『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                          第百三十七話  邪神、封じられるのこと

 戦いの中でだ。幻十郎はその刃を下から上に大きく一閃させた。
 そしてそこから巨大な花札を出してだ。それでだ。
 白装束の者達を撃ちだ。そして言うのだった。
「今更相手にならんわ!」
「ふん、また腕をあげた様だな」
「気にいらない奴はこうして殺す」
 共に戦う覇王丸にもだ。幻十郎は返す。
 そしてだ。彼に顔を向けてそのうえでだった。
「無論貴様もだ」
「それなら元の世界に戻ればだな」
「まずは貴様を殺す」
 他ならぬだ。覇王丸をだというのだ。
「このことは言っておく。しかしだ」
「ああ、その前にだな」
「あいつを倒すのだな」
 幻十郎は孤月斬でだ。敵を斬った覇王丸に問うた。
「あの神とやらを」
「そうするさ。絶対にな」
「では行くがいい」
 幻十郎はまた敵を斬りつつ言う。
「俺はここで雑魚連中の相手をする」
「何だ?一緒に来ないのか?」
「あの神の相手は御前だ」
 他ならぬだ。覇王丸だというのだ。
「俺には宝珠がないからな」
「四如来の宝珠がか」
「そうだ。それがないからだ」
 それがあるのは覇王丸だ。そして他の三人だ。
 しかし確か幻十郎にはそれがない。それ故の言葉だった。
「貴様と三人の持ち主で行け」
「そうしていいんだな」
「そして死ぬな」
 いささか彼らしくない言葉もだ。幻十郎は言った。
「あの邪神を倒してだ」
「何か御前にそう言われるとな」
「ふん、妙に思うか」
「御前は俺を殺したいんだな」
 このことを問うのだった。幻十郎にとっては絶対のことをだ。
「それでもそう言うんだな」
「御前を殺すのは俺だ」
 また一人斬り。幻十郎は応える。袈裟斬りにされた白装束の者がそこから真っ二つになる。
 鮮血を噴出しつつ崩れていく骸を見据えながらだ。幻十郎は覇王丸に言うのだった。
「俺以外の誰でもない」
「だからか」
「そうだ、死ぬな」
 またこう言う幻十郎だった。
「例え何があろうともだ」
「わかったぜ。それじゃあな」
 覇王丸も幻十郎の言葉に応えてだ。そのうえでだった。
 ミヅキの場所に行こうとする。そこでだった。
 その覇王丸にだ。骸羅達も声をかけてきたのだった。
「よし、じゃあ行って来いよ」
「ああ、あんたも生きろよ」
「俺のことは心配無用!」
 大声で笑ってだ。骸羅はだ。
 その巨大な数珠を振り回してだ。周りの白装束の者達を吹き飛ばしていた。
 そのうえでだ。彼は言うのだった。
「雑魚なぞ幾らいてもな!」
「大丈夫だっていうんだな」
「そうだ。爺様に比べればどうということはないわ!」
「ははは、あの爺さんも相変わらずか」
「ふぉっ、ふぉっ、わしも頑張っておるぞ」
「はい、この世界最後の戦いですからね」
 その爺様だけでなくだ。黒子もいた。
 彼等も杖、そして旗で敵を倒していた。そうしてだ。
 覇王丸の後ろを守っていた。それを受けてだ。
 覇王丸はミヅキのところに向かう。そこにだ。
 狂死郎が来た。その彼が言って来た。
「ミヅキの気配はわかるな」
「ああ、もう嫌になる位な」
「ならばじゃ。そこに行くぞ」
「こっちだ」
 二人で戦場を駆けるとだ。ここでだった。
 もう一人来た。今度は十兵衛だった。
 二人の横に来て駆けつつだ。その両手の剣で敵を斬っていた。
 そうして斬りつつだ。同じく刃を振るう二人に問うてきたのだ。
「この世界での最後の死合になるが」
「ああ、派手に決めてやろうぜ」
「この世界で決着をつけるとしよう」
「ならばあの神の前に行こうぞ」
 三人になりだ。次はだった。
 ズィーガーも来た。彼等は四人になった。その四人で横一列に並びだ。
 敵を薙ぎ倒しつつ戦場を駆ける。ズィーガーも言うのだった。
「君達と共に戦いだ」
「その後でどうだ?飲むかい?」
「酒なりビールなりでな」
「団子も欲しいところだな」
 覇王丸に狂死郎、それに十兵衛がそのズィーガーに応える。
「その前にはまずミヅキを倒してな」
「アンブロジアを消滅させねばならん」
「ただ。封じるだけでは駄目になってきた」
「そう。邪神は滅ぼさなければならない」
 ズィーガーもここで言う。
「必ずだ」
「よし、じゃあ倒してやるか」
 笑顔で言いつつだ。そのうえでだ。
 覇王丸はその河豚毒を下から上に旋回させてだ。そしてだ。
 旋風烈斬を出してだ。また敵を吹き飛ばしたのだ。
 四人の宝珠の持ち主はミヅキを目指していた。それは彼等だけではなかった。
 王虎とガルフォードは血路を開いていた。その彼等と共にだ。
 ナコルルとリムルルがいた。その二人にだ。
 ガルフォードはだ。こう言うのだった。
「この戦いじゃな」
「巫女としての務めは、ですか」
「力を捧げてはいけないのね」
「ああ、絶対にな」
「それは止めることだ」
 こうだ。王虎も言って来たのだ。
「要はアンブロジアを滅ぼせばいいんだよ」
「根本から倒せばそれでいい」
