『恋姫伝説 MARK OF THE FLOWERS』




                         第百十九話  曹操、乳を飲むのこと

 華陀は曹操の天幕に案内された。そこには夏侯姉妹もいる。その彼女達もだ。怪訝な顔で華陀に尋ねた。
「前の様にお尻とかはないな」
「若しそうならば」
「安心しろ。それはない」
 華陀もそれは否定した。
「曹操殿があまりに嫌がるのでな」
「だから私はそんな趣味はないわよ」
 曹操は自分の席に座りむっとした顔で言った。
「そりゃある娘もいるでしょうけれど」
「そうだな。俺の見たところ」
 ここでこんなことを言うのが華陀だった。
「李典殿にはその気があるか?」
「真桜が?」
「うむ。あの御仁は快食快眠快便だ」
 華陀はこのことも見ただけで看破していた。
「それだけに後ろが好きだな」
「ううむ。よくわからないが」
「真桜にはそうした趣味があるのか」
 夏侯姉妹は華陀の話を聞いて考える顔になる。
 そうしてだ。二人でこんなことを話した。
「私はあくまで前だけだがな」
「私もだ。後ろはとてもだ」
「うむ、少しな」
「理解できないものがある」
「よくね。男同士だとね」
 曹操もそちらの世界については知っていた。
「しているらしいけれど」
「はい、孔明殿や鳳統殿がよく読んでいる書ですね」
「陸遜殿は御自身でも書かれているそうですが」
「私には理解できない世界ね」
 曹操は自分の席で腕を組んで言う。
「男同士というのも」
「では女同士ならいいのか?」
 華陀はかなり率直にだ。曹操に問い返した。
「貴殿も見たところ経験がないだけれで男もいけると思うが」
「私が!?まさか」
「無論夏侯惇殿と夏侯淵殿もだ」
「私もか!?」
「そんなことはないと思うが」
「俺はそう思う」
 華陀は三人のそうしたことも見抜いていた。
「別の世界から合う男が来たのならな」
「確かにね。私もね」
 曹操もだ。華陀の話に応えて話す。
「テリーとかああいう人間を見ているとね」
「いいと思うな」
「桂花なんて覇王丸の生き方にかなり賛同してるし」
 同じ酒飲みという理由もあるが彼女は確かに覇王丸を認めていた。
「何気に柳生十兵衛なんていいと思うわ」
「確かに。あの御仁は渋いですね」
「中年の魅力があります」
 夏侯姉妹も十兵衛の魅力に気付いていた。
「まさに武士ね」
「そうだな。あちらの世界には魅力ある人物が多い」
「ギース=ハワードもいいかしら」
 曹操は悪い男についても言及した。
「格好いいっていうかね。生き方も何もかも」
「テリー殿も狼ですがギース殿も狼です」
 夏侯淵はギースの本質を的確に見抜いていた。
「確かに宿敵同士ですが」
「それでもですね」
「あの御仁もまた」
「そうなのよ。ギースも狼なのよ」
 曹操もギースについて話す。
「二人はそうした意味で同じなのよ」
「狼は好きか」
「いい動物だと思うわ」
 曹操は華陀にも答える。
「誇らしい生き物じゃない」
「そうだな。だが意中の相手は」
「何か悪いのよ」
「悪い?」
「桂花も言ってるけれど。例えば覇王丸にはお静って人がいるのよ」
 気持ちをわかっているがあえて剣の道を選んでいる為に背を向けているだ。その相手のことだった。
「あのね、私はネトラレとか嫌いなのよ」
「あくまで相思相愛だな」
「そうよ。想っている者同士が幸せになる」
 そのことはだ。曹操は真面目に言い切る。
「それを邪魔する下種は私が直々に首を刎ねてやるわ」
「流れが何だ!一本が何だ!」
 夏侯惇は今にも剣を抜かんばかりだった。
「愛とはあくまで正道であるべきなのだ」
「そういうことよ。私は確かに女の子が大好きだけれど」
 それでもだと。曹操は言う。
「想い人がいる娘には手は出さないわ」
「他の世界でもか?」
「取り合いをした記憶はあるけれど」
 それはあるというのだ。
「そういうのは嫌いだから」
「そうなのか」
「そうよ。まあ恋愛談義みたいなのはそれ位にして」
「病のことだな」
