もそれはわかっていた。だからこそ今は苦い顔になっていた。
 そのうえでだ。こう言うのであった。
「無理がありますわね」
「はい、それについては」
「やはり」
 他の臣下の者達もここで彼女に言う。
「民への負担が大きいですし」
「せめて漢が以前の力であれば」
「今は懐柔策が一番ですわね」
 袁紹が出した結論はこれであった。
「南j匈奴の地を漢に入れそしてそこに兵を置くと共に」
「それしかないかと」
「今は」
「硬軟両方で」
「わかりましたわ。ここに砦を築きなさい」
 袁紹はこうも命じた。
「いいですわね。そうして」
「いざという時に備え」
「我々は」
「また戻りますわ」
 臣下の者達に答えた。
「冀州に」
「わかりました」
「では砦を築いてから」
「幾つか築いて」
 このことは忘れなかった。しかも一つではなかった。
「それを備えとしましてよ。幸い高句麗との関係は良好ですし兵は匈奴に向けるだけでいいですし」
「そういえばよ、姫さん」
「いいでしょうか」
 ここでドンファンとジェイフンが袁紹に言ってきた。
「その高句麗だけれどな」
「僕達の祖国でもありまして」
「あっ、そうね」
「そういえばそうだったわね」
 張?と高覧がこのことを思い出して言った。
「貴方達の国はね」
「その時代は名前は変わってるらしいけれど」
「ああ、そうだよ」
「それである程度はわかっているつもりなんですが」
「とりあえず今は関係は良好だけれど」
「それでも」
 張?と高覧はあることを思い出したように話していく。
「私達あの国のことは知らないから」
「西方とかならともかく」
「まああれだよ。何もして来ないと別に軍を動かさないからな」
「このままの関係を維持していればいいですよ」
 二人の高句麗への言葉はこうしたものだった。
「だから高句麗の方はな」
「気にしなくていいです」
「わかりましたわ。ではこのままで」 
 このことを再確認して述べた袁紹だった。
「いきますわ」
「ああ、そうしてくれ」
「負担が減りますしね」
「それはそうとです」
 今度は麹義が彼女に言ってきた。
「その高句麗と接している幽州ですが」
「そういえば劉備殿達がいて」
「あの人達が」
 蔡文姫と甄姫が言った。
「中々いい政をしておられますが」
「あの方々はどうされますか?」
「別にどうもしませんわ」
 袁紹の劉備達への言葉はここでは素っ気無いものであった。
「劉備さん達があの場所にいるならそれで構いませんわ」
「いいんですか、それで」
「別に」
「そうですわ。構いませんわ」
 また言う袁紹だった。
「幽州の牧になるのは私ですし。あの方々は言うならば豪族に過ぎませんし」
「半ば治外法権でも与えて協力してもらう」
「そういうことですわね」
「そうしますわ。むしろ」
 袁紹はここでこんなことも言った。
「今は牧のいない徐州か益州の牧に推挙したい位ですわね」
「あっ、それはいいですね」
「確かに」
 蔡文姫と甄姫は袁紹のその提案に賛成した。
「劉備殿の出世になり恩を売れますし」
「あの方々を体よく幽州から出せますし」
「それならですね」
「いいですね」
「まあその時でいいですわ」
 袁紹はこのことは特に急いでいなかった。無論この時点で誰もその幽州に牧がいるとは考えていない。そんなことは想像だにしていない。
 そしてだ。袁紹はここで話を変えてきた。
「それよりもです」
「はい」
「私達ですか」
「貴女達にもここに来てもらったのはです」
 このことも話すのであった。
「おわかりですわね。この地をです」
「治める」
「そのことですね」
「政は貴女達と水華、それに恋花」
 二人の軍師も見る。
「それに陳花に任せますわ」
「お任せを」
 その黒い猫耳の少女も応えたのだった。
「北の三州と西方の連携にもなる場所です。しかと治めなさい」
「わかりました」
「それでは」
 言われた者達はそれに頷いたのだった。これでこの話も終わった。
 だが話はまだ続きだ。袁紹はまた話すのだった。