「封じるのではなく滅ぼす」
「そうすればいいから」
「ミヅキを倒せばアンブロジアは絶対に出て来る」
 ガルフォードはこのことについても言った。言いながら彼もだ。
 その苦無に稲妻を宿らせて放つ。パピー達は迫る敵達を噛み倒していく。
 そうしながらだ。彼はナコルル達に言ったのである。
「そしてその時にな」
「アンブロジアをですか」
「倒せばいいのね」
「邪神でも何でもな」
 それでもだというのだ。
「倒して滅ぼせばいいからな」
「御主等は戦え。そして倒せ」
 アンブロジアをだ。そうしろというのだ。
「わかったな。それではだ」
「わかりました。敵をですか」
「倒すことね」
「さて、行くか」
 こうしてだった。彼等もだった。
 邪神を倒しに向かう。邪神との戦いもはじまろうとしていた。
 その戦局の中でだ。関羽もだ。
 その得物を振るいつつだ。張飛に問うた。
「司馬尉は見つかったか!」
「まだなのだ!」
 蛇矛でだ。敵兵を突き倒しつつ応える張飛だった。
「中々見つからないのだ!」
「そうか。しかしだな」
「司馬尉は絶対にこの中にいるのだ」
 敵陣の奥深く、そこにだというのだ。
「だから探し出してなのだ」
「倒す、それだけだな」
「そうするのだ」
「わかった」
 それならばだとだ。関羽も頷きだ。
 得物を横薙ぎにしてだ。白装束の者達をまとめて両断した。それを見てだ。
 槍を振るう趙雲と馬超がだ。こう言った。
「流石だな」
「ああ、敵をまとめて倒すなんてな」
「いや、これでもだ」 
 どうかとだ。関羽は二人に返すのだった。
「司馬尉にはだ」
「通じぬか」
「そう言うのかよ」
「私一人では無理だ」
 関羽一人、それならというのだ。
「あの女は尋常なものではない」
「うむ、確かにな」
「あいつはそうだよな」
 趙雲も馬超もだ。関羽の今の指摘にはだ。
 それぞれ確かな顔になりだ。頷いた。頷くその間にも敵は倒している。
「我等五人でなければだ」
「相手にもならねえだろうな」
「ええ、そうね」
 黄忠もいる。彼女はだ。
 弓を放ちだ。そのうえで四人を援護していた。その最中にだ。
 張飛がだ。こう言うのだった。
「あいつだけじゃないのだ」
「二人の妹ね」
「そうなのだ。司馬何とかいう連中なのだ」
 こう黄忠に言ったのである。
「奴等も問題なのだ」
「そうだな。敵はな」
「あいつだけじゃないからな」
「あの二人をどうするかなのだ」
「我等五人では司馬尉一人が精々か」
「流石にな」
 趙雲も馬超もだ。司馬尉の力はよくわかっていた。
 だからこそだ。顔を曇らせて話すのだった。戦いつつ。
「忌々しいことだがな」
「三人一度は無理かよ」
「そうなのだ。鈴々でもあいつ等三人一度は無理なのだ」
 例え五人でもだ。そうだというのだ。
「若しも。三人一度なら」
「いや、その際はだ」
「私達が引き受けよう」
 だがここでだ。夏侯惇と甘寧が言って来た。彼女達は五人と合流したのだ。
 そのうえでだ。こう言うのだった。
「だからだ。御主達はだ」
「司馬尉に専念してもらいたい」
「そうしていいのか」
「女に二言は無い」
「同じくだ」
 夏侯惇と甘寧の言葉は強かった。
「わかったな。それではだ」
「御主達は御主達の務めを果たすのだ」
「済まない」
 関羽はその彼女達に礼を述べた。
「ではだ。今はだ」
「司馬尉を探し出し討て」
「この戦乱の元凶の一つをな」
「さて、敵の数はかなり減ったな」
 夏侯淵は弓を放ちつつだ。戦場全体を見渡していた。見れば白装束の者達の数はかなり減っていた。
 だがそれでもだった。戦闘自体はだった。
「しかし油断はできないな」
「秋蘭、華琳様は御無事か」
「うむ、夏瞬と冬瞬、それに審配殿が護衛にいる」
 夏侯淵は姉にこの三人の名前を出して述べた。
「だからだ」
「そうか。御無事だな」
「安心していい。それよりもだ」
 夏侯淵は姉にまた述べた。
「姉者も注意してくれ」
「私が?何をだ」
「この荒れ狂う戦場の中にいるのだ。だからだ」
「何が起こるかわからないというのだな」
「そうだ・・・・・・くっ!」
 ここでだ。不意にだった。
 夏侯淵は弓を放ちだ。そのうえでだ。
 姉に迫ろうとしていた一本の弓矢を弾き返した。弓で弓を射たのだ。
 そうして相殺してからだ。あらためて言ったのだった。
「今の弓は下手をすればだ」
「私を射抜いていたか」
「右目に当たっていた」 
 夏侯惇のだ。その右目をだというのだ。
「危ういところだった」
「油断大敵か」
「そうだ。くれぐれも気をつけてくれ」
 姉を心から気遣う声でだ。妹は言ったのだった。
「姉者に何かあっては悲しむのは私だけではない」
「そうだな。華琳様もだな」
「そういうことだ。華琳様を悲しませることだけはだ」
「してはいけないな」
「その通りだ。頼んだぞ」
「わかった。ではな」
 夏侯惇も微笑みだ。そのうえでだ。
 大刀を振るいだ。戦場を駆けつつだった。
 己を守ってくれた妹に感謝していた。彼女の右目は守られたのだった。
 顔良は巨大な鎚で敵を吹き飛ばしながらだ。文醜に尋ねた。
「ねえ、麗羽様は?」
「ああ、今曹操さんと一緒にいてな」
「また陣頭指揮なのね」
「そうだよ。そうしてるよ」
「やれやれ。相変わらずね」
 そのだ。袁紹について呆れた顔で言う顔良だった。
「前に出て何かあったら取り返しがつかないのに」
「だよなあ。けれどそれがな」
「麗羽様よね」
「そんな麗羽様だからあたし達もお仕えしてるしな」
「そうなのよね。あれでいいところが多いから」
 短所も目立つが長所も多い、それが袁紹だった。
 それでだ。文醜もだ。
 巨大な剣を振るいだ。また言うのだった。
「じゃあこの戦い終わったらな」
「何するのよ」
「麻雀しような」
 明るく笑ってだ。それをだというのだ。
「斗詩もやるよな」
「私あまり麻雀は」
「何だよ、知らないのかよ」
「他に麻雀できる娘いないの?」
「いや、結構いるけれどな」
 彼女だけでなかった。麻雀好きは。
「陳さんだってそうだしな」
「他にも女の子でもよね」
「そうそう、何故か一杯いるんだよ」
「どうしてかわからない位によね」
「桃色何とかってやつのせいらしいな」
「桃色って?」
「いや、あたいもよく知らないけれどな」
「けれど麻雀なのね」
「それをやる世界もあるらしいんだよ」
 こう顔良に話す文醜だった。
「どうやらな」
「そうした世界って大抵負けると」
 それを聞いてだ。また言う顔良だった。
「脱ぐのよね」
「そっちは脱がないらしいぜ」
「それだったら行きたい様な」
「だよな。あたい麻雀には自信あるからさ」
 それでだとだ。文醜は明るい笑顔で言う。
「この戦い終わったら麻雀やるぜ」
「文ちゃん、その発言は死亡フラグだから」
 ここで顔良の目はじとっとした細いものになった。
 その目で文醜を横目で見つつだ。小さくした口で言ったのである。
「どうなっても知らないわよ」
「げっ、じゃあ今正念場だしまずいか?」
「そんなこと言って死んだ人多いから」
「そうだよな。じゃあ今の発言取り消すな」
「そうよ。さもないと本当に死んじゃうわよ」
「只でさえ今洒落にならない状況だしなあ」
 言いながらだ。その巨大な剣を縦に横に振ってだ。そのうえで敵を倒していく。
 そうしつつだ。文醜は言った。
「それじゃあな」
「そう、軽率な発言は謹んでね」
「勝つぜ。絶対にな」
「そう、やってやるんだから!」
 顔良も鎚を振るってだ。そしてだった。
 二人も敵を薙ぎ倒す。戦場は次第にだ。
 連合軍有利になってきていた。しかしその中でだ。
 司馬尉はだ。戦局を見てだ。こう言うのだった。
「このままだとね」
「はい、敗北ですね」
「俺達のな」
 彼女と共にいる于吉と左慈が述べた。
「敵の勢いが止まりません」
「しかもな。歌もある」
 彼等から見て敵の劉備達のだ。その歌があるというのだ。
 とりわけだ。誰の歌かというとだ。
「あの張三姉妹と劉備玄徳の四人ですね」
「あの四人が一緒に歌うとあそこまで強いか」
「それを何とかすればです」
「戦局はかなり違うがな」
「ええ、そこね」
 予想された通りだ。司馬尉達は気付いた。
 そのうえでだ。こう言うのだった。
「それじゃあ劉備達のところにね」
「すぐに人を送りますか」
「そうするんだな」
「ならです」
「すぐに送れるぞ」
 二人は司馬尉に即座に述べた。
「白装束の同志達はまだ控えがあります」
「連中を送るか?」
「いえ、彼等じゃ駄目ね」
 すぐにだ。司馬尉はだ。
 目を顰めさせてだ。こう二人に答えたのである。
「おそらく劉備達には護衛がいるわ」
「そしてその護衛がですか」
「かなり強い奴だからか」
「ええ、駄目ね」
 普通のだ。白装束の者達を送ってもだというのだ。
「だからここはね」
「誰を送るのですか、それでは」
「一体誰だ?」
「私の妹達を送るわ」
 彼女達をだというのだ。
「それでどうかしら」
「確かに。あの方々ならです」
「かなりの妖術も使えるしな」
「ではあの方々を送り」
「そして劉備達をだな」
「ええ、そうするわ」
 こう言ってだ。すぐにだった。
 司馬尉はすぐにだ。後ろにいる己の妹達にだった。顔を向けて告げた。
「いいわね、劉備達をね」
「はい、わかりました」
「それなら」
 こうしてだった。すぐにだ。
 司馬師と司馬昭は姿を消した。そうしてだった。
 二人はすぐにだ。その劉備達の本陣、舞台に姿を現した。その二人を見てだ。
 本陣の兵達、劉備の近衛の者達がだ。即座に身構えたのだった。
「何っ、司馬師と司馬昭だと!?」
「何故ここに来た!」
 こう言ってだ。すぐに二人に攻撃を仕掛ける。しかしだった。
 司馬師がだ。その右手をだ。
 胸の高さで左から右に一閃させた。するとだ。
 その右手に刃が現れた。黒い禍々しい闇の刃だ。
 それを手にしてだ。兵達を一蹴するのだった。それで言うのだった。
「雑魚に用はないわ」
「そうですね。私達に用があるのは」
 司馬昭もその手にだ。杖を出している。その杖で兵達を倒していた。
 そうしてそのうえでだ。舞台の方を見てだ。
 一直線に突き進む。だがその二人の前にだ。
 魏延に馬岱、厳顔達が出て来てだ。そのうえでだった。
「ここは行かせん!」
「通さないわ!」
 こう言ってだ。二人との戦いに入る。そこにだ。
 猛獲も来た。当然三人のお供もだ。
「美衣達も戦うにゃ!」
「絶対に負けないにゃ!」
「おっぱいの為にゃ!」
「頑張るにゃ!」
 こう叫んでだ。司馬師と司馬昭に向かうのだった。その戦局を見てだ。
 孔明はだ。すがる様な目になり言うのだった。
「頼みます、皆さん」
「ここで桃香様達に何かあれば」
 鳳統もだ。孔明と同じくすがる目になって述べる。
「この世界はそれで」
「終わってしまいます」 
 だからこそだった。戦士達に期待するのだった。そしてだ。
 劉備達に顔を向けてだ。彼女達にはこう言うのだった。
「ここはです。何があろうともです」
「歌って下さい!」
 歌を続けろとだ。そう言うのだった。
「桃香様達の歌が戦っている皆さんを励まします!」
「ですから!」
「ええ、わかったわ!」
 劉備もだ。その二人の言葉に応え。そしてだった。
 歌を歌い続ける。その彼女達に続いてだ。
 孔明はだ。ふと気付いた顔になりだ。鳳統に言った。
「ねえ、私達もね」
「歌ィのね」
「ええ、そうしましょう」
 こう提案したのである。
「歌は少しでも多い方がいいから」
「そうね。それじゃあね」
 こうしてだ。軍師二人もだった。歌いはじめたのだった。
 そしてだ。その中でだった。
 董卓もだ。こう共にいる賈駆に言ったのだった。
「詠ちゃん、私達も」
「歌うのね」
「ええ、そうしましょう」
 こう提案したのだ。彼女達もだとだ。
「皆で歌えばそれで」
「そうね。歌が力になるのなら」
「歌おう、戦えなくても」
「わかったわ、月」
 賈駆もだ。確かな顔になりだ。
 そのうえでだ。こう董卓に答えたのだった。
「それじゃあ今から私達も」
「歌いましょう」
 こうしてだ。董卓達も歌いはじめる。そしてそれは。
 軍師達全員に伝わる。そしてだった。
 歌の力がさらにだ。連合軍を覆っていた。そして敵も。
 その絶大な力を背景にしてだ。覇王丸達はだ。
 遂にミヅキを囲んでいた。そしてだ。
 四人で彼女と戦っていた。だが、だった。
 ミヅキ、それに彼女が連れている獣は強くだ。隙がなかった。
 四人の攻撃を受けても引けを取らない。しかもだ。
 彼女の攻撃がだ。一撃一撃がだ。
 あまりにも強烈でだ。覇王丸もその攻撃を防ぎながらもだ。
 数歩後ろに吹き飛ばされた。そして言うのだった。
「くっ、これはかなりな」
「効くな」
「ああ、流石だぜ」
 こうだ。鋭い顔で十兵衛に答えるのだった。
「アンブロジアの化身だけはあるな」
「そうじゃな。しかしじゃ」
 今度は狂死郎がだ。ミヅキの攻撃を紙一重でかわしながら言った。
「アンブロジアはこんなものではなかろう」
「そうだ。まずは私達四人で倒そう」
 ズィーガーはその右腕のアームから炎を出してミヅキを攻める。しかしだった。
 その攻撃はミヅキには通じない。そのズィーガーにもだ。
 ミヅキの攻撃が来る。その禍々しい光が彼を襲う。しかしだ。
 ズィーガーもそれは何とか防いだ。そしてだ。
 四人とミヅキの攻防は続く。それが数百合になった時にだ。十兵衛が言った。
「ここはあれしかないわ」
「ああ、あれか」
「あの技じゃな」
「そうだ、よいな」
 覇王丸に狂死郎に告げる。そしてだ。
 ズィーガーに対してもだ。こう言ったのである。
「我等の最大の技を同時に仕掛けてだ」
「一気に倒すか」
「それが一番じゃな」
「四人一度に技を出し」
 三人も応える。そしてなのだった。
 彼等はそれぞれだ。あらためてミヅキを囲んだ。
 覇王丸が南、狂死郎が西、ズィーガーが北、十兵衛が東につきだ。そこからだ。
 四人は一気にだ。渾身の技を放ったのだった。
「天覇封神斬!!」
「そおれ、血肉の舞!」
「絶、水月刀!」
「オペラツィオン=ティーガーーーーーー!」
 四人同時にだ。渾身の一撃を放った。
 覇王丸の刃が振り回され狂死郎が舞い。ズィーガーが炎となり飛び上がり十兵衛の気が柱となる。その四人全ての攻撃がだ。ミヅキを撃ったのだ。
「くっ、これは!」
 さしものミヅキもだ。これまでの沈黙が終わった。それだけのものがあった。
 そしてだ。その四人の攻撃を受けてだった。
 大きく吹き飛ばされだ。そして言ったのだった。
「おのれ、最早・・・・・・」
「さあ、これでどうだ?」
「出て来るかのう」
 覇王丸に狂死郎がだ。その倒れ込んだミヅキを見て言った。
「アンブロジア、出て来たらな」
「相手をしてやるか」
「いや、待ち給え」
 だがここでだ。ズィーガーが二人に言って来た。
「私達だけで相手をするのはだ」
「そうだな。危険だな」
 十兵衛もだ。ズィーガーのその言葉に頷く。
「相手は邪神、それならばだ」
「はい、私達もです!」
「戦うわよ!」
「今来たわ」
 ナコルルにリムルル、それにミナが来てだ。三人も身構えてだ。
 そのうえで倒れているミヅキを取り囲んだ。その中でだ。
 ミナがだ。ナコルルに言った。
「邪神を倒せばそれで」
「封じる必要もないから」
「そう、犠牲になることはないわ」
 彼女もだ。こうナコルルに話したのである。
「わかったわね」
「はい、それでは」
「そう。犠牲はいらないの」
 ミナはまたナコルルに言った。
「必要なのは勝つこと」
「それがですか」
「だから。勝ちましょう」
「では。私達の力で」
「アンブロジア、完全にやっつけるから!」
 リムルルも言いだ。四人の宝珠の持ち主達と共にだ。
 三人の巫女達も戦いに入る。そしてミヅキからだ。
 黒い、禍々しい、得体の知れない全身の何かが出て来た。それを見てだ。
 七人のところに来た天草がだ。こう言ったのである。
「あれこそがだ」
「邪神アンブロジア」
「そうなんだな」
「左様、かつて我を操っていた神だ」
 まさにだ。今目の前にいるその漆黒の何かがだというのだ。
 蝙蝠と人を合わせた様な姿をしている。その姿を見てだ。
 天草は仲間達にだ。苦い顔で言うのだった。
「我はかつて闇に捉われていた」
「そして操られてじゃな」
「この世を乱していた。しかしだ」
 狂死郎に返しつつだ。そのうえでだった。
 彼もだ。戦いの中に入り言ったのである。
「今はそれを止める」
「よし、じゃあやるか!」
「うむ、我もこの邪神を戦おう」
 覇王丸に応えてだ。そのうえでだ。
 宝珠を身構えてだ。そのうえで戦いに入るのだった。
 侍達とアンブロジアの戦いが遂にはじたった。そしてだ。
 刹那と四霊の戦いもだ。今まさに終わろうとしていた。
 その中でだ。楓はだ。
 翁にだ。こう言うのだった。
「今だよな」
「うむ、決める時じゃ」
「ここで俺達が刹那を倒して」
 そしてだというのだ。
「姉さんを犠牲にせずに」
「うむ、終わらせよう」
「しかしだ」
 二人にだ。嘉神が言って来た。
「倒せればそれでいいがだ」
「刹那が倒れなければ」
「その時はじゃな」
「やはり巫女の力が必要になる」
 月のだ。それがだというのだ。
「あの娘、決して犠牲にしたくはないがな」
「それでもいざという時はか」
「そうなるというのじゃな」
「あの娘はそうした娘だ」
 己を犠牲にしてもこの世を守ろうとする、月のそうした性格は嘉神もよくわかっていた。
 そのことをだ。示現も言った。
「だからだ。ここはだ」
「何としても。刹那を消し去るのです」
 父に続いてだ。虎徹も言った。
「絶対に」
「ああ、じゃあな」
「やるとしようぞ」
 楓も翁も身構えてだ。そしてだった。
 刹那に一気に突き進みだ。そのうえでだった。
 四人一度にだ。それぞれの剣を突き出し叫んだ。
「これで!」
「終わりじゃ!」
 四人の必殺の一撃がだ。刹那を貫いた。それを受けてだ。
 刹那もだ。その闇の声を出すのだった。
「こうして俺をか」
「そうだ、封じる!」
「二つの世界の為にな!」
 楓と嘉神が応える。そしてだった。
 四人はその力をだ。剣を通して刹那に注ぎ込んだ。それで刹那を倒そうというのだ。
 その中でだ。翁が三人に言った。
「我等の力を込めればじゃ」
「刹那、常世とてだ」
「倒せる」
「完全に消せる筈だ」
 示現も楓も嘉神もだ。そのことを確信していた。この世を護る四霊の力を使えばだ。
 だからこそ刹那に力を注ぎ込む。それで倒そうというのだ。
 実際にだ。刹那は動きを止めていた。そしてだ。
 そのまま消えようとしていた。刹那の姿は四人の出す力に飲み込まれようとしていた。
 そのままだ。姿を消したのだった。
 楓はそれを見てだ。確かな声で叫んだ。
「やったか!」
「うむ、我等も相当な力を使ったがのう」
「確かにだ。刹那は消えた」
「常世への門は」
 翁、嘉神、それに示現もだ。勝利を確信した。
 そのうえで刹那が消えた場所を見た。そこには誰もいなかった。
 そしてだ。虎徹もだ。こう言うのだった。
「これで。まずは一つ終わったのです」
「戦いはまだ行われているがだ」
 嘉神もだ。笑ってはいないが確かな声で虎徹に応える。
「まずは常世が封じられた」
「うむ、まずは我等がそれを果たせた」
「流石にこれ以上雑魚以外の相手はできないがな」
 示現に楓も言う。楓は力をかなり使ってしまったことを実感していた。
 ましてやだ。ここでだった。
「もう一度封じろと言われてもな」
「うむ、無理じゃな」
 まさにそうだとだ。翁も楓の言葉に応える。
「それだけのことを果たしたのじゃからな」
「そうだな。その通りだ」
 この時だった。四人、そして虎徹に対してだった。
 不意に声がしてきた。その声はというと。
 虎徹がその声を聞いてだ。蒼白になり声をあげた。
「まさかなのです!?」
「くっ、まさかと思うが」
 嘉神はその声の方を歯噛みと共に見た。するとだ。
 そこに刹那がいた。彼は健在だったのだ。その闇の姿を見せながらだ。こう行って来たのだ。
「かろうじて力が残っていたのだ」
「だからこそ復活した」
「そうだというのか」
「そうだ。残念だったな」
 こう四人と虎徹に返す刹那だった。そしてだ。
 その背にあるものを出してきた。それは黒い闇の穴だった。
 穴は次第に大きくなっていく。そこから無気味な咆哮が聞こえてくる。
 その咆哮を聞いてだ。翁が傘の下からその目を不吉なものにさせてだ。
 そのうえでだ。こう言ったのである。
「まずいのう。今の我等にはじゃ」
「最早刹那を封じる力は残されていない」
 嘉神もだ。忌々しげに言った。
「最早な」
「しかしだ」
 示現が仲間達に述べた。
「あの娘を犠牲にはできない」
「なら。やるしかないな」
 楓は覚悟を決めた顔で示現に応えだ。そしてだ。
 刹那と闇の穴を見つつだ。そのうえで言ったのだった。
「俺達四人で」
「うむ、残された力を使えば何とかな」
「あの男も常世も封じられる」
「何とかな」
 四人は今度は自分自身の命でだった。
 刹那を、常世を封じようとしていた。そのうえでもう一度闇に向かおうとした。
 だがここでだ。四人の間をだ。何かが駆けた。
 そしてそれがだ。刹那を正面から貫いた。それは。
 黄龍だった。その彼を見てだ。翁が驚きの声をあげた。
「御主、もしや」
「闇は私が引き受ける」
 こうだ。刹那を己の剣で貫きだ。常世まで突き刺したうえで言ったのである。
「無論月にもだ」
「貴様だけで封じるというのか」
 嘉神は黄龍に彼の後ろから問うた。
「そうするというのか」
「そうだ。だから今私をだ」
 彼自身をだ。どうせよというと。
「闇ごと討て。よいな」
「けれどそれだと父さんが」
「よいのだ、私は一度死んでいる」
 だからだとだ。黄龍は楓にも答える。
「そしてこの命もこの為にあるからだ」
「闇を封じる為に」
「そうだ。御前達も月も犠牲になることはない」
 決して、そうした口調だった。
「私が。ここで」
「けれどそれは」
 楓は戸惑いを見せてだ。父に言った。
「父さんが」
「構わないと言っている」
 黄龍の言葉は変わらない。断固とした口調だった。
 そしてそのうえでだ。彼はさらに言ったのだった。
「既に一度死んでいる。ならばだ」
「御主、そうして娘を救うのか」
「世界もだ」
 そのだ。どちらもだというのだ。こう翁に反したのだ。
「そうする」
「左様か」
「だからだ。四人の力をだ」
「御主に注ぎ込みか」
「そしてそれからは私がやる」
 刹那を貫いたままだ。言うのだった。
「この闇を。完全にだ」
「封じるか」
「そうするか」
「わかったな。同志達よ」
 嘉神と示現にも言った。そうしてなのだった。
 彼等に己への攻撃を促す。その言葉を受けてだ。
 遂にだ。まずは翁が頷いた。
「わかった。ではじゃ」
「そうだ、頼む」
「御主のその心確かに受け取った」
 こう言ってだ。翁が最初に身構えたのだった。
 続いて嘉神と示現もだ。それぞれ身構えてから黄龍に対して言った。
「貴様のその心、何があろうと忘れぬ」
「世界を守った貴様のことは何があろうとも」
「我等の心に生きる」
「だからこそ」
 黄龍に力を注ぎ込みだ。刹那を、常世を封じることを決意した。
 三人はそうした。しかしだった。
 最後の一人、父の力を受け継いだ楓だけはだ。まだ戸惑っていた。
 その彼に対してだ。父は背中越しに言うのだった。
「楓、御前もだ」
「けれどそうしたら父さんが」
「死ぬというのか」
「折角また生き返れたのに。それじゃあ」
「いいのだ。私は生きるのだ」
 生きる、そうなるというのだ。
「御前の中でだ。だからだ」
「いっていうんだね」
「そうだ、いいのだ」
 こうだ。嘉神と示現が彼自身に言ったことを我が子に告げたのである。
「私はそれで生きる。だからだ」
「僕は父さんに力を注ぎ込んで」
「常世を封じろ。儀式はそれにより行われる」
 常世を封じる、それがだというのだ。
「私が犠牲になることでだ」
「けれど父さんは生きる」
「そうだ。御前達の中でだ」
 やはりだ。そうなるというのだ。
「わかったな。それならばだ」
「・・・・・・・・・」
 楓は沈黙した。しかしだった。
 やがて顔をあげた。その顔は意を決したものだった。
 その顔で身構えてだ。そして言ったのだった。
「わかったよ。それじゃあ」
「守矢、そして月に伝えてくれ」
 彼等のこともだ。黄龍は言った。
「御前達と共にいられて。よかったとな」
「そう伝えればいいんだね」
「そうだ。私は御前達の中で生きる」
 だからこそだ。そうしていいというのだ。
「頼めるか」
「うん、それじゃあ」
 楓は身構えたまま頷きだ。そしてだった。
 渾身の気と力を込めてだ。青龍の力を黄龍に向けて放った。
 そして三人も。彼に続く形でだ。
 次々とそれぞれの力を放ちだ。黄龍に放った。それを受けてだ。
 黄龍はだ。全ての力を受けそのうえでだ。彼の受けた力をだ。
 刹那に注ぎ込む。それから言ったのだった。
「これで・・・・・・全ては!」
「貴様、その命を賭けて」
「言った通りだ!貴様を封じる!」
「四霊の力、それにか」
「私のこの力、黄龍の全ての力があれば」
「巫女の犠牲なぞはか」
「不要!月、生きろ!」
 娘にだ。捧げた言葉だった。
「御前は御前の幸せを求めろ!」
「ぐおおおおおおおおおおっ!!」
 刹那は五色の光に飲み込まれた。黄龍が放つ。
 そして黄龍もその中に消えた。闇の門もだ。
 あらゆるものが光の中に消えたのを見てだ。楓は言った。
「これで常世は」
「うむ、封じられた」
 まさにそうなったとだ。翁が楓に答えた。
「全てはな」
「常世の心配はなくなったんですね」
「尊い犠牲じゃった」
 しかしだ。それでもだというのだ。
「じゃがこれでじゃ」
「そうだね。父さん・・・・・・」
「黄龍の言った言葉だが」
 嘉神が楓に述べてきた。
「わかっているな」
「うん、僕達は」
「生きろ」
 こうだ。黄龍の言葉をまた彼に伝えたのだ。嘉神の口からも。
「わかったな。御前は生きろ」
「うん、何があっても」
「我等も生きる」
 示現も言った。
「これからの。人としての生涯もな」
「親父殿、ではおいらもなのです」
 虎徹もだ。父の言葉に頷きだ。
 そのうえで意を決した顔になってだ。そして言ったのだった。
「次の白虎として生きるのです」
「そうだね。だから僕は」
「楓、お父様は」
「己の責を果たされたのだな」
 楓の後ろにだ。月と守矢が来た。そのうえでだ。
 二人でだ。楓に問うてきたのだった。
「私を助ける為に」
「己を犠牲にされたのか」
「うん、そうしたよ」
 小さく頷きだ。楓はその通りだと答えた。
「そして刹那も常世もね」
「なら私は」
「姉さんにも兄さんにもね」
 父の遺言をだ。楓は二人に告げる。
「生きろ。そう言ってたよ」
「そう、生きろというのね」
 俯き目をやや伏せさせた顔でだ。月は応えた。
 そして守矢はだ。確かな顔で言ったのだった。
「父上の最後の遺言、確かに受け取った」
「うん、それでだね」
「私は生きよう、これからも」
「私も」
 そして月もだった。顔をあげてだ。
 そのうえでだ。楓に対して答えた。
「生きるわ。これからも」
「うん、そうしよう」
「お父様の御心を受けて」
「父さんはこうも言ったよ」
 この遺言もだ。二人に告げる楓だった。
「父さんはこれからも僕達の中に生きるって」
「私達の中に」
「この心の中にか」
「そう、そう言ってたよ」
 このうえない感慨と共にだ。二人に告げたのである。
「僕達の中にね」
「そうか。では私達はこれからもだ」
「ええ、そうね」
 月は守矢のその言葉に頷く。そうしてだった。
 こうだ。静かに言ったのだった。
「家族ね、ずっと」
「そうだな」
「それぞれの心故に離れ離れになった時もあったけれど」
 楓もだ。言うのだった。
「もうこれからはね」
「ええ、ずっとね」
「家族だ」
 こう言い合いだ。父と共に生きることを誓った三人だった。それぞれの心の中に生きている彼と共に。
 刹那、そして常世は封じられた。しかしだ。
 アンブロジアとの戦いはそうではなかった。宝珠の持ち主と巫女達はだ。
 邪神を囲み戦っていた。その神の攻撃はだ。
 あまりにも強かった。闇を放ちだ。
 それで彼等を圧倒していた。その闇を受け止めつつだ。
 覇王丸はだ。苦々しげに呟いた。
「へっ、痺れる位に凄いぜ」
「はい、流石は神です」
 ナコルルもだ。ママハハを放ちつつ言う。
「これだけの力があるとは」
「けれどな」
 それでもだとだ。覇王丸は言いだ。
 そのうえでだ。己の構えを取りだ。
 旋風烈斬を次々に放つ。そうしながらだった。
「俺達人間にも意地があるからな!」
「はい、だからこそ!」
「倒すぜ、神様を!」
「何としても!」
 二人は共にだ。写真に突き進みだ。
 そのうえで激しい攻撃を繰り出す。他の戦士達もだ。
 ミナも弓矢を放ちながらだ。仲間達に言った。
「如何に邪神といえども」
「こうして幾度も攻撃を繰り出せば」
「いずれはじゃな」
「そう。倒れるわ」
 こう十兵衛と狂死郎にも返す。
「やがてはね」
「ならば。攻めるのみ」
 ズィーガーはこう結論を出してだ。実際に攻撃を続ける。
「神といえど絶対ではないのならばだ」
「ほら、少しずつだけれど」
 リムルルも氷を放ちつつだ。邪神を見ていた。
「傷が出来てきたから」
「ああ、このままやってやるぜ!」
 覇王丸がまた旋風烈斬を繰り出す。
「勝つのは俺達だ!」
「左様、しかしだ」
 十兵衛も気を放ちながら攻めていた。しかしだ。
 その中でだ。彼は言うのだった。
「我等は今七人だな」
「ああ、それがどうしたんだ?」
「七人で七方を攻めている」
 こう覇王丸に話すのだった。
「だが。それでは一つ足りぬのではないのか」
「八方ってことかい?」
「そうだ。もう一人いなければだ」
「この邪神は倒せないってのかよ」
「誰かが必要だ」
 また言う十兵衛だった。
「この邪神を倒すにはだ」
「というと誰なのかね」
 覇王丸は跳んだ。そうしてだ。
 その刀を両手で思いきり振りかぶりだ。そこからだ。
 渾身の力を込めて振り下ろしだ。邪神を斬る。それは確かにかなりの攻撃だった。
 だがそれでも神は倒れない。それを見てまた言う十兵衛だった。
「やはりもう一人足りぬか」
「じゃあとりあえず誰か一人呼ぶかい?」
「うむ、それがいいだろう」
 こう言いながら戦い模索もしていた。しかしだ。
 ここでその一人が来た。それは。
 ミヅキだった。何と生きていたのだ。
 そのミヅキを見てだ。ズィーガーが言った。
「くっ、君はまだ戦うというのか!」
「・・・・・・・・・」
「ならば私が相手をしよう!覚悟し給え!」
「いえ、待って」
 とりあえずミヅキに向かおうとするズィーガーをだ。命が止めた。
 そのうえでだ。こう言ったのである。
「今の彼女には邪気がないわ」
「何っ、そうなのか」
「ええ。今の彼女にあるのは」
 それならばだ。何があるかというと。
「本来の。人としての心よ」
「ではこれまでの彼女は」
「邪心の社だったのよ」
 それになっていたというのだ。これまでのミヅキはだ。
 だが今の彼女は何か。ミナはそのことをまた語った。
「人よ。もう羅将神ではないわ」
「では今は」
「私は。今は」
 ミヅキ自身もだ。ここで言うのだった。
「人。だからこそ」
「人として私達と共に戦うというのか」
「ええ」
 こくりとだ。ズィーガーの問いに頷きもする。
「そうさせてもらいたいけれど」
「そうか」
 ズィーガーには躊躇いがあった。かつての敵ということからだ。
 しかしだった。ナコルル達はだ。
 確かな顔と声でだ。こうミヅキに言ったのだった。
「わかりました。それではです」
「お願いするわね」
「残る一方は任せたわ」
「はい、それでは」
 三人に受け入れられてミヅキもだ。戦いに加わることになった。こうしてだ。
 八方から邪神を攻めることになった。それによってだ。邪神は次第に追い詰められていた。
 そしてだ。邪神の動きが止まった。一瞬だがだ。
 その一瞬をだ。ミナは見逃さなかった。それでだった。
「今よ」
 仲間達に告げた。この言葉が出ると同時にだ。
 戦士達は一斉に動き邪神に突進した。そのうえでだ。
 一気にだ。渾身の攻撃を繰り出した。八人同時にだ。その攻撃を受けてだ。
 邪神アンブロジアは動きを完全に止めた。そのうえでだ。
「マサカ、我ヲ倒ストハ・・・・・・」
「これで終わりだな!」
 覇王丸が邪神の苦悶の声に応えて言う。
「そうだろ、神様!」
「我ガ倒レルトハ」
「人間だってな。力を出せば神様に勝てるんだよ」
「はい、今それが確かなものになりました」
 ナコルルもだ。覇王丸の横から言った。
「私達がそれを」
「ああ、やってみせたな」
「邪神アンブロジアはこれで倒れました」
 確かな声で言うナコルルだった。
「まさか。封じることなく倒せるとは」
「だがな。確かにやったぜ」
「はい、では」
「俺達の戦いがまた一つ終わったな」
 清々しい笑みになってだ。覇王丸は述べた。
「やったぜ、本当に」
「これで邪神は」
「消エル・・・・・・」
 邪神の最後の声だった。この声を発し。
 煙の様に消えていく。そうしてだった。
 邪神アンブロジアは戦士達に囲まれた中で消え去った。それを見届けてだ。
 ミナがだ。静かに言ったのだった。
「本当に。一つの戦いが終わったわ」
「そうね。じゃあ後は」
「他の皆のところに行きましょう」
 見れば戦いはまだ続いていた。戦場の戦いはだ。
 それを見てだ。狂死郎はだ。
 ミヅキにだ。こう声をかけるのだった。
「それで御主じゃが」
「ええ、これからのことね」
「御主はどうするのじゃ?これから」
「巫女に戻るわ」
 こうするとだ。ミヅキは狂死郎に答えた。
「私の本来の姿に」
「ではじゃ」
「それでは?」
「わしと共に来るのじゃ」
 そうしろとだ。彼はミヅキを誘ってきた。
「御主の戦いも見事な舞じゃ。共に舞おうぞ」
「舞う、神の舞いを」
「そうじゃ。舞うのじゃ」
 狂死郎はミヅキにこう述べていく。
「そうするか?どうするのじゃ?」
「少し考えさせてもらうわ」
 ミヅキは即答しなかった。しかしだ。
 狂死郎にだ。静かに言ったのである。
「けれど今は」
「うむ、どうするのじゃ」
「この場で戦うわ。人間として」
「左様か。それではじゃ」
「ええ、二つの世界の為に」
 そのだ。二つの世界の為にだと。ミヅキは顔を上げて言った。
「戦うわ」
「よし、それではじゃ」
 こうしてだった。ミヅキもこの場面でだ。
 戦いに加わった。人間として。
 刹那も邪神も倒れた。しかしそれでもまだ戦いは続いていた。その激しい戦いの中でだ。人間達は次第にだが確実にだ。その手に入れるべきものを手に入れようとしていた。


第百三十七話   完


                          2012・1・14



遂に邪神と刹那が倒されたな。
美姫 「長い戦いの果てにようやくね」
ああ。けれども、まだ戦自体は終結していないからな。
美姫 「こっちも終息させないとね」
いよいよ物語りも終幕へ、か。
美姫 「どうなるのか楽しみね」
次回も待ってます。



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