「具体的に何をするの?」 
 曹操は怪訝な顔で華陀に問い返した。
「それが問題だけれど」
「乳だ」
 華陀はまた誤解される様なことを言った。
「乳を飲むのだ」
「ええと、春蘭」
「はい」
 曹操は瞬時に真顔になり夏侯惇に声をかけた。
 夏侯惇も主の言葉に応えてだ。瞬時に身構えられる様にしていた。
 その彼女にだ。曹操はまた告げた。
「首を刎ねて頂戴」
「畏まりました」
「待て、何故そうなる」
 華陀もその曹操達に問い返す。
「俺が何をした」
「乳を飲むですって!?何馬鹿なことを言っているのよ」
「貴殿、我等に乳が出ると思っているのか」
「女同士では出ないぞ」
 夏侯淵も流石に真顔で突っ込みを入れる。
「子供ができれば出るがだ」
「何故女同士で子供が出来るのだ」
 夏侯惇は刀を抜く前に突っ込みを入れた。
「そんなことを言っては処刑も止むを得まい」
「そうよ。何考えてるのよ」
 曹操はむっとした顔で華陀に告げる。
「訂正するならいいけれど」
「いや、訂正はしない」
「やっぱり首を刎ねて頂戴」
「畏まりました」
「だからだ。乳は乳でもだ」
 不穏な空気の中でだ。華陀は毅然として言う。
「人の乳じゃない」
「じゃあ何の乳なのよ」
「牛や馬の乳だ」
 そちらだというのである。
「他には山羊のものもいい」
「そうしたお乳を飲むの」
「そうすれば出る」
 言葉は率直だった。
「出るものはすぐに出る」
「そうなの。お乳を飲めばなの」
「後は野菜だな」
 それもいいというのだ。
「薩摩芋もいいぞ」
「ああ、あれね」
「それはしっかり食べているか?」
「そういえば最近」
 曹操も言われてだ。そのことに気付いた。
「食べてなかったわ」
「他にはカボチャや牛蒡もだ」
「どれも食べていないわ」
「ならどれも食べるべきだ」
 そうすればいいというのだ。
「便秘は食べるものでかなり違うからな」
「そうだったの」
「そうだ。それに果物はだ」
 こちらのことも話すのだった。
「プルーン、それに林檎だな」
「あっちの世界のアメリカ組がよく食べてるわね」
「そうだな。特にプルーンがいい」
「わかったわ。牛や馬のお乳にカボチャや牛蒡に」
「薩摩芋もだ」
「それとプルーンね」
「わかったら早速食べてみればいい」
 華陀は微笑んで話す。
「出るぞ」
「出るのね」
「一気にな。ただしだ」
 ここでだ。華陀はこんなことも言った。
「乳を飲んでも胸は大きくならないそうだ」
「あら、そうなの」
「背は伸びるらしいがな」
「小柄でも胸がなくてもいいから」
 曹操はそちらには構うことはなかった。
「まあ桂花は中身もあれだけれどね」
「小さいんだな」
「実は劉備もそうだし」
「ああ、そうらしいな」
「関羽もそうなのよ」
「意外だな、それは」
「美羽も案外ね。それと呂蒙もね」 
 中身が小柄な娘は案外多い。
「まあ甘寧の中身は結構以上に大きいけれどね」
「確か一七〇はあったな」
「そうよ。大きいからね」
「中々羨ましいな。とにかく曹操殿は背や胸はいいんだな」
「特に気にしていないわ」
 曹操はだった。こう言うのだった。
 こうして何はともあれだ。曹操は乳を飲み薩摩芋にカボチャに牛蒡、プルーンを食べてみた。そうしてその結果。
 次の日だ。すっきりとした顔でだ。華陀に言うのだった。
「出たわ」
「出たんだな」
「ええ、一月分がね」
 満ち足りた笑みでの言葉だった。
「とことんまで出たわ」
「腹の中までパンパンだったんだな」
「その表現は止めた方がいいわよ」
 曹操は華陀の今の言葉にはクレームをつけた。まずは何よりだった。
「それでもね。あんなに出たのはね」
「はじめてか」
「一月。本当にすっきりしたわよ」
「身体は食事からだ」
「そうよね。食べ物が第一よね」
「その通りだ。だからこれからもだ」
「ええ。気をつけるわ」
 こうしてだった。曹操は便秘から解放された。その話を聞いてだ。
 ふとだ。文醜がこんなことを顔良に言った。
「なあ、乳を飲めばな」