「それなのですけれど」
「はい、今度は」
「何のことですか?」
 顔良と文醜が袁紹に問うた。
「何かありますか?まだ」
「もうないんじゃないんですか?」
「匈奴のところにしてよ」
 袁紹は顔を曇らせながらその二人に語るのだった。
「何か一人の老人がいたそうですわね」
「あっ、何か聞いてます」
「そうした報告はありますね」
「明らかに匈奴の服ではない」
 袁紹が言うのはこのことだった。
「そうした輩が」
「一体何者なのでしょうか」
「まあまた別の世界から来た奴でしょうね」
「老人?」
 その言葉に反応したのは沙耶だった。そして言うのであった。
「というと」
「あれっ、沙耶さん」
「何か知ってるのか?」
「まさかと思うけれど朧かしら」
 こう言うのだった。
「死んだ筈だからそれはないと思うけれど」
「朧!?」
「朧っていうと」
「誰なの、それは」
 袁紹の家臣達が沙耶に口々に問う。
「何か不吉な名前だけれど」
「そうよね、何か」
「この世にいてはならないような」
「一体何者なの?それって」
「かつて私達が戦った者達のうちの一人」
 沙耶はこう彼女達の言葉に答える。
「その中でも最も嫌な奴だったわ」
「嫌な」
「そういう奴なのね」
「そう、二度と会いたくないわ」
「そうね」
 それに凛花も頷く。
「あんな奴には二度と会いたくないわ」
「けれど死んだ筈だから」
 沙耶の今の言葉は半ば自分に言い聞かせているものだった。それを無意識のうちにしてしまっていたのだ。そうなってしまっていた。
「だから。いる筈がないわ」
「そうですのね」
 袁紹は彼女の言葉を眉を顰めさせながら聞いていた。そうしてそこから言うのだった。
「その朧という者は確かに死んでいますのね」
「ええ、ただ後の二人は生きているけれど」
「後の二人とは?」
「九鬼刀馬と命」
 この二人だというのである。
「この二人は朧程問題ではないから」
「この世界に来ていても安心していいと思う」
 沙耶だけでなく凛花もそうだと話す。
「刀馬は多分に危険なところもあるけれど」
「それでもね」
「何かそっちの世界って」
「そうだよな。話聞いてたらな」
 顔良と文醜が二人の言葉をここまで聞いたうえで話した。
「物凄くとんでもない存在が大勢いるわよね」
「それもどんな時代でもな」
「それは否定できないな」
 グリフォンマスクもそのことを認めた。
「実際に私も多くの敵を倒してきているしな」
「一番やばかったのはオロチか?」
「そうだな」
 クラークはラルフの言葉に頷いた。
「あの連中がここに来てたらな」
「洒落にならないな」
「オロチ?蛇ですわね」
 袁紹はそのオロチという名称からすぐにこう連想した。
「それが何か」
「もうな。桁外れの力持った奴等ばかりでな」
「俺達人間を滅ぼそうとしてるんだよ」
 二人はこのことを袁紹達に話した。
「まあその連中も滅んだ筈だからな」
「安心していいと思う」
「それを聞いて安心しろと言われましても」
 袁紹の顔は曇ったままだった。
「貴方達が来ているのにそうした者達が来ていないという保障は一切ないのではなくて?」
「だから死んでますから」
 ウィップがそうだと話す。
「滅んでますよ、オロチは」
「だといいのですけれど」
「まあ蘇ったりとかするかもな」
「よくある話だしな」
 ジャックとミッキーがこんなことを話す。
「俺達の世界じゃそういうの結構多いしな」
「死んだと思ってたら生きてたりとかな」
「ってそれ洒落になってないしさ」
「そうですよ」
 文醜と顔良は彼等のその言葉にすぐに突っ込みを入れた。
「何か本当にそっちの世界やば過ぎだろ」
「私達の世界以上に」
「まあそれでも結構楽しい世界ですよ」
 楓がこう話す。微笑んでもいる。
「僕達も生きることを楽しんでますし」
「だといいけれど」
「それにしても無茶苦茶な面子が揃ってるし」
「悪い意味で」
「さて、お話はこれまでですわ」
 袁紹がここで話を切ってきた。
「では皆さん」
