『黄金バット』




             第三十六話  ならず者に対して

 世の中いい人もいれば悪い人もいます、それは残念ながら何処でもです。
 今奈良の街は静かです、ですがその静けさも突然崩れてしまいました。
 ニュースを聞いて誰もが眉を曇らせました。
「奈良か」
「奈良に出たのか」
「またおかしな奴が出たのか」
「刃物を持って暴れている奴が出たんだな」
「大変なことになっているぞ」
 地元にいる人がツイッターで言ってきました。
「刃物を振り回して右に左に動いている」
「怪我人はいないか?」
「大丈夫か?」
「そんな奴が暴れていて」
「何もないか?」
「幸いまだ誰も切られていないみたいだけれど」
 それでもというのです。
「もう皆逃げ回っているんだ」
「何時切られるわからないな」
「お年寄りや子供は大丈夫か」
「早く逃がすんだ」
「さもないと本当に大変だぞ」
「取り返しのつかないことになるぞ」
「というかそいつを早く何とかするんだ」
 皆その状況をネットでタイレクトに聞いて言いだしました。
「もう射殺しろよ」
「警察も遠慮するな」
「現場に警官さん達まだ言ってないのか?」
「早く行ってもらえ」
 皆一刻も早く何とかして欲しいと心から思いました、そして。
 現場近鉄奈良駅のすぐ傍の商店街の中では本当に大騒ぎになっていました、何しろ包丁を持った暴漢が実際に暴れ回っているからです。
 皆逃げ去ってしまいました、お店の人も同じです。幸い皆すぐに逃げて今のところは犠牲者はいませんが。
 それでも暴漢、若い男のそれから必死に逃げています。駆けつけたお巡りさん達もその暴漢を見ました。すると。
 その暴漢は全裸で目は血走っていて表情は狂気に満ちたものでした、そうし右手に持った包丁を振り回して奇声を発しつつ商店街の中を駆け巡っています。
 その暴漢を見てお巡りさん達は言いました。
「覚醒剤か?」
「覚醒剤中毒か?」
「明らかにまともじゃないぞ」
「裸で暴れ回るなんて」
「絶対に放ってはおけないぞ」
「射殺すべきか」 
 現場を指揮する署長さんは考えました。
「ここは」
「そうするしかないかも知れないですね」
「今はまだ犠牲者は出ていませんが」
「このままではわかりません」
「ですから」
「そうだな、ここはな」
 署長さんも頷きました、そうしてです。
 暴漢に対してホルスターから拳銃を出そうとしました、ですがそこにです。
 暴漢が何か訳のわからない言葉を発しつつお巡りさん達のところに来ました、突然のことに皆驚いてです。
 発砲しようとした手が揺らぎました、まだホルスターから拳銃が出ていない状況でしたから皆焦りました。
 暴漢はその間にも来ます、お巡りさん達の拳銃が間に合うか間に合わないか大変な状況になりました。
 ですがそこにでした。
「ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
「!?この笑い声は」
「まさか」
「まさかと思うが」
 見ればです、お巡りさん達の前にです。
 黄金バットが姿を現しました、見れば今もマントをたなびかせ両手を腰に置いています。そうしてです。
 暴漢を見ました、するとそれだけで暴漢の動きが止まりました。その間にです。
 お巡りさん達は拳銃を抜くことが出来ました、そうして即座に黄金バットの目から発した超能力で金縛りに遭ったと思われる暴漢に発砲しました。無数の銃弾が暴漢達を貫き。
 暴漢は吹き飛び血の海の中に倒れました。お巡りさん達も状況を見ていた人達もその暴漢を見て言いました。
「これでいいな」
「もうこれで大丈夫だ」
「暴漢は倒された」
「動きが止まったからな」
「それが出来たのは黄金バットのお陰だ」
 突如出てきた彼のお陰だというのです。
「彼が動きを止めてくれたからな」
「暴漢は動きを止めて我々はその間に銃を出せた」
「そして発砲が間に合って暴漢を倒せた」
「全て黄金バットのお陰だ」
「全くだな」
 お巡りさん達も他の人達も言います、ですが何時の間にかです。
 黄金バットは姿を消していました、ヒーローだけはそうでした。ですが皆その黄金バットに心から感謝の言葉を贈りました。今回の事件でも素晴らしい活躍をして多くの人を助けてくれた彼に対して。


黄金バット第三十六話   完


                   2020・9・2








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