「どうかしたの?」
「胸でっかくなるらしいな」
「あれ、そうなの」
「ああ。華陀さんが言ってたらしいんだよ」
 こう顔良に話すのだった。
「だからあたいもな」
「お乳飲んでみるの?」
「それに背も大きくなるらしいな」
「じゃあクラウザーさんみたいになるのかしら」
 顔良は大きいといえばすぐに彼を思い出した。
「それか大門さんみたいに?」
「あの人もでかいよな」
「まあタムタムさんや骸羅さんは別格だけれど」
「っていうかタムタムさん本当に人間なのかよ」
 文醜はタムタムについてはかなり率直だった。
「あの腰はないだろ」
「細いわよね」
「いや、あれは細過ぎるだろ」
 そこまでだというのだ。
「しかもやけに軽いしな」
「ううんと。何か違うわよね」
「まあタムタムさんはな」 
 確かに別格だとだ。文醜も言う。
「あそこまで大きくなったらなったで」
「大変か」
「そう思うわ。ちょっとね」
「まあとにかくだよ。胸だよ」
 文醜はいささか強引に話を戻した。
「胸大きくなりたいよな」
「私は別に」
「斗詩は胸があるから言えるんだよ」
 確かにだ。文醜よりは遥かにあった。
「あたいなんてまな板だぜ。もっともっと欲しいんだよ」
「胸そんなに欲しいの」
「欲しいよ」
 言葉はかなり切実なものだった。
「実際にな」
「けれど何か陸遜さん達の話を聞いてると」
「何なんだよ」
「肩凝るらしいわよ」
 そうだというのだ。
「張勲さんなんて中身もそうみたいだし」
「あの人なあ。羨ましいよな」
「けれど文ちゃんは胸より」
「あたいは?胸より?」
「もうちょっと博打を控えた方がいいと思うわ」
 こう言うのだった。
「最近勝ってるの?」
「ぼちぼちか?」
「麻雀?」
「最近な。小清水とか植田とかいうのが出て来たんだよ」 
 こんな話にもなる。
「そいつ等がやけに押しててよ」
「負けてるの?」
「いや、あたいはプロだからな」
 麻雀にかけてはかなりだった。文醜はそちらで食べられる程でもあるのだ。
「おいそれとはやられないけれどな」
「それでも苦戦してるの?」
「相手をしたことないけれど強いみたいだな」
 文醜は真顔で言う。
「あたいもうかうかしてられないんだよ」
「何かと大変なのね」
「けれど麻雀よりもだよ」
 それ以上にだった。とにかく今の文醜は。
「胸だよ胸」
「結局そこなのね」
「そうだよ。胸が大きいっていうのはな」
 ここから力説に入った。
「それだけで勝ち組なんだよ」
「そうかしら」
「乳こそ全てだよ」
 こうまで言うのだった。
「だからだよ。あたいこれからはな」
「お乳飲むのね」
「具体的には牛乳か?」
 文醜は早速言った。
「それでいこうかって思うんだけれどな」
「じゃあ飲んでみたら?身体にいいのは間違いないし」
「ああ、そうするな」
 こうしてだった。文醜は牛乳を飲みはじめた。するとだ。
 次の日だ。早速だった。こう顔良に話した。
「大変なことになったよ」
「大変なことって?」
「いやさ、昨日牛乳を酒の代わりに飲んだんだよ」
「お酒の代わりに?」
「そうしたら早速だよ」
 こうだ。たまりかねた口調で話すのである。
「出るわ出るわでな」
「胸が?」
「違うよ。あたい実は便秘だったんだよ」
「ああ、そっちがなの」
「出たよ。一気にな」
 実に晴れ渡った顔での言葉だった。
「何かもうすっきりしたよ」
「そこまで出たの」
「気持ちいいぜ。だからな」
「私も飲んだらどうかっていうのね」
「ああ。斗詩も飲んだらどうだよ」
 爽やかな笑顔で顔良にも勧める。
「身体も丈夫になるみたいだしな」
「私は前から飲んでるから」
 顔良はこう文醜に返す。
「別に」
「あれっ、もう飲んでるのかよ」
「そうよ。ズィーガーさん達に勧められて」
 それで飲んでいるというのだ。
「もうすっきりしてるわ」
「そうだったのかよ」
「そうなの。だからお通じもね」
「大丈夫なんだな」
「飲みはじめてからすっきりしてるわ」
 自分の腹のところを左手で擦りながらだ。顔良は話す。