「はい」
「もう終わりですね」
「夜も遅いですしそれぞれの天幕にお下がりなさい」
 そうしろというのだった。
「いいですわね。そして休みなさい」
「わかりました。それじゃあ」
「お言葉に甘えまして」
 皆袁紹のその言葉に頷く。そうしてであった。
 それぞれの天幕に戻り休息に入った。袁紹も自身の天幕の中で休息に入った。この夜はそれで終わったのであった。
 その草原にだ。今三人の男達がいた。
「タクマ殿、ここは何処だ」
「ううむ、わしにもわからん」
「私にもだ」
 見れば三人共中年であった。一人は白い道着に黒い髪を後ろに撫で付けている。逞しい顔をしている。
 一人は黒い着物に灰色の袴だ。そして着物の背には日輪がある。髭の顔に黒い髪をしている。
 最後の一人はグレーの軍服にベレー帽の隻眼の男だ。右目には眼帯をしている。この三人の男達がだ。草原の中であれこれと周囲を見回しているのだ。
 ここでだ。道着の男が着物の男に問うた。
「それで柴舟殿」
「うむ」
「我等はそもそもどの国にいるのだ」
 まずはこのことから話をしていた。
「それがわからないのだが」
「わしもだ」
 柴舟と呼ばれたこの男もこう返す。
「一体何処だ、ここは」
「見たところだ」
 眼帯の男が言う。
「ここは」
「ハイデルン殿、わかるというのか」
「そうなのか」
「おそらく中国だ」
 ハイデルンと呼ばれた男はこう二人に答えた。
「この国はだ」
「中国なのか」
「そういえばここは」
 二人はハイデルンのその言葉を受けて周囲に顔を向けた。そうしてだ。
 草原を見てだ。そして言うのだった。
「モンゴルなのか」
「そうだな。外モンゴル辺りか」
 そこではというのだった。
「先にあれが見えるな」
「壁、つまり長城だな」
「あれが見える。それに」
 ハイデルンはここで懐から磁石を取り出した。そうしてそれで方角を確かめてだ。それからまた二人に対して言うのだった。
「北が向こうだからだ。長城は南にある」
「ではここは中国の北だな」
「そうなるか」
「そうだ、中国の北だ」
 そこだというのだった。
「今我々がいるのはな」
「ううむ、それはわかったが」
「それでもな」
 二人は腕を組んで考える顔になって話す。
「何かが違うな」
「そうだな、中国にしては何かがだ」
「まず空気がいい」
 ハイデルンはこのことを指摘した。
「それもかなりな」
「確かにな。空気がいいな」
「日本よりもずっといい」
「ここまで奇麗な空気は有り得ない」
 ハイデルンはさらに話した。
「我々の時代の中国ではないな」
「そういえばあの長城は」
「うむ、違うな」
 二人は長城を見て話した。遥か南にあるがそれでもだ。二人の目には見えているのだ。
「あの城の如きものではない」
「ただの壁だ」
「あの長城は二千年程前のものか」
 ハイデルンは左目でその長城を見ていた。
「始皇帝の頃、いやそれよりも後か」
「むっ、では我々は」
「タイムスリップしたのか」
「そうだな。おそらくはな」
 ハイデルンも話す。
「しかし。只過去に来ただけではないかもな」
「むう、まだ何かあるのか」
「そうなのか」
「これは私の勘だが」
 こう前置きしてからの言葉だった。
「何か違うな、私達の世界と」
「そう言われると雰囲気がな」
「そうだな、何かが違うな」
「何処か花の香りがする」
「どういう世界なのだ」
「それを確かめる必要があるな」
 ハイデルンはここでも二人に話す。
「これからな」
「そうだな。それではだ」
「そうするとするか」 
 こう話してだった。三人は草原を歩くのだった。そうしてだった。
 彼等の前にだ。二十騎程の兵達が来た。黄色い鎧を着ている。 
 彼等を見てだ。すぐに道着の男が声をかけた。
「そこの者達・・・・・・むっ?」
「そうだな、あの服は」
 ここで髭の男も気付いた。
「明らかに我等の時代のものではない」
「あれは中国漢代の服だな」
「如何にもそうだが」
 兵達の方からも言葉が返って来た。
