『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                            第十二話  劉備、先祖伝来の宝剣を手放すのこと

 赤とピンクの中間色の長い髪にだ。優しい青い目をしている。細い眉も垂れていてそれもまた優しい印象を見る者に与える顔をしている。口元は常に微笑んでいる。
 顔立ち全てが優しくだ。しかも整っている。質素な薄い草色の上着と膝までのスカートを身に着けている。かなり大きな胸が目立つ。
 この少女は今川辺の港町の中にいた。そこで商人達と話をしていた。あまり大きくはない港町であるがそれでも行き交う人はそれなりにいる。
「あの、それじゃあお茶は」
「普通のお茶はあるんだがね」
 商人がこう彼女に返していた。
「そのお茶はちょっとここじゃね」
「そうですか。ないんですか」
「この幽州は最近ね」
 商人は曇った顔で少女に言うのだった。
「あれじゃないか。太守様がいなくて」
「あれっ、いないんですか」
「そうだよ、いないんだよ」
 公孫賛のことは知らないのだった。
「実は」
「そうだったんですか」
「そうなんだよな。青州とかは袁紹様が領主だけれど」
「最近涼州にも出られているそうですね」
「そうそう。四つの州の御領主様なんだよ」
 袁紹のことは知られているのだった。
「ところがね。この幽州は僻地だしねえ」
「そうですよね。異民族もいますし」
「領主様も不在ときた。景気がよくなる筈がないさ」
「困ったことですね」
「袁紹様が来てくれれば有り難いのじゃがな」
 彼女は政治家としては評判がよかった。四つの州を万全にしていることが非常によく知られていた。それで彼女が来ることが望まれていたのだ。
 しかしであった。それについてはこう言われるのだった。
「もっともじゃ。その袁紹様もお忙しくてじゃ」
「幽州はまで、なんですね」
「その通りじゃ。匈奴やら何やらを下に収めたりと大変じゃからな」
「それじゃあ当分は」
「うむ、誰もおらんままじゃ。それでもそこそこ上手くはいっておるがのう」
 やはり公孫賛のことは忘れているのだった。彼女の政治はそれ程悪くはないガだ。それでも完全に忘れられてしまっているのだった。
 しかしだ。少女はここで言うのだった。
「あれ、白々ちゃんは?」
 右手の人差し指を唇に当てて青い目を上にさせての言葉だった。
「何処に行ったのかな。北の方の領主様になったって聞いたけれど」
「まあ今はそのお茶はないのう」
「そうですか」
「黄金茶はな。悪いがじゃ」
 また言う商人だった。
「他のお茶では駄目なのじゃな」
「すいません、どうしてもお母様に飲んでもらいたくて」
「しかしないものはない」
 商人の言葉は変わらない。
「そういうことじゃ」
「わかりました」
 これで話は終わった。少女は商人と別れ港町も後にした。そして暫く山道を歩いているとだった。茶屋を見つけたのでそこに入った。するとだ。
 金髪をリーゼントにさせた黒い目の精悍な男がいた。逞しい身体をしておりオレンジの道着に黒い帯とシャツを着ている。足には下駄がある。
 もう一人は黒い髪を後ろでくくっている彫のある明るい顔の男だ。黒いシャツにオレンジのベスト、それと白いズボンという格好である。彼も逞しい身体をしている。
 最後の一人は長い黒髪を後ろで三つ編みにしている少女だ。青いスパッツに白い道着という格好だ。靴はシューズで黒い目の光が生き生きとしている。
 その三人が茶屋の中でだ。それぞれ餅や団子を食べながら話をしていた。
「それでロバート」
「何や?」
 その彫のある顔の男が金髪の男の言葉に応えていた。
「どないしたんや?」
「どないしたも何もここは何処なんだ?」
「中国らしいな」
「中国か」
「けどお兄ちゃん」
 今度は少女が出て来た。彼女は団子を食べている。