「本当にね」
「乳って効くよな」
「効き過ぎる位ね」
「とにかく便秘にはいいからな」
 文醜もこのことを言う。
「それにあっちの世界の人達の話じゃ」
「骨にいいらしいわね」
「カルシウムってのが一杯入っててか」
「それで骨を上部にするらしいわね」
「じゃあもっと飲むか」
 文醜はさらに飲むというのだった。
「今度桂花にも勧めてみるか」
「ええと。荀ケさんよね」
「ああ、貧乳委員会の委員長さんな」
「何時の間に委員会になってたのかしら」
「さあ。気付いたらなってたけれどな」
 この辺りはいい加減だった。
「とりあえずいいんじゃね?胸が小さい人間だっていいだろ」
「別に悪いとは思わないけれど」
「あいつあれでも胸も背も小さいの気にしてるんだよ」
「胸はわかるけれど」
 それでもだと。華良はここでこんなことを言ってしまった。
「背は。あの人の場合は」
「仕方ないってのかよ」
「だって中も小さい人だから」
 それでだというのだ。
「背だけはどうしようもないんじゃないかしら」
「背なあ。あの人確かに洒落にならない位小さいからな」
「劉備さんの中よりもでしょ?」
「ちょっとだけだけれどな」
 小さいというのだ。
「そのこと気にしてるんだよな」
「小さいのが好きって人もいるけれど」
「本人さんがどう思うかだからな」
「その辺り難しいわよね」
「だよな」
 そんな話をしてからだ。文醜は実際に荀ケのところに牛乳がたっぷりと入った瓶を持って来てだ。そのうえで彼女に言うのだった。
「よお、飲むかい?」
「何を?」
 見れば荀ケは自分の席に座っていた。そうしてだ。
 飲んでいた。もう顔が真っ赤になっている。その顔で文醜に応えてきたのだ。
「一体何を飲むのよ」
「何をって牛乳だけれどな」
「そういえば牛乳ってお酒と割って飲めるわね」
「まあそれもできるよな」
「わかったわ。じゃあ一緒に飲む?」
「その為に来たんだよ」
 文醜はにこりと笑って荀ケに応える。
「牛乳飲まないかってな」
「牛乳って胸にも背にも大きいのよね」
「だから持って来たんだよ」
 そのことを荀ケ本人にも話す。
「じゃあ飲むよな」
「お酒と一緒にね」
 あくまで酒にこだわる荀ケだった。見ればだ。
 そこにいるのは荀ケだけでなかった。董卓にナコルル、リムルルもいた。
 その彼女達も見てだ。文醜は言うのだった。
「ああ、あんた達もいるのかよ」
「はい、お酒好きなので」
「それで呼んだのよ」
 董卓が応え荀ケが説明する。
「一人で飲むのも面白くないから」
「お酒っていいですよね」
「あたいも好きだけれどそれでもなあ」
 文醜は今度は董卓を見ながら言う。荀ケと一緒のテーブルに楚々とした感じで座る彼女を。
「あんたいつも滅茶苦茶飲んでるだろ」
「駄目ですか」
「あまり身体によくないだろ」
 こう言うのだった。
「やっぱり酒はある程度弁えないとな」
「あんたがそれを言うの」
 荀ケは文醜の今の言葉に呆れた顔で返す。
「いつも滅茶苦茶に飲んでるのに」
「あたいはあたいの分量を弁えてるさ」
「だったらいいけれどね」
 言いながらだ。荀ケは自分の酒を飲む。盃の中のそれを。
 そうしてだ。また言うのだった。
「私もそうだし」
「もう結構飲んでないか?」
「量はそんなに多くないわよ」
「じゃあ強い酒なんだな」
「ブランデーっていうお酒よ」
 それが今荀ケが飲んでいる酒だった。ここでだ。
 文醜は酒の匂いを嗅いだ。その匂いは明らかに彼女の世界の酒のものではなかった。
 その匂いを嗅ぎながらだ。文醜は言った。
「いい匂いだな、これも」
「あんたも飲むわよね」
「牛乳と一緒にな」
 それは絶対だというのだ。
「その酒なら牛乳と割ってもいけるよな」
「私達の世界のお酒よりも合うわよね」
「じゃあそれでいいか?」
「ええ、それじゃあね」
 荀ケも応えてだ。そのうえでだ。
 文醜も卓に加わった。そうして彼女も飲みはじめた。その中でだ。
 ナコルルがだ。普段とはいささか違う熱い口調で話をはじめた。