「我等は漢の兵だ」
「袁紹様の下にいる」
「袁紹だと。その名前の形式は」
 ハイデルンはその名前を聞いてだった。すぐに言ったのだった。
「やはり中国の昔の名前だな」
「中国?」
「何処だその国は」
 兵達はハイデルンのその言葉にいぶかしむ顔になった。
「いや、ジャック殿も最初にそう言っていたな」
「そうだな、ラルフ殿もな」
「そうだったな」
 ここで兵達はこうした名前を出した。
「この国を最初は中国と言っておられたな」
「あの人達の世界ではその呼び名らしいが」
「ではこの者達も」
「待て、ジャックといったな」
 道着の男が言うのはそこだった。
「今確かに」
「言ったが」
「それが何か」
「ジャック=ターナーというな」
 男はジャックの正式な名前を話した。
「その者の名前は」
「その通りだが」
「それは」
「ううむ。ではだ」
「我等だけではないか」
「それにだ」
 今度はハイデルンだった。
「ラルフとも言ったが」
「そうだ。クラーク殿もおられる」
「レオナ殿とウィップ殿もおられるが」
「まさか御主はあの方々と知り合いなのか」
「どの者も私の部下だ」
 ハイデルンはそうだと返した。
「そうなのだが」
「そうだったのか」
「では。やはり」
「そうだな。貴殿等も」
「あちらの世界からか」
 兵士達はこのことを察していった。
「来たというのだな」
「そうだな」
「話がわかってきたな」
 髭の男がここで言った。
「どうやらこちらの世界にはわし等の世界の人間が大勢来ているらしい」
「そうだな。この世界がどういった世界かまだ完全にわからないが」
「それは間違いないな」
「うむ」
 髭の言葉は頷いた。そうしてだった。
 三人はだ。それぞれ兵士達に名乗った。まずは道着の男だ。
「わしの名はだ」
「うむ、何というのだ」
「それで」
「タクマだ」
 まずは名からだった。
「タクマ=サカザキだ」
「それが貴殿の名前か」
「わかったぞ」
「うむ、宜しくな」
「そしてだが」
 今度は髭の男が話す。
「わしの名前だが」
「貴殿は何というのだ」
「それで」
「柴舟」
 自分でもこの名前を出した。
「草薙柴舟だ」
「その名前は日本人のものか」
「そうだな」
 その柴舟の話を聞いてこう話す兵達だった。
「天道殿と同じか」
「凱殿とな」
「むっ、確かその男は」
 柴舟がここでその名前を思い出した。
「あれだな。最近売り出し中の若い格闘家か」
「本人はそう言っておられるが」
「知っているのか」
「名前は聞いている」
 そうだと返す柴舟だった。
「一応はな」
「そうなのか」
「それでなのか」
「そうだ、名前は聞いている」
 柴舟はまた兵達に話した。
「会ったことはないがな」
「ううむ、ではやはりか」
「貴殿もまたあの世界から来たのか」
「そうなのだな」
「そういうことになるようじゃな」
 柴舟は自分の顎に自分の左手を当てていぶかしむ顔になっていた。
「これはのう」
「我々もそれはわからないが」
「そうだな、そうなるな」
「確かにな」
「そしてだ」
 最後はだ。ハイデルンだった。
「私だが」
「そのラルフ殿の知り合いのか」
「それで貴殿は」
「見たところ我々の同業者だが」
「そうだな。こちらの世界では軍人という」
 ハイデルンは己の職業を話した。
「傭兵をやっている」
「ラルフ殿達もそう言っていたな」
「そうだったな」
 兵達は傭兵という言葉にも反応を見せた。
「では貴殿はやはりラルフ殿達とか」
「顔見知りなのか」
「如何にも。そしてだ」
 ハイデルンの言葉は続く。
「私の名前はハイデルンという」
「ハイデルン殿、貴殿がか」
「ラルフ殿から話は聞いています」
 兵たちの言葉が急に変わった。丁寧なものになった。
「あの方々の上官だと」
「傭兵達の司令官という立場だと」
「如何にも。その通りだ」
 ハイデルンは兵達のその言葉に頷いてみせた。
「それが私だ」
「お名前は聞いていました」
「その技も」
「それもか」