「ここって絶対に現代じゃないよ」
「じゃあ何時なんだ?」
「さあ」
 少女は今の兄の問いには首を捻るだけだった。
「何処なんだろうね」
「わからないか」
「昔なのはわかるけれど」
「そやな。食べ物は今と同じみたいやがな」
 黒髪の男がこれは言った。
「焼きそばとか寿司はないのが残念やけれどな」
「ロバート、御前それ好きだな」
「そういうリョウ、御前もホンマ餅好きやな」
 ロバートと呼ばれた彼は彼の名前を呼びながら彼が餅を次々に食べていることを指摘した。
「相変わらず」
「餅はいい食べ物だろ」
「まあそやけれどな」
「御前の場合はイタリア人なのに何で焼きそばや寿司なんだ?」
「ええやろ。美味いやろが」
 ロバートは顔を少し顰めさせてリョウに言い返した。
「どっちもな」
「それでか」
「和食は最高や。特に大阪のはや」
「っていうかロバートさんって実は大阪人なんじゃないかしら」
 少女は首を傾げさせながらこう言うのだった。
「喋り方だってそうだし」
「これはええやん」
 ロバートは自分の喋り方について自分で弁護した。
「わい確かに日本好きやしな」
「けれど馴染み過ぎじゃないの?」
「ユリちゃんもそう言うんかいな」
「ちょっと」
 ユリと呼ばれた少女も答える。
「やっぱりね」
「わい生粋のイタリア人やで」
「しかし完全に日本人になっているな」6
 リョウはまたそれを言った。
「顔以外はな」
「顔も段々日本人になってきてるわよね」
「大阪のそれにな」
 こう二人で言うリョウとユリだった。
「ロバートさんって前からそんなところあったし」
「かなりな」
「そやろか」
 ロバートは首を傾げさせながら述べた。
「わいはそうは思ってないんやけどな」
「絶対にそうだ」
「そうよ」
 二人が突っ込みを入れる。そんなやり取りをしながら店の中にいた。そこにあの少女が来たのだった。
 丁度席は満席だった。それで店員から相席でもいいかと言われたのだった。
「それでいいですか?」
「あっ、はい」
 特に思うことなく頷いて応えたのだった。
「わかりました。それじゃあ」
「はい、それではそれで」
「御願いします」
 背中の荷物を背負ったまま席に向かう。そして席の傍でその荷物を下ろしてから。その話をしている三人に対して声をかけたのだった。
「あの」
「何や?」
 ロバートが彼女の言葉に応えた。
「どないしたんや?」
「相席いいですか?」
 こう三人に言うのだった。
「よかったら」
「ああ、ええで」
 ロバートがすぐに返答を返した。
「そやったらな」
「はい、それでは」
「何か奇麗な娘ね」
 ユリはその彼女を見て言った。
「胸も大きいし」
「ユリ、何処を見ているんだ」
 リョウは少し呆れた顔でユリに対して告げた。
「一体何を考えているんだ」
「だって。たまたま目に入ったから」
 だからだと返すユリだった。
「それでだけれど」
「それでなのか」
「そうよ。それでね」
「ああ、それでか」
「あの」
 ユリから少女に声をかけた。そしてだ。
「貴女この国の人ですよね」
「はい、そうです」
 少女はこうユリに対して答えた。
「その通りです」
「そうなのね」
「貴方達は違うんですか?」
「それやけれどな。ここ何処なんや?」
 ロバートがいぶかしむ顔で少女に対して問うた。
「それが気になるんやけれどな」
「ここ、ですか」
「そうだ。ここは何処なんだ?」
 リョウも少女に対してこのことを問うた。
「一体どんな国なんだ?中国らしいが」
「中国?」
 少女は注文したお茶を両手に持ちながら少しきょとんとした顔になった。
「何処ですか、そこは」
「俺達はアメリカから来たんだが」
「知らないかしら、アメリカ」
「アメリカ?」
 少女の顔はさらにきょとんとしたものになった。
「はじめて聞く名前ですけれど。国ですか?」