「私、荀ケさんのその御考えにです」
「賛成してくれるのね」
「ずっと悩んでいました」
 そうだったとだ。切実な顔で話す。
「胸が小さいことはどうなのかと」
「そうよね。ナコルルの胸だってね」
 荀ケもその胸を見る。リムルルのものもだ。
「私達と同じだから」
「けれどわかりました」
 ナコルルは強い口調で言う。そのブランデーと牛乳を割ったものを飲みながら。
「胸が小さいことも素晴らしいことです」
「そうよ。巨乳が何だっていうのよ」
 荀ケもここぞとばかりに主張する。
「ほら、舞の胸」
「あの人意外にもですけれど」
「あんな牛みたいな胸何の意味もないわよ」
 こう力説する猫耳だった。
「肩が凝るだけよ。そうでしょ?」
「はい、その通りです」
 ナコルルは荀ケのその言葉に強く頷く。
「そして重いだけです」
「何の意味もないのよ」
「それなのにどうして世の中の男の人は」
「馬鹿だからよ」
 完璧にだ。荀ケは言い切った。
「何よ、胸なんてね」
「小さい方がいいですよね」
「張勲もよ。中身まで胸が大きくて」
「七一六が一番ですよね」
「それを考えるとチャムチャムなんか素晴らしいわ」
 荀ケは彼女も仲間だと言った。
「あの胸、私達の同志よ」
「同志は他にもいますよね」
「ほら、ここにいる猪々子もよ」
 ここで彼女を指し示すのだった。
「見なさい、この見事な胸を」
「そうそう、もうあたい達同志なんだよな」
「真名で呼び合う仲になったのよ」
「陣営は元々違うのに?」
 リムルルも飲みながら問う。
「それでもなの」
「貧乳は陣営を超えるのよ」
「それも易々とだよな」
 文醜も飲みながら陽気に話す。
「何たって胸ないのは全部の陣営にいるしな」
「孫策殿のところにもいるわよ」
 荀ケは赤い顔で誇らしげに主張する。
「小蓮ね。その他にもね」
「周泰さんや呂蒙さんですね」
「あの娘達も素晴らしい同志よ」
 荀ケはさらに言う。
「劉備殿のところの軍師の娘達に蒲公英、それに鈴々も」
「実はこのお酒も」
 董卓も飲みながら話す。
「鳳統さんから貰ったものです」
「あの娘って詠と仲いいわよね」
「そうですね。親友と言っていい位です」
「しかもお酒強いし」
 意外にもだ。鳳統は酒豪だった。
「見所あるわよね」
「あたいもあれは意外だったぜ」
 文醜も鳳統のことを話す。
「酒飲むし馬だって乗れるしな」
「あれっ、あの娘馬乗れるの!?」
 リムルルはそのことには意外な顔になった。
「あんなに小さいのに!?」
「あんた達の世界の未来じゃ馬はバイクになるからって」
「それで乗れるらしいぜ」
「バイクねえ」
「お酒飲めて馬も乗れて」
「結構以上に活動的だよな」 
 荀ケと文醜はさらにこんなことも言う。
「しかも元は不良だったって噂もあるし」
「だよな。龍が好きでな」
「よくわからない娘なんだけど」
 リムルルは二人の話から鳳統についてこう述べた。
「あんなに気が弱そうなのに」
「中身は違うのかも知れないわ」
「実はってな」
「中身は本当にわからないです」
 董卓もそのことについて言う。
「私もこうして中身の影響を受けて飲んでますから」
「そうそう。桂花なんてな」
 文醜は笑いながら彼女のことを話しだした。
「中身だって小さいしな」
「実は用足しとかの時困るのよ」
 そして荀ケ自身も言う。困った顔になって。
「小さいとね。便座に座りきてなくて」
「そこまでなんですか」
「そうなのよ。子供に間違えられかねない位だから」
 彼女が小柄なのは彼女自身だけではなかった。
「劉備殿も実はだし」
「あとさ。意外にもな」
 文醜は杯片手にさらに話す。
「関羽さんだって中身はあまり大きくないみたいだぜ」
「それ凄く意外」
 リムルルはまたしても少し驚いて言う。
「あんなに背も胸も大きいのに」
「だから中身は違うんだよ」
 こう言う文醜だった。
「魂っていうのか?そっちはさ」
「そういうことなのね」
「そういうリムルルの中身だって」