 ハイデルンはそれを聞いてだ。また話すのだった。
「では話が早いな」
「それでよければなのですが」
「これから我等と共に来て頂けますか」
 兵達は三人に対してさrない述べてきた。
「袁紹様のところに」
「来られますか」
「そうだな。それではだ」
 タクマが最初に言った。
「その袁紹殿のところにな」
「うむ、参るとしよう」
 柴舟も話す。
「この世界のことを詳しく知りたいしな」
「それではだな」
「同行させてもらおう」
 最後にハイデルンが言ってだった。三人は兵達に案内されようとしていた。しかしここで、だった。周りに急に何かが出て来た。
「むっ!?」
「何者だ!?」
 まず兵達が声をあげた。
「匈奴か?」
「いや、違う」
「あれは」
 見るとであった。白装束の怪しい一団だった。彼等が出て来たのである。
 兵達は彼等の姿を見てだ。いぶかしむ顔になって話す。
「匈奴ではないな」
「明らかにな」
「そうだな、馬に乗っていない」
 見れば馬に乗っている者はいない。一人もだ。そしてだった。
「数はだ。百か」
「多いな」
「どうする?」
「ここは一時撤退するか?」
「そうだな。この者達」
 兵達は本能的にだ。その白装束の者達が敵だと判断した。その怪しい雰囲気からだ。そう察したのである。
「明らかに何かが違う」
「敵だ」
「間違いない」
「何者かはわからないにしてもだ」
「それではだ」
 ここでまた話す彼等だった。
「敵の数も多い」
「ではやはり」
「ここは」
「いや、待て」
 だがここでだった。ハイデルンが言うのだった。
「それには及ばない」
「というと」
「まさか」
「そうだ、我等が相手をする」
 そうだというのだった。
「百人だな」
「そうですが」
「数は我等の五倍です」
「とても相手には」
「いや、できる」
 ハイデルンは落ち着いた声で兵達に話す。
「安心していい」
「ではここは」
「貴方達もですか」
「戦われるのですね」
「そうだ、戦う」
 ハイデルンははっきりと言い切った。
「私達もそうさせてくれ」
「しかし」
「それは」
「何、構うことはない」
 ハイデルンだけではなかった。タクマも言うのだった。
「わし等は格闘家だ。だからだ」
「本当にいいのですか?」
「貴方達の手をわずらわせる訳にはいきません」
「やはりここは」
「いや、退くのはよくないな」
 柴舟も話した。
「それはだ」
「何故ですか」
「敵の数は多いですが」
「いや、それでもだ」
 柴舟はあくまで放す。
「ここはよくない」
「ですが。本当に数がです」
「数が多過ぎますし」
「ですから」
「この者達尋常な者達ではないぞ」
 柴舟は剣呑な目で白装束の者達を見ていた。
「そう、妖かしに近い」
「人ではあるようだが」
 ハイデルンもその彼等を見ていた。
「だがそれでもだ。住んでいる世界が我等ともまた違う」
「では一体何者ですか?」
「この者達は」
「それはまだわからない」
 ハイデルンもこのことには答えられなかった。
「だが、だ」
「だがですか」
「それでは」
「一切不明だ」
 こう言えるだけだった。
「しかし。あの者達が逃がさないことは確かだ」
 それはだというのだった。そうしてだった。
 身構える。他の二人もだ。
「この者達を倒さなければな」
「わし等がやられる」
「ならば容赦はしない」
 こう言ってであった。戦いをはじめようとする。兵達もその彼等を見てだった。
「それでは我等も」
「共に戦いましょう」
「ここは」
「そうだ、それがいい」
 タクマはその彼等の言葉を受けてにやりと笑ってみせた。そうしてだった。
「ここは戦わなければ生きてはいけんぞ」
「そうですね、やはり」
「ここは」
 兵達はそれぞれ槍を握った。そうしてであった。
 ハイデルンが彼等に言った。
「貴殿等はだ」
「はい」
「何でしょうか」
「陣を組んでそのうえで動き弓を放つのだ」
 槍ではなく弓だというのである。
「いいな、弓だ」
「弓ですか」
「それをですか」
「そうだ、弓だ」