「おい、まさかこの娘」
「そうよね」
 リョウとユリがここで顔を見合わせて話をはじめた。
「どうやらアメリカを知らないらしいな」
「中国も知らないの?」
「ここは漢って国ですけれど」
 こう話す少女だった。
「それで幽州っていいます」
「ああ、漢かいな」
 ロバートがここで頷いた。
「それで幽州なんやな」
「はい、そこです」
「やっぱりめっちゃ昔やな」
 ロバートはそれはよくわかった。
「ここは」
「昔?」
「まずわいから名乗るで」
 ロバートは自分からそうすることにした。
「わいの名前はロバート=ガルシアや」
「俺はリョウ=サカザキ」
「ユリ=サカザキよ」
 後の二人も名乗ってみせた。
「気付いたらこのサウスタウンからこの世界に来ていた」
「これはどうしてなの?」
「あの、ええと」
 言われながらきょとんとする少女だった。だが彼女もここで名乗るのだった。
「私は劉備玄徳といいますけれど」
「劉備!?」
「劉備っていったら」
 ここから話は本題に入るのだった。三人と劉備はお互いについての話をはじめた。劉備と三人はお店を出てそのうえで道を歩きながら話していた。
 その中でだ。リョウがその少女劉備に対して言うのだった。
「そうか、ここはそうした世界か」
「はい、そうなんです」
「わい等の世界とは全然ちゃうな」
 ロバートも言う。
「何もかもがやな」
「そうよね。別の世界なのね」
 ユリも言う。
「本当にね」
「そうなんですか。それで貴方達はアメリカっていう国から来て」
「ああ、そうなんだ」
 答えたのはリョウだった。
「実はな」
「わかりました。それでなんですけれど」
 劉備がおっとりした口調で三人に問うた。
「貴方達はこの国に来てどれ位経つんですか?」
「二週間位ね」
 こう答えるユリだった。
「それ位よ」
「二週間ですか」
「路銀は用心棒や山賊退治で稼いでいる」
 こう話すリョウだった。
「それで何とかやっているが」
「行くあてがあるかっていうと」
「これがないんやな」
 ユリとロバートが答える。
「何か南の方には大きな国があって領主もしっかりしているらしいが」
「私達道もあまりわからないし」
「それで困ってるんや」
 三人はそれぞれ劉備に話す。
「とりあえずこれから仕事でも探さないとな」
「ここはそういうのあまりないし」
「どっかないやろか」
「そうですね。道もわからないんですよね」
 劉備はこのことも話した。
「それだったら」
「どうしたらいいんだ?」
「それやったら」
「どうしたらいいかしら」
「そうだ、地図だ」
 ここで言ったのはリョウだった。
「地図を手に入れればいいんじゃないか」
「あっ、そやな」
「そうよね」
 それにロバートとユリも気付いたのだった。
「地図買うたらそれでや」
「充分行けるわよね」
「中国は広いしな」
 リョウはこのことも言うのだった。
「そうしたところや地形は一緒らしいけれどな」
「そやな、そやったらや」
「まずは地図を買いましょう」
「地図でしたら」
 ここで劉備が言ってきた。
「本屋さんで売ってますよ」
「それじゃあすぐに本屋さんに行って」
「今から」
「そうするか」
 三人で話すのだった。そしてだ。 
 お菓子屋を出てそのうえでさらに先に進む。だがまだ山道である。
 その中でだ。リョウは言うのだった。
「それで本屋は何処だ」
「本屋さんですか?」
「そうだ、それは何処にある」
 このことを言うのだった。
「山道ばかりだが」
「何処でしょうか」
 これが劉備の返答だった。
「一体」
「おい、待ってくれや」
 ロバートが速攻で突っ込みを入れた。
「あんたが知らんで何でわい等が知ってるんや」
「そうよね。劉備さんが知らなくてどうして私達が」
「ここから少しいったら街があります」
 しかしここで劉備が言った。
「そこに行けば多分」
「あるんだな」
「はい、あります」
 こう話すのだった。
「多分ですけれど」
「何か頼りないわね」
 ユリはそんな劉備の話を聞いて述べた。
「劉備さん自体がそうだけれど」
「まあそれはいいとしてだ」
「とにかく地図や」
 リョウとロバートが言う。
「まずはそれを買ってだ」
「そないしよか」
「それじゃあまずは街ね」
 三人はそれぞれ話してだった。劉備と共にその街に向かう。だがだ。
 その前に夜になった。夜は野宿だった。
 四人で焚き火を囲んで捕まえた魚を焼きながら話をしている。劉備は三人を驚いた顔で見ながらそのうえで魚を食べつつ言うのだった。
「皆さん凄いですね」
「凄いか?」
「わい等がかいな」
「だってさっき」
 彼女が見たものを見ての言葉だった。
「気を使われましたね」
「それか」
「ああ、そのことかいな」
 二人もまた魚を食べつつ応える。見れば結構な数の魚達が木に突き刺されそのうえで焚き火で焼かれている。それを食べているのだ。
「あれは俺達の技だ」
「空手やねんや」
「空手?」
「私達の時代の格闘技、いえ武道ね」
 ユリが話した。
「それなのよ」
「格闘っていうと」
「つまり戦う為の技だ」
 リョウは劉備に簡単に説明した。
「それだな」
「それじゃあ皆さんは武人ですか」
「いや、武人ではない」
「それはちょっとちゃうんや」
 リョウとロバートが劉備の今の言葉に答える。
「それとは別にだ」
「また別の。格闘家とか武道家いうてな」
「そういう人達なんですか」
「ああ、俺達の空手は極限流空手という」
「創始者は私達のお父さんなのよ」
 ユリはこのことを話した。
「もうね。私達よりも強くて」
「厄介な親父だ」
「自分の正体ばれてへんって思ってたりするしな」
 ここで三人はそれぞれ話した。
「蕎麦打ちしたら止まらないし」
「天狗のお面好きだしな」
「そもそも何時まで現役やねんやろな」
「何か凄いお父さんなんですね」
 劉備にもこのことはわかった。
「その人って」
「ああ、ひょっとしたら親父もこの世界にいるかも知れない」
「その時は注意してね」
「結構以上に困った人やからな」
 多少うんざりした顔で話す三人だった。
「しかも気を使うのもな」
「私達よりずっと凄いのよ」
「ほんまにな」
「気ですか」
 劉備はここでそれも思い出した。
「さっき皆さんがお魚を捕まえる時に使ったあれですよね」
「そうだ、それだ」
 リョウはまさにそれだと話した。
「さっき俺達は水面にいる魚に拳から気を放ってそれで水面に出して捕まえていたな」
「はい」
「あれが気なんや。他にも色々な技に気を込めて使ってるで」 
 ロバートはこう話す。
「それで戦ったりするんや」
「成程」
「かなり強い技やで」
 また話すロバートだった。
「これで熊でも倒せるしね」
「熊もですか」
「俺達の武器はそれだ」
 リョウがまた話した。
「これで戦っているという訳だ」
「それじゃあ私のこれと同じですね」
 劉備はここで自分の腰にあるその剣を見るのだった。見れば大きさといい形といい装飾といい実に見事なものである。只の剣でないことは一目瞭然だ。
「この剣と」
「あれっ、そういえば」
 ユリがその剣を見て言う。
「劉備さんってかなり立派な剣持ってるわよね」
「はい、これですね」
「それ何なの?」
「宝剣かいな」
 ロバートはその剣を見てまた言った。
「それは」
「我が家に伝わる剣です」
「伝家の宝剣か」
 今度はリョウが言った。
「それがか」
「我が家は。まあ自称ですけれど」
 ここで少し苦笑いになる劉備だった。
「王家の末裔でして。皇族になるんです」
「ああ、そういえばあんた」
「そやな」
 ここでリョウとロバートが気付いた様な顔になった。
「名前が劉だな」
「ってことはや」
「はい、何でもそうらしいんです」
 こう三人で話すのだった。
「それで御先祖様は随分前の時代の王に任じられていた人で」
「その人から伝わる宝剣か」
「そういうことなのね」
「そうなんです。それで」
「それで?」
 ユリの言葉に応える劉備だった。
「何ですか?それでって」
「劉備さんって何か雰囲気が違うのよね」
 彼女が言うのはこのことだった。
「それってそういうことから来てたのね」
「そうですか?」
「自分では気付いていないのね」
 それをまた言うユリだった。
「成程ね」
「それで剣だが」
 リョウがその剣に対して問うた。
「悪い奴に狙われたりしないようにな」
「わい等はそれこそ使う必要も持つ必要もないけれどな」
 リョウとロバートは劉備に対してこう話した。
「それでもだ」
「悪い奴には気をつけるんや」
「悪い奴、ですか」
「見たところこの国ってあまり治安よくないしね」
 ユリは顔を顰めさせて話した。
「どうもね。あまりね」
「あんたに会うまで随分と山賊にも遭った」
「全部のしてやったけれどな」
「山賊には今まで遭ってないですけれど」
「おい、それは運がいいだけだ」
「そうよ、いいだけよ」
 リョウとルリが劉備に話す。
「それじゃあ何時どうなるかわからないわよ」
「はあ」
「特にその剣だ」
 リョウはその剣を見てまた言った。
「狙われるからな」
「そんなにですか」
「それは気をつけてくれよ」
「まあとにかくわい等は今は街に行くけれどな」
 その先に向かう街だ。そしてだ。
 そのまま四人でその場に寝た。それから起きてまた街に向かう。そこにだった。
 やはり本屋があった。そしてだ。
「よし、地図もあるぞ」
「これ買っておこか」
「そうね、何種類かね」
 三人はすぐに地図を買いはじめた。しかしだった。
 劉備はふと近寄ってきた胡散臭げな男に声をかけられたのであった。
「もし」
「はい?」
「よければですが」
 こう言ってきたのである。
「今お金に困っていまして」
「お金にですか」
「家が破産して何もかもなくなり借金に追われています」
 こんなことを言う。今にも泣き崩れそうな様子である。
「本当にどうしたらいいのかどうか」
「そんなに困ってるんですか」
「はい、そうなんです」
 実際にその場に崩れてみせていた。
「どうしたらいいのか」
「お金が必要なんですか」
 劉備はその男の言葉を聞いているうちに同情を覚えてだ。そうして言うのだった。
「それでしたら」
「それでしたら?」
「これをどうぞ」
 こう言ってその宝剣を差し出したのだった。
「これを売ってお金の足しにして下さい」
「宜しいのですか?」
「はい、どうぞ」
 本気で心配する顔での言葉だった。
「これを」
「いいのですか」
「私は構いません」
 また言う劉備だった。
「ですから貴方が。どうか」
「有り難うございます」
 男は差し出してきたその剣を受け取って恭しく述べた。
「それではこれで」
「はい、貴方が助かって下さい」
「すいません、本当に」
 こう言って一礼してだった。彼はそのまま何処かに姿を消した。そしてその彼と入れ替わりになる形で三人が戻って来たのだった。それぞれの手には地図がある。
「あれっ、劉備さん」
「誰と話してたんや?」
 ユリとロバートが彼女に問う。
「何かあったみたいだけれど」
「どないしたんや?」
「はい、実はですね」
 天真爛漫そのもので今あったことを三人に話す。三人は彼女の話を聞き終えるとだった。苦い顔になってそうして言うのであった。
「おい、それはな」
「絶対に嘘やで」
「そうよ、怪し過ぎるわよ」
 三人は呆れ果てた顔にもなっていた。
「どう考えてもな」
「それ詐欺師か何かやから」
「劉備さんのその剣を見て言ったのよ」
「そうなんですか?」
 だが知らぬは当人ばかりあった。きょとんとした顔で返しもしている。
「あの人は」
「ああ、間違いない」
「確実やな」
「よくそんな人に騙されたわね」
 こう口々に言うのだった。
「それでどうするんだ?」
「困るやろ」
「困ることは困りますけれど」
 劉備の言葉は呑気なままだった。
「けれど大丈夫です」
「どうしてなの?」
「刀も持ってますし」
 言いながらその豊かな胸から短刀を出してきた。丁度袖の中にあったのだ。
「護身用ですけれど」
「いや、あれは先祖伝来なんだろう?」
「それでもええんか?」
「はい、大丈夫だと思います」
 劉備の言葉は変わらない。
「何とかなります」
「だといいんだがな」
「そうなるかしら」
「それでなんですけれど」
 リョウ達の方が心配していた。劉備はその彼等に自分から言ってきた。
「これからですけれど」
「ああ、これから」
「どないするかやな」
「皆さんはどうされるんですか?」
 こう三人に問うのだった。
「地図は手に入りましたけれど」
「そうだな。とりあえずは道場でも開くか」
「どっかでな」
 リョウとロバートが話す。
「何処か大きな街でな」
「この幽州はちょっと人が少ないしな」
「しかも寒いし」
 ユリはこのことも気にしていた。
「だからここ以外で道場を開きたいけれど」
「道場ですか」
「ああ。それであんたはどうするんだ?」 
 今度はリョウが劉備に尋ねた。
「これから」
「お茶があればいいんですが」
「お茶?」
「はい、母にお茶を買って帰りたいと思いまして」
 にこりと笑っての言葉だった。
「黄金茶という。物凄く美味しいお茶がありまして」
「黄金茶か」
「それってこれちゃうか?」
「そうよね」
 ここで三人はあるものを出してきた。それは。 
 黄金の葉だった。まさしくそれこそはだった。
 劉備はそれを見てだ。思わずその目を大きく見開いて言うのだった。
「あっ、これです」
「これか」
「これやったんやな」
「何処で売ってたんですか?」
 劉備はその驚いた顔で三人に問う。
「こんな高価なのが。一体何処に」
「ああ、何か青州ってところでな」
「そこで買ったのよ」
 リョウとユリが劉備に説明する。
「あそこはかなり賑わっていてな」
「それで買ったんだけれど」
「そこでなんですか」
「ああ。丁度何か張三姉妹っていうアイドルグループか?」
「この時代やと旅芸人やろ」
 リョウとロバートはある三人のことも話した。
「その催しがやっていてな」
「そこで手に入ったんやったな」
「あっ、張三姉妹ですか」
 劉備はその名前を聞くと顔を晴れやかなものにさせて述べた。
「今大人気の旅芸人ですよね」
「ああ、知ってたんだ」
 ユリは劉備の今の言葉を聞いて述べた。
「劉備さんも」
「はい。何か歌も踊りも楽器も凄いらしいですけれど」
「確かにな。バランスはいいな」
「そやな」
 リョウとロバートもそれを認める。
「俺達の時代でも充分通用するな」
「日本向けやな」
「そうね。CDとかあったらかなり売れるわよ」
 ユリも言う。
「あの三人だと」
「CD?」
「ああ、俺達の世界の話だ」
「気にせんといてや」
 劉備にこのことは話さなかった。話せばそれだけ長くなるし難しい話だと思ったからだ。それでこれ以上のことは言わないのだった。
 そしてだ。三人はここでその黄金茶を劉備に対して差し出したのだった。
「ほら、これ」
「あげるで」
「えっ、けれど」
「いいんだよ。今の俺達にはあまり飲む機会がないものだしな」
「そやからええで」
 リョウとロバートはにこりと笑って述べた。
「だからな。是非な」
「受け取ってくれや」
「そうなんですか」
「そうよ。お茶も劉備さんのお母さんが飲んでくれたら喜んでくれるわ」
 ユリも温かい笑顔になっている。
「だからね」
「それじゃあ」
 三人全員に言われてだ。劉備も受け取ったのだった。
 そしてだ。四人で街の門のところに行ってだ。そこでそれぞれ別れるのだった。
「それじゃあな」
「またどっかで会おな」
 まずはリョウとロバートが別れの言葉を述べた。
「何かまた会う気がするけれどな」
「縁があったらまたな」
「それじゃあね」
 ユリは明るい顔であった。
「縁があったらまた会いましょう」
「はい、それじゃあ」
 劉備もにこりと笑って三人に応える。
「また御会いしましょう」
「さてと、これからだな」
「道場開く場所探すか」
「とりあえず南に行く?」
 三人は彼等の話をはじめた。
「南の方にね」
「そうだな。北は草原ばかりらしいしな」
「街なんか碌にないって聞いてるで」
「あっ、北は駄目です」
 劉備の方からも言ってきた。
「北は匈奴や烏丸がいますから。行かない方がいいです」
「匈奴っていったら」
「遊牧民族よね」
 リョウとユリは学校で習った知識を思い出して述べた。
「それでこの国の敵だったよな」
「そうよね」
「万里の長城の向こうにいる連中やな」
 ロバートは長城をその言葉に出した。
「えらい強い奴等らしいな」
「最近は何か袁紹さんが服従させて大人しくしているらしいですけれど」
「それでも行かない方がいいか」
「そういうことやな」
「はい、長城から北は行かない方がいいです」
 劉備もそれは言うのだった。
「絶対に」
「わかった。それじゃあな」
「やっぱり南やな」
「そうね」
 ここでそれぞれ言う三人だった。そうしてだった。
 三人と劉備は笑顔で別れた。その時手を振り合いだ。
「また会おうな」
「縁があったらな」
「その時にね」
「はい、さようなら」
 四人はそのまま別れた。そして劉備は自分の家に帰った。その質素な家で貧しい身なりながら不思議な気品を持っている初老の女に一部始終を話す。
 そのうえで黄金茶を手渡す。ところがだった。
「桃香ーーーーーーーーーーーーっ!!」
「どうしたの、お母さん」
「この馬鹿娘!」
 こう言って怒鳴るのだった。
「あの剣は我が家に伝わる家宝なのですよ!」
「それは知ってるけれど」
「それを騙されて手放すとはこの馬鹿娘!」
「えっ!?」
「覚悟しなさい!」
 信じられない、猿の如き速さで娘に駆け寄りだ。そのうえで彼女の首襟を掴んでダッシュする。そうしてそのまま家を出て家の傍の小川のところまで来て。
「そりゃーーーーーーーーーーーっ!!」
「そりゃーーーーーーーーーーっ」
 そのまま小川に放り込まれた。そうしてだった。
「すぐに取り返して来なさい!」
 川の中の娘に対しての言葉だった。
「いいわね、すぐに!」
「すぐに」
 川の中から頭を出して母に応える。とりあえず泳げるらしい。
「行くの?」
「それまで帰ってはなりません!」
 こうも言うのだった。
「わかりましたね」
「わかったわ」
 それに素直に応える劉備だった。
「じゃあ今から行って来ます」
「そもそも貴女は」
「うん」
 川から出ながら母のことばに応える。
「一応皇族なのですよ。それに教育も受けていて」
 母の言葉は溜息交じりであった。
「仕官しようと思えばできるのです」
「仕官のことね」
「それが何ですか。蓆や草靴を作って商いをしていて」
「だって買ってくれる人の笑顔が見たいから」
「それもいいけれどもっと人様の役に立つことをしなさい」
 こう娘に言うのである。
「わかりましたね。それも探してきなさい」
「けれど私戦いとかは」
 劉備はここで困った顔になる。
「嫌いだし」
「戦いはしなければならない時があります」
「そういうのあるの?」
「貴女は今人の笑顔が見たいと言いましたね」
 強い目で娘を見ながらの言葉だった。
「確かに」
「そうだけれど」
「その人の笑顔の為に戦わなければならない時があるのです」
「そうなんだ」
「そうです。やがてわかるでしょう」
 娘に対する言葉だった。まさにだ。
「貴女もまた」
「平和の為に戦う?」
「それもあるでしょう。若しくは」
「若しくは?」
「この世を乱しよからぬことを企てる者達を討つ為に戦う時もあるでしょう」
「この世を」
「その時は戦うのです」
 劉備の目を、娘の目を見据え続けている。
「わかりましたね」
「わかりました」
 劉備はまだ少しわかっていない様子だったがそれでも応えた。
「それじゃあそれも見つけるわ」
「では行きなさい」
 また娘に告げた。
「これから。貴女の道を」
「うん、それじゃあ」
「剣のことも忘れないように」
 このことも言い忘れなかった。
「わかりましたね」
「はい、わかりました」
「素直なのはいいけれど」
 娘のその美徳は溜息と共に認めた。
「けれど」
「けれど?」
「人を疑うことも知らないのね」
「そういうのは好きじゃないし」
「好きじゃなくてもそれで貴女の身に何かあったらどうするのです」
 それを咎めるのだった。
「そうなっては何もなりません」
「それでもそういうのは」
「わかりました。では桃香」
 観念したような顔と言葉だった。
「貴女に天命があるのならそれに導かれて小難は避けられるでしょう」
「歩いていけばいいの?このまま」
「そうです。では行きなさい」
 また娘に告げた。
「いいですね」
「じゃあ行って来ます」
 こうして劉備はまた旅に出た。そしてそれは運命に導かれる大いなるはじまりの旅だった。彼女もまた運命の大きなうねりの中にいたのだ。
 また闇の中に彼等がいた。そうしてだった。
「そうですか。剣がですか」
「あの娘の手から離れた」
 闇の中での話だった。
「そしてどうやら」
「どうやら?」
「袁本初の元に渡りそうだ」
「あの娘のところにですか」
「あの娘はこそ泥の類を許しはしない」
 このことも話された。
「必ず捕まりだ。剣はあの娘のところに入る」
「劉玄徳のところから離れればそれでよいな」
 老人の声だった。不気味さと邪悪さに満ちた声だった。
「それでのう」
「そうね。それでいいわね」
「あの娘しか使えないし」
 若い女と少年の声だった。
「袁紹が持っていても何の意味はないし」
「それならね」
「それでだけれどな」
 若い男の声だった。
「今ミヅキと刹那はどうしているんだ?」
「南に行っておるようじゃ」
 老人の声が答えた。
「遥か南の方にのう」
「そこか」
 別の若い男の声だった。
「そこに行ったのか」
「南蛮ですね」
 知的な、落ち着いた響きの言葉だった。
「あの地にですか」
「ああ、南蛮っていうのか」
 若い男の言葉がここで弾むものになった。
「あそこは」
「はい、南蛮といいます」
「この国の周りの異民族は北や西にいるだけじゃないからな」
「そうか。じゃあ奴等も使えるな」
「そうね」
「面白い人間達かも」
 若い男の次に女の声と少年の声が応えた。
「面白いことになりそうね」
「僕達が思っているよりも」
「周辺だけではありませんしね」
 また落ち着いた声が言ってきた。
「さて、それでは」
「俺はまた動くな」
「わしもそろそろ動くかのう」
 若い男と老人の声だった。
「バイスとマチュアもよくやってくれてるみたいだしな」
「たまには働くのもいいことじゃ」
「頼んだぞ」
「それではな」
 こう話してだった。闇の中から気配が消えた。それは少しずつ大きくなろうとしていた。


第十二話   完


                                          2010・5・13



劉備はリョウたちと出会ったみたいだな。
美姫 「それにしもて、素奈緒と言うか」
あっさりと剣を手放したな。
まあ、取り戻さないといけなくなったみたいだが。
美姫 「しかも、何か意味ありげよね」
確かに。うーん、これから旅を始めた劉備がどうなるのか。
美姫 「次回も待っていますね」
待ってます。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る