 荀ケは彼女のことも指摘した。
「やっぱり」
「元偶像で胸もだっていうのね」
「そうでしょ」
「実はね」 
 その通りだとだ。リムルルは少し笑って述べた。
「そうなのよね」
「あんたの中身って昔からよく歌ってたわよね」
「歌は好きだよ」
 リムルル自身もだった。それは。
「中身関係なくね」
「歌はいいですよね」
 ナコルルも歌については笑顔で話せた。
「自然の音楽なんかは特に」
「鈴虫とか?」
「キリギリスとかだよな」
「他にも川のせせらぎも」
 ナコルルは笑顔のままで荀ケと文醜に話す。
「いいと思います」
「歌ね。今はないけれど」
「また今度聴こうな」
 そうした話もしながら牛乳とブランデーを楽しむ彼等だった。そして次の日だ。
 文醜はすっきりとした顔でだ。こう顔良に話した。
「やっぱりな。牛乳と一緒に飲むとな」
「悪酔いしないのね」
「ああ、結構以上に飲んだけれどな」
 そのだ。ブランデーをだというのだ。
「それでも平気だよ」
「牛乳って悪酔いも防ぐのね」
「そうみたいだな。何か色々凄いんだな」
「ううん、保存食にもできるし」
「結構以上に凄い飲み物だよな」
「そうみたいね」
「それでな」
 さらに言う文醜だった。
「斗詩も飲んでるよな」
「今朝も飲んだわ」 
 顔良自身もそうだというのだ。
「包と一緒にね」
「包とかよ」
「あちらの西洋式のね」
 つまりパンだというのだ。
「美味しかったわ」
「あたいは今朝は御飯だったけれどな」
「朝は牛乳飲んでないのね」
「ああ、今朝はな」
 そうだというのである。
「何かいい感じで起きられてばくばく食えたしな」
「文ちゃんらしくね」
「いや、本当に胸が大きくなればいいよな」
 牛乳によってだというのだ。
「だからこれからも牛乳飲むか」
「そうね。ただね」
「ただ?」
「溢すと大変だから」
 その牛乳がだというのだ。
「匂うし。白く汚れるし」
「だよなあ。特にどろどろになったら」
「とろろも辛いけれど」
「ああ、とろろもだよな」
 二人はとろろの話もした。
「あれも白く汚れてな」
「しかも痒いし」
「辛いんだよな、溢すと」
「そういえば麗羽様が今度」
 顔良は暗い顔になってだ。自分達の主の話もした。
「とろろを使ってね」
「またあれかよ。鰻と海鼠の時みたいに」
「蛸も使ってね」
「全身ぬるぬるなんだな」
「あの人そういうの好きだから」
 袁紹の趣味の一つである。
「だからそうしてね」
「難儀だよな。麗羽様も」
「全く。ぬるぬるが好きっていうのも」
「鰻なあ。あれを胸で掴むんだよな」
「胸の間で動いて暴れ回って大変なのよ」
 顔良にはわかることだった。しかし文醜はこう言うのだった。
「そうなのか?あたい手掴みしかできないからな」
「手だけなの」
「手でしごいたら凄いだろ。口から水吐き出したり」
 それでだというのだ。
「顔にぶっかけてきてな」
「ううん、何か凄いわよね」
「麗羽様ってそんなのばかり好きだからな」
 ぬるぬるに暴れ回り白濁したものがだというのだ。
「あの趣味は変わらないよな」
「よく夏侯惇さん達が巻き添え受けてるけれど」
「幼馴染みだからな」
 あと夏侯淵もである。
「どうしてもそうなるよな」
「ああいうことさえなければ完璧なのに」
 顔良は困った顔で述べる。
「困ったことよね」
「それでもそういう麗羽様でないとな」
「かえって寂しいし」
「困ったことだよな」
「本当に」
 そんな話もしていた。その中でだ。
 ミナはシーサーを連れて船を見回っていた。そのつないでいるのを離してきているその船達をそうしていたのだ。そしてだ。
 そこで川を見た。見ればだ。
 魚達が騒がしい。それを見てこう隣にいた命に述べた。
「近いうちにね」
「来ますか」
「ええ。奇襲で来るわ」
 敵がだ。そう来るというのだ。
「その気配はするかしら」
「いえ、私はまだ」
 深刻な顔になり探りながらだ。命は答えた。
「感じません」
「魚達が騒がしいから」 