 また彼等に告げた。
「騎射はできるな」
「はい、それについては」
「お任せ下さい」
 自信のある言葉が返って来た。
「我等生まれた頃より馬に乗っております」
「そして弓にも慣れております」
「その言葉信じさせてもらう」
「そして貴方達は」
「どうされますか」
「知れたこと。暴れさせてもらう」
 柴舟が楽しげに笑って話した。
「こういうことは親父狩り狩りで慣れておるわ」
「親父狩り狩り?」 
 兵達はその聞き慣れない言葉にいぶかしんだ。
「何でしょうか、それは」
「一体」
「要するにあれじゃ」
 柴舟がその彼等に説明する。
「年長者を襲って金を巻き上げる不届きなガキ共がおってのう」
「そういう奴は何処にでもいますね」
「全く」
 兵達はそうした者達を嫌っているようだった。
「そうした連中は容赦なく成敗するべきです」
「袁紹様もそう言っておられます」
「そしてわしはじゃ」
「そうした不届き者達を成敗している」
「そういうことですね」
「そうじゃ。糞ガキ共を日々叩きのめしておる」
 随分と物騒な話である。
「だからじゃ。こうした大人数相手にはじゃ」
「慣れている」
「そうなのですね」
「わしもじゃ」
 それはタクマもだった。
「ヤクザ者の事務所によく単身突入したものだった」
「ならず者の溜まり場にですか」
「そこに御一人で」
「それも修行のうちじゃ」
 これまた随分物騒な修行であった。
「だからこうした状況も慣れておるわ」
「無論私もだ」
 ハイデルンも同じだった。
「この程度のことではだ。どうということはない」
「何か凄い人達だな」
「そうだな」
「頼もしいというか何というか」
「怖くもあるがな」
「ははは、それではじゃ」
 柴舟が笑いながら話す。
「戦うとしようぞ」
「うむ、それではな」
「今からな」
 こうしてだった。彼等はその謎の一団と戦うのだった。まずはだ。
 タクマがだ。彼等の前にさっと来てだ。そうしてだった。
「虎煌拳!!」
 手から気を放ってだ。それで白装束の一人を吹き飛ばした。
 そのうえでだ。両手を前に出し。
「覇王至高拳!!」
「ぐふっ!」
「うわっ!」
 今度は数人単位でだ。敵を倒す。そのうえで言うのだった。
「さあ、これからぞ!」
「そうじゃ、わしもいるのだぞ!」
 柴舟はだ。足元に炎を繰り出したのだった。
「どうじゃ!闇払いじゃ!」
 その炎で白装束の者達を焼くのだった。彼は続いてだった。
 敵の中に飛び込み。そのうえで拳に炎を帯びさせて闘っていく。
「ボディがら空きじゃ!」
 こう言いながらだった。そしてハイデルンもだった。彼は。
 鎌ィ足を出しそれで倒していく。しかも。 
 接近して手刀を突き刺しだ。言うのだった。
「ストームブリンガー!」
「な、何!?」
「まさか体力を吸い取ってる!」
「間違いない!」
 兵達はそれを見て驚きの声をあげる。
「人間なのか!?」
「いや、そうらしいが」
「ううむ、何という人達だ」
 彼等も戦っている。しかし三人の戦闘力は桁外れだった。
「これは俺達出る幕ないかもな」
「そこまでだよな」
「これはな」
 実際に三人だけで充分だった。その三人の活躍で戦いは終わった。百人程いた白装束の者達は瞬く間に倒されだ。そうしてだった。
「ふむ、終わったな」
「そうだな」
「これでな」
 三人がそれぞれ話す。
「ではだ」
「よいか?」
 タクマと柴舟が兵達に声をかける。
「その袁紹という御仁にだ」
「会わせてもらえるか」
「あっ、袁紹様はですね」
「女の方です」
 兵達はこのことを話した。
「ですから御仁と言うと失礼にあたりますので」
「このことは覚えておいて下さい」
「ふむ。そうなのか」
 ハイデルンはそれを利いて言った。
「どうやらそこはかつての中国と違うな」
「よくそう言われます」
「あっちの世界の人達に」
 こんな話をしてだった。彼等はその袁紹のところに来た。すると袁紹はちょうど四人程の者達と会って話をしているところであった。
「テムジンだす」
