『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS




                              第百三十一話  鱗、襲撃を受けるのこと

 森の奥での戦いのことはだ。彼等にもすぐに伝わった。それでだ。
 刹那がだ。こう同志達に尋ねた。
「どうする。生き返らせるか」
「死骸だけでも使うのね」
「そうだ。そうするか」
 こうだ。ミヅキにも返す。
「そうするか」
「一つの手ではあるわね」
 ミヅキもだ。刹那のその考えを否定しない。
 しかしすぐにだ。彼女はこう言ったのだった。
「けれど。最早ね」
「敗れたからか」
「それはあの骸の時でわかっていると思うけれど」
「一度敗れた奴はまた敗れる」
「負け犬は負け犬よ」
 冷酷にだ。ミヅキは言った。
「生き返らせても。所詮はね」
「役立たずは置いておくか」
「それがいいと思うけれど」
「そうだな。ではだ」
 こう話してだ。彼を傀儡として使うこともなくなった。そうしてだ。
 その話からだ。彼等はだ。今度はこの話をするのだった。于吉がここで言った。
「では。次ですが」
「俺だな」
 鱗にだ。外見は非常によく似た男が出て来た。しかしだ。
 その全身から黒い瘴気が漂っている。その彼が言ったのである。
「俺が行きそうしてだ」
「都で暴れられますか」
「そうする」
 まさにだ。そうすると于吉に述べるのだった。
 そしてだ。そのうえでだった。彼はまた言った。
「この龍の力を奴等に見せる」
「そうですか。では楽しみにしています」
「それでだが」
 于吉が言うとだ。今度は左慈だった。
 その彼が出て来てだ。そのうえで龍に言ってきたのである。
「俺達も一緒に行っていいか」
「そうね。最近暴れていないしね」
「身体がなまってきているわね」
 バイスとマチュアも出て来た。楽しげに微笑んで出て来たのだ。
 そのうえでだ。こう仲間達に言ったのである。
「それなら一緒に都に行ってね」
「暴れようかしら」
「来たいなら来るといい」
 龍もだ。彼等の申し出を断らなかった。
 それでだ。こう彼等に告げたのだった。
「共に暴れたいのならな」
「よし、それではな」
「私達もね」
「同行させてもらうわ」
「おいおい、楽しいものになりそうだな」
 社もだ。出て来て言う。
「決戦前に都に行って大暴れか」
「挨拶にはなるわね」
 司馬尉もいた。彼女も実に楽しそうである。
「御葬式の前のね」
「葬式か。それなら鎮魂歌が必要になるな」
 社はまた明るく言う。
「じゃあ是非共俺が行かないとな」
「いえいえ、鎮魂歌なら私です」
 ゲーニッツだった。彼は人間としての仕事から言ったのである。
「彼等へのレクイエムとミサを執り行いましょう」
「そうね。人材は揃っているわ」
 司馬尉はゲーニッツのその言葉を聞いてさらに楽しげな笑みになる。 
 そうした話をしてだった。彼等はだ。
 闇の中に沈んだ。そうしてそこから動くのだった。
 都に帰った劉備達はだ。再びだった。
 闇の者達の行方を捜した。その結果だった。
 遂にだ。北に斥侯を送っていただ。馬岱がだ。孔明に話したのだ。
「何か北の方でね」
「おかしなことがありましたか?」
「うん。北匈奴いるじゃない」
 当時匈奴は南北に分裂していた。その北の者達がだというのだ。
「妙な動きしてるみたいだよ」
「妙な?」
「そう。一箇所に集ってね」
 それでだというのだ。
「何かしようとしているみたい」
「というとまさか」
「そう。しかもあの連中も姿も見たんだって」
「間違いないわね」
 ここまで聞いてだ。孔明は確信した。そうしてだ。
 すぐにだ。馬岱、それに鳳統と共にだ。劉備に話したのである。
「あの、北匈奴の方で彼等がいたそうです」
「白装束の者達が」
 孔明だけでなく鳳統も話す。彼女達は今劉備の執務用の机の前にいる。そしてその机のところに座っている劉備に対して話したのである。そうしたのだ。
 その劉備にだ。軍師二人と馬岱が話すのだ。
「前にも匈奴ではおかしな動きがありましたし」
「やはり今回もです」
「あそこで何かすると思いますよ」
「何かっていうと」
 その何かをだ。劉備もだ。
 察してだ。こう言ったのである。
「匈奴の兵も入れて私達と」
「はい、決戦です」
「決戦を挑むつもりの様です」
 軍師二人がその劉備に話す。
「北の平原で」
「そうするかと」
「それじゃああれよね」
 馬岱もここで言った。
「馬をたっぷりと用意しておかないとね」
「はい、それに弓です」
「歩兵の皆さんに弓やそうしたものを多く渡しましょう」
 軍師二人は馬ではなく歩兵のことを話す。
「そしてそのうえで」
「彼等に勝ちましょう」
「ううん、匈奴の兵っていうと」
 この国の者なら誰でも知っていた。匈奴ならばだ。
「馬だからね」
「はい、彼等は全て馬で動きます」
「生まれた頃から馬に乗っています」
 孔明と鳳統もだ。このことはよく知っていた。
 それでだ。彼等も言うのだった。
「それ故に馬にかけてはかなりのものです」
「私達より遥かに優れた騎兵ばかりです」
「しかも弓にも秀でていますし」
「相手にすると非常に危険です」
「そうなのよね。始皇帝もそれで苦労したし」
 もっと言えば始皇帝以前からだ。西周の頃からだ。この国は遊牧民族に悩まされてきている。だからこそだ。劉備もここで言ったのである。
「万里の長城だってできたし」
「それだけ彼等は脅威です」
「敵として一番厄介な者達です」 
 軍師二人もだ。暗い顔になっている。
「ですからここはです」
「まずは馬には馬です」
 やはり馬は欠かせないというのだ。
「このことは本当に蒲公英ちゃんの言う通りで」
「騎兵がないとお話にならないです」
「騎兵のことは任せておいて」
 馬岱は自分の胸をその左手の拳でどんと叩いて言い切った。
「あの連中にも負けないからね」
「うん、本当にお願いね」
「星さんや翠さんにもお願いしたいし」
「それとよね」
 ここでまた言う劉備だった。
「曹操さんや袁紹さんのところの騎兵の人達にもお願いして」
「はい、騎兵を総動員です」
「この戦いはそうしないと勝てません」
 軍師二人はそれは欠かせないというのだ。そしてだった。
「そして歩兵の人達はです」
「弓、それにです」
「弩もです」
「それも持って行きましょう」
「弩っていうと」
 その武器の名を聞いてだ。劉備はこう言った。
「朱里ちゃん凄い弩を開発したわよね」
「連弩ですね」
「そう、それ」
「はい、それも持って行きます」
 それもだというのだ。持って行くとだ。
「そしてそのうえで、です」
「決戦を挑むのね」
「あれを持って行くとかなり違います」
 孔明は少しだけ自信のある声で劉備に話す。
「ですから是非にです」
「あれも持って行きましょう」
「そうよね。とにかく勝たないといけないから」
 だからこそだ。余計にだというのだ。
 そしてだ。馬岱もここで言う。
「騎兵も弓使うからね」
「ううん、本当に弓ばかりになるわね」
「矢は充分あります」
「今も昼夜兼行で作っています」
 孔明と鳳統はその矢について話す。
「ですからどれだけ使っても大丈夫です」
「そのことについて抜かりはありません」
「そう。じゃあ使う分にはいいわね」
 矢のことについてはだ。劉備も納得して頷く。
 しかしだ。ここでだ。彼女達のところにだ。
 徐庶が来てだ。こう言ったのである。
「確かに騎兵と弓、弩はいいけれど」
「他になの?」
「他にも必要なの」
「ええ、そう思うわ」
 こうだ。徐庶は孔明と鳳統に言ったのである。
「だから。他には」
「黄里ちゃん、何かいい考えあるの?」
「勝つ為に必要なのは他には」
「落とし穴はどうかしら」
 徐庶が出すのはこれだった。
「それを陣の前に置いておくのはどうかしら」
「ううん、それもいいわね」
「馬の足を止めるには」
「そうよね。ただ落とし穴を用意するにはね」
 ここでその落とし穴の問題点がだ。徐庶自身が指摘した。
「手間がかかるし。相手に見破られたら元も子もないから」
「ううん、相手は勘のいい方ばかりですし」
「それに偵察も得意ですから」
「黄里ちゃんの言う通りよね」
「そこが問題になるわ」
「そうなのよね」
 困った顔でだ。徐庶は自分からまた言った。
「だから。もう最初から見える落とし穴を考えてるの」
「堀ね」
「それを陣の前に置くのね」
「これならどうかしら」
 徐庶はあらためて孔明達に尋ねる。そして劉備にも。
「桃香様もどう思われますか?」
「そうね。馬の足を止めるにはいいわね」
 劉備もだ。徐庶のその案に頷く。そのうえでだ。
 徐庶はだ。今度はこれを提案したのである。
「あと。丸太ですね」
「丸太!?」
「はい、丸太の先を削って尖らせたものを用意します」
 それをだというのだ。
「そしてそれを敵の騎兵が来た時に前に突き出します」
「あっ、それ凄く利くわよ」
 騎兵をよく知っている馬岱がだ。驚いた顔になって徐庶の提案に頷く。
「馬って中々止まらないからね」
「そう。それを考えてなの」
「うん、騎兵って先頭が躓くと後にも続くから」
「余計にいいわよね」
「いい手よ」
 馬岱は笑顔になって徐庶に話す。
「お堀とその二つで完璧よ」
「有り難う。じゃあこの二つを合わせて」
 劉備に顔を向けてだ。彼女にも言うのだった。
「それで宜しいでしょうか」
「何か凄いことになってきてない?」
 劉備はややきょとんとした顔になって徐庶に返した。
「騎兵に弓、弩だけじゃなくなってきて」
「手は打てるだけのものを打たないといけません」
 軍師として当然の言葉だった。
「だからこそです」
「そうなるのね、やっぱり」
「はい、ですから」
「わかったわ。黄里ちゃんのその案もね」
 いいとだ。笑顔で答える劉備だった。
「勝たないといけないから」
「はい、敗北はこの世界とあの世界の崩壊です」
「そうなりますから」
「絶対に勝たないといけないです」
 軍師三人は同時に劉備に話した。
「だからこそ打つ手は全て打って」
「そのうえで決戦に挑みましょう」
「それにです」
 徐庶が次に言うことはというと。
「補給もです」
「御飯に武器も」
「はい、それを忘れてはどうしようもありません」
「そうよね。お腹が空いたらね」
「赤壁は国の中での戦いでしたから然程問題にはなりませんでした」
「けれど次の戦いは国の外で行うものだから」
「そこが問題になります」
「補給路の確保もです」
「それも忘れないようにしましょう」
 孔明と鳳統も言う。補給について。
「さもなければそこを衝かれて敗北です」
「只でさえそうした行動が得意な相手ですし」
「そうそう、何しろ急に出て来るからね」
 馬岱もこれまでの戦いで相手のことが熟知していた。
 だからこそだ。彼女は今言うのだった。
「補給路だって注意しないと」
「万全に万全を期してです」
「そのうえで決戦に向かいましょう」
「そうね。負ければ二つの世界が崩壊させられるからね」
 劉備もだ。強い顔で軍師達の言葉に応える。
 そしてだ。こう命じたのだった。
「ではあらゆる準備をお願いします」
「最後の戦いに勝つ為にも」
「その為にも」
 孔明達もだ。今は強い顔になっていた。気弱な彼女達だが今はだった。彼女達の最大限の強さを見せてだ。そのうえで劉備の命令に応えたのである。
 劉備達が決戦の用意を進める中でだ。都の北からだ。不穏な気配が漂ってきていた。
 最初にそれに気付いたのはミナだった。彼はその北の方を見て言うのだった。
「来たわ」
「来た!?まさかと思うけれど」
「連中なの!?」
「間違いないわ」
 こうだ。ミナはマリーと舞に答える。
「彼等が。また来るわ」
「数はどの位かしら」
「全軍!?奴等の」
「数は数人程度よ」
 それ位しかいないとだ。ミナは答える。
「けれど。それぞれの力はかなりのものね」
「じゃああれね」
「オロチやそうした連中ね」
「間違いないわ」
 他ならぬだ。敵の領袖達が来たというのだ。
「散発的に攻めて来るつもりね」
「相変わらず戦いの前から仕掛けて来る奴等ね」
 マリーはミナの言葉を聞いてからだ。
 そのうえでだ。呆れながら、幾分感心しながら言ったのだった。
「ゲリラが好きね、本当に」
「そうね。もうやり方がわかってきたわね」
 舞もいささか呆れた様な笑みになっている。
「それじゃあよね」
「迎え撃つだけね」
「結界は張ってあるわ。都全体に」
 ミナは彼等の妖術についての話をした。
「だから落雷が来ても」
「大丈夫ね。そうした妖術に対しては」
「それなら安心して戦えるわね」
「ええ。それじゃあ」
 ミナが言いだ。そのうえでだ。戦士達のうち何人かが動いた。
 鱗もその中にいた。彼は仲間達と共に都を出てだ。夜の平原を進みながら言った。
「間違いない、奴だ」
「貴殿の同胞のか」
「そうだ。あの裏切り者だ」
 こうだ。隣を進む大門に答えたのである。
「あいつが来た」
「この気配の主か」
「感じるか、貴様も」
「うむ、感じる」
 まさにその通りだとだ。大門は細い目のままで述べる。
「この気配、尋常なものではないな」
「あいつは一族を裏切った」
 顔の下半分を隠している覆面の下にだ。表情は消していた。  
 しかしその目に嫌悪を見せてだ。鱗は話すのだった。
「そして闇の力を手に入れた」
「そのうえでか」
「闇の中に入った。そのあいつをだ」
「倒すことは貴殿の務めか」
「必ず倒す」
 他ならぬだ。鱗自身がだというのだ。
「だからだ。あいつは俺に任せてくれ」
「うむ、わかった」
 大門は鱗のその言葉に頷いてみせた。
「それではだ。この戦いをだ」
「勝つ。必ずな」
 こう話しながらだ。彼等は平原を進みだ。夜明け近くにだ。
 まだ暗い平原の真っ只中でだ。彼等と会ったのだった。
「来るねえ、やっぱり」
「何かもう御決まりね」
「察しているのね」
 社にバイスとマチュアが言う。彼等もいた。
「まあ。今回は楽しみで攻めて来たんだがな」
「戦いたくてね。決戦の前に」
「それで来たのだけれど」
「言ってくれるものだ」
「戦いは遊びですか」
 その彼等にだ。キムとジョンが言い返す。
 そしてそのうえでだ。彼等はそれぞれバイス、マチュアの前に来た。そのうえでだった。
 オロチの女達にだ。こう告げたのである。
「世界滅亡の野望を捨てろ」
「そんなことをしても何もなりませんよ」
「それは人間の考えね」
「オロチの考えは別よ」
 当然だがだ。オロチは彼等の言葉を否定した。
 そのうえでだ。二人に対して言うのだった。
「ここで数を減らすのもいいわね」
「じゃあ行くわよ」
「貴様等のその望み、何としてもだ」
「防いでみせましょう」
 キムもジョンも構えに入る。そのうえでだ。
 彼等は戦いに入った。そしてその横では。
 社がだ。既に大門と戦いに入っていた。その中でだ。
 彼はだ。こう大門に言うのだった。
「あんたと俺は似た技を使うがな」
「投げるものか」
「それに地震だな」
 それもあるというのだ。
「技自体は似ているよな」
「確かにな。それはな」
「けれど他は全然違うな」
 大門が繰り出す地震をだ。社はしゃがんで身を護りだ。
 そのうえで防いだ。そして言うのだった。
「まるで水と油だな」
「少なくともわしは御主を認めない」
「認めないっていうのかね」
「性格はどうでもいい。しかしその考えはだ」
「俺のオロチとしての考えはっていうんだな」
「何故世界を滅ぼそうとする」
 拳を繰り出す。しかし社はそれを防ぐ。
 逆に社が大門の頭を狙い蹴りを繰り出す。しかしそれはだ。
 大門が防ぐ。彼等は攻防を繰り返しながら己の言葉もぶつけ合っているのだ。
 その中でだ。大門は社に問うたのである。
「この世界を。それは何故だ」
「だからな。オロチだからだよ」
 澱みはなかった。全くだ。
 当然といった口調でだ。彼は大門に述べたのである。
「わかるよな。俺は人間じゃないんだよ」
「人ではないというのか」
「ああ、身体は人さ」
 しかしそれでもだというのだ。彼は。
「だが心はオロチなんだよ」
「それ故にだというのか」
「俺はオロチ、人間じゃないんだよ」
 攻防を続けながらだ。彼は話すのだった。
「だからオロチの論理で動いてるんだよ」
「そういうことか。しかしだ」
「あんたは人間として戦うんだな」
「如何にも。わしは人間だ」
 紛れもなくだ。そうだというのだ。
「その人間としてだ。貴様等を止める」
「何度も聞いてるがいい言葉だよ」
「何っ、いいというのか」
「ああ、人間の考えではそれが正しいんだろうな」
 大門が投げようと掴んでくるところをだ。素早く後ろに下がってかわした。
 そうして間合いを離してからだ。彼は言ったのである。
「だがな。人間自体がな」
「害悪だというのか」
「文明ができてからどうなったんだ?」
 社が問うたのはこのことだった。
「地球は破壊されてああなったな」
「我等の世界か」
「自然がな。地球のあり方なんだよ」
「それ故に人を滅ぼすのか」
「そうさ。そうした意味で俺達は刹那とも同じ考えなんだよ」
 この世と常世を結びつけてだ。人の世界を滅ぼそうとする彼ともだというのだ。
「こっちの世界の司馬尉や時空を超える于吉達ともな」
「人を滅ぼすという目的はか」
「俺達は自然に戻すんだよ」
 この世の全てをだというのだ。
「その為にはな。人間はもう邪魔なんだよ」
「では聞こう」
 再び拳と蹴りの応酬になった。大門は足払いを仕掛ける。社はそれを跳んでかわす。
 今度は社が上から蹴りを出す。大門はそれを掴み取ろうとする。
 だが社はそれを空中で体勢を立て直してかわしてだ。着地した。
 そうした攻防の中でだ。大門は社に問うたのである。
「人を滅ぼしその巻き添えで死ぬ他の動物達についてはどう思う」
「あと植物もだよな」
「そうだ。その者達についてはどう考えている」
「さてな」
 軽い調子でだ。返した社だった。
「まあ犠牲はつきものだからな」
「自然を取り戻す為のか」
「自然ってのは災害でもあるんだよ」
 言いながらだ。社は実際に地震を放つ。大門は自分の地震でそれを相殺する。
 その中でだ。社は大門に言うのだった。
「その中で死ぬ生きものだっているだろ」
「それは構わないというのか」
「そういうことだよ。それが自然だからな」
 命自体にだ。素っ気無く述べる社だった。
「そんなことはわかってる筈だろ?」
「そうだな。確かにわかったことがある」
 ここで言う大門だった。
「それはだ」
「それは?何だってんだい?」
「貴様等もまた独善だ」
 このことをだ。大門は確信したのだ。
「貴様等の正義だけを考えているだけだ」
「それが悪いってのかい?」
「それもまた悪だ」
 独善、それが即ちだというのだ。
「それにより多くの者達が害されるのならばだ」
「じゃああれかい?人間が自然を守るっていうのか?」
「そうだ。人は確かに自然を破壊する」
 大門もだ。このことは否定しない。
 しかしそれと共にだ。こうも言うのだった。
「だが。その自然を守る者もだ」
「人か」
「それを見せよう、貴様等独善の者達に」
「言ってくれるな。じゃあ見せてもらおうか」
 不敵な笑みを浮かべてだ。社はだ。
 大門に向かって突進し攻撃をかけようとする。大門はそれを受ける。
 そのまま力比べに入る。二人の攻防も本格化してきていた。
 ゲーニッツはハイデルンと闘っている。司馬尉は関羽と。関羽は司馬尉と闘いながら彼女に告げた。
「その欲望、私が断ち切る!」
「私の国を築くことが欲望だというのね」
「この世を魔界にせんとするその欲望をだ!」
「人だけで何が面白いのかしら」
 落雷は使えない。しかしだ。
 その両手から繰り出す蛇の如く黒い瘴気を以てだ。司馬尉は関羽と闘っている。
 その瘴気を放ちつつだ。彼女は言うのだった。
「魔がいてこ世界は彩られるというのに」
「そしてその魔の上にか」
「そう。私が君臨するのよ」
 振り下ろされる関羽の大刀をだ。瘴気で絡め取った。
 そうしながらだ。彼女は関羽に告げる。
「その魔界においてね」
「貴様、では」
「魔王だというのかしら」
「そうでなないのか」
「魔王ではないわ」
 それは否定する。悠然とした笑みでだ。
 その笑みには闇が満ちていた。その笑みで関羽に告げるのである。
「私は王ではないわ」
「王ではない。では何だ」
「皇帝よ」
 目がだ。紅く無気味に輝く。
「私は魔界の絶対者になるのよ」
「だから皇帝なのか」
「魔皇帝ね」
 まさにだ。それになるというのだ。
「それが私なのよ」
「皇帝。前にも言っていたが」
「この九尾の狐の力、いえ」
「いえ、何だ」
「見るがいいわ」
 言いながらだ。関羽と攻防を続けていた。
 大刀と瘴気が力比べをしている。その中でだった。
 司馬尉はその背にあるものを見せてきた。それは何かというと。 
 司馬尉に血を与えた狐だ。尾が九つある。しかしだ。
 それだけだはなかった。狐の頭も九つだった。そのあまりもの異形の狐を見てだ。関羽はその顔に驚愕を見せた。
「その狐は!」
「知っているかしら」
「あの人を喰らう狐か」
「そうよ。私の中の狐がさらに力を増してね」
「その狐になったというのか」
「九尾の狐がさらに生きるとね」
 どうなるかというのだ。それにより。
「九頭も得るのよ」
「そして妖力をさらに強めるのか」
「これでわかったかしら。私は魔界の皇帝になるのよ」
「魔王を超えて」
「そう。その私を防ぐことは誰にも出来ないわ」
 人の笑みではなかった。完全に異形の者の笑みだった。
 そしてその九頭の狐の力でだ。関羽を押してきていた。
「さあ、貴女を喰らってあげるわ」
「くっ!」
「九頭の九尾の狐のこの力でね」
 関羽が押されてきていた。この戦いは危うくなってきていた。しかしだ。
 その司馬尉のところにだ。弓が来た。そしてだ。
 瘴気を横から撃ち威力を弱めた。その隙にだ。
 関羽は瘴気から脱してだ。一旦後ろに大きく跳んだ。そうしてだ。
 何度か後方宙返りをして着地した。そして弓矢が来た方を見た。そこにいたのは。
「紫苑!」
「間に合った様ね」
 黄忠だった。そしてだ。
 他の者達もいた。五虎将が全員だ」
「愛紗、危なかったのだ!」
「まさか御主が押されるとは思わなかったがな」
「あたし達も助太刀するぜ!」
 張飛、趙雲、馬超がだ。それぞれ関羽に言う。
「これで五対一なのだ」
「一人では無理でもこれならどうか」
「幾ら化けものでもな」
「それにしても。私達も見せてもらったわ」
 黄忠は深刻な面持ちで司馬尉を見つつ述べた。
「その九頭をね」
「貴女達も見たのね。私の中にあるものを」
「御前、本当に人間じゃないのだ」
 張飛もだ。このことについて言う。
「完全に妖怪になっているのだ」
「その狐、最早放ってはおけぬな」
「どっからどう見ても邪悪な存在じゃねえか」
 趙雲と馬超もそれぞれの槍を構えてだった。
 そのうえでだ。司馬尉を囲みつつ告げるのだった。
「一対一が武人の基本だがな」
「今回ばかりはそうも言っていられないみたいだな」
「来るといいわ」
 五虎将全員に囲まれる。しかしそれでもだ。
 司馬尉は悠然としてだ。彼女達に告げたのである。
「魔皇帝の力、見せてあげるわ」
 五人と魔狐の戦いも本格的なものになる。そして鱗は。
 かつての同胞龍と闘っていた。技自体は同じだ。しかしだ。
 その威力が違っていた。龍の技の前にだ。
 鱗は完全に押されていた。その彼にだ。
 龍はだ。侮蔑する声で言ったのだった。
「この程度か。やはりな」
「龍、その力をどうするつもりだ」
「知れたこと。俺は極限までの強さを求める」
 これが龍の返答だった。
「そしてそのうえでだ」
「この世界、俺達の世界をか」
「世界なぞはどうでもいい」
 それはだというのだ。
「しかしそれでもだ」
「それでもだというのか」
「俺は強くなるだけだ」
 そしてその為にだというのだ。
「他の者なぞ構いはしない。それだけだ」
「それが今の貴様か」
「どうだ。この力は」
 闘いながらだ。龍は鱗に問う。
「貴様も最早恐れるに足りん」
「くっ・・・・・・」
「ではだ」
 龍がだ。最後の技を出そうとする。しかしだ。
 ここでだ。鱗の隣にだ。彼が来た。
 ケイダッシュだ。そしてマキシマもいる。二人がだ。
 それぞれだ。鱗に対して言ったのである。
「よお、水臭いな」
「チームメイトに声をかけてくれないのか」
「御前達、何故」
「言った筈だぜ。仲間だってな」
「仲間ならどうあるべきか」
「仲間のピンチには颯爽と現われるものだろ」
「だからこそ来た」
 それ故にだとだ。いささかキザに言う彼等だった。
 その彼等はだ。今度は龍に対して言った。
「じゃあいいな」
「俺達も貴様の相手をする」
「ふん、三人でか」
「そうさ。三対一だ」
「これならどうか」
「同じだ」
 三人になってもだとだ。龍は構えながら話す。
「貴様等に俺は倒せん」
「いや、それはどうか」
 鱗がだ。その龍に返す。
「俺一人では貴様に勝つことは難しくともだ」
「それでもだというのか」
「三人ならば勝てる」
 こう言うのだった。
「それを言っておこう」
「じゃあ行くぜ」
「いいな」
 ケイダッシュとマキシマがだ。呼吸を合わせてだ。
 鱗に言う。そして鱗もだ。
 彼等と呼吸を合わせてだ。そうしてだった。
 三人一度にだ。渾身の技を繰り出す。しかしそれは。
 龍によって受けられた。彼は防いだ姿勢で凌いでいる。その彼を見てだ。
 ケイダッシュはだ。笑みで彼に問うた。
「何時まで持ち堪えられるだろうな」
「くっ、この力・・・・・・」
「手前も強くなっただろうな。だがな」
「それでもだというのか」
「俺達はもっと強くなったんだよ」
「鱗、だからだ」
 マキシマはその鱗に述べる。
「その力を全て出せ」
「そうしてか」
「それで御前の因果を終わらせろ」
 マキシマも鱗も龍に技を打ち込み攻防を行っている。その中での話だった。
「わかったな」
「そうしていいのだな」
「御前の一族の因果だ。それならだ」
 こう鱗に告げたのだ。それを受けてだ。
 彼はだ。一旦その攻撃を中断してだ。
 その手にだ。渾身の力を込めてだった。
 龍を切り抜いた。一瞬だった。だがその一瞬でだ。
 全ては決した。龍の全身を瞬時に毒が走りだ。
 がくりと片膝をついた。そのうえで言うのだった。
「毒手か」
「そうだ。俺の毒手は知っていたな」
「如何にも。しかしこの毒は」
「俺が独自で強めた毒だ」
 それでだ。彼を切ったというのだ。
「この毒ならば貴様とて無事では済むまい」
「確かにな」
 その通りだとだ。龍はその声に次第に苦しみを多くさせていた。
「ぬかった、これで俺は」
「終わりだ」
 龍に告げる言葉はこれだった。
「全てはな」
「ではだ」
 死ぬ、それならばだと言う龍だった。
「俺は去ろう」
「骸は見せないというのか」
「そうだ。ではだ」
 こうしてだった。龍はだ。
 何処かへと姿を消した。そうしてだった。
 後に残ったのは鱗達だった。その彼がだ。
 静かな口調でだ。こうケイダッシュとマキシマに述べたのだった。
「終わった」
「ああ、これでな」
「因果がまた一つ終わったな」
「これで俺は一族の務めを果たした」
 それは確かだ。しかしだった。
 彼の言葉には空虚なものがった。そうしてだ。
 彼はだ。こう言ったのだった。
「抜け殻になりそうだ」
「抜け殻にか」
「そうなりそうか」
「だが。それは違うな」
 自分でだ。その結論に至ったのだ。
 そうしてだった。彼はあらためて言ったのである。
「俺はまたやることがある」
「ああ、あいつとの因果を終わらせてもな」
「それはまだあるな」
「それを見つける。さしあたっては一族のだな」
 そのだ。一族のことだった。
「生き残りを集めてまた動くか」
「そうするか。それじゃあな」
「少しだけ休んでな」
「いや、休む暇はない」
 マキシマの言葉をすぐに否定してのものだった。
「いよいよ決戦だからな」
「決戦、そうだな」
「間も無くだったな」
「龍は倒したが連中はまだ健在だ」
 そのだ。オロチや于吉達である。
「奴等を倒し二つの世界を救う」
「そうだな。俺達はあまりそうしたことはしないんだがな」
「今回はな」
「ちょっとやってやるか」
「やるからには勝つ」
 こうだ。ケイダッシュとマキシマは御互いを見合ってだ。そうしてだ。
 微笑み合いだ。こう言い合ったのである。
「よし、じゃあやるか」
「今からな」
 こう話してだ。彼等は一つの戦いが終わったことを実感しおた。そうしてだ。
 他の者達もだ。龍の敗北を見てだ。まずはゲーニッツが言った。
「さて、今回はです」
「もう帰るというの?」
「龍が死んだから」
「もう少し運動をしたかったのですが仕方ありません」
 やはりだ。彼の退場があるというのだ。
「ですから今回はです」
「大人しく撤退して」
「決戦に心を切り替えろというのね」
「その通りです」
 まさにそうだとだ。バイスとマチュアに答えるゲーニッツだった。
 そのやり取りからだ。彼が最初にだった。
 撤退に入る。そうしてだった。
 他の面々も次々に姿を消す。社もだ。
 大門に対してだ。軽い笑みを浮かべて手を振って言ったのである。
「じゃあな。バイバイ」
「去るのか」
「今回も引き分けだな」
「そうだな。しかしだ」
「決着は次だっていうんだな」
「そちらもそのつもりだと思うが」
「ああ、その通りさ」
 その軽い笑みで大門に答える社だった。そのうえでだ。
 彼はだ。大門にまた言ったのである。
「じゃあすぐに会おうな」
「次で決めるとしよう」
「言われなくてもそうなるさ」
 次の戦いが決戦になることは社もわかっていた。だからこそだった。
 大門に対してだ。軽くこう言ったのである。
「じゃあ。最後の最後にな」
「終わらせるとしよう」
「そういうことだな」
 大門に告げてからだ。社も姿を消したのだった。
 戦いは終わった。それを見てだった。
 関羽がだ。こう一同に告げた。
「ではだ。敵もいなくなった」
「じゃあここは帰るのだ」
「これ以上ここにいても仕方ないわね」
 張飛と黄忠がその関羽に応える。そうしてだった。
 彼等は都に戻る。その中でだ。
 関羽は険しい顔でだ。仲間達に述べたのだった。
「あの狐だが」
「あの九頭の狐か」
「あれかよ」
「あれだけ邪悪な存在は見たことがない」
 こうだ。趙雲と馬超に述べたのである。
「九尾の狐のことは聞いていたがな」
「確かにな。あの妖気な」
「これまでより遥かに凄かったな」
 趙雲と馬超の顔も曇っている。その九頭の九尾の狐の妖気を見てだ。
 そしてだ。張飛は言ったのだった。
「あの妖気なら本当に国を滅ぼせるのだ」
「そうね。気は世を覆うっていうけれど」
 黄忠も深刻な顔になっている。彼女も仲間達と同じことを考えているのだ。
 それで項羽の言葉を出したのである。史記にあるそれをだ。
「恐ろしい相手になったわね、さらに」
「私も遅れを取った」
 呂布に匹敵する強さを持つ関羽ですらだというのだ。
「あの妖気、どうしたものか」
「一人では無理なのだ」
 張飛がその関羽に言った。
「けれど五人ならいけるのだ」
「五人か」
「そうなのだ。鈴々達五人なら充分戦えたのだ」
 これはその通りだった。実際に五虎全員で戦い五分だった。張飛はそれを言うのだった。
 張飛のその話を聞きだ。関羽もだ。
 少しだけ微笑みになりだ。こう言うのだった。
「そうだな。一人で駄目でもな」
「五人なら勝てるのだ」
「そうだ。我等が力を合わせてだ」
「あの司馬尉を倒そうぜ」
 趙雲と馬超も言ってだ。そうしてだった。
 関羽は明るさを取り戻してだ。そのうえで仲間達に話した。
「では。最後の戦いの時はだ」
「五人であの狐を倒すのだ」
 張飛は明るかった。その明るさで関羽の心を照らしてだ。そのうえで言ったのである。
 戦士達は都に帰った。そうしてそのうえでだ。最後の決戦の準備をまた行うのだった。


第百三十一話   完


                              2011・12・16



孔明たちが策を練る中、またしても襲撃か。
美姫 「司馬尉はかなり強くなっているみたいよね」
だな。でも、張飛の明るさで必要以上に塞ぎ込む事もなかったみたいだし。
美姫 「一人とは言え、また向こうの戦力を少し削ったしね」
ちょこちょこと来る襲撃と言うのは結構、厄介な物だけど。
美姫 「常に警戒しないといけないものね」
ああ。でも、その度に戦力を減らしているけれど。
美姫 「多分、そんな事は気にもしないんでしょうね」
本格的にぶつかるのも近いかな。
美姫 「どうなるかしらね」
次回も待ってます。
美姫 「待ってますね」



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