 ミナは水辺を見ていた。見れば確かにだ。
 魚達が妙に騒がしい。それを見ての言葉なのだ。
「敵も用意ができたら」
「すぐに来ますか」
「船を狙って来るわ」
 そこまで読んで言うミナだった。
「そしてその攻め方は」
「風でしょうか」
「それと火」
 ミナはこう命に話した。
「この二つを軸に来ると思うから」
「それをどうするかですね」
「今風は北西から南東」
 つまり彼女達から敵陣にだというのだ。
「それをどう変えてくるか」
「逆にすればそのまま」
「風は私達に向かう」
 そしてだった。そこでさらに。
「風に火を乗せれば」
「私達の陣が火に襲われますね」
「船を離しておいてよかったわ」
 ミナはその船達も見て述べる。
「若しつないだままだったら」
「あっという間ですね」
「焼かれてそうして」
 その炎がさらに燃え移ってだった。
「陣全体が大変なことになるから」
「それに気付いてよかったですね」
「多分。こちらから攻めずに」
「迎え撃つ形になりますね」
 それがこの赤壁での戦いだというのだ。
「それをどうするか」
「勝つには」
 こう話しながらだ。ミナはまだ水辺を見ていた。そして魚達を。
 そうしてだ。命に言った。
「迎え撃つのなら」
「何か御考えが」
「敵の出方をよく考えて」 
 そうしてだというのだ。
「読むことが大事だから」
「火と風とくれば」
「オロチ」
 彼等だというのだ。
「彼等が来るから」
「そうですね。炎と風なら」
「オロチを軸として今回は来るから」
「それとどう戦うかですね」
 こう言ったところでだ。命は気付いたのだった。
「草薙君達ですか」
「多分」
 ミナもだ。彼等だというのだ。
「風が一番怖いから」
「では今回はとりわけ」
「ちずる」
 彼女が鍵になるというのだ。
「あの娘がどうしてくれるか」
「それならすぐに神楽さんにもお話しましょう」
「そう。そうして」
 そのうえでだというのだ。
「敵が来ても勝てる様にしよう」
「はい、必ず」
 二人で話してからだった。神楽のところに向かいだ。話すとだ。
 神楽は何処か澄み切った顔になってだ。二人に答えた。
「はい、ゲーニッツはです」
「貴女がですね」
「引き受けるというのね」
「いえ、ゲーニッツはオロチ最強の者です」
 オロチの八傑の中でもとりわけだというのだ。
「そう簡単には勝てはしません。封じることも」
「じゃあどうすれば」
「おそらく。この戦いでは無理です」
 ゲーニッツを封じる、そのことはだというのだ。
「ゲーニッツの、オロチの星はまだ強く輝いています」
「星が」
「はい、昨夜星を観たのですが」
 そこにその者の命が映し出されているというのだ。神楽はそれを見ていたのだ。
「彼等の星はどれもです」
「落ちてはいない」
「そうなのですか」
「はい、一つも落ちていません」
 こうミナと命に話すのだった。
「ですから。戦いもです」
「この赤壁では終わりでないのね」
「おそらく赤壁の後で」
 この戦いの後でだ。さらにだというのだ。
「本当の意味での決戦が行われるでしょう」
「ではそこが何処かね」 
 ミナは神楽の話を聞いてだ。最後の決戦の場について考えた。
 そうしてだ。こう言うのだった。
「それならそこは」
「はい、そこが何処になるかは私もまだわかりません」
 神楽もだ。それはだというのだ。
「ですがそれでもです」
「この戦いでは決着はつかない」
「そのことはですね」
「感じられました」
「それではね」
 話を聞いてだ。ミナはすぐに言った。
「この戦いは勝ち。生き残ることを」
「優先させるべきです」
 こう言ってだった。彼女達は次の戦いのことも考えだしたのだ。赤壁で終わらずだ。さらにまた戦いがあることは星達が知らせていた。


第百十九話   完


                          2011・10・18







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