「ホア=ジャイだ」
「双葉ほたるです」
「マルコ=ロドリゲス!」
 太った辮髪の小柄な男に髪を剃った痩せた男、青い髪をくくった服の可憐な少女、赤い肌に濃い髪と髭の道着の男、この四人だった。袁紹は彼等と会っていたのだ。
「では貴方達は私の軍に加わるのですね」
「そうだす」
 テムジンはその通りだと話す。
「匈奴の人達が降るのならわす達もだす」
「その通り!」
 マルコが大声で話す。
「宜しく頼む!」
「え、ええ」
 袁紹はその大声にいささか引いた。左右の田豊や顔良達もだ。
「わかりましたわ」
「かたじけない!」
「最初草原にいて何かと思ったがな」
「はい、確かに」
 ホアとほたるが話す。
「匈奴の旦那達にはよくしてもらったよ」
「いい人達ですよ」
「そういえば降れば」
「奴等大人しいですよ」
 顔良と文醜も袁紹に話す。
「どうして侵攻して来たのかわからない程に」
「その朧って奴のせいですかね」
「んっ?そういえば何か爺さんがいたらしいな」
 ホアが朧という名前に反応を見せた。
「俺達はいつも前線だったからわからなかったがな」
「そうだすな。いたらしいだすな」
 テムジンも話す。
「そうらしいだすな」
「貴方達は見ていませんのね」
「何十万もいたからな」
 マルコが袁紹に答える。
「ただ。部族の長達が誰かと会っていたらしいな」
「そうですのね」
 袁紹はここで顔を顰めさせた。
「その部族の長達の話、一度聞いてみるべきですわね」
「いえ、それがなのですか」
「既に話は聞きましたが」
 田豊と沮授が主に話してきた。
「彼等の誰もそのことは覚えていません」
「それどころか現実に戻った様でした」
 そうだったというのである。
「不思議なことにです」
「ですからそのことは」
「妙な話が続きますわね」
 袁紹は二人の言葉にまた顔を顰めさせた。
「全く」
「はい、私達もそう思います」
「これはどういうことでしょうか」
「麗羽様」
 ここで、だった。蔡文姫が袁紹達がいるその天幕の中に入って話をしてきた。
「また別の世界からです」
「そうですの」
 もう慣れている袁紹だった。
「それではその者達もここに」
「わかりました」
 こうして三人も来たのだった。すぐにタクマとマルコが話しハイデルンはラルフ達と話した。そうしてそのうえでだった。三人は袁紹に白装束の者達のことを話した。
 それを聞いてだ。袁紹は言った。
「またですのね」
「またなのか」
「前に一度戦いましたわ」
 顔を顰めさせたうえでタクマに話す。
「その者達とは」
「その者達がここでまた出て来たというのだな」
「そうなりますわね」
 柴舟にも答える。
「怪しいことこのうえありませんわね」
「ふむ。どうやらこの世界も」
 ハイデルンも話す。
「怪しい存在が蠢いているな」
「そうですわね。そうでなくとも宦官共が宮中に蔓延っていますけれど」
 袁紹は宦官には嫌悪感を見せていた。
「私も華琳もあの者達には手を焼いていますし」
「それでなのだが」
「よいかのう」
「我々も」
 三人はここで袁紹に話すのだった。
「戦わせてもらえるか」
「貴殿の幕下に加わってだ」
「そのうえでだが」
「ええ、宜しくてよ」
 即答する袁紹だった。
「それでは。今より貴方達もまた」
 こうしてだった。彼等も袁紹の下に加わった。そしてそれは大きな一つの戦いへと向かう、運命の導きに従ったことでもあったのだ。


第三十六話   完


                     2010・10・9



親父たちが大活躍。
美姫 「白装束が出てきたりしたけれど、一蹴してたわね」
袁紹軍の元に強力な三人が参加か。
美姫 「中々面白い事になりそうよね」
だよな。次回はどの陣営の